変圧器
【課題】 変圧器の電源投入時の電圧低下による系統への影響が一定レベル以下で、かつ低損失でロス評価を高めた変圧器を実現する。
【解決手段】 電圧低下率を指定値に制限しつつ、励磁突入電流の定格電流に対する倍率があらかじめ定めた値未満であって短絡インピーダンスは変圧器の電圧階級により定まる標準範囲の値または既設の変圧器と同一レベルの値としかつ損失の小さな変圧器を設計する。この変圧器の定格磁束密度の目安は1.2テスラ未満である。
【解決手段】 電圧低下率を指定値に制限しつつ、励磁突入電流の定格電流に対する倍率があらかじめ定めた値未満であって短絡インピーダンスは変圧器の電圧階級により定まる標準範囲の値または既設の変圧器と同一レベルの値としかつ損失の小さな変圧器を設計する。この変圧器の定格磁束密度の目安は1.2テスラ未満である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電用・配電用変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来送電用・配電用の変圧器については、非特許文献1に示すJEC規格や、6kV級変圧器では非特許文献2、3に示すJIS規格に基づく変圧器が設計生産されている。標準定格容量、標準定格電圧などは非特許文献1に定めがあるが、短絡インピーダンスについては、引用文献4に定めがある。
変圧器の損失についてはJIS規格ではトップランナー方式が採用され、低損失指向がなされているが、JEC規格では変圧器損失については規定していない。
【0003】
一方、変圧器の励磁突入電流に関しては、電力系統や他の需要家設備などに対する電力品質面での影響を緩和する観点からの規定はない現状にある。さらにいずれの変圧器においても、省スペース化の要望に応じたコンパクト化を指向して生産されている場合も多数有り、励磁突入電流が増大しうる懸念要因となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】電気規格調査会標準規格 JEC2200−1995 変圧器
【非特許文献2】日本工業規格 JISC4304−2005 配電用6kV油入変圧器
【非特許文献3】日本工業規格 JISC4306−2005 配電用6kVモールド変圧器
【非特許文献4】電気協同研究第35巻4号 配電用負荷時タップ切換変圧器の標準化 6頁
【非特許文献5】電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン 平成16年10月 資源エネルギー庁 6頁〜12頁
【非特許文献6】電気学会 電気工学ハンドブック 第6版 2001年 705頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のとおり現在のJEC規格やJIS規格の特性に合わせた変圧器においては、変圧器を電源系統に投入する際(充電時)に生じる励磁突入電流についての規定値の定めはない。
変圧器投入時には変圧器鉄心に残留する磁束密度によって、また投入時の電圧位相によっては、変圧器の鉄心が磁気的に飽和して大きな励磁突入電流が生じ、変圧器の一次側に繋がる電源系統に急激な電圧低下を生じる。これにより、その系統に接続されている他の変圧器の二次側にも電圧低下を生じ、変圧器二次側に繋がる機器、例えば精密機器の動作に悪影響を及ぼすことがある。
この場合は、単に励磁突入電流の大きさだけが原因になっているのではなく、電源系統に生じる電圧低下率(最大電圧低下分)の程度が問題になっている。
【0006】
電圧低下率の程度については、例えば非特許文献5では技術的指標として、電圧変動の瞬時電圧変動対策の項目では発電設備等の並解列時においては瞬時的に発生する電圧変動に対しても、常時電圧の±2%を目安に電圧変動を抑制することや、並列時の瞬時電圧低下により系統の電圧が常時電圧から10%を超えて逸脱するおそれのあるときは限流リアクトル等の設置が提示されている。これは、言い換えればこの値を変圧器の特性を変更することで目安値をクリヤしても良いことを示している。
【0007】
また、配電用6kV級変圧器においては、保守時の問題点として変圧器を保護する保護ヒューズが電源投入時の瞬時の大きな励磁突入電流でまれに溶断することや、保護継電器がトリップすることがまれに生じ、保護ヒューズの交換や定格変更、保護継電器の仕様変更を検討することがあった。
