血行動態改善剤
【課題】加齢や循環器系疾患の進行に伴う血行動態の悪化を予防、改善するための新規な血行動態改善剤を提供すること。
【解決手段】セロトニン誘導体を有効成分として含有する血行動態改善剤。
【解決手段】セロトニン誘導体を有効成分として含有する血行動態改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血行動態改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のライフスタイルの欧米化に伴い、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などといった疾患が、癌と並んで日本人の死因のトップを形成するようになった。また、糖尿病の進展に伴う腎症や網膜症などの合併症は腎透析や寝たきり患者を増加させ、医療費を圧迫する一大要因となっている。これらはいずれも血管系の疾患であり、一度発症すると治癒が非常に難しく、著しく患者のQOL(生活の質)を低下させることから、血管のダメージ、老化度を適性な範囲に常に保つための方策が社会的にも極めて重要である。血管にダメージを与え、老化を加速させるリスクファクターとしては、高脂血症、高血糖、高血圧、肥満などが従来から知られている。高い血中脂質や血糖、血圧などはいずれも血管壁の伸展性を失わせ、一酸化窒素(NO)やアンジオテンシンIIをはじめとする各種血管トーヌス調節因子に対する反応性を変化させることが知られている。したがって、これらのリスクファクターを適切なレベルにコントロールすることは重要であり、そのための薬物や食品などの開発が絶え間なく行われているわけであるが、仮にこれらのリスクファクターのレベルが同じであっても、血管に対するダメージ・老化の進み具合は各人各様であり一様とはならない。そこで、直接血管の老化度を測定することが重要となるわけであるが、近年、心拍によって生じる動脈圧の変動、すなわち脈波を測定して解析することにより血管の老化度を非侵襲的、かつ定量的に評価することが可能となってきた。脈波が血管内を伝わる速度である脈波伝播速度(PWV)や、末梢総血管抵抗を反映するオーグメンテーションインデックス(AIx)、あるいは指尖容積波の2次微分である加速度脈波の特定の波形成分、およびそれらから成る数値指標などが加齢により一定の変化を示す(Schiffrin, Am. J. Hypertens., 17: 395, 2004、およびTakazawa,et.al., Hypertension 32:365, 1998)ことから、各年代における基準値をもとにした“血管年齢”という概念が普及しつつある。最近の臨床試験においても、PWVやAIxなどが心血管疾患リスクの予測因子として有用であることを示す報告例が増えてきている(Boutuyrie, et.al., Hypertension 39:10, 2002、およびLondon, et.al., Hypertension 38:434, 2001)。これらの指標は、主に血管壁の伸展性、壁厚や血管抵抗を反映するものと考えられているが、血圧や単なる器質的な硬さだけによって規定されるものではないことは、降圧効果が同程度でもPWVの変化が異なったり(Asmar, et.al., J. Hypertens., 19:813, 2001)、軽度な運動療法(菅原ら,第3回臨床動脈波研究会要旨集 39,2003)や一部の薬物による短期間の介入によってこれらの指標が改善する例(松尾ら,第2回臨床動脈波研究会要旨集 33, 2002、およびWatanabe, et.al., American College of Cardiology 51st Annual Scientific Session, 2002)が報告されていることからも明らかである。交感神経活性や血管内皮機能、アディポネクチンなどのファクターの関与も示唆されており(McVeigh, et.al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 14: 1425, 1994、Agata, et.al., Circul. J., 68:1194, 2004および秋下ら,‘脈波速度’, 104, メジカルビュー, 2002)、これらの指標は単なる動脈硬化の指標と言うよりも、一時的な血管の機能的緊張をも含む血管壁における総合的なリスクの指標と捉えられる。
【0003】
したがって、PWVやAIxなどの脈波関連指標を直接改善し、“血管年齢”を適正な範囲に維持し得る成分は、血中コレステロールや血圧などの古典的な指標の改善を通して間接的に血管リスクを下げる成分よりも心血管系疾患の予防や治療に有用である可能性が高い。一部の医薬品(スタチン、アンジオテンシンII受容体ブロッカー、EPA製剤など)におけるPWV改善作用に関する報告が最近増えつつある(Agata, et.al., Circul. J., 68:1194, 2004、Asmar, ‘Pulse wave velocity and therapy’, 142, Elsevier,1999 および Sato, et.al., J. Cardiovasc. Pharmacol., 22: 1, 1993)中、降圧作用が同程度であってもPWVの改善率が良い群では心血管イベント発生率が低かった(山科,冨山,‘脈波速度’, 120, メジカルビュー, 2002)ということなどはその一例と言える。しかしながらこれらの医薬品の長期連用は副作用を生じさせる可能性がある一方、より安全性が高いと考えられる食品成分でPWVやAIx、加速度脈波波形の改善作用が知られているものはこれまでのところごくわずかしかない(Teede, et.al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 23: 1066, 2003 および Nestel, et.al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 17: 1163, 1997)。
【0004】
本発明の血行動態改善用組成物は、後述するとおり、ウサギの脈波伝播速度(PWV)、オーグメンテーションインデックス(AIx)の上昇を抑制すると共に、血圧(収縮期血圧、平均血圧)、および脈圧を低下させる。これらの血行動態指標は、動脈硬化が進むと上昇することが知られているが、血管の器質的硬化以外にも、すでに述べたように、血管の機能的な緊張の亢進による総血管抵抗の上昇によっても悪化することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、加齢や循環器系疾患の進行に伴う血行動態の悪化を予防、改善するための新規な血行動態改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、セロトニン誘導体に血行動態の悪化を予防、改善する効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。したがって、本発明は、以下を包含する。
【0007】
(1) セロトニン誘導体を有効成分として含有する血行動態改善剤。
(2) 前記の血行動態改善が、血管年齢の改善、血圧の改善および脈圧の改善からなる群より選ばれるものである、(1)記載の血行動態改善剤。
(3) 血管年齢の改善が、脈波伝播速度(PWV)の改善、オーグメンテーションインデックス(AIx)の改善、加速度脈波波形の改善および加速度脈波加齢指数の改善からなる群より選ばれるものである、(2)記載の血行動態改善剤。
(4) セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、(1)〜(3)のいずれかに記載の血行動態改善剤。
(5) 前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(4)記載の血行動態改善剤。
(6) ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(5)記載の血行動態改善剤。
(7) 前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、(1)〜(6)のいずれかに記載の血行動態改善剤。
(8) 前記の植物組織が紅花の種子である、(7)に記載の血行動態改善剤。
(9) 前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、(1)〜(8)のいずれかに記載の血行動態改善剤。
(10) (1)〜(9)のいずれかに記載の血行動態改善剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における血行動態を改善する方法。
(11) 血行動態改善剤の製造のための、セロトニン誘導体の使用。
(12) セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【0010】
【化2】
【0011】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、(11)記載の使用。
(13) 前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(12)記載の使用。
(14) ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(13)記載の使用。
(15) 前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、(11)〜(14)のいずれかに記載の使用。
(16) 前記の植物組織が紅花の種子である、(15)に記載の使用。
(17) 前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、(11)〜(16)のいずれかに記載の使用。
(18) (1)〜(9)のいずれかに記載の血行動態改善剤を含有する医薬組成物。
(19) (1)〜(9)のいずれかに記載の血行動態改善剤を含有する食品。
(20) (1)〜(9)のいずれかに記載の血行動態改善剤、および当該剤を血行動態改善のために使用できること、または使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
(21) セロトニン誘導体を含有する血行動態改善用食品。
(22) 前記の血行動態改善が、血管年齢の改善、血圧の改善および脈圧の改善からなる群より選ばれるものである、(21)記載の食品。
(23) 血管年齢の改善が、脈波伝播速度(PWV)の改善、オーグメンテーションインデックス(AIx)の改善、加速度脈波波形の改善および加速度脈波加齢指数の改善からなる群より選ばれるものである、(22)記載の食品。
(24) セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【0012】
【化3】
【0013】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、請求の範囲(21)〜(23)のいずれかに記載の食品。
(25) 前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(24)記載の食品。
(26) ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(25)記載の食品。
(27) 前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、(21)〜(26)のいずれかに記載の食品。
(28) 前記の植物組織が紅花の種子である、(27)に記載の食品。
(29) 前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、(21)〜(28)のいずれかに記載の食品。
(30) セロトニン誘導体を、1単位包装当たり5〜180mg含有する血行動態改善用食品。
(31) 食品が保健機能食品である、(21)〜(30)のいずれかに記載の食品。
(32) 保健機能食品が特定保健用食品である、(31)に記載の食品。
(33) 血行動態改善のために用いるものであるという表示を付した、(21)〜(32)のいずれかに記載の食品。
(34) (21)〜(32)いずれか1項に記載の食品、および血行動態改善用途への使用に関する説明を記載した記載物を含む商業的パッケージ。
脱脂後のベニバナ種子抽出物が動脈硬化病変の形成を予防することは既に報告されているが(国際公開03/086437号パンフレット)、本発明によるこれらの血行動態指標の改善は、動脈硬化病変の形成とは無関係であったことから、主に血管の機能的緊張を解除し、総血管抵抗を下げることにより、血行動態を改善するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例2における、4週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈の局所脈波速度を示したものである。横軸は圧脈波を計測した大動脈領域を表す(AA−P.0=上行大動脈〜大動脈弓遠位端、P.0−P.1=大動脈弓遠位端〜胸部大動脈近位部、P.1−P.2=胸部大動脈近位部〜胸部大動脈中央部、P.2−P.3=胸部大動脈中央部〜胸部大動脈遠位部、P.3−P.4=胸部大動脈遠位部〜腹部大動脈近位部、P.4−P.5=腹部大動脈近位部〜腹部大動脈中央部、P.5−P.6=腹部大動脈中央部〜腹部大動脈遠位部)。
【図2】図2は、実施例2における、4週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈全体の脈波速度(aortic PWV)を示したものである。
