説明

試料解析装置

【課題】試料に断面を形成した後、試料ステージの移動等の動作を行うことなく、直ちに当該断面についての断面情報を取得することのできる試料解析装置を提供する。
【解決手段】電子ビーム鏡筒7と、イオンビーム鏡筒17と、制御手段25,23とを備え、イオンビーム15の照射により試料9が切削加工され、これにより露出された試料9の断面を解析対象面として該断面に電子ビーム5を照射し、これによる試料9の断面情報を検出する試料解析装置において、電子ビーム5の光軸6に直交する面に対して所定の傾斜角度となる断面が試料9に形成されるように、試料9へのイオンビーム照射時におけるイオンビーム走査のスキャンローテーション量が制御部25,23により設定可能とされ、該スキャンローテーション量に基づくイオンビーム走査により試料9に形成された断面に対して正面側に、試料9の断面情報を検出するための検出器9が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SEM−FIB複合装置の構成を備える試料解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチビームシステムの一種であるSEM−FIB複合装置においては、SEM鏡筒とFIB鏡筒とがある傾斜角をもって設置されており、これら各鏡筒の先端部分が試料室内に位置している。
【0003】
SEM鏡筒は、試料室内に置かれた試料に対して電子ビーム(電子線)を照射するためのものである。また、FIB鏡筒は、試料室内に置かれた試料に対してイオンビームを照射するためのものである。
【0004】
FIB鏡筒から放出されたイオンビームは、集束された状態で集束イオンビーム(FIB)として試料に照射される。これによりイオンビームが照射された試料の部分はエッチング(切削)され、試料の切削加工が行われる。このとき、イオンビームを所定の走査領域で走査することにより、試料の所定部分の切削加工を行うことができる。
【0005】
また、SEM鏡筒から放出された電子ビームは、切削加工前又は切削加工後の試料面に照射される。このとき、電子ビームは試料面上で走査され、これにより試料面から発生した二次電子は二次電子検出器により検出される。当該二次電子に応じた検出信号に基づいて、試料面の走査像を取得することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このようなマルチビームシステムを用いて、試料室内に配置された試料の切削加工を行うとともに、これにより試料に形成された断面の結晶方位解析を行うことも検討されている。この場合、当該試料室にEBSD検出器を設置して、試料への電子ビーム照射に基づく後方散乱電子回折パターンをEBSD検出器により検出し、当該検出結果に基づき結晶方位解析を行う。
【0007】
図1は、従来技術におけるEBSD検出器が備えられたマルチビームシステムからなる試料解析装置の要部を示す図である。
【0008】
同図において、観察・解析の対象となる試料104は、試料ホルダ105に保持されており、試料ホルダ105は試料ステージ106上に載置されている。試料ステージ106は、試料室110内において、試料ホルダ105及び試料104の水平・垂直方向での移動、回転、傾斜の各動作を行う。
【0009】
さらに、試料室110には、SEM鏡筒(図中の「SEM」)101の先端部分、FIB鏡筒(図中の「FIB」)102の先端部分、及びEBSD検出器107が配置されている。
【0010】
当該装置を用いて試料断面の結晶方位解析を行うときには、まず、図1(A)に示すように、試料104において解析対象となる面が断面として露出されるように、イオンビーム103の照射を行う。このとき、イオンビーム103の走査が行われ、試料104の所定領域における切削加工が施される。これにより、試料103に解析対象となる断面が形成される。
【0011】
次いで、イオンビーム103の照射を停止し、試料ステージ106を動作させることにより、試料104の移動、回転、及び傾斜を行う。
【0012】
これにより、図1(B)に示すごとく、当該断面が、EBSD検出器107の正面側に位置するとともに、電子ビーム108の光軸に直交する面に対して70°の傾斜角度Θとなるようにする。この状態で、電子ビーム鏡筒101から当該断面に対して電子ビーム108の照射を行う。電子ビーム108の照射に応じて、当該断面における電子ビーム照射位置からEBSD信号(反射回折された後方散乱電子)109が発生し、これによる後方散乱電子回折パターンがEBSD検出器107によって検出される。これに基づき、結晶方位解析が行われる。
【0013】
さらに、この状態で、電子ビーム108を当該断面上での所定の二次元領域で走査することにより、当該二次元領域に応じた二次元情報としての結晶方位解析を行うこともできる。
【0014】
