スポーツ用シューズのソール構造体
【課題】 軽量化を実現でき、踵着地時の安定性を確保できるばかりでなく、踵着地時の反発性を向上できるスポーツ用シューズのソール構造を提供する。
【解決手段】 スポーツ用シューズのソール構造体において、ソール構造体1の踵部位に設けられ、踵周縁部に波形状を有するとともに、波形状の振幅が、踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているウェーブプレート3と、ウェーブプレー3の下面において踵周縁部に沿って配置され、その上面がウェーブプレート3の下面に固着された、ラバー製の複数の柱部材51〜57からなる柱部材ユニット5とを設ける。各柱部材の上面は、踵中央部から踵周縁部に向かうにしたがい下面からの高さhが低くなるように、形成されている。
【解決手段】 スポーツ用シューズのソール構造体において、ソール構造体1の踵部位に設けられ、踵周縁部に波形状を有するとともに、波形状の振幅が、踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているウェーブプレート3と、ウェーブプレー3の下面において踵周縁部に沿って配置され、その上面がウェーブプレート3の下面に固着された、ラバー製の複数の柱部材51〜57からなる柱部材ユニット5とを設ける。各柱部材の上面は、踵中央部から踵周縁部に向かうにしたがい下面からの高さhが低くなるように、形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用シューズのソール構造体に関し、詳細には、軽量化を実現でき、踵着地時の安定性を確保できるばかりでなく、踵着地時の反発性を向上できるようにするための構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ用シューズのソール構造体として、特開平11−203号公報に示すように、シューズの踵部分に配置された軟質弾性部材製の上下部ミッドソールと、これらの間に挟持された波形シートとを備えたものが提案されている。
【0003】
この場合には、ミッドソールの踵部位が波形シートを内蔵していることにより、シューズの踵着地時に、ミッドソールの踵部位が左右方向に横ずれ変形するのを抑制する抵抗力が発生するようになっており、これにより、ソール踵部位の横振れが防止されて、踵着地時の安定性が確保されている。
【0004】
しかしながら、この場合には、波形シートの上下部に軟質弾性部材製の上下部ミッドソールが設けられているので、ソール構造体全体の重量が重くなるという欠点がある。
【0005】
その一方、米国特許第6,487,796号明細書には、ソールの踵部位に複数の弾性支持部材が設けられ、各弾性支持部材の上面が踵内部に向かって下方に傾斜するとともに、各弾性支持部材の外周面に沿って切込みが形成されたソール構造体が記載されている。すなわち、この場合には、各弾性支持部材の高さは、ソール外周縁部で最も高く、ソール内部に向かうにしたがって徐々に低くなって、ソール最内側で最も低くなっている(FIG.6、7参照)。また、切り込みは、圧縮荷重の作用時に各弾性支持部材が踵内側に向かって倒れ込むように変形する位置に形成されている。
【0006】
この場合には、相対的に重量の重い軟質弾性部材を用いることなく、各弾性支持部材をヒールプレートおよびベースで上下に挟み込むことにより構成されているので、ソール構造体全体の重量を軽減することが可能である。また、上記米国特許には、着用者の足の踵骨の周縁部が各弾性支持部材の上面において高さが低い側の傾斜面で支持されることにより、踵着地時には踵骨から作用する圧縮力で各弾性支持部材が踵内側に変位し、これにより、横方向の安定性が向上する、と記載されている。
【0007】
しかしながら、上記米国特許に記載のものでは、踵着地時に各弾性支持部材が踵内側に倒れ込むことにより、足の踵部が各弾性支持部材の間の中間領域に向かって下方に沈み込むことで、踵着地時の横方向の安定性を図っており、このため、踵着地時から踵離地時にかけて要求されるソール踵部位としての十分な反発性を備えているとはいえない。
【特許文献1】特開平11−203号公報(図1、図2参照)
【特許文献2】米国特許第6,487,796号明細書(FIG.6、7参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、軽量化を実現でき、踵着地時の安定性を確保できるばかりでなく、踵着地時の反発性を向上できるスポーツ用シューズのソール構造体を提供しようとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係るスポーツ用シューズのソール構造体は、当該ソール構造体の少なくとも踵部位に設けられ、踵周縁部に波形状部を有するとともに、当該波形状部の振幅が、踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているウェーブプレートと、ウェーブプレートの下面において踵周縁部に沿って配置され、その上面が前記ウェーブプレートの前記下面に固着された、弾性部材製の複数の柱部材とを備えている。柱部材の上面は、踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面になっている。
【0010】
この場合には、ウェーブプレートの下面が、当該下面全面に装着される軟質弾性部材製のミッドソールではなく、間隔を隔てて配設された複数の柱部材から支持されるので、ソール構造体全体を軽量化できる。
【0011】
また、この場合には、ソール構造体の踵部位にウェーブプレートが設けられるとともに、ウェーブプレートの波形状の振幅が踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているので、踵着地時に足の踵が回内または回外を起こして横方向に倒れ込もうとした場合でも、ウェーブプレートの踵周縁側ほど圧縮変形しにくくなっていることで、このような踵の横振れを確実に防止でき、踵着地時の安定性を向上できる。
【0012】
しかも、この場合には、ウェーブプレートの踵中央部に波形状が形成されていないことにより、踵着地時にウェーブプレートの踵中央部に圧縮荷重が作用したとき、踵中央部が下方に沈み込み変形しやすくなっているが、このとき、ウェーブプレートの下面の踵周縁部が複数の柱部材で支持されているので、圧縮荷重は柱部材の上面の踵中央部側の面に作用して踵中央部側を圧縮変形させるとともに、柱部材をその下面の踵中央部側の縁部の回りに回転させようとするモーメントを発生させる。
【0013】
このモーメントの作用により、柱部材上面の踵周縁部側の面は上方に持ち上げられようとする。ところが、このとき、柱部材上面の踵周縁部側の面は、ウェーブプレートの下面の踵周縁部に配設された波形状部に圧接しており、この波形状部の作用によって、前記モーメントとは逆方向のモーメントが発生する。
【0014】
これにより、踵着地時には、柱部材上面の踵周縁部側の面の上方への動きが抑制され、ウェーブプレートの踵中央部の沈み込みを抑制できると同時に、高反発力を発生させることができる。
【0015】
請求項2の発明では、請求項1において、ウェーブプレートの波形状の稜線が、踵中央部から踵周縁部に向かって放射状に延びている。
【0016】
この場合には、ウェーブプレートの波形状の稜線が、踵着地時に踵中央部の足圧の高い円形状領域(図9および図10参照)から遠ざかる方向に配設されることになるので、踵着地後の踵部の倒れを効果的に防止でき、踵部を安定して支持できるようになる。
【0017】
請求項3の発明では、請求項2において、波形状の稜線の踵内部への延長線が、踵中心線上において踵後端から0.15L(L:シューズの表示サイズ足長)の位置に中心を有しかつ半径0.05Lの円で囲まれた領域を通っている。
【0018】
この場合には、上記円形領域が、踵着地時に足圧の高い踵中央部の領域に概略一致している。したがって、請求項2の発明と同様に、ウェーブプレートの波形状の稜線は、踵中央部の足圧の高い円形状領域から遠ざかる方向に配設されており、これにより、踵着地後の踵部の倒れを効果的に防止でき、踵部を安定して支持できるようになる。
【0019】
請求項4の発明では、請求項3において、各柱部材が、円形領域の外側において円形領域を囲むように配置されている。
【0020】
この場合には、各柱部材により、踵着地時に足圧の高い円形領域を概略均等に安定して支持することができる。
【0021】
請求項5の発明では、請求項1において、柱部材が、ウェーブプレートの下面において、ウェーブプレートの波形状における下に凸の部位に配置されている。
【0022】
この場合には、踵着地時に踵中央部に作用する圧縮荷重によるモーメントによって、柱部材上面の踵周縁部側の面が上方に持ち上げられようとしたとき、当該踵周縁部側の面がウェーブプレートの波形状における下に凸の部位に圧接する。このとき、波形状の下に凸の部位は最も圧縮変形しにくい(つまり圧縮硬度が高い)ため、柱部材に対して逆方向の大きなモーメントを発生させる。これにより、踵着地時には、柱部材上面の踵周縁部上方への動きが規制され、より高い反発力を発生させることができる。
【0023】
請求項6の発明では、請求項1において、ウェーブプレートの踵中央部が平坦状に形成されている。
【0024】
この場合には、踵着地時にウェーブプレートの踵中央部の下方への変形が容易になる。
【0025】
