説明

美爪料

【課題】経時による黄変、変色、退色の発生を抑制した色調及び安定性に優れた透明性美爪料を提供する。
【解決手段】ニトロセルロース、有機溶媒、任意選択的に紫外線吸収剤を含有する透明性美爪料において、実質的にイソプロパノールを含まないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、有機溶媒、ニトロセルロース、紫外線吸収剤を含有する美爪料において、実質的にイソプロパノールを含まないことを特徴として、経時による黄変、変色、退色の発生を抑制した色調及び安定性に優れた透明性美爪料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に美爪料は酢酸エステル類、乳酸エステル類、炭化水素等の有機溶媒、ニトロセルロース、皮膜形成樹脂、可塑剤、退色防止剤、着色剤等を含み、黄変及び、着色剤の変色、退色等により経時安定性が低下しやすい。
又、一般的にニトロセルロースとは30重量%イソプロパノールで湿潤された状態で市販されている。
特許文献1には、低分子量のニトロセルロースと高分子量のニトロセルロースとを特定量配合することで美爪料塗膜の乾燥性、平滑性を改良した美爪料が開示されているが、ニトロセルロースはイソプロパノールを含んだ状態で使用されているため、色調の安定性に劣っている。
特許文献2には、エタノールに、H型及びL型のニトロセルロースを溶解させることによって、安全性、使用性を改良した美爪料が開示されているが、美爪料の塗膜強度としては十分なものではなく、紫外線吸収剤を含まないため色調の安定性に劣っている。
特許文献3には、L型ニトロセルロースと炭素数2〜4の低級アルコールとを主要構成成分とする美爪料に於いて、低級アルコール中のエタノール含有量が80重量%以上である、安全性、使用性を改良した美爪料が開示されているが、美爪料の塗膜強度としては十分なものではなく、美爪料処方中にイソプロパノールを含むため、色調の安全性に劣っている。
特許文献4には、ニトロセルロースと主にアルコール溶媒とからなる美爪料で、アルコール溶媒以外の溶媒の含有量が10%未満の爪への安全性を改良した美爪料が開示されているが、ニトロセルロースはイソプロパノールを含んだ状態で使用されているため、色調の安定性に劣っている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−158041号公報
【特許文献2】特許第2791133号公報
【特許文献3】特開平2−78606公報
【特許文献4】特開2003−342129公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、経時による中身の黄変、着色剤の変色及び退色の発生を抑制した色調及び安定性に優れた透明性美爪料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、従来の美爪料に含まれていたイソプロパノールが経時による黄変、変色、退色の大きな要因であることを突き止め、美爪料からイソプロパノールを除くことによってかかる黄変、変色、退色の発生を抑制すると同時に、特定の有機溶媒やアルコールを使用することにより従来の美爪料の他の特性をも保持することができることを見出し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
(a)ニトロセルロース、(b)酢酸エステル類、乳酸エステル類、ケトン類及び炭化水素から選択される少なくとも一種の有機溶媒、及び(c)イソプロパノールを除く炭素数1〜4個のアルコールから選択される少なくとも一種のアルコールを含むが、実質的にイソプロパノールを含まないことを特徴とする、トップコート及びベースコートを含む透明性美爪料。
少なくとも一種の紫外線吸収剤を更に含む、上記透明性美爪料。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、経時による黄変、変色、退色の発生を抑制した色調及び安定性に優れた透明性美爪料を得ることが出来る。
【0007】
本発明に使用するニトロセルロースは公知の物質であって、濃硝酸と濃硫酸の混液にセルロースを加えることによって得られるセルロース誘導体であり、窒素量によりその性質は異なる。
本発明で用いられるニトロセルロースは窒素含有量によって分類され、JIS K−6703にHタイプ 11.5〜12.2%、Lタイプ 10.7〜11.5%と規定されているが、いずれのタイプも使用が可能である。
本発明に使用されるニトロセルロースはイソプロパノールを含まないものであれば特に限定はされず、エタノール等のアルコールに湿潤された製品、又は、酢酸エチル、酢酸ブチル等の有機溶剤にあらかじめ溶解された製品のいずれも利用が可能である。
