説明

糖尿病による足切断を予防するための、上皮成長因子(EGF)を含有する局所組成物の使用

【課題】本発明は、慢性虚血性皮膚病変及びその周囲に施用することが意図される、標準的又は変形性リポソームに封入され又は結合された上皮成長因子を含有する局所製剤の使用に関する。本発明の製剤は、従来技術とは対照的に、病変よりも深い組織において上皮成長因子の高バイオアベイラビリティーが可能になり、また糖尿病による足の切断が予防される点で、有用である。
【解決手段】糖尿病患者のグレードIV及びVの糖尿病性足潰瘍を治療するための、ホスファチジルコリンを含む変形性又は従来のリポソームに封入され又は結合された、有効量の上皮成長因子を含む局所医薬品製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病による足切断を予防するための、慢性虚血皮膚病変の表面又は周囲に施用される、変形性又は従来のリポソームに封入され又は結合された上皮成長因子(EGF)を含有する局所製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病及びその合併症は、下肢切断の主な非外傷的原因である。これは、糖尿病の発生率及び罹患率が、人口の高齢化及び座りがちな生活様式の結果として上昇することになるので、重要性が増しつつある医学的な問題である。糖尿病患者の少なくとも15%は、生涯にわたってその足に慢性潰瘍を発症し、これらの患者の20%は下肢切断が必要と推定される(Reiber G.E.、Boyko E.J.、Smith D.G.(1995)糖尿病における下肢先端潰瘍及び切断(Lower extremity foot ulcers and amputations in diabetes):Harris M.I.、Cowie C.C.、Reiber G.、Boyko E.、Stern M.、Bennett P.、編 Diabetis in America、Washington,DC:US Government Printing Office、409〜28;Moss S.E.、Klein R、Klein B.E.(1992)糖尿病人口における下肢切断の罹患率及び発生率(The Prevalence and incidence of lower extremity amputation in a diabetic population)Arch Int Med.152:610〜6)。
【0003】
糖尿病による足の患者の治療には、適用とされる場合、厳しい代謝制御、変化し易い危険因子の予防、創傷除去、ドレッシングの使用、感染の抗菌治療、病変領域に存在するあらゆる圧力の除去、皮膚移植、成長因子、及び血管再建の使用を含めたいくつかの方法が、適用されてきた。
【0004】
厳しい代謝制御の場合、糖尿病性潰瘍を治癒させるのにより重要なステップは創傷除去であり、任意のその他の局所治療様式を行う前に実施しなければならない。これは、病変領域内及び肥厚組織周囲に存在する可能性がある、死滅及び感染組織(骨を含む)の除去からなる。
【0005】
糖尿病性足潰瘍に対するドレッシングの使用は十分に確立されており、何種類かのドレッシングについては研究されてきたが、それぞれの種類のドレッシングの、他のものに対する利点はわかっていない。さらに、ドレッシングの使用に関する研究は少ししかなく、それらは主に低レベルの潰瘍を対象としているので、それらの効力を実証するには臨床試験からのより多くの証拠が必要とされる。臨床試験で研究されている新しい種類のドレッシングには、半透性ポリマー膜、プロモグラム(コラーゲンマトリックス)、アルギネート、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナンをベースにしたもの、及び大気圧よりも低い圧力を使用するものが含まれる(Eldor R.他(2004)糖尿病性足潰瘍を治療するための新たな実験的手法:新たな治療戦略の包括的概要(New and experimental approaches to treatment of diabetic foot ulcers:a comprehensive review of emerging treatment strategies)Diabet Med.21(11):1161〜73)。
【0006】
潰瘍の慢性段階だけでなく、その再度の悪化の際にも何らかの有益な効果を発揮する、血管動態的及び血管作動性療法などの補助治療も用いられているが、これらの治療は、糖尿病による足の治療には一般化されていない。血管動態的療法は、血管動態の変化の糖尿病患者で実証された罹患率、及びそれらが感染に及ぼす影響に基づく。その一方で、血管作動性療法は、マクロ又はミクロ血管障害によって引き起こされる局所潅流変化に使用されており、一部のプロスタノイドが組織レベルで作用する。
【0007】
血小板凝集阻害剤及び血栓溶解剤は、いくつかの状態で使用されている。その一方で、虚血患者(糖尿病性又は非糖尿病性)における血管再建技法は危険性が高く、費用がかかり、全ての患者に適用できるわけではない。その適応は、石灰化及び高い病変の分割に起因する、大動脈腸骨動脈だけでなく大腿膝窩動脈分野でも生存度に限りがあることが示されるちょうど血管内手術の場合のように、非常に限られている。静脈潰瘍などの拡張性急性皮膚病変を治療するための別の発明は、人工のヒトの皮膚の代替物を生成することであった。しかし、これを虚血性糖尿病性足潰瘍に施用することに関する情報は限られており、これらの生成物が、瘢痕化不全の原因として基礎をなす虚血性プロセスを制御することができるとは考えられない(古い皮膚に対する新しい皮膚 生物学的皮膚代替物の開発(New Skin for Old.Developments in Biological Skin Substitutes)Arch Dermatol.1998 134:344〜348)。
【0008】
