磁性リボン及びこれを用いた巻磁心
【課題】渦電流損を効果的に低減することができ、製造が容易で、かつ、低コストの磁性リボン及びこれを用いたコンパクトな巻磁心を提供する。
【解決手段】軟磁性体で構成され、一個以上の開口部200からなる開口部群を複数有する磁性リボン100において、これらの開口部群の間に区切られ磁性リボン100の巻方向に配列された領域を設け、開口部200の磁性リボン100の幅方向における最大寸法は、開口部200の巻方向における最大寸法よりも大きくする。
【解決手段】軟磁性体で構成され、一個以上の開口部200からなる開口部群を複数有する磁性リボン100において、これらの開口部群の間に区切られ磁性リボン100の巻方向に配列された領域を設け、開口部200の磁性リボン100の幅方向における最大寸法は、開口部200の巻方向における最大寸法よりも大きくする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性リボン及びこれを用いた巻磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
巻鉄心(巻磁心)は、モータ等の回転機器、変圧器、リアクトル等の電気機器にごく一般的に適用されている。しかし、磁性リボン(磁性薄帯)を巻回することにより形成した巻磁心をそのまま使用すると、磁束の影響で渦電流損を発生する。渦電流損を低減するためのいくつかの技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、リボン状のアモルファス合金を巻回することで形成された固定子鉄心に、固定子巻き線が巻回された固定子と、永久磁石を有する回転子と、を有し、固定子鉄心にスリットを有するアキシャルギャップモータが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、筒形コイルの外周に帯状コアを巻装して固定子を形成し、永久磁石ロータを内装し、帯状コアに巻方向に長いスリットを形成したブラシレスモータが開示されている。このブラシレスモータにおいては、スリットは、渦電流損を小さくするに有効であり、筒形コイルに巻装した際に固着剤がスリットに入り込むため筒形コイルの保持力をも向上することができることが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、磁気材料製の帯状体の端部から縁部の部分だけ離間させ、かつ互いに離間する隣接スリット(又はアパーチャ)を形成することにより、渦電流を阻止する構成を有するヨークが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−284578号公報
【特許文献2】特開昭58−58845号公報
【特許文献3】特公昭62−26257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているスリットを有する固定子鉄心は、リボン状のアモルファス合金を巻回することで形成された固定子鉄心に渦電流防止スリットを設ける工程により鉄心を作製する。リボン状のアモルファス合金は、非常に硬いため、渦電流防止スリットを設ける工程は、長時間を要し、治具の消耗も速いため、製造コストが高くなる。
【0008】
特許文献2に記載されているスリットは、帯状コア(巻鉄心)の側面に直交する磁束によって発生する渦電流損については低減効果があるが、他の方向の磁束により発生する渦電流損については低減する効果がない。そのため、回転機として利用する場合、渦電流損が大きくなる。
【0009】
特許文献3に記載されているヨークは、帯状体の端部から縁部の部分だけ離間させた構成の隣接スリットを有するため、アキシャルギャップモータに適用した場合にヨークの底面部において周方向に生じる渦電流を阻止することが困難である。また、このヨークは、スリットの寸法が巻方向に長いため、アキシャルギャップモータに適用した場合に、円筒型ヨークの軸方向の連続性に基づく機能が巻方向のスリットの寸法の分だけ低下してしまう。言い換えると、この分だけ帯状体の巻数を増やす必要が生じることになり、ヨークの体積が増加してしまう。
【0010】
本発明は、渦電流損を効果的に低減することができ、製造が容易で、かつ、低コストの磁性リボン及びこれを用いたコンパクトな巻磁心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、軟磁性体で構成され、一個以上の開口部からなる開口部群を複数有する磁性リボンにおいて、これらの開口部群の間に区切られ当該磁性リボンの巻方向に配列された領域を設け、開口部の当該磁性リボンの幅方向における最大寸法は、開口部の巻方向における最大寸法よりも大きくする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、渦電流損を低減でき、かつ、低コストの磁性リボン及びコンパクトな巻磁心を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図2】実施例の磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図3】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図4】