市販のニトロセルロースとしては例えば、SNPE社ベルジュラックNCや、ICIノーベルエンタープライゼス社DHXシリーズ等の製品が利用出来る。
【0008】
本発明におけるニトロセルロースの含有量は美爪料全量に対して固形分として5〜25重量%であるが、爪に容易に塗布出来、かつ、経時で剥がれ難く美的効果に優れた塗膜を形成するためには固形分で10〜20重量%を配合することが好ましく、最も好ましいのは12〜17重量%である。
ニトロセルロースの固形分が5重量%以下では美爪料として十分な粘度及び皮膜強度を得られず、分離安定性が悪く経時で剥がれ易くなることがある。又、固形分25重量%以上では美爪料の粘度が高くなるため、塗布が困難になり、乾燥速度が遅くなり、塗布膜の光沢が著しく低下することがある。
【0009】
本発明で用いられる有機溶剤は公知の物質であって、酢酸エステル系、乳酸エステル系、炭化水素系のものを使用することが出来る。例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、乳酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン等が挙げられ、これらの有機溶剤は1種又は2種以上を用いることが出来る。中でも揮発性が高く、ニトロセルロースの溶解性に優れる、酢酸エチル及び酢酸ブチルを用いることが好ましい。
【0010】
有機溶剤の配合量は、ニトロセルロースの溶解及び美爪料の塗膜が短時間で乾燥するのに必要な量であれば良く特に限定はされないが、美爪料全量に対して40〜85重量%の範囲で配合することが好ましく、更に好ましいのは65〜80重量%である。85重量%以上では溶剤量が多過ぎるため塗膜の乾燥時間が遅くなる恐れがあり、40重量%以下ではニトロセルロースの溶解性が低下、又は粘度が高くなり美爪料の使用性(刷毛さばき)が低下する恐れがある。
【0011】
本発明で用いられるアルコール類はイソプロパノールを除く炭素数1〜4個のアルコールから選択され、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等が挙げられるが、中でも臭いや刺激が少なく入手が容易なエタノールを用いることが好ましい。
【0012】
アルコール類の配合量は、美爪料の使用性(刷毛さばき)に影響を与えない範囲であれば特に限定されないが、美爪料全量に対して0.5〜25重量%の範囲で配合することが好ましく、更に好ましいのは5〜15重量%である。0.5重量%以下では美爪料の使用性(刷毛さばき)が悪くなる恐れがあり、25重量%以上ではニトロセルロースの溶解性が低下し、美爪料が濁る恐れがある。
【0013】
本発明には製品の黄変及び色素の退色、変色を防止する目的で紫外線吸収剤を配合することが好ましい。本発明に使用される紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2´4,4´−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸ナトリウム、2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−tert−ブチル−4´−メトキシジベンゾイルメタン等のジベンゾイルメタン系、パラメトキシケイ皮酸エチルヘキシル等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることが出来る。
これらの紫外線吸収剤の中で、特に有効なものとしては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン及びパラメトキシケイ皮酸エチルヘキシルが挙げられる。
【0014】
これらの紫外線吸収剤は0.01〜0.5重量%の範囲で使用されることが好ましい。0.01重量%未満では十分な色素退色防止効果が得られないことがあり、0.5重量%を超えると黄変を防止することが出来ないことがある。
【0015】
本発明には、皮膜形成樹脂としてニトロセルロース以外にアクリル系樹脂、アルキッド系樹脂、トルエンスルホンアミド系樹脂、シュークローズ系樹脂等を使用することが出来る。例えば、アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体、フタル酸系アルキッド樹脂、イソフタル酸系アルキッド樹脂、コハク酸系アルキッド樹脂、トルエンスルホンアミド/ホルムアルデヒド樹脂、トルエンスルホンアミド/エポキシ樹脂、シュークローズベンゾエート、シュークローズアセテートイソブチレート等を挙げることが出来る。これらの皮膜形成樹脂は1種又は2種以上を用いることが出来る。
【0016】
皮膜形成樹脂は、美爪料全量に対して樹脂固形分として、1.0〜10.0重量%の範囲で使用することが好ましい。