別の代替例は、成長因子の利用であった。最近、米国食品医薬品局(FDA)は、糖尿病性神経障害性足潰瘍の瘢痕化を刺激するために、ヒト組換え血小板由来成長因子(PDGF)の使用を承認した。
【0009】
しかし、PDGFのゲル製剤が病変表面に施用される、最も最近の無作為化二重盲検多施設臨床試験では、50%の効力しか実証されていない(Wieman T.J.、Smiell J.M.、Su Y.(1998)慢性神経障害性糖尿病性潰瘍の患者における組換えヒト血小板由来成長因子−BB(ベカプレルミン)の局所ゲル製剤の効力及び安全性。第III相無作為化プラセボ対照二重盲検試験。(Efficacy and safety of a topical gel formulation of recombinant human platelet−derived growth factor−BB(ベカプレルミン) in patients with chronic neuropathic diabetic ulcers.A phase III randomized placebo−controlled double−blined study.)Diabetes Care.21(5):822〜7)。さらに、この臨床試験で治療された病変は、通常の動脈血供給を伴う単なる第III及びIVグレードまでであった。さらに、この研究で観察された再発率(3カ月で30%)は、高かった。
【0010】
上皮成長因子(EGF)による神経障害性糖尿病性足潰瘍の治療で最も満足のいく結果は、Berlanga,J.他によって記述されている(WO03/053458 A1)。本発明は、重篤な虚血性成分によるより高いグレード(IV及びV)の病変に対する治療の高い効力(50%超)が実証され、したがって糖尿病による足の切断が予防される。この臨床試験では、皮下注射針を使用することにより、EGFを病変内及び病変周囲に浸潤させた。この浸潤法は、生存可能な組織に多量のEGFを直接送達することができるので、EGF投与に非常に有効である。しかし注射には、痛みを引き起こすという欠点があり、その結果、一部の患者は治療をあきらめる可能性があり、それには敗血症をもたらすという危険性がある。
【0011】
リポソームは、皮膚を通した薬物の吸収を促進させ、薬物関連の毒性を低下させ、長期間にわたる薬物の持続放出をもたらすので、様々な局所施用での使用が提案されている。局所経路による薬物輸送効率を決定する、リポソームのコロイド状の性質は、数ある要因の中でも、その脂質組成にかなりの程度まで左右される。一般に、リン脂質及びステロールを含む従来のリポソームは、これらの小胞が、生存可能な皮膚に浸透することはできなくとも角質層内及び皮膚表面により近く位置付けられたその他の層内に蓄積し得るので、皮膚を通した薬物の浸透を調節することがわかっている(Barry B.W.(2001)首尾よい経皮薬物送達を可能にする新規なメカニズム及び器具(Novel mechanisms and devices to enable successful transdermal drug delivery.)Eur J Pharm Sci.14(2):101〜14;van den Bergh,B.A.I.、de Vries,I.S.、Bouwstra,J.A.(1998)凍結置換電子顕微鏡法によって研究されたリポソームとヒト角質層との相互作用(Interactions between liposomes and human stratum corneum studied by freeze−substitution electron microscopy.)Int.J.Pharm.167、57〜67)。界面活性剤などのテンソアクティブ剤がリポソームに含まれる場合、これらの小胞は、より深い生存可能な皮膚層内に、角質層の細孔を通して無傷の形で且つより効率的に浸透することができる、より大きな変形能力を示す(変形性リポソーム)(Cevc G.、Schatzlein A.、Richardsen H.(2002)超変形性脂質小胞は、皮膚及びその他の断片化していない半透性障壁を浸透することができる。二重標識CLSM実験及び直接サイズ測定からの証拠。(Ultradeformable lipid vesicles can penetrate the skin and other semi−permeable barriers unfragmented.Evidence from double label CLSM experiments and direct size measutements.)Biochim.Biophys.Acta 1564(1):21〜30;Cevc G.(2004)脂質小胞及び皮膚上の薬物担体としてのその他のコロイド(Lipid vesicles and other colloids as drug carriers on the skin.)Adv Drug Deliv Rev.56(5):675〜711)。
【0012】
しかし、局所経路によってEGFを投与するための、リン脂質及びステロールを含む従来のリポソームの有用性は、本発明で記述されるものとはその性質が著しく異なる用途において実証されている。特に、Uster,P.S.他(US 4944948)は、EGFと高粘度のリポソーム分散液との結合によって、ウサギの施用部位におけるEGFの局所濃度が長く維持されることを報告した。また、リポソームがその主成分であるSu Yu PingによるEGFの製剤は、局所経路によって施用した場合、EGF単独の場合と比較して、患者のグレードIIの熱傷創の治癒を高めることも示されている(Liao Y.、Guo L.、Ding E.Y.(2003)組換えヒト上皮成長因子の種々の方法によって治療された熱傷創治癒に関する比較研究(A comparative study on burn wound healing treated by different methods of recombinant human epidermal growth factor.)Zhongguo Xiu Fu Chong Jian Wai Ke Za Zhi 17(4):301〜2)。