請求項7の発明では、請求項1において、ウェーブプレートの踵中央部が、前後方向に延びる長孔状の貫通孔を有している。
【0026】
この場合には、踵着地時にウェーブプレートの踵中央部の下方への変形が一層容易になる。
【0027】
請求項8の発明では、請求項1において、ウェーブプレートの上面に軟質弾性部材製のミッドソールが配置されている。
【0028】
この場合には、着用者の足に対する足当たり感を向上できる。
【0029】
請求項9の発明では、請求項1において、柱部材の幅が、踵中央部から踵周縁部に向かうにしたがい大きくなっている。
【0030】
この場合には、柱部材の上面において、踵中央部側の面の方が踵周縁部側の面よりも面積が小さくなっており、これにより、踵中央部側の方が圧縮変形を起こしやすくなっている。
【0031】
請求項10の発明では、請求項9において、柱部材の鉛直方向および水平方向の各断面形状が概略台形形状を有している。
【0032】
請求項11の発明では、請求項1において、柱部材が、踵後端縁部に配置された第1の柱部材と、踵外甲側縁部に配置された第2の柱部材と、踵内甲側縁部に配置された第3の柱部材とを有している。
【0033】
この場合には、踵着地時の圧縮荷重を最少の柱部材で安定して支持することができる。
【0034】
請求項12の発明では、請求項1において、複数の柱部材の踵中央部側の部分が、プレート状の連結部を介してU字状に連結されている。
【0035】
この場合には、複数の柱部材がユニット化されるので、個々の柱部材の組み付けミスを防止できる。また、複数の柱部材がU字状に連結されることで、踵中央部の剛性を微調整することができる。
【0036】
請求項13の発明では、請求項12において、連結部が、柱部材の踵中央部側の内側面を越えて踵中央部側に鍔状に張り出している。
【0037】
この場合には、踵着地時に圧縮荷重が連結部の鍔状の張出部分に作用したときに、圧縮荷重の作用点が柱部材の踵中央部側の内側面から隔てられていることにより、柱部材の下面における踵中央部側の縁部の回りの回転モーメントが発生しやすくなっている。
【0038】
請求項14の発明では、請求項1において、複数の柱部材の各下面が、樹脂製のプレートにより前後方向に連結されている。
【0039】
すなわち、この場合には、柱部材が、ウェーブプレートとプレートの間で挟持されることになる。これにより、踵着地時には、接地面側から作用する力をプレートを介して各柱部材に分散させることができる。
【0040】
請求項15の発明では、請求項14において、プレートが各柱部材を連結しつつU字状に延びている。
【0041】
請求項16の発明では、請求項14において、プレートの下面には、接地面を有するアウトソールが設けられている。
【0042】
請求項17の発明では、請求項16において、柱部材の下面を支持するプレート部位に対応するアウトソール部位の下面は、当該アウトソールの接地面よりも上方に配置されている。
【0043】
この場合には、踵着地時に走路からアウトソールに作用する反力は、まず、柱部材の直下から外れたアウトソール接地面に作用し、その後、各柱部材に分散されることになるので、踵着地時に各柱部材から足への突き上げ感を緩和できる。さらに、この場合には、柱部材直下のアウトソール部位がアウトソール接地面より上方に配置されていることで、踵接地時にアウトソール接地面に圧縮荷重が作用した際には、アウトソール接地面から上方に沈んで配置されているアウトソール部位が伸びやすくなっており、これにより、踵接地時のクッション性の向上に寄与できる。
【発明の効果】
【0044】
以上のように、本発明に係るスポーツ用シューズのソール構造体によれば、ウェーブプレートの下面が、間隔を隔てて配設された複数の柱部材から支持されるので、ソール構造体全体を軽量化できる。また、この場合には、ソール構造体の踵部位にウェーブプレートが設けられ、ウェーブプレートの波形状の振幅が踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているので、踵着地時に足の踵が回内または回外を起こして横方向に倒れ込もうとした場合でも、踵の横振れを確実に防止でき、踵着地時の安定性を向上できる。しかも、この場合には、踵着地時にウェーブプレートの踵中央部に圧縮荷重が作用したとき、圧縮荷重は柱部材の上面の踵中央部側の面に作用して踵中央部側を圧縮変形させるとともに、柱部材をその下面の踵中央部側の縁部の回りに回転させようとするモーメントを発生させ、柱部材上面の踵周縁部側の面を上方に持ち上げようとするが、このとき、柱部材上面の踵周縁部側の面が、ウェーブプレートの下面の波形状部に圧接しているので、前記モーメントとは逆方向のモーメントが発生し、これにより、柱部材上面の踵周縁部側の面の上方への動きを抑制することができ、高反発力を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施態様を添付図面に基づいて説明する。
【0046】
図1は本発明の一実施態様によるソール構造体の外甲側側面図、図2はその底面図、図3は図1のソール構造体を構成するウェーブプレートおよび柱部材ユニットの底面図、図4は図3の柱部材ユニットの底面図、図5はその平面図、図6は図3のVI-VI線断面図においてミッドソールを併せて示す図、図7ないし図8Bは本実施態様の作用効果を説明するための図、図9および図10はランニング時の足圧分布図、図11は落錘実験を行ったときの本実施態様によるソール構造体(本発明品)の反発率をサンプル品A〜Cの反発率と比較して示すグラフ、図12は落錘実験を行ったときの本発明品の接地時間をサンプル品A〜Cの接地時間と比較して示すグラフ、図13は本発明品が適用されたシューズを着用して走行したときのプロネーション角度をサンプル品A〜Cのプロネーション角度と比較して示すグラフである。
【0047】
図1および図2に示すように、このソール構造体1は、シューズの全長にわたって延設され、着用者の足裏側に配置される軟質弾性部材製のミッドソール2と、ミッドソール2の下面において踵部位から中足部位にかけて延設され、少なくとも踵部位に波形状を有する樹脂製のウェーブプレート3と、ウェーブプレート3の波形状部の下方に間隔を隔てて対向配置された樹脂製のプレート4と、ウェーブプレート3およびプレート4間に立設され、ウェーブプレート3およびプレート4で挟持される複数の柱部材51〜57(図1では一部のみ図示)からなる柱部材ユニット5と、プレート4の下面に装着されたラバー製のアウトソール6と、ミッドソール2の前足部位の下面に装着された同様にラバー製のアウトソール7とを備えている。ミッドソール2、ウェーブプレート3、プレート4、柱部材ユニット5およびアウトソール6、7は、たとえば接着剤により互いに固着されている。
【0048】
ウェーブプレート3は、図3に示すように、前後方向に長孔状に延びる貫通孔30aが中央に形成された踵部位30と、その前端に一体に形成された二股状の中足部位31とを有している。
【0049】
図3中、点線Lは、踵部位30に形成された波形状部における波形状の稜線(山または谷の線)を示している。ウェーブプレート3の波形状部は、踵部位30の周縁部に沿ってU字状に延設されている。すなわち、波形状の稜線Lは、踵部位30の周縁部に沿って山、谷、山、谷…を交互に繰り返している。
【0050】
ウェーブプレート3の波形状の稜線Lは、踵中央部から踵周縁部に向かって放射状に延びている。これは、踵着地後の踵部の倒れを効果的に防止して、踵安定性を向上させるためである。より具体的には、稜線Lのうち、最前端の稜線Lを除く残りの稜線Lの踵中央部側への延長線は、踵中心線Hc上において踵後端から0.15L(L:シューズの表示サイズ足長)の位置に中心Oを有しかつ半径0.05Lの円で囲まれた領域(図3中の斜線領域)を通っている。
【0051】
上記円形領域は、走行時にシューズの踵部に作用する足圧に基づいて決定されている。これを図9および図10を用いて説明する。これらの図は、実際の走行時にシューズのソールに作用する足圧の分布状態を示しており、各図において、内側の等圧線ほど圧力が高くなっている。また、図9(a)はシューズ着用者が分速167mで走行した場合を示し、同図(b)は分速200mで走行した場合を示しており、同様に、図10(a)はシューズ着用者が分速250mで走行した場合を示し、同図(b)は分速333mで走行した場合を示している。また、各図中の右端の数字は、シューズのサイズ足長を100とした場合の踵後端からの距離を百分率で示している。
【0052】
図9および図10から分かるように、実際の走行時にシューズの踵部に発生する最大足圧は、踵中央部において踵後端からの距離が15%の位置を中心としかつ半径が5%の円で囲まれた領域に実質的に位置しているといえる。言い換えれば、踵部の最大足圧は、踵中心線Hc上において踵後端から0.15Lの位置に中心Oを有しかつ半径0.05Lの円で囲まれた領域に実質的に位置している。
【0053】
踵部位30の中央部において、貫通孔30aの周囲には、平坦状の踵中央部30Aが形成されている。ウェーブプレート3の波形状の振幅は、踵周縁部に向かうにしたがって次第に大きくなっている。すなわち、ウェーブプレート3の踵中央部30Aと隣接する踵周縁部の位置では、波形状の振幅は0であるが、ここから踵周縁側に向かうにつれて波形状の上下方向の振れ幅が徐々に大きくなっている。
【0054】