励磁突入電流の大きさは非特許文献6に励磁突入電流(最大値)の概略値として示されている。図1はこれを示すが、励磁突入電流の最大波高値は変圧器定格電流実効値の数倍から数十倍にも及ぶ値であり、この値を例えば50%に低減すると、保護継電器、保護ヒューズの仕様が定格区分段階が変更になり得ることがわかる。
【0008】
これらの事情を解決するには、電圧低下率が送電用変圧器では2%以下、配電用変圧器では10%以下となる特性の変圧器の実現が課題の解決の直接的な手段と考えられる。
そしてこの値を満たすような変圧器励磁突入電流の値が必要となるが、系統自体の線路インピーダンスも電圧低下率の計算要素に含まれるので、励磁突入電流そのものの制限値としては定まらない。
【0009】
さらに、変圧器の損失を従来のものから低減して、運転費用の低減を図りつつ、地球環境に配慮できる省エネルギーを指向した変圧器も時代の省エネルギーニーズから必要とされている。所定の損失として、従来の変圧器の損失や、一次電圧6.6kV級変圧器の場合はJIS規格で定められている効率から求まる損失を所定の損失とするなら、損失値を所定の損失未満とすることで、省エネの効果が発生する。
【0010】
また、適用ケースとして変圧器のリプレイスを想定するなら、変圧器一次側の保護装置の変更を不要とすることが望ましい。このためには変圧器の短絡電流レベルを同じとするため変圧器の短絡インピーダンスを従来と同レベルにすることが望まれる。新設の場合も、変圧器の短絡インピーダンスを標準値とあわせれば、一次側の保護装置についても標準的な仕様のものを選定できて安価に配電設備を準備することができる。
【0011】
このように、現在、変圧器の特性に望まれるニーズがいろいろ複雑化している状況にあるが、これら多くの課題、即ち、(1)電圧低下率を所定値未満にする。(2)励磁突入電流を所定値未満にする。(3)損失を所定値未満にする。(4)短絡インピーダンスを所定値にあわせる。等これらの課題を、一括して全て解決する性能をもった変圧器は実現されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決するために、本発明では変圧器の短絡インピーダンスを従来値レベルとして変圧器短絡電流を従来レベルとした上に、励磁突入電流を抑え、系統の電圧低下を所定値以下に抑え、ヒューズや保護継電器に対する不要動作なく、発生損失も低減した省エネルギー型変圧器を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明による変圧器では、変圧器投入操作時に電力系統や他の需要家設備に対する影響緩和が期待でき、電力系統における擾乱の少ない、良好な電力品質が得られる。また保護ヒューズや保護継電器の不要動作などを防止できる。また運転時の低損失化により運転費用低減が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の課題実現のアプローチについて以下に説明する。
本発明の変圧器は、いろいろな設計条件を付加した設計によって実現する。
(1)変圧器投入時の電圧低下率を一次電圧66kV級をはじめとする特高系統では2%未満、一次電圧が6.6kVをはじめとする高圧系統では10%未満となるように設計する。
これは、当該変圧器の電圧投入時に一次側系統の電圧変動などによる他の変圧器の二次側に接続される機器に動作異常の発生しない値とされる。
【0015】
この値の実現時には、短絡インピーダンスの値を従来レベルとしているので、設計上の指針とする設計項目と値は、最大励磁突入電流値がおおむね50%以下となることで所定の値未満の電圧低下率となる目安の値であるかを確認することとなる。なお、短絡インピーダンスの標準値としては、非特許文献4に示されている。
【0016】
電圧低下率は、図2の簡易等価回路を考えたとき、変圧器巻線のインピーダンスに変圧器一次側の線路を含んだ上位系統のインピーダンスを加えた値から数1にて算出される値である。
なお、励磁突入電流発生時は、変圧器鉄心は磁気的に飽和しているので、LLで表した変圧器のインダクタンス値は、励磁インダクタンス値Lmから空心インダクタンス値Lairになる。
【数1】
変数の説明
・RB,LB:上位系統のインピーダンス
・r1:一次巻線抵抗
・LC:変圧器の漏れインダクタンス
・LL:変圧器の磁気飽和特性を反映したインダクタンス
(Lm→Lair)
Lm:励磁インダクタンス
Lair:空心インダクタンス
・VS:電源電圧(実効値:Vs_rms)
・Vp:連系点の電圧(実効値:Vp_rms)
