説明

醤油粕の保存方法

【課題】 醤油粕を長期間保存したときにみられる異臭又は微生物の発生を低減させる、醤油粕の保存方法。又は、長期保存後の異臭又は微生物の発生が少ない醤油粕成形体。
【解決手段】 フィルムで包装されたロールベールの状態で保存する、醤油粕の保存方法を用いる。又は、表面がフィルムで包装されており、且つ醤油粕の嵩密度が500kg/m以上に成形された状態で保存する、醤油粕の保存方法等を用いる。又は、醤油粕を主原料として含む、フィルムで包装されたロールベールを用いる。又は、略円柱型、紡錘型、略球型、及び略多角柱型から選ばれる1つ以上の形状であり、嵩密度が500kg/m以上であり、且つ醤油粕を主原料として含む、表面がフィルムで包装された醤油粕成形体等を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油粕の保存方法、又は醤油粕を主原料として含むロールベールもしくは醤油粕成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
醤油醸造に伴い発生する醤油粕は、日本国内で年間十数万トンにもなるが、その多くは焼却、埋立処分されている。醤油粕は飼料、肥料に利用することもできるが、食塩濃度が高いことと、独特の異臭を発することが原因で、実際に利用されているのは極一部に過ぎない。
【0003】
そのような中、醤油粕の異臭を低減させる試みが行われている。例えば特許文献1には、醤油粕に酢酸水溶液を添加後、減圧乾燥することで、異臭が低減されたことが記載されている。
【0004】
一方で、醤油粕以外の粕を原料として、飼料を調整することも試みられている。例えば、特許文献2には、豆腐粕サイレージ及びビール粕サイレージを主原料として、家畜用混合飼料を調整する方法が記載されている。この特許文献2には、上記飼料の調整方法として、豆腐粕(又はビール粕)と副原料(牧草等)とを撹拌混合する工程、ロールベールラップサイロ化する工程、サイレージ発酵する工程、豆腐粕サイレージ、ビール粕サイレージ、及び副原料とを撹拌混合する工程、及びトランスバッグに充填する工程からなる調整方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-270005号公報
【特許文献2】特開2010-284098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の方法は、酢酸溶液のような添加物が必要な点、減圧乾燥が必要な点から、効率及びコストの面で改善の余地を有していた。また上記特許文献2には、醤油粕の異臭を低減する方法については記載されていなかった。
【0007】
また、後述する実施例に記載されているように、本願発明者は、フレキシブルコンテナバッグ(以下「フレコンバッグ」と称することもある)内で長期間、醤油粕を保存すると異臭及び微生物が発生することを確認している。醤油粕の長期間の保存性に関しては、上記特許文献1及び2では検討されておらず、従来法が潜在的に有している問題であるといえる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、醤油粕を長期間保存したときにみられる異臭又は微生物の発生を低減させる、醤油粕の保存方法を提供することを目的とする。又は、長期間保存後の異臭又は微生物の発生が少ない、醤油粕を含むロールベール又は醤油粕成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、醤油粕をロールベール成形(以下「ベーリング」と称することもある)し、フィルムで包装すると、長期間保存後におけるカビや異臭の発生を抑えられることを発見した。通常、ベーリングは牧草を保存する際に用いられる技術であるが、保存中に腐敗が生じたり、好気性菌が繁殖したりする問題がある。そのため、牧草を長期間保存する場合には、ロールベールをサイレージ発酵(嫌気性菌による発酵)させた状態で保存することが一般的である。このことは、食料品製造時に発生する残渣にも応用され、例えば、上記特許文献2に見られるように、飼料を調整する途中工程において、豆腐粕(又はビール粕)及び副原料の混合品をサイレージ発酵させるために、ベーリングが利用されている。
【0010】