なお、ミッドソール3の下面において、ウェーブプレート3の貫通孔30aの開口部分に対応する領域にナイロン等のメッシュ素材を張り合わせるようにしてもよい。これは、ウェーブプレート3の踵中央部に貫通孔30aが形成されていることにより、踵着地時にミッドソール3の踵中央部が下方に大きく変形して、足の踵骨が過度に落ち込むことで足が疲労するのを防止するためである。
【0055】
柱部材ユニット5は、図4および図5に示すように、間隔を隔てて配置された弾性部材製の複数の柱部材51〜57と、各柱部材を連結するとともに、前後方向に延びる長孔状の貫通孔50aを中央に有する連結プレート50とから構成されている。
【0056】
各柱部材51〜57のうち、柱部材51〜55は踵部位の周縁部に沿って配置されている。すなわち、(第1の)柱部材51は踵後端縁部に配置され、(第2の)柱部材52、53は踵外甲側縁部に配置され、(第3の)柱部材54、55は踵内甲側縁部に配置されている。各柱部材51〜55は、上述した点Oを中心とする円形領域の外側において、当該円形領域を囲むように配置されている。これは、踵着地時に足圧の高い円形領域を概略均等に安定して支持するためである。なお、柱部材56、57は中足部位に配置されている(図3参照)。
【0057】
各柱部材51〜55は、平面視(したがって水平方向の断面形状が)略台形形状を有し、いずれも踵中央部側の幅d1が踵周縁部側の幅d2よりも小さくなっており、踵中央部から踵周縁部に向かうにしたがい徐々に幅が大きくなっている。これは、圧縮荷重の作用時に踵中央部側の圧縮変形を起こりやすくするためである。
【0058】
また、各柱部材51〜55は、側面視(したがって鉛直方向の断面形状が)略台形形状を有し、いずれも踵中央部側の高さの方が踵周縁部側の高さよりも高くなっており、踵内部から踵周縁部に向かうにしたがい徐々に高さが低くなっている。すなわち、図3のVI-VI線断面に相当する図6に示すように、たとえば柱部材53について説明すると(柱部材55についても同様)、柱部材53の上面53aは、踵中央部側から踵周縁部側に向かうにしたがい、下方に傾斜する傾斜面となっており、平坦面である下面53bからの高さは、踵中央部側の高さをh2とし、踵周縁部側の高さをh1とするとき、
h2>h1
になっている。
【0059】
なお、各柱部材51〜55において、それぞれの上面から踵中央部側には、平坦面(たとえば柱部材53、55について言えば、平坦面53c、55c(図6参照))が形成されている。
【0060】
各柱部材51〜55の上面には、ウェーブプレート3の波形状部の下面が当接している。具体的には、各柱部材51〜55は、ウェーブプレート3の波形状の稜線Lのうちの谷の線Lに対応する位置、すなわち波形状における下に凸の位置に配置されている(図1参照)。
【0061】
連結プレート50は、各柱部材51〜57の踵中央部側の部分を連結している。この連結プレート50により、複数の柱部材51〜57がユニット化されるので、個々の柱部材の組み付けミスを防止できる。なお、連結プレート50は、各柱部材の踵中央部側の内側面(たとえば柱部材53、55について言えば、内側面53d、55d(図6参照))を越えて踵中央部側に鍔状に張り出していてもよい。この場合には、踵着地時の圧縮荷重が連結プレート50の鍔状の張出部分に作用することにより、圧縮荷重の作用点が柱部材の踵中央部側の内側面から大きく隔てられることになって、柱部材下面の踵中央部側における縁部の回りの回転モーメントが発生しやすくなる。
【0062】
プレート4は、各柱部材51〜57を連結しつつU字状に延設されている。プレート4の下面に配置されるアウトソール6は、同様に、U字状に延設されている。また、柱部材の下面を支持するプレート4の支持部位に対応するアウトソール6の部位の下面は、アウトソール6の接地面6aよりも上方にΔだけ沈んで配置されている(図1参照)。このΔの量は、好ましくは2mm以上に設定される。
【0063】
ミッドソール2を構成する材料としては、一般に、良好なクッション性を備えた軟質弾性部材が用いられるが、具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂の発泡体やポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂の発泡体、またはブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材の発泡体が用いられる。
【0064】
各柱部材51〜57を構成する材料としては、たとえばラバーが好ましいが、その他に、ウレタン、EVA、ポリアミドエラストマーなどの弾性体を用いるようにしてもよい。弾性体の硬度としては、JISのA硬度で50(A)〜80(A)が好ましい。これは、80(A)より高くなると、安定性は高まるが、クッション性に劣ることになり、また50(A)より低くなると、クッション性は高まるが、安定性に欠けることになるからである。ラバーを用いることの利点として、性能の持続性を向上できる点がある。
【0065】
ウェーブプレート3およびプレート4を構成する材料としては、たとえば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、あるいはエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられるが、その他、ラバー、EVA、布帛などを用いるようにしてもよい。布帛を用いる際には、たとえばミッドソール2またはアウトソール6に積層、熱融着または接着することにより剛性を高めるようにするのが好ましい。
【0066】
次に、本実施態様の作用効果について、図6ないし図8を用いて説明する。
図6に示すように、踵着地時には、足の踵骨CAからミッドソール2を介してソール構造体に圧縮荷重Wが作用する。このとき、圧縮荷重Wの作用線は、ウェーブプレート3および柱部材ユニット5からなるソール構造体の幅方向の中心線CL上に配置されている(図7参照)。なお、図7は、図6においてミッドソールを省略した状態を示している。
【0067】
ここで、ウェーブプレート3の踵中央部30Aは、波形状を有しておらず平坦状面になっており、しかも貫通孔30aを有しているので、圧縮荷重Wの作用によって、図8に示すように、踵中央部30Aは下方に容易に撓み、柱部材が圧縮変形する。さらに、圧縮荷重Wの作用により、角部Aの回りに図示左回りのモーメントM1が発生し、角部Bの回りに図示右回りのモーメントM2が発生する。
【0068】
これらのモーメントM1、M2により、各柱部材53、55の上面53a、55aの踵周縁部側の部分が上方に持ち上げられようとする(図8中の点線参照)。ところが、このとき、柱部材53、55の踵周縁部側の上面53a、55aは、ウェーブプレート3の下面の踵周縁部に配設された波形状部に圧接しており、この波形状部の作用による反力によって、モーメントM1、M2とは逆方向で大きさの等しいモーメントM1’、M2’がそれぞれ角部A、Bの回りに発生する。
【0069】
これにより、踵着地時には、各柱部材の踵周縁部側の上面の上方への動きが抑制され、その結果、ウェーブプレート3の踵中央部の沈み込みを抑制できると同時に、高反発力を発生させることができる。
【0070】
しかも、この場合には、各柱部材53、55の上面53a、55aが踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面になっていることで、逆方向のモーメントM1’、M2’の発生時には、ウェーブプレート3の波形状部から大きな反力を得ることができる。
【0071】
このことを図8Aおよび図8Bを用いて説明する。
図8Aは、図8における柱部材53部分の拡大図であり、モーメントM1の発生時にウェーブプレート3の波形状部から柱部材53の傾斜面53aが受ける反力Fを示している。図8Bは、図8Aの比較例を示しており、柱部材53’の上面が平坦面53’aである場合に、同様にモーメントM1の発生時にウェーブプレート3から柱部材53の平坦面53’aが受ける反力F’を示している。
【0072】
図8Aにおいて、反力Fの作用線に角部Aから立てた垂線の足をTとし、線分ATの長さをnとするとき、次式が成立する。
M1’=F×n …(1)
【0073】
一方、図8Bにおいて、反力F’の作用線が柱部材53’の下面と交差する点をT’とし、線分AT’の長さをn’とするとき、次式が成立する。
M1’=F’×n’ …(2)
【0074】
ここで、n’>n なので、(1)式および(2)式より
F> F’
となる。
【0075】
したがって、柱部材53の上面53aが踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面になっている場合の方が平坦面の場合に比べて、波形状部から受ける反力が大きくなる。これは、柱部材55についても同様である。
【0076】
また、各柱部材53、55の上面53a、55aが踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面になっていることで、平坦面のものに比べて各柱部材53、55を軽量化できる。
【0077】
ここで、本実施態様によるソール構造体について、反発率、接地時間およびプロネーション角度を実験により測定した結果を図11〜図13に示す。
【0078】
各実験で使用した発明品およびその比較品としてのサンプルA、B、Cの詳細は、以下の通りである。
(i)発明品: 本実施態様によるラバー製の柱部材ユニット5(ラバー硬度:60A)を樹脂製のウェーブプレート3およびプレート4で挟持してなる構造体。
