銅微粒子及びその製造方法
【課題】微細で、凝集粒子をほとんど含まない銅微粒子、例えば、電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、動的光散乱法粒度分布測定装置で測定した平均粒子径(d)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜2の範囲である銅微粒子を提供する。
【解決手段】アミン類、窒素含有複素環化合物、ニトリル類及びシアン化合物、ケトン類、アミノ酸類、アルカノールアミン類またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種の錯化剤、及び保護コロイドの存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させる。
【解決手段】アミン類、窒素含有複素環化合物、ニトリル類及びシアン化合物、ケトン類、アミノ酸類、アルカノールアミン類またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種の錯化剤、及び保護コロイドの存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅微粒子及びその製造方法に関し、特に積層セラミックスコンデンサーの電極や、プリント配線基板の回路等を製造する際に好適に用いられる銅微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銅微粒子は良好な電気伝導性を有する廉価な材料であり、プリント配線基板の回路形成部材、各種電気的接点部材、コンデンサー等の外部電極部材などの電気的導通を確保するための材料として幅広く用いられ、近年、積層セラミックスコンデンサーの内部電極にも用いられ始めている。積層セラミックスコンデンサーは、電解コンデンサー、フィルムコンデンサー等他の形式のコンデンサーと比較して、大容量が得られ易く、実装性に優れ、安全性・安定性が高いので、急速に普及している。最近の電子機器の小型化に伴い、積層セラミックスコンデンサーも小型化する方向にあるが、大容量を維持するには、セラミックスシートの積層数を減らさずに小型化する必要があり、強度等の点でシートの薄層化には限界があるため微細な金属銅粒子を用い内部電極を薄層化することで、積層セラミックスコンデンサーの小型化を実現している。
【0003】
金属銅微粒子を電気的導通を確保する材料として用いるには、通常銅微粒子を溶媒に分散したり、エポキシ樹脂などのバインダーと混合してペースト化あるいは塗料化あるいはインキ化して、銅ペースト・塗料・インキ等の流動性組成物とする。そして、例えば、プリント配線基板の回路等の形成では、前記の流動性組成物をスクリーン印刷、インクジェット印刷等の手法で基板上に回路や電極のパターンに塗布した後、加熱して金属銅微粒子を融着させ、微細な電極を形成している。また、積層セラミックスコンデンサーの内部電極の形成では、薄層のセラミックスシート上に前記の流動性組成物を塗布し、シートを積層した後、加熱焼成して内部電極を形成している。
【0004】
金属銅微粒子の製造方法としては、アラビアゴム等の保護コロイドを含む水性媒液中で、ヒドラジン系還元剤により酸化銅を還元する方法(特許文献1参照)が知られており、この方法の実施例では電子顕微鏡法による平均粒子径が0.4〜32μmの範囲の銅微粒子が得られている。また、銅塩水溶液から水酸化銅を析出し、得られた水酸化銅に還元糖を添加して亜酸化銅(酸化第一銅)にまで還元し、次いで、ヒドラジン系還元剤により金属銅まで還元する方法(特許文献2)が知られており、銅塩水溶液にロシェル塩、アミノ酸、アンモニア及びアンモニウム化合物等の錯化剤を添加すると銅イオンを安定に溶解できるため有効であることを記載している。この方法に基づいた実施例では、粒度分布が0.5±0.1μmから3.1±0.3μmまでの銅微粒子が得られている。更に、前記の特許文献2に記載の方法において、保護コロイドとしてのゼラチンを銅塩水溶液に添加し、更にその後の金属銅の核粒子成長中に添加する方法も知られている(特許文献3参照)。この方法の実施例ではマイクロトラックによって測定(動的光散乱法)した粒度分布が0.90±0.05μmから5.14±0.25μmまでの銅微粒子が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−55562号公報
【特許文献2】特許第2638271号公報
【特許文献3】特開平4−235205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では微細な金属銅粒子が得られるものの、金属銅の一次粒子が単分散ではなく著しく凝集した状態で生成したり、二次粒子の形状が粒塊状で、大きさも形状も不揃いになったりするため、流動性組成物への分散性が十分でなく、回路、電極等を形成した際に充填性が悪く、欠陥が生じ易いという問題があり、積層セラミックスコンデンサーの内部電極の薄層化や、プリント配線板の回路の極細化にも対応でき難い。このため、金属銅微粒子としては、微細であるにもかかわらず、凝集粒子がほとんどなく、粒子形状が整い、分散性に優れた銅微粒子が要望されている。
また、金属銅微粒子を製造する際に、保護コロイドを分散安定化剤として用いると、銅微粒子表面に保護コロイドが被着または吸着し、銅微粒子を凝集させずに単分散の状態で得られ易いが、保護コロイドの存在により、生成した銅微粒子が高度に分散しているため、凝集剤を添加したとしても、原料の銅化合物、還元剤の残分、保護コロイドのほかpH調整剤などの添加剤に由来する陰イオンや陽イオンが多量に存在する媒液から銅微粒子を固液分離し難く、大量生産に不向きな限外濾過を行わなければならないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく原料の銅化合物や保護コロイド等の添加剤を中心に鋭意研究を重ねた結果、前記の特許文献2、3のように原料の銅化合物として1価の銅酸化物を用いたり、2価の銅酸化物から還元によって1価の銅酸化物を生成した後に1価の銅酸化物を再度還元する2段階の反応で金属銅微粒子を生成すると、1価の銅酸化物が非常に還元され易いので還元反応が非常に速く進行すること、しかも、銅酸化物と錯体を形成して還元剤との反応速度を制御する錯化剤を用いても反応速度の制御が困難であること、このため、反応液中に多量の金属銅の微結晶が不均一な濃度分布で生成するので、粒子成長も不均一になり、銅微粒子の形状が不揃いになったり、凝集粒子の生成を抑制できなくなること、しかも、生成した銅微粒子の表面に被着または吸着して銅微粒子の凝集を抑制する保護コロイドが存在しても凝集粒子の生成を抑制できないことを見出した。一方、2価の銅酸化物は1価の銅酸化物に比べて還元速度が遅く、しかも、反応液に錯化剤を添加すると少量の金属銅の微結晶が生成し、この微結晶が核となって、還元反応の進行に従って均一に粒子成長すること、さらに、保護コロイドを添加すると微細で、凝集粒子をほとんど含まない単分散の、しかも粒子形状の整った銅微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
次に、本発明者らは、保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、反応液に保護コロイド除去剤を添加すると銅微粒子を凝集させることができ、通常の手段でも銅微粒子を濾過できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、(1)錯化剤及び保護コロイドの存在下で、銅の原子価が2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させることを特徴とする銅微粒子の製造方法、(2)錯化剤及び保護コロイドの存在下で、銅の原子価が2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、2価の銅酸化物から銅の原子価が1価の銅酸化物を生成する工程を経ることなく金属銅微粒子を生成させることを特徴とする銅微粒子の製造方法である。
また、本発明は、(3)前記(1)、(2)により錯化剤及び保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、媒液に保護コロイド除去剤を添加して金属銅微粒子を凝集させ、次いで、分別することを特徴とする銅微粒子の製造方法である。
また、本発明は、(4)前記方法によって得られ、電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜2の範囲であることを特徴とする銅微粒子である。しかも、本発明は、(5)電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜0.5μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜0.5μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であることを特徴とする銅微粒子である。
更に、本発明は、(6)前記(4)、(5)の銅微粒子と分散媒を少なくとも含有することを特徴とする流動性組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により得られる銅微粒子は、微細で、凝集粒子をほとんど含まず、粒子形状が整っており、分散性に優れている。このものは、電子機器の電極材料等として有用であり、この銅微粒子を流動性組成物にして、例えば、積層セラミックスコンデンサーの内部電極、プリント配線基板の回路、その他の電極等に用いると、薄膜で高密度の電極等が得られる。
しかも、保護コロイド除去剤を用いると濾過漏れも少なく、銅微粒子の収率が向上し、濾過・洗浄時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は実施例1で得られた銅微粒子(試料A)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図2】図2は実施例2で得られた銅微粒子(試料B)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図3】図3は実施例12で得られた銅微粒子(試料L)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図4】図4は実施例13で得られた銅微粒子(試料M)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図5】図5は実施例17で得られた銅微粒子(試料Q)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図6】図6は実施例18で得られた銅微粒子(試料R)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図7】図7は実施例19で得られた銅微粒子(試料S)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図8】図8は比較例1で得られた銅微粒子(試料T)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図9】図9は比較例2で得られた銅微粒子(試料U)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図10】図10は試料j〜1及びN−120のX線回折チャートである。
【図11】図11は試料mのX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は銅微粒子の製造方法であって、錯化剤及び保護コロイドの存在下で、銅の原子価が2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合し、還元して金属銅微粒子を生成させる。本発明においては、原料として2価の銅酸化物を用いることが重要であって、亜酸化銅(酸化第一銅)の1価の銅酸化物は使用しない。しかも、2価の銅酸化物から1価の銅酸化物を生成しない条件で還元して1段階の反応で金属微粒子を生成するのが好ましい。本発明の「2価の銅酸化物」は、銅の原子価が2価(Cu2+)であり、酸化第二銅、水酸化第二銅及びこれらの混合物を包含する。2価の銅酸化物は、その他の金属、金属化合物や非金属化合物などの不純物を適宜含んでいても良いが、1価の銅酸化物は不可避の量以外は実質的に含有しないものが好ましい。また、2価の銅酸化物として酸化第二銅に帰属するX線回折ピークを有するものが好ましく用いられ、酸化第二銅の(110)面のX線回折ピークから下式1を用いて算出した平均結晶子径が20〜500nmの範囲にあるものを用いるのがより好ましく、50〜200nmの範囲が更に好ましい。2価の銅酸化物の平均結晶子径が少なくとも前記の範囲であれば所望の金属銅微粒子が生成できるが、前記の範囲より小さいと、粒子径が小さく結晶性も低いので、酸化第二銅の溶解速度が速くなり、多量の錯化剤を用いないと、還元反応速度が制御し難くなるため好ましくなく、一方、前記の範囲より大きいと、粒子径が大きく結晶性が良好となり、溶解速度が遅くなって、還元反応時間を長くしないと、銅微粒子中に未反応の酸化第二銅が残存し易くなるため好ましくない。2価の銅酸化物の製造方法には制限はなく、例えば、電解法、化成法、加熱酸化法、熱分解法、間接湿式法等で工業的に製造されたものを用いることができる。
式1:DHKL=K*λ/βcosθ
DHKL :平均結晶子径(Å)
λ :X線の波長
β :回折ピークの半価幅
θ :Bragg’s角
K :定数(=0.9)
【0012】
