説明

粒状物質の監視方法

【課題】 センサーの出力レベルの変動にかかわらず、波形解析により、簡単に粒状物質の性状の変化を監視できる粒状物質の監視方法を提供する。
【解決手段】 容器1Aの外壁または内壁に装着したアコースティックエミッションセンサ2,3の出力を、データ収集記憶装置4に記憶する。データ処理演算装置5は、センサーの出力を周波数成分のパワースペクトルに変換し、周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化に基づいて粒状物質の性状の変化を監視する。監視結果を表示部6に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アコースティックエミッションを用いて容器または通路内を移動する粒状物質を監視する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許第3056939号公報(特開平7−246326号公報)[特許文献1]には、造粒容器内の造粒層に対して、その流動層での造粒物の衝突により生じる弾性波(アコースティックエミッション波)を検出する弾性波検出手段を設け、検出したアコースティックエミッション波のAE事象率に基づいて造粒径を検出し、AE強度に基づいて粒密度を検出する造粒装置が開示されている。
【0003】
また特開平9−10575号公報[特許文献2]には、液中造粒槽の排出口近傍にAE(Acoustic Emission)センサーを備え、AEセンサーによって造粒体の造粒槽内壁面への衝突音を電気エネルギーとして取り出し、その電気エネルギーが時間の経過と共に変化する状態に応じてバインダー供給量を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3056939号公報(特開平7−246326号公報)
【特許文献2】特開平9−10575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に示された技術では、流動層等での運転では粒状物質の動きが複雑であることからセンサーの出力レベル変動がはげしく、基本的にデータ解析が著しく困難である。またサンプリングのために製造工程を止めたりする場合に、外乱を与える可能性がある。さらにサンプリングした対象物質がその系を代表していることを証明するのが難しかった。そのため、従来の技術では、粒状物資の性状の変化の監視精度を上げることが難しかった。また従来の技術では、サンプリングした対象物質の分析に時間を要するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、従来よりも高い精度で、粒状物質の性状の変化を監視できる粒状物質の監視方法を提供することにある。
【0007】
上記目的に加えて、本発明の他の目的では、センサーの出力レベルの変動にかかわらず、波形解析により、簡単に粒状物質の性状の変化を監視できる粒状物質の監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アコースティックエミッションを用いて容器または通路内を移動する粒状物質を監視する方法を対象とする。本発明の方法では、まず容器または通路の外壁または内壁に装着したアコースティックエミッションセンサの出力を、周波数成分のパワースペクトルに変換する。そして周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化に基づいて粒状物質の性状の変化を監視する。発明者の研究によると、容器または通路内を移動する粒状物質の性状の相違によって、周波数成分のパワースペクトルの分布状態が異なることが判った。例えば、造粒装置で製造される粒状物質は、徐々に粒の重量と径寸法が増大する。例えば、顆粒を製造する例では、顆粒(粒状物質)の重量と径寸法硬さの変化に伴う、周波数成分のパワースペクトルの分布状態の変化を見ると、粒の重量と径寸法の増大に伴って、パワースペクトルの分布の中心周波数が低い方に変位する傾向が見られることが判った。なおこの傾向は、粒状物質の材質及び形状によって異なる。本発明はこの知見に基づくものである。そこで本発明の方法を実施するに当たっては、例えば、事前に、監視対象とする粒状物質について、粒状物質の経時的な変化と周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化との関係を波形解析により求め、前述のような傾向を確認しておく。そして実際の監視作業では、周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化の波形解析から、前述の傾向の発生の有無、傾向の程度を検出して、粒状物質の性状の変化を監視する。本発明によれば、周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化を見ることにより、粒状物質の性状の変化を監視するため、センサーの出力のレベル変動が大きい場合においても、確実に、従来よりも高い精度で粒状物質の性状の変化を知ることができる。
