説明

薬液投与装置及び薬液投与装置のシール部の製造方法

【課題】本発明は、シャフトと封止部材のシャフト挿入部との間をシールし得る。
【解決手段】本発明は、シール部13が、薬液貯蔵部6の内部空間8内に配され、シャフト9の外周を覆いシャフト9のねじ溝9Aに隙間なく当接されると共に、封止部材7の内部空間8側の面7Bにシャフト9の周方向に隙間なく密着されるようにしたことにより、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間と薬液貯蔵部6の内部空間8とを遮断することができ、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間に薬液が入り込むことを防止することができるので、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間をシールすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液投与装置及び薬液投与装置のシール部の製造方法に関し、例えばインスリンポンプなどの携帯型の薬液投与装置におけるシール部に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
皮下注射や静脈内注射などによって患者の体内に薬液を持続的に注入する治療が行われる場合がある。近年、例えば、糖尿病患者に対して、患者の体内に微量のインスリンを持続的に注入する治療が実施されている。この治療法では、一日中患者に薬液(インスリン)を投与するために、身体又は衣服に固定して持ち運び可能な携帯型の薬液投与装置(いわゆるインスリンポンプ)が用いられている。
【0003】
このような携帯型の薬液投与装置として、例えば、薬液を貯蔵する薬液貯蔵部内で駆動されるプランジャ部が薬液貯蔵部から薬液を押し出すことでポンプを使用する患者(使用者)に薬液を投与するようになされた、いわゆるシリンジポンプ形式のものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この薬液投与装置では、外周面にねじが形成されたシャフトが薬液貯蔵部内に配されると共にガスケット(封止部材)のねじ穴部(シャフト挿入部)に挿入されており、シャフトの回転によりシャフトの軸方向に沿って封止部材を駆動させるようになっている。このように封止部材を駆動させるためのシャフトが薬液貯蔵部内に配されることにより、シャフトが薬液貯蔵部外に配される場合と比較して薬液投与装置を小型化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−523397公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した薬液投与装置では、薬液がシャフトと封止部材のシャフト挿入部との間を通過して薬液貯蔵部外へ漏れてしまう恐れがあり、シャフトと封止部材のシャフト挿入部との間をシールすることが望ましい。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、シャフトと封止部材のシャフト挿入部との間をシールし得る薬液投与装置及び薬液投与装置のシール部の製造方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明においては、使用者へ薬液を投与するための薬液投与装置であって、薬液を貯蔵する薬液貯蔵部と、薬液貯蔵部内に配され、外周面にねじが形成されたシャフトと、シャフトが挿入されるシャフト挿入部が形成され、薬液貯蔵部の内部空間内を摺動することで内部空間の容積を変化させる封止部材とを有し、封止部材は、シャフトの回転により薬液貯蔵部内で駆動され、薬液貯蔵部から薬液を押し出し、さらに、当該内部空間内に配され、シャフトの外周を覆いシャフトのねじ溝に隙間なく当接されると共に、封止部材の当該内部空間側の面にシャフトの周方向に隙間なく密着されるシール部を設けるようにした。
【0009】
また本発明においては、薬液を貯蔵する薬液貯蔵部と、当該薬液貯蔵部内に配され外周面にねじが形成されたシャフトと、当該シャフトが挿入されるシャフト挿入部が形成された封止部材とを有し、当該シャフトの回転により当該封止部材が当該薬液貯蔵部内で摺動し、当該薬液貯蔵部の内部空間の容積を変化させ、当該薬液貯蔵部から当該薬液を押し出し使用者へ薬液を投与するための薬液投与装置のシール部の製造方法であって、シャフトが挿通される型にシール部材料を未硬化の状態で流しこみ、当該シール部材料をシャフトのねじ溝に隙間無く充填させる工程と、シール部材料を硬化させる工程と、硬化させたシール部材料を、シャフトが挿通された状態で、封止部材の当該内部空間側の面にシャフトの周方向に隙間なく密着させる工程とを有するようにした。