【0013】
その一方で、糖尿病による足の患者において切断の危険性の高い慢性虚血性皮膚病変に、局所的にEGFを施用するための、変形性リポソームの使用については記述も提案もなされていない。EGF以外の活性成分と共に導入されたこれらのリポソームは、正常な皮膚に、より効率的に浸透できることが示されているにもかかわらず、これらの小胞が十分な効力を保ちながら、グレードIV又はVの神経障害性及び虚血性慢性皮膚病変よりも深い領域にEGFを輸送して、それらの治癒及び足切断の予防を可能にすることができるか否かを、これらの実験からは推測することができない。これらのタイプの病変内の皮膚構造は、正常な皮膚の構造とは非常に異なっているので、そのような種類の病変内でのリポソームの浸透性及び一体性は、目に見えるほど影響を受ける可能性があると考えられる。また、この種類の糖尿病性足病変の組織は、正常な皮膚の場合よりも非常に高いタンパク質分解酵素レベルを含有するので(Yager D.R.、Chen S.M.、Ward S.I.他(1997)慢性創傷液がペプチド成長因子を分解する能力は、高レベルのエナスターゼ活性及び低レベルのプロテイナーゼ阻害剤に関連する。(Ability of chronic wound fluids degrade peptide growth factors is associated with increased levels of enastase activity and disminished levels of proteinase inhibitors.)Wound Rep.Reg.5:23〜32)、活性医薬品組成物は、かなりの程度まで酵素作用によって分解する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO03/053458 A1
【特許文献2】Uster,P.S.他(US 4944948)
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Reiber G.E.、Boyko E.J.、Smith D.G.(1995)糖尿病における下肢先端潰瘍及び切断(Lower extremity foot ulcers and amputations in diabetes):Harris M.I.、Cowie C.C.、Reiber G.、Boyko E.、Stern M.、Bennett P.、編 Diabetis in America、Washington,DC:US Government Printing Office、409〜28
【非特許文献2】Moss S.E.、Klein R、Klein B.E.(1992)糖尿病人口における下肢切断の罹患率及び発生率(The Prevalence and incidence of lower extremity amputation in a diabetic population)Arch Int Med.152:610〜6
【非特許文献3】Eldor R.他(2004)糖尿病性足潰瘍を治療するための新たな実験的手法:新たな治療戦略の包括的概要(New and experimental approaches to treatment of diabetic foot ulcers:a comprehensive review of emerging treatment strategies)Diabet Med.21(11):1161〜73
【非特許文献4】古い皮膚に対する新しい皮膚 生物学的皮膚代替物の開発(New Skin for Old.Developments in Biological Skin Substitutes)Arch Dermatol.1998 134:344〜348
【非特許文献5】Wieman T.J.、Smiell J.M.、Su Y.(1998)慢性神経障害性糖尿病性潰瘍の患者における組換えヒト血小板由来成長因子−BB(ベカプレルミン)の局所ゲル製剤の効力及び安全性。第III相無作為化プラセボ対照二重盲検試験。(Efficacy and safety of a topical gel formulation of recombinant human platelet−derived growth factor−BB(ベカプレルミン) in patients with chronic neuropathic diabetic ulcers.A phase III randomized placebo−controlled double−blined study.)Diabetes Care.21(5):822〜7
【非特許文献6】Barry B.W.(2001)首尾よい経皮薬物送達を可能にする新規なメカニズム及び器具(Novel mechanisms and devices to enable successful transdermal drug delivery.)Eur J Pharm Sci.14(2):101〜14
【非特許文献7】van den Bergh,B.A.I.、de Vries,I.S.、Bouwstra,J.A.(1998)凍結置換電子顕微鏡法によって研究されたリポソームとヒト角質層との相互作用(Interactions between liposomes and human stratum corneum studied by freeze−substitution electron microscopy.)Int.J.Pharm.167、57〜67