【図3】図3は、実施例2における、4週間コレステロール負荷KHCウサギにおけるAugmentation index (AIx)を示したものである。
【図4】図4は、実施例2における、4週間コレステロール負荷KHCウサギにおける拡張期、および収縮期血圧を上図に、また、脈圧(収縮期血圧−拡張期血圧)を下図に示す。
【図5】図5は、実施例5における、事前検査、および試験食摂取開始直前の検査値で平均130mmHg以上の収縮期血圧を示したボランティアの試験食摂取前、摂取後の左上腕-左足首間でのbaPWVの変化を示したものである。
【図6】図6は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈の局所脈波速度(LPWV)を示したものである。横軸は圧脈波を計測した大動脈領域を表す(AA−P.0=上行大動脈〜大動脈弓遠位端、P.0−P.1=大動脈弓遠位端〜胸部大動脈近位部、P.1−P.2=胸部大動脈近位部〜胸部大動脈中央部、P.2−P.3=胸部大動脈中央部〜胸部大動脈遠位部、P.3−P.4=胸部大動脈遠位部〜腹部大動脈近位部、P.4−P.5=腹部大動脈近位部〜腹部大動脈中央部、P.5−P.6=腹部大動脈中央部〜腹部大動脈遠位部)。
【図7】図7は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈全体の脈波速度(aortic PWV)を示したものである。
【図8】図8は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギにおけるAugmentation index (AIx)を示したものである。
【図9】図9は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギにおける大動脈局所での病変面積率を示したものである。横軸は圧脈波を計測した大動脈領域を表す(AA−P.0=上行大動脈〜大動脈弓遠位端、P.0−P.1=大動脈弓遠位端〜胸部大動脈近位部、P.1−P.2=胸部大動脈近位部〜胸部大動脈中央部、P.2−P.3=胸部大動脈中央部〜胸部大動脈遠位部、P.3−P.4=胸部大動脈遠位部〜腹部大動脈近位部、P.4−P.5=腹部大動脈近位部〜腹部大動脈中央部、P.5−P.6=腹部大動脈中央部〜腹部大動脈遠位部)。
【図10】図10は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈全体の病変面積率を示したものである。
【図11】図11は、実施例6における局所脈波速度(LPWV)と同部位における病変面積率の関係を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、有効成分としてセロトニン誘導体を含んでなる血行動態改善剤に関するものである。
【0016】
本明細書において、血行動態改善とは、血管機能の改善を言い、より具体的には、脈波伝播速度(PWV)、オーグメンテーションインデックス(AIx)、加速度脈波波形、加速度脈波加齢指数の改善などの脈波関連指標にて把握されるところの血管年齢の改善、さらには血圧の改善、脈圧の改善から選ばれる少なくとも一つをいう。
【0017】
脈波伝播速度(PWV)は、頚動脈、鼠頚部動脈、上腕、足首等に圧センサーを取り付け、センサー間の距離と脈波の時間差を計測することによって測定されるものであり、脈波計測部位の違いにより、baPWV(上腕−足首)、cfPWV(頚動脈−大腿動脈)などが、また、血圧補正されたCAVI(Cardio Ankle Vascular Index)などが含まれる。これらは、血管年齢や、血管の伸展性、硬化度等の指標となるものである。ここにその改善とは、PWV値の低下、あるいは上昇の抑制を言う。
【0018】
オーグメンテーションインデックス(AIx)は、トノメトリー法、あるいはオシロメトリー法によって測定される動脈圧波形の収縮中期に見られる二次的な圧上昇(増大圧)を脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧との差)で除することなどによって求められるものであり、反射波成分の割合を示すものであることから、総血管抵抗や、心臓への後負荷等の指標となるものである。ここにその改善とは、AIx値の低下、あるいは上昇の抑制をいう。
【0019】
加速度脈波は、指尖部に光を照射し、その透過光や反射光を受光して測定される容積波(光電式指尖容積脈波)を二次微分することによって得られるものであり、その波形を構成する5つの成分(a〜e波)は加齢に伴い上昇、あるいは下降することが報告されている。特にa波に対するb波の割合(b/a)は血管の伸展性を、また、a波に対するd波の割合(d/a)は血管の器質的硬化度、および血管内圧の上昇を主体とした機能的緊張度の指標となるものであり、加速度脈波加齢指数と呼ばれる(b-c-d-e)/aや、脈波形を統計学的に解析して得られる“血管老化偏差値”((株)ユメディカ)は、血管の老化度、および血管年齢を推定する指標となるものである。ここにその改善とは、b/aの低下、c/a、d/a、e/aの上昇、あるいはこれらのいずれかをいう。
【0020】
血管年齢の改善とは、加速度脈波加齢指数、あるいは血管老化偏差値をもとにして算出された血管推定年齢が暦年齢に近づくこと、あるいは、PWV値がその年齢別基準値に近づくことをいう。
【0021】
脈圧とは、収縮期血圧と拡張期血圧との差を言い、その改善とは、収縮期血圧の低下、拡張期血圧の低下の防止をいう。
【0022】
血圧の改善とは、高血圧症における血圧の降下、特に平均血圧の降下、収縮期の血圧の降下をいう。
【0023】
本明細書において、「血行動態の改善」における「改善」とは、前述した種々の改善以外に、悪化の予防、現状維持をも含む概念である。
【0024】
本発明で使用されるセロトニン誘導体としては、ヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドが好適なものとして例示され、例えば下記の式で表される化合物(I)が例示される。
【0025】
【化4】
【0026】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)本明細書において、アルキル基は、炭素数1〜3のものを意味し、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピルが挙げられる。
【0027】
ヒドロキシ桂皮酸としては、p−クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸が好適なものとして挙げられ、そのセロトニンアミドとしては、p−クマロイルセロトニン(あるいはp−クマリルセロトニン)、フェルロイルセロトニン(あるいはフェルリルセロトニン)、カフェオイルセロトニンが例示される。
【0028】
前記セロトニン誘導体の配糖体とは、例えば、化合物(I)におけるR1にグルコースがβグルコシド結合したO-β-D-グルコピラノシドなどが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0029】
セロトニン誘導体としては、上記化合物を単独で、あるいはこれら化合物を併用して、使用することができる。
【0030】
セロトニン誘導体は、化学的に合成することにより、また天然物から抽出することにより調製可能である。
【0031】
当該化合物は自体既知のものであり、その合成には自体既知の方法を採用すればよい。
【0032】
セロトニン誘導体を天然物から抽出する場合、原料として様々な植物組織が用いられる。例えば、紅花やヤグルマギクをはじめとするキク科植物の種子、クロヒエやコンニャクイモ等の穀粒、塊茎などが挙げられるが、好ましくは紅花の種子、またはその脱脂粕である。本発明において植物種子とは、植物種子を構成する全体、またはその一部、例えば、種皮、胚乳、胚芽等を取り出したものでもよく、それらの混合物であってもよい。これらのものからの抽出方法としては、例えば、下記の如き方法が挙げられる。
【0033】
植物組織は、通常脱脂物(ミール)として抽出に供される。脱脂物は自体公知の方法により、例えば植物種子等の植物組織を脱脂して得ることができるが、例えば種子を圧搾抽出するかまたは種子の破砕物にn−ヘキサン等を加えて抽出した後、抽出系から固形分を取り出し、該固形分を乾燥して得ることができる。脱脂の目安は脱脂前の総脂肪量に対して通常60重量%以上、好ましくは80重量%以上である。
【0034】
また、抽出方法としては、例えば脱脂後の植物種子を水で洗浄後、有機溶媒で抽出する方法が例示される。
【0035】
水は、特に限定されず、例えば蒸留水、水道水、工業用水およびこれらの混合水等のいずれも用いることができる。水には、本発明の効果が得られる限り、他の物質、例えば無機塩(例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等)、酸(例えば塩化水素、酢酸、炭酸、過酸化水素、リン酸等)、アルカリ(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム等)等を含んでいてもよい。洗浄の際のpHは通常2〜9であり、好ましくは5〜7である。
【0036】
水の使用量は、総量として、原料である脱脂後の植物種子に対して、通常2〜100倍量(水容量/脱脂後の植物種子重量、以下同様)、好ましくは10〜40倍量である。
【0037】
洗浄は、自体公知の方法で、原料である脱脂後の植物種子と水とを接触させて行うことができる。例えば、脱脂後の植物種子を水に懸濁後、濾過して固形の洗浄処理物を回収する方法等が挙げられる。洗浄は、上記の量の水を、脱脂後の植物種子に一度にまたは複数回に分けて、または連続的に接触させて行ってもよい。接触させる際の温度は通常5〜45℃、好ましくは25〜35℃である。接触させる時間は通常10〜240分であり、好ましくは15〜60分である。
【0038】
上記のようにして得られた脱脂後の植物種子等の洗浄処理物から有機溶媒で抽出して植物種子等の抽出物を得ることができる。
【0039】
有機溶媒として、例えば、低級アルコール、アセトン、アセトニトリルおよびそれらの混合溶媒等が挙げられるが、それらに限定されない。有機溶媒は、水を含んでいてもよく、無水物であってもよい。有機溶媒の濃度は、通常20〜95重量%、好ましくは50〜90重量%である。有機溶媒は抽出後の抽出物の濃縮、乾燥および食品製造の点からは低級アルコールが好ましい。低級アルコールとして、例えば炭素数1〜4のアルコールが挙げられ、具体的には例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられるが、これらに限定されない。低級アルコールは、食品製造の点からは、エタノールが好ましい。エタノールは、エタノール分を50重量%以上含む含水エタノールあるいは無水エタノールが好ましい。
【0040】
有機溶媒の使用量は、原料である脱脂後の植物種子の通常2〜40倍量(有機溶媒容量/脱脂後の植物種子重量、以下同様)、好ましくは2〜10倍量である。抽出温度は通常20〜75℃、好ましくは50〜70℃である。抽出時間は通常10〜240分、好ましくは60〜120分である。
【0041】
なお、植物組織からの抽出において、水洗浄は省略することも可能である。
【0042】
また植物種子等の植物組織は、未脱脂のまま例えばローラーなどで粉砕または圧扁した後に、上述の有機溶媒などで抽出することによって抽出物を得ることもできる。
【0043】
抽出後、懸濁液より濾過等により固形分を分離して得られた抽出液は、そのまま、または必要により濃縮、乾燥して本発明の植物種子抽出物として用いることができる。濃縮、乾燥は抽出液そのままを濃縮、乾燥してもよく、賦形剤(例えば乳糖、ショ糖、デンプン、シクロデキストリン等)を添加して実施してもよい。上記の溶媒で抽出された抽出物は、その純度で、本発明に供してもよいが、更に自体公知の方法により精製しても良い。
【0044】
更に純度を上げるための一例を記載するが、これに限定されない。上述の溶媒抽出物の有機溶媒を減圧留去し、水を加え、抽出物を水に懸濁し、水相を非極性溶媒、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等で、好ましくはn−ヘキサンで洗浄し、洗浄後の水層を、二層に分かれて目的の組成物を抽出できる溶媒、例えば、酢酸エステルやn−ブタノールなど、好ましくは、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル等で抽出する。次いで、抽出液を飽和食塩水等で洗浄し、有機層を得る。酢酸エステルで抽出した場合、該有機層を、例えば、無水硫酸マグネシウム等で、脱水し、次いで減圧濃縮して、固形物(組成物)を得る。以上のどの段階で、精製を止めても良いし、いずれかの工程を省いても良いし、改変を加えても良いし、更に精製を進めても良い。上記溶媒の種類を変えることも含めて多段抽出法や向流分配法なども用いることができる。
【0045】
本発明におけるセロトニン誘導体は、ヒトを含む動物(ヒト、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ等の哺乳類、ニワトリ等の鳥類等)に血行動態改善用の医薬、食品の有効成分として用いることができる。
【0046】
更に、本発明におけるセロトニン誘導体を血行動態改善剤として、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン、シクロデキストリン等)、場合によっては、香料、矯味剤、色素、調味料、安定剤、防腐剤等と共に、錠剤、丸剤、顆粒、細粒、粉末、ペレット、カプセル、溶液、乳液、懸濁液、シロップ、およびトローチ等に製剤化して、食品(食品組成物)や医薬製剤(医薬組成物)として用いることができる。