【0010】
このように、シール部が、薬液貯蔵部の内部空間内に配され、シャフトの外周を覆いシャフトのねじ溝に隙間なく当接されると共に、プランジャ部の薬液貯蔵部の内部空間側の面にシャフトの周方向に隙間なく密着されることにより、シャフトと封止部材のシャフト挿入部との間と薬液貯蔵部の内部空間とを遮断することができ、シャフトと封止部材のシャフト挿入部との間に薬液が入り込むことを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シール部が、薬液貯蔵部の内部空間内に配され、シャフトの外周を覆いシャフトのねじ溝に隙間なく当接されると共に、封止部材の薬液貯蔵部の内部空間側の面にシャフトの周方向に隙間なく密着されることにより、シャフトと封止部材のシャフト挿入部との間と薬液貯蔵部の内部空間とを遮断することができ、シャフトと封止部材のシャフト挿入部との間に薬液が入り込むことを防止することができる。かくして、シャフトと封止部材のシャフト挿入部との間をシールし得る薬液投与装置及び薬液投与装置のシール部の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】薬液投与装置の構成を示す略線図であり、(A)は薬液投与装置の垂直断面を示す略線図、(B)は薬液貯蔵部の水平断面を示す略線図である。
【図2】シール部の構成を示す略線図であり、(A)はシール部の軸方向の断面を示す略線図、(B)はシール部の軸方向に垂直な方向の断面を示す略線図である。
【図3】シール部製造工程の手順を示すフローチャートである。
【図4】シール部の製造工程の説明に供する略線図である。
【図5】比較例の作製の説明に供する略線図である。
【図6】シール部にかかる圧力の説明に供する略線図である。
【図7】有限要素解析のモデルの説明に供する略線図である。
【図8】モデルAの解析結果を示す図である。
【図9】モデルBの解析結果を示す図である。
【図10】モデルCの解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0014】
〔1.薬液投与装置の構成〕
図1(A)に示すように、薬液投与装置1は、使用者の身体又は衣服などに固定して持ち運び可能な小型サイズの略直方体で形成された筐体2を有し、携帯型の装置として構成されている。薬液投与装置1の大きさは、使用者の皮膚にはりつけることができる程度にまで小型化されていればよいが、例えば横32mm、縦44mm、高さ11mmの略直方体形状が挙げられる。
【0015】
筐体2の内部には、モータ3と、基板部4と、モータ3及び基板部4に電力を供給する電池5と、使用者に投与する薬液を貯蔵する薬液貯蔵部6とが収納されている。
【0016】
薬液貯蔵部6は有底の筒状でなり、図1(B)に示すように断面が略楕円形状でなる。薬液貯蔵部6はその先端側が底部分でありその後端側が開放されている。薬剤貯蔵部6に貯蔵される薬液としては、たとえばインスリンや各種ホルモン、モルヒネなどの鎮痛薬、あるいは抗炎症薬剤などが挙げられる。薬液貯蔵部6の先端部は、その中央部分が先端に向かってすぼまる略円錐台形状に突出する凸部6Aとなっており、後述する円錐台形状のシール部13を嵌め込み可能な形状となっている。
【0017】
また薬液貯蔵部6の先端部には、薬液を通過させる導管部6Bが形成されている。導管部6Bの先端部は開口部となっており、筐体2の外部に露出している。薬液投与装置1によって使用者に薬液を投与させる場合、導管部6Bには、例えば使用者の体内に挿入される注射針が先端に設けられたカテーテル(図示せず)などが接続されるようになっている。
【0018】
さらに薬液貯蔵部6には、その後端側から、薬液貯蔵部6内を摺動可能な略楕円柱状の封止部材7が嵌め込まれている。封止部材7は薬液貯蔵部6の後端側を密閉するようになっており、封止部材7と薬液貯蔵部6の内壁とによって囲まれた空間(すなわち薬液貯蔵部6の内部空間)8に薬液が貯蔵される。封止部材7は、薬液貯蔵部6内で摺動されることで、内部空間8の容積を変化させるようになっている。
【0019】
封止部材7の中心にはシャフトが封止部材7を貫通する円筒状の穴部が形成され、当該穴部にシャフト9が挿通されている。シャフト9の外周面には雄ねじが形成され、封止部材7の穴部の内周面には雌ねじが形成され、これらのねじは螺合されている。尚、封止部材7の穴部(すなわちシャフト9が挿入されるシャフト挿入部)を、以下、ねじ穴部とも呼ぶ。
【0020】
シャフト9は、薬液貯蔵部6の後端側から薬液貯蔵部6の内部に挿入され、筒状でなる薬液貯蔵部6の中心を通りその長さ方向に延びるように配されている。
【0021】