(ii)サンプルA: EVA製のミッドソールからなる構造体。
(iii)サンプルB: EVA製のミッドソール内にエアパッキンを内蔵した構造体。
(iv)サンプルC: EVA製のミッドソール内にウェーブプレートを内蔵した構造体。
【0079】
各実験で測定した項目の詳細は以下の通りである。
(i)反発率: 上記各構造体に対して、重さが10kgで接地面の径が45mmの錘を高さ60mmから落下させた際に、接地面から受ける反力を接地面に加えた力で除した値。
(ii)接地時間: 上記各構造体に対して、重さが10kgで接地面の径が45mmの錘を高さ60mmから落下させた際に、錘が各構造体に接触してから離れるまでの時間。
(iii)プロネーション角度: 上記各構造体からなるシューズを被験者が履いてトレッドミルを1分間走行したときの足の下腿と踵部とのなす角度(つまり踵部の左右への倒れ角度)の平均値。
【0080】
図11のグラフから分かるように、本発明品は、いずれもサンプルよりも反発率が高く、加えられた荷重に対して高反発荷重を発生させる。また、図12のグラフから分かるように、本発明品は、いずれのサンプルよりも接地時間が短かった。さらに、図13のグラフから分かるように、本発明品は、いずれのサンプルよりもプロネーション角が小さく、走行時の踵部の倒れ込みが最も小さかった。
【0081】
以上のことから、本発明品は、高反発性を実現できると同時に、着地時の踵安定性に優れていることが実証された。
【0082】
また、本実施態様によれば、ウェーブプレート3の下面が、当該下面全面に装着される軟質弾性部材製のミッドソールではなく、間隔を隔てて配設された複数の柱部材51〜57から支持されるので、ソール構造体全体を軽量化できる。
【0083】
さらに、ソール構造体の踵部位にウェーブプレート3が設けられるとともに、ウェーブプレート3の波形状の振幅が踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているので、踵着地時に足の踵が回内または回外を起こして横方向に倒れ込もうとした場合でも、ウェーブプレート3の踵周縁側ほど圧縮変形しにくくなっていることで、このような踵の横振れを確実に防止でき、踵着地時の安定性を向上できる。
【0084】
また、本実施態様によれば、複数の柱部材を踵周縁部に沿って配置したことで、図3中の矢印P方向で示されるようなプロネーション加速方向に柱部材57を配置することができ、これにより、プロネーションを抑制できる。さらに、踵骨の長軸の延長線X上に柱部材51を配置することができ、これにより、踵の矢状軸面上での回転を防止できる。
【0085】
なお、本実施態様では、柱部材51〜55の下面を支持するプレート4の支持部位に対応するアウトソール6の部位の下面を、当該アウトソール6の接地面6aよりもΔだけ上方に沈んで配置するようにしたので、踵着地時に走路からアウトソール6に作用する反力は、まず、アウトソール6の接地面6aに作用し、その後、各柱部材51〜55に分散されることになる。これにより、踵着地時に各柱部材51〜55から足への突き上げ感を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施態様によるソール構造体の外甲側側面図である。
【図2】図1のソール構造体の底面図である。
【図3】図1のソール構造体を構成するウェーブプレートおよび柱部材ユニットの底面図である。
【図4】図3の柱部材ユニットの底面図である。
【図5】図3の柱部材ユニットの平面図である。
【図6】図3のVI-VI線断面図においてミッドソールを併せて示している。
【図7】本実施態様の作用効果を説明するための図であって、図6においてミッドソールを省略した状態を示している。
【図8】本実施態様の作用効果を説明するための図である。
【図8A】本実施態様の作用効果を説明するための図であって、波形状部からの反力の大きさを示している。
【図8B】図8Aの比較例を示す図である。
【図9】(a)は分速167m/sで走行したときの足圧分布図、(b)は分速200m/sで走行したときの足圧分布図である。
【図10】(a)は分速250m/sで走行したときの足圧分布図、(b)は分速333m/sで走行したときの足圧分布図である。
【図11】落錘実験を行ったときの図1のソール構造体(本発明品)の反発率をサンプル品A〜Cの反発率と比較して示すグラフである。
【図12】落錘実験を行ったときの本発明品の接地時間をサンプル品A〜Cの接地時間と比較して示すグラフである。
【図13】本発明品が適用されたシューズを着用して走行したときのプロネーション角度をサンプル品A〜Cのプロネーション角度と比較して示すグラフである。
【符号の説明】
【0087】
1: ソール構造体
2: ミッドソール
3: ウェーブプレート
30A: 踵中央部
30a: 貫通孔
L: 波形状の稜線
4: プレート
5: 柱部材ユニット
50: 連結プレート
51〜57: 柱部材
51: 第1の柱部材
52、53: 第2の柱部材
54、55: 第3の柱部材
53a、55a: 上面
53b、55b: 下面
53d、55d: 内側面
h1,h2: 高さ
d1,d2: 幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用シューズのソール構造体に関し、詳細には、軽量化を実現でき、踵着地時の安定性を確保できるばかりでなく、踵着地時の反発性を向上できるようにするための構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ用シューズのソール構造体として、特開平11−203号公報に示すように、シューズの踵部分に配置された軟質弾性部材製の上下部ミッドソールと、これらの間に挟持された波形シートとを備えたものが提案されている。
【0003】
この場合には、ミッドソールの踵部位が波形シートを内蔵していることにより、シューズの踵着地時に、ミッドソールの踵部位が左右方向に横ずれ変形するのを抑制する抵抗力が発生するようになっており、これにより、ソール踵部位の横振れが防止されて、踵着地時の安定性が確保されている。
【0004】
しかしながら、この場合には、波形シートの上下部に軟質弾性部材製の上下部ミッドソールが設けられているので、ソール構造体全体の重量が重くなるという欠点がある。
【0005】
その一方、米国特許第6,487,796号明細書には、ソールの踵部位に複数の弾性支持部材が設けられ、各弾性支持部材の上面が踵内部に向かって下方に傾斜するとともに、各弾性支持部材の外周面に沿って切込みが形成されたソール構造体が記載されている。すなわち、この場合には、各弾性支持部材の高さは、ソール外周縁部で最も高く、ソール内部に向かうにしたがって徐々に低くなって、ソール最内側で最も低くなっている(FIG.6、7参照)。また、切り込みは、圧縮荷重の作用時に各弾性支持部材が踵内側に向かって倒れ込むように変形する位置に形成されている。
【0006】
この場合には、相対的に重量の重い軟質弾性部材を用いることなく、各弾性支持部材をヒールプレートおよびベースで上下に挟み込むことにより構成されているので、ソール構造体全体の重量を軽減することが可能である。また、上記米国特許には、着用者の足の踵骨の周縁部が各弾性支持部材の上面において高さが低い側の傾斜面で支持されることにより、踵着地時には踵骨から作用する圧縮力で各弾性支持部材が踵内側に変位し、これにより、横方向の安定性が向上する、と記載されている。
【0007】
しかしながら、上記米国特許に記載のものでは、踵着地時に各弾性支持部材が踵内側に倒れ込むことにより、足の踵部が各弾性支持部材の間の中間領域に向かって下方に沈み込むことで、踵着地時の横方向の安定性を図っており、このため、踵着地時から踵離地時にかけて要求されるソール踵部位としての十分な反発性を備えているとはいえない。
【特許文献1】特開平11−203号公報(図1、図2参照)
【特許文献2】米国特許第6,487,796号明細書(FIG.6、7参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、軽量化を実現でき、踵着地時の安定性を確保できるばかりでなく、踵着地時の反発性を向上できるスポーツ用シューズのソール構造体を提供しようとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係るスポーツ用シューズのソール構造体は、当該ソール構造体の少なくとも踵部位に設けられ、踵周縁部に波形状部を有するとともに、当該波形状部の振幅が、踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているウェーブプレートと、ウェーブプレートの下面において踵周縁部に沿って配置され、その上面が前記ウェーブプレートの前記下面に固着された、弾性部材製の複数の柱部材とを備えている。柱部材の上面は、踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面になっている。
【0010】
この場合には、ウェーブプレートの下面が、当該下面全面に装着される軟質弾性部材製のミッドソールではなく、間隔を隔てて配設された複数の柱部材から支持されるので、ソール構造体全体を軽量化できる。
【0011】
また、この場合には、ソール構造体の踵部位にウェーブプレートが設けられるとともに、ウェーブプレートの波形状の振幅が踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているので、踵着地時に足の踵が回内または回外を起こして横方向に倒れ込もうとした場合でも、ウェーブプレートの踵周縁側ほど圧縮変形しにくくなっていることで、このような踵の横振れを確実に防止でき、踵着地時の安定性を向上できる。