本発明では、2価の銅酸化物と還元剤とを混合する際に、錯化剤及び保護コロイドが存在していれば、それぞれの原材料の添加順序には制限はなく、例えば、(1)錯化剤及び保護コロイドを含む媒液に、2価の銅酸化物と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(2)錯化剤、保護コロイド、2価の銅酸化物を含む媒液に、還元剤を添加する方法、(3)保護コロイド、2価の銅酸化物を含む媒液に、錯化剤と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(4)保護コロイド、2価の銅酸化物を含む媒液に、錯化剤と還元剤の混合液を添加する方法、等が挙げられる。中でも(3)、(4)の方法が反応を制御し易いので好ましく、(4)の方法が特に好ましい。2価の銅酸化物、還元剤、錯化剤、保護コロイドは還元反応に用いる前に予め媒液に懸濁あるいは溶解して用いても良い。尚、「同時並行的添加」とは、反応期間中において2価の銅酸化物と還元剤あるいは錯化剤と還元剤とをそれぞれ別々に同時期に添加する方法をいい、両者を反応期間中継続して添加する他に、一方あるいは両者を間欠的に添加することも含む。
【0013】
媒液には、例えば、水系またはアルコール等の有機溶媒系媒液を、好ましくは水系媒液を用いる。反応温度は、10℃〜用いた媒液の沸点の範囲であれば反応が進み易いので好ましく、40〜95℃の範囲であれば微細な金属銅微粒子が得られるためより好ましく、60〜95℃の範囲が更に好ましく、80〜95℃の範囲が特に好ましい。反応液のpHを酸またはアルカリで3〜12の範囲に予め調整すると、2価の銅酸化物の沈降を防ぎ、均一に反応させることができるので好ましい。反応時間は、還元剤等の原材料の添加時間などで制御して設定することができ、例えば、10分〜6時間程度が適当である。
【0014】
本発明の「錯化剤」は、2価の銅酸化物から銅イオンが溶出するか、または2価の銅酸化物が還元されて金属銅が生成する過程で作用すると考えられ、これが有する配位子のドナー原子と銅イオンまたは金属銅とが結合して銅錯体化合物を形成し得る化合物を言い、ドナー原子としては、例えば、窒素、酸素、硫黄等が挙げられる。具体的には、
(1)窒素がドナー原子である錯化剤としては、(a)アミン類(例えば、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、エチレンジアミン等の1級アミン類、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、及び、ピペリジン、ピロリジン等のイミン類等の2級アミン類、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等の3級アミン類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミンの1分子内に1〜3級アミンを2種以上有するもの等)、(b)窒素含有複素環式化合物(例えば、イミダゾール、ピリジン、ビピリジン等)、(c)ニトリル類(例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等)及びシアン化合物、(d)アンモニア及びアンモニウム化合物(例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等)、(e)オキシム類等が挙げられる。
(2)酸素がドナー原子である錯化剤としては、(a)カルボン酸類(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等のオキシカルボン酸類、酢酸、ギ酸等のモノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸等のジカルボン酸類、安息香酸等の芳香族カルボン酸類等)、(b)ケトン類(例えば、アセトン等のモノケトン類、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のジケトン類等)、(c)アルデヒド類、(d)アルコール類(1価アルコール類、グリコール類、グリセリン類等)、(e)キノン類、(f)エーテル類、(g)リン酸(正リン酸)及びリン酸系化合物(例えば、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等)、(h)スルホン酸またはスルホン酸系化合物等が挙げられる。
(3)硫黄がドナー原子である錯化剤としては、(a)脂肪族チオール類(例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、アリルメルカプタン、ジメチルメルカプタン等)、(b)脂環式チオール類(シクロヘキシルチオール等)、(c)芳香族チオール類(チオフェノール等)、(d)チオケトン類、(e)チオエーテル類、(f)ポリチオール類、(g)チオ炭酸類(トリチオ炭酸類)、(h)硫黄含有複素環式化合物(例えば、ジチオール、チオフェン、チオピラン等)、(i)チオシアナート類及びイソチオシアナート類、(j)無機硫黄化合物(例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素等)等が挙げられる。
(4)2種以上のドナー原子を有する錯化剤としては、(a)アミノ酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、グリシン、アラニン等の中性アミノ酸類、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸類、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸類)、(b)アミノポリカルボン酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレンジアミンジ酢酸(EDDA)、エチレングリコールジエチルエーテルジアミンテトラ酢酸(GEDA)等)、(c)アルカノールアミン類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、(d)ニトロソ化合物及びニトロシル化合物(ドナー原子が窒素及び酸素)、(e)メルカプトカルボン酸類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、ジメルカプトコハク酸、チオ酢酸、チオジグリコール酸等)、(f)チオグリコール類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトエタノール、チオジエチレングリコール等)、(g)チオン酸類(ドナーが硫黄及び酸素)、(h)チオ炭酸類(ドナー原子が硫黄及び酸素:例えば、モノチオ炭酸、ジチオ炭酸、チオン炭酸)、(i)アミノチオール類(ドナーが硫黄及び窒素:アミノエチルメルカプタン、チオジエチルアミン等)、(j)チオアミド類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えば、チオホルムアミド等)、(k)チオ尿素類(ドナー原子が硫黄及び窒素)、(l)チアゾール類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えばチアゾール、ベンゾチアゾール等)、(m)含硫黄アミノ酸類(ドナーが硫黄、窒素及び酸素:システイン、メチオニン等)等が挙げられる。
(5)上記の化合物の塩や誘導体としては、例えば、クエン酸トリナトリウム、酒石酸ナトリウム・カリウム、次亜リン酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸ジナトリウム等のそれらのアルカリ金属塩や、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等のエステル等が挙げられる。
このような錯化剤のうち、少なくとも1種を用いることができる。錯化剤の使用量は適宜設定することができ、2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜200重量部の範囲に設定すると、本発明の効果が得られ易いので好ましい。前記範囲内で、錯化剤の使用量を少なくすると、銅微粒子の一次粒子を小さくすることができ、使用量を多くすると、一次粒子を大きくすることができる。より好ましい使用量は、0.1〜200重量部の範囲であり、0.5〜150重量部の範囲が更に好ましい。
【0015】
本発明では、窒素、酸素から選ばれる少なくとも1種をドナー原子として含む錯化剤であれば、本発明の効果が得られ易いので好ましい。具体的には、アミン類、窒素含有複素環式化合物、ニトリル類及びシアン化合物、カルボン酸類、ケトン類、リン酸及びリン酸系化合物、アミノ酸類、アミノポリカルボン酸類、アルカノールアミン類、またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種であればより好ましく、カルボン酸類の中ではオキシカルボン酸類が、ケトン類の中ではジケトン類が、アミノ酸類の中では塩基性及び酸性アミノ酸類が好ましい。更に、錯化剤が、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、イミダゾール、クエン酸またはそのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、次亜リン酸またはそのアルカリ金属塩、ヒスチジン、アルギニン、エチレンジアミンテトラ酢酸またはそのアルカリ金属塩、エタノールアミン、アセトニトリルから選ばれる少なくとも1種であれば好ましい。これらの酸素系または窒素系の錯化剤の使用量は、前記のように2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜200重量部の範囲が好ましく、0.1〜200重量部の範囲がより好ましく、0.5〜150重量部の範囲が更に好ましい。
【0016】
また、本発明では、ドナー原子の少なくとも一つが硫黄である錯化剤を用い、この錯化剤を、2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜2重量部の範囲で用いると、いっそう微細な銅微粒子の生成を制御し易くなる。硫黄を含む錯化剤としては、前記のメルカプトカルボン酸類、チオグリコール類、含硫黄アミノ酸類、脂肪族チオール類、脂環式チオール類、芳香族チオール類、チオケトン類、チオエーテル類、ポリチオール類、チオ炭酸類、硫黄含有複素環式化合物、チオシアナート類及びイソチオシアナート類、無機硫黄化合物、チオン酸類、アミノチオール類、チオアミド類、チオ尿素類、チアゾール類またはそれらの塩または誘導体等が挙げられる。中でもメルカプトカルボン酸類、チオグリコール類、含硫黄アミノ酸類が効果が高いので好ましく、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、メルカプトエタノール、システインであれば更に好ましい。より好ましい使用量は、0.05〜1重量部の範囲であり、0.05重量部以上0.5重量部未満であれば更に好ましい。
【0017】
「保護コロイド」は、生成した銅微粒子の分散安定化剤として作用するものであり、本発明では保護コロイドとして公知のものを用いることができ、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等のタンパク質系、デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等の天然高分子や、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等のアクリル酸系、ポリエチレングリコール等の合成高分子等が挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。高分子の保護コロイドは分散安定化の効果が高いので、これを用いるのが好ましく、水系媒液中で反応させる場合、水溶性のものを用いるのが好ましく、特にゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールが好ましい。その使用量を2価の銅酸化物100重量部に対し1〜100重量部の範囲にすると、生成した銅微粒子が分散安定化し易いので好ましく、2〜50重量部の範囲が更に好ましい。
【0018】
「還元剤」としては、還元反応中に1価の銅酸化物が生成しないように、還元力が強いものを用いるのが好ましく、例えば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物等のヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸及び亜リン酸ナトリウム等のその塩、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等のその塩等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いても良い。特に、ヒドラジン系還元剤は還元力が強く好ましい。還元剤の使用量は、2価の銅酸化物から銅微粒子を生成できる量であれば適宜設定することができ、2価の銅酸化物中に含まれる銅1モルに対し0.2〜5モルの範囲にあるのが好ましい。還元剤が前記範囲より少ないと反応が進み難く、銅微粒子が十分に生成せず、前記範囲より多いと反応が進みすぎ、所望の銅微粒子が得られ難いため好ましくない。更に好ましい還元剤の使用量は、0.3〜2モルの範囲である。
【0019】