シャフト9の後端部にはギア10が設けられ、ギア10は、モータ3に設けられたギア11と、ギア12を介して接続されている。
【0022】
また、封止部材7には、シャフト9と封止部材7のねじ穴部との間をシールするためのシリコーンゴム製のシール部13が取り付けられている。
【0023】
基板部4は、CPU(Central Processing Unit)4Aと、モータドライバ4Bと、通信回路4Cとを有する。モータドライバ4Bは、CPU4Aの制御のもとモータ3を駆動させる。通信回路4Cは、使用者が薬液投与装置1に対して命令を入力するための操作部等が設けられた遠隔制御装置(図示せず)とCPU4Aの制御のもと無線通信を行い、遠隔制御装置から操作信号を受信してCPU4Aに入力する。CPU4Aは、当該操作信号に応じてモータドライバ4Bを適宜制御するようになっている。使用者は薬液投与装置1を操作し、制御部であるCPU4Aに指令を出すことで、CPU4Aは基本プログラムを読みだし、モータ3を制御することで使用者へ薬液が投与される。
【0024】
以上の構成において、モータ3を駆動して回転させると、モータ3の回転駆動力がギア11、12及び10を介してシャフト9に伝達され、シャフト9が回転される。
【0025】
ここで、シャフト9が封止部材7のねじ穴部にねじこまれていることにより、封止部材7が薬液貯蔵部6内でシャフト9の軸方向に沿って駆動される。尚、このとき、薬液貯蔵部6及び封止部材7の断面が略楕円形状であることにより、シャフト9が回転するのに伴って封止部材7が回転しないようになっている。
【0026】
モータ3を正回転させた場合、封止部材7は薬液貯蔵部6の先端部に向かう方向(すなわち薬液貯蔵部6の内部空間8を狭める方向)に駆動される。これにより、封止部材7により薬液貯蔵部6内の薬液に圧力が加えられ薬液が導管部6Bから外部へ押し出される。この結果、導管部6Bに接続されたカテーテル及び注射針を通して薬液が使用者に投与されるようになっている。
【0027】
尚、封止部材7が薬液貯蔵部6の先端部まで駆動されると、封止部材7に取り付けられたシール部13が薬液貯蔵部6の凸部6Aに嵌まりこむ。これにより、封止部材7は、薬液を薬液貯蔵部6内にほぼ残すことなく外部へ押し出すことができるようになっている。
【0028】
一方、モータ3を逆回転させた場合には、封止部材7は薬液貯蔵部6の後端部に向かう方向(すなわち薬液貯蔵部6の内部空間8を広げる方向)に駆動されるようになっている。
【0029】
〔2.シール部の構成〕
上述したシール部13は、図2(A)に示すように、薬液貯蔵部6の内部空間8内に配され、底面13Bから上面13Aに向かってすぼまる円錐台形状に形成されている。
【0030】
またシール部13は、シャフト9の軸方向における一部において、図2(B)に示すようにシャフト9の外周を覆う形状でなる。シャフト9は、シール部13の上面13A及び底面13Bの中心を通ってシール部13を貫通している。
【0031】
シール部13の上面13Aは、シャフト9のねじの外径よりも大きく形成されている。またシール部13の底面13Bは、薬液貯蔵部6の内部空間8側における封止部材7のねじ穴部7Aの開口よりも大きく形成されている。
【0032】
一例として、シャフト9がM3ねじであるとき、シール部13は、たとえば、上面の直径が3.1〔mm〕、底面の直径が6〔mm〕、高さ4〔mm〕で形成される。
【0033】
またシール部13は、シャフト9のねじ溝9Aの例えば6ピッチ分に隙間なく当接されている。
【0034】
尚、シール部13はシャフト9に固着されてはいないので、シャフト9はシール部13に対して回転可能となっている。これに対してシール部13の底面13Bは封止部材7の内部空間8側の面7Bに密着されており、シール部13は封止部材7に対し固定されている。
【0035】
したがって、シャフト9が回転すると、シール部13は、シャフト9と共に回転するのではなく、封止部材7と共にシャフト9の軸方向に駆動するようになっている。
【0036】
〔3.シール部製造工程〕
次に、上述したシール部13の製造工程について説明する。図3にシール部製造工程の手順を示す。第1工程SP1では、図4(A)に示すように、シール部13を形作るための型20を作製する。
【0037】
具体的に例えば型20は、厚さd(=10〔mm〕)でなる板21に、上面の直径がr1(=3.1〔mm〕)、底面の直径がr2(=6〔mm〕)、高さh1(=4〔mm〕)でなる円錐台形状の空洞22を形成することにより作製される。板21の材料としては、例えばMCナイロン、ABS樹脂、PP、PC、POM、アクリル、及び各種金属などが挙げられる。
【0038】