一方で、醤油粕は可溶性炭化水素(WSC)が少なく、蛋白質濃度が比較的高く、さらには塩分濃度が高いため、サイレージ発酵には向かない。そのため従来、醤油粕はフレコンバッグ内で保存されている。また、農業用のベーラーを用いて牧草をベーリングしたり、産業用のベーラーを用いて事務用紙やプラスチックをベーリングしたりすることはあるが、食料品製造時に発生する残渣を主原料としてベーリングすることは、サイレージ発酵を目的とするとき以外は従来行われていない。そのため、上記の発見は従来常識とは異なる観点から得られたものであった。
【0011】
本発明によれば、フィルムで包装されたロールベールの状態で保存する、醤油粕の保存方法が提供される。この構成を有する保存方法は、醤油粕を長期間保存したときの、異臭又は微生物の発生を抑制することができることが、後述する実施例で実証されている。そのため、この保存方法を用いれば、醤油粕の長期保管、又は安定使用が可能になる。
【0012】
また本発明によれば、表面がフィルムで包装されており、且つ醤油粕の嵩密度が500kg/m以上に成形された状態で保存する、醤油粕の保存方法が提供される。又は、略円柱型又は紡錘型に成形された醤油粕を、表面をフィルムで密閉した状態で保存する、醤油粕の保存方法が提供される。これらの構成を有する保存方法は、醤油粕を長期間保存したときの、異臭又は微生物の発生を抑制することができることが、後述する実施例で実証されている。そのため、これらの保存方法を用いれば、醤油粕の長期保管、又は安定使用が可能になる。
【0013】
また本発明によれば、醤油粕を主原料として含む、フィルムで密閉されたロールベールが提供される。この構成を有するロールベールは、長期間保存後の異臭又は微生物の発生が少ないことが、後述する実施例で実証されている。そのため、このロールベールを用いれば、醤油粕の長期保管、又は安定使用が可能になる。
【0014】
また本発明によれば、略円柱型、紡錘型、略球型、及び略多角柱型から選ばれる1つ以上の形状であり、嵩密度が500kg/m以上であり、且つ醤油粕を主原料として含む、表面がフィルムで包装された醤油粕成形体が提供される。又は、略円柱型、紡錘型、略球型、及び略多角柱型から選ばれる1つ以上の形状であり、且つ醤油粕を70質量%以上含む、表面がフィルムで密閉された醤油粕成形体が提供される。これらの構成を有する醤油粕成形体は、長期間保存後の異臭又は微生物の発生が少ないことが、後述する実施例で実証されている。そのため、これらの醤油粕成形体を用いれば、醤油粕の長期保管、又は安定使用が可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、醤油粕を特定の形状で保存する方法によって、醤油粕を長期間保存したときにみられる異臭又は微生物の発生を低減させることができる。又は、長期間保存後の異臭又は微生物の発生が少ない、醤油粕を含むロールベール又は醤油粕成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、略円柱型又は紡錘型の包装済ベールの正面図の例である。
【図2】図2は、略円柱型の包装済ベールの正面図の例である。
【図3】図3は、略円柱型の包装済ベールの正面図の例である。
【図4】図4は、略円柱型の包装済ベールの正面図の例である。
【図5】図5は、略円柱型又は紡錘型の包装済ベールの平面図の例である。
【図6】図6は、実施例1の包装済ベールの写真である。
【図7】図7は、比較例1の充填済フレコンの写真である。
【図8】図8は、実施例1の包装済ベールの屋外保存状況の写真である。
【図9】図9は、比較例1の充填済フレコンの屋内保存状況の写真である。
【図10】図10は、6ヶ月保存後の実施例1の包装済ベールの内部の写真である。
【図11】図11は、6ヶ月保存後の比較例1の充填済フレコンの内部の写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0018】
(1)醤油粕の保存方法
本発明の一実施形態は、醤油粕の保存方法である。この方法は、例えば、フィルムで包装されたロールベール(以下「包装済ベール」と称することもある)の状態で保存する、醤油粕の保存方法(以下「ロールベール保存法」と称することもある)である。この構成を有する方法は、醤油粕を長期間保存したときの、異臭又は微生物の発生を抑制することができる。例えば、後述する実施例では上記方法で醤油粕を6ヶ月保存したときに、フレコンバッグ内で保存した場合に比べて異臭又は微生物の発生が少なかったことが実証されている。
【0019】