皮膜形成樹脂が1.0%未満では、十分な爪への密着性が得られないことがあり、10.0%を超えると塗膜がべたつき、十分な塗膜強度が得られなくなることがある。
【0017】
又、ニトロセルロース皮膜のひび割れを防止する目的で、カンフル及びクエン酸エステル系の可塑剤を使用することが出来る。例えば、カンフルクエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等を挙げることが出来、美爪料全量に対して、1.0〜10.0重量%の範囲で使用することが好ましい。
可塑剤が1.0%未満では、十分な塗膜のひび割れを防止することが出来ないことがあり、10.0%を超えると塗膜の乾燥が遅くなり、十分な強度の塗膜を得ることが出来ないことがある。
【0018】
本発明の美爪料にはこれらの他に顔料、染料等の着色成分や香料等の一般的に美爪料に配合可能な成分を配合することが出来る。
【0019】
本発明の美爪料は、一般的に化粧用美爪料として知られるマニキュア製品を広く含み、例えば、ネイルエナメル、トップコート(オーバーコート)、ベースコート等の製品を含む。
【0020】
本発明の美爪料の製造方法としては下記の方法が挙げられる。
第一の方法としては、イソプロパノール30重量%を含む市販のニトロセルロースから安全な方法でイソプロパノールを乾燥除去した後、これを酢酸エステル類、炭化水素等の有機溶剤、アクリル系、アルキッド系等の皮膜形成樹脂、カンフル、クエン酸エステル等の可塑剤、及び、炭素数1〜4個のアルコール(イソプロパノールを除く)等が均一に溶解された溶液中に混合し、必要に応じて顔料、染料等の着色成分や香料等を添加して美爪料を得る方法が挙げられる。
第二の方法は、あらかじめエタノール等で湿潤させたタイプのニトロセルロースを使用する方法で、これを酢酸エステル類、炭化水素等の有機溶剤、アクリル系、アルキッド系等の皮膜形成樹脂、カンフル、クエン酸エステル等の可塑剤等が均一に溶解された溶液中に混合し、必要に応じて顔料、染料等の着色成分や香料等を添加して美爪料を得る方法である。
工業的に美爪料の製造を行う上では、安全かつ経済性にも優れる第二の方法で行うことが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものでない。
【0022】
実施例に示した本発明の美爪料の評価方法を説明する。
[耐日光安定性]
各試料をネイルエナメル用ガラスビン(10ml入り)に充填し、晴天日で14日間耐日光試験を行い、状態を以下の基準により評価した。
◎:黄変(色素退色)が見られない
○:わずかに黄変(色素退色)している
△:明らかに黄変(色素退色)している
×:激しく黄変(色素退色)している
[経時安定性]
各試料をネイルエナメル用ガラスビン(10ml入り)に充填し、45℃に1ヶ月間静置し、状態を以下の基準により評価した。
◎:黄変(色素退色)が見られない
○:わずかに黄変(色素退色)している
△:明らかに黄変(色素退色)している
×:激しく黄変(色素退色)している
【0023】
以下に示す組成で常法により美爪料を調整し、それぞれについて上記評価方法により、黄変レベルを観察した。結果を表1〜4に示す。
表中の数値は美爪料全量を100%として重量%で表し、ニトロセルロースは固形分の重量を表している。
ここで用いたニトロセルロースは、市販の30重量%イソプロピルアルコールで湿潤された状態のものをドラフトチャンバー内で蒸発乾燥させて固形分としたが、安全な方法でイソプロピルアルコールが除去出来れば特に限定されるものではない。又、実際に製品化する上では経済性等を考慮してエタノール湿潤タイプや、イソプロピルアルコールを含まないニトロセルロースラッカー(有機溶剤溶解型)を用いることが好ましい。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ニトロセルロース、(b)酢酸エステル類、乳酸エステル類、ケトン類及び炭化水素から選択される少なくとも一種の有機溶媒、及び(c)イソプロパノールを除く炭素数1〜4個のアルコールから選択される少なくとも一種のアルコールを含むが、実質的にイソプロパノールを含まないことを特徴とする、トップコート及びベースコートを含む透明性美爪料。
【請求項2】
少なくとも一種の紫外線吸収剤を更に含む、請求項1に記載の透明性美爪料。

【公開番号】特開2006−290849(P2006−290849A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117631(P2005−117631)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000000114)株式会社伊勢半 (4)
【Fターム(参考)】