なお、後方散乱電子回折パターンを検出する装置であって、FIB鏡筒を具備しない試料解析装置も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−219013号公報
【特許文献2】特開2005−294129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
図1に示すマルチビームシステムにおいては、FIB鏡筒102から照射されたイオンビーム103による試料104の切削加工が行われた後、これにより形成された試料断面における後方散乱電子回折パターンの検出を行う際には、試料ステージ106によって、試料104の移動、回転及び傾斜の各動作を行い、当該断面を、EBSD検出器107の正面側に位置させるとともに、上述のごとく70°の傾斜角度とする必要があった。
【0017】
従って、上記イオンビーム103による試料104の切削加工の後に、試料ステージ106の動作を行う必要があり、当該切削加工終了後、後方散乱電子回折パターンの検出を実行するまでに、試料ステージ106を動作するための時間を要していた。
【0018】
また、試料の深さ方向に切削加工を順次行い、各切削加工により形成された各断面において電子ビームの走査を個別に行い、これによる後方散乱電子回折パターンを検出して試料の二次元情報を深さ方向ごとに取得する3D(三次元)−EBSD測定も行われている。
【0019】
この場合、図1のマルチビームシステムでは、図1(A)に示す試料の切削工程と、図1(B)に示す後方散乱電子回折パターンの検出工程とを交互に繰り返すこととなり、複雑な操作を必要としていた。
【0020】
さらに、このようなマルチビームシステムを用いて3D−EBSD測定を行う際には、切削工程から検出工程への移行時及び検出工程から切削工程への移行時において、試料ステージ106の駆動による試料104の移動等の動作及び精密な位置合わせを行う必要があり、高精度の試料ステージと、ソフトウエアによる位置補正機能が不可欠であった。
【0021】
そして、EBSD測定には長時間を要するため、自動制御機能を組み込んで装置の動作を実行する場合、各所定の傾斜角、回転角へのステージ移動の駆動制御、各位置での移動誤差を補正する機能、及び所定のステージ移動精度が必要となり、非常に複雑なシステムと複雑な動作が必要とされることとなる。
【0022】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、イオンビーム照射による切削加工によって試料に断面を形成した後、試料ステージの移動等の動作を行うことなく、直ちに当該断面についての結晶方位等の断面情報を取得することのできる試料解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に基づく試料解析装置は、試料に対して電子ビームを照射するための電子ビーム鏡筒と、試料に対してイオンビームを照射するためのイオンビーム鏡筒と、制御手段とを備え、イオンビームの照射により試料が切削加工され、これにより露出された試料の断面を解析対象面として該断面に電子ビームを照射し、これによる試料の断面情報を検出する試料解析装置であって、電子ビームの光軸に直交する面に対して所定の傾斜角度となる断面が試料に形成されるように、試料へのイオンビーム照射時におけるイオンビーム走査のスキャンローテーション量が制御手段により設定可能とされ、該スキャンローテーション量に基づくイオンビーム走査により試料に形成された断面に対して正面側に、試料の断面情報を検出するための検出器が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明においては、電子ビームの光軸に直交する面に対して所定の傾斜角度となる断面が試料に形成されるように、試料へのイオンビーム照射時におけるイオンビーム走査のスキャンローテーション量が制御手段により設定されており、該スキャンローテーション量に基づくイオンビーム走査により試料に形成された断面に対して正面側に、試料の断面情報を検出するための検出器が配置されている。
【0025】
よって、イオンビーム照射による切削加工によって試料に断面を形成した後、試料の移動、回転、傾斜の何れの動作を行うことなく、そのまま該断面に電子ビームを照射することにより、即座に当該断面についての結晶方位等の断面情報を得ることができる。
【0026】
これにより、高精度の試料ステージを設置する必要がないので、装置のコストアップを防ぐことができ、また、試料の深さ方向に沿った三次元情報を得る場合に、全体の測定時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来技術における試料解析装置の要部を示す図である。
【図2】本発明における試料解析装置の構成を示す概略構成図である。
【図3】本発明における試料解析装置の要部を上側から見た状態を示す図である。