また型20には、円錐台形状の空洞22の頂点部から連続して板21を貫通する円筒形状の空洞23が形成される。尚、円筒形状の空洞23の直径r3は、シャフト9の外径+0.1〔mm〕とされる。ここでは、シャフト9をM3ねじとすると、例えば外径が3mm〔mm〕であるので、空洞23の直径r3=3.1〔mm〕となる。
【0039】
第2工程SP2では、図4(B)に示すように、型20の円錐台形状の空洞22に、2液反応型シリコーンでなるシール部材料SKを未硬化の状態で流しこむ。
【0040】
第3工程SP3では、図4(C)に示すように、封止部材7のねじ穴部7Aにシャフト9がねじこまれた状態で、型20に流しこまれたシール部材料SK及び円筒状の空洞23にシャフト9を挿通させる。このようにシャフト9を円筒状の空洞23に沿って挿通させることで、シール部材料SKの中心にシャフト9が位置決めされる。
【0041】
これと共に、封止部材7における薬液貯蔵部6の内部空間8側の面7Bを、空洞22の底面側である型20の面20Aに押し付ける。これによりシール部材料SKに圧力をかけ、シャフト9のねじ溝9Aにシール部材料SKを隙間なく充填させる。
【0042】
第4工程SP4では、このようにシャフト9をシール部材料SKに挿通させ封止部材7を型20に押し付けた状態で、シール部材料SKを硬化させる。第5工程SP5では、硬化させたシール部材料SKから型20を取り外す。また、シール部材料SKから封止部材7及びシャフト9を剥がす。
【0043】
第6工程SP6では、図4(D)に示すように、硬化させたシール部材料SKにシャフト9を挿通させた状態で、接着剤等により、シール部材料SKの底面を封止部材7の内部空間8側の面7Bに密着させる。
【0044】
この結果、シャフト9の外周を覆いシャフト9のねじ溝9Aに隙間なく当接されると共に、底面13Bが封止部材7の内部空間8側の面に密着されたシール部13が製造される。
【0045】
〔4.実験〕
次に、上述したシール部13がシャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間をシールするか否かについての実験結果について説明する。
【0046】
この実験では、シャフト9を回転させることによりシール部13が取り付けられた封止部材7を摺動させて薬液貯蔵部6内の液体に圧力をかけ、送液圧を徐々に上げながら封止部材7のねじ穴部7Aから液体が漏れないかどうかを目視で確認した。
【0047】
この結果、送液圧が221〔kPa〕となったときでも封止部材7のねじ穴部7Aから液体が漏れなかった。尚、実際上、薬液投与装置1において薬液を送液する際の送液圧は100〔kPa〕程度未満である。したがって、この実験結果から、シール部13によって十分にシャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間をシールできることがわかった。
【0048】
また比較例としてのシール部R1を作製し、同様の実験を行った。シール部R1の作製方法を、図5を用いて説明する。まず、図5(A)に示すように、シャフト9のねじ溝9Aの谷底9Bに直径r4(=0.08〔mm〕)の銅線30を位置させるようにして、シャフト9に対し銅線30を螺旋状に巻きつけた。尚ここでは、ねじ山の高さm(=0.487〔mm〕)のシャフト9を用いた。
【0049】
次に、図4(A)及び(B)に示した場合と同様にして型20に流しこまれたシール部材料SKに、銅線30を巻きつけた状態のシャフト9を図4(C)に示した場合と同様にして挿通させた状態で、シール部材料SKを硬化させた。
【0050】
この場合、図5(B)に示すように、シャフト9のねじ溝9Aにおいて銅線30がある部分にはシール部材料SKが充填されない。したがって、シール部材料SKの硬化後、シャフト9のねじ溝9Aから銅線30を取り外すと、図5(C)に示すように、シャフト9のねじ溝9Aの一部分には当接するが谷底9B部分には当接されないシール部R1が作製される。したがってシール部R1とシャフト9のねじ溝9Aとの間には、谷底9B部分に隙間が形成される。
【0051】
このようにして作製したシール部R1を上述したシール部13と同様にして封止部材7に密着させ、この封止部材7を摺動させて薬液貯蔵部6内の液体に圧力をかけた。この結果、数〔kPa〕程度の送液圧で封止部材7のねじ穴部7Aから液体が漏れてしまった。
【0052】
以上の実験結果から、シール部13がシャフト9のねじ溝9Aに谷底9Bまで隙間なく当接されることにより、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間をシールできることがわかった。
【0053】
〔5.有限要素解析〕