【0047】
本発明の「食品」は、食品全般を意味するが、いわゆる健康食品を含む一般食品の他、厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品などの保健機能食品をも含むものであり、さらにサプリメント、飼料、食品添加物等も本発明の食品に包含される。
【0048】
本発明の食品を、血行動態改善を期待して摂取する場合、様々な形態で飲食することができるが、1回に摂取する量の目安となるように、1回摂取分を1単位包装とすることが好ましい。1単位包装当たりのセロトニン誘導体の量は、5〜180mgが推奨され、10〜150mgが好ましく、20〜120mgがより好ましい。この場合のセロトニン誘導体の量は、HPLC(カラム:資生堂Capcell Pak ODS UG-120,3μm(φ4.6 x 250mm)、展開溶剤:0.1%トリフルオロ酢酸-20%アセトニトリル水溶液から0.1%トリフルオロ酢酸-40%アセトニトリル水溶液まで25分間のリニアグラジエント、展開溶剤流量:0.8ml/分、検出器:UV(290nm))にて検出され、下記の式で表されるセロトニン誘導体(p−クマロイルセロトニン(CS)およびフェルロイルセロトニン(FS))の総和をいう。
【0049】
【化5】
【0050】
本発明の血行動態改善剤は、医薬または食品として使用されるものである。
【0051】
本発明の食品は、血行動態改善を目的として摂取する場合、血行動態改善のために用いるものであるという表示を付した形態で提供することができる。
【0052】
また、本発明の食品は、血行動態改善用途への使用に関する説明を記載した記載物を含む商業的パッケージとしても提供することができる。
【0053】
食品としては、例えば、ドレッシング、マヨネーズ等の一般食品(いわゆる健康食品を含む)にセロトニン誘導体を含有させて用いることもできる。更に、セロトニン誘導体を、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン等)、場合によっては、香料、色素等と共に、錠剤、丸剤、顆粒、細粒、粉末、ペレット、カプセル、溶液、乳液、懸濁液、シロップまたはトローチ等に製剤化して、特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品、サプリメント、医薬製剤(医薬組成物)(主に経口用)として用いることができる。また、セロトニン誘導体は、飼料にも適用することができ、家禽や家畜等には、通常の飼料に添加して摂取または投与することができる。
【0054】
特に、医薬として使用する場合、医薬として許容できる担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。医薬として許容できる担体としては、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エステル等)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
本発明の血行動態改善剤の摂取または投与方法は、投与対象の年齢、体重、健康状態によって異なるが、例えば、健康の維持・増進や疾病の予防を目的とする場合は、通常、食品の形態にして経口的に服用し、一方、疾病の治療や健康回復を目的とする場合には、通常、医薬品、または食品の形態にして、経口的、または注射、外用剤などにより投与する。
【0056】
セロトニン誘導体を経口的に摂取する場合、p−クマロイルセロトニン(CS)およびフェルロイルセロトニン(FS)の総和として、1日の摂取量としては20〜180mgが推奨され、50〜150mgが好ましく、80〜120mgがより好ましい。通常、1日1回から数回に分けて摂取、または服用することが好ましい。1回の摂取量としては10〜180mgが推奨され、25〜150mgが好ましく、40〜120mgがより好ましい。また1回に摂取する量を1単位包装とした場合は、1単位包装あたり5〜180mgが推奨され、10〜150mgが好ましく、20〜120mgがより好ましい。さらに錠剤、カプセル、スティック包装などの形態をとり、1回あたり1〜10個摂取できる場合、1剤形または1単位包装あたりの量は2.5〜180mgが推奨され、5〜150mgが好ましく、10〜120mgがより好ましい。
【0057】
また、例えば紅花種子の有機溶媒抽出物を摂取する場合、1日の摂取量としては200〜1500mgが推奨され、450〜1250mgが好ましく、700〜1000mgがより好ましい。通常、1日1回から数回に分けて摂取、または服用することが好ましい。1回の摂取量としては100〜1500mgが推奨され、250〜1250mgが好ましく、400〜1000mgがより好ましい。また1回に摂取する量を1単位包装とした場合は、1単位包装あたり50〜1500mgが推奨され、100〜1250mgが好ましく、200〜1000mgがより好ましい。さらに錠剤、カプセル、スティック包装などの形態をとり、1回あたり1〜10個摂取できる場合、1剤形または1単位包装あたり25〜1500mgが推奨され、50〜1250mgが好ましく、100〜1000mgがより好ましい。
【0058】
セロトニン誘導体は、様々な植物の種子や塊茎などに含まれており、とりわけ紅花種子に多く含まれている。韓国では古来、紅花種子は骨折治癒促進、骨粗鬆症予防などの用途で、民間で用いられており、安全性は高いと考えられる。以下に記載する実施例4の結果も、本発明の組成物の毒性が低く、副作用がほとんど認められないことを裏付けている。
本発明の血行動態改善剤により得られる効果としては、加速度脈波加齢指数、あるいはPWVの暦年代別基準値から求められる血管年齢の改善、心疾患(心室肥大、心筋梗塞、狭心症、心不全など)の予防、高血圧症の改善、血行不良に伴う肩こりなどの筋硬直の緩和、冷え性の改善などが挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に例示するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1(セロトニン誘導体を含むベニバナ種子抽出物の調製)
ベニバナ種子抽出物の調製を以下に記載した方法で実施した。脱脂紅花種子100kgを2kLの水にて30℃、30分間攪拌洗浄後固液分離を行い、得られた固形分に60vol%エチルアルコール−水を1.5kL加え、60℃に昇温後同温にて60分間攪拌抽出した。同操作を3経路同時に実施して得た固液分離後の抽出液を合一し、ろ過助剤(KCフロック)を用いて圧搾濾過後、ろ過液中の固形分量と等量のγ-シクロデキストリン(CAVAMAX W8 FOOD、(株)シクロケム社製)の水溶液を加え、減圧下50〜60℃にて濃縮した。得られた濃縮液を88℃、1時間加熱殺菌および、60℃、15時間の乾燥後、粉砕、篩分け(60メッシュ篩)し、ベニバナ種子抽出物粉末6kgを得た。一般成分分析結果は表1のとおりであった。
【0061】
【表1】
【0062】
このベニバナ種子抽出物中の総ポリフェノール含量をFolin-Ciocalteau法で測定したところ、143mg/g抽出物(p−クマロイルセロトニン当量)であった。HPLCで分析したところ、総セロトニン誘導体含量は138mg/g抽出物(13.8%(w/w))であった。結果を表2に示す。このことから、セロトニン誘導体は本ベニバナ種子抽出物中に含まれるフェノール類の主要成分であると考えられた。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例2(セロトニン誘導体の合成)
p−クマロイルセロトニン(CS)、およびフェルロイルセロトニン(FS)を以下の方法で合成した。
【0065】
CS:セロトニン塩酸塩をジメチルホルムアミド(5mL/g vs.セロトニン塩酸塩、以下同様)、ジクロロメタン(20mL/g)で溶解後、trans−4−クマル酸(1.0モル/モル)、1−1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt)、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−エチル−カルボジイミド ヒドロクロリド(EDC)、およびトリエチルアミンを各1.1等量加え,室温で終夜攪拌し反応させた。反応液を減圧濃縮後、酢酸エチルと水(各40mL/gセロトニン量)を加え、酢酸エチル抽出を行った。3回の酢酸エチル抽出により得た抽出相を5%クエン酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、および飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムで脱水した。乾燥剤を除去した抽出液を減圧濃縮し、酢酸エチル−エタノール(10:0.6)にて晶析後、得られた結晶を酢酸エチルで洗浄、乾燥しCSを得た(収率=69.8%)。
【0066】
FS:セロトニン塩酸塩とtrans−4−フェルラ酸より上記CSと同様の方法で合成したが、晶析はメタノール−クロロホルム(1:15)にて行った(収率=69.2%)。
【0067】
実施例3(コレステロール負荷KHCウサギの血圧・脈波改善効果)
3ヶ月齢の雄性Kurosawa and Kusanagi-Hypercholesterolemic (KHC)ウサギ(遺伝的高脂血症・動脈硬化モデル)に対し、0.5%コレステロール含有飼料に実施例1で調製したベニバナ種子抽出物を4%添加した試験食を1日100g制限給餌した(ベニバナ種子抽出物摂取量として約1.3g/kg)。4週間(各群n=6)または8週間(各群n=3)の飼育後、耳介動脈より採血を行い、血中コレステロール等の血液生化学分析を行った。脈波計測はKatsudaらの方法(Katsuda, et.al.., Am. J. Hypertens., 17: 181, 2004)に従って実施した。すなわち、ペントバルビタール麻酔下で、2本のカテーテル型圧トランスデューサーをそれぞれ左総頚動脈から上行大動脈(AA)へ、また左大腿動脈より大動脈弓遠位端まで挿入した。手術後1時間以上経過して血圧レベルがほぼ安定したことを確認した後、総腸骨動脈より挿入したカテーテルトランスデューサーの先端を大動脈弓遠位端(Position 0; P.0)より80mmずつに総腸骨動脈分岐部付近まで移動させながら、胸部大動脈近位部(Position 1; P.1)、同中央部(Position 2; P.2)、同遠位部(Position 3;P.3)、腹部大動脈近位部(Position 4; P.4)、同中央部(Position 5; P.5)、同遠位部(Position 6; P.6)における圧脈波をそれぞれ上行大動脈圧脈波と同時に約60秒間ずつアナログ−デジタル(A/D)変換器を介してコンピューターに記録した。このように記録した圧脈波のうち、各部位において安定した30秒間の記録から連続する50心拍周期において原波形の2次微分波をコンピューター上で算出し、このピークの時点を圧脈波の立ち上がり点とした。局所脈波速度(LPWV)は、隣接する各2点で記録した圧脈波の立ち上がり点の時間差(ΔT)と隣接する各2点間の距離(ΔD)からΔD/ΔTとして算出した。AAとP.0またはP.1の距離は、左大腿動脈カテーテル挿入部と上行大動脈に留置したカテーテルトランスデューサー圧センサー部との距離(ΔDtotal)をin situにて正確に測定し、AA-P.0間についてはΔDtotal-320mm、AA-P.1間についてはΔDtotal-280mmとした。大動脈全体における脈波速度(aortic PWV)は、AAからP.6に至る速度として求めた。
【0068】
オーグメンテーションインデックス (AIx)は以下の方法で求めた。コンピューターに記録した圧脈波の原波形から4次微分波を求め、これが一心拍周期内で上方から下方へ2回目に基線と交わる時点を収縮期前方成分のピーク(P1)とし、収縮期後方成分の振幅、即ち脈圧をP2とした。AIxはP2/ P1として、さらに、(P2−P1)/P2×100 (%)として求めた。
【0069】
血圧測定終了後ウサギを安楽死させ、大動脈を起始部から総腸骨動脈分岐部まで摘出し、長軸方向にカットして露出させた内膜面のプラーク面積を、画像解析装置を用いて計測した。
【0070】
血液生化学:4週間の投与試験において、血中総コレステロールについては対照群(0.5%コレステロール飼料)との差は認められなかった。その他の脂質(HDL-コレステロール、トリグリセリド、リン脂質、過酸化脂質(LPO))、および血糖、肝機能指標(GOT、GPT、総タンパク、アルブミン)、腎機能指標(尿素窒素、クレアチニン)、電解質(Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl-)、血圧関連ホルモン(レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系、レニン−アンギオテンシン変換酵素活性、アンギオテンシンI濃度、アンギオテンシンII濃度)についても、ベニバナ種子抽出物投与による大きな変化は認められなかった。
【0071】
血圧・脈波に対する作用:大動脈における局所脈波速度(LPWV)を比較したところ、P.1-P.2とP.4-P.5でベニバナ種子抽出物投与群の方が対照群より有意に低下していた(図1)。さらに、起始部(AA)から総腸骨動脈分岐部(P.6)までの大動脈全体の脈波速度(aortic PWV)も投与群で有意に低下していた(図2)。AIxも対照群に比べ有意な低下が認められた(図3)。拡張期血圧は投与群で幾分下降傾向ではあったが有意差はなかった。一方、収縮期血圧と脈圧は投与群で有意に低下した(図4)。
【0072】