・i :通電電流
R=RB+r1,L=LB+LC+LLとおくと、この簡易等価回路の基礎式は
VS=L(di/dt)+Ri で表せる。するとVpは、
di/dt=(VS−Ri)/L から
Vp=VS−LB(di/dt)−RB・i
=(1−LB/L)VS+(LB・R/L−RB)i となる。
ここで、Vpの実効値Vp_rmsから電圧低下率ΔVは
ΔV=(1−Vp_rms/VS_rms)×100% と計算できる。
【0017】
(2)変圧器の短絡インピーダンスは従来レベルとする。
短絡インピーダンスの値によって、変圧器内部又は二次側回路の短絡電流が制限されるがその値は、非特許文献4の標準値や更新前変圧器の値と同レベルとする。これは、従来変圧器に対する系統保護、計測を適用できる、つまり保護継電器や計測器は標準品を用いてその整定値や設定値は変圧器更新後も従前通り適用できるようにするためである。
【0018】
(3)変圧器の損失の低減を図りつつ、励磁突入電流レベルを所定のレベルに抑えるため、鉄心における低定格磁束密度と巻線における高空心インダクタンスの調和を図る。
変圧器の短絡インピーダンスは、短絡電流を決定する特性値である。また、変圧器の励磁突入電流を決定する一つめの特性値は巻線の空心インダクタンスである。
短絡インピーダンスは、抵抗分のインピーダンスが一般的に小さいので、短絡リアクタンスとほぼ等しく、周波数部分を分離すると、短絡インダクタンスの意味となり空心インダクタンスとの式上の違いが明らかになる。
【0019】
両者は、数3と数4の式から求められるが、断面積の部分の考え方が異なる。
【数2】
【数3】
ここで、f:周波数 N:巻数、lm:巻線の平均長
α:一次、二次巻線の間隙
d1、d2:一次及び二次巻線の幅
k:巻線高さの補正係数
h:巻線高さ
【数4】
【数5】
ここで、Qc:鉄心断面積
Bm:定格磁束密度
Br:残留磁束密度
Bs:飽和磁束密度
【0020】
短絡インダクタンスは、短絡電流の制限に関係し、変圧器巻線主絶縁部付近部の漏れ磁束の分布によるので、数3のように巻線間を主とする漏れ磁束通過部分の等価の断面積に比例する。
空心インダクタンスは、励磁突入電流の制限に関係し、数4のように励磁突入電流の流れる側の巻線の等価断面積に比例する。
【0021】
次に、励磁突入電流を決定する二つめの特性値は鉄心の定格磁束密度である。数5のように、これを低減することによって、鉄心が飽和磁束密度に至るまでの余地を大きくすることができる。変圧器投入時に残留磁束が存在する場合にもその極性によっては励磁突入電流を低減することが可能となるが、投入位相を制御することは技術的に難しく、また残留磁束密度低減にも消磁の手間が掛かるためこれらの値を制御しないまま投入が行われることが多い。
【0022】
通常の設計ではBm=1.75テスラ Br=Bm・0.85 Bs=2.02 程度の値である。
これに対し、本発明ではBm=1.2テスラとすると数5の値は 通常設計の2.97から1.40となる。すなわち、Bm=1.2テスラとすることで励磁突入電流値は元の値の50%程度となるので、Bmの所定の値としては1.2テスラ未満を目安とすればよい。
【0023】
短絡インピーダンスの値を従来と同じくすると、新設計でも通常漏れ磁束通過部分の等価の断面積の値は従来設計と同様となるが、励磁突入電流による電圧低下率を制限するためには空心インダクタンスを大きくすることが必要となる。
【0024】
さらに、変圧器損失特性を省エネルギー型にして、環境負荷の低減が期待できる変圧器とすることが近年重要となってきている。このためには負荷の変動に関わらず消費される変圧器の無負荷損(鉄損)の低減が有効であり、これは鉄心の定格磁束密度を低減することで可能となるが、励磁突入電流の制限から定格磁束密度をBm=1.2テスラ未満とすれば、損失低減も実現される。
【0025】
本発明による変圧器は従来の変圧器に比べ、投入時の電圧低下率が許容値以下であり、低損失であるがゆえにランニングコストが小さい有利なメリットを有する。
短絡インピーダンスについては、所定値としては規格値ではなく、従来変圧器値とする場合もありうる。これは、従来変圧器に合わせて選定された保護装置の設定条件を変えない場合である。
【0026】
以上の方針で設計した例を以下の実施例に示す。
対象とする変圧器との特性を比較することができる。