本明細書において「醤油粕」は特別なものに限定されない。例えば、本醸造方式、新式醸造方式、アミノ酸液混合方式など各種方式により副製する醤油粕を使用することができる。醤油醸造は、例えば、原料調整工程、製麹工程、仕込工程、圧搾工程、火入工程、精成工程、詰工程を経て行われる。通常、圧搾工程において諸味を圧搾した後に醤油粕が生じる。
【0020】
また、醤油粕の形状も、醤油諸味圧搾時に得られたものはもとより、適当な大きさに粉砕したもの、あるいは特定の形状(例えば、板状、フレ−ク状、ペレット状、粒状など)に成形したものなど、いずれの形状のものも利用可能である。
【0021】
本明細書において「ロールベール」とは、ベーラーによって成形されたものの総称である。ベーラーの種類は特に限定しないが、例えばメイズベーラーMP2000(株式会社コーンズ・エージー)を用いることができる。包装済ベールは、例えば、上記の圧搾工程において発生した醤油粕をベーラーに運んだ後、ベーリング、ネット巻き(又はトワイン巻き)、包装(又は梱包)、ロール排出することによって得ることができる。ベーリングの工程で、醤油粕は圧縮及び成形される。ベーリング、ネット巻き、包装、ロール排出を1台のベーラーで行うことで、質の高いロールベールを作ることができる。醤油粕発生から包装までの時間は、醤油粕の腐敗等が起こらなければ特に制限されないものの、できるだけ早めに包装するのが好ましい。また、ベーリングと包装を同時に行い、1つのロール形成が完了すると、すぐに次のロール形成、包装を始めることで、無駄のない工程で高い生産性を発揮することができる。包装作業では、ダブルマストで両方向から素早く包装することで、一方向からしかラッピングできないシングルマストに比べ、作業時間を大幅に短縮することができる。
【0022】
上記フィルムの素材は、例えば合成樹脂を主原料としたものであってもよい。合成樹脂としては、例えばPE系樹脂(例えばL-LDPE、LDPE、HDPE)、PP、OPP、PET、ON、KON、CN、CPP、メタロセンポリマー、EVA、KOP、AOP、PVA、PVC、PVDC、セロハン、アイオノマー樹脂、PC、又はPANであってもよい。コストや品質の観点からはPE系樹脂が好ましい。またフィルムの「厚さ」は、例えば1、5、10、20、30、40、50、100、又は1000μmであってもよく、それらいずれかの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この厚さは、シワの形成や破損が少なく、且つ巻きやすいという観点からは、5〜100μmが好ましい。またフィルムの層は、例えば1、2、3、4、5、10、又は15層であってもよく、それらいずれかの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この層は、気密性の観点からは4層以上が好ましい。また、ロールベール内の気密性をより高くするために、例えば、非通気性フィルムを用いてもよい。ロールベール内の気密性が高ければ、異臭や微生物の発生をより抑制することができる。なお、重複率50%程度で2回の4層巻きにすれば、空気の侵入、シワの形成、隙間の形成、及びコスト上昇を防ぎやすい。
【0023】
上記包装済ベールの形状は、例えば、略円柱型、紡錘型(和太鼓のような形状を含む)、略球型、又は略多角柱型(例えば略3〜10角柱型)であってもよい。包装済ベールを複数個保存するときに、重ねて保存しやすいことや、消費スペースが小さいという観点からは、略円柱型、紡錘型、又は略多角柱型が好ましい。フィルムの密着性、又は高気密性の観点からは略円柱型、紡錘型、又は略球型が好ましい。なお、図1は略円柱型又は紡錘型の包装済ベールの正面図の例である。図2〜4は略円柱型の包装済ベールの正面図の例である。図5は略円柱型又は紡錘型の包装済ベールの平面図の例である。本明細書において略円柱型又は紡錘型の包装済ベールの「高さ」及び「直径」の値は、図1〜4に示す位置に基づいて測定した値である。また、醤油粕が充填されたフレコンバッグの高さ及び直径の値も、上記と同様の基準で測定した値である。
【0024】
上記包装済ベールにおける醤油粕の「嵩密度」は、例えば500、600、700、800、900、又は1000kg/mであってもよく、それらいずれかの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この嵩密度は、醤油粕の異臭又は微生物の発生を抑制する観点からは、550kg/m以上が好ましく、600kg/m以上がより好ましい。なお、嵩密度は「包装済ベールの質量/((直径/2)×3.14×高さ)」の式に従って算出した値であってもよい。