前記の方法により錯化剤及び保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、必要に応じて分別、洗浄を行うが、媒液に保護コロイド除去剤を添加して金属銅微粒子を凝集させ、次いで、分別するのが好ましい。「保護コロイド除去剤」は、保護コロイドを分解または溶解して保護コロイドの作用を抑制する化合物であり、媒液から保護コロイドを完全に除去できなくても一部でも除去できるのであれば、本発明の効果が得られる。保護コロイド除去剤の種類は、用いる保護コロイドに応じて適宜選択する。具体的には、タンパク質系の保護コロイドに対しては、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、チオールプロテアーゼ(例えば、パパイン等)、酸性プロテアーゼ(例えば、ペプシン等)、金属プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素を、デンプン系に対しては、アミラーゼ、マルターゼ等のデンプン分解酵素を、セルロース系にはセルラーゼ、セロビアーゼ等のセルロース分解酵素を用いることができる。ビニル系、アクリル酸系、ポリエチレングリコール等の保護コロイドには、ホルムアミド、グリセリン、グリコール等の有機溶剤や、酸、アルカリ等を用いることができる。保護コロイド除去剤の添加量は銅微粒子を凝集させ分別できる程度に保護コロイドを除去できる量であれば良く、その種類によって異なるが、タンパク質分解酵素であれば、タンパク質系保護コロイド1000重量部に対し0.001〜1000重量部の範囲が好ましく、0.01〜200重量部がより好ましく、0.01〜100重量部が更に好ましい。保護コロイド除去剤を添加する際の媒液の温度は適宜設定することができ、還元反応温度を保持した状態でも良く、あるいは、10℃〜用いた媒液の沸点の範囲であれば、保護コロイドの除去が進み易いので好ましく、40〜95℃の範囲であれば更に好ましい。保護コロイド除去剤を添加した後、その状態を適宜保持すれば保護コロイドを分解することができ、例えば10分〜10時間程度が適当である。保護コロイドを除去して金属微粒子を凝集させた後、通常の方法で分別する。分別手段は特に制限はなく、重力濾過、加圧濾過、真空濾過、吸引濾過、遠心濾過、自然沈降などの手段をとり得るが、工業的には加圧濾過、真空濾過、吸引濾過が好ましく、脱水能力が高く大量に処理できるので、フィルタープレス、ロールプレス等の濾過機を用いるのが好ましい。
【0020】
前記の方法の実施態様として、保護コロイド除去剤を添加した後、更に凝集剤を添加すると、収率がよりいっそう向上するので好ましい。凝集剤としては公知のものを用いることができ、具体的には、アニオン系凝集剤(例えば、ポリアクリルアミドの部分加水分解生成物、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合体、アルギン酸ソーダ等)、カチオン系凝集剤(例えば、ポリアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ポリアミジン、キトサン等)、両性凝集剤(例えば、アクリルアミド・ジメチルアミノエチルアクリレート・アクリル酸共重合体等)等が挙げられる。凝集剤の添加量は、必要に応じた量を適宜設定することができ、銅微粒子1000重量部に対し、0.5〜100重量部の範囲が好ましく、1〜50重量部の範囲が更に好ましい。
【0021】
あるいは、凝集剤の使用に替えて、保護コロイド除去剤を添加後、酸を用いて媒液のpHを6以下の範囲に調整しても、同様の収率の改良効果が得られる。pHが3より低いと、銅微粒子が腐食したり、溶解するので、3〜6の範囲が好ましいpH領域であり、4〜6の範囲とすると酸の使用量を減らせるので更に好ましい。
【0022】
金属銅微粒子を必要に応じて固液分離、洗浄した後、得られた金属銅微粒子の固形物を例えば水系またはアルコール等の有機溶媒系媒液に、好ましくは水系媒液に分散して用いることができる。あるいは、金属銅微粒子の固形物を通常の方法により乾燥しても良く、更に乾燥した後、例えば水系またはアルコール等の有機溶媒系媒液に、好ましくは水系媒液に分散して用いることもできる。金属銅微粒子は酸化され易いので、酸化を抑制するために、乾燥は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。乾燥後は、必要に応じて粉砕を行っても良い。
【0023】
次に、本発明は金属銅微粒子であって、少なくとも金属銅を含有した金属質を有するものであり、用途に差し支えない程度に銅微粒子の表面やその内部に不純物、銅酸化物や酸化安定化剤等を含んでいても良い。本発明の金属銅微粒子は微細で、凝集粒子をほとんど含まず、粒子形状が整っている。これらの指標として、電子顕微鏡法による平均粒子径(累積50%径)、すなわち平均一次粒子径を(D)、動的光散乱法による平均粒子径(累積50%径)、すなわち平均二次粒子径を(d)で表した際に、(D)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、(d)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜2の範囲にある。(D)、(d)が前記範囲の微細なものであり、d/Dが前記範囲の非常に1に近似していることから凝集の程度が低いので、流動性組成物への分散性が優れており、このような金属銅微粒子は前記の製造方法によって得られる。尚、d/Dは、通常は1以上の値をとるが、(D)、(d)の測定方法がそれぞれ異なるため、d/Dが1より小さくなる場合もある。本発明の金属銅微粒子の形状は、電子顕微鏡により観察することができ、多面体構造の整った粒子形状を有している。
【0024】
本発明の金属銅微粒子の好ましい範囲は、平均一次粒子径(D)が0.005〜1.0μmの範囲、平均二次粒子径(d)が0.005〜1.0μmの範囲で、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であり、より好ましい範囲は(D)が0.005〜0.75μmの範囲、(d)が0.005〜0.75μmの範囲で、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であり、更に好ましい範囲は(D)が0.005〜0.5μmの範囲、(d)が0.005〜0.5μmの範囲で、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であり、いっそう好ましい範囲は(D)が0.005〜0.4μmの範囲、(d)が0.005〜0.4μmの範囲で、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲である。更に、用途によっては、平均一次粒子径(D)、平均二次粒子径(d)の下限値は0.01μmがより好ましく、0.02μmが更に好ましく、0.05μmが最も好ましい。このような銅微粒子は、前記製造方法において、錯化剤に窒素、酸素から選ばれる少なくとも1種をドナー原子として含むものを用いることで得られる。
【0025】
更に、少なくとも硫黄をドナー原子として含む錯化剤の使用量を、銅酸化物1000重量部に対し0.01〜2重量部の範囲で、好ましくは0.05〜1重量部の範囲で、更に好ましくは0.05重量部以上0.5重量部未満で用いて得られた銅微粒子は、平均一次粒子径(D)が0.005〜0.5μmの範囲、平均二次粒子径(d)が0.005〜0.5μmの範囲で、且つd/Dが0.7〜1.5の範囲にある。この銅微粒子のより好ましい形態は、(D)が0.005μm以上0.1μm未満、(d)が0.005μm以上0.1μm未満の範囲にあり、且つd/Dが0.7〜1.5の範囲である。
【0026】
次に、本発明はインキ、塗料、ペースト等の流動性組成物であって、前記の金属銅微粒子と分散媒を少なくとも含有する。金属銅微粒子の配合量は少なくとも1重量%程度であれば良く、5重量%以上の高濃度が好ましく、10重量%以上がより好ましく、15重量%以上が更に好ましい。金属銅微粒子を分散させる分散媒としては、用いる銅微粒子との親和性に応じて適宜選択し、例えば、水溶媒、アルコール類、ケトン類等の親水性有機溶媒、直鎖状炭化水素類、環状炭化水素類、芳香族炭化水素類等の疎水性有機溶媒等を用いることができ、これらから選ばれる1種を用いても、または相溶性を有する2種以上を混合分散媒として用いても良く、あるいは、親水性有機溶媒を相溶化剤として用いて水と疎水性有機溶媒を混合して用いることもできる。具体的には、アルコール類としては例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、α−テルピネオールが挙げられ、ケトン類としては例えばシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、アセトンが挙げられる。更に有機溶媒としてトルエン、ミネラルスピリットなども好適に用いることができる。インキ、塗料に用いられる好ましい分散媒は、水溶媒または水を主体とする親水性有機溶媒との混合分散媒であり、この場合、水は、通常、混合分散媒中に50重量%以上、好ましくは80重量%以上含まれていれば良い。
【0027】
本発明の流動性組成物において、水を分散媒として用いる場合、水は表面張力が大きいので、必要に応じて、比誘電率が35以上、好ましくは35〜200の範囲の、沸点が100℃以上、好ましくは100〜250℃の範囲の有機溶媒を添加すると、加熱焼成時に塗布物にシワや縮み等の表面欠陥が生じ難く、均一で密度の高い塗布物が得られ易いので好ましい。このような有機溶媒としてN−メチルホルムアミド(比誘電率190、沸点197℃)、ジメチルスルホキシド(比誘電率45、沸点189℃)、エチレングリコール(比誘電率38、沸点226℃)、4−ブチロラクトン(比誘電率39、沸点204℃)、アセトアミド(比誘電率65、沸点222℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(比誘電率38、沸点226℃)、ホルムアミド(比誘電率111、沸点210℃)、N−メチルアセトアミド(比誘電率175、沸点205℃)、フルフラール(比誘電率40、沸点161℃)等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。中でも、表面張力が50×10−3N/m以下のN−メチルホルムアミド(表面張力38×10−3N/m)、ジメチルスルホキシド(表面張力43×10−3N/m)、エチレングリコール(表面張力48×10−3N/m)、4−ブチロラクトン(表面張力44×10−3N/m)、アセトアミド(表面張力39×10−3N/m)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(表面張力41×10−3N/m)等であれば、更に効果が高く好ましい。これらの高比誘電率、高沸点の有機溶媒は、水を除く分散媒中に20〜100重量%の範囲で含まれているのが好ましく、40〜100重量%の範囲が更に好ましい。
【0028】
本発明の流動性組成物には、前記の金属銅微粒子、分散媒の他に、界面活性剤、分散剤、増粘剤、可塑剤、防カビ剤等の添加剤を、適宜配合することもできる。界面活性剤は、金属銅微粒子の分散安定性を更に高める作用や、流動性組成物のレオロジー特性を制御し、塗工性を改良する作用を有するので好ましく、例えば、第4級アンモニウム塩等のカチオン系、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン系、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型等のノニオン系等の公知のものを用いることができ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。界面活性剤の配合量は、塗料組成に応じて適宜設定するが、一般的には金属銅微粒子1重量部に対し、0.01〜0.5重量部の範囲が好ましい。また、必要に応じ、本発明の効果を阻害しない範囲で、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、オリゴエステルアクリレート樹脂、キシレン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、セルロース系樹脂等の有機系の硬化性バインダーが含まれていても良い。硬化性バインダーの配合量は使用場面に応じて適宜設定でき、電極や配線パターンを形成する場合は、硬化性バインダーを配合しないか、金属銅微粒子1重量部に対し、0〜0.5重量%程度の範囲が適当であり、0〜0.1重量%の範囲がより適当である。
【0029】
本発明の流動性組成物は、金属銅微粒子と分散媒とを、更にはその他の添加剤を公知の方法により混合して製造することができ、例えば、撹拌混合、コロイドミル等の湿式粉砕混合などの方法を用いることができる。このようにして得られた流動性組成物は種々の用途に用いることができ、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の方法により、基板に塗布後、加熱焼成してプリント配線基板の回路や、その他の微細な導電部材として用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0031】
1.銅微粒子の調製と評価
【0032】
実施例1〜16
平均結晶子径が90.2nmの工業用酸化第二銅(N−120:エヌシーテック社製)24g、保護コロイドとしてゼラチン9.6gを300ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤(用いた錯化剤の種類及び添加量を表1に示す)の溶液と、80%のヒドラジン一水和物28gとを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを試料A〜Pとする。
【0033】
実施例17
実施例1で用いた工業用酸化第二銅24g、保護コロイドとしてゼラチン2.8gを150ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤として1%の3−メルカプトプロピオン酸溶液0.24g(添加量は表1に示す)と、80%のヒドラジン一水和物10gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子(試料Q)を得た。
【0034】
実施例18
実施例1で用いた工業用酸化第二銅64g、保護コロイドとしてゼラチン5.1gを650ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを10に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤として1%のメルカプト酢酸溶液6.4g(添加量は表1に示す)と、80%のヒドラジン一水和物75gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子(試料R)を得た。
【0035】
実施例19