なお、本発明変圧器の設計は、例えば本出願の発明者の一部が発明者となっている特開2011−061171で公開された設計システムを使用することによって概略設計した後、詳細設計を行って確定することが効率的である。また、電圧低下率は設計システムにおいて、ATP(Alternative Transients Program)のシミュレーションで数値計算される。
【0027】
設計例1:一次66kV級配電用変圧器
表1に対象変圧器の仕様を示す。
(表1)対象仕様(油入変圧器)
設計目標は次のとおりである。
・励磁突入電流による影響について、
変圧器受電点での最大電圧低下率は2%未満を目標とする。
・損失(無負荷損,負荷損)について、
〔計算式〕 Pm=Wf+(m/100)2×Wrc
m:負荷率(%)、ここでは50%
設計結果は表2のとおりである。
(表2)設計結果
【0028】
励磁突入電流66kV側の解析結果は、φr:85%のとき図4、図5のとおりである。
励磁突入電流計算値(最大波高値、絶対値)Ipmaxは、実機:647A、試設計:318Aとなった。つまり、試設計を行うことによってIpmax値は実機の49%に低減できた。
【0029】
66kVの系統の短絡容量は1000MVAとした。このときのバックインピーダンスは13.48mHである。
電圧(実効値)の比較66kV側の解析結果は、φr:85%のとき図6、図7のとおりである。
最大電圧低下率△Vmaxは、実機:2.53%(64330V/66000V)、試設計:1.37%(65095V/66000V)となった。つまり、試設計を行うことによって△Vmax値は実機の54%(2%未満)に低減できた。
【0030】
設計例2:一次6.6kV級配電用変圧器
表3に対象変圧器の仕様を示す。
(表3)対象仕様(油入変圧器)
設計目標は次のとおりである。
・励磁突入電流による影響について、
変圧器受電点での最大電圧低下率は10%未満を目標とする。
・損失(無負荷損,負荷損)について、
JISC4304のエネルギー消費効率基準値(Pm)を満足する。
〔計算式〕 Pm=Wf+(m/100)2×Wrc
m:基準負荷率(%)
容量500kVA以下は、40%
容量500kVA以上は、50%
【0031】
設計結果は表4のとおりである。
(表4)設計結果
この特性は、JIS規格の基準値を満足している。
【0032】
励磁突入電流6.6kV側の解析結果は、φr:85%のとき図8、図9のとおりである。
励磁突入電流計算値(最大波高値、絶対値)Ipmaxは、実機:1050A、試設計:464Aとなった。つまり、試設計を行うことによってIpmax値は実機の42%に低減できた。
【0033】
変圧器よりも上位系統の定数は次のとおり。
・配電用変電所より上位側 0.347mH
・配電用変電所主変圧器 1.04mH(10MVA Base,j7.5%)
・高圧配電線 銅150mm2 0.122Ω/km、1.04mH/km
電圧低下率6.6kV側の解析結果は、φr:85%のとき図10、図11のとおりである。
【0034】
最大電圧低下率△Vmaxは、実機:17.9%(5418V/6600V)、試設計:8.3%(6052V/6600V)となった。つまり、試設計を行うことによって△Vmax値は実機の46%(10%未満)に低減できた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】励磁突入電流最大波高値の概略範囲
【図2】簡易等価回路
【図3】磁気飽和特性
【図4】66kV側実機の励磁突入電流計算結果
【図5】66kV側試設計の励磁突入電流計算結果
【図6】66kV側実機の電圧低下率計算結果
【図7】66kV側試設計の電圧低下率計算結果
【図8】6.6kV側実機の励磁突入電流計算結果
【図9】6.6kV側試設計の励磁突入電流計算結果
【図10】6.6kV側実機の電圧低下率計算結果
【図11】6.6kV側試設計の電圧低下率計算結果
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電用・配電用変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来送電用・配電用の変圧器については、非特許文献1に示すJEC規格や、6kV級変圧器では非特許文献2、3に示すJIS規格に基づく変圧器が設計生産されている。標準定格容量、標準定格電圧などは非特許文献1に定めがあるが、短絡インピーダンスについては、引用文献4に定めがある。
変圧器の損失についてはJIS規格ではトップランナー方式が採用され、低損失指向がなされているが、JEC規格では変圧器損失については規定していない。