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図5】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図6】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図7】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図8】スリットの端部に曲率を設けた磁性リボン及びこれを用いた扇形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図9】スリットの端部に曲率を設けた磁性リボン及びこれを用いた扇形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図10】巻回した際にスリットが重なるようにスリットの間隔を設定した四角柱状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図11】幅方向に6本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図12】幅方向に4本の斜めスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図13】幅方向に4本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図14】幅方向に5本の楕円形状スリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図15】スリットの有しない従来の円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の一例を示す斜視図である。
【図16】スリットの有する磁性リボンで構成された円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の一例を示す斜視図である。
【図17】スリットの有する磁性リボンで構成された円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の他の例を示す斜視図である。
【図18】幅方向に6本の楕円形状スリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図19】円筒形状の巻磁心を内蔵したモータを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る磁性リボン及びこれを用いた巻磁心及びその製造方法について説明する。
【0015】
前記磁性リボンは、Fe基アモルファス合金薄帯であって、単ロール法により作製されるものである。このFe基アモルファス合金は、化学式FeaSibBcCdで表される。そして、合金組成は、原子%で76≦a<84%、0<b≦12%、8≦c≦18%、d≦3%であり、このほか、不可避的不純物を含むものである。
【0016】
Fe量aが76原子%より少ないと、磁性材料として高い飽和磁束密度Bsが得られないため好ましくない。また、aが84原子%以上の場合、熱安定性が低下し、安定してアモルファス合金薄帯が製造できなくなる。高いBsを有するアモルファス合金薄帯を安定的に製造するためには、aが79〜83原子%であることが好ましい。
【0017】
Siは、アモルファス相の形成能に寄与する元素である。Bsを向上するためには、Si量bが12原子%以下であることが必要であり、好ましくは、5原子%以下である。
【0018】
Bは、アモルファス相の形成能に最も寄与する元素である。B量cが8原子%未満の場合、熱安定性が低下する。一方、cが18原子%を超えると、アモルファス相の形成能が飽和する。高いBs及びアモルファス相の形成能を両立するためには、cが10〜17原子%であることが好ましい。
【0019】
Cは、磁性材料の角形性及びBsを向上する効果がある元素であるが、必須ではない。C量dを3原子%より多くすると、脆化が著しくなり、熱安定性も低下する。
【0020】
なお、Fe量aについては、10原子%以下の範囲でNi又はCoで置換することにより、Bsを向上させることができる。
【0021】
また、Cr、Mo、Zr、Hf及びNbのうち少なくとも1種類以上の元素を0.01〜5原子%含んでいてもよく、不可避的不純物としてS、P、Sn、Cu、Al及びTlのうち少なくとも1種類以上の元素を0.5原子%以下の範囲で含んでいてもよい。
【0022】
Fe基合金薄帯の厚さは、10〜100μmが好ましい。10μm未満の場合、合金薄帯自体の機械的強度が低くなるため、安定して長尺の合金薄帯を鋳造することができない。また、100μmを超えると、合金の一部が結晶化しやすくなり、特性が劣化する。
【0023】
前記磁性リボンは、軟磁性体で構成され、一個以上の開口部(「スリット」とも呼ぶ。)からなる開口部群(「スリットセット」とも呼ぶ。)を複数有するものであって、これらの開口部群の間に区切られ当該磁性リボンの巻方向に配列された領域を有し、開口部の当該磁性リボンの幅方向における最大寸法は、開口部の巻方向における最大寸法よりも大きいことを特徴とする。
【0024】
前記磁性リボンにおいては、上記の領域の巻方向における最大寸法は、開口部の巻方向における最大寸法よりも大きいことが望ましい。