アテローム性動脈硬化病変形成に対する作用:各脈波測定点AA、P.0、P.1、P.2、P.3、P.4、P.5、P.6で区切った領域毎に病変面積率を算出した。個々の領域では、AA-P.0で投与群の方が病変面積率は有意に低下していたが、その他の領域では、P.4-P.5を除いて低下傾向、あるいは変化がなかった。LPWVが有意に低下していたP.1-P.2、およびP.4-P.5では病変面積率の低下は認められなかった。大動脈全体における病変面積率は投与群で低下傾向ではあったが、有意な差ではなかった。
【0073】
8週間投与試験では例数が少ないため、統計学上の有意差は得られなかったが、PWV, AIxいずれも4週間投与試験と同様の結果を示した。
【0074】
これらの結果から、セロトニン誘導体を主要フェノール成分とするベニバナ種子抽出物は、血中脂質をはじめとする血液生化学には大きな影響を与えず、脈波伝播速度(LPWV、aortic PWV)、AIx、血圧などの血行動態指標を改善することが明らかとなった。LPWVと動脈硬化病変面積率との間には相関が認められなかったこと、動物が比較的若齢であることに加えてコレステロール負荷期間が4週間と短く、この間に繊維化や石灰化などといった器質的な硬化が成立するとは考え難い(Katsuda, et.al., Physiol. Meas., 25: 505, 2004)ことから、ベニバナ種子抽出物は主に血管機能を改善することにより総血管抵抗を下げて、血行動態を改善したものと考えられた。
【0075】
実施例4(ベニバナ種子抽出物の安全性試験)
実施例1で調製したベニバナ種子抽出物に関して、ラットに対する4週間反復経口投与毒性試験を行った。
【0076】
試験動物:Crj:CD(SD)IGS雄性および雌性ラット(投与開始時週齢=6週齢、6匹/群)
投与:実施例1で調製したベニバナ種子抽出物を0、2.5、5、および10%(w/w)の濃度で飼料に添加し、自由摂取させた。賦形剤として含まれるγ-シクロデキストリン(γCD)の影響を確認するために、γCDを5%(w/w)の濃度で添加した賦形剤対照群を設定した。
【0077】
観察・検査・測定:一般状態の観察、体重測定、摂餌量測定、尿検査、血液学検査、血液生化学検査、剖検、器官重量測定、病理組織検査を実施した。
結果を表3に示した。
【0078】
【表3】
【0079】
本試験における用量は、摂餌量より換算すると、約2g/kg/day(2.5%群)〜約8g/kg/day(10%群)という高用量であったが、いずれの投与群においても死亡例は皆無であった。血液生化学的検査、組織検査、器官重量に関しても、大きな毒性的変化は認められなかったことから、本発明における血行動態改善剤は十分に安全であることが示された。
【0080】
実施例5(ヒトにおける脈波改善効果)
(試験食の調製)
実施例1で調製したベニバナ種子抽出物をハードカプセル充填機(ウルトラエイト、カプスゲル・ジャパン(株)社製)にてハードカプセルに充填した(1カプセルあたり210mgのベニバナ種子抽出物、セロトニン誘導体として約29mgを含む)。
【0081】
(脈波改善効果の検討)
90名のボランティア男性の加速度脈波および脈波伝播速度(baPWV)の検査を事前に行い、その中から血管年齢が高く、かつ血圧、血中コレステロール、血糖に対し薬物治療を行っていない20名を試験対象として選定した(年齢:30歳〜55歳(37.3±6.8歳))。試験食(ベニバナ種子抽出物2.1g(セロトニン誘導体として約290mg))は1日2回(朝・夕、食後30分以内)に分けて4週間毎日摂取させ、摂取開始直前、および摂取終了時に血圧およびbaPWVの計測ならびに採血を行った。なお、試験期間中は血圧、脂質等に影響を及ぼす薬剤、サプリメントの摂取を控えるよう指示を行った。血圧およびbaPWVの測定は血圧脈波検査装置(form PWV/ABI、コーリンメディカルテクノロジー(株))を用いた。試験食摂取前のボランティアの収縮期血圧は左上腕部で125.9±14.0mmHg、右上腕部で128.8±14.5mmHg、baPWVは左上腕-左足首間で1318.6±120.5cm/s、右上腕−右足首間で1317.9±124.3cm/sであった(平均値±標準偏差)。採血は座位安静状態で肘正中皮静脈より行い、血中コレステロールなどの一般生化学分析を行った。なお、摂取前、摂取後の検査当日は朝食を摂らせずに空腹時下で採血および検査を行った。
【0082】
試験食の摂取期間中において、試験食によって起因したと思われる症状の訴えは認められなかった。血液生化学パラメータ(血中脂質(総コレステロール、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、トリグリセリド)、および血糖、肝機能指標(GOT、GPT、LDH、γ-GTP総タンパク、アルブミン)、腎機能指標(尿素窒素、クレアチニン)、電解質(Na+、K+、Ca2+))についても、摂取前後で異常な変化は認められなかった。
【0083】
また、左右上腕部の平均収縮期血圧が、事前検査、および試験食摂取開始直前の検査値で平均して130mmHg以上を示した被験者6名(142.5±13.4mmHg)の解析を行ったところ、左上腕-左足首間でのbaPWVが試験食摂取前(1373.0±52.5cm/s)から試験食摂取後(1311.8±69.2cm/s)に有意な低下を示した(図5)。
【0084】
これらの結果からベニバナ種子抽出物は安全に摂取することが可能なこと、また、特に血圧が高めのヒトにおいてbaPWVの低下、すなわち血管年齢の改善を示したものと考えられた。
【0085】
実施例6(コレステロール負荷KHCウサギの血圧・脈波改善効果)
2-3ヶ月齢の雄性Kurosawa and Kusanagi-Hypercholesterolemic (KHC)ウサギ(遺伝的高脂血症・動脈硬化モデル)に対し、0.5%コレステロール含有飼料に実施例1で調製したベニバナ種子抽出物を4%、または実施例2の方法で合成したセロトニン誘導体を0.55%(p−クマロイルセロトニン(CS)0.32%、フェルロイルセロトニン(FS)0.23%)添加した試験食を1日100g制限給餌した(対照群 n=5、ベニバナ種子抽出物投与群 n=5、セロトニン誘導体投与群 n=6)。8週間の飼育後、耳介動脈より採血、血中コレステロール等の血液生化学分析を行い、実施例3と同様の方法にて脈波速度、AIx、血圧の計測ならびに病変面積の解析を実施した。AIx、血圧以外の脈波速度、病変面積、血液生化学指標などは全て実施例3の8週間飼育試験のデータを追加して解析を実施した。
【0086】
血液生化学:8週間の投与試験において、血中総コレステロールについては対照群(0.5%コレステロール飼料)との差は認められなかった。その他の脂質(HDL-コレステロール、トリグリセリド、リン脂質、過酸化脂質(LPO))、および血糖、肝機能指標(GOT、GPT、総タンパク、アルブミン)、腎機能指標(尿素窒素、クレアチニン)、電解質(Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl-)、血圧関連ホルモン(レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系、レニン−アンギオテンシン変換酵素活性、アンギオテンシンI濃度、アンギオテンシンII濃度)についても、ベニバナ種子抽出物投与およびセロトニン誘導体投与による大きな変化は認められなかった。
【0087】
血圧・脈波に対する作用:大動脈における局所脈波速度(LPWV)を比較したところ、P.2-P.3とP.5-P.6でベニバナ種子抽出物投与群の方が、P.1-P.2、P.2-P.3とP.5-P.6でセロトニン誘導体投与群の方が、それぞれ対照群より有意に低下していた(図6)。さらに、上行大動脈(AA)から腹部大動脈遠位部(P.6)までの大動脈全体の脈波速度(aortic PWV)も投与群で各々有意に低下していた(図7)。AIxは対照群に比べて統計的には有意ではないものの、各投与群で低下する傾向が認められた(図8)。また収縮期血圧、拡張期血圧も各投与群で下降傾向を示した。
【0088】
アテローム性動脈硬化病変形成に対する作用:各脈波測定点AA、P.1、P.2、P.3、P.4、P.5、P.6で区切った領域毎に病変面積率を算出した。ベニバナ種子抽出物投与群でP.1-P.2、P.2-P.3で有意な病変面積率の低下を示したが、それ以外ではベニバナ種子抽出物投与群、セロトニン誘導体投与群において、低下の傾向は示したものの有意差はなかった。(図9)。一方、大動脈全体における病変面積率において、ベニバナ種子抽出物投与群で有意な低下を示したが、セロトニン誘導体投与群では低下の傾向を示したものの有意な差ではなかった(図10)。
【0089】
これらの結果から、セロトニン誘導体、ならびにこれを主要フェノール成分とするベニバナ種子抽出物は、血中脂質をはじめとする血液生化学には大きな影響を与えず、脈波伝播速度(LPWV、aortic PWV)、AIx、血圧などの血行動態指標を改善することが明らかとなった。図11に示すようにLPWVと動脈硬化病変面積率との間には相関が認められなかったこと、動物が比較的若齢であることに加えてコレステロール負荷期間が8週間と短く、この間に繊維化や石灰化などといった器質的な硬化が成立するとは考え難い(Katsuda, et.al., Physiol. Meas., 25: 505, 2004)ことから、セロトニン誘導体およびベニバナ種子抽出物は主に血管機能を改善することにより総血管抵抗を下げて、血行動態を改善したものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により提供される血行動態改善剤は、加齢や循環器系疾患に伴う血行動態の悪化を効果的に予防、改善し、健康の保持、増進に役立つ。安全性も高く、医薬としての利用も可能であり、また、食品としても有用であり、産業上極めて有用である。
【0091】
本出願は、日本で出願された特願2005−267286(出願日:2005年9月14日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血行動態改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のライフスタイルの欧米化に伴い、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などといった疾患が、癌と並んで日本人の死因のトップを形成するようになった。また、糖尿病の進展に伴う腎症や網膜症などの合併症は腎透析や寝たきり患者を増加させ、医療費を圧迫する一大要因となっている。これらはいずれも血管系の疾患であり、一度発症すると治癒が非常に難しく、著しく患者のQOL(生活の質)を低下させることから、血管のダメージ、老化度を適性な範囲に常に保つための方策が社会的にも極めて重要である。血管にダメージを与え、老化を加速させるリスクファクターとしては、高脂血症、高血糖、高血圧、肥満などが従来から知られている。高い血中脂質や血糖、血圧などはいずれも血管壁の伸展性を失わせ、一酸化窒素(NO)やアンジオテンシンIIをはじめとする各種血管トーヌス調節因子に対する反応性を変化させることが知られている。したがって、これらのリスクファクターを適切なレベルにコントロールすることは重要であり、そのための薬物や食品などの開発が絶え間なく行われているわけであるが、仮にこれらのリスクファクターのレベルが同じであっても、血管に対するダメージ・老化の進み具合は各人各様であり一様とはならない。そこで、直接血管の老化度を測定することが重要となるわけであるが、近年、心拍によって生じる動脈圧の変動、すなわち脈波を測定して解析することにより血管の老化度を非侵襲的、かつ定量的に評価することが可能となってきた。脈波が血管内を伝わる速度である脈波伝播速度(PWV)や、末梢総血管抵抗を反映するオーグメンテーションインデックス(AIx)、あるいは指尖容積波の2次微分である加速度脈波の特定の波形成分、およびそれらから成る数値指標などが加齢により一定の変化を示す(Schiffrin, Am. J. Hypertens., 17: 395, 2004、およびTakazawa,et.al., Hypertension 32:365, 1998)ことから、各年代における基準値をもとにした“血管年齢”という概念が普及しつつある。最近の臨床試験においても、PWVやAIxなどが心血管疾患リスクの予測因子として有用であることを示す報告例が増えてきている(Boutuyrie, et.al., Hypertension 39:10, 2002、およびLondon, et.al., Hypertension 38:434, 2001)。これらの指標は、主に血管壁の伸展性、壁厚や血管抵抗を反映するものと考えられているが、血圧や単なる器質的な硬さだけによって規定されるものではないことは、降圧効果が同程度でもPWVの変化が異なったり(Asmar, et.al., J. Hypertens., 19:813, 2001)、軽度な運動療法(菅原ら,第3回臨床動脈波研究会要旨集 39,2003)や一部の薬物による短期間の介入によってこれらの指標が改善する例(松尾ら,第2回臨床動脈波研究会要旨集 33, 2002、およびWatanabe, et.al., American College of Cardiology 51st Annual Scientific Session, 2002)が報告されていることからも明らかである。交感神経活性や血管内皮機能、アディポネクチンなどのファクターの関与も示唆されており(McVeigh, et.al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 14: 1425, 1994、Agata, et.al., Circul. J., 68:1194, 2004および秋下ら,‘脈波速度’, 104, メジカルビュー, 2002)、これらの指標は単なる動脈硬化の指標と言うよりも、一時的な血管の機能的緊張をも含む血管壁における総合的なリスクの指標と捉えられる。