【0012】
しかも、この場合には、ウェーブプレートの踵中央部に波形状が形成されていないことにより、踵着地時にウェーブプレートの踵中央部に圧縮荷重が作用したとき、踵中央部が下方に沈み込み変形しやすくなっているが、このとき、ウェーブプレートの下面の踵周縁部が複数の柱部材で支持されているので、圧縮荷重は柱部材の上面の踵中央部側の面に作用して踵中央部側を圧縮変形させるとともに、柱部材をその下面の踵中央部側の縁部の回りに回転させようとするモーメントを発生させる。
【0013】
このモーメントの作用により、柱部材上面の踵周縁部側の面は上方に持ち上げられようとする。ところが、このとき、柱部材上面の踵周縁部側の面は、ウェーブプレートの下面の踵周縁部に配設された波形状部に圧接しており、この波形状部の作用によって、前記モーメントとは逆方向のモーメントが発生する。
【0014】
これにより、踵着地時には、柱部材上面の踵周縁部側の面の上方への動きが抑制され、ウェーブプレートの踵中央部の沈み込みを抑制できると同時に、高反発力を発生させることができる。
【0015】
請求項2の発明では、請求項1において、ウェーブプレートの波形状の稜線が、踵中央部から踵周縁部に向かって放射状に延びている。
【0016】
この場合には、ウェーブプレートの波形状の稜線が、踵着地時に踵中央部の足圧の高い円形状領域(図9および図10参照)から遠ざかる方向に配設されることになるので、踵着地後の踵部の倒れを効果的に防止でき、踵部を安定して支持できるようになる。
【0017】
請求項3の発明では、請求項2において、波形状の稜線の踵内部への延長線が、踵中心線上において踵後端から0.15L(L:シューズの表示サイズ足長)の位置に中心を有しかつ半径0.05Lの円で囲まれた領域を通っている。
【0018】
この場合には、上記円形領域が、踵着地時に足圧の高い踵中央部の領域に概略一致している。したがって、請求項2の発明と同様に、ウェーブプレートの波形状の稜線は、踵中央部の足圧の高い円形状領域から遠ざかる方向に配設されており、これにより、踵着地後の踵部の倒れを効果的に防止でき、踵部を安定して支持できるようになる。
【0019】
請求項4の発明では、請求項3において、各柱部材が、円形領域の外側において円形領域を囲むように配置されている。
【0020】
この場合には、各柱部材により、踵着地時に足圧の高い円形領域を概略均等に安定して支持することができる。
【0021】
請求項5の発明では、請求項1において、柱部材が、ウェーブプレートの下面において、ウェーブプレートの波形状における下に凸の部位に配置されている。
【0022】
この場合には、踵着地時に踵中央部に作用する圧縮荷重によるモーメントによって、柱部材上面の踵周縁部側の面が上方に持ち上げられようとしたとき、当該踵周縁部側の面がウェーブプレートの波形状における下に凸の部位に圧接する。このとき、波形状の下に凸の部位は最も圧縮変形しにくい(つまり圧縮硬度が高い)ため、柱部材に対して逆方向の大きなモーメントを発生させる。これにより、踵着地時には、柱部材上面の踵周縁部上方への動きが規制され、より高い反発力を発生させることができる。
【0023】
請求項6の発明では、請求項1において、ウェーブプレートの踵中央部が平坦状に形成されている。
【0024】
この場合には、踵着地時にウェーブプレートの踵中央部の下方への変形が容易になる。
【0025】
請求項7の発明では、請求項1において、ウェーブプレートの踵中央部が、前後方向に延びる長孔状の貫通孔を有している。
【0026】
この場合には、踵着地時にウェーブプレートの踵中央部の下方への変形が一層容易になる。
【0027】
請求項8の発明では、請求項1において、ウェーブプレートの上面に軟質弾性部材製のミッドソールが配置されている。
【0028】
この場合には、着用者の足に対する足当たり感を向上できる。
【0029】
請求項9の発明では、請求項1において、柱部材の幅が、踵中央部から踵周縁部に向かうにしたがい大きくなっている。
【0030】
この場合には、柱部材の上面において、踵中央部側の面の方が踵周縁部側の面よりも面積が小さくなっており、これにより、踵中央部側の方が圧縮変形を起こしやすくなっている。
【0031】
請求項10の発明では、請求項9において、柱部材の鉛直方向および水平方向の各断面形状が概略台形形状を有している。
【0032】
請求項11の発明では、請求項1において、柱部材が、踵後端縁部に配置された第1の柱部材と、踵外甲側縁部に配置された第2の柱部材と、踵内甲側縁部に配置された第3の柱部材とを有している。
【0033】
この場合には、踵着地時の圧縮荷重を最少の柱部材で安定して支持することができる。
【0034】
請求項12の発明では、請求項1において、複数の柱部材の踵中央部側の部分が、プレート状の連結部を介してU字状に連結されている。
【0035】
この場合には、複数の柱部材がユニット化されるので、個々の柱部材の組み付けミスを防止できる。また、複数の柱部材がU字状に連結されることで、踵中央部の剛性を微調整することができる。
【0036】
請求項13の発明では、請求項12において、連結部が、柱部材の踵中央部側の内側面を越えて踵中央部側に鍔状に張り出している。
【0037】
この場合には、踵着地時に圧縮荷重が連結部の鍔状の張出部分に作用したときに、圧縮荷重の作用点が柱部材の踵中央部側の内側面から隔てられていることにより、柱部材の下面における踵中央部側の縁部の回りの回転モーメントが発生しやすくなっている。
【0038】
請求項14の発明では、請求項1において、複数の柱部材の各下面が、樹脂製のプレートにより前後方向に連結されている。
【0039】
すなわち、この場合には、柱部材が、ウェーブプレートとプレートの間で挟持されることになる。これにより、踵着地時には、接地面側から作用する力をプレートを介して各柱部材に分散させることができる。
【0040】
請求項15の発明では、請求項14において、プレートが各柱部材を連結しつつU字状に延びている。
【0041】
請求項16の発明では、請求項14において、プレートの下面には、接地面を有するアウトソールが設けられている。
【0042】
請求項17の発明では、請求項16において、柱部材の下面を支持するプレート部位に対応するアウトソール部位の下面は、当該アウトソールの接地面よりも上方に配置されている。
【0043】
この場合には、踵着地時に走路からアウトソールに作用する反力は、まず、柱部材の直下から外れたアウトソール接地面に作用し、その後、各柱部材に分散されることになるので、踵着地時に各柱部材から足への突き上げ感を緩和できる。さらに、この場合には、柱部材直下のアウトソール部位がアウトソール接地面より上方に配置されていることで、踵接地時にアウトソール接地面に圧縮荷重が作用した際には、アウトソール接地面から上方に沈んで配置されているアウトソール部位が伸びやすくなっており、これにより、踵接地時のクッション性の向上に寄与できる。
【発明の効果】
【0044】
以上のように、本発明に係るスポーツ用シューズのソール構造体によれば、ウェーブプレートの下面が、間隔を隔てて配設された複数の柱部材から支持されるので、ソール構造体全体を軽量化できる。また、この場合には、ソール構造体の踵部位にウェーブプレートが設けられ、ウェーブプレートの波形状の振幅が踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているので、踵着地時に足の踵が回内または回外を起こして横方向に倒れ込もうとした場合でも、踵の横振れを確実に防止でき、踵着地時の安定性を向上できる。しかも、この場合には、踵着地時にウェーブプレートの踵中央部に圧縮荷重が作用したとき、圧縮荷重は柱部材の上面の踵中央部側の面に作用して踵中央部側を圧縮変形させるとともに、柱部材をその下面の踵中央部側の縁部の回りに回転させようとするモーメントを発生させ、柱部材上面の踵周縁部側の面を上方に持ち上げようとするが、このとき、柱部材上面の踵周縁部側の面が、ウェーブプレートの下面の波形状部に圧接しているので、前記モーメントとは逆方向のモーメントが発生し、これにより、柱部材上面の踵周縁部側の面の上方への動きを抑制することができ、高反発力を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施態様を添付図面に基づいて説明する。
【0046】
図1は本発明の一実施態様によるソール構造体の外甲側側面図、図2はその底面図、図3は図1のソール構造体を構成するウェーブプレートおよび柱部材ユニットの底面図、図4は図3の柱部材ユニットの底面図、図5はその平面図、図6は図3のVI-VI線断面図においてミッドソールを併せて示す図、図7ないし図8Bは本実施態様の作用効果を説明するための図、図9および図10はランニング時の足圧分布図、図11は落錘実験を行ったときの本実施態様によるソール構造体(本発明品)の反発率をサンプル品A〜Cの反発率と比較して示すグラフ、図12は落錘実験を行ったときの本発明品の接地時間をサンプル品A〜Cの接地時間と比較して示すグラフ、図13は本発明品が適用されたシューズを着用して走行したときのプロネーション角度をサンプル品A〜Cのプロネーション角度と比較して示すグラフである。
【0047】