【0025】
前記磁性リボンにおいては、上記の領域は、巻方向に隣り合う隣接領域を有し、上記の領域と隣接領域とは、開口部群の少なくとも一つの接続部を介して接続されていることが望ましい。
【0026】
前記磁性リボンにおいては、開口部の端部は、曲率を有することが望ましい。
【0027】
前記磁性リボンにおいては、開口部の最大寸法である長軸は、接続部の最小寸法より長いことが望ましい。
【0028】
前記磁性リボンにおいては、開口部は、矩形状、角丸長方形状、楕円形状、菱形状又は三角形状であることが望ましい。
【0029】
前記磁性リボンにおいては、接続部は、当該磁性リボンの幅方向の端部に設けられていることが望ましい。
【0030】
前記磁性リボンにおいては、開口部は、当該磁性リボンの幅方向の端部に達していることが望ましい。
【0031】
前記磁性リボンにおいては、開口部の長軸の延長線は、巻方向の軸に対して直交することが望ましい。
【0032】
前記巻磁心は、前記磁性リボンを巻回して形成されている。
【0033】
前記巻磁心の製造方法は、軟磁性体で構成され、一個以上の開口部からなる開口部群を複数有する磁性リボンを用いた巻磁心の製造方法であって、開口部を形成する工程と、磁性リボンを巻回する工程とを含む。
【0034】
以下、図面を用いて実施例について説明する。
【実施例1】
【0035】
本実施例においては、巻方向(巻回方向)と交差するスリットを有する磁性リボン(磁性薄帯)及びこれを巻回して形成した円筒形状の巻磁心の例について説明する。
【0036】
図1は、実施例の磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【0037】
本図において、巻磁心300は、磁性リボン100を巻回することにより構成されている。磁性リボン100は、巻方向に等間隔に配置された複数本のスリット200を有する。スリット200は、磁性リボン100の幅方向に長く連続した矩形状であり、スリット200の長辺又は長軸の延長線は、磁性リボン100の巻方向の軸(巻方向の端部)に対して直交する。
【0038】
言い換えると、本図においては、磁性リボン100は、スリット200と磁性リボン100の幅方向の両端部との間に二か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0039】
なお、スリット200の長軸は、スリット200の最大寸法である。そして、この長軸に垂直な方向におけるスリット200の最大寸法をスリット200の短軸と定義する。よって、当該短軸は、菱形状、楕円形状等の場合、スリットの中央部の寸法が該当し、スリットの中央部がくびれたひょうたん形状の場合、スリットの中央部以外の寸法が該当することになる。
【0040】
一般に、巻回した磁性リボン100は、回転機や静止器などの電気機器の巻磁心300(鉄心)として使用される場合は、磁束の変化により渦電流損が発生する。磁性リボン100にスリットを入れると巻磁心300の渦電流損が低減できることは知られている。しかし、回転機や静止器においては、磁束は、主磁束及び漏れ磁束の影響で多方向に発生するため、この磁束に伴って発生する渦電流損を低減する必要がある。
【0041】
本実施例の磁性リボン100は、巻方向と交差する方向でスリット200を設けることにより、巻磁心300を貫通する磁束のうち、磁性リボン100の積層面に対して直交する成分及び当該積層面に平行する成分の影響で発生した渦電流損の大部分を低減することができるものである。
【0042】
本図においては、幅方向に直交するスリット200を示しているが、これに限定されるものではなく、スリット200の延長線が巻方向の軸と交差すればよい。
【0043】
図2は、斜めスリットを有する磁性リボンの一例である。
【0044】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン102を巻回することにより構成されている。磁性リボン102は、巻方向に等間隔に配置された複数本のスリット201を有する。スリット201は、磁性リボン102の幅方向に長く連続した矩形状であり、スリット201の長辺又は長軸の延長線は、磁性リボン102の巻方向の軸に対して斜めに交わる。
【0045】
言い換えると、本図においては、磁性リボン102は、スリット201と磁性リボン102の幅方向の両端部との間に二か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0046】
スリット201の長軸は、矩形状の場合、長辺と等しい。スリット201の短軸は、矩形状の場合、短辺に等しい。また、スリット201の幅方向の最大寸法は、巻方向の最大寸法よりも大きくなっている。スリット201の短辺を小さくすること、又は、巻方向の最大寸法を幅方向の最大寸法より小さくすることにより、スリット201を有する巻磁心300の見かけ密度を高くすることができ、効果的に渦電流を抑制することができる。
【0047】
スリット201のピッチは、自由に変えられる。スリット201は、磁性リボン102の巻方向において周期的に密集した配置としてもよいし、等間隔としてもよい。
【0048】