ところでシール部13には、図6に示すように薬液貯蔵部6の内部空間8に充填された薬液からの圧力F1とシャフト9からの接触圧力F2とが加えられる。シャフト9からの接触圧力F2が薬液からの圧力F1以上であれば、シャフト9とシール部13との間に薬液が入りこまず、シャフト9とシール部13との間を通過して封止部材7のねじ穴部7Aに薬液が入りこまないので、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間がシールされるものと考えられる。
【0054】
ゆえにシール部13とシャフト9との接触圧力F2がより大きい方が、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間を一段と確実にシールできるものと考えられる。
【0055】
そこで、シール部13とシャフト9との接触圧力F2を有限要素解析(FEM)により測定した。解析用ソフトは、SolidWorks Simulationを使用した。以下、この解析結果について説明する。
【0056】
解析にあたり、まず2つのモデルA及びBを設定した。モデルAは、図7(A)に示すように、シャフト9としてM3ねじを模擬し、シール部13として、上面の直径がr5(=3.1〔mm〕)、底面の直径がr6(=6〔mm〕)、高さh2(=2.6〔mm〕)の円錐台形状でなるシリコーンゴムを模擬した。
【0057】
シリコーンゴムの底面は、x軸、y軸及びz軸方向において拘束されるようにし、シール部13の底面13Bが封止部材7に密着されている状態を模擬した。
【0058】
また上述したシール部13と同様に、シリコーンゴムは、ねじの外周を覆いねじ溝に隙間無く当接された形状でなるようにした。またシリコーンゴムのヤング率を40.3〔MPa〕、ポアソン比を0.49とした。また実際上、薬液投与装置1において薬液からの圧力F1は最大で100〔kPa〕程度であるため、解析において、シリコーンゴムに対する印加圧力F3を100〔kPa〕としてシール部13に対して薬液からの圧力F1が加わっている状態を模擬しシール性を評価した。
【0059】
モデルBは、シリコーンゴムのヤング率を8.9〔MPa〕とし、これ以外の条件はモデルAと同一とした。
【0060】
モデルAの解析結果を図8(参考図1)に、モデルBの解析結果を図9(参考図2)に示す。これらの解析結果によると、モデルA及びBともに、ねじ溝とシリコーンゴムとの接触面において約100〔kPa〕程度の圧力が加わっている。またモデルA及びBを比較すると、ねじ溝とシリコーンゴムとの接触面における圧力にほぼ違いは見られない。
【0061】
このことから、シール部13のヤング率を変えても、シール部13におけるシャフト9からの接触圧力F2が殆ど変わらず、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間のシール性はさほど変わらないことが推定される。
【0062】
さらに解析において、図7(B)に示すモデルCを設定した。モデルCは、シリコーンゴムの形状を直径r7(=6〔mm〕)、高さh3(=2.6〔mm〕)の円柱形状とし、これ以外の条件はモデルAと同一とした。
【0063】
モデルCの解析結果を図10(参考図3)に示す。この解析結果によると、モデルCにおいても、ねじ溝とシリコーンゴムとの接触面において約100〔kPa〕程度の圧力が加わっている。またモデルCとモデルAとを比較したところ、シリコーンゴムが円錐台形状であるモデルAの方が、円柱形状であるモデルCよりも、ねじ溝とシリコーンゴムとの接触面における圧力が若干高くなっていた。
【0064】
このことから、シール部13が円柱形状であるよりも円錐台形状である方が、シャフト9からの接触圧力F2が高くなり、シャフト9とシール部13との間により薬液が入り込み難く、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間を一段と確実にシールできることが推定される。
【0065】
〔6.動作及び効果〕
以上の構成において、薬液投与装置1のシール部13は、薬液貯蔵部6の内部空間8内に配され、シャフト9の外周を覆いシャフト9のねじ溝9Aに隙間なく当接されるようにした。これにより、シール部13においてシャフト9からの接触圧力F2を薬液からの圧力F1以上とすることができ、シャフト9とシール部13との間を通過してシャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間に薬液が入りこむことを防止することができる。
【0066】
またシール部13の底面13Bは、封止部材7の内部空間8側の面7Bに密着されるようにした。これにより、シャフト9の周方向においてシール部13と封止部材7との隙間をなくすことができ、封止部材7とシール部13との間を通過してシャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間に薬液が入りこむことを防止することができる。