【非特許文献8】Cevc G.、Schatzlein A.、Richardsen H.(2002)超変形性脂質小胞は、皮膚及びその他の断片化していない半透性障壁を浸透することができる。二重標識CLSM実験及び直接サイズ測定からの証拠。(Ultradeformable lipid vesicles can penetrate the skin and other semi−permeable barriers unfragmented.Evidence from double label CLSM experiments and direct size measutements.)Biochim.Biophys.Acta 1564(1):21〜30
【非特許文献9】Cevc G.(2004)脂質小胞及び皮膚上の薬物担体としてのその他のコロイド(Lipid vesicles and other colloids as drug carriers on the skin.)Adv Drug Deliv Rev.56(5):675〜711
【非特許文献10】Liao Y.、Guo L.、Ding E.Y.(2003)組換えヒト上皮成長因子の種々の方法によって治療された熱傷創治癒に関する比較研究(A comparative study on burn wound healing treated by different methods of recombinant human epidermal growth factor.)Zhongguo Xiu Fu Chong Jian Wai Ke Za Zhi 17(4):301〜2
【非特許文献11】Yager D.R.、Chen S.M.、Ward S.I.他(1997)慢性創傷液がペプチド成長因子を分解する能力は、高レベルのエナスターゼ活性及び低レベルのプロテイナーゼ阻害剤に関連する。(Ability of chronic wound fluids degrade peptide growth factors is associated with increased levels of enastase activity and disminished levels of proteinase inhibitors.)Wound Rep.Reg.5:23〜32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、皮下注射針を用いてEGF浸潤により得られた場合と同様に、病変よりも深い組織でEGFの高バイオアベイラビリティーを実現し、四肢の切断を予防すると同時に注射に伴う痛み及び感染の危険性を回避する、慢性の虚血性糖尿病性足潰瘍を治療するためのEGFを含有する有効な製剤は、依然として実証されていない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、皮下注射針を用いたEGFの浸潤により得られたものと同様に、皮膚病変よりも深い組織でEGFの高バイオアベイラビリティーを提供する、変形性又は従来のリポソームに封入され又は結合されたEGFを含有する局所製剤の使用によって、前述の問題を解決する。これらの局所製剤は、慢性虚血性皮膚病変の表面及び周囲に施用され、注射の痛み及び感染に関連した危険性を回避するという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】動物モデルで誘発された潰瘍の部位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の別の態様は、変形性又は従来のリポソームに封入され又は結合された、有効量のEGFを含有する局所医薬品製剤であって、リポソームが、医薬品として許容される1種又は複数の脂質を含む局所医薬品製剤に関する。EGFが、これらの製剤を使用することによって施用される場合、この製剤は、病変よりも深い生存可能な組織に効率的に輸送され、プロテアーゼ媒介性分解から首尾良く保護されるが、これらの酵素は、この種類の糖尿病性足病変において高レベルであるので、非常に重要なことである。
【0020】
好ましい実施形態において、有効量のEGFは、0.025から0.075mg/g物質である。これらの製剤は、慢性皮膚病変を不可逆的に瘢痕化し、したがって、通常なら虚血性四肢に対する唯一の手段となり得る切断処置が阻止される。
【0021】
別の好ましい実施形態では、局所医薬品製剤のリポソームは、中性脂質、負に帯電した脂質、正に帯電した脂質、ポリエチレングリコールに複合した脂質、又は炭水化物に複合した脂質を含む群から選択された、医薬品として許容される1種又は複数の脂質を含む。そのようなリポソームは、医薬品として許容される1種又は複数の脂質、及び1種又は複数の非イオン、両イオン、陰イオン、又は陽イオン界面活性剤を含んでもよい。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
EGFが導入されたリポソームの製造
10mg/mLの濃度のホスファチジルコリンを、50mL丸底フラスコ内の無水エタノールに溶解した。フラスコの壁面に乾燥脂質被膜が形成されるまで、溶媒を、回転式蒸発によって除去した。EGFをリポソームに封入するため、EGFを含有する緩衝水溶液で乾燥脂質被膜を水和し、撹拌によって均質化した。小胞のサイズを縮小するために、小胞の平均サイズが約100nmになるまで、懸濁液を100nm孔径ポリカーボネート膜に何回か通して押し出した。EGFが導入されたリポソームの懸濁液を、4℃で40分間、100000×gで遠心分離して、封入されたEGFから封入されていないEGFを分離した。上澄みを新しい試験管に移し、ペレットを、pH7.2のリン酸緩衝液に再懸濁した。遠心分離ステップを、同じ条件下でもう1回繰り返し、上澄みを新しい試験管に移し、最初の遠心分離ステップの上澄みと混合した。ペレット(EGFが導入されたリポソームを含有する)を、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩液中に再懸濁した。この最後の調製物を、使用まで4℃で保存した。
【0023】
EGFが導入された変形性リポソームの製造