本実施例においては、スリット201は、磁性リボン102を巻回する前に形成することを特徴とする。一般に、磁性リボン102は薄いため、スリット201の加工が容易である。例えば、アモルファス合金の磁性リボン102の厚さは0.025mm程度が望ましい。電磁鋼板の厚さは0.5mm以下が望ましい。磁性リボン102を積層した積層体の場合、スリットの加工は難しくなり、加工コストが増える。
【0049】
磁性リボン102のスリット201の長さ及び幅並びにスリット201間のピッチは、適用する製品の仕様により自由に変えられる。
【0050】
スリット201の加工方法としては、プレス打ち抜き、エッチング、放電加工、ウォーター・ジェット切断、レーザ加工等が挙げられる。磁性材料の材質及び特性により、加工方法は異なる。
【0051】
本実施例によれば、低コスト・低鉄損の磁性リボンが得られる。
【0052】
また、磁性リボン102にスリット201を入れる際、一枚ずつ加工してもよいし、何枚か重ねて加工してもよい。
【0053】
また、スリット201を加工する際、磁性リボン102の両面を治具で挟んで加工することが好ましい。これは、磁性リボン102がアモルファス合金の場合、特に好ましい。アモルファス合金は割れやすく、磁性リボン102の割れが進展することを防止することができるからである。
【0054】
幅方向に隣接するスリット201の本数は特に限定しない。幅方向に隣接するスリット201を配置した領域において、磁性リボン102が巻方向に少なくとも一か所でつながっていればよい。
【0055】
図3は、幅方向に隣接する同一方向のスリットを2本とした例を示したものである。
【0056】
本図において、巻磁心300は、磁性リボン103を巻回することにより構成されている。磁性リボン103は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット202を有する。スリット202は、磁性リボン103の幅方向に隣接する2本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン103の巻方向に等間隔に配置されている。スリット202は、磁性リボン103の幅方向に長い矩形状であり、スリット202の長辺(長軸)の延長線は、磁性リボン103の巻方向の軸に対して直交する。2本のスリット202の間には、接続部701が設けてある。
【0057】
言い換えると、本図においては、磁性リボン103は、幅方向に隣接するスリット202の間及びスリット202と磁性リボン103の幅方向の両端部との間に計三か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0058】
磁性リボン103が完全に切れていると巻回工程が困難になる。このため、少なくとも一か所でつながっていることが好ましい。また、巻方向と交差する方向でスリット202を入れると、巻回工程における引張力によって磁性リボン103が切れやすくなる。同じ方向でスリット202の数を増えると、磁性リボン103がつながっている部分が増えるため、磁性リボン103の強度の観点からは好ましい。
【0059】
図4は、2本の斜めスリットを有する磁性リボンの一例である。
【0060】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン104を巻回することにより構成されている。磁性リボン104は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット203を有する。スリット203は、磁性リボン104の幅方向に隣接する2本をひとまとまりとして、磁性リボン104の巻方向に等間隔に配置されている。スリット203は、磁性リボン104の幅方向に長い矩形状であり、スリット203の長辺(長軸)の延長線は、磁性リボン104の巻方向の軸に対して斜めに交わる。2本のスリット203の間には、接続部702が設けてある。2本のスリット203の隣接する端部のうち一方の端部から他方のスリット203までの最短距離、すなわち、当該一方の端部から当該他方のスリット203までの垂線を「接続部702の最小寸法」と呼ぶ。
【0061】
言い換えると、本図においては、磁性リボン104は、幅方向に隣接するスリット203の間及びスリット203と磁性リボン104の幅方向の両端部との間に計三か所の接続部を有し、巻方向につながっている。磁性リボン104の幅方向に隣接するスリット203の間の接続部は、比較的幅広になっている。
【0062】
図5は、幅方向の同一方向に2本のスリットを有する磁性リボンであって、幅方向の端部にスリットが達している例を示したものである。
【0063】
本図において、巻磁心300は、磁性リボン105を巻回することにより構成されている。磁性リボン105は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット204を有する。スリット204は、磁性リボン105の幅方向に隣接する2本をひとまとまりとして、磁性リボン105の巻方向に等間隔に配置されている。スリット204は、磁性リボン105の幅方向に長い矩形状であり、磁性リボン105の幅方向の端部に達している。2本のスリット204の間には、接続部703が設けてある。2本のスリット204の隣接する端部の最短距離を接続部703の最小寸法と呼ぶ。
【0064】
言い換えると、本図においては、磁性リボン105は、幅方向に隣接するスリット204の間に一か所だけ接続部を有し、巻方向につながっている。この例の場合、磁性リボン105が接続部で切断されないようにするため、接続部の幅方向の長さを大きくしてある。