【0003】
したがって、PWVやAIxなどの脈波関連指標を直接改善し、“血管年齢”を適正な範囲に維持し得る成分は、血中コレステロールや血圧などの古典的な指標の改善を通して間接的に血管リスクを下げる成分よりも心血管系疾患の予防や治療に有用である可能性が高い。一部の医薬品(スタチン、アンジオテンシンII受容体ブロッカー、EPA製剤など)におけるPWV改善作用に関する報告が最近増えつつある(Agata, et.al., Circul. J., 68:1194, 2004、Asmar, ‘Pulse wave velocity and therapy’, 142, Elsevier,1999 および Sato, et.al., J. Cardiovasc. Pharmacol., 22: 1, 1993)中、降圧作用が同程度であってもPWVの改善率が良い群では心血管イベント発生率が低かった(山科,冨山,‘脈波速度’, 120, メジカルビュー, 2002)ということなどはその一例と言える。しかしながらこれらの医薬品の長期連用は副作用を生じさせる可能性がある一方、より安全性が高いと考えられる食品成分でPWVやAIx、加速度脈波波形の改善作用が知られているものはこれまでのところごくわずかしかない(Teede, et.al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 23: 1066, 2003 および Nestel, et.al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 17: 1163, 1997)。
【0004】
本発明の血行動態改善用組成物は、後述するとおり、ウサギの脈波伝播速度(PWV)、オーグメンテーションインデックス(AIx)の上昇を抑制すると共に、血圧(収縮期血圧、平均血圧)、および脈圧を低下させる。これらの血行動態指標は、動脈硬化が進むと上昇することが知られているが、血管の器質的硬化以外にも、すでに述べたように、血管の機能的な緊張の亢進による総血管抵抗の上昇によっても悪化することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、加齢や循環器系疾患の進行に伴う血行動態の悪化を予防、改善するための新規な血行動態改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、セロトニン誘導体に血行動態の悪化を予防、改善する効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。したがって、本発明は、以下を包含する。
【0007】
(1) セロトニン誘導体を有効成分として含有する血行動態改善剤。
(2) 前記の血行動態改善が、血管年齢の改善、血圧の改善および脈圧の改善からなる群より選ばれるものである、(1)記載の血行動態改善剤。
(3) 血管年齢の改善が、脈波伝播速度(PWV)の改善、オーグメンテーションインデックス(AIx)の改善、加速度脈波波形の改善および加速度脈波加齢指数の改善からなる群より選ばれるものである、(2)記載の血行動態改善剤。
(4) セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、(1)〜(3)のいずれかに記載の血行動態改善剤。
(5) 前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(4)記載の血行動態改善剤。
(6) ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(5)記載の血行動態改善剤。
(7) 前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、(1)〜(6)のいずれかに記載の血行動態改善剤。
(8) 前記の植物組織が紅花の種子である、(7)に記載の血行動態改善剤。
(9) 前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、(1)〜(8)のいずれかに記載の血行動態改善剤。
(10) (1)〜(9)のいずれかに記載の血行動態改善剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における血行動態を改善する方法。
(11) 血行動態改善剤の製造のための、セロトニン誘導体の使用。
(12) セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【0010】
【化2】
【0011】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、(11)記載の使用。
(13) 前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(12)記載の使用。
(14) ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(13)記載の使用。
(15) 前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、(11)〜(14)のいずれかに記載の使用。
(16) 前記の植物組織が紅花の種子である、(15)に記載の使用。
(17) 前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、(11)〜(16)のいずれかに記載の使用。
(18) (1)〜(9)のいずれかに記載の血行動態改善剤を含有する医薬組成物。
(19) (1)〜(9)のいずれかに記載の血行動態改善剤を含有する食品。
(20) (1)〜(9)のいずれかに記載の血行動態改善剤、および当該剤を血行動態改善のために使用できること、または使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
(21) セロトニン誘導体を含有する血行動態改善用食品。
(22) 前記の血行動態改善が、血管年齢の改善、血圧の改善および脈圧の改善からなる群より選ばれるものである、(21)記載の食品。
(23) 血管年齢の改善が、脈波伝播速度(PWV)の改善、オーグメンテーションインデックス(AIx)の改善、加速度脈波波形の改善および加速度脈波加齢指数の改善からなる群より選ばれるものである、(22)記載の食品。
(24) セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【0012】
【化3】
【0013】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、請求の範囲(21)〜(23)のいずれかに記載の食品。
(25) 前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(24)記載の食品。
(26) ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(25)記載の食品。
(27) 前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、(21)〜(26)のいずれかに記載の食品。
(28) 前記の植物組織が紅花の種子である、(27)に記載の食品。
(29) 前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、(21)〜(28)のいずれかに記載の食品。
(30) セロトニン誘導体を、1単位包装当たり5〜180mg含有する血行動態改善用食品。
(31) 食品が保健機能食品である、(21)〜(30)のいずれかに記載の食品。
(32) 保健機能食品が特定保健用食品である、(31)に記載の食品。
(33) 血行動態改善のために用いるものであるという表示を付した、(21)〜(32)のいずれかに記載の食品。
(34) (21)〜(32)いずれか1項に記載の食品、および血行動態改善用途への使用に関する説明を記載した記載物を含む商業的パッケージ。
脱脂後のベニバナ種子抽出物が動脈硬化病変の形成を予防することは既に報告されているが(国際公開03/086437号パンフレット)、本発明によるこれらの血行動態指標の改善は、動脈硬化病変の形成とは無関係であったことから、主に血管の機能的緊張を解除し、総血管抵抗を下げることにより、血行動態を改善するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例2における、4週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈の局所脈波速度を示したものである。横軸は圧脈波を計測した大動脈領域を表す(AA−P.0=上行大動脈〜大動脈弓遠位端、P.0−P.1=大動脈弓遠位端〜胸部大動脈近位部、P.1−P.2=胸部大動脈近位部〜胸部大動脈中央部、P.2−P.3=胸部大動脈中央部〜胸部大動脈遠位部、P.3−P.4=胸部大動脈遠位部〜腹部大動脈近位部、P.4−P.5=腹部大動脈近位部〜腹部大動脈中央部、P.5−P.6=腹部大動脈中央部〜腹部大動脈遠位部)。
【図2】図2は、実施例2における、4週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈全体の脈波速度(aortic PWV)を示したものである。
【図3】図3は、実施例2における、4週間コレステロール負荷KHCウサギにおけるAugmentation index (AIx)を示したものである。
【図4】図4は、実施例2における、4週間コレステロール負荷KHCウサギにおける拡張期、および収縮期血圧を上図に、また、脈圧(収縮期血圧−拡張期血圧)を下図に示す。
【図5】図5は、実施例5における、事前検査、および試験食摂取開始直前の検査値で平均130mmHg以上の収縮期血圧を示したボランティアの試験食摂取前、摂取後の左上腕-左足首間でのbaPWVの変化を示したものである。
【図6】図6は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈の局所脈波速度(LPWV)を示したものである。横軸は圧脈波を計測した大動脈領域を表す(AA−P.0=上行大動脈〜大動脈弓遠位端、P.0−P.1=大動脈弓遠位端〜胸部大動脈近位部、P.1−P.2=胸部大動脈近位部〜胸部大動脈中央部、P.2−P.3=胸部大動脈中央部〜胸部大動脈遠位部、P.3−P.4=胸部大動脈遠位部〜腹部大動脈近位部、P.4−P.5=腹部大動脈近位部〜腹部大動脈中央部、P.5−P.6=腹部大動脈中央部〜腹部大動脈遠位部)。
【図7】図7は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈全体の脈波速度(aortic PWV)を示したものである。
【図8】図8は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギにおけるAugmentation index (AIx)を示したものである。
【図9】図9は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギにおける大動脈局所での病変面積率を示したものである。横軸は圧脈波を計測した大動脈領域を表す(AA−P.0=上行大動脈〜大動脈弓遠位端、P.0−P.1=大動脈弓遠位端〜胸部大動脈近位部、P.1−P.2=胸部大動脈近位部〜胸部大動脈中央部、P.2−P.3=胸部大動脈中央部〜胸部大動脈遠位部、P.3−P.4=胸部大動脈遠位部〜腹部大動脈近位部、P.4−P.5=腹部大動脈近位部〜腹部大動脈中央部、P.5−P.6=腹部大動脈中央部〜腹部大動脈遠位部)。
【図10】図10は、実施例6における、8週間コレステロール負荷KHCウサギ大動脈全体の病変面積率を示したものである。
【図11】図11は、実施例6における局所脈波速度(LPWV)と同部位における病変面積率の関係を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、有効成分としてセロトニン誘導体を含んでなる血行動態改善剤に関するものである。
【0016】
本明細書において、血行動態改善とは、血管機能の改善を言い、より具体的には、脈波伝播速度(PWV)、オーグメンテーションインデックス(AIx)、加速度脈波波形、加速度脈波加齢指数の改善などの脈波関連指標にて把握されるところの血管年齢の改善、さらには血圧の改善、脈圧の改善から選ばれる少なくとも一つをいう。
【0017】
脈波伝播速度(PWV)は、頚動脈、鼠頚部動脈、上腕、足首等に圧センサーを取り付け、センサー間の距離と脈波の時間差を計測することによって測定されるものであり、脈波計測部位の違いにより、baPWV(上腕−足首)、cfPWV(頚動脈−大腿動脈)などが、また、血圧補正されたCAVI(Cardio Ankle Vascular Index)などが含まれる。これらは、血管年齢や、血管の伸展性、硬化度等の指標となるものである。ここにその改善とは、PWV値の低下、あるいは上昇の抑制を言う。
【0018】
オーグメンテーションインデックス(AIx)は、トノメトリー法、あるいはオシロメトリー法によって測定される動脈圧波形の収縮中期に見られる二次的な圧上昇(増大圧)を脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧との差)で除することなどによって求められるものであり、反射波成分の割合を示すものであることから、総血管抵抗や、心臓への後負荷等の指標となるものである。ここにその改善とは、AIx値の低下、あるいは上昇の抑制をいう。