【0009】
なおパワースペクトルへの変換を高速フーリエ変換により実行すると、波形の処理が速くなる。
【0010】
周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化に基づいて粒状物質の性状の変化を監視する際に用いることができる具体的な監視方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、周波数成分のパワースペクトルを、周波数の低いパワースペクトルから所定の周波数のパワースペクトルまで累積し、所定の周波数を逐次増加して得た複数の累積パワースペクトルを累積結果として記憶する。そして累積結果を正規化して得た正規化累積パワースペクトルと予め定めた基準累積パワースペクトルとを比較し、比較結果に基づいて粒状物質の性状の変化を監視する。このように正規化累積パワースペクトルを用いると、本来、変化が大きい周波数成分のパワースペクトルを、変化の傾向を失うことなく、単純化することができる。またパワーの大小に拘わらず、基準累積パワースペクトルと比較をすることができるので、少ない判定基準を用いて監視をすることができる。なお基準累積パワースペクトルは、監視の目的に応じて1以上設けることができる。例えば、粒状物質の平均径寸法が予め定めた値よりも大きくなったか否かを監視する場合には、予め定めた値に対応する基準累積パワースペクトルを準備し、正規化累積パワースペクトルと比較し、基準累積パワースペクトルと正規化累積パワースペクトルとの差がどの程度大きくなるかにより判定をすればよい。
【0011】
また基準累積パワースペクトルとして、粒状物質の性状が変化を開始する直前または開始した直後の累積パワースペクトルを正規化した正規化累積パワースペクトルを用いることができる。この場合には、累積結果を正規化して得た正規化累積パワースペクトルと予め定めた基準累積パワースペクトルとの差分が比較結果となる。そして予め求めた差分と性状の変化との関係及び比較結果から、粒状物質の性状の変化を監視してもよい。このようにすると差分の大きさの変化から直ちに評価をすることができるので、複雑な解析処理を必要とすることなく監視を実行できる。
【0012】
更に別の具体的な監視方法では、周波数成分のパワースペクトルを、周波数の低いパワースペクトルから所定の周波数のパワースペクトルまで累積し、所定の周波数を逐次増加して得た複数の累積パワースペクトルを累積結果として記憶する。そして累積パワースペクトルの予め定めたパーセンタイルにおける周波数と、予め定めた基準累積パワースペクトルの予め定めたパーセンタイルにおける周波数とを比較し、比較結果に基づいて粒状物質の性状の変化を監視する。発明者の研究によると、累積パワースペクトルの予め定めたパーセンタイルにおける周波数の変化も、粒状物質の性状の変化と特定の関係を持っていることが判った。そこで累積パワースペクトルの予め定めたパーセンタイルにおける周波数と、予め定めた基準累積パワースペクトルの予め定めたパーセンタイルにおける周波数との比較結果に基づいても、監視が可能である。パーセンタイルを50パーセンタイルとすると、中央値における周波数を基準として監視をすることが可能になる。なお何パーセンタイルとするかは監視の目的に応じて任意である。
【0013】
さらに別の具体的な監視方法では、周波数成分のパワースペクトルを、予め定めた周波数よりも低い低周波数帯のパワースペクトルと予め定めた周波数以上の高周波数帯のパワースペクトルとに分けて、低周波数帯のパワーと高周波数帯のパワーとの比を求めて監視用パワー比とする。また粒状物質の性状が変化を開始する直前または開始した直後の周波数成分のパワースペクトルを基準パワースペクトルとし、該基準パワースペクトルを前記予め定めた周波数よりも低い低周波数帯のパワースペクトルと予め定めた周波数以上の高周波数帯のパワースペクトルとに分けて、低周波数帯のパワーと高周波数帯のパワーとの比を基準パワー比とする。そして監視用パワー比と基準パワー比との比較結果から、粒状物質の性状の変化を監視する。このような方法によると、低周波数帯と高周波数帯のパワーの変化状況をパワー比という単純な数値として表すことができるので、応答性を高めることができる。
【0014】
なお監視用パワー比と基準パワー比との差分を比較結果として求め、予め求めた差分と性状の変化との関係及び比較結果から、粒状物質の性状の変化を監視するようにしてもよいのは勿論である。このように差分に基づくと、監視条件が充足されたか否かの判断が容易になり、監視精度を高めることもできる。
【0015】
またさらに別の具体的な監視方法では、周波数成分のパワースペクトル波形と周波数軸とで囲まれる図形の中心(以上、単に「図心」という。)が位置する監視用図心周波数を求める。また粒状物質の性状が変化を開始する直前または開始した直後の周波数成分のパワースペクトル波形と周波数軸とで囲まれる図形の中心が位置する基準図心周波数を求める。そして監視用図心周波数と基準図心周波数とを比較することにより、粒状物質の性状の変化を監視するようにしてもよい。