【0067】
このようにシール部13は、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間に薬液が入り込むことを防止することができるので、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間をシールすることができる。
【0068】
さらにシール部13は、円錐台形状でなり、封止部材7に密着される面を底面とし当該底面から上面に向かってすぼまる形状でなるようにした。
【0069】
これにより、シール部13とシャフト9との接触圧力F2を一段と高めることができるので、シャフト9とシール部13との間に薬液を一段と入り込み難くでき、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間を一段と確実にシールすることができる。
【0070】
さらにシール部13は、シャフト9が挿通される型20にシール部材料SKを未硬化の状態で流しこみシール部材料SKをシャフト9のねじ溝9Aに隙間無く充填させる工程と、シール部材料SKを硬化させる工程と、硬化させたシール部材料SKにシャフト9を挿通させた状態でシール部材料SKの底面を封止部材7の内部空間8側の面に密着させる工程とにより、製造されるようにした。
【0071】
このように本発明のシール部13は、シール部材料SKをシャフト9のねじ溝9Aに隙間無く充填させて硬化させた後封止部材7に密着させるだけで製造することができ、例えばシャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間にシール部を配置する場合と比して高度な精度管理が不要であるため、一段と簡易に製造することができる。
【0072】
以上の構成によれば、シール部13が、薬液貯蔵部6の内部空間8内に配され、シャフト9の外周を覆いシャフト9のねじ溝9Aに隙間なく当接されると共に封止部材7の内部空間8側の面7Bにシャフト9の周方向に隙間なく密着されるようにしたことにより、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間と薬液貯蔵部6の内部空間8とを遮断することができ、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間に薬液が入り込むことを防止することができるので、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間をシールすることができる。
【0073】
〔7.他の実施の形態〕
尚、上述した実施の形態においては、シール部13が円錐台形状でなる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば円柱形状でなるようにしてもよい。
【0074】
ここで、円柱形状でなる以外は上述したシール部13と同様のシール部を作製して、上述したシール部13と同様の実験を行った。この結果、円柱形状でなるシール部においても、送液圧が200〔kPa〕となったときでも封止部材7のねじ穴部7Aから液体が漏れないことを目視で確認した。
【0075】
したがってシール部を円柱形状としても、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間をシールすることができる。
【0076】
またこれに限らず、例えば、シール部13の上側部分を上面13Aに向かってすぼまる円錐台形状とし下側部分を円柱形状とするようにしてもよい。
【0077】
上述した有限解析結果(図8、図9及び図10)によると、モデルA、B及びCともに、ねじ溝とシリコーンゴムとの接触面の全体において、印加圧力F3と同等の約100〔kPa〕程度の圧力が加わっている。またシール部13が円錐台形状又は円柱形状のいずれである場合も、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間をシールできていることが実験により確認されている。さらに、有限要素解析において、シール部13の接触圧力はねじ溝9Aに隙間なく当接している部分のうち最も上面13Aに近い部分において最も高い値を示していることが分かる。以上のことから、実際は、シール部13は、ねじ溝9Aに隙間なく当接している部分のうち最も上面13Aに近い部分において、薬液をシールしているものと推測される。
【0078】
そこでシール部13の上側部分を上面13Aに向かってすぼまる円錐台形状とすれば、シール部13のねじ溝9Aに隙間なく当接している部分のうち最も上面13Aに近い部分における接触圧力F2を高くでき、シール部13全体が円錐台形状である場合と同様に、シャフト9と封止部材7のねじ穴部7Aとの間を一段と確実にシールできると考えられる。