【0019】
加速度脈波は、指尖部に光を照射し、その透過光や反射光を受光して測定される容積波(光電式指尖容積脈波)を二次微分することによって得られるものであり、その波形を構成する5つの成分(a〜e波)は加齢に伴い上昇、あるいは下降することが報告されている。特にa波に対するb波の割合(b/a)は血管の伸展性を、また、a波に対するd波の割合(d/a)は血管の器質的硬化度、および血管内圧の上昇を主体とした機能的緊張度の指標となるものであり、加速度脈波加齢指数と呼ばれる(b-c-d-e)/aや、脈波形を統計学的に解析して得られる“血管老化偏差値”((株)ユメディカ)は、血管の老化度、および血管年齢を推定する指標となるものである。ここにその改善とは、b/aの低下、c/a、d/a、e/aの上昇、あるいはこれらのいずれかをいう。
【0020】
血管年齢の改善とは、加速度脈波加齢指数、あるいは血管老化偏差値をもとにして算出された血管推定年齢が暦年齢に近づくこと、あるいは、PWV値がその年齢別基準値に近づくことをいう。
【0021】
脈圧とは、収縮期血圧と拡張期血圧との差を言い、その改善とは、収縮期血圧の低下、拡張期血圧の低下の防止をいう。
【0022】
血圧の改善とは、高血圧症における血圧の降下、特に平均血圧の降下、収縮期の血圧の降下をいう。
【0023】
本明細書において、「血行動態の改善」における「改善」とは、前述した種々の改善以外に、悪化の予防、現状維持をも含む概念である。
【0024】
本発明で使用されるセロトニン誘導体としては、ヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドが好適なものとして例示され、例えば下記の式で表される化合物(I)が例示される。
【0025】
【化4】
【0026】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)本明細書において、アルキル基は、炭素数1〜3のものを意味し、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピルが挙げられる。
【0027】
ヒドロキシ桂皮酸としては、p−クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸が好適なものとして挙げられ、そのセロトニンアミドとしては、p−クマロイルセロトニン(あるいはp−クマリルセロトニン)、フェルロイルセロトニン(あるいはフェルリルセロトニン)、カフェオイルセロトニンが例示される。
【0028】
前記セロトニン誘導体の配糖体とは、例えば、化合物(I)におけるR1にグルコースがβグルコシド結合したO-β-D-グルコピラノシドなどが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0029】
セロトニン誘導体としては、上記化合物を単独で、あるいはこれら化合物を併用して、使用することができる。
【0030】
セロトニン誘導体は、化学的に合成することにより、また天然物から抽出することにより調製可能である。
【0031】
当該化合物は自体既知のものであり、その合成には自体既知の方法を採用すればよい。
【0032】
セロトニン誘導体を天然物から抽出する場合、原料として様々な植物組織が用いられる。例えば、紅花やヤグルマギクをはじめとするキク科植物の種子、クロヒエやコンニャクイモ等の穀粒、塊茎などが挙げられるが、好ましくは紅花の種子、またはその脱脂粕である。本発明において植物種子とは、植物種子を構成する全体、またはその一部、例えば、種皮、胚乳、胚芽等を取り出したものでもよく、それらの混合物であってもよい。これらのものからの抽出方法としては、例えば、下記の如き方法が挙げられる。
【0033】
植物組織は、通常脱脂物(ミール)として抽出に供される。脱脂物は自体公知の方法により、例えば植物種子等の植物組織を脱脂して得ることができるが、例えば種子を圧搾抽出するかまたは種子の破砕物にn−ヘキサン等を加えて抽出した後、抽出系から固形分を取り出し、該固形分を乾燥して得ることができる。脱脂の目安は脱脂前の総脂肪量に対して通常60重量%以上、好ましくは80重量%以上である。
【0034】
また、抽出方法としては、例えば脱脂後の植物種子を水で洗浄後、有機溶媒で抽出する方法が例示される。
【0035】
水は、特に限定されず、例えば蒸留水、水道水、工業用水およびこれらの混合水等のいずれも用いることができる。水には、本発明の効果が得られる限り、他の物質、例えば無機塩(例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等)、酸(例えば塩化水素、酢酸、炭酸、過酸化水素、リン酸等)、アルカリ(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム等)等を含んでいてもよい。洗浄の際のpHは通常2〜9であり、好ましくは5〜7である。
【0036】
水の使用量は、総量として、原料である脱脂後の植物種子に対して、通常2〜100倍量(水容量/脱脂後の植物種子重量、以下同様)、好ましくは10〜40倍量である。
【0037】
洗浄は、自体公知の方法で、原料である脱脂後の植物種子と水とを接触させて行うことができる。例えば、脱脂後の植物種子を水に懸濁後、濾過して固形の洗浄処理物を回収する方法等が挙げられる。洗浄は、上記の量の水を、脱脂後の植物種子に一度にまたは複数回に分けて、または連続的に接触させて行ってもよい。接触させる際の温度は通常5〜45℃、好ましくは25〜35℃である。接触させる時間は通常10〜240分であり、好ましくは15〜60分である。
【0038】
上記のようにして得られた脱脂後の植物種子等の洗浄処理物から有機溶媒で抽出して植物種子等の抽出物を得ることができる。
【0039】
有機溶媒として、例えば、低級アルコール、アセトン、アセトニトリルおよびそれらの混合溶媒等が挙げられるが、それらに限定されない。有機溶媒は、水を含んでいてもよく、無水物であってもよい。有機溶媒の濃度は、通常20〜95重量%、好ましくは50〜90重量%である。有機溶媒は抽出後の抽出物の濃縮、乾燥および食品製造の点からは低級アルコールが好ましい。低級アルコールとして、例えば炭素数1〜4のアルコールが挙げられ、具体的には例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられるが、これらに限定されない。低級アルコールは、食品製造の点からは、エタノールが好ましい。エタノールは、エタノール分を50重量%以上含む含水エタノールあるいは無水エタノールが好ましい。
【0040】
有機溶媒の使用量は、原料である脱脂後の植物種子の通常2〜40倍量(有機溶媒容量/脱脂後の植物種子重量、以下同様)、好ましくは2〜10倍量である。抽出温度は通常20〜75℃、好ましくは50〜70℃である。抽出時間は通常10〜240分、好ましくは60〜120分である。
【0041】
なお、植物組織からの抽出において、水洗浄は省略することも可能である。
【0042】
また植物種子等の植物組織は、未脱脂のまま例えばローラーなどで粉砕または圧扁した後に、上述の有機溶媒などで抽出することによって抽出物を得ることもできる。
【0043】
抽出後、懸濁液より濾過等により固形分を分離して得られた抽出液は、そのまま、または必要により濃縮、乾燥して本発明の植物種子抽出物として用いることができる。濃縮、乾燥は抽出液そのままを濃縮、乾燥してもよく、賦形剤(例えば乳糖、ショ糖、デンプン、シクロデキストリン等)を添加して実施してもよい。上記の溶媒で抽出された抽出物は、その純度で、本発明に供してもよいが、更に自体公知の方法により精製しても良い。
【0044】
更に純度を上げるための一例を記載するが、これに限定されない。上述の溶媒抽出物の有機溶媒を減圧留去し、水を加え、抽出物を水に懸濁し、水相を非極性溶媒、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等で、好ましくはn−ヘキサンで洗浄し、洗浄後の水層を、二層に分かれて目的の組成物を抽出できる溶媒、例えば、酢酸エステルやn−ブタノールなど、好ましくは、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル等で抽出する。次いで、抽出液を飽和食塩水等で洗浄し、有機層を得る。酢酸エステルで抽出した場合、該有機層を、例えば、無水硫酸マグネシウム等で、脱水し、次いで減圧濃縮して、固形物(組成物)を得る。以上のどの段階で、精製を止めても良いし、いずれかの工程を省いても良いし、改変を加えても良いし、更に精製を進めても良い。上記溶媒の種類を変えることも含めて多段抽出法や向流分配法なども用いることができる。
【0045】
本発明におけるセロトニン誘導体は、ヒトを含む動物(ヒト、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ等の哺乳類、ニワトリ等の鳥類等)に血行動態改善用の医薬、食品の有効成分として用いることができる。
【0046】
更に、本発明におけるセロトニン誘導体を血行動態改善剤として、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン、シクロデキストリン等)、場合によっては、香料、矯味剤、色素、調味料、安定剤、防腐剤等と共に、錠剤、丸剤、顆粒、細粒、粉末、ペレット、カプセル、溶液、乳液、懸濁液、シロップ、およびトローチ等に製剤化して、食品(食品組成物)や医薬製剤(医薬組成物)として用いることができる。
【0047】
本発明の「食品」は、食品全般を意味するが、いわゆる健康食品を含む一般食品の他、厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品などの保健機能食品をも含むものであり、さらにサプリメント、飼料、食品添加物等も本発明の食品に包含される。
【0048】
本発明の食品を、血行動態改善を期待して摂取する場合、様々な形態で飲食することができるが、1回に摂取する量の目安となるように、1回摂取分を1単位包装とすることが好ましい。1単位包装当たりのセロトニン誘導体の量は、5〜180mgが推奨され、10〜150mgが好ましく、20〜120mgがより好ましい。この場合のセロトニン誘導体の量は、HPLC(カラム:資生堂Capcell Pak ODS UG-120,3μm(φ4.6 x 250mm)、展開溶剤:0.1%トリフルオロ酢酸-20%アセトニトリル水溶液から0.1%トリフルオロ酢酸-40%アセトニトリル水溶液まで25分間のリニアグラジエント、展開溶剤流量:0.8ml/分、検出器:UV(290nm))にて検出され、下記の式で表されるセロトニン誘導体(p−クマロイルセロトニン(CS)およびフェルロイルセロトニン(FS))の総和をいう。
【0049】
【化5】
【0050】
本発明の血行動態改善剤は、医薬または食品として使用されるものである。
【0051】
本発明の食品は、血行動態改善を目的として摂取する場合、血行動態改善のために用いるものであるという表示を付した形態で提供することができる。
【0052】
また、本発明の食品は、血行動態改善用途への使用に関する説明を記載した記載物を含む商業的パッケージとしても提供することができる。
【0053】
食品としては、例えば、ドレッシング、マヨネーズ等の一般食品(いわゆる健康食品を含む)にセロトニン誘導体を含有させて用いることもできる。更に、セロトニン誘導体を、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン等)、場合によっては、香料、色素等と共に、錠剤、丸剤、顆粒、細粒、粉末、ペレット、カプセル、溶液、乳液、懸濁液、シロップまたはトローチ等に製剤化して、特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品、サプリメント、医薬製剤(医薬組成物)(主に経口用)として用いることができる。また、セロトニン誘導体は、飼料にも適用することができ、家禽や家畜等には、通常の飼料に添加して摂取または投与することができる。
【0054】
特に、医薬として使用する場合、医薬として許容できる担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。医薬として許容できる担体としては、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エステル等)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
本発明の血行動態改善剤の摂取または投与方法は、投与対象の年齢、体重、健康状態によって異なるが、例えば、健康の維持・増進や疾病の予防を目的とする場合は、通常、食品の形態にして経口的に服用し、一方、疾病の治療や健康回復を目的とする場合には、通常、医薬品、または食品の形態にして、経口的、または注射、外用剤などにより投与する。
【0056】
セロトニン誘導体を経口的に摂取する場合、p−クマロイルセロトニン(CS)およびフェルロイルセロトニン(FS)の総和として、1日の摂取量としては20〜180mgが推奨され、50〜150mgが好ましく、80〜120mgがより好ましい。通常、1日1回から数回に分けて摂取、または服用することが好ましい。1回の摂取量としては10〜180mgが推奨され、25〜150mgが好ましく、40〜120mgがより好ましい。また1回に摂取する量を1単位包装とした場合は、1単位包装あたり5〜180mgが推奨され、10〜150mgが好ましく、20〜120mgがより好ましい。さらに錠剤、カプセル、スティック包装などの形態をとり、1回あたり1〜10個摂取できる場合、1剤形または1単位包装あたりの量は2.5〜180mgが推奨され、5〜150mgが好ましく、10〜120mgがより好ましい。