合計で85.8mgのホスファチジルコリン及び11.7mgのデオキシコール酸ナトリウムを、100μLの温かい無水エタノールに溶解し、リン酸緩衝液900μLで希釈し、乳状の外観を有する均質懸濁液が得られるまでかき混ぜた。このリポソーム調製物を、小胞の平均サイズが約100nmになるまで100nm孔径サイズのポリカーボネート膜に何回か通して押し出した。変形性リポソームにEGFを導入するため、リポソーム懸濁液100μLと、種々(250、500、又は1000μg)の量のEGFを含有する溶液25μLとを混合し、この混合物を4℃で24時間インキュベートした。
【0024】
(実施例2)
リポソーム内へのEGFの封入効率の決定
リポソーム内へのEGFの組込み効率を決定するため、リポソーム懸濁液を高速で遠心分離し、得られたペレット(EGFが導入されたリポソーム)及び上澄み(EGFを含まない)のタンパク質含量を決定した。リポソームの懸濁液を、4℃で40分間10000×gで遠心分離した。上澄みを新しい試験管に移し、ペレットを、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩液に再懸濁した。遠心分離ステップを、同じ条件下でもう1回繰り返し、上澄みを新しい試験管に移し、最初の遠心分離ステップの上澄みと混合した。ペレット(EGFが導入されたリポソームを含有する)を、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩液500μLに再懸濁した。次いでペレット又は上澄みのタンパク質を抽出し、0.5%(v/v)トリトンX−100をサンプルに添加し、これらを逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)にかけることによって、脂質から分離した。タンパク質含量を、吸収波長226nmでRP−HPLCにより得られたクロマトグラムの曲線下の面積に基づいて決定した。リポソーム内へのEGFの組込み効率は、ペレット(EGFが導入されたリポソーム)のタンパク質含量と、封入プロセスの開始時に添加された全タンパク質含量との比に100%を掛けたものとして決定された。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例3)
リポソームのサイズ及び形態の決定
リポソームのサイズ及び形態を決定するために、リポソームのサンプルを透過電子顕微鏡法によって分析した。リポソームは、酢酸ウラニルを用いたネガティブ染色によって視覚化した。ネガティブ染色されたサンプルを、80kVで作動する透過型電子顕微鏡Jeol−JEM 2000EX下で観察した。各リポソーム調製物に対応する電子顕微鏡写真を、スキャナを使用することによってデジタル化し、リポソームの直径を、DIGIPATバージョン3.3ソフトウェア(EICISOFT、Havana、キューバ)を使用することによって測定した。粒度を、各顕微鏡写真に示されるリポソームの総数に対して平均化し、3つの独立した測定の平均±標準偏差として表した。
【0027】
EGFが導入された変形性又は従来のリポソームの調製物は、球状又は楕円状の小胞の均質な集団を含んでいた。小胞の平均サイズは、従来の及び変形性リポソームに関して、それぞれ130±7nm及び123±4nmであった。
【0028】
(実施例4)
EGFが導入されたリポソームを含有するゲル製剤の製造
EGFが導入された変形性又は従来のリポソームの懸濁液を、pH7.2のリン酸緩衝液で1.5倍に希釈し、pH7.2で緩衝させたカルボマー(Carbopol 940)を、1.25%(w/v)の最終濃度で添加した。この製剤は、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.02%(w/v)、EDTA 0.1%(w/v)、パラヒドロキシ安息香酸メチル0.25%(w/v)、ベンジルアルコール0.525%(w/v)、水酸化ナトリウム0.2%(p/v)、及びグリセロール3%(w/v)も含有した。
【0029】
従来の及び変形性リポソームのゲル製剤は、それぞれ約840mPas及び730mPasの粘度を有していた。
【0030】
(実施例5)
生体外EGF酵素分解に対する、リポソーム内へのEGF封入の保護効果の実証
この実験は、従来の又は変形性リポソーム内へのEGFの封入が、糖尿病による足の組織のタンパク質分解環境でEGFの完全性を保持するのに有利であるかどうかについて、評価することを目的とした。この目的のため、局所麻酔後に糖尿病患者の足潰瘍組織から採取した生検材料を、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩液に再懸濁した。EGFが含まれず又はリポソーム内に封入されたEGFの、合計25μgをサンプルに添加し、37℃で20、40、又は60分間インキュベートした。次いで酢酸50%(v/v)を添加して反応を停止させた。トリトンX−100 5%(v/v)を添加した後、サンプルを4000rpmで15分間遠心分離し、孔径0.2又は0.45μmのポリカーボネートフィルターに通して濾過した。サンプルのEGFの含量を、RP−HPLCにより226nmで得られたクロマトグラムの曲線下の面積と相関させることによって定量した。インキュベーション後に残されるEGFの%を、インキュベーション後にサンプル中に残されたEGFの含量と、最初に添加されたEGFの含量との比に100%を掛けたものとして計算した。表2に示されるデータは、糖尿病による足の生検を行った後、リポソーム(従来の又は変形性)に封入されたEGFを含有するサンプルが、封入されたEGFを含有しないサンプルの場合よりも多量の無傷のEGFを保存することを証明する。
【0031】
【表2】

【0032】
(実施例6)
急性及び制御された遅鈍型病変の実験モデルにおける、EGF含有製剤の効力の実証
制御された急性病変の実験モデル
下記の実験は、満足のいく予後の急性病変における、EGFが導入された(変形性又は従来の)リポソームを主成分とする局所使用のための新しい医薬品製剤の、瘢痕化効果を評価する目的で行った。