【図4】本発明における試料解析装置の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明に係る試料解析装置について説明する。図2は、本発明における試料解析装置の構成を示す概略構成図である。この試料解析装置50は、電子ビーム鏡筒7とイオンビーム鏡筒17とを備えている。
【0029】
電子ビーム鏡筒7の基端部には、電子銃1が設置されている。電子銃1は、加速された電子ビーム5を試料9に向けて放出する。試料9は、試料室8内に配置されており、電子ビーム鏡筒7の先端部は、試料室8内に位置している。
【0030】
電子銃1から放出された電子ビーム5は、鏡筒7内において集束レンズ2により一旦集束される。その後、当該電子ビーム5は、偏向器3及び対物レンズ4を通過して、鏡筒7の先端から放出される。鏡筒5から放出される電子ビーム5は、対物レンズ4により集束作用を受けており、電子プローブとして試料9上で集束される。このとき、電子ビーム5は、所定の走査信号に基づく偏向器3による偏向作用によって、試料9上を走査する。なお、試料9は、図示しない試料ホルダに保持されており、試料ホルダは、試料ステージ(図示せず)に載置されている。
【0031】
このようにして電子ビーム5が走査(照射)された試料9上からは、二次電子が発生する。試料9の走査画像(SEM画像)を取得する場合には、二次電子検出器10により二次電子を検出する。当該二次電子検出に基づく二次電子検出器10からの検出信号は、走査画像形成部21に送られる。走査画像形成部21は、当該検出信号及び上記走査信号に基づき、走査画像データを形成する。当該走査画像データは、バスライン24を介して、記憶部26に一旦格納される。記憶部26に格納された走査画像データは、制御部25による制御によって記憶部26から読みだされ、LCD等からなる表示部27に送られる。表示部27は、当該走査画像データに基づく画像(走査画像)の表示を行う。なお、図中の28は、キーボード等のキー入力デバイス及びマウス等のポインティングデバイスを備える入力部である。また、制御部25は、本装置における各構成要素の動作制御を行う。
【0032】
一方、イオンビーム鏡筒17の基端部には、イオン銃11が設置されている。イオン銃11は、加速されたイオンビーム15を試料9に向けて放出する。イオンビーム鏡筒7の先端部は、試料室8内に位置している。
【0033】
イオン銃11から放出されたイオンビーム15は、鏡筒17内において集束レンズ12により一旦集束される。その後、当該イオンビーム15は、偏向器13及び対物レンズ14を通過して、鏡筒17の先端から放出される。鏡筒15から放出されるイオンビーム15は、対物レンズ14により集束作用を受けており、集束イオンビーム(FIB)として試料9上で集束される。
【0034】
このイオンビーム15が照射された試料9の部分は、エッチングにより切削される。これにより、試料9の切削加工が施される。このとき、所定のFIB走査信号に基づく偏向器13の駆動を行えば、偏向器13による偏向作用によって、イオンビーム15は試料9上を走査する。この場合は、試料9上でイオンビーム15が走査される走査領域がエッチングされる領域となり、当該領域が切削される。このようにして、試料9の切削加工が施されると、試料9に切削断面が形成される。試料9上において、この露出された断面が解析対象面となる。
【0035】
なお、本実施例において、電子ビーム鏡筒7の光軸6は垂直軸(図中のZ軸)に沿う方向となっている。また、図中のX軸及びY軸は、水平面において互いに直交する軸である。これにより、X−Y平面は水平面を構成しており、Z軸はX−Y平面(水平面)に直交する。そして、イオンビーム鏡筒17の光軸16は、図中のX−Z平面内に位置しており、電子ビーム鏡筒7の光軸6との成す角度(X−Z平面内での成す角度)θは、本実施例において53°に設定されている。
【0036】
ここで、試料9は、試料室8内において、電子ビーム鏡筒7からの電子ビーム5とイオンビーム鏡筒17からのイオンビーム15とのコインシデントポイント(光軸6と光軸16とが交差する点に相当する)に配置される。
【0037】
電子ビーム鏡筒7には、電子ビーム鏡筒駆動部20が接続されている。当該駆動部20は、電子ビーム鏡筒7に配置された各構成要素(電子銃1、集束レンズ2、偏向器3、対物レンズ4等)の駆動制御を行う。駆動部20は、バスライン24に接続されており、バスライン24を介して制御部25により制御される。
【0038】
イオンビーム鏡筒17には、イオンビーム鏡筒駆動部19が接続されている。当該駆動部19は、イオンビーム鏡筒17に配置された各構成要素(イオン銃11、集束レンズ12、偏向器13、対物レンズ14等)の駆動制御を行う。駆動部19も同様にバスライン24に接続されており、バスライン24を介して制御部25により制御される。
【0039】
