説明

靴底およびそれを用いた靴

【課題】 靴底の踏付け部における屈曲性を阻害することなく、同時に反発力を付与することができる靴底およびその靴底を備えた子供たちの走行に適した靴を提供するものである。
【解決手段】 本発明の靴底は、踏付け屈曲部の接地面側に屈曲ラインに沿って幅方向に凹溝を設け、この凹溝に交差するように帯状の補強材を埋設した靴底であり、帯状の補強材は、凹溝において、靴底材とは接着せず、露出しており、凹溝部以外の部分は、靴底と固着している。前記帯状の補強材は、硬度がJIS−A 30〜50であり、反発弾性率がJIS K 6255 リュプケ式による測定し0℃から40℃において、50〜70%であり、反復応力が低下することのないような軟質弾性体である。この靴底を搭載した靴は、屈曲ラインに沿って帯状の補強材がバネの役目を果たし走りをサポートする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子供達が速く走れることを目的とし、靴底踏付け部の屈曲柔軟性を助長し、蹴り出し時の反発力を発揮できる靴底構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1と特許文献2には、歩行、走行時における足の自然な動きを助長し、爪先部の屈曲疲労による爪先下がりを防止する為にアウトソールの上部に発泡ミッドソールを積層した靴底において、その発泡ミッドソールの積層面の不踏部から爪先部にかけて複数の長手方向の溝と、該長手方向の溝の先端部同士と後端部同士を各々連結した短手方向の溝を設けて嵌合溝を形成し、該嵌合溝に対応したゴム状弾性片を嵌合固着させる靴底が開示されている。
また、特許文献3と特許文献4には、ランニングシューズやウォーキングシューズなどを履用した時、靴底の踏付け部に反発力を増加させるために、高弾性樹脂製のプレートを埋設した靴底が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−199907号公報
【特許文献2】特開2005−473号公報
【特許文献3】特開2002−360305号公報
【特許文献4】特開2008−48893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2の靴底構造においては、ゴム状弾性片が、アウトソールとミッドソールの間にほぼ埋設されているので、ゴム状弾性片の弾性効果を十分に発揮することができないという欠点を有していた。
また、特許文献3や特許文献4の靴の靴底構造においては、高弾性樹脂製のプレートのため、反発力は付与することはできても、屈曲抵抗も同時に増加し、屈曲抵抗が増すので、足に負担をかけることになった。
このため、運動能力の高いアスリートであれば、アスリート自身の筋力でプレートを屈曲させ、戻ろうとする反発力で前進することが可能であるが、一般ユーザー特に子供においては、下肢筋肉にかなりの負担がかかるために、挿入するプレートの硬さに対応できず、履用を制限せざるを得ないという問題点があった。
本発明の靴底においては、このような問題点に着目し、子供達が走行時や歩行時において、違和感なく靴底の反発力を増し、屈曲後の蹴りだしをサポートする靴底構造を有する靴を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の靴底は、靴底の接地面側の踏付け部に屈曲ラインに沿った凹溝を設け、この凹溝と交差するように帯状の補強材を配置した靴底であり、前記帯状の補強材は、凹溝部において、靴底材とは接着せず、その全周が露出しており、凹溝を除く箇所において、靴底の一部又は全部に埋設され、靴底と固着していることを特徴とする。
ここで言う踏付け部の屈曲ラインとは、靴底の最も屈曲し易いポイントを結んだラインであり、靴底の幅方向に設けられる一条のラインである。
前記凹溝は、この一条の屈曲ラインに沿って設けられているのが特徴である。
【0006】
本発明の靴底において、帯状の補強材は、前記凹溝と交差するように複数個配置されており、前記凹溝において、帯状の補強材の下面には隙間が設けられており、屈曲抵抗を妨げることなく自在に伸縮することを特徴とする。
前記帯状の補強材は、凹溝に対しほぼ直角に交差するように配置されるのが好ましい。
【0007】
本発明の靴底に用いる帯状の補強材は、硬度がJIS−A 30〜50、反発弾性率がJIS K 6255 リュプケ式により測定し0℃から40℃において50〜70%であり、反復応力が低下することのないような軟質弾性体であることを特徴とする。