【0033】
実験生物モデル:体重225〜250gのオスのウィスターラット。動物を、12×12時間の一定の照明スケジュール、換気サイクル、及び食物に自由に触れることができる状況下、CIGBの動物施設の制御領域内で維持した。ラットを個別にT3ボックスに収容し、敷きわらは、滅菌後に48時間ごとに交換した。
【0034】
潰瘍の誘発:動物に、ケタミン/キシラジンの腹腔内注射によって麻酔をかけた。後肩胛骨から仙骨に至るまでの領域を含むラットの背部を、機械的及び化学的に脱毛した。この領域を、ポビドン−ヨウ素及びイソプロピルアルコールの溶液で無菌化した。潰瘍誘発のために選択された皮膚上の領域に、直径9mmのバイオトームの助けを借りて、円形の全幅病変を誘発させるために墨でマークを付けた(AcuDrem、FI、USA)。図1に示されるように、6つの対称的且つ等距離にある病変を、各動物で誘発させた。病変を滅菌生理食塩液で洗浄し、その内側縁を、後に時間0での創傷面積を計算するためにパーマネントインクで線引きした。全ての動物の病変は、任意の治療を施す前に、70%エタノール及び滅菌生理食塩液で毎日衛生にした。
【0035】
実験グループ:
動物で生成された潰瘍を、入力オーダー/グループクロスマッチテーブルを使用することによって、下記の実験治療グループに無作為に割り当てた。
グループI−治療無し。
グループII−プラセボ(変形性リポソームを含まない製剤−EGFが無い)を局所的に施用。
グループIII−皮下注射針の使用による、1ml当たり75μgを含有するEGF溶液の浸潤。浸潤は、創傷の縁部及び底部で行った。
グループIV−局所的に施用された、物質1g当たりEGFを25μg含有する、従来のリポソームの製剤による治療。
グループV−局所的に施用された、物質1g当たりEGFを75μg含有する、従来のリポソームの製剤による治療。
グループVI−局所的に施用された、物質1g当たりEGFを25μg含有する、変形性リポソームの製剤による治療。
グループVII−局所的に施用された、物質1g当たりEGFを75μg含有する、変形性リポソームの製剤による治療。
【0036】
各グループは、10匹のラットからなるものであった。したがって、グループ当たり60個の創傷について研究された。治療は、腹腔内経路によって投与されたジアゼパムで動物を鎮静化した後に、毎日行った。
【0037】
創傷閉鎖レベルの決定。組織的処理:
病変を、透明なアセテートシート上でトレースして、下記の時間で創傷収縮動態を計算した:時間0は、開放病変領域が100%であり且つ創傷収縮が0%であることを表し、時間1は、病変誘発後72時間を表し、時間2は、病変誘発後5日を表し、時間3は、病変誘発後7日を表し、時間4は、病変誘発後9日を表す。第9日目は、この研究の終わりとして設定し、このとき、これらの病変の自然発生的な瘢痕化の動態に関する事前の経験に従って、動物を犠牲にした。トレースした病変境界の画像をデジタル化した。病変の面積及び収縮%を、画像解析ソフトウェアDIGIPATを使用することにより計算した。各パラメータの統計解析を、ノンパラメトリックMann Whitney U検定を使用することにより、SPSSパッケージで行い、有意レベルはp<0.05と仮定した。
【0038】
動物を、過量のペントバービタルナトリウム(250mg/kg)を用いた腹腔内注射によって犠牲にした。病変を、皮筋層から乾燥させ、10%中性ホルマリンに固定して、後ほどパラフィン包埋を行った。ヘマトキシリン/エオシン、ヴァンギーソン及びマッソン3色染色法を使用した。各グループごとに、病変の100%上皮化と重層化及び分化した表皮を有する動物の数を決定した。創傷収縮の動態を、表3に示す(収縮の値(単位:mm)は、時間0での創傷サイズに対する、創傷サイズの変化の%として表す)。
【0039】
【表3】

【0040】
表3に示すように、リポソームをベースにした製剤は、最も強力な収縮効果を創傷境界にもたらし、言い換えれば、収縮は、創傷を再造形段階に近付けるいくつかの硬化事象の集合を表すので、リポソーム製剤が、完全瘢痕化に対して最も好ましい増強効果をもたらしたことを意味する。
【0041】
各実験グループごとの成熟及び器質化肉芽形成組織によって覆われた領域の%を、表4に示す。このパラメータの計算は、時間6で収集されたサンプルを使用して、ヴァンギーソン及びマッソン3色染色反応に同時に陽性である各サンプル中の顕微鏡視野の数をカウントすることにより実施した。2名の病理学者が、独立に且つ盲検的手法でこれらの評価を実施した。
【0042】
【表4】

【0043】
表4に示されるように、リポソームをベースにした製剤による病変の治療は、肉芽形成組織の成熟及び確立のプロセスに最も強力な効果をもたらし、この結果は、創傷収縮に関して既に述べられた内容と一致している。
【0044】
病変の上皮化プロセスに対する治療の効果についても、研究を行った。重層上皮の態様について、潰瘍の再上皮化、重層上皮の存在、及びケラチン層の存在を考慮しながら評価した。顕微鏡下で病変を研究するために、病変を縦中心軸に沿って片側切断し、同じパラフィンブロックに包埋した。60個の病変に相当する合計120個の組織切片について研究をした。この研究の結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
表5に示されるように、リポソーム製剤で治療したグループIV、V、VI、及びVIIは、上皮の完全再上皮化及び成熟によってもたらされた、上皮応答の最良の指標を示した。
【0047】
したがって、リポソーマル製剤による病変の治療は、(i)急性制御下創傷の収縮プロセス、(ii)肉芽形成プロセス及びその成熟、表皮の再上皮化及び分化プロセス、並びに(iv)に好適であると結論付けることができ、これらのプロセスは、迷入肉芽形成組織、肉芽腫、又は異物の形成に関係がなかった。
【0048】
慢性皮膚潰瘍の実験モデル