実施例1で用いた工業用酸化第二銅24g、錯化剤として3−メルカプトプロピオン酸0.065g(添加量は表1に示す)、保護コロイドとしてゼラチン3.8gを400ミリリットルの純水に添加、混合し、10%の硫酸を用いて混合液のpHを4に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら80%ヒドラジン一水和物を添加し、2時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子(試料S)を得た。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例20〜22
実施例8、12、18において、銅微粒子が生成した後、保護コロイド除去剤としてセリンプロテアーゼ(プロテナーゼK:ワシントン・バイオ・ケミカル社製)5ミリリットルを添加して1時間保持し、その後は同様に濾過洗浄、乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを、試料a〜cとする。尚、セリンプロテアーゼの添加量は、ゼラチン1000重量部に対し100重量部であった。
【0038】
実施例23〜25
実施例20〜22において、セリンプロテアーゼを添加して1時間保持した後、更にポリアミジン系高分子凝集剤(SC−700:ハイモ社製)を添加し、同様に濾過洗浄、乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを、試料d〜fとする。尚、ポリアミジン系高分子凝集剤の添加量は銅微粒子1000重量部に対して30重量部であった。
【0039】
実施例26〜28
実施例20〜22において、タンパク質分解酵素を添加し1時間保持した後、硫酸を用いてpHを5に調整し、その後は同様に濾過洗浄、乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを、試料g〜iとする。
【0040】
比較例1
錯化剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして銅微粒子(試料T)を得た。
【0041】
比較例2
ゼラチンを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして銅微粒子(試料U)を得た。
【0042】
比較例3
平均結晶子径が5.1nmの水酸化第二銅29g、錯化剤としてCuO1000重量部に対し18重量部に相当するトリ−n−プロピルアミンの水溶液、保護コロイドとしてゼラチン9.6gを300ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から60℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、ブドウ糖20gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて反応させ、中間生成物を得た。引き続き、温度を60℃に保持しながら、80%のヒドラジン一水和物28gを添加し、1時間かけて中間生成物と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、銅微粒子(試料V)を得た。
【0043】
評価1:平均粒子径の測定
実施例1〜28、比較例1〜4で得られた試料A〜V、a〜iの平均一次粒子径(D)を電子顕微鏡法により測定し、平均二次粒子径(d)を動的光散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックUPA型:日機装社製)を用いて測定した。平均二次粒子径(d)の測定には、試料を超音波分散機を用いて水中に十分に分散させ、レーザーの信号強度が0.6〜0.8になるように濃度調整した水系スラリーを用いた。結果を表2に示す。本発明より得られた銅微粒子は、平均粒子径(D)が、すなわち、一次粒子径が微細であることが判る。また、平均粒子径(d)、すなわち、二次粒子径も微細であり、同じにd/Dが1に近似しており、ほとんど凝集粒子を含まないことが判る。
【0044】
【表2】
【0045】
評価2:粒子形状の確認
実施例1、2、12、13、17、18、19、比較例1、2で得られた試料A、B、L、M、Q〜Uの電子顕微鏡写真を撮影した。その結果を図1〜9に示す。本発明により得られた銅微粒子は、多面体構造の整った粒子形状を有することが判る。
【0046】
評価3:酸化第一銅生成の確認
実施例14において、還元剤を添加してから25分後、35分後、55分後に還元反応途中の媒液を分取し、蒸発乾固した。これらを試料j〜lとする。試料j〜l及び出発物質として用いた酸化第二銅(N−120)のX線回折を測定し比較した。結果を図10に示す。試料j〜lには、酸化第一銅に由来するピークが認められず、酸化第二銅から酸化第一銅を経由せず金属銅に還元されたことが判る。尚、他の実施例についても同様の評価を行ったところ、還元反応中に酸化第一銅が生成していないことが確認された。また、比較例3において、得られた中間生成物を含む媒液を濾別、乾燥し、この乾燥物(試料m)のX線回折を測定した。その結果を図11に示す。中間生成物が酸化第一銅であることが判る。
【0047】
評価4:収率、洗浄性の評価
実施例20〜28、比較例3について、ブフナーロートを用いて吸引濾過により固液分離し、濾過中に純水で洗浄を行って、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまでに要する洗浄時間を測定した。また、回収した銅微粒子の重量を測定し、収率((銅微粒子の回収量/使用した銅化合物量から算出した金属銅換算量)×100)を算出した。結果を表3に示す。保護コロイド除去剤の使用、及び、保護コロイド除去剤と凝集剤またはpH調整との併用により、濾過洗浄性、収率が向上していることが判る。
【0048】
【表3】
【0049】
2.銅ペーストの調製と評価
【0050】
実施例29、比較例4、5
実施例11、比較例1、3で得られた銅微粒子(試料K、T、V)を、表4に示す処方で、3本ロール(ロール径65mmΦ)を用い、3パス(ロールクリアランス:1パス目30μm、2及び3パス目1μm)して混練して、本発明及び比較対象の銅ペーストを得た。それぞれを試料n〜pとする。
【0051】
【表4】
【0052】
評価5:分散性の評価
実施例29、比較例4、5の銅ペースト(試料n〜p)を、つぶゲージを用い、JISK5400に準じた方法で分散性を測定した。結果を表5に示す。測定値が小さい程分散性が優れていることを表すことから、本発明の銅微粒子は銅ペーストにした際の分散性が優れていることが判る。
【0053】
評価6:導電性の評価
実施例29、比較例4、5の銅ペースト(試料n〜p)を、4ミルアプリケーターを用い、アルミニウム板上に塗布し、80℃の温度で2時間予備乾燥した。その後、窒素雰囲気中(窒素流量:500cc/分)で300℃の温度で1時間焼き付けて塗膜化し、更に、濃度2%の水素雰囲気下で500℃の温度で1時間焼成し還元した。得られた塗膜を空冷した後、塗膜の体積抵抗率を、ロレスタ−GP型低抵抗率計(三菱化学社製)を用いて測定した。その結果を表5に示す。体積抵抗率が小さい程導電性が高いことを表すことから、本発明の銅微粒子を配合した銅ペーストは導電性が高いことが判る。
【0054】
【表5】
【0055】
本発明の好ましい態様は下記のようなものである。
1.錯化剤及び保護コロイドの存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
2.2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、2価の銅酸化物から1価の銅酸化物を生成する工程を経ることなく金属銅微粒子を生成させることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
3.2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜200重量部の範囲の錯化剤を用いることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
4.錯化剤が有する配位子のドナー原子が窒素、酸素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
5.錯化剤がアミン類、窒素含有複素環化合物、ニトリル類及びシアン化合物、カルボン酸類、ケトン類、リン酸及びリン酸系化合物、アミノ酸類、アミノポリカルボン酸類、アルカノールアミン類またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする4に記載の銅微粒子の製造方法。
6.錯化剤がブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、イミダゾール、クエン酸またはそのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、次亜リン酸またはそのアルカリ金属塩、ヒスチジン、アルギニン、エチレンジアミンテトラ酢酸またはそのアルカリ金属塩、エタノールアミン、アセトニトリルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする5に記載の銅微粒子の製造方法。
7.錯化剤が有する配位子のドナー原子の少なくとも一つが硫黄であり、2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜2重量部の範囲の錯化剤を用いることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
8.錯化剤がメルカプトカルボン酸類、チオグリコール類、含硫黄アミノ酸類またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする7に記載の銅微粒子の製造方法。
9.錯化剤がメルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、メルカプトエタノール、システインから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする8に記載の銅微粒子の製造方法。
10.還元剤がヒドラジン系還元剤であることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
11.2価の銅酸化物が20〜500nmの範囲の平均結晶子径を有することを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
12.金属銅微粒子を生成させた後、媒液に保護コロイド除去剤を添加して金属銅微粒子を凝集させ、次いで、分別することを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
13.保護コロイドとしてタンパク質系保護剤を用い、保護コロイド除去剤としてタンパク質分解酵素を用いることを特徴とする12に記載の銅微粒子の製造方法。
14.1に記載の方法で得られ、電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜2の範囲であることを特徴とする銅微粒子。
15.電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜0.5μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜0.5μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であることを特徴とする銅微粒子。
16.14または15に記載の銅微粒子と分散媒を少なくとも含有することを特徴とする流動性組成物。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の銅微粒子は、電子機器の電極材料等として有用であり、特に銅ペースト・塗料・インキ等の流動性組成物にして用いると、積層セラミックスコンデンサーの内部電極、プリント配線基板の回路、その他の電極等に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅微粒子及びその製造方法に関し、特に積層セラミックスコンデンサーの電極や、プリント配線基板の回路等を製造する際に好適に用いられる銅微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銅微粒子は良好な電気伝導性を有する廉価な材料であり、プリント配線基板の回路形成部材、各種電気的接点部材、コンデンサー等の外部電極部材などの電気的導通を確保するための材料として幅広く用いられ、近年、積層セラミックスコンデンサーの内部電極にも用いられ始めている。積層セラミックスコンデンサーは、電解コンデンサー、フィルムコンデンサー等他の形式のコンデンサーと比較して、大容量が得られ易く、実装性に優れ、安全性・安定性が高いので、急速に普及している。最近の電子機器の小型化に伴い、積層セラミックスコンデンサーも小型化する方向にあるが、大容量を維持するには、セラミックスシートの積層数を減らさずに小型化する必要があり、強度等の点でシートの薄層化には限界があるため微細な金属銅粒子を用い内部電極を薄層化することで、積層セラミックスコンデンサーの小型化を実現している。
【0003】
金属銅微粒子を電気的導通を確保する材料として用いるには、通常銅微粒子を溶媒に分散したり、エポキシ樹脂などのバインダーと混合してペースト化あるいは塗料化あるいはインキ化して、銅ペースト・塗料・インキ等の流動性組成物とする。そして、例えば、プリント配線基板の回路等の形成では、前記の流動性組成物をスクリーン印刷、インクジェット印刷等の手法で基板上に回路や電極のパターンに塗布した後、加熱して金属銅微粒子を融着させ、微細な電極を形成している。また、積層セラミックスコンデンサーの内部電極の形成では、薄層のセラミックスシート上に前記の流動性組成物を塗布し、シートを積層した後、加熱焼成して内部電極を形成している。
【0004】