靴底に用いられる一般の加硫ゴムは、反発弾性率がJIS K 6255 リュプケ式により測定した値が30〜40%であるが、本発明の靴底に用いる帯状の補強材の反発弾性率は、0℃から40℃において50〜70%であり、反復応力が低下することがない。
帯状の補強材は、具体的には、高弾性の天然ゴムなどを主成分とする加硫ゴムやシリコンゴム、TPUから選ばれる。
【0008】
また、帯状の補強材は、凹溝部において、靴底本体とは固着していないことが重要であり、好ましくは、帯状の補強材と凹溝との間に隙間があることが好ましい。このことにより、帯状の補強材が、軟質弾性体であるため、凹溝部における屈曲時の自由度が確保され、屈曲時の補強材の復元性を十二分に発揮することができる。
帯状の補強材は、靴底の踏付け部に独立して複数個配置され、走行時の蹴りだし力を高めるために、靴底の内外の配置する位置によって、帯状の補強材個々の反発弾性率の値を適宜変化させることを可能とする。
【0009】
本発明の靴底は、外底と中間底が積層された靴底であり、凹溝は接地面側の中間底の踏付け部に屈曲ラインに沿って設けられており、この凹溝と交差するように帯状の補強材が中間底に埋設されており、凹溝以外の部分において、前記帯状の補強材は、外底と中間底の間に埋設され固着されており、かつ、外底が前記凹溝の周辺において、切欠されており、前記帯状の補強材および中間底が露出していることを特徴とする。
【0010】
外底と中間底が積層された靴底についても、帯状の補強材と、前記凹溝との間に隙間を設けることが好ましい。具体的には中間底に帯状の補強材を埋設する為の嵌合部を形成し、この嵌合部よりも深い補強材と平行する縦方向の溝を設けることにより、前記凹溝との間により大きな隙間を形成することができる。
このことにより、帯状の補強材が、屈曲抵抗を妨げることなく自在に伸縮することができる。
前記中間底には、RBスポンジ、EVAスポンジ、発泡ポリウレタンなどの発泡体が用いられる。
【0011】
本発明の靴底には、1層からなる発泡底であり、凹溝が靴底の接地面側の踏付け部に設けられており、この凹溝と交差するように帯状の補強材が埋設されており、凹溝部において、前記帯状の補強材が露出していることを特徴とする。
前記1層からなる発泡底には、発泡体が好ましく、ゴムスポンジ、発泡ポリウレタン、RBスポンジが用いられる。
【0012】
本発明の靴底において、前記補強材の両端部は、靴底との固着力を確保するために、補強材の端部の形状を接着面積を広くする形状にするとよい。
帯状の補強材の端部においては、その形状を鉤状やT字状にするとよい。また、補強材の表面をバフ掛けし、接着剤との接着力を確保するとよい。
【0013】
また、前記補強材のパーツと外底のパーツを未加硫状態で同時にプレス加硫すると、靴底成形の工程を削減できるとともに、補強材と靴底との接着力をより強化することができる。
【0014】
本発明の靴は、靴底の上部に靴甲被が固着されていることを特徴とする。
本発明の靴を製造する方法として、接着式又はインジェクション式いずれでもよい。接着式は、靴甲被をラストに吊り込み、靴甲被下面と靴底とを接着剤を用いて貼り合わせる。
また、インジェクション式では、中底と甲被を縫い合わせた袋状の靴甲被をラストに吊り込み、靴底成形用モールドと型組した靴底成形用空隙部を形成し靴を成形する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の靴底は、靴底の接地面側の踏付け部に屈曲ラインに沿って凹溝を設け、その凹溝を交差して帯状の補強材が、凹溝上部において靴底材から全周が露出するように設けられているので、帯状の補強材の自由度を確保し、屈曲抵抗力を大幅に変えることなく反発力を付与することができる。
【0016】
また、本発明の靴底は、靴底の踏付け部に屈曲ラインに沿って凹溝を設け、その凹溝を交差して帯状の補強材が配置され、帯状の補強材が硬度がJIS−A 30〜50、反発弾性率がJIS K 6255 リュプケ式により測定し0℃から40℃において50〜70%であり、反復応力が低下することのないような軟質弾性体でなるので、歩行時や走行時において、違和感なく靴底の反発力を増し、屈曲後の蹴り出しをサポートすることができる。
【0017】
本発明の靴は、前記靴底の上部に靴甲被が固着されており、子供達の走りをサポートする運動靴として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の靴底を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の靴底(1層底)を模式的に表した踏付け部の底面図とA−A線断面図である。