【0057】
また、例えば紅花種子の有機溶媒抽出物を摂取する場合、1日の摂取量としては200〜1500mgが推奨され、450〜1250mgが好ましく、700〜1000mgがより好ましい。通常、1日1回から数回に分けて摂取、または服用することが好ましい。1回の摂取量としては100〜1500mgが推奨され、250〜1250mgが好ましく、400〜1000mgがより好ましい。また1回に摂取する量を1単位包装とした場合は、1単位包装あたり50〜1500mgが推奨され、100〜1250mgが好ましく、200〜1000mgがより好ましい。さらに錠剤、カプセル、スティック包装などの形態をとり、1回あたり1〜10個摂取できる場合、1剤形または1単位包装あたり25〜1500mgが推奨され、50〜1250mgが好ましく、100〜1000mgがより好ましい。
【0058】
セロトニン誘導体は、様々な植物の種子や塊茎などに含まれており、とりわけ紅花種子に多く含まれている。韓国では古来、紅花種子は骨折治癒促進、骨粗鬆症予防などの用途で、民間で用いられており、安全性は高いと考えられる。以下に記載する実施例4の結果も、本発明の組成物の毒性が低く、副作用がほとんど認められないことを裏付けている。
本発明の血行動態改善剤により得られる効果としては、加速度脈波加齢指数、あるいはPWVの暦年代別基準値から求められる血管年齢の改善、心疾患(心室肥大、心筋梗塞、狭心症、心不全など)の予防、高血圧症の改善、血行不良に伴う肩こりなどの筋硬直の緩和、冷え性の改善などが挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に例示するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1(セロトニン誘導体を含むベニバナ種子抽出物の調製)
ベニバナ種子抽出物の調製を以下に記載した方法で実施した。脱脂紅花種子100kgを2kLの水にて30℃、30分間攪拌洗浄後固液分離を行い、得られた固形分に60vol%エチルアルコール−水を1.5kL加え、60℃に昇温後同温にて60分間攪拌抽出した。同操作を3経路同時に実施して得た固液分離後の抽出液を合一し、ろ過助剤(KCフロック)を用いて圧搾濾過後、ろ過液中の固形分量と等量のγ-シクロデキストリン(CAVAMAX W8 FOOD、(株)シクロケム社製)の水溶液を加え、減圧下50〜60℃にて濃縮した。得られた濃縮液を88℃、1時間加熱殺菌および、60℃、15時間の乾燥後、粉砕、篩分け(60メッシュ篩)し、ベニバナ種子抽出物粉末6kgを得た。一般成分分析結果は表1のとおりであった。
【0061】
【表1】
【0062】
このベニバナ種子抽出物中の総ポリフェノール含量をFolin-Ciocalteau法で測定したところ、143mg/g抽出物(p−クマロイルセロトニン当量)であった。HPLCで分析したところ、総セロトニン誘導体含量は138mg/g抽出物(13.8%(w/w))であった。結果を表2に示す。このことから、セロトニン誘導体は本ベニバナ種子抽出物中に含まれるフェノール類の主要成分であると考えられた。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例2(セロトニン誘導体の合成)
p−クマロイルセロトニン(CS)、およびフェルロイルセロトニン(FS)を以下の方法で合成した。
【0065】
CS:セロトニン塩酸塩をジメチルホルムアミド(5mL/g vs.セロトニン塩酸塩、以下同様)、ジクロロメタン(20mL/g)で溶解後、trans−4−クマル酸(1.0モル/モル)、1−1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt)、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−エチル−カルボジイミド ヒドロクロリド(EDC)、およびトリエチルアミンを各1.1等量加え,室温で終夜攪拌し反応させた。反応液を減圧濃縮後、酢酸エチルと水(各40mL/gセロトニン量)を加え、酢酸エチル抽出を行った。3回の酢酸エチル抽出により得た抽出相を5%クエン酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、および飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムで脱水した。乾燥剤を除去した抽出液を減圧濃縮し、酢酸エチル−エタノール(10:0.6)にて晶析後、得られた結晶を酢酸エチルで洗浄、乾燥しCSを得た(収率=69.8%)。
【0066】
FS:セロトニン塩酸塩とtrans−4−フェルラ酸より上記CSと同様の方法で合成したが、晶析はメタノール−クロロホルム(1:15)にて行った(収率=69.2%)。
【0067】
実施例3(コレステロール負荷KHCウサギの血圧・脈波改善効果)
3ヶ月齢の雄性Kurosawa and Kusanagi-Hypercholesterolemic (KHC)ウサギ(遺伝的高脂血症・動脈硬化モデル)に対し、0.5%コレステロール含有飼料に実施例1で調製したベニバナ種子抽出物を4%添加した試験食を1日100g制限給餌した(ベニバナ種子抽出物摂取量として約1.3g/kg)。4週間(各群n=6)または8週間(各群n=3)の飼育後、耳介動脈より採血を行い、血中コレステロール等の血液生化学分析を行った。脈波計測はKatsudaらの方法(Katsuda, et.al.., Am. J. Hypertens., 17: 181, 2004)に従って実施した。すなわち、ペントバルビタール麻酔下で、2本のカテーテル型圧トランスデューサーをそれぞれ左総頚動脈から上行大動脈(AA)へ、また左大腿動脈より大動脈弓遠位端まで挿入した。手術後1時間以上経過して血圧レベルがほぼ安定したことを確認した後、総腸骨動脈より挿入したカテーテルトランスデューサーの先端を大動脈弓遠位端(Position 0; P.0)より80mmずつに総腸骨動脈分岐部付近まで移動させながら、胸部大動脈近位部(Position 1; P.1)、同中央部(Position 2; P.2)、同遠位部(Position 3;P.3)、腹部大動脈近位部(Position 4; P.4)、同中央部(Position 5; P.5)、同遠位部(Position 6; P.6)における圧脈波をそれぞれ上行大動脈圧脈波と同時に約60秒間ずつアナログ−デジタル(A/D)変換器を介してコンピューターに記録した。このように記録した圧脈波のうち、各部位において安定した30秒間の記録から連続する50心拍周期において原波形の2次微分波をコンピューター上で算出し、このピークの時点を圧脈波の立ち上がり点とした。局所脈波速度(LPWV)は、隣接する各2点で記録した圧脈波の立ち上がり点の時間差(ΔT)と隣接する各2点間の距離(ΔD)からΔD/ΔTとして算出した。AAとP.0またはP.1の距離は、左大腿動脈カテーテル挿入部と上行大動脈に留置したカテーテルトランスデューサー圧センサー部との距離(ΔDtotal)をin situにて正確に測定し、AA-P.0間についてはΔDtotal-320mm、AA-P.1間についてはΔDtotal-280mmとした。大動脈全体における脈波速度(aortic PWV)は、AAからP.6に至る速度として求めた。
【0068】
オーグメンテーションインデックス (AIx)は以下の方法で求めた。コンピューターに記録した圧脈波の原波形から4次微分波を求め、これが一心拍周期内で上方から下方へ2回目に基線と交わる時点を収縮期前方成分のピーク(P1)とし、収縮期後方成分の振幅、即ち脈圧をP2とした。AIxはP2/ P1として、さらに、(P2−P1)/P2×100 (%)として求めた。
【0069】
血圧測定終了後ウサギを安楽死させ、大動脈を起始部から総腸骨動脈分岐部まで摘出し、長軸方向にカットして露出させた内膜面のプラーク面積を、画像解析装置を用いて計測した。
【0070】
血液生化学:4週間の投与試験において、血中総コレステロールについては対照群(0.5%コレステロール飼料)との差は認められなかった。その他の脂質(HDL-コレステロール、トリグリセリド、リン脂質、過酸化脂質(LPO))、および血糖、肝機能指標(GOT、GPT、総タンパク、アルブミン)、腎機能指標(尿素窒素、クレアチニン)、電解質(Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl-)、血圧関連ホルモン(レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系、レニン−アンギオテンシン変換酵素活性、アンギオテンシンI濃度、アンギオテンシンII濃度)についても、ベニバナ種子抽出物投与による大きな変化は認められなかった。
【0071】
血圧・脈波に対する作用:大動脈における局所脈波速度(LPWV)を比較したところ、P.1-P.2とP.4-P.5でベニバナ種子抽出物投与群の方が対照群より有意に低下していた(図1)。さらに、起始部(AA)から総腸骨動脈分岐部(P.6)までの大動脈全体の脈波速度(aortic PWV)も投与群で有意に低下していた(図2)。AIxも対照群に比べ有意な低下が認められた(図3)。拡張期血圧は投与群で幾分下降傾向ではあったが有意差はなかった。一方、収縮期血圧と脈圧は投与群で有意に低下した(図4)。
【0072】
アテローム性動脈硬化病変形成に対する作用:各脈波測定点AA、P.0、P.1、P.2、P.3、P.4、P.5、P.6で区切った領域毎に病変面積率を算出した。個々の領域では、AA-P.0で投与群の方が病変面積率は有意に低下していたが、その他の領域では、P.4-P.5を除いて低下傾向、あるいは変化がなかった。LPWVが有意に低下していたP.1-P.2、およびP.4-P.5では病変面積率の低下は認められなかった。大動脈全体における病変面積率は投与群で低下傾向ではあったが、有意な差ではなかった。
【0073】
8週間投与試験では例数が少ないため、統計学上の有意差は得られなかったが、PWV, AIxいずれも4週間投与試験と同様の結果を示した。
【0074】
これらの結果から、セロトニン誘導体を主要フェノール成分とするベニバナ種子抽出物は、血中脂質をはじめとする血液生化学には大きな影響を与えず、脈波伝播速度(LPWV、aortic PWV)、AIx、血圧などの血行動態指標を改善することが明らかとなった。LPWVと動脈硬化病変面積率との間には相関が認められなかったこと、動物が比較的若齢であることに加えてコレステロール負荷期間が4週間と短く、この間に繊維化や石灰化などといった器質的な硬化が成立するとは考え難い(Katsuda, et.al., Physiol. Meas., 25: 505, 2004)ことから、ベニバナ種子抽出物は主に血管機能を改善することにより総血管抵抗を下げて、血行動態を改善したものと考えられた。
【0075】
実施例4(ベニバナ種子抽出物の安全性試験)
実施例1で調製したベニバナ種子抽出物に関して、ラットに対する4週間反復経口投与毒性試験を行った。
【0076】
試験動物:Crj:CD(SD)IGS雄性および雌性ラット(投与開始時週齢=6週齢、6匹/群)
投与:実施例1で調製したベニバナ種子抽出物を0、2.5、5、および10%(w/w)の濃度で飼料に添加し、自由摂取させた。賦形剤として含まれるγ-シクロデキストリン(γCD)の影響を確認するために、γCDを5%(w/w)の濃度で添加した賦形剤対照群を設定した。
【0077】
観察・検査・測定:一般状態の観察、体重測定、摂餌量測定、尿検査、血液学検査、血液生化学検査、剖検、器官重量測定、病理組織検査を実施した。
結果を表3に示した。
【0078】
【表3】
【0079】
本試験における用量は、摂餌量より換算すると、約2g/kg/day(2.5%群)〜約8g/kg/day(10%群)という高用量であったが、いずれの投与群においても死亡例は皆無であった。血液生化学的検査、組織検査、器官重量に関しても、大きな毒性的変化は認められなかったことから、本発明における血行動態改善剤は十分に安全であることが示された。
【0080】
実施例5(ヒトにおける脈波改善効果)
(試験食の調製)
実施例1で調製したベニバナ種子抽出物をハードカプセル充填機(ウルトラエイト、カプスゲル・ジャパン(株)社製)にてハードカプセルに充填した(1カプセルあたり210mgのベニバナ種子抽出物、セロトニン誘導体として約29mgを含む)。
【0081】
(脈波改善効果の検討)
90名のボランティア男性の加速度脈波および脈波伝播速度(baPWV)の検査を事前に行い、その中から血管年齢が高く、かつ血圧、血中コレステロール、血糖に対し薬物治療を行っていない20名を試験対象として選定した(年齢:30歳〜55歳(37.3±6.8歳))。試験食(ベニバナ種子抽出物2.1g(セロトニン誘導体として約290mg))は1日2回(朝・夕、食後30分以内)に分けて4週間毎日摂取させ、摂取開始直前、および摂取終了時に血圧およびbaPWVの計測ならびに採血を行った。なお、試験期間中は血圧、脂質等に影響を及ぼす薬剤、サプリメントの摂取を控えるよう指示を行った。血圧およびbaPWVの測定は血圧脈波検査装置(form PWV/ABI、コーリンメディカルテクノロジー(株))を用いた。試験食摂取前のボランティアの収縮期血圧は左上腕部で125.9±14.0mmHg、右上腕部で128.8±14.5mmHg、baPWVは左上腕-左足首間で1318.6±120.5cm/s、右上腕−右足首間で1317.9±124.3cm/sであった(平均値±標準偏差)。採血は座位安静状態で肘正中皮静脈より行い、血中コレステロールなどの一般生化学分析を行った。なお、摂取前、摂取後の検査当日は朝食を摂らせずに空腹時下で採血および検査を行った。