金属銅微粒子の製造方法としては、アラビアゴム等の保護コロイドを含む水性媒液中で、ヒドラジン系還元剤により酸化銅を還元する方法(特許文献1参照)が知られており、この方法の実施例では電子顕微鏡法による平均粒子径が0.4〜32μmの範囲の銅微粒子が得られている。また、銅塩水溶液から水酸化銅を析出し、得られた水酸化銅に還元糖を添加して亜酸化銅(酸化第一銅)にまで還元し、次いで、ヒドラジン系還元剤により金属銅まで還元する方法(特許文献2)が知られており、銅塩水溶液にロシェル塩、アミノ酸、アンモニア及びアンモニウム化合物等の錯化剤を添加すると銅イオンを安定に溶解できるため有効であることを記載している。この方法に基づいた実施例では、粒度分布が0.5±0.1μmから3.1±0.3μmまでの銅微粒子が得られている。更に、前記の特許文献2に記載の方法において、保護コロイドとしてのゼラチンを銅塩水溶液に添加し、更にその後の金属銅の核粒子成長中に添加する方法も知られている(特許文献3参照)。この方法の実施例ではマイクロトラックによって測定(動的光散乱法)した粒度分布が0.90±0.05μmから5.14±0.25μmまでの銅微粒子が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−55562号公報
【特許文献2】特許第2638271号公報
【特許文献3】特開平4−235205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では微細な金属銅粒子が得られるものの、金属銅の一次粒子が単分散ではなく著しく凝集した状態で生成したり、二次粒子の形状が粒塊状で、大きさも形状も不揃いになったりするため、流動性組成物への分散性が十分でなく、回路、電極等を形成した際に充填性が悪く、欠陥が生じ易いという問題があり、積層セラミックスコンデンサーの内部電極の薄層化や、プリント配線板の回路の極細化にも対応でき難い。このため、金属銅微粒子としては、微細であるにもかかわらず、凝集粒子がほとんどなく、粒子形状が整い、分散性に優れた銅微粒子が要望されている。
また、金属銅微粒子を製造する際に、保護コロイドを分散安定化剤として用いると、銅微粒子表面に保護コロイドが被着または吸着し、銅微粒子を凝集させずに単分散の状態で得られ易いが、保護コロイドの存在により、生成した銅微粒子が高度に分散しているため、凝集剤を添加したとしても、原料の銅化合物、還元剤の残分、保護コロイドのほかpH調整剤などの添加剤に由来する陰イオンや陽イオンが多量に存在する媒液から銅微粒子を固液分離し難く、大量生産に不向きな限外濾過を行わなければならないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく原料の銅化合物や保護コロイド等の添加剤を中心に鋭意研究を重ねた結果、前記の特許文献2、3のように原料の銅化合物として1価の銅酸化物を用いたり、2価の銅酸化物から還元によって1価の銅酸化物を生成した後に1価の銅酸化物を再度還元する2段階の反応で金属銅微粒子を生成すると、1価の銅酸化物が非常に還元され易いので還元反応が非常に速く進行すること、しかも、銅酸化物と錯体を形成して還元剤との反応速度を制御する錯化剤を用いても反応速度の制御が困難であること、このため、反応液中に多量の金属銅の微結晶が不均一な濃度分布で生成するので、粒子成長も不均一になり、銅微粒子の形状が不揃いになったり、凝集粒子の生成を抑制できなくなること、しかも、生成した銅微粒子の表面に被着または吸着して銅微粒子の凝集を抑制する保護コロイドが存在しても凝集粒子の生成を抑制できないことを見出した。一方、2価の銅酸化物は1価の銅酸化物に比べて還元速度が遅く、しかも、反応液に錯化剤を添加すると少量の金属銅の微結晶が生成し、この微結晶が核となって、還元反応の進行に従って均一に粒子成長すること、さらに、保護コロイドを添加すると微細で、凝集粒子をほとんど含まない単分散の、しかも粒子形状の整った銅微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
次に、本発明者らは、保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、反応液に保護コロイド除去剤を添加すると銅微粒子を凝集させることができ、通常の手段でも銅微粒子を濾過できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、(1)錯化剤及び保護コロイドの存在下で、銅の原子価が2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させることを特徴とする銅微粒子の製造方法、(2)錯化剤及び保護コロイドの存在下で、銅の原子価が2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、2価の銅酸化物から銅の原子価が1価の銅酸化物を生成する工程を経ることなく金属銅微粒子を生成させることを特徴とする銅微粒子の製造方法である。
また、本発明は、(3)前記(1)、(2)により錯化剤及び保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、媒液に保護コロイド除去剤を添加して金属銅微粒子を凝集させ、次いで、分別することを特徴とする銅微粒子の製造方法である。
また、本発明は、(4)前記方法によって得られ、電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜2の範囲であることを特徴とする銅微粒子である。しかも、本発明は、(5)電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜0.5μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜0.5μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であることを特徴とする銅微粒子である。
更に、本発明は、(6)前記(4)、(5)の銅微粒子と分散媒を少なくとも含有することを特徴とする流動性組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により得られる銅微粒子は、微細で、凝集粒子をほとんど含まず、粒子形状が整っており、分散性に優れている。このものは、電子機器の電極材料等として有用であり、この銅微粒子を流動性組成物にして、例えば、積層セラミックスコンデンサーの内部電極、プリント配線基板の回路、その他の電極等に用いると、薄膜で高密度の電極等が得られる。
しかも、保護コロイド除去剤を用いると濾過漏れも少なく、銅微粒子の収率が向上し、濾過・洗浄時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は実施例1で得られた銅微粒子(試料A)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図2】図2は実施例2で得られた銅微粒子(試料B)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図3】図3は実施例12で得られた銅微粒子(試料L)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図4】図4は実施例13で得られた銅微粒子(試料M)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図5】図5は実施例17で得られた銅微粒子(試料Q)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図6】図6は実施例18で得られた銅微粒子(試料R)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図7】図7は実施例19で得られた銅微粒子(試料S)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図8】図8は比較例1で得られた銅微粒子(試料T)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図9】図9は比較例2で得られた銅微粒子(試料U)の電子顕微鏡写真(倍率54000倍)である。
【図10】図10は試料j〜1及びN−120のX線回折チャートである。
【図11】図11は試料mのX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は銅微粒子の製造方法であって、錯化剤及び保護コロイドの存在下で、銅の原子価が2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合し、還元して金属銅微粒子を生成させる。本発明においては、原料として2価の銅酸化物を用いることが重要であって、亜酸化銅(酸化第一銅)の1価の銅酸化物は使用しない。しかも、2価の銅酸化物から1価の銅酸化物を生成しない条件で還元して1段階の反応で金属微粒子を生成するのが好ましい。本発明の「2価の銅酸化物」は、銅の原子価が2価(Cu2+)であり、酸化第二銅、水酸化第二銅及びこれらの混合物を包含する。2価の銅酸化物は、その他の金属、金属化合物や非金属化合物などの不純物を適宜含んでいても良いが、1価の銅酸化物は不可避の量以外は実質的に含有しないものが好ましい。また、2価の銅酸化物として酸化第二銅に帰属するX線回折ピークを有するものが好ましく用いられ、酸化第二銅の(110)面のX線回折ピークから下式1を用いて算出した平均結晶子径が20〜500nmの範囲にあるものを用いるのがより好ましく、50〜200nmの範囲が更に好ましい。2価の銅酸化物の平均結晶子径が少なくとも前記の範囲であれば所望の金属銅微粒子が生成できるが、前記の範囲より小さいと、粒子径が小さく結晶性も低いので、酸化第二銅の溶解速度が速くなり、多量の錯化剤を用いないと、還元反応速度が制御し難くなるため好ましくなく、一方、前記の範囲より大きいと、粒子径が大きく結晶性が良好となり、溶解速度が遅くなって、還元反応時間を長くしないと、銅微粒子中に未反応の酸化第二銅が残存し易くなるため好ましくない。2価の銅酸化物の製造方法には制限はなく、例えば、電解法、化成法、加熱酸化法、熱分解法、間接湿式法等で工業的に製造されたものを用いることができる。
式1:DHKL=K*λ/βcosθ
DHKL :平均結晶子径(Å)
λ :X線の波長
β :回折ピークの半価幅
θ :Bragg’s角
K :定数(=0.9)
【0012】
本発明では、2価の銅酸化物と還元剤とを混合する際に、錯化剤及び保護コロイドが存在していれば、それぞれの原材料の添加順序には制限はなく、例えば、(1)錯化剤及び保護コロイドを含む媒液に、2価の銅酸化物と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(2)錯化剤、保護コロイド、2価の銅酸化物を含む媒液に、還元剤を添加する方法、(3)保護コロイド、2価の銅酸化物を含む媒液に、錯化剤と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(4)保護コロイド、2価の銅酸化物を含む媒液に、錯化剤と還元剤の混合液を添加する方法、等が挙げられる。中でも(3)、(4)の方法が反応を制御し易いので好ましく、(4)の方法が特に好ましい。2価の銅酸化物、還元剤、錯化剤、保護コロイドは還元反応に用いる前に予め媒液に懸濁あるいは溶解して用いても良い。尚、「同時並行的添加」とは、反応期間中において2価の銅酸化物と還元剤あるいは錯化剤と還元剤とをそれぞれ別々に同時期に添加する方法をいい、両者を反応期間中継続して添加する他に、一方あるいは両者を間欠的に添加することも含む。
【0013】
媒液には、例えば、水系またはアルコール等の有機溶媒系媒液を、好ましくは水系媒液を用いる。反応温度は、10℃〜用いた媒液の沸点の範囲であれば反応が進み易いので好ましく、40〜95℃の範囲であれば微細な金属銅微粒子が得られるためより好ましく、60〜95℃の範囲が更に好ましく、80〜95℃の範囲が特に好ましい。反応液のpHを酸またはアルカリで3〜12の範囲に予め調整すると、2価の銅酸化物の沈降を防ぎ、均一に反応させることができるので好ましい。反応時間は、還元剤等の原材料の添加時間などで制御して設定することができ、例えば、10分〜6時間程度が適当である。
【0014】
本発明の「錯化剤」は、2価の銅酸化物から銅イオンが溶出するか、または2価の銅酸化物が還元されて金属銅が生成する過程で作用すると考えられ、これが有する配位子のドナー原子と銅イオンまたは金属銅とが結合して銅錯体化合物を形成し得る化合物を言い、ドナー原子としては、例えば、窒素、酸素、硫黄等が挙げられる。具体的には、
(1)窒素がドナー原子である錯化剤としては、(a)アミン類(例えば、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、エチレンジアミン等の1級アミン類、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、及び、ピペリジン、ピロリジン等のイミン類等の2級アミン類、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等の3級アミン類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミンの1分子内に1〜3級アミンを2種以上有するもの等)、(b)窒素含有複素環式化合物(例えば、イミダゾール、ピリジン、ビピリジン等)、(c)ニトリル類(例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等)及びシアン化合物、(d)アンモニア及びアンモニウム化合物(例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等)、(e)オキシム類等が挙げられる。