【0016】
なお記監視用図心周波数と基準図心周波数との差分を比較結果として求め、予め求めた差分と性状の変化との関係及び比較結果から、粒状物質の性状の変化を監視するようにしてもよい。このように差分に基づくと、監視条件が充足されたか否かの判断が容易になり、監視精度を高めることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の方法を用いて造粒物質製造装置の造粒タンク内にある粒状物質の性状を監視する監視装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(A)乃至(E)は、監視方法の一例を説明するための波形図である。
【図3】予め求めた差分のピーク値と粒状物質の粒径(性状)の変化との関係の一例を時間の変化とともに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照して、本発明の粒状物質の監視方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の方法を用いて造粒物質製造装置の造粒タンク内にある粒状物質の性状を監視する監視装置の構成を示すブロック図である。図1において、粒状物質製造装置1は例えば特許文献1に示されるような造粒装置である。造粒装置1の造粒容器1Aの内壁または外壁には、アコースティックエミッションセンサ(以下AEセンサと言う)2及び3とが配置されている。造粒工程において、造粒容器1A内の粒状物質は、凝集した場合や、乾燥することによってその質量や形や硬さが変化する。造粒工程において、粒状物質の質量や形や硬さが変化すると、造粒容器1Aの周壁に粒状物質が当たる際に発生するアコースティックエミッション信号(以下AE信号と言う)のパワーや周波数が変化する。また粒状物質の表面に別の物質をコーティングすると粒状物質の表面の硬さが変わるため、この場合にもAE信号は変化する。そこで本実施の形態では、造粒容器1Aの周壁に粒状物質が当たる際に発生するAE信号をAEセンサ(2,3)から取得してデータ収集記憶装置4に順次保存する。データ収集記憶装置4に保存されるAE信号は、図2(A)に示すようなアナログ信号である。なお後の信号処理をコンピュータを用いて実施するために、このアナログ信号をA/D変換器によりデジタル信号に変換して保存するようにしてもよい。以下の説明では理解を容易にするために、アナログ信号を用いて説明するが、実際的にはデジタル信号で信号処理が行われる。
【0020】
データ処理演算装置5は、データ収集記憶装置4に保存されたデータに基づいて、データ処理を実行する。データ処理演算装置5では、所定のサンプリング周期でデータ収集記憶装置4に保存されたAE信号[図2(A)]を高速フーリエ変換する。図2(B)は、高速フーリエ変換して得た結果(周波数成分のパワースペクトル)を、時間を変えて同じ図面上に模擬的に複数重ねて表示したものである。図2(B)において、横軸は周波数であり、縦軸がパワースペクトルのパワーを示している。そして図2(B)において、符号F1乃至F3で示した周波数成分のパワースペクトルは、造粒工程の初期段階において、粒状物質の重量が少ない段階で、所定の時間間隔をあけて取得したものであり、符号F4乃至F6で示した周波数成分のパワースペクトルは、造粒工程の最終段階において、粒状物質の重量がかなり重くなった段階で、所定の時間間隔をあけて取得したものである。なお時間が経過するとともに重量が増加するため、パワースペクトルF1はパワースペクトルF2よりも前に取得したAE信号のものであり、パワースペクトルF2はパワースペクトルF3よりも前に取得したAE信号のものである。またパワースペクトルF4はパワースペクトルF5よりも前に取得したAE信号のものであり、パワースペクトルF5はパワースペクトルF6よりも前に取得したAE信号のものである。
【0021】
周波数成分のパワースペクトルの分布状態の変化(F1〜F3→F4〜F6)を見ると、粒状物質の重量と径寸法の増大に伴って、パワースペクトルの分布の中心周波数が低い方に変化する傾向が見られる。なおこの傾向は、粒状物質の材質及び形状によって異なる。
【0022】
本発明はこの知見に基づくものである。データ処理演算装置5は、種々の方法を用いてこの傾向の発生を直接または間接に判定することを可能にするデータ処理を実行し、その結果を表示部6の表示画面上に表示する。
【0023】