図1および図2に示すように、このソール構造体1は、シューズの全長にわたって延設され、着用者の足裏側に配置される軟質弾性部材製のミッドソール2と、ミッドソール2の下面において踵部位から中足部位にかけて延設され、少なくとも踵部位に波形状を有する樹脂製のウェーブプレート3と、ウェーブプレート3の波形状部の下方に間隔を隔てて対向配置された樹脂製のプレート4と、ウェーブプレート3およびプレート4間に立設され、ウェーブプレート3およびプレート4で挟持される複数の柱部材51〜57(図1では一部のみ図示)からなる柱部材ユニット5と、プレート4の下面に装着されたラバー製のアウトソール6と、ミッドソール2の前足部位の下面に装着された同様にラバー製のアウトソール7とを備えている。ミッドソール2、ウェーブプレート3、プレート4、柱部材ユニット5およびアウトソール6、7は、たとえば接着剤により互いに固着されている。
【0048】
ウェーブプレート3は、図3に示すように、前後方向に長孔状に延びる貫通孔30aが中央に形成された踵部位30と、その前端に一体に形成された二股状の中足部位31とを有している。
【0049】
図3中、点線Lは、踵部位30に形成された波形状部における波形状の稜線(山または谷の線)を示している。ウェーブプレート3の波形状部は、踵部位30の周縁部に沿ってU字状に延設されている。すなわち、波形状の稜線Lは、踵部位30の周縁部に沿って山、谷、山、谷…を交互に繰り返している。
【0050】
ウェーブプレート3の波形状の稜線Lは、踵中央部から踵周縁部に向かって放射状に延びている。これは、踵着地後の踵部の倒れを効果的に防止して、踵安定性を向上させるためである。より具体的には、稜線Lのうち、最前端の稜線Lを除く残りの稜線Lの踵中央部側への延長線は、踵中心線Hc上において踵後端から0.15L(L:シューズの表示サイズ足長)の位置に中心Oを有しかつ半径0.05Lの円で囲まれた領域(図3中の斜線領域)を通っている。
【0051】
上記円形領域は、走行時にシューズの踵部に作用する足圧に基づいて決定されている。これを図9および図10を用いて説明する。これらの図は、実際の走行時にシューズのソールに作用する足圧の分布状態を示しており、各図において、内側の等圧線ほど圧力が高くなっている。また、図9(a)はシューズ着用者が分速167mで走行した場合を示し、同図(b)は分速200mで走行した場合を示しており、同様に、図10(a)はシューズ着用者が分速250mで走行した場合を示し、同図(b)は分速333mで走行した場合を示している。また、各図中の右端の数字は、シューズのサイズ足長を100とした場合の踵後端からの距離を百分率で示している。
【0052】
図9および図10から分かるように、実際の走行時にシューズの踵部に発生する最大足圧は、踵中央部において踵後端からの距離が15%の位置を中心としかつ半径が5%の円で囲まれた領域に実質的に位置しているといえる。言い換えれば、踵部の最大足圧は、踵中心線Hc上において踵後端から0.15Lの位置に中心Oを有しかつ半径0.05Lの円で囲まれた領域に実質的に位置している。
【0053】
踵部位30の中央部において、貫通孔30aの周囲には、平坦状の踵中央部30Aが形成されている。ウェーブプレート3の波形状の振幅は、踵周縁部に向かうにしたがって次第に大きくなっている。すなわち、ウェーブプレート3の踵中央部30Aと隣接する踵周縁部の位置では、波形状の振幅は0であるが、ここから踵周縁側に向かうにつれて波形状の上下方向の振れ幅が徐々に大きくなっている。
【0054】
なお、ミッドソール3の下面において、ウェーブプレート3の貫通孔30aの開口部分に対応する領域にナイロン等のメッシュ素材を張り合わせるようにしてもよい。これは、ウェーブプレート3の踵中央部に貫通孔30aが形成されていることにより、踵着地時にミッドソール3の踵中央部が下方に大きく変形して、足の踵骨が過度に落ち込むことで足が疲労するのを防止するためである。
【0055】
柱部材ユニット5は、図4および図5に示すように、間隔を隔てて配置された弾性部材製の複数の柱部材51〜57と、各柱部材を連結するとともに、前後方向に延びる長孔状の貫通孔50aを中央に有する連結プレート50とから構成されている。
【0056】
各柱部材51〜57のうち、柱部材51〜55は踵部位の周縁部に沿って配置されている。すなわち、(第1の)柱部材51は踵後端縁部に配置され、(第2の)柱部材52、53は踵外甲側縁部に配置され、(第3の)柱部材54、55は踵内甲側縁部に配置されている。各柱部材51〜55は、上述した点Oを中心とする円形領域の外側において、当該円形領域を囲むように配置されている。これは、踵着地時に足圧の高い円形領域を概略均等に安定して支持するためである。なお、柱部材56、57は中足部位に配置されている(図3参照)。
【0057】
各柱部材51〜55は、平面視(したがって水平方向の断面形状が)略台形形状を有し、いずれも踵中央部側の幅d1が踵周縁部側の幅d2よりも小さくなっており、踵中央部から踵周縁部に向かうにしたがい徐々に幅が大きくなっている。これは、圧縮荷重の作用時に踵中央部側の圧縮変形を起こりやすくするためである。
【0058】
また、各柱部材51〜55は、側面視(したがって鉛直方向の断面形状が)略台形形状を有し、いずれも踵中央部側の高さの方が踵周縁部側の高さよりも高くなっており、踵内部から踵周縁部に向かうにしたがい徐々に高さが低くなっている。すなわち、図3のVI-VI線断面に相当する図6に示すように、たとえば柱部材53について説明すると(柱部材55についても同様)、柱部材53の上面53aは、踵中央部側から踵周縁部側に向かうにしたがい、下方に傾斜する傾斜面となっており、平坦面である下面53bからの高さは、踵中央部側の高さをh2とし、踵周縁部側の高さをh1とするとき、
h2>h1
になっている。
【0059】
なお、各柱部材51〜55において、それぞれの上面から踵中央部側には、平坦面(たとえば柱部材53、55について言えば、平坦面53c、55c(図6参照))が形成されている。
【0060】
各柱部材51〜55の上面には、ウェーブプレート3の波形状部の下面が当接している。具体的には、各柱部材51〜55は、ウェーブプレート3の波形状の稜線Lのうちの谷の線Lに対応する位置、すなわち波形状における下に凸の位置に配置されている(図1参照)。
【0061】
連結プレート50は、各柱部材51〜57の踵中央部側の部分を連結している。この連結プレート50により、複数の柱部材51〜57がユニット化されるので、個々の柱部材の組み付けミスを防止できる。なお、連結プレート50は、各柱部材の踵中央部側の内側面(たとえば柱部材53、55について言えば、内側面53d、55d(図6参照))を越えて踵中央部側に鍔状に張り出していてもよい。この場合には、踵着地時の圧縮荷重が連結プレート50の鍔状の張出部分に作用することにより、圧縮荷重の作用点が柱部材の踵中央部側の内側面から大きく隔てられることになって、柱部材下面の踵中央部側における縁部の回りの回転モーメントが発生しやすくなる。
【0062】
プレート4は、各柱部材51〜57を連結しつつU字状に延設されている。プレート4の下面に配置されるアウトソール6は、同様に、U字状に延設されている。また、柱部材の下面を支持するプレート4の支持部位に対応するアウトソール6の部位の下面は、アウトソール6の接地面6aよりも上方にΔだけ沈んで配置されている(図1参照)。このΔの量は、好ましくは2mm以上に設定される。
【0063】
ミッドソール2を構成する材料としては、一般に、良好なクッション性を備えた軟質弾性部材が用いられるが、具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂の発泡体やポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂の発泡体、またはブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材の発泡体が用いられる。
【0064】
各柱部材51〜57を構成する材料としては、たとえばラバーが好ましいが、その他に、ウレタン、EVA、ポリアミドエラストマーなどの弾性体を用いるようにしてもよい。弾性体の硬度としては、JISのA硬度で50(A)〜80(A)が好ましい。これは、80(A)より高くなると、安定性は高まるが、クッション性に劣ることになり、また50(A)より低くなると、クッション性は高まるが、安定性に欠けることになるからである。ラバーを用いることの利点として、性能の持続性を向上できる点がある。
【0065】
ウェーブプレート3およびプレート4を構成する材料としては、たとえば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、あるいはエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられるが、その他、ラバー、EVA、布帛などを用いるようにしてもよい。布帛を用いる際には、たとえばミッドソール2またはアウトソール6に積層、熱融着または接着することにより剛性を高めるようにするのが好ましい。
【0066】
次に、本実施態様の作用効果について、図6ないし図8を用いて説明する。
図6に示すように、踵着地時には、足の踵骨CAからミッドソール2を介してソール構造体に圧縮荷重Wが作用する。このとき、圧縮荷重Wの作用線は、ウェーブプレート3および柱部材ユニット5からなるソール構造体の幅方向の中心線CL上に配置されている(図7参照)。なお、図7は、図6においてミッドソールを省略した状態を示している。