(2)酸素がドナー原子である錯化剤としては、(a)カルボン酸類(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等のオキシカルボン酸類、酢酸、ギ酸等のモノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸等のジカルボン酸類、安息香酸等の芳香族カルボン酸類等)、(b)ケトン類(例えば、アセトン等のモノケトン類、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のジケトン類等)、(c)アルデヒド類、(d)アルコール類(1価アルコール類、グリコール類、グリセリン類等)、(e)キノン類、(f)エーテル類、(g)リン酸(正リン酸)及びリン酸系化合物(例えば、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等)、(h)スルホン酸またはスルホン酸系化合物等が挙げられる。
(3)硫黄がドナー原子である錯化剤としては、(a)脂肪族チオール類(例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、アリルメルカプタン、ジメチルメルカプタン等)、(b)脂環式チオール類(シクロヘキシルチオール等)、(c)芳香族チオール類(チオフェノール等)、(d)チオケトン類、(e)チオエーテル類、(f)ポリチオール類、(g)チオ炭酸類(トリチオ炭酸類)、(h)硫黄含有複素環式化合物(例えば、ジチオール、チオフェン、チオピラン等)、(i)チオシアナート類及びイソチオシアナート類、(j)無機硫黄化合物(例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素等)等が挙げられる。
(4)2種以上のドナー原子を有する錯化剤としては、(a)アミノ酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、グリシン、アラニン等の中性アミノ酸類、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸類、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸類)、(b)アミノポリカルボン酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレンジアミンジ酢酸(EDDA)、エチレングリコールジエチルエーテルジアミンテトラ酢酸(GEDA)等)、(c)アルカノールアミン類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、(d)ニトロソ化合物及びニトロシル化合物(ドナー原子が窒素及び酸素)、(e)メルカプトカルボン酸類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、ジメルカプトコハク酸、チオ酢酸、チオジグリコール酸等)、(f)チオグリコール類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトエタノール、チオジエチレングリコール等)、(g)チオン酸類(ドナーが硫黄及び酸素)、(h)チオ炭酸類(ドナー原子が硫黄及び酸素:例えば、モノチオ炭酸、ジチオ炭酸、チオン炭酸)、(i)アミノチオール類(ドナーが硫黄及び窒素:アミノエチルメルカプタン、チオジエチルアミン等)、(j)チオアミド類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えば、チオホルムアミド等)、(k)チオ尿素類(ドナー原子が硫黄及び窒素)、(l)チアゾール類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えばチアゾール、ベンゾチアゾール等)、(m)含硫黄アミノ酸類(ドナーが硫黄、窒素及び酸素:システイン、メチオニン等)等が挙げられる。
(5)上記の化合物の塩や誘導体としては、例えば、クエン酸トリナトリウム、酒石酸ナトリウム・カリウム、次亜リン酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸ジナトリウム等のそれらのアルカリ金属塩や、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等のエステル等が挙げられる。
このような錯化剤のうち、少なくとも1種を用いることができる。錯化剤の使用量は適宜設定することができ、2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜200重量部の範囲に設定すると、本発明の効果が得られ易いので好ましい。前記範囲内で、錯化剤の使用量を少なくすると、銅微粒子の一次粒子を小さくすることができ、使用量を多くすると、一次粒子を大きくすることができる。より好ましい使用量は、0.1〜200重量部の範囲であり、0.5〜150重量部の範囲が更に好ましい。
【0015】
本発明では、窒素、酸素から選ばれる少なくとも1種をドナー原子として含む錯化剤であれば、本発明の効果が得られ易いので好ましい。具体的には、アミン類、窒素含有複素環式化合物、ニトリル類及びシアン化合物、カルボン酸類、ケトン類、リン酸及びリン酸系化合物、アミノ酸類、アミノポリカルボン酸類、アルカノールアミン類、またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種であればより好ましく、カルボン酸類の中ではオキシカルボン酸類が、ケトン類の中ではジケトン類が、アミノ酸類の中では塩基性及び酸性アミノ酸類が好ましい。更に、錯化剤が、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、イミダゾール、クエン酸またはそのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、次亜リン酸またはそのアルカリ金属塩、ヒスチジン、アルギニン、エチレンジアミンテトラ酢酸またはそのアルカリ金属塩、エタノールアミン、アセトニトリルから選ばれる少なくとも1種であれば好ましい。これらの酸素系または窒素系の錯化剤の使用量は、前記のように2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜200重量部の範囲が好ましく、0.1〜200重量部の範囲がより好ましく、0.5〜150重量部の範囲が更に好ましい。
【0016】
また、本発明では、ドナー原子の少なくとも一つが硫黄である錯化剤を用い、この錯化剤を、2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜2重量部の範囲で用いると、いっそう微細な銅微粒子の生成を制御し易くなる。硫黄を含む錯化剤としては、前記のメルカプトカルボン酸類、チオグリコール類、含硫黄アミノ酸類、脂肪族チオール類、脂環式チオール類、芳香族チオール類、チオケトン類、チオエーテル類、ポリチオール類、チオ炭酸類、硫黄含有複素環式化合物、チオシアナート類及びイソチオシアナート類、無機硫黄化合物、チオン酸類、アミノチオール類、チオアミド類、チオ尿素類、チアゾール類またはそれらの塩または誘導体等が挙げられる。中でもメルカプトカルボン酸類、チオグリコール類、含硫黄アミノ酸類が効果が高いので好ましく、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、メルカプトエタノール、システインであれば更に好ましい。より好ましい使用量は、0.05〜1重量部の範囲であり、0.05重量部以上0.5重量部未満であれば更に好ましい。
【0017】
「保護コロイド」は、生成した銅微粒子の分散安定化剤として作用するものであり、本発明では保護コロイドとして公知のものを用いることができ、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等のタンパク質系、デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等の天然高分子や、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等のアクリル酸系、ポリエチレングリコール等の合成高分子等が挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。高分子の保護コロイドは分散安定化の効果が高いので、これを用いるのが好ましく、水系媒液中で反応させる場合、水溶性のものを用いるのが好ましく、特にゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールが好ましい。その使用量を2価の銅酸化物100重量部に対し1〜100重量部の範囲にすると、生成した銅微粒子が分散安定化し易いので好ましく、2〜50重量部の範囲が更に好ましい。
【0018】
「還元剤」としては、還元反応中に1価の銅酸化物が生成しないように、還元力が強いものを用いるのが好ましく、例えば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物等のヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸及び亜リン酸ナトリウム等のその塩、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等のその塩等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いても良い。特に、ヒドラジン系還元剤は還元力が強く好ましい。還元剤の使用量は、2価の銅酸化物から銅微粒子を生成できる量であれば適宜設定することができ、2価の銅酸化物中に含まれる銅1モルに対し0.2〜5モルの範囲にあるのが好ましい。還元剤が前記範囲より少ないと反応が進み難く、銅微粒子が十分に生成せず、前記範囲より多いと反応が進みすぎ、所望の銅微粒子が得られ難いため好ましくない。更に好ましい還元剤の使用量は、0.3〜2モルの範囲である。
【0019】
前記の方法により錯化剤及び保護コロイドの存在下で金属銅微粒子を生成させた後、必要に応じて分別、洗浄を行うが、媒液に保護コロイド除去剤を添加して金属銅微粒子を凝集させ、次いで、分別するのが好ましい。「保護コロイド除去剤」は、保護コロイドを分解または溶解して保護コロイドの作用を抑制する化合物であり、媒液から保護コロイドを完全に除去できなくても一部でも除去できるのであれば、本発明の効果が得られる。保護コロイド除去剤の種類は、用いる保護コロイドに応じて適宜選択する。具体的には、タンパク質系の保護コロイドに対しては、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、チオールプロテアーゼ(例えば、パパイン等)、酸性プロテアーゼ(例えば、ペプシン等)、金属プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素を、デンプン系に対しては、アミラーゼ、マルターゼ等のデンプン分解酵素を、セルロース系にはセルラーゼ、セロビアーゼ等のセルロース分解酵素を用いることができる。ビニル系、アクリル酸系、ポリエチレングリコール等の保護コロイドには、ホルムアミド、グリセリン、グリコール等の有機溶剤や、酸、アルカリ等を用いることができる。保護コロイド除去剤の添加量は銅微粒子を凝集させ分別できる程度に保護コロイドを除去できる量であれば良く、その種類によって異なるが、タンパク質分解酵素であれば、タンパク質系保護コロイド1000重量部に対し0.001〜1000重量部の範囲が好ましく、0.01〜200重量部がより好ましく、0.01〜100重量部が更に好ましい。保護コロイド除去剤を添加する際の媒液の温度は適宜設定することができ、還元反応温度を保持した状態でも良く、あるいは、10℃〜用いた媒液の沸点の範囲であれば、保護コロイドの除去が進み易いので好ましく、40〜95℃の範囲であれば更に好ましい。保護コロイド除去剤を添加した後、その状態を適宜保持すれば保護コロイドを分解することができ、例えば10分〜10時間程度が適当である。保護コロイドを除去して金属微粒子を凝集させた後、通常の方法で分別する。分別手段は特に制限はなく、重力濾過、加圧濾過、真空濾過、吸引濾過、遠心濾過、自然沈降などの手段をとり得るが、工業的には加圧濾過、真空濾過、吸引濾過が好ましく、脱水能力が高く大量に処理できるので、フィルタープレス、ロールプレス等の濾過機を用いるのが好ましい。
【0020】
前記の方法の実施態様として、保護コロイド除去剤を添加した後、更に凝集剤を添加すると、収率がよりいっそう向上するので好ましい。凝集剤としては公知のものを用いることができ、具体的には、アニオン系凝集剤(例えば、ポリアクリルアミドの部分加水分解生成物、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合体、アルギン酸ソーダ等)、カチオン系凝集剤(例えば、ポリアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ポリアミジン、キトサン等)、両性凝集剤(例えば、アクリルアミド・ジメチルアミノエチルアクリレート・アクリル酸共重合体等)等が挙げられる。凝集剤の添加量は、必要に応じた量を適宜設定することができ、銅微粒子1000重量部に対し、0.5〜100重量部の範囲が好ましく、1〜50重量部の範囲が更に好ましい。
【0021】
あるいは、凝集剤の使用に替えて、保護コロイド除去剤を添加後、酸を用いて媒液のpHを6以下の範囲に調整しても、同様の収率の改良効果が得られる。pHが3より低いと、銅微粒子が腐食したり、溶解するので、3〜6の範囲が好ましいpH領域であり、4〜6の範囲とすると酸の使用量を減らせるので更に好ましい。
【0022】
金属銅微粒子を必要に応じて固液分離、洗浄した後、得られた金属銅微粒子の固形物を例えば水系またはアルコール等の有機溶媒系媒液に、好ましくは水系媒液に分散して用いることができる。あるいは、金属銅微粒子の固形物を通常の方法により乾燥しても良く、更に乾燥した後、例えば水系またはアルコール等の有機溶媒系媒液に、好ましくは水系媒液に分散して用いることもできる。金属銅微粒子は酸化され易いので、酸化を抑制するために、乾燥は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。乾燥後は、必要に応じて粉砕を行っても良い。