【0003】
一方、変圧器の励磁突入電流に関しては、電力系統や他の需要家設備などに対する電力品質面での影響を緩和する観点からの規定はない現状にある。さらにいずれの変圧器においても、省スペース化の要望に応じたコンパクト化を指向して生産されている場合も多数有り、励磁突入電流が増大しうる懸念要因となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】電気規格調査会標準規格 JEC2200−1995 変圧器
【非特許文献2】日本工業規格 JISC4304−2005 配電用6kV油入変圧器
【非特許文献3】日本工業規格 JISC4306−2005 配電用6kVモールド変圧器
【非特許文献4】電気協同研究第35巻4号 配電用負荷時タップ切換変圧器の標準化 6頁
【非特許文献5】電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン 平成16年10月 資源エネルギー庁 6頁〜12頁
【非特許文献6】電気学会 電気工学ハンドブック 第6版 2001年 705頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のとおり現在のJEC規格やJIS規格の特性に合わせた変圧器においては、変圧器を電源系統に投入する際(充電時)に生じる励磁突入電流についての規定値の定めはない。
変圧器投入時には変圧器鉄心に残留する磁束密度によって、また投入時の電圧位相によっては、変圧器の鉄心が磁気的に飽和して大きな励磁突入電流が生じ、変圧器の一次側に繋がる電源系統に急激な電圧低下を生じる。これにより、その系統に接続されている他の変圧器の二次側にも電圧低下を生じ、変圧器二次側に繋がる機器、例えば精密機器の動作に悪影響を及ぼすことがある。
この場合は、単に励磁突入電流の大きさだけが原因になっているのではなく、電源系統に生じる電圧低下率(最大電圧低下分)の程度が問題になっている。
【0006】
電圧低下率の程度については、例えば非特許文献5では技術的指標として、電圧変動の瞬時電圧変動対策の項目では発電設備等の並解列時においては瞬時的に発生する電圧変動に対しても、常時電圧の±2%を目安に電圧変動を抑制することや、並列時の瞬時電圧低下により系統の電圧が常時電圧から10%を超えて逸脱するおそれのあるときは限流リアクトル等の設置が提示されている。これは、言い換えればこの値を変圧器の特性を変更することで目安値をクリヤしても良いことを示している。
【0007】
また、配電用6kV級変圧器においては、保守時の問題点として変圧器を保護する保護ヒューズが電源投入時の瞬時の大きな励磁突入電流でまれに溶断することや、保護継電器がトリップすることがまれに生じ、保護ヒューズの交換や定格変更、保護継電器の仕様変更を検討することがあった。
励磁突入電流の大きさは非特許文献6に励磁突入電流(最大値)の概略値として示されている。図1はこれを示すが、励磁突入電流の最大波高値は変圧器定格電流実効値の数倍から数十倍にも及ぶ値であり、この値を例えば50%に低減すると、保護継電器、保護ヒューズの仕様が定格区分段階が変更になり得ることがわかる。
【0008】
これらの事情を解決するには、電圧低下率が送電用変圧器では2%以下、配電用変圧器では10%以下となる特性の変圧器の実現が課題の解決の直接的な手段と考えられる。
そしてこの値を満たすような変圧器励磁突入電流の値が必要となるが、系統自体の線路インピーダンスも電圧低下率の計算要素に含まれるので、励磁突入電流そのものの制限値としては定まらない。
【0009】
さらに、変圧器の損失を従来のものから低減して、運転費用の低減を図りつつ、地球環境に配慮できる省エネルギーを指向した変圧器も時代の省エネルギーニーズから必要とされている。所定の損失として、従来の変圧器の損失や、一次電圧6.6kV級変圧器の場合はJIS規格で定められている効率から求まる損失を所定の損失とするなら、損失値を所定の損失未満とすることで、省エネの効果が発生する。
【0010】
また、適用ケースとして変圧器のリプレイスを想定するなら、変圧器一次側の保護装置の変更を不要とすることが望ましい。このためには変圧器の短絡電流レベルを同じとするため変圧器の短絡インピーダンスを従来と同レベルにすることが望まれる。新設の場合も、変圧器の短絡インピーダンスを標準値とあわせれば、一次側の保護装置についても標準的な仕様のものを選定できて安価に配電設備を準備することができる。