【0025】
上記包装済ベールにおける醤油粕の「塩分」は、例えば10、8、6、5、4、2、1、0.5、又は0.1質量%であってもよく、それらいずれかの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この塩分量は、醤油粕の異臭又は微生物の発生を抑制する観点からは、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。またこの塩分量は、醤油粕の飼料用途における利便性を高める観点からは、8質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましい。
【0026】
上記包装済ベールにおける醤油粕の「水分」は、例えば50、40、30、25、20、15、10、5、又は3質量%であってもよく、それらいずれかの値以下、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この水分量は、醤油粕の異臭又は微生物の発生を抑制する観点からは、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0027】
上記包装済ベールの「高さ」は、例えば0.3、0.5、1.0、1.5、又は2.0mであってもよく、それらいずれかの値以下、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この高さは、醤油粕の異臭又は微生物の発生を抑制する観点からは、1.0〜1.3mが好ましい。
【0028】
上記包装済ベールの「直径」は、例えば0.3、0.5、1.0、1.5、又は2.0mであってもよく、それらいずれかの値以下、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この高さは、醤油粕の異臭又は微生物の発生を抑制する観点からは、1.0〜1.3mが好ましい。
【0029】
上記包装済ベールの「質量」は、例えば200、400、600、800、1000、1200、又は1400kgであってもよく、それらいずれかの値以下、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この重さは、保存時の利便性やコストの観点からは、600〜1000kgが好ましい。
【0030】
上記ベーリング時の醤油粕の「圧縮度」は、例えば10、20、30、40、50、又は60であってもよく、それらいずれかの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この圧縮度は、醤油粕の異臭又は微生物の発生を抑制する観点からは、20kg/m以上が好ましく、30kg/m以上がより好ましい。なお、本明細書において圧縮度は、「((圧縮後の嵩密度−圧縮前の嵩密度)/圧縮後の嵩密度)×100」の式に従って算出した値である。
【0031】
また上記の保存方法は、サイレージ発酵の工程を経ずに保存してもよい。この場合、サイレージ発酵にかかるコストや時間を削減できる。なおサイレージ発酵とは、飼料の原料となるもの(例えば、牧草)の長期間保存を行う前に、その原料中で嫌気性菌に発酵をさせる作業である。嫌気性菌の発酵により、乳酸又は酢酸などの有機酸の成分比率の増加、pHの低下が生じ、微生物の増殖が抑えられる。
【0032】
また本実施形態に係る保存方法は、例えば、表面がフィルムで包装されており、且つ醤油粕の嵩密度が500kg/m以上に成形された状態で保存する、醤油粕の保存方法である。この構成を有する方法は、長期間保存後の異臭又は微生物の発生を抑制することができる。またこの方法における醤油粕の嵩密度等の条件は、上述のロールベール保存法の場合と同様である。
【0033】
また本実施形態に係る保存方法は、例えば、略円柱型又は紡錘型に成形された醤油粕を、表面をフィルムで密閉した状態で保存する、醤油粕の保存方法である。この構成を有する方法は、長期間保存後の異臭又は微生物の発生を抑制することができる。またこの方法における醤油粕の嵩密度等の条件は、上述のロールベール保存法の場合と同様である。なお、本明細書において「密閉」とは、すきまのないようにぴったりと閉じられている状態を意味する。例えば、フィルムが、成形された醤油粕全体に密着している状態を含む。
【0034】