【0023】
次に、本発明は金属銅微粒子であって、少なくとも金属銅を含有した金属質を有するものであり、用途に差し支えない程度に銅微粒子の表面やその内部に不純物、銅酸化物や酸化安定化剤等を含んでいても良い。本発明の金属銅微粒子は微細で、凝集粒子をほとんど含まず、粒子形状が整っている。これらの指標として、電子顕微鏡法による平均粒子径(累積50%径)、すなわち平均一次粒子径を(D)、動的光散乱法による平均粒子径(累積50%径)、すなわち平均二次粒子径を(d)で表した際に、(D)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、(d)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜2の範囲にある。(D)、(d)が前記範囲の微細なものであり、d/Dが前記範囲の非常に1に近似していることから凝集の程度が低いので、流動性組成物への分散性が優れており、このような金属銅微粒子は前記の製造方法によって得られる。尚、d/Dは、通常は1以上の値をとるが、(D)、(d)の測定方法がそれぞれ異なるため、d/Dが1より小さくなる場合もある。本発明の金属銅微粒子の形状は、電子顕微鏡により観察することができ、多面体構造の整った粒子形状を有している。
【0024】
本発明の金属銅微粒子の好ましい範囲は、平均一次粒子径(D)が0.005〜1.0μmの範囲、平均二次粒子径(d)が0.005〜1.0μmの範囲で、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であり、より好ましい範囲は(D)が0.005〜0.75μmの範囲、(d)が0.005〜0.75μmの範囲で、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であり、更に好ましい範囲は(D)が0.005〜0.5μmの範囲、(d)が0.005〜0.5μmの範囲で、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であり、いっそう好ましい範囲は(D)が0.005〜0.4μmの範囲、(d)が0.005〜0.4μmの範囲で、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲である。更に、用途によっては、平均一次粒子径(D)、平均二次粒子径(d)の下限値は0.01μmがより好ましく、0.02μmが更に好ましく、0.05μmが最も好ましい。このような銅微粒子は、前記製造方法において、錯化剤に窒素、酸素から選ばれる少なくとも1種をドナー原子として含むものを用いることで得られる。
【0025】
更に、少なくとも硫黄をドナー原子として含む錯化剤の使用量を、銅酸化物1000重量部に対し0.01〜2重量部の範囲で、好ましくは0.05〜1重量部の範囲で、更に好ましくは0.05重量部以上0.5重量部未満で用いて得られた銅微粒子は、平均一次粒子径(D)が0.005〜0.5μmの範囲、平均二次粒子径(d)が0.005〜0.5μmの範囲で、且つd/Dが0.7〜1.5の範囲にある。この銅微粒子のより好ましい形態は、(D)が0.005μm以上0.1μm未満、(d)が0.005μm以上0.1μm未満の範囲にあり、且つd/Dが0.7〜1.5の範囲である。
【0026】
次に、本発明はインキ、塗料、ペースト等の流動性組成物であって、前記の金属銅微粒子と分散媒を少なくとも含有する。金属銅微粒子の配合量は少なくとも1重量%程度であれば良く、5重量%以上の高濃度が好ましく、10重量%以上がより好ましく、15重量%以上が更に好ましい。金属銅微粒子を分散させる分散媒としては、用いる銅微粒子との親和性に応じて適宜選択し、例えば、水溶媒、アルコール類、ケトン類等の親水性有機溶媒、直鎖状炭化水素類、環状炭化水素類、芳香族炭化水素類等の疎水性有機溶媒等を用いることができ、これらから選ばれる1種を用いても、または相溶性を有する2種以上を混合分散媒として用いても良く、あるいは、親水性有機溶媒を相溶化剤として用いて水と疎水性有機溶媒を混合して用いることもできる。具体的には、アルコール類としては例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、α−テルピネオールが挙げられ、ケトン類としては例えばシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、アセトンが挙げられる。更に有機溶媒としてトルエン、ミネラルスピリットなども好適に用いることができる。インキ、塗料に用いられる好ましい分散媒は、水溶媒または水を主体とする親水性有機溶媒との混合分散媒であり、この場合、水は、通常、混合分散媒中に50重量%以上、好ましくは80重量%以上含まれていれば良い。
【0027】
本発明の流動性組成物において、水を分散媒として用いる場合、水は表面張力が大きいので、必要に応じて、比誘電率が35以上、好ましくは35〜200の範囲の、沸点が100℃以上、好ましくは100〜250℃の範囲の有機溶媒を添加すると、加熱焼成時に塗布物にシワや縮み等の表面欠陥が生じ難く、均一で密度の高い塗布物が得られ易いので好ましい。このような有機溶媒としてN−メチルホルムアミド(比誘電率190、沸点197℃)、ジメチルスルホキシド(比誘電率45、沸点189℃)、エチレングリコール(比誘電率38、沸点226℃)、4−ブチロラクトン(比誘電率39、沸点204℃)、アセトアミド(比誘電率65、沸点222℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(比誘電率38、沸点226℃)、ホルムアミド(比誘電率111、沸点210℃)、N−メチルアセトアミド(比誘電率175、沸点205℃)、フルフラール(比誘電率40、沸点161℃)等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。中でも、表面張力が50×10−3N/m以下のN−メチルホルムアミド(表面張力38×10−3N/m)、ジメチルスルホキシド(表面張力43×10−3N/m)、エチレングリコール(表面張力48×10−3N/m)、4−ブチロラクトン(表面張力44×10−3N/m)、アセトアミド(表面張力39×10−3N/m)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(表面張力41×10−3N/m)等であれば、更に効果が高く好ましい。これらの高比誘電率、高沸点の有機溶媒は、水を除く分散媒中に20〜100重量%の範囲で含まれているのが好ましく、40〜100重量%の範囲が更に好ましい。
【0028】
本発明の流動性組成物には、前記の金属銅微粒子、分散媒の他に、界面活性剤、分散剤、増粘剤、可塑剤、防カビ剤等の添加剤を、適宜配合することもできる。界面活性剤は、金属銅微粒子の分散安定性を更に高める作用や、流動性組成物のレオロジー特性を制御し、塗工性を改良する作用を有するので好ましく、例えば、第4級アンモニウム塩等のカチオン系、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン系、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型等のノニオン系等の公知のものを用いることができ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。界面活性剤の配合量は、塗料組成に応じて適宜設定するが、一般的には金属銅微粒子1重量部に対し、0.01〜0.5重量部の範囲が好ましい。また、必要に応じ、本発明の効果を阻害しない範囲で、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、オリゴエステルアクリレート樹脂、キシレン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、セルロース系樹脂等の有機系の硬化性バインダーが含まれていても良い。硬化性バインダーの配合量は使用場面に応じて適宜設定でき、電極や配線パターンを形成する場合は、硬化性バインダーを配合しないか、金属銅微粒子1重量部に対し、0〜0.5重量%程度の範囲が適当であり、0〜0.1重量%の範囲がより適当である。
【0029】
本発明の流動性組成物は、金属銅微粒子と分散媒とを、更にはその他の添加剤を公知の方法により混合して製造することができ、例えば、撹拌混合、コロイドミル等の湿式粉砕混合などの方法を用いることができる。このようにして得られた流動性組成物は種々の用途に用いることができ、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の方法により、基板に塗布後、加熱焼成してプリント配線基板の回路や、その他の微細な導電部材として用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0031】
1.銅微粒子の調製と評価
【0032】
実施例1〜16
平均結晶子径が90.2nmの工業用酸化第二銅(N−120:エヌシーテック社製)24g、保護コロイドとしてゼラチン9.6gを300ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤(用いた錯化剤の種類及び添加量を表1に示す)の溶液と、80%のヒドラジン一水和物28gとを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを試料A〜Pとする。
【0033】
実施例17
実施例1で用いた工業用酸化第二銅24g、保護コロイドとしてゼラチン2.8gを150ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤として1%の3−メルカプトプロピオン酸溶液0.24g(添加量は表1に示す)と、80%のヒドラジン一水和物10gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子(試料Q)を得た。
【0034】
実施例18
実施例1で用いた工業用酸化第二銅64g、保護コロイドとしてゼラチン5.1gを650ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを10に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤として1%のメルカプト酢酸溶液6.4g(添加量は表1に示す)と、80%のヒドラジン一水和物75gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子(試料R)を得た。
【0035】
実施例19
実施例1で用いた工業用酸化第二銅24g、錯化剤として3−メルカプトプロピオン酸0.065g(添加量は表1に示す)、保護コロイドとしてゼラチン3.8gを400ミリリットルの純水に添加、混合し、10%の硫酸を用いて混合液のpHを4に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら80%ヒドラジン一水和物を添加し、2時間かけて酸化第二銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、本発明の銅微粒子(試料S)を得た。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例20〜22
実施例8、12、18において、銅微粒子が生成した後、保護コロイド除去剤としてセリンプロテアーゼ(プロテナーゼK:ワシントン・バイオ・ケミカル社製)5ミリリットルを添加して1時間保持し、その後は同様に濾過洗浄、乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを、試料a〜cとする。尚、セリンプロテアーゼの添加量は、ゼラチン1000重量部に対し100重量部であった。
【0038】
実施例23〜25
実施例20〜22において、セリンプロテアーゼを添加して1時間保持した後、更にポリアミジン系高分子凝集剤(SC−700:ハイモ社製)を添加し、同様に濾過洗浄、乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを、試料d〜fとする。尚、ポリアミジン系高分子凝集剤の添加量は銅微粒子1000重量部に対して30重量部であった。
【0039】
実施例26〜28
実施例20〜22において、タンパク質分解酵素を添加し1時間保持した後、硫酸を用いてpHを5に調整し、その後は同様に濾過洗浄、乾燥し、本発明の銅微粒子を得た。それぞれを、試料g〜iとする。
【0040】
比較例1
錯化剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして銅微粒子(試料T)を得た。
【0041】
比較例2
ゼラチンを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして銅微粒子(試料U)を得た。
【0042】
比較例3
平均結晶子径が5.1nmの水酸化第二銅29g、錯化剤としてCuO1000重量部に対し18重量部に相当するトリ−n−プロピルアミンの水溶液、保護コロイドとしてゼラチン9.6gを300ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から60℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、ブドウ糖20gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて反応させ、中間生成物を得た。引き続き、温度を60℃に保持しながら、80%のヒドラジン一水和物28gを添加し、1時間かけて中間生成物と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまで濾過洗浄し、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、銅微粒子(試料V)を得た。