【0011】
このように、現在、変圧器の特性に望まれるニーズがいろいろ複雑化している状況にあるが、これら多くの課題、即ち、(1)電圧低下率を所定値未満にする。(2)励磁突入電流を所定値未満にする。(3)損失を所定値未満にする。(4)短絡インピーダンスを所定値にあわせる。等これらの課題を、一括して全て解決する性能をもった変圧器は実現されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決するために、本発明では変圧器の短絡インピーダンスを従来値レベルとして変圧器短絡電流を従来レベルとした上に、励磁突入電流を抑え、系統の電圧低下を所定値以下に抑え、ヒューズや保護継電器に対する不要動作なく、発生損失も低減した省エネルギー型変圧器を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明による変圧器では、変圧器投入操作時に電力系統や他の需要家設備に対する影響緩和が期待でき、電力系統における擾乱の少ない、良好な電力品質が得られる。また保護ヒューズや保護継電器の不要動作などを防止できる。また運転時の低損失化により運転費用低減が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の課題実現のアプローチについて以下に説明する。
本発明の変圧器は、いろいろな設計条件を付加した設計によって実現する。
(1)変圧器投入時の電圧低下率を一次電圧66kV級をはじめとする特高系統では2%未満、一次電圧が6.6kVをはじめとする高圧系統では10%未満となるように設計する。
これは、当該変圧器の電圧投入時に一次側系統の電圧変動などによる他の変圧器の二次側に接続される機器に動作異常の発生しない値とされる。
【0015】
この値の実現時には、短絡インピーダンスの値を従来レベルとしているので、設計上の指針とする設計項目と値は、最大励磁突入電流値がおおむね50%以下となることで所定の値未満の電圧低下率となる目安の値であるかを確認することとなる。なお、短絡インピーダンスの標準値としては、非特許文献4に示されている。
【0016】
電圧低下率は、図2の簡易等価回路を考えたとき、変圧器巻線のインピーダンスに変圧器一次側の線路を含んだ上位系統のインピーダンスを加えた値から数1にて算出される値である。
なお、励磁突入電流発生時は、変圧器鉄心は磁気的に飽和しているので、LLで表した変圧器のインダクタンス値は、励磁インダクタンス値Lmから空心インダクタンス値Lairになる。
【数1】
変数の説明
・RB,LB:上位系統のインピーダンス
・r1:一次巻線抵抗
・LC:変圧器の漏れインダクタンス
・LL:変圧器の磁気飽和特性を反映したインダクタンス
(Lm→Lair)
Lm:励磁インダクタンス
Lair:空心インダクタンス
・VS:電源電圧(実効値:Vs_rms)
・Vp:連系点の電圧(実効値:Vp_rms)
・i :通電電流
R=RB+r1,L=LB+LC+LLとおくと、この簡易等価回路の基礎式は
VS=L(di/dt)+Ri で表せる。するとVpは、
di/dt=(VS−Ri)/L から
Vp=VS−LB(di/dt)−RB・i
=(1−LB/L)VS+(LB・R/L−RB)i となる。
ここで、Vpの実効値Vp_rmsから電圧低下率ΔVは
ΔV=(1−Vp_rms/VS_rms)×100% と計算できる。
【0017】
(2)変圧器の短絡インピーダンスは従来レベルとする。
短絡インピーダンスの値によって、変圧器内部又は二次側回路の短絡電流が制限されるがその値は、非特許文献4の標準値や更新前変圧器の値と同レベルとする。これは、従来変圧器に対する系統保護、計測を適用できる、つまり保護継電器や計測器は標準品を用いてその整定値や設定値は変圧器更新後も従前通り適用できるようにするためである。
【0018】
(3)変圧器の損失の低減を図りつつ、励磁突入電流レベルを所定のレベルに抑えるため、鉄心における低定格磁束密度と巻線における高空心インダクタンスの調和を図る。
変圧器の短絡インピーダンスは、短絡電流を決定する特性値である。また、変圧器の励磁突入電流を決定する一つめの特性値は巻線の空心インダクタンスである。
短絡インピーダンスは、抵抗分のインピーダンスが一般的に小さいので、短絡リアクタンスとほぼ等しく、周波数部分を分離すると、短絡インダクタンスの意味となり空心インダクタンスとの式上の違いが明らかになる。