【0082】
試験食の摂取期間中において、試験食によって起因したと思われる症状の訴えは認められなかった。血液生化学パラメータ(血中脂質(総コレステロール、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、トリグリセリド)、および血糖、肝機能指標(GOT、GPT、LDH、γ-GTP総タンパク、アルブミン)、腎機能指標(尿素窒素、クレアチニン)、電解質(Na+、K+、Ca2+))についても、摂取前後で異常な変化は認められなかった。
【0083】
また、左右上腕部の平均収縮期血圧が、事前検査、および試験食摂取開始直前の検査値で平均して130mmHg以上を示した被験者6名(142.5±13.4mmHg)の解析を行ったところ、左上腕-左足首間でのbaPWVが試験食摂取前(1373.0±52.5cm/s)から試験食摂取後(1311.8±69.2cm/s)に有意な低下を示した(図5)。
【0084】
これらの結果からベニバナ種子抽出物は安全に摂取することが可能なこと、また、特に血圧が高めのヒトにおいてbaPWVの低下、すなわち血管年齢の改善を示したものと考えられた。
【0085】
実施例6(コレステロール負荷KHCウサギの血圧・脈波改善効果)
2-3ヶ月齢の雄性Kurosawa and Kusanagi-Hypercholesterolemic (KHC)ウサギ(遺伝的高脂血症・動脈硬化モデル)に対し、0.5%コレステロール含有飼料に実施例1で調製したベニバナ種子抽出物を4%、または実施例2の方法で合成したセロトニン誘導体を0.55%(p−クマロイルセロトニン(CS)0.32%、フェルロイルセロトニン(FS)0.23%)添加した試験食を1日100g制限給餌した(対照群 n=5、ベニバナ種子抽出物投与群 n=5、セロトニン誘導体投与群 n=6)。8週間の飼育後、耳介動脈より採血、血中コレステロール等の血液生化学分析を行い、実施例3と同様の方法にて脈波速度、AIx、血圧の計測ならびに病変面積の解析を実施した。AIx、血圧以外の脈波速度、病変面積、血液生化学指標などは全て実施例3の8週間飼育試験のデータを追加して解析を実施した。
【0086】
血液生化学:8週間の投与試験において、血中総コレステロールについては対照群(0.5%コレステロール飼料)との差は認められなかった。その他の脂質(HDL-コレステロール、トリグリセリド、リン脂質、過酸化脂質(LPO))、および血糖、肝機能指標(GOT、GPT、総タンパク、アルブミン)、腎機能指標(尿素窒素、クレアチニン)、電解質(Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl-)、血圧関連ホルモン(レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系、レニン−アンギオテンシン変換酵素活性、アンギオテンシンI濃度、アンギオテンシンII濃度)についても、ベニバナ種子抽出物投与およびセロトニン誘導体投与による大きな変化は認められなかった。
【0087】
血圧・脈波に対する作用:大動脈における局所脈波速度(LPWV)を比較したところ、P.2-P.3とP.5-P.6でベニバナ種子抽出物投与群の方が、P.1-P.2、P.2-P.3とP.5-P.6でセロトニン誘導体投与群の方が、それぞれ対照群より有意に低下していた(図6)。さらに、上行大動脈(AA)から腹部大動脈遠位部(P.6)までの大動脈全体の脈波速度(aortic PWV)も投与群で各々有意に低下していた(図7)。AIxは対照群に比べて統計的には有意ではないものの、各投与群で低下する傾向が認められた(図8)。また収縮期血圧、拡張期血圧も各投与群で下降傾向を示した。
【0088】
アテローム性動脈硬化病変形成に対する作用:各脈波測定点AA、P.1、P.2、P.3、P.4、P.5、P.6で区切った領域毎に病変面積率を算出した。ベニバナ種子抽出物投与群でP.1-P.2、P.2-P.3で有意な病変面積率の低下を示したが、それ以外ではベニバナ種子抽出物投与群、セロトニン誘導体投与群において、低下の傾向は示したものの有意差はなかった。(図9)。一方、大動脈全体における病変面積率において、ベニバナ種子抽出物投与群で有意な低下を示したが、セロトニン誘導体投与群では低下の傾向を示したものの有意な差ではなかった(図10)。
【0089】
これらの結果から、セロトニン誘導体、ならびにこれを主要フェノール成分とするベニバナ種子抽出物は、血中脂質をはじめとする血液生化学には大きな影響を与えず、脈波伝播速度(LPWV、aortic PWV)、AIx、血圧などの血行動態指標を改善することが明らかとなった。図11に示すようにLPWVと動脈硬化病変面積率との間には相関が認められなかったこと、動物が比較的若齢であることに加えてコレステロール負荷期間が8週間と短く、この間に繊維化や石灰化などといった器質的な硬化が成立するとは考え難い(Katsuda, et.al., Physiol. Meas., 25: 505, 2004)ことから、セロトニン誘導体およびベニバナ種子抽出物は主に血管機能を改善することにより総血管抵抗を下げて、血行動態を改善したものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により提供される血行動態改善剤は、加齢や循環器系疾患に伴う血行動態の悪化を効果的に予防、改善し、健康の保持、増進に役立つ。安全性も高く、医薬としての利用も可能であり、また、食品としても有用であり、産業上極めて有用である。
【0091】
本出願は、日本で出願された特願2005−267286(出願日:2005年9月14日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セロトニン誘導体を有効成分として含有する血行動態改善剤。
【請求項2】
前記の血行動態改善が、血管年齢の改善、血圧の改善および脈圧の改善からなる群より選ばれるものである、請求項1記載の血行動態改善剤。
【請求項3】
血管年齢の改善が、脈波伝播速度(PWV)の改善、オーグメンテーションインデックス(AIx)の改善、加速度脈波波形の改善および加速度脈波加齢指数の改善からなる群より選ばれるものである、請求項2記載の血行動態改善剤。
【請求項4】
セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【化1】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、請求項1〜3のいずれかに記載の血行動態改善剤。
【請求項5】
前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4記載の血行動態改善剤。
【請求項6】
ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5記載の血行動態改善剤。
【請求項7】
前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、請求項1〜6のいずれかに記載の血行動態改善剤。
【請求項8】
前記の植物組織が紅花の種子である、請求項7に記載の血行動態改善剤。
【請求項9】
前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、請求項1〜8のいずれかに記載の血行動態改善剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の血行動態改善剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における血行動態を改善する方法。
【請求項11】
血行動態改善剤の製造のための、セロトニン誘導体の使用。
【請求項12】
セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【化2】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項12記載の使用。
【請求項14】
ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、請求項11〜14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
前記の植物組織が紅花の種子である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、請求項11〜16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれかに記載の血行動態改善剤を含有する医薬組成物。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれかに記載の血行動態改善剤を含有する食品。
【請求項1】
セロトニン誘導体を有効成分として含有する血行動態改善剤。
【請求項2】
前記の血行動態改善が、血管年齢の改善、血圧の改善および脈圧の改善からなる群より選ばれるものである、請求項1記載の血行動態改善剤。
【請求項3】
血管年齢の改善が、脈波伝播速度(PWV)の改善、オーグメンテーションインデックス(AIx)の改善、加速度脈波波形の改善および加速度脈波加齢指数の改善からなる群より選ばれるものである、請求項2記載の血行動態改善剤。
【請求項4】
セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【化1】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、請求項1〜3のいずれかに記載の血行動態改善剤。
【請求項5】
前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4記載の血行動態改善剤。
【請求項6】
ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5記載の血行動態改善剤。
【請求項7】
前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、請求項1〜6のいずれかに記載の血行動態改善剤。
【請求項8】
前記の植物組織が紅花の種子である、請求項7に記載の血行動態改善剤。
【請求項9】
前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、請求項1〜8のいずれかに記載の血行動態改善剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の血行動態改善剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における血行動態を改善する方法。
【請求項11】
血行動態改善剤の製造のための、セロトニン誘導体の使用。
【請求項12】
セロトニン誘導体が、下記の一般式(I)
【化2】
(式中、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、n、m、およびlは0または1を表す)で表される化合物またはその配糖体である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
前記のセロトニン誘導体がヒドロキシ桂皮酸のセロトニンアミドおよびそれらの配糖体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項12記載の使用。
【請求項14】
ヒドロキシ桂皮酸がp−クマル酸、フェルラ酸およびカフェ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
前記のセロトニン誘導体が植物組織からの抽出物中に含まれる態様で存在するものである、請求項11〜14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
前記の植物組織が紅花の種子である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記のセロトニン誘導体が搾油前または搾油後の紅花種子から有機溶媒抽出したものに含まれるものである、請求項11〜16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれかに記載の血行動態改善剤を含有する医薬組成物。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれかに記載の血行動態改善剤を含有する食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図11】
【図7】
【図8】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図11】
【図7】
【図8】
【図10】
【公開番号】特開2013−28642(P2013−28642A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232702(P2012−232702)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2007−535584(P2007−535584)の分割
【原出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2007−535584(P2007−535584)の分割
【原出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
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