【0079】
また上述した実施の形態においては、シール部13はシャフト9のねじ溝9Aの6ピッチ分に隙間なく当接されるようにしたが、本発明はこれに限らず、少なくとも1ピッチ分以上に隙間なく当接されるようにすればよい。
【0080】
さらに上述した実施の形態においては、シャフト9をM3ねじとし、シール部13を上面の直径が3.1〔mm〕、底面の直径が6〔mm〕、高さ4〔mm〕の円錐台形状とするようにしたが、本発明はこれに限らず、シャフト9及びシール部13ともに、適宜、この他のサイズを選定してもよい。
【0081】
さらに上述した実施の形態においては、シール部13が2液反応型シリコーンでなるようにしたが、本発明はこれに限らず、例えば1液型反応シリコーン、ウレタンなどでもよい。
【0082】
さらに上述した実施の形態においては、シール部13の底面13Bが封止部材7の内部空間8側の面7Bに密着されるようにしたが、本発明はこれに限らず、少なくともシール部13が封止部材7の内部空間8側の面7Bにシャフトの周方向に隙間なく密着されるようにすればよい。
【0083】
さらに上述した実施の形態においては、シール部13の製造工程において、封止部材7のねじ穴部7Aにねじこまれた状態のシャフト9をシール部材料SKに挿通させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、まだ封止部材7のねじ穴部7Aにねじこまれていない状態のシャフト9をシール部材料SKに挿通させるようにしてもよい。
【0084】
さらに上述した実施の形態においては、シール部13の製造工程において、型20にシール部材料SKを流しこんだ後、シャフト9をシール部材料SKに挿通させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、予め型20の空洞22及び23にシャフト9を挿通させた状態で、空洞22にシール部材料SKを流し込むようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、例えばインスリンポンプ等の携帯型の薬液投与装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1……薬液投与装置、6……薬液貯蔵部、7……封止部材、7A……ねじ穴部、8……内部空間、9……シャフト、9A……ねじ溝、13……シール部、20……型、SK……シール部材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を貯蔵する薬液貯蔵部と、
前記薬液貯蔵部内に配され、外周面にねじが形成されたシャフトと、
前記シャフトが挿入されるシャフト挿入部が形成され、前記薬液貯蔵部の内部空間内を摺動することで前記内部空間の容積を変化させる封止部材と
を有し、
前記封止部材は、前記シャフトの回転により前記薬液貯蔵部内で駆動され、前記薬液貯蔵部から前記薬液を押し出し、
さらに、
前記内部空間内に配され、前記シャフトの外周を覆いかつ前記シャフトのねじ溝に隙間なく当接されると共に、前記封止部材の前記内部空間側の面に前記シャフトの周方向に隙間なく密着されるシール部
を具える使用者へ薬液を投与するための薬液投与装置。
【請求項2】
前記シール部は、
円錐台形状でなり、前記封止部材に密着される面を底面とし当該底面から上面に向かってすぼまる形状でなる
請求項1に記載の薬液投与装置。
【請求項3】
前記シール部は、
前記シャフトのねじ溝の少なくとも1ピッチ分に隙間なく当接される
請求項1に記載の薬液投与装置。
【請求項4】
薬液を貯蔵する薬液貯蔵部と、当該薬液貯蔵部内に配され外周面にねじが形成されたシャフトと、当該シャフトが挿入されるシャフト挿入部が形成された封止部材とを有し、当該シャフトの回転により当該封止部材が当該薬液貯蔵部内で摺動し、当該薬液貯蔵部の内部空間の容積を変化させ、当該薬液貯蔵部から当該薬液を押し出す使用者に薬液を投与するための薬液投与装置のシール部の製造方法であって、
前記シャフトが挿通される型にシール部材料を未硬化の状態で流しこみ、当該シール部材料を前記シャフトのねじ溝に隙間無く充填させる工程と、
前記シール部材料を硬化させる工程と、
硬化させた前記シール部材料を、前記シャフトが挿通された状態で、前記封止部材の前記内部空間側の面に前記シャフトの周方向に隙間なく密着させる工程と
を有する薬液投与装置のシール部の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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