図2は本発明の靴底(積層底)を模式的に表した踏付け部の底面図とB−B線断面図である。
図3は本発明の実施例の靴底(1層底)を底面から見た図である。
図4は本発明の実施例の靴底(積層底)を底面から見た図である。
図5は図4において外底を除き中間底に補強材が載置された状態を示す平面図である。
図6は図5のC−C線断面図である。
図7は本発明の靴底を使用した靴の側面図である。
【0019】
<本発明の靴底の実施の形態>
本発明の靴底は、構造的に2つに大別される。
1つ目の靴底は、1層底からなる靴底の接地面側の踏付け部において、屈曲ラインに沿って凹溝を設け、この凹溝を交差するように補強材を埋設した1層底である。
図1は本発明の靴底の1層底を模式的に表した踏付け部の底面図とA−A線断面図である。
補強材は、ゴム弾性を有する素材でなり、端部が鉤状の形をした帯状の補強材が2個踏付け部に埋設されている。前記補強材は靴底の凹溝部においては、靴底より露出しており、靴底の凹溝以外の場所では、靴底に埋設しており、接着処理により靴底と強固に接着している。
補強材は、凹溝部において、靴底と接着せず、凹溝部との間に隙間が設けられており、補強材が靴底と独立した状態で露出しており、屈曲抵抗を妨げることなく自在に伸縮することができる構造にしている。補強材は、弾性の優れた天然ゴムなどを主成分とする加硫ゴムが使用される。
1層底の場合、靴底材は、軽量性、耐摩耗性、弾性を考慮し、EVAスポンジ,RBスポンジ、発泡ポリウレタン等の発泡体が使用される。
【0020】
図3は本発明の実施例の1層底を底面から見た図である。
靴底材は、発泡ポリウレタン底である。靴底の踏付け部の屈曲ラインに沿って、凹溝が設けられており、凹溝を交差するように2個の帯状の補強材が埋設されている。2個の補強材は、凹溝付近においては、靴底と接着せず、全周が露出した状態である。帯状の補強材は、弾性のよい天然ゴムを主成分とした加硫ゴムシートであり、硬度がJIS−A 30〜50、反発弾性率がJIS K 6255 リュプケ式により測定し0℃から40℃において50〜70%であり、反復応力が低下することのないような軟質弾性体を用いる。
前記帯状の補強材が凹溝上において、靴底と独立した状態で露出しており、歩行時や走行時において、踏付け部の屈曲がしやすく、補強材の弾性により変形時の戻りが速い。
【0021】
2つ目の靴底は、外底と中間底を積層した靴底であり、接地面側の中間底の踏付け部に凹溝を設けて、この凹溝を交差するように帯状の補強材を外底と中間底の間に埋設した積層底である。
図2は本発明の積層底を模式的に表した踏付け部の底面図とB−B線断面図である。
踏付け部に設けた凹溝部に、帯状の補強材を露出させて屈曲抵抗を妨げることなく自在に伸縮することができる構造にしている。前記帯状の補強材は、硬度がJIS−A 30〜50、反発弾性率がJIS K 6255 リュプケ式により測定し0℃から40℃において50〜70%であり、反復応力が低下することのないような軟質弾性体である。
【0022】
図2では、2個の補強材を挿入したが3個でもよい。凹溝上においては、帯状の補強材は、中間底とは接着せず、露出した状態である。凹溝と補強材の間には隙間があった方がよく、屈曲性を高める効果があり望ましい。帯状の補強材の自由度が担保されるからである。補強材の両端部は、接触面積を広くする鉤状になっている。補強材は埋設部においては、外底や中間底と接着剤により強固に接着している。
【0023】
図4は本発明の実施例の靴底(積層底)を底面から見た図である。
接地面側の踏付け部の屈曲ラインに沿って凹溝が設けられており、この凹溝と交差するように、3個の補強材が埋設されている。凹溝付近では、外底が切欠されているので、中間底が露出しており、中間底に埋設された帯状の補強材も露出している。凹溝上においては、帯状の補強材は、独立した状態で露出しており、歩行時や走行時において、踏付け部の屈曲がしやすく、補強材の弾性により変形時の戻りが速い。
【0024】
図5は図4の中間底に補強材が3個載置された状態を示す平面図である。
補強材の端部は、靴との固着力を増すため、接着面積が広い鉤状になっている。
【0025】
図6は、図5のC−C線断面図である。
中間底に帯状の補強材を埋設する為の嵌合部を形成している。そして屈曲ラインに沿った凹溝付近には、この嵌合部や屈曲ラインに沿った溝よりも深い補強材と平行する縦方向の溝が設けられている。この縦方向の溝は、帯状の補強材を配置したとき、帯状の補強材との間に隙間を形成する。