例えば、最も単純な方法としては、事前に、監視対象とする粒状物質について、典型的な実験用造粒装置で実際に造粒作業を行い、粒状物質の経時的な変化と周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化との関係を波形解析により求め、前述のような傾向を確認しておく。そして実際の監視作業では、周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化の波形解析から、前述の傾向の発生の有無、傾向の程度を検出して、粒状物質の性状の変化を監視すればよい。傾向の程度が大きい場合には、例えば予め定めた時間間隔で、周波数成分のパワースペクトルの分布状態の波形を、表示部6の1つの画面上に線種または線の色を変えて区別できるように重ねて表示すれば、視覚により、前述の傾向の発生を確認することができる。
【0024】
しかしながら造粒装置の制御に監視結果を利用する場合には、粒状物質の性状の変化を演算処理可能なデータとする必要がある。そこで本実施の形態のデータ処理演算装置5では、周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化に基づいて粒状物質の性状の変化を監視する際に用いることができる具体的な監視方法として以下の方法を実施する。まず周波数成分のパワースペクトルを、周波数の低いパワースペクトルから所定の周波数のパワースペクトルまで累積し、所定の周波数を逐次増加して得た複数の累積パワースペクトルを累積結果として記憶する。具体的には、例えば周波数成分のパワースペクトルを0Hz〜100Hz(所定の周波数)までのパワースペクトルのパワーを累積して1次の累積値とし、次に0Hz〜200Hz(所定の周波数)までのパワースペクトルのパワーを累積して2次の累積値とし、この所定の周波数を逐次増加(n倍)してn次の累積値を求め、その結果を累積パワースペクトルとする。図2(C)は、図2(B)の周波数成分のパワースペクトル(F1〜F6)についてそれぞれ求めた累積パワースペクトルF1′〜F6′を示している。これらの累積パワースペクトルF1′〜F6′は、図2(B)のパワースペクトルF1〜F6と比べて変動幅が小さく、しかも前述の傾向が残っている。そしてデータ処理演算装置5は、累積結果(累積パワースペクトルF1′〜F6′)をそれぞれ正規化して得た正規化累積パワースペクトルと予め定めた基準累積パワースペクトルとを比較し、比較結果に基づいて粒状物質の性状の変化を監視する。ここで正規化とは、基準累積パワースペクトルを基準として、累積パワースペクトルF1′〜F6′を比較・演算などの操作のために望ましい性質を持った一定の形(正規形)に変形することをいう。図2(D)は、正規化累積パワースペクトルRFと基準累積パワースペクトルRF0の一例を示している。このように正規化累積パワースペクトルを用いると、本来的に変化が大きい周波数成分のパワースペクトルを、変化の傾向を失うことなく、単純化することができる。またパワーの大小に拘わらず、正規化累積パワースペクトルRFと基準累積パワースペクトルRF0と比較をすることにより、少ない判定基準を用いて監視をすることができる。なお基準累積パワースペクトルRF0は、監視の目的に応じて1以上設けることができる。粒状物質の平均径寸法が予め定めた値よりも大きくなったか否かを監視する場合には、予め定めた値に対応する1つの基準累積パワースペクトルRF0を準備し、基準累積パワースペクトルRF0と正規化累積パワースペクトルRFとを比較して、基準累積パワースペクトルRF0よりも正規化累積パワースペクトルRFの差が所定値以上程度大きくなったか否かにより判定をすればよい。このような目的のためには、基準累積パワースペクトルRF0として、粒状物質の性状が変化を開始する直前または開始した直後の累積パワースペクトルを正規化した正規化累積パワースペクトルを用いることができる。この場合には、累積結果を正規化して得た正規化累積パワースペクトルと予め定めた基準累積パワースペクトルとの差分が明確な比較結果となる。図2(E)は、この差分の例を示している。図2(E)において、差分D6は累積パワースペクトルF6′を正規化した正規化累積パワースペクトルと累積パワースペクトルF1′を正規化した正規化累積パワースペクトルを基準累積パワースペクトルとしたときの差分を示し、差分D5,D3及びD2は累積パワースペクトルF5′,F3′及びF2′を正規化した正規化累積パワースペクトルと累積パワースペクトルF1′を正規化した正規化累積パワースペクトルを基準累積パワースペクトルとしたときの差分を示している。そして予め求めた差分と性状の変化との関係及び比較結果から、粒状物質の性状の変化を監視してもよい。このようにすると差分の大きさの変化から直ちに評価をすることができるので、複雑な解析処理を必要とすることなく監視を実行でき、監視精度を高めることもできる。図3は、予め求めた差分のピーク値と粒状物質の粒径(性状)の変化との関係を時間の変化とともに示したものの一例を示している。図3のような関係を事前に把握していれば、前述の差分に基づいて粒状物質の性状の変化を数量的に監視することができる。
【0025】