【0065】
図6は、磁性リボンの幅方向に隣接する同一方向のスリットを2本とした例であって、スリットの長さを変化させたものを示したものである。
【0066】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン106を巻回することにより構成されている。磁性リボン106は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット202を有する。隣接する2本のスリット202の長辺(長軸)の長さは、互いに異なっている。スリット202は、磁性リボン106の幅方向に隣接する2本をひとまとまりとして、磁性リボン106の巻方向に等間隔に配置されている。スリット202は、磁性リボン106の幅方向に長い矩形状であり、スリット202の長辺の延長線は、磁性リボン106の巻方向の軸に対して直交する。
【0067】
言い換えると、本図においては、磁性リボン106は、幅方向に隣接するスリット202の間及びスリット202と磁性リボン106の幅方向の両端部との間に計三か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0068】
本図の例においては、隣接する2本のスリット202の長辺の長さが異なるため、磁性リボン106の接続部の幅方向の位置(端部からの距離)が異なる。このため、磁性リボン106の巻方向の強度を改善することができる。
【0069】
図7は、隣接するスリットセットを構成するスリットの長辺の向きが異なる磁性リボンの例を示したものである。すなわち、スリットの長辺の向きが一様でない例である。
【0070】
本図に示す磁性リボン107は、隣接する2本のスリット202の長辺(長軸)の延長線が、磁性リボン107の巻方向の軸に対して直交するスリットセット、及び、当該巻方向の軸に対して斜めに交わるスリットセットを交互に隣接して設けたものである。言い換えると、図3及び図4のスリットセットが交互に隣接して設けられたものである。
【0071】
以上の例においては、スリットセットを磁性リボンの巻方向に等間隔に配置した場合を示したが、これに限定されるものではなく、スリットセットの間隔が互いに異なるように配置してもよい。
【実施例2】
【0072】
本実施例においては、扇形状(三角柱状)の巻磁心について説明する。
【0073】
図8は、円弧状の端部を有するスリットを設けた磁性リボンを用いて扇形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0074】
本図においては、巻磁心310は、磁性リボン108を巻回することにより構成されている。磁性リボン108は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット202を有する。隣接する2本のスリット202の長辺の長さは、互いに異なっている。スリット202は、磁性リボン108の幅方向に隣接する2本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン108の巻方向に等間隔に配置されている。スリット202は、磁性リボン108の幅方向に長く、短辺を弧205で構成した角丸長方形状(レーストラック形状)であり、スリット202の長辺の延長線は、磁性リボン108の巻方向の軸に対して直交する。
【0075】
巻磁心310は、扇形状に限らず、他の形状も適用できる。実施例1と同様に、磁性リボン108を巻回する前に、所定の位置で巻方向と交差するスリット202を設ける。スリット202は、長いほど渦電流損の低減効果が大きいが、磁性リボン108の強度が悪くなる。ここで、スリット202の端部に角度Rを設けることにより、巻回する際の引張応力を緩和することができる。角度Rは、スリット両端または片端で設けることができる。角度Rの形状と寸法は限定しない。
【0076】
図9は、図8に示す扇形状の巻磁心においてスリットの端部の形状を変えた例を示したものである。
【0077】
本図においては、磁性リボン109のスリット202の端部にスリット202の幅よりも幅広の弧206が設けてある。
【0078】
実施例1及び2においては、スリットのピッチ(スリット間の距離)を等しくしたが、これに限定されるものではなく、巻方向に変化させてもよい。
【実施例3】
【0079】
本実施例では、巻回した巻磁心の特定の位置にスリットが重なるようにする例について説明する。
【0080】
三角形、四角形等の多角形、又は扇形等の底面形状を有する柱状の巻磁心の場合、磁性リボンを曲げる部位(角部)で応力が集中しやすい。この部位にスリットを設けると、応力を緩和できるため、巻磁心の製造が容易になる。
【0081】
図10は、四角柱状の巻磁心の例を示したものである。
【0082】
本図においては、巻磁心320は、磁性リボン110を巻回することにより構成されている。磁性リボン110のスリット200は、磁性リボン110の幅方向に長く連続した矩形状であり、スリット200の長辺の延長線は、磁性リボン110の巻方向の軸(巻方向の端部)に対して直交する。また、スリット200は、巻回して巻磁心320を形成した場合に、四角柱の底辺の形状である長方形の4つの角部に対応する部分に重なるような間隔で設けられている。