(2)ロールベール
本発明の他の実施形態は、フィルムで包装されたロールベールである。このロールベールは、例えば、醤油粕を主原料として含む、フィルムで包装されたロールベールである。この構成を有するロールベールは、長期間保存後の異臭又は微生物の発生が少ない。そのため、飼料又は肥料の用途に適している。このロールベールにおける醤油粕の嵩密度等の条件は、上述のロールベール保存法の場合と同様である。なお本明細書において「飼料」とは、家畜、家禽、養魚などの飼育される生物又は動物に餌として与えられる物を含む。
【0035】
本明細書において「主原料」とは、全原料中において、最も高い割合で存在する原料であっても良い。この割合は、例えば70、80、90、95、又は100質量%であってもよく、それらいずれかの値以上、又はいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この割合は、醤油粕を有効利用する観点からは、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0036】
(3)醤油粕成形体
本発明の他の実施形態は、醤油粕成形体である。この醤油粕成形体は、例えば、嵩密度が500kg/m以上であり、且つ醤油粕を主原料として含む、表面がフィルムで包装された醤油粕成形体である。又は、略円柱型又は紡錘型であり、且つ醤油粕を主原料として含む、表面がフィルムで密閉された醤油粕成形体でであってもよい。これらの構成を有する醤油粕成形体は、長期間保存後の異臭又は微生物の発生が少ない。そのため、飼料又は肥料の用途に適している。これらの醤油粕成形体における醤油粕の嵩密度等の条件は、上述のロールベール保存法の場合と同様である。
【0037】
醤油粕成形体の生産方法としては、例えば、醤油粕を嵩密度が500kg/m以上に圧縮し、醤油粕成形体を得る工程と、上記成形体の表面をフィルムで密閉する工程と、を含む、醤油粕成形体の生産方法である。又は、醤油粕を略円柱型又は紡錘型に成形し、醤油粕成形体を得る工程と、上記成形体の表面をフィルムで密閉する工程と、を含む、醤油粕成形体の生産方法であってもよい。
【0038】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
脱脂大豆を原料とした醤油醸造工程において、諸味を調整した後、圧搾し、醤油粕を得た。醤油粕を粉砕した後、ロールベーラー(メイズベーラーMP2000)を用いて、ベーリングし、フィルム包装を行った。包装作業は、ベーリングされた醤油粕に対して、ネットを巻き、ダブルマストで両方向から素早く包装した。諸味発生からフィルム包装までは、間を置かずに行った(最大でも2時間以内に包装)。以上により、高さ1.15m、直径1.15m、重量800kg、塩分(NaClとして)5.34質量%、水分26.3質量%の包装済ベールを得た(図6)。嵩密度は670.08kg/mであり、形状は略円柱型であった。圧縮度は約32〜36%であった。また、4段積の転倒試験を行ったところ、穴あき等の異常はなかった(最高高さ約4.4mアスファルト舗装上)。なお、フィルムはポリエチレンを使用した。
【0041】
<実施例2>
脱脂大豆を丸大豆に替えて得られた醤油粕を用いて実施例1と同様に行った。高さ1.15m、直径1.15m、重量800kg、塩分5.34質量%、水分28.3質量%の包装済ベールを得た。
【0042】
<比較例1>
脱脂大豆を原料とした醤油醸造工程において、諸味を調整した後、圧搾し、醤油粕を得た。醤油粕を粉砕した後、フレコンバッグ(株式会社商祺)に充填した。なお、フレコンバッグの中には予めポリビニル袋を入れておき、そのポリ袋の中に醤油粕を充填した。充填後、フレコンバッグの投入口を縛った。以上により、高さ1.6m、径1.1m、重量670kg、塩分(NaClとして)5.34質量%、水分26.3質量%の醤油粕が充填されたフレコンバッグ(以下「充填済フレコン」と称することもある)を得た(図7)。嵩密度は440.86kg/mであった。この充填済フレコンは比較的ふんわりしていた。また投入口部分は、醤油粕に対して完全に密着してはいなかった。
【0043】
<試験例1>
実施例1の包装済ベール、及び比較例1の充填済フレコンを下記の条件で保存した。それらの結果を表1に示す。包装済ベールの屋外保存状況を図8に、充填済フレコンの屋内保存状況を図9に示す。また、6ヶ月保存後の、包装済ベールと充填済フレコンの内部の写真を図10、11に示す。充填済フレコンの内部には、白カビ様のもの(耐塩性酵母)の発生が見られた。また、6ヶ月保存後の包装済ベールにおいて、サイレージ発酵は観測されなかった。