データ処理演算装置5で実施できる別の具体的な監視方法としては次のような方法がある。すなわち図2(C)のように、周波数成分のパワースペクトルを、周波数の低いパワースペクトルから所定の周波数のパワースペクトルまで累積し、所定の周波数を逐次増加して得た複数の累積パワースペクトルF1′〜F6′を累積結果として記憶する。そして累積パワースペクトルF1′〜F6′の予め定めたパーセンタイルにおける周波数と、予め定めた基準累積パワースペクトルの予め定めたパーセンタイルにおける周波数とを比較し、この比較結果に基づいて粒状物質の性状の変化を監視する。ここでパーセンタイルとは、対象とする数値群を小さい順にソートし、指定された個数番目にある値を代表値とするものである。例えば、累積パワースペクトルのデータとして100個のデータ値があったとすると、50パーセンタイルとは小さい順に数えて50番目の値である。80パーセンタイルとは80番目の値、90パーセンタイルとは90番目の値である。ちなみに50パーセンタイルは、中央値と呼ばれている。例えば累積パワースペクトルの平均値と50パーセンタイルの値を比較して、もし平均値の方が低いようであれば、累積パワースペクトルが極端に小さな値があることが予想される。また、累積パワースペクトルの最大値と95パーセンタイルの値が同じであれば、数値群の内5パーセントに相当する個数の値は、最大値に等しいことが判る。例えば、累積パワースペクトルF1′〜F6′の50パーセンタイルにおける周波数と、基準累積パワースペクトルの50パーセンタイルにおける周波数とを比較することは、累積パワースペクトルの中央値における周波数を比較することになる。その結果、累積パワースペクトルの50パーセンタイルにおける周波数の変化を知ることができる。事前に、累積パワースペクトルの中央値における周波数と粒状物質の粒径の変化の関係を調べておけば、粒状物質の性状の変化を監視することができる。なお何パーセンタイルとするかは監視の目的に応じて任意である。
【0026】
さらに別の具体的な監視方法では、周波数成分のパワースペクトルを、予め定めた周波数よりも低い低周波数帯のパワースペクトルと予め定めた周波数以上の高周波数帯のパワースペクトルとに分けて、低周波数帯のパワーと高周波数帯のパワーとの比を求めて監視用パワー比とする。また粒状物質の性状が変化を開始する直前または開始した直後の周波数成分のパワースペクトルを基準パワースペクトルとし、該基準パワースペクトルを前記予め定めた周波数よりも低い低周波数帯のパワースペクトルと予め定めた周波数以上の高周波数帯のパワースペクトルとに分けて、低周波数帯のパワーと高周波数帯のパワーとの比を基準パワー比とする。低周波数帯と高周波数帯とをどのように決めるかは監視目的に応じて任意であるが、例えば、前述の50パーセンタイルの周波数より低い周波数帯を低周波数帯とし、50パーセンタイルの周波数以上の周波数を高周波数帯としてもよい。そして監視用パワー比と基準パワー比との比較結果から、粒状物質の性状の変化を監視する。このような方法によると、低周波数帯と高周波数帯のパワーの変化状況をパワー比という単純な数値として表すことができるので、監視の応答性を高めることができる。
【0027】
なお監視用パワー比と基準パワー比との差分を比較結果として求め、予め求めた差分と性状の変化との関係及び比較結果から、粒状物質の性状の変化を監視するようにしてもよいのは勿論である。このように差分に基づくと、監視条件が充足されたか否かの判断が容易になり、監視精度を高めることもできる。
【0028】
またデータ処理演算装置5で実施する別の具体的な監視方法では、周波数成分のパワースペクトル波形と周波数軸とで囲まれる図形の中心(図心)が位置する監視用図心周波数を求める。周波数成分のパワースペクトル波形と周波数軸とで囲まれる図形の中心(図心)は、図心を求める公知の方法を利用して演算により求めればよい。また粒状物質の性状が変化を開始する直前または開始した直後の周波数成分のパワースペクトル波形と周波数軸とで囲まれる図形の中心(図心)が位置する基準図心周波数を求める。そして監視用図心周波数と基準図心周波数とを比較することにより、粒状物質の性状の変化を監視するようにしてもよい。
【0029】
なお監視用図心周波数と基準図心周波数との差分を比較結果として求め、予め求めた差分と性状の変化との関係及び比較結果から、粒状物質の性状の変化を監視するようにしてもよい。このように差分に基づくと、監視条件が充足されたか否かの判断が容易になり、監視精度を高めることもできる。
【0030】
上記実施の形態では、造粒装置の造粒容器に対してAEセンサーを配置して容器内の粒状物質の性状を監視したが、本発明は、粒状物質が流れる通路を構成する配管に対してAEセンサーを配置して、通路を移動する粒状物質の性状を監視する場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