下記の実験は、糖尿病患者の病変をシミュレートする、予後が不十分な慢性病変での、EGFを含有する伝統的な又は変形性リポソームを主成分とした局所使用される新しい医薬品製剤の、瘢痕化の効果を評価することを目的とした。
【0049】
実験生物モデル:体重225〜250gのオスのウィスターラット。動物を、12×12時間の一定の照明スケジュール、換気サイクル、及び食物に自由に触れることができる状況下、CIGBの動物施設の制御領域内で維持した。ラットを個別にT3ボックスに収容し、敷きわらは、滅菌後に48時間ごとに交換した。動物を、予め0.01%メチルグリオキサール溶液で2カ月治療して、長期にわたって変化する糖尿病患者で生ずる場合と同様の、グリコシル化環境を生成した。数ある器質的損傷の中でも、これは肉芽形成及び創傷再造形を減速させる(Berlanga J.、Cibrian D.他(2005)メチルグリオキサール投与が糖尿病様微小血管変化を誘発し、皮膚創傷の治癒プロセスを乱す(Methylglyoxal administration induces diabetes−like microvascular changes and perturbs the healing process of cutaneous wounds.)Clin Sci (Lond).109(1):83〜95)。
【0050】
潰瘍の誘発:動物に、ケタミン/キシラジンの腹腔内注射によって麻酔をかけた。後肩胛骨から仙骨に至るまでの領域を含むラットの背部を、機械的及び化学的に脱毛した。この領域を、ポビドン−ヨウ素及びイソプロピルアルコールの溶液で無菌化した。潰瘍誘発のために選択された皮膚上の領域に、直径9mmのバイオトームの助けを借りて、円形の全幅病変を誘発させるために墨でマークを付けた(AcuDrem、FI、USA)。図1に示されるように、6つの対称的且つ等距離にある病変を、各動物で誘発させた。病変を滅菌生理食塩液で洗浄し、その内側縁を、後に時間0での創傷面積を計算するためにパーマネントインクで線引きした。全ての動物の病変は、任意の治療を施す前に、70%エタノール及び滅菌生理食塩液で毎日衛生にした。
【0051】
実験グループ
動物で生成された潰瘍を、入力オーダー/グループクロスマッチテーブルを使用することによって、下記の実験治療グループに無作為に割り当てた。
グループI−治療無し。
グループII−プラセボ(変形性リポソームを含まない製剤−EGFが無い)を局所的に施用。
グループIII−皮下注射針の使用による、1ml当たり75μgを含有するEGF溶液の浸潤。浸潤は、創傷の縁部及び底部で行った。
グループIV−局所的に施用された、物質1g当たりEGFを25μg含有する、従来のリポソームの製剤による治療。
グループV−局所的に施用された、物質1g当たりEGFを75μg含有する、従来のリポソームの製剤による治療。
グループVI−局所的に施用された、物質1g当たりEGFを25μg含有する、変形性リポソームの製剤による治療。
グループVII−局所的に施用された、物質1g当たりEGFを75μg含有する、変形性リポソームの製剤による治療。
【0052】
各グループは、10匹のラットからなるものであった。したがって、グループ当たり60個の創傷について研究された。治療は、腹腔内経路によって投与されたジアゼパムで動物を鎮静化した後に、毎日行った。
【0053】
創傷閉鎖レベルの決定。組織的処理:
病変を、透明なアセテートシート上でトレースして、下記の時間で創傷収縮動態を計算した:時間0は、開放病変領域が100%であり且つ創傷収縮が0%であることを表し、時間1は、病変誘発後72時間を表し、時間2は、病変誘発後5日を表し、時間3は、病変誘発後7日を表し、時間4は、病変誘発後9日を表す。第9日目は、この研究の終わりとして設定し、このとき、これら病変の自然発生的な瘢痕化の動態に関する事前の経験に従って、動物を犠牲にした。トレースした病変境界の画像をデジタル化した。病変の面積及び収縮%を、画像解析ソフトウェアDIGIPATを使用することにより計算した。各パラメータの統計解析は、ノンパラメトリックMann Whitney U検定を使用することにより、SPSSパッケージで行い、有意レベルはp<0.05と仮定した。
【0054】
動物を、過量のペントバービタルナトリウム(250mg/kg)を用いた腹腔内注射によって犠牲にした。病変を、皮筋層から乾燥させ、10%中性ホルマリンに固定して、後ほどパラフィン包埋を行った。ヘマトキシリン/エオシン、ヴァンギーソン及びマッソン3色染色法を使用した。各グループごとに、病変の100%上皮化と重層化及び分化した表皮を有する動物の数を決定した。創傷収縮の動態を、表3に示す(収縮の値(単位:mm)は、時間0での創傷サイズに対する、創傷サイズの変化の%として表す)。
【0055】
【表6】

【0056】
表6に示すように、リポソームをベースにした製剤は、最も強力な収縮効果を創傷境界にもたらし、言い換えれば、収縮は、創傷を再造形段階に近付けるいくつかの硬化事象の集合を表すので、リポソーム製剤が、完全瘢痕化に対して最も好ましい増強効果をもたらしたことを意味する。これらの実験的創傷は、収縮メカニズムが病理学上部分的に又は完全に消滅する、糖尿病性創傷の生化学的微小環境をシミュレートすることに留意されたい。
【0057】
皮膚病変よりも深く位置付けられた生存可能な組織におけるEGF濃度の決定
EGFの濃度を決定するために、皮膚病変よりも深い組織の組織学的カット(1cm)を、病変誘発後20分、1時間、4時間、8時間、16時間、及び24時間に行った。組織を、リン酸緩衝生理食塩液中で均質化した。EGFの濃度を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した。表6aに示されるように、リポソームをベースにしたEGF製剤は、皮下注射針の助けを借りてEGFを浸潤させることによって得られた場合(実験グループIII)と同様に、病変よりも深い組織領域への多量のEGFの輸送をもたらした(実験グループIV、V、VI、及びVII)。
【0058】