・保存期間:6ヶ月間(2010年7月1日開始)
・保存場所:銚子、屋外又は製品倉庫内
・評価基準
○:変化なし
△:変化あり
【0044】
【表1】

【0045】
7〜10月の最高気温は表2の通りであった。表中の数字は、各月最高気温日数である(銚子気象台調べ)。
【表2】

【0046】
以上のように、醤油粕をフィルムで包装されたロールベールの状態で保存することによって、長期間保存における白カビ様の発生と、臭いの変化を抑えることができた。従ってこの方法によれば、醤油粕の長期保管、及び安定使用が可能になる。また、醤油粕の飼料や肥料等への有効利用が促進される。例えば、醤油粕の発生量が多い時期に保管し、少ない時期に使用することができる。
【0047】
また上記の通り、屋外保管、及び高温下での保存が可能であった。上記試験例1で保存を行った2010年の夏は例年になく高温であったが、6ヶ月経過しても醤油粕に異常は見られなかった。
【0048】
また、醤油粕は、原料である大豆由来の油分が醤油粕中に残存することがある。この油分のため、醤油粕をフレコンバッグ内で長期間保存した場合、醤油粕が自然発火する危険性がある。特に、気温が30℃程度又はそれ以上の温度下で長期間保存した場合や、何段にも積み上げて保存した場合に自然発火の危険性が高くなる。一方で、ロールベールの状態で保存すれば自然発火が生じにくい。その理由としては、ロールベール内には空気が少ないことや、フィルムで密閉されることで気密性が高くなっており、外からの空気が供給されにくいことを挙げることができる。従って、ロールベールの状態で保存することは、安全性の面からも優れた保存方法といえる。
【0049】
また、ベーリングにすることによって嵩密度が小さくなるため、フレコンバッグに比べて同面積で数倍量の保管が可能になった。さらに、発生廃棄物量も少なく、ワンウェイのフレコンバッグに比べて、保管場所、処理費用が大幅に軽減された。加えて、4段積保管を行っても異常はなかった。
【0050】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解され
るところである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムで包装されたロールベールの状態で保存する、醤油粕の保存方法。
【請求項2】
前記ロールベールにおける醤油粕の嵩密度が500kg/m以上である、請求項1に記載の保存方法。
【請求項3】
前記ロールベールにおける醤油粕の塩分が1質量%以上である、請求項1または2に記載の保存方法。
【請求項4】
前記ロールベールにおける醤油粕の水分が50質量%以下である、請求項1〜3いずれかに記載の保存方法。
【請求項5】
前記ロールベールは高さが0.3〜2.0m、及び直径が0.3〜2.0mである、請求項1〜4いずれかに記載の保存方法。
【請求項6】
前記ロールベールは質量が200〜1400kgである、請求項1〜5いずれかに記載の保存方法。
【請求項7】
表面がフィルムで包装されており、且つ醤油粕の嵩密度が500kg/m以上に成形された状態で保存する、醤油粕の保存方法。
【請求項8】
略円柱型又は紡錘型に成形された醤油粕を、表面をフィルムで密閉した状態で保存する、醤油粕の保存方法。
【請求項9】
醤油粕を主原料として含む、フィルムで密閉されたロールベール。
【請求項10】
略円柱型、紡錘型、略球型、及び略多角柱型から選ばれる1つ以上の形状であり、嵩密度が500kg/m以上であり、且つ醤油粕を主原料として含む、表面がフィルムで包装された醤油粕成形体。
【請求項11】
略円柱型、紡錘型、略球型、及び略多角柱型から選ばれる1つ以上の形状であり、且つ醤油粕を70質量%以上含む、表面がフィルムで密閉された醤油粕成形体。
【請求項12】
飼料用又は肥料用である、請求項11に記載の醤油粕成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−99259(P2013−99259A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243808(P2011−243808)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】