【0043】
評価1:平均粒子径の測定
実施例1〜28、比較例1〜4で得られた試料A〜V、a〜iの平均一次粒子径(D)を電子顕微鏡法により測定し、平均二次粒子径(d)を動的光散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックUPA型:日機装社製)を用いて測定した。平均二次粒子径(d)の測定には、試料を超音波分散機を用いて水中に十分に分散させ、レーザーの信号強度が0.6〜0.8になるように濃度調整した水系スラリーを用いた。結果を表2に示す。本発明より得られた銅微粒子は、平均粒子径(D)が、すなわち、一次粒子径が微細であることが判る。また、平均粒子径(d)、すなわち、二次粒子径も微細であり、同じにd/Dが1に近似しており、ほとんど凝集粒子を含まないことが判る。
【0044】
【表2】
【0045】
評価2:粒子形状の確認
実施例1、2、12、13、17、18、19、比較例1、2で得られた試料A、B、L、M、Q〜Uの電子顕微鏡写真を撮影した。その結果を図1〜9に示す。本発明により得られた銅微粒子は、多面体構造の整った粒子形状を有することが判る。
【0046】
評価3:酸化第一銅生成の確認
実施例14において、還元剤を添加してから25分後、35分後、55分後に還元反応途中の媒液を分取し、蒸発乾固した。これらを試料j〜lとする。試料j〜l及び出発物質として用いた酸化第二銅(N−120)のX線回折を測定し比較した。結果を図10に示す。試料j〜lには、酸化第一銅に由来するピークが認められず、酸化第二銅から酸化第一銅を経由せず金属銅に還元されたことが判る。尚、他の実施例についても同様の評価を行ったところ、還元反応中に酸化第一銅が生成していないことが確認された。また、比較例3において、得られた中間生成物を含む媒液を濾別、乾燥し、この乾燥物(試料m)のX線回折を測定した。その結果を図11に示す。中間生成物が酸化第一銅であることが判る。
【0047】
評価4:収率、洗浄性の評価
実施例20〜28、比較例3について、ブフナーロートを用いて吸引濾過により固液分離し、濾過中に純水で洗浄を行って、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまでに要する洗浄時間を測定した。また、回収した銅微粒子の重量を測定し、収率((銅微粒子の回収量/使用した銅化合物量から算出した金属銅換算量)×100)を算出した。結果を表3に示す。保護コロイド除去剤の使用、及び、保護コロイド除去剤と凝集剤またはpH調整との併用により、濾過洗浄性、収率が向上していることが判る。
【0048】
【表3】
【0049】
2.銅ペーストの調製と評価
【0050】
実施例29、比較例4、5
実施例11、比較例1、3で得られた銅微粒子(試料K、T、V)を、表4に示す処方で、3本ロール(ロール径65mmΦ)を用い、3パス(ロールクリアランス:1パス目30μm、2及び3パス目1μm)して混練して、本発明及び比較対象の銅ペーストを得た。それぞれを試料n〜pとする。
【0051】
【表4】
【0052】
評価5:分散性の評価
実施例29、比較例4、5の銅ペースト(試料n〜p)を、つぶゲージを用い、JISK5400に準じた方法で分散性を測定した。結果を表5に示す。測定値が小さい程分散性が優れていることを表すことから、本発明の銅微粒子は銅ペーストにした際の分散性が優れていることが判る。
【0053】
評価6:導電性の評価
実施例29、比較例4、5の銅ペースト(試料n〜p)を、4ミルアプリケーターを用い、アルミニウム板上に塗布し、80℃の温度で2時間予備乾燥した。その後、窒素雰囲気中(窒素流量:500cc/分)で300℃の温度で1時間焼き付けて塗膜化し、更に、濃度2%の水素雰囲気下で500℃の温度で1時間焼成し還元した。得られた塗膜を空冷した後、塗膜の体積抵抗率を、ロレスタ−GP型低抵抗率計(三菱化学社製)を用いて測定した。その結果を表5に示す。体積抵抗率が小さい程導電性が高いことを表すことから、本発明の銅微粒子を配合した銅ペーストは導電性が高いことが判る。
【0054】
【表5】
【0055】
本発明の好ましい態様は下記のようなものである。
1.錯化剤及び保護コロイドの存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
2.2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、2価の銅酸化物から1価の銅酸化物を生成する工程を経ることなく金属銅微粒子を生成させることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
3.2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜200重量部の範囲の錯化剤を用いることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
4.錯化剤が有する配位子のドナー原子が窒素、酸素から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
5.錯化剤がアミン類、窒素含有複素環化合物、ニトリル類及びシアン化合物、カルボン酸類、ケトン類、リン酸及びリン酸系化合物、アミノ酸類、アミノポリカルボン酸類、アルカノールアミン類またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする4に記載の銅微粒子の製造方法。
6.錯化剤がブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、イミダゾール、クエン酸またはそのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、次亜リン酸またはそのアルカリ金属塩、ヒスチジン、アルギニン、エチレンジアミンテトラ酢酸またはそのアルカリ金属塩、エタノールアミン、アセトニトリルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする5に記載の銅微粒子の製造方法。
7.錯化剤が有する配位子のドナー原子の少なくとも一つが硫黄であり、2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜2重量部の範囲の錯化剤を用いることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
8.錯化剤がメルカプトカルボン酸類、チオグリコール類、含硫黄アミノ酸類またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする7に記載の銅微粒子の製造方法。
9.錯化剤がメルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、メルカプトエタノール、システインから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする8に記載の銅微粒子の製造方法。
10.還元剤がヒドラジン系還元剤であることを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
11.2価の銅酸化物が20〜500nmの範囲の平均結晶子径を有することを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
12.金属銅微粒子を生成させた後、媒液に保護コロイド除去剤を添加して金属銅微粒子を凝集させ、次いで、分別することを特徴とする1に記載の銅微粒子の製造方法。
13.保護コロイドとしてタンパク質系保護剤を用い、保護コロイド除去剤としてタンパク質分解酵素を用いることを特徴とする12に記載の銅微粒子の製造方法。
14.1に記載の方法で得られ、電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜2の範囲であることを特徴とする銅微粒子。
15.電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜0.5μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜0.5μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜1.5の範囲であることを特徴とする銅微粒子。
16.14または15に記載の銅微粒子と分散媒を少なくとも含有することを特徴とする流動性組成物。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の銅微粒子は、電子機器の電極材料等として有用であり、特に銅ペースト・塗料・インキ等の流動性組成物にして用いると、積層セラミックスコンデンサーの内部電極、プリント配線基板の回路、その他の電極等に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン類、窒素含有複素環化合物、ニトリル類及びシアン化合物、ケトン類、アミノ酸類、アルカノールアミン類またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種の錯化剤、及び保護コロイドの存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
【請求項2】
2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、2価の銅酸化物から1価の銅酸化物を生成する工程を経ることなく金属銅微粒子を生成させることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項3】
2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜200重量部の範囲の錯化剤を用いることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項4】
錯化剤がブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、イミダゾール、アセチルアセトン、ヒスチジン、アルギニン、エタノールアミン、アセトニトリルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項5】
還元剤がヒドラジン系還元剤であることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項6】
2価の銅酸化物が20〜500nmの範囲の平均結晶子径を有することを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で得られ、電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜2の範囲であることを特徴とする銅微粒子。
【請求項8】
請求項7に記載の銅微粒子と分散媒を少なくとも含有することを特徴とする流動性組成物。
【請求項1】
アミン類、窒素含有複素環化合物、ニトリル類及びシアン化合物、ケトン類、アミノ酸類、アルカノールアミン類またはそれらの塩または誘導体から選ばれる少なくとも1種の錯化剤、及び保護コロイドの存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
【請求項2】
2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、2価の銅酸化物から1価の銅酸化物を生成する工程を経ることなく金属銅微粒子を生成させることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項3】
2価の銅酸化物1000重量部に対し0.01〜200重量部の範囲の錯化剤を用いることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項4】
錯化剤がブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、イミダゾール、アセチルアセトン、ヒスチジン、アルギニン、エタノールアミン、アセトニトリルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項5】
還元剤がヒドラジン系還元剤であることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項6】
2価の銅酸化物が20〜500nmの範囲の平均結晶子径を有することを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で得られ、電子顕微鏡で測定した平均粒子径(D)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、動的光散乱法で測定した平均粒子径(d)が0.005〜2.0μmの範囲にあり、且つ、d/Dが0.7〜2の範囲であることを特徴とする銅微粒子。
【請求項8】
請求項7に記載の銅微粒子と分散媒を少なくとも含有することを特徴とする流動性組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−52240(P2012−52240A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240008(P2011−240008)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【分割の表示】特願2006−531859(P2006−531859)の分割
【原出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【分割の表示】特願2006−531859(P2006−531859)の分割
【原出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】
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