発明によれば、周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化を見ることにより、粒状物質の性状の変化を監視するため、センサーの出力のレベル変動が大きい場合においても、確実に、従来よりも高い精度で粒状物質の性状の変化を知ることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 粒状物質製造装置
2 AEセンサー
3 AEセンサー
4 データ収集記憶装置
5 データ処理演算装置
6 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アコースティックエミッションを用いて容器または通路内を移動する粒状物質を監視する方法であって、
前記容器または通路の外壁または内壁に装着したアコースティックエミッションセンサの出力を、周波数成分のパワースペクトルに変換し、
前記周波数成分のパワースペクトルの分布状態の経時的な変化に基づいて前記粒状物質の性状の変化を監視することを特徴とする粒状物質の監視方法。
【請求項2】
前記パワースペクトルへの変換を高速フーリエ変換により実行する請求項1に記載の粒状物質の監視方法。
【請求項3】
前記周波数成分のパワースペクトルを、周波数の低いパワースペクトルから所定の周波数のパワースペクトルまで累積し、前記所定の周波数を逐次増加して得た複数の累積パワースペクトルを累積結果として記憶し、
前記累積結果を正規化して得た正規化累積パワースペクトルと予め定めた基準累積パワースペクトルとを比較し、比較結果に基づいて前記粒状物質の性状の変化を監視することを特徴とする請求項1または2に記載の粒状物質の監視方法。
【請求項4】
前記基準累積パワースペクトルは、前記粒状物質の性状が変化を開始する直前または開始した直後の正規化累積パワースペクトルであり、
前記累積結果を正規化して得た正規化累積パワースペクトルと前記予め定めた基準累積パワースペクトルとの差分を前記比較結果として求め、
予め求めた前記差分と前記性状の変化との関係及び前記比較結果から、前記粒状物質の性状の変化を監視する請求項3に記載の粒状物質の監視方法。
【請求項5】
前記周波数成分のパワースペクトルを、周波数の低いパワースペクトルから所定の周波数のパワースペクトルまで累積し、前記所定の周波数を逐次増加して得た複数の累積パワースペクトルを累積結果として記憶し、
前記累積パワースペクトルの予め定めたパーセンタイルにおける周波数と、予め定めた基準累積パワースペクトルの前記予め定めたパーセンタイルにおける周波数とを比較し、比較結果に基づいて前記粒状物質の性状の変化を監視することを特徴とする請求項1または2に記載の粒状物質の監視方法。
【請求項6】
前記パーセンタイルが50パーセンタイルである請求項5に記載の粒状物質の監視方法。
【請求項7】
前記周波数成分のパワースペクトルを、予め定めた周波数よりも低い低周波数帯のパワースペクトルと前記予め定めた周波数以上の高周波数帯のパワースペクトルとに分けて、前記低周波数帯のパワーと前記高周波数帯のパワーとの比を求めて監視用パワー比とし、
前記粒状物質の性状が変化を開始する直前または開始した直後の前記周波数成分のパワースペクトルを基準パワースペクトルとし、該基準パワースペクトルを前記予め定めた周波数よりも低い低周波数帯のパワースペクトルと前記予め定めた周波数以上の高周波数帯のパワースペクトルとに分けて、前記低周波数帯のパワーと前記高周波数帯のパワーとの比を基準パワー比とし、
前記監視用パワー比と前記基準パワー比との比較結果から、前記粒状物質の性状の変化を監視する請求項1または2に記載の粒状物質の監視方法。
【請求項8】
前記監視用パワー比と前記基準パワー比との差分を前記比較結果として求め、
予め求めた前記差分と前記性状の変化との関係及び前記比較結果から、前記粒状物質の性状の変化を監視する請求項7に記載の粒状物質の監視方法。
【請求項9】
前記周波数成分のパワースペクトル波形と周波数軸とで囲まれる図心が位置する監視用図心周波数を求め、
前記粒状物質の性状が変化を開始する直前または開始した直後の前記周波数成分のパワースペクトル波形と周波数軸とで囲まれる図心が位置する基準図心周波数を求め、
前記監視用図心周波数と前記基準図心周波数とを比較することにより、前記粒状物質の性状の変化を監視する請求項1または2に記載の粒状物質の監視方法。
【請求項10】
前記監視用図心周波数と前記基準図心周波数との差分を前記比較結果として求め、
予め求めた前記差分と前記性状の変化との関係及び前記比較結果から、前記粒状物質の性状の変化を監視する請求項9に記載の粒状物質の監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96943(P2013−96943A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242238(P2011−242238)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【出願人】(591011384)株式会社パウレック (44)
【Fターム(参考)】