試料室8には、さらにEBSD検出器18が配置されている。このEBSD検出器18は、その受光面(試料9に対向する面)に蛍光スクリーンが備えられており、該蛍光スクリーンに映し出されたパターン(後方散乱電子回折パターン)を画像として取り込んで検出する。
【0040】
この後方散乱電子回折パターンは、電子ビーム5の光軸6に直交する面(水平面)に対して70°の傾斜角度となっている試料表面(試料断面)に電子ビーム5が照射されたときに、試料表面で反射回折された後方散乱電子によりスクリーン上に映し出されるパターンである。
【0041】
本発明においては、EBSD検出器18の配置位置に特徴があり、その点については後述する。
【0042】
EBSD検出器18からの画像検出信号は、EBSD画像処理部22に送られる。画像処理部22は、この画像検出信号に対してバックグラウンド処理等の画像処理を行うことにより、SN比の高いより鮮明な画像となる画像データの形成を行う。当該画像データは、解析データ形成収集部23に送られる。
【0043】
解析データ形成収集部23は、当該画像データに基づき、試料表面において電子ビーム5が照射された位置における結晶方位に関する情報を解析データとして形成する。
【0044】
さらに、この解析データ形成収集部23は、試料解析時における電子ビーム5の走査信号を生成する機能をも有しており、解析データ形成収集部23内で生成された走査信号は、バスライン23を介して、電子ビーム鏡筒駆動部20に供給される。
【0045】
この場合、電子ビーム鏡筒7内の偏向器3の駆動は、電子ビーム鏡筒駆動部20を介して、解析データ形成収集部23により制御される。試料表面における所定の二次元領域についての結晶方位マッピングデータを取得する際には、解析データ形成収集部23の制御により、電子ビーム5の試料表面上での走査領域が設定されて電子ビーム走査が行われ、このときの電子ビーム5による二次元走査に基づき試料9から得られる上記解析データのマッピングが解析データ形成収集部23により行われる。
【0046】
このようにして形成されたマッピングデータ等の解析データは、解析データ形成収集部23に備えられたメモリに一旦記憶される。さらに、該メモリに記憶された解析データは、解析データ形成収集部23内において読み出されてバスライン24を介して表示部27に送られる。表示部27は、当該解析データに基づく解析結果の表示を行う。
【0047】
次に、EBSD検出器18の配置位置について、図3を参照して説明する。図3は、図2における上方側(+Z方向側)から下方(−Z方向)に向けて、本装置における電子ビーム鏡筒7及びその周囲領域を見たときの図である。図3において、左右方向が±X方向となり、上下方向が±Y方向となり、紙面に直交する方向が±Z方向となる。
【0048】
また、同図では、電子ビーム5とイオンビーム15とのコインシデントポイントを原点Oとするx-y-z座標を設定している(z軸の図示は省略)。当該座標におけるx軸、y軸、z軸は、それぞれX軸、Y軸、Z軸に平行となっている。
【0049】
ここで、電子ビーム鏡筒7の光軸6(図2参照)は、図3におけるz軸に沿っている。また、イオンビーム鏡筒17の光軸16(図2参照)は、図3におけるx-z平面内に位置している。両光軸6,16の成す角度θ(図2参照)は、上述したようにx-z平面において53°となっている。
【0050】
そして、EBSD検出器18の配置位置については、EBSD検出器18の長手方向の軸18bとy軸とが所定角度θ4を成すように、その受光面18aが試料6(試料ステージ29)に向けられるようにEBSD検出器18が配置されている。この角度θの設定算出方法については、後述する。
【0051】
本装置を用いて試料解析を行う場合、まず試料室8内に設置された試料ステージ29上に、試料ホルダ(図示せず)を介して試料9(図2参照)を配置する。
【0052】
次に、電子ビーム鏡筒7から試料9に向けて電子ビーム(集束された電子ビーム)5の照射を行うとともに、電子ビーム5の試料9上での走査を行う。この電子ビーム5の走査に基づく二次電子は二次電子検出器10により検出され、走査画像形成部21によって試料9走査画像データが形成される。これによる走査画像は、試料像として表示部27により表示される。
【0053】
本装置の操作を行うオペレータは、当該走査画像(試料像)の目視による確認を行い、試料像上における切削加工領域の設定を行う。この設定は、オペレータによる入力部28の操作により実行される。
【0054】
その後、電子ビーム鏡筒7からの電子ビーム5の照射が停止され、イオンビーム鏡筒17からのイオンビーム15の試料9への照射が行われる。このイオンビーム15の試料9への照射においては、上記により設定された切削加工領域に対応する試料9の部分がエッチングにより切削されるように、イオンビーム15の試料9上での走査が行われる。このときのイオンビーム走査において、所定のスキャンローテーション量(z軸からy軸に向かう回転方向でのローテーション角度θ)に基づくスキャンローテーションが行われる。このイオンビーム15の走査による切削によって、試料9に断面が形成される。