【0067】
ここで、ウェーブプレート3の踵中央部30Aは、波形状を有しておらず平坦状面になっており、しかも貫通孔30aを有しているので、圧縮荷重Wの作用によって、図8に示すように、踵中央部30Aは下方に容易に撓み、柱部材が圧縮変形する。さらに、圧縮荷重Wの作用により、角部Aの回りに図示左回りのモーメントM1が発生し、角部Bの回りに図示右回りのモーメントM2が発生する。
【0068】
これらのモーメントM1、M2により、各柱部材53、55の上面53a、55aの踵周縁部側の部分が上方に持ち上げられようとする(図8中の点線参照)。ところが、このとき、柱部材53、55の踵周縁部側の上面53a、55aは、ウェーブプレート3の下面の踵周縁部に配設された波形状部に圧接しており、この波形状部の作用による反力によって、モーメントM1、M2とは逆方向で大きさの等しいモーメントM1’、M2’がそれぞれ角部A、Bの回りに発生する。
【0069】
これにより、踵着地時には、各柱部材の踵周縁部側の上面の上方への動きが抑制され、その結果、ウェーブプレート3の踵中央部の沈み込みを抑制できると同時に、高反発力を発生させることができる。
【0070】
しかも、この場合には、各柱部材53、55の上面53a、55aが踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面になっていることで、逆方向のモーメントM1’、M2’の発生時には、ウェーブプレート3の波形状部から大きな反力を得ることができる。
【0071】
このことを図8Aおよび図8Bを用いて説明する。
図8Aは、図8における柱部材53部分の拡大図であり、モーメントM1の発生時にウェーブプレート3の波形状部から柱部材53の傾斜面53aが受ける反力Fを示している。図8Bは、図8Aの比較例を示しており、柱部材53’の上面が平坦面53’aである場合に、同様にモーメントM1の発生時にウェーブプレート3から柱部材53の平坦面53’aが受ける反力F’を示している。
【0072】
図8Aにおいて、反力Fの作用線に角部Aから立てた垂線の足をTとし、線分ATの長さをnとするとき、次式が成立する。
M1’=F×n …(1)
【0073】
一方、図8Bにおいて、反力F’の作用線が柱部材53’の下面と交差する点をT’とし、線分AT’の長さをn’とするとき、次式が成立する。
M1’=F’×n’ …(2)
【0074】
ここで、n’>n なので、(1)式および(2)式より
F> F’
となる。
【0075】
したがって、柱部材53の上面53aが踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面になっている場合の方が平坦面の場合に比べて、波形状部から受ける反力が大きくなる。これは、柱部材55についても同様である。
【0076】
また、各柱部材53、55の上面53a、55aが踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面になっていることで、平坦面のものに比べて各柱部材53、55を軽量化できる。
【0077】
ここで、本実施態様によるソール構造体について、反発率、接地時間およびプロネーション角度を実験により測定した結果を図11〜図13に示す。
【0078】
各実験で使用した発明品およびその比較品としてのサンプルA、B、Cの詳細は、以下の通りである。
(i)発明品: 本実施態様によるラバー製の柱部材ユニット5(ラバー硬度:60A)を樹脂製のウェーブプレート3およびプレート4で挟持してなる構造体。
(ii)サンプルA: EVA製のミッドソールからなる構造体。
(iii)サンプルB: EVA製のミッドソール内にエアパッキンを内蔵した構造体。
(iv)サンプルC: EVA製のミッドソール内にウェーブプレートを内蔵した構造体。
【0079】
各実験で測定した項目の詳細は以下の通りである。
(i)反発率: 上記各構造体に対して、重さが10kgで接地面の径が45mmの錘を高さ60mmから落下させた際に、接地面から受ける反力を接地面に加えた力で除した値。
(ii)接地時間: 上記各構造体に対して、重さが10kgで接地面の径が45mmの錘を高さ60mmから落下させた際に、錘が各構造体に接触してから離れるまでの時間。
(iii)プロネーション角度: 上記各構造体からなるシューズを被験者が履いてトレッドミルを1分間走行したときの足の下腿と踵部とのなす角度(つまり踵部の左右への倒れ角度)の平均値。
【0080】
図11のグラフから分かるように、本発明品は、いずれもサンプルよりも反発率が高く、加えられた荷重に対して高反発荷重を発生させる。また、図12のグラフから分かるように、本発明品は、いずれのサンプルよりも接地時間が短かった。さらに、図13のグラフから分かるように、本発明品は、いずれのサンプルよりもプロネーション角が小さく、走行時の踵部の倒れ込みが最も小さかった。
【0081】
以上のことから、本発明品は、高反発性を実現できると同時に、着地時の踵安定性に優れていることが実証された。
【0082】
また、本実施態様によれば、ウェーブプレート3の下面が、当該下面全面に装着される軟質弾性部材製のミッドソールではなく、間隔を隔てて配設された複数の柱部材51〜57から支持されるので、ソール構造体全体を軽量化できる。
【0083】
さらに、ソール構造体の踵部位にウェーブプレート3が設けられるとともに、ウェーブプレート3の波形状の振幅が踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているので、踵着地時に足の踵が回内または回外を起こして横方向に倒れ込もうとした場合でも、ウェーブプレート3の踵周縁側ほど圧縮変形しにくくなっていることで、このような踵の横振れを確実に防止でき、踵着地時の安定性を向上できる。
【0084】
また、本実施態様によれば、複数の柱部材を踵周縁部に沿って配置したことで、図3中の矢印P方向で示されるようなプロネーション加速方向に柱部材57を配置することができ、これにより、プロネーションを抑制できる。さらに、踵骨の長軸の延長線X上に柱部材51を配置することができ、これにより、踵の矢状軸面上での回転を防止できる。
【0085】
なお、本実施態様では、柱部材51〜55の下面を支持するプレート4の支持部位に対応するアウトソール6の部位の下面を、当該アウトソール6の接地面6aよりもΔだけ上方に沈んで配置するようにしたので、踵着地時に走路からアウトソール6に作用する反力は、まず、アウトソール6の接地面6aに作用し、その後、各柱部材51〜55に分散されることになる。これにより、踵着地時に各柱部材51〜55から足への突き上げ感を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施態様によるソール構造体の外甲側側面図である。
【図2】図1のソール構造体の底面図である。
【図3】図1のソール構造体を構成するウェーブプレートおよび柱部材ユニットの底面図である。
【図4】図3の柱部材ユニットの底面図である。
【図5】図3の柱部材ユニットの平面図である。
【図6】図3のVI-VI線断面図においてミッドソールを併せて示している。
【図7】本実施態様の作用効果を説明するための図であって、図6においてミッドソールを省略した状態を示している。
【図8】本実施態様の作用効果を説明するための図である。
【図8A】本実施態様の作用効果を説明するための図であって、波形状部からの反力の大きさを示している。
【図8B】図8Aの比較例を示す図である。
【図9】(a)は分速167m/sで走行したときの足圧分布図、(b)は分速200m/sで走行したときの足圧分布図である。
【図10】(a)は分速250m/sで走行したときの足圧分布図、(b)は分速333m/sで走行したときの足圧分布図である。
【図11】落錘実験を行ったときの図1のソール構造体(本発明品)の反発率をサンプル品A〜Cの反発率と比較して示すグラフである。
【図12】落錘実験を行ったときの本発明品の接地時間をサンプル品A〜Cの接地時間と比較して示すグラフである。
【図13】本発明品が適用されたシューズを着用して走行したときのプロネーション角度をサンプル品A〜Cのプロネーション角度と比較して示すグラフである。
【符号の説明】
【0087】
1: ソール構造体
2: ミッドソール
3: ウェーブプレート
30A: 踵中央部
30a: 貫通孔
L: 波形状の稜線
4: プレート
5: 柱部材ユニット
50: 連結プレート
51〜57: 柱部材
51: 第1の柱部材
52、53: 第2の柱部材
54、55: 第3の柱部材
53a、55a: 上面
53b、55b: 下面
53d、55d: 内側面
h1,h2: 高さ
d1,d2: 幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポーツ用シューズのソール構造体であって、
当該ソール構造体の少なくとも踵部位に設けられ、踵周縁部に波形状を有するとともに、前記波形状の振幅が踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているウェーブプレートと、
前記ウェーブプレートの下面において前記踵周縁部に沿って配置され、その上面が前記ウェーブプレートの前記下面に固着された、弾性部材製の複数の柱部材とを備え、