【0019】
両者は、数3と数4の式から求められるが、断面積の部分の考え方が異なる。
【数2】
【数3】
ここで、f:周波数 N:巻数、lm:巻線の平均長
α:一次、二次巻線の間隙
d1、d2:一次及び二次巻線の幅
k:巻線高さの補正係数
h:巻線高さ
【数4】
【数5】
ここで、Qc:鉄心断面積
Bm:定格磁束密度
Br:残留磁束密度
Bs:飽和磁束密度
【0020】
短絡インダクタンスは、短絡電流の制限に関係し、変圧器巻線主絶縁部付近部の漏れ磁束の分布によるので、数3のように巻線間を主とする漏れ磁束通過部分の等価の断面積に比例する。
空心インダクタンスは、励磁突入電流の制限に関係し、数4のように励磁突入電流の流れる側の巻線の等価断面積に比例する。
【0021】
次に、励磁突入電流を決定する二つめの特性値は鉄心の定格磁束密度である。数5のように、これを低減することによって、鉄心が飽和磁束密度に至るまでの余地を大きくすることができる。変圧器投入時に残留磁束が存在する場合にもその極性によっては励磁突入電流を低減することが可能となるが、投入位相を制御することは技術的に難しく、また残留磁束密度低減にも消磁の手間が掛かるためこれらの値を制御しないまま投入が行われることが多い。
【0022】
通常の設計ではBm=1.75テスラ Br=Bm・0.85 Bs=2.02 程度の値である。
これに対し、本発明ではBm=1.2テスラとすると数5の値は 通常設計の2.97から1.40となる。すなわち、Bm=1.2テスラとすることで励磁突入電流値は元の値の50%程度となるので、Bmの所定の値としては1.2テスラ未満を目安とすればよい。
【0023】
短絡インピーダンスの値を従来と同じくすると、新設計でも通常漏れ磁束通過部分の等価の断面積の値は従来設計と同様となるが、励磁突入電流による電圧低下率を制限するためには空心インダクタンスを大きくすることが必要となる。
【0024】
さらに、変圧器損失特性を省エネルギー型にして、環境負荷の低減が期待できる変圧器とすることが近年重要となってきている。このためには負荷の変動に関わらず消費される変圧器の無負荷損(鉄損)の低減が有効であり、これは鉄心の定格磁束密度を低減することで可能となるが、励磁突入電流の制限から定格磁束密度をBm=1.2テスラ未満とすれば、損失低減も実現される。
【0025】
本発明による変圧器は従来の変圧器に比べ、投入時の電圧低下率が許容値以下であり、低損失であるがゆえにランニングコストが小さい有利なメリットを有する。
短絡インピーダンスについては、所定値としては規格値ではなく、従来変圧器値とする場合もありうる。これは、従来変圧器に合わせて選定された保護装置の設定条件を変えない場合である。
【0026】
以上の方針で設計した例を以下の実施例に示す。
対象とする変圧器との特性を比較することができる。
なお、本発明変圧器の設計は、例えば本出願の発明者の一部が発明者となっている特開2011−061171で公開された設計システムを使用することによって概略設計した後、詳細設計を行って確定することが効率的である。また、電圧低下率は設計システムにおいて、ATP(Alternative Transients Program)のシミュレーションで数値計算される。
【0027】
設計例1:一次66kV級配電用変圧器
表1に対象変圧器の仕様を示す。
(表1)対象仕様(油入変圧器)
設計目標は次のとおりである。
・励磁突入電流による影響について、
変圧器受電点での最大電圧低下率は2%未満を目標とする。
・損失(無負荷損,負荷損)について、
〔計算式〕 Pm=Wf+(m/100)2×Wrc
m:負荷率(%)、ここでは50%
設計結果は表2のとおりである。
(表2)設計結果
【0028】
励磁突入電流66kV側の解析結果は、φr:85%のとき図4、図5のとおりである。
励磁突入電流計算値(最大波高値、絶対値)Ipmaxは、実機:647A、試設計:318Aとなった。つまり、試設計を行うことによってIpmax値は実機の49%に低減できた。
【0029】
66kVの系統の短絡容量は1000MVAとした。このときのバックインピーダンスは13.48mHである。
電圧(実効値)の比較66kV側の解析結果は、φr:85%のとき図6、図7のとおりである。
最大電圧低下率△Vmaxは、実機:2.53%(64330V/66000V)、試設計:1.37%(65095V/66000V)となった。つまり、試設計を行うことによって△Vmax値は実機の54%(2%未満)に低減できた。