【0055】
本装置においては、EBSD検出に基づく試料解析を行うので、当該試料断面は、電子ビーム5の光軸6に直交する面(水平面であるx-y面)に対して70°の傾斜角度(θ)を有する必要がある。
【0056】
本実施例の装置構成においては、電子ビーム鏡筒7の光軸6とイオンビーム鏡筒17の光軸16との成す角度θは53°に設定されているので、上記ローテーション角度θは、次の式より、「θ=64.64°」に設定される。この角度条件データは制御部25内のメモリに格納されており、当該設定は、制御部25により実行される。
【0057】
【数1】

当該イオンビーム走査時における上記スキャンローテーション量の設定により、試料9には、+y方向側に断面(試料断面)が形成される。そして、水平面内において、この試料断面に対して正面側となる方向は、+y方向において、y軸と上記角度θを成す方向となる。
【0058】
ここで、この角度θは、次の式により算出されて設定される。
【0059】
【数2】

本実施例においては、θは53°であり、θは70°であるので、「θ=15.9°」となる。本装置においては、EBSD検出器18の長手方向の軸18bとy軸とが角度15.9°を成すように、EBSD検出器18が配置されている。
【0060】
上述のごとく試料9に断面が形成された後、イオンビーム鏡筒17からのイオンビーム15の照射を停止する。そして、EBSD検出のための電子ビーム照射が行われる。すなわち、電子ビーム鏡筒7からの集束された電子ビーム5を、当該試料断面に照射する。このときの状態を図4に示す。なお、同図においては、試料9の切削加工時においてイオンビーム15を試料9に照射する状態も合わせて図示している。ここで、試料9は、試料ホルダ30に保持されており、試料ホルダ30は、試料ステージ29に載置されている。
【0061】
試料解析時での電子ビーム照射においては、試料断面における所定領域を解析領域として、電子ビーム5の走査を行う。この場合の電子ビーム5の走査信号は、解析データ形成収集部23により生成され、バスライン24を介して電子ビーム鏡筒駆動部20に供給される。このとき、当該断面が面する方向に応じて、電子ビーム5のスキャンローテーションを行う。これにより、該断面に沿う矩形領域を電子ビーム5による走査領域とすることができる。
【0062】
電子ビーム5が走査(照射)された試料断面からは、反射回折された後方散乱電子がEBSD信号として放出され、EBSD検出器18により後方散乱電子回折パターンが検出される。当該走査により順次検出された後方散乱電子回折パターンに基づき、画像データの画像処理が画像処理部22により順次行われる。そして、解析データ形成収集部23は、画像処理後の画像データに基づき、電子ビーム5による二次元走査に基づく解析データを形成し、そのマッピングを行う。
【0063】
このようにして形成されたマッピングデータ等の解析データは、解析データ形成収集部23のメモリに一旦記憶された後に読み出され、バスライン24を介して表示部27に送られる。表示部27は、当該解析データに基づく解析結果の表示を行う。オペレータは、表示された解析結果を目視にて確認する。
【0064】
これにより、本装置を用いて試料断面からの情報に基づく試料解析を行うことができる。なお、上記においては、試料9に形成された一つの断面についての試料解析を行う例について説明したが、試料9の深さ方向に沿って順次切削を行い、これにより形成される各断面ごとの試料解析を行うこともできる。
【0065】
すなわち、試料9へのイオンビーム15の走査領域が制御部25により分割設定されており、各分割領域に応じたイオンビーム15の走査(FIBによるスライス機能)が行われるごとに形成される試料断面に対して、それぞれ電子ビーム5の走査を行い、これにより各試料断面ごとにEBSD検出を行うことによって、試料9の深さ方向に沿った三次元情報を得ることができる。
【0066】
以上のように、本発明の試料解析装置は、試料9に対して電子ビーム5を照射するための電子ビーム鏡筒7と、試料9に対してイオンビーム15を照射するためのイオンビーム鏡筒17と、制御手段25,23とを備え、イオンビーム15の照射により試料9が切削加工され、これにより露出された試料9の断面を解析対象面として該断面に電子ビーム5を照射し、これによる試料9の断面情報を検出する試料解析装置において、電子ビーム5の光軸6に直交する面に対して所定の傾斜角度となる断面が試料9に形成されるように、試料9へのイオンビーム照射時におけるイオンビーム走査のスキャンローテーション量が制御部25,23により設定可能とされ、該スキャンローテーション量に基づくイオンビーム走査により試料9に形成された断面に対して正面側に、試料9の断面情報を検出するための検出器9が配置されている。
【0067】