【0026】
実施例
<本発明の靴の成形>
1.靴底の準備
外底と中間底を積層させた踏付け屈曲部に3個の補強材を挿入し図4に示す実施例の靴底を準備した。このとき、補強材として天然ゴムを主体とする加硫ゴムを用いた。この加硫ゴムは、25℃で測定した時の硬度がJIS−A 45であり、0℃、25℃、40℃においてJIS K 6255 リュプケ式により測定した時の反発弾性率が、いずれも62%であった。
【0027】
2.靴の成形
靴甲被を縫製し中底と共にラストに吊り込み、1.で準備した靴底を靴甲被下面と接着剤を用いて貼り合わせを行い、ラストを型抜きして、本発明の靴を得た。
この靴は、軽量で、屈曲性にすぐれた屈曲後の戻りの速い走行に適した靴である。
図7には本発明の靴の側面からみた図を示す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の靴底(1層底)を模式的に表した踏付け部の底面図とA−A線断面図。
【図2】本発明の靴底(積層底)を模式的に表した踏付け部の底面図とB−B線断面図。
【図3】本発明の実施例の靴底(1層底)の底面図。
【図4】本発明の実施例の靴底(積層底)の底面図。
【図5】図4において、外底を除き中間底に帯状の補強材が埋設された状態の平面図。
【図6】図5のC−C線断面図。
【図7】本発明の靴底を使用した靴の側面図。
【符号の説明】
【0029】
1.靴底
2.中間底
3.外底
4.帯状の補強材
5.屈曲ラインに沿った凹溝
6.踏付け部
7.屈曲ライン
8.靴
9.靴甲被
10.帯状の補強材の端部
11.補強材と平行する縦方向の溝














【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴底の接地面側の踏付け部に屈曲ラインに沿った凹溝を設け、この凹溝と交差するように帯状の補強材を配置した靴底であり、前記帯状の補強材は、凹溝部において、靴底材とは接着せず、その全周が露出しており、凹溝を除く箇所において、靴底の一部又は全部に埋設され、靴底と固着していることを特徴とする靴底。
【請求項2】
前記帯状の補強材は、前記凹溝と交差するように複数個配置されており、前記凹溝において、帯状の補強材との間には隙間が設けられており、屈曲抵抗を妨げることなく自在に伸縮することを特徴とする請求項1記載の靴底。
【請求項3】
前記靴底は、外底と中間底が積層された靴底であり、凹溝は接地面側の中間底の踏付け部に屈曲ラインに沿って設けられており、この凹溝と交差するように帯状の補強材が中間底に埋設されており、凹溝以外の部分において、前記帯状の補強材は、外底と中間底の間に埋設され固着されており、かつ、外底が前記凹溝の周辺において、切欠されており、前記帯状の補強材および中間底が露出していることを特徴とする請求項1又は2記載の靴底。
【請求項4】
前記中間底には嵌合部が設けられ、帯状の補強材が埋設されており、前記嵌合部には屈曲ラインに沿った凹溝と交差する付近に、前記嵌合部や屈曲ラインに沿った凹溝よりも深い補強材と平行する縦方向の溝が設けられていることを特徴とする請求項3記載の靴底。
【請求項5】
前記靴底は、1層からなる発泡底であり、凹溝が靴底の接地面側の踏付け部に設けられており、この凹溝と交差するように帯状の補強材が埋設されており、凹溝部において、前記帯状の補強材が露出していることを特徴とする請求項1又は2記載の靴底。
【請求項6】
前記帯状の補強材は、硬度がJIS−A 45であり、反発弾性率がJIS K 6255 リュプケ式により測定し0℃から40℃において50〜70%であり、反復応力が低下することのないような軟質弾性体で構成されることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項5いずれか1項記載の靴底。
【請求項7】
請求項1〜5記載の靴底の上部に靴甲被が固着されていることを特徴とする靴。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−178770(P2010−178770A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22248(P2009−22248)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000002989)株式会社ムーンスター (10)
【Fターム(参考)】