【0030】
設計例2:一次6.6kV級配電用変圧器
表3に対象変圧器の仕様を示す。
(表3)対象仕様(油入変圧器)
設計目標は次のとおりである。
・励磁突入電流による影響について、
変圧器受電点での最大電圧低下率は10%未満を目標とする。
・損失(無負荷損,負荷損)について、
JISC4304のエネルギー消費効率基準値(Pm)を満足する。
〔計算式〕 Pm=Wf+(m/100)2×Wrc
m:基準負荷率(%)
容量500kVA以下は、40%
容量500kVA以上は、50%
【0031】
設計結果は表4のとおりである。
(表4)設計結果
この特性は、JIS規格の基準値を満足している。
【0032】
励磁突入電流6.6kV側の解析結果は、φr:85%のとき図8、図9のとおりである。
励磁突入電流計算値(最大波高値、絶対値)Ipmaxは、実機:1050A、試設計:464Aとなった。つまり、試設計を行うことによってIpmax値は実機の42%に低減できた。
【0033】
変圧器よりも上位系統の定数は次のとおり。
・配電用変電所より上位側 0.347mH
・配電用変電所主変圧器 1.04mH(10MVA Base,j7.5%)
・高圧配電線 銅150mm2 0.122Ω/km、1.04mH/km
電圧低下率6.6kV側の解析結果は、φr:85%のとき図10、図11のとおりである。
【0034】
最大電圧低下率△Vmaxは、実機:17.9%(5418V/6600V)、試設計:8.3%(6052V/6600V)となった。つまり、試設計を行うことによって△Vmax値は実機の46%(10%未満)に低減できた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】励磁突入電流最大波高値の概略範囲
【図2】簡易等価回路
【図3】磁気飽和特性
【図4】66kV側実機の励磁突入電流計算結果
【図5】66kV側試設計の励磁突入電流計算結果
【図6】66kV側実機の電圧低下率計算結果
【図7】66kV側試設計の電圧低下率計算結果
【図8】6.6kV側実機の励磁突入電流計算結果
【図9】6.6kV側試設計の励磁突入電流計算結果
【図10】6.6kV側実機の電圧低下率計算結果
【図11】6.6kV側試設計の電圧低下率計算結果
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短絡インピーダンスが変圧器の電圧階級により定まる標準範囲である変圧器であって、
電圧低下率が一次電圧66kV級をはじめとする特高系統では2%未満、一次電圧が6.6kV級をはじめとする高圧系統では10%未満であり、定格磁束密度が1.2テスラ未満の変圧器。
【請求項2】
既設の変圧器と交換するための変圧器であって、
短絡インピーダンスが前記既設の変圧器の値と同一レベルで、電圧低下率が一次電圧66kV級をはじめとする特高系統では2%未満、一次電圧が6.6kV級をはじめとする高圧系統では10%未満であり、定格磁束密度が1.2テスラ未満の変圧器。
【請求項3】
損失が、前記既設の変圧器の損失以下であることを特徴とする請求項2に記載の変圧器。
【請求項1】
短絡インピーダンスが変圧器の電圧階級により定まる標準範囲である変圧器であって、
電圧低下率が一次電圧66kV級をはじめとする特高系統では2%未満、一次電圧が6.6kV級をはじめとする高圧系統では10%未満であり、定格磁束密度が1.2テスラ未満の変圧器。
【請求項2】
既設の変圧器と交換するための変圧器であって、
短絡インピーダンスが前記既設の変圧器の値と同一レベルで、電圧低下率が一次電圧66kV級をはじめとする特高系統では2%未満、一次電圧が6.6kV級をはじめとする高圧系統では10%未満であり、定格磁束密度が1.2テスラ未満の変圧器。
【請求項3】
損失が、前記既設の変圧器の損失以下であることを特徴とする請求項2に記載の変圧器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−55288(P2013−55288A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193896(P2011−193896)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
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