前記柱部材の前記上面は、踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面を有している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項2】
請求項1において、
前記ウェーブプレートの前記波形状の稜線が、踵中央部から踵周縁部に向かって放射状に延びている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項3】
請求項2において、
前記稜線の踵内部への延長線が、踵中心線上において踵後端から0.15L(L:シューズの表示サイズ足長)の位置に中心を有しかつ半径0.05Lの円で囲まれた領域を通っている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項4】
請求項3において、
前記各柱部材が、前記領域の外側において前記領域を囲むように配置されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項5】
請求項1において、
前記柱部材が、前記ウェーブプレートの前記下面において、前記ウェーブプレートの前記波形状における下に凸の部位に配置されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項6】
請求項1において、
前記ウェーブプレートの踵中央部が平坦状に形成されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項7】
請求項1において、
前記ウェーブプレートの踵中央部が、前後方向に延びる長孔状の貫通孔を有している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項8】
請求項1において、
前記ウェーブプレートの上面には、軟質弾性部材製のミッドソールが配置されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項9】
請求項1において、
前記柱部材の幅は、踵中央部から踵周縁部に向かうにしたがい大きくなっている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項10】
請求項9において、
前記柱部材の鉛直方向および水平方向の各断面形状が概略台形形状を有している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項11】
請求項1において、
前記柱部材が、踵後端縁部に配置された第1の柱部材と、踵外甲側縁部に配置された第2の柱部材と、踵内甲側縁部に配置された第3の柱部材とを有している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項12】
請求項1において、
前記複数の柱部材の踵中央部側の部分が、プレート状の連結部を介してU字状に連結されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項13】
請求項12において、
前記連結部は、前記柱部材の踵中央部側の内側面を越えて踵中央部側に鍔状に張り出している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項14】
請求項1において、
前記複数の柱部材の各下面が、樹脂製のプレートにより前後方向に連結されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項15】
請求項14において、
前記プレートが、前記各柱部材を連結しつつU字状に延びている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項16】
請求項14において、
前記プレートの下面には、接地面を有するアウトソールが設けられている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項17】
請求項16において、
前記柱部材の前記下面を支持するプレート部位に対応するアウトソール部位の下面は、当該アウトソールの接地面よりも上方に配置されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項1】
スポーツ用シューズのソール構造体であって、
当該ソール構造体の少なくとも踵部位に設けられ、踵周縁部に波形状を有するとともに、前記波形状の振幅が踵周縁側に向かうにしたがい大きくなっているウェーブプレートと、
前記ウェーブプレートの下面において前記踵周縁部に沿って配置され、その上面が前記ウェーブプレートの前記下面に固着された、弾性部材製の複数の柱部材とを備え、
前記柱部材の前記上面は、踵周縁側に向かうにしたがい下面からの高さが低くなる傾斜面を有している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項2】
請求項1において、
前記ウェーブプレートの前記波形状の稜線が、踵中央部から踵周縁部に向かって放射状に延びている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項3】
請求項2において、
前記稜線の踵内部への延長線が、踵中心線上において踵後端から0.15L(L:シューズの表示サイズ足長)の位置に中心を有しかつ半径0.05Lの円で囲まれた領域を通っている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項4】
請求項3において、
前記各柱部材が、前記領域の外側において前記領域を囲むように配置されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項5】
請求項1において、
前記柱部材が、前記ウェーブプレートの前記下面において、前記ウェーブプレートの前記波形状における下に凸の部位に配置されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項6】
請求項1において、
前記ウェーブプレートの踵中央部が平坦状に形成されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項7】
請求項1において、
前記ウェーブプレートの踵中央部が、前後方向に延びる長孔状の貫通孔を有している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項8】
請求項1において、
前記ウェーブプレートの上面には、軟質弾性部材製のミッドソールが配置されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項9】
請求項1において、
前記柱部材の幅は、踵中央部から踵周縁部に向かうにしたがい大きくなっている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項10】
請求項9において、
前記柱部材の鉛直方向および水平方向の各断面形状が概略台形形状を有している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項11】
請求項1において、
前記柱部材が、踵後端縁部に配置された第1の柱部材と、踵外甲側縁部に配置された第2の柱部材と、踵内甲側縁部に配置された第3の柱部材とを有している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項12】
請求項1において、
前記複数の柱部材の踵中央部側の部分が、プレート状の連結部を介してU字状に連結されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項13】
請求項12において、
前記連結部は、前記柱部材の踵中央部側の内側面を越えて踵中央部側に鍔状に張り出している、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項14】
請求項1において、
前記複数の柱部材の各下面が、樹脂製のプレートにより前後方向に連結されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項15】
請求項14において、
前記プレートが、前記各柱部材を連結しつつU字状に延びている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項16】
請求項14において、
前記プレートの下面には、接地面を有するアウトソールが設けられている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【請求項17】
請求項16において、
前記柱部材の前記下面を支持するプレート部位に対応するアウトソール部位の下面は、当該アウトソールの接地面よりも上方に配置されている、
ことを特徴とするスポーツ用シューズのソール構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−118936(P2009−118936A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294023(P2007−294023)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
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