そして、該スキャンローテーション量に基づくイオンビーム走査によって試料9に形成された断面に電子ビーム5を照射する際に、該断面上で電子ビーム5の走査を行う。これにより、当該断面についての二次元情報を得ることができる。
【0068】
さらに、電子ビーム5の走査時において、該断面が面する方向に応じて電子ビームのスキャンローテーションが行われる。これにより、当該断面の傾斜面に沿った二次元情報を得ることができる。
【0069】
また、試料9へのイオンビーム照射時におけるイオンビーム走査の領域が制御部25,23により分割設定されており、各分割領域に応じたイオンビーム走査が行われるごとに試料断面への電子ビーム走査を行い、これにより各試料断面ごとの断面情報を検出することもできる。これにより、試料9の深さ方向に沿った三次元情報を取得することができる。
【0070】
ここで、試料断面の傾斜角度は70°となっており、検出器18により後方散乱電子回折パターンを検出することにより、結晶方位に関する試料解析を行うことができる。
【0071】
以上の構成により、本発明においては、イオンビーム15による試料9の切削加工を行った後、試料ステージ29によるステージ動作を行わずに直ちにEBSD検出を行うことができるので、スループットの向上を図ることができる。これにより、ステージ動作に伴う複雑な操作や設定を行う必要がなく、オペレーションの簡素化を図ることができる。
【0072】
さらに、EBSD検出器18は、試料9に形成される断面に対して正面側に配置されているので、特別な角度補正等を必要とせず、既存のEBSD検出ソフトウエアをそのまま用いることができる。
【0073】
また、電子ビーム5のスキャンローテーションの回転量を合わせて、当該走査領域を試料断面の傾斜に沿わせることにより、対物レンズ4又は付加レンズ(図示せず)によるダイナミックフォーカスを電子ビーム5の走査におけるバーチカルスキャンにリンクさせるだけで、電子ビーム5の試料断面上での焦点合わせを適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0074】
1…電子銃、2…集束レンズ、3…偏向器、4…対物レンズ、5…電子ビーム、6…光軸、7…電子ビーム鏡筒、8…試料室、9…試料、10…二次電子検出器、11…イオン銃、12…集束レンズ、13…偏向器、14…対物レンズ、15…イオンビーム、16…光軸、17…イオンビーム鏡筒、18…EBSD検出器、19…イオンビーム鏡筒駆動部、20…電子ビーム鏡筒駆動部、21…走査画像形成部、22…画像処理部、23…解析データ形成収集部(制御手段)、24…バスライン、25…制御部(制御手段)、26…記憶部、27…表示部、28…入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して電子ビームを照射するための電子ビーム鏡筒と、試料に対してイオンビームを照射するためのイオンビーム鏡筒と、制御手段とを備え、イオンビームの照射により試料が切削加工され、これにより露出された試料の断面を解析対象面として該断面に電子ビームを照射し、これによる試料の断面情報を検出する試料解析装置であって、電子ビームの光軸に直交する面に対して所定の傾斜角度となる断面が試料に形成されるように、試料へのイオンビーム照射時におけるイオンビーム走査のスキャンローテーション量が制御手段により設定可能とされ、該スキャンローテーション量に基づくイオンビーム走査により試料に形成された断面に対して正面側に、試料の断面情報を検出するための検出器が配置されていることを特徴とする試料解析装置。
【請求項2】
前記スキャンローテーション量に基づくイオンビーム走査によって試料に形成された断面に電子ビームを照射する際に、該断面上で電子ビームの走査を行うことを特徴とする請求項1記載の試料解析装置。
【請求項3】
前記電子ビームの走査時において、前記断面が面する方向に応じて電子ビームのスキャンローテーションを行うことを特徴とする請求項2記載の試料解析装置。
【請求項4】
前記試料へのイオンビーム照射時におけるイオンビーム走査の領域が制御手段により分割設定されており、各分割領域に応じたイオンビーム走査が行われるごとに試料断面への電子ビーム走査が行われ、これにより各試料断面ごとの断面情報を検出することを特徴とする請求項1乃至3何れか記載の試料解析装置。
【請求項5】
前記傾斜角度は70°となっており、前記検出器により後方散乱電子回折パターンを検出することを特徴とする請求項1乃至4何れか記載の試料解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−114881(P2013−114881A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259686(P2011−259686)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】