表6a.皮膚病変よりも深い、生存可能な組織におけるEGFの濃度
【表7】

【0059】
表7には、各実験グループごとに成熟及び器質化肉芽形成組織によって覆われた、領域の%が示される。このパラメータの計算は、時間4で収集されたサンプルを使用して、ヴァンギーソン及びマッソン3色染色反応に同時に陽性である各サンプル中の顕微鏡視野の数をカウントすることにより実施した。2名の病理学者が、独立に且つ盲検的手法でこれらの評価を実施した。
【0060】
表7に示されるように、リポソームをベースにした製剤による病変の治療は、肉芽形成組織の成熟及び確立のプロセスに最も強力な効果をもたらし、この結果は、創傷収縮に関して既に述べられた内容と一致している。
【0061】
【表8】

【0062】
病変の上皮化プロセスに対する治療の効果についても、研究を行った。重層上皮の態様について、潰瘍の再上皮化、重層上皮の存在、及びケラチン層の存在を考慮しながら評価した。顕微鏡下で病変を研究するために、病変を縦中心軸に沿って片側切断し、同じパラフィンブロックに包埋した。60個の病変に相当する合計120個の組織切片について研究をした。細菌汚染により、必ずしも任意の病変を除外する必要はない。この研究の結果を表8に示す。
【0063】
【表9】

【0064】
表8に示されるように、リポソームをベースにした製剤で治療したグループIV、V、VI、及びVIIは、上皮の完全再上皮化及び成熟によってもたらされた、上皮応答の最良の指標を示した。
【0065】
リポソーム製剤による治療は、(i)糖尿病患者の潰瘍の生化学的微小環境を正確にシミュレートする、慢性創傷の収縮プロセス、(ii)肉芽形成プロセス及びその成熟に、好適であると結論付けることができる。注目すべきは、この治療によって新生血管網が確立され、(iii)通常は再上皮化しにくい病変の表皮再上皮化及び分化プロセスを、刺激することである。
【0066】
(実施例7)
進行した糖尿病性足潰瘍の患者における、EGFが導入されたリポソーム局所製剤の効力の決定
進行した糖尿病性足潰瘍の患者における患部への、物質1g当たりEGFを25又は75μg含有する従来の又は変形性リポソームをベースにした局所製剤の投与は、皮下注射針の助けを借りたEGF浸潤によって得られたものと同様の結果をもたらし、それと同時に、注射に伴う痛み及び感染の危険性が有利に回避されることを示した。
【0067】
物質1g当たりEGFを75μg含有する変形性リポソームの新しい製剤を、血流が損なわれ且つ切断という重大な危険性があるままで、糖尿病性足潰瘍の患者に施用した。生成物は、潰瘍を完全に切除した後に局所的に投与した。病変を、これら2つの処置の間の経過時間中、ドレッシング及び滅菌包帯で覆った。病変の進化は、治療開始から1週間は、肉芽形成組織の形成及び潰瘍縁部の収縮を示すままの状態で、満足のいくものであった。医薬品生成物は、病変の完全上皮化を実現し、足切断を予防するのに有効であった。この治療に伴う副作用はなかった。
【0068】
下肢に、20cmを超える面積及び骨膜を損なう深さの虚血性皮膚病変を有する別の糖尿病患者は、物質1g当たりEGFを75μg含有する従来のリポソームをベースにした製剤で治療した。生成物は、潰瘍を完全に切除した後に、1週間に3回、局所的に施用した。病変を、処置の間の経過時間中、ドレッシング及び滅菌包帯で覆った。
【0069】
製剤を4回投与した後、病変態様にかなりの変化が観察され、増殖性肉芽形成組織が拡がり始め、2〜3日以内に上皮によって覆われた。治療及び完全表皮化の終わりに、患者を病院から解放し、いかなる再発もなく満足のいくように回復させた。
【0070】
その一方で、EGFの局所注射に耐えることができず且つ3回目の投与後に浸潤治療をあきらめた、進行した潰瘍を有する別の糖尿病患者には、EGF 25μgを含有する変形性リポソームの新しい製剤を投与し始めた。
【0071】
この患者は、病変の完全閉鎖が実現されるまで、満足のいく回復状態のまま、この治療を継続することができた。この患者は、その病気に関連したいかなる合併症も報告されず、又は治療に関連したいかなる副作用も報告されなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病患者のグレードIV及びVの糖尿病性足潰瘍を治療するための、ホスファチジルコリンを含む変形性又は従来のリポソームに封入され又は結合された、有効量の上皮成長因子を含む局所医薬品製剤。
【請求項2】
上皮成長因子の高バイオアベイラビリティーが、前記潰瘍よりも深い組織で実現される、請求項1に記載の局所医薬品製剤。
【請求項3】
製剤を、潰瘍の表面及び周囲に施用する、糖尿病による足の切断を予防するための、請求項1及び2に記載の局所医薬品製剤。
【請求項4】
変形性又は従来のリポソームに封入され又は結合された、有効量の上皮成長因子を含有する局所医薬品製剤であって、リポソームが、ホスファチジルコリンを含み、慢性糖尿病性足潰瘍よりも深い組織で上皮成長因子の高バイオアベイラビリティーをもたらし、糖尿病による足の切断を予防するのに有用な局所医薬品製剤。
【請求項5】
有効量の上皮成長因子が、0.025から0.075mg/g物質の範囲内である、請求項4に記載の局所医薬品製剤。
【請求項6】
有効量の上皮成長因子が、0.075mg/g物質である、請求項4に記載の局所医薬品製剤。


【図1】
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【公開番号】特開2013−107912(P2013−107912A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−50061(P2013−50061)
【出願日】平成25年3月13日(2013.3.13)
【分割の表示】特願2008−547843(P2008−547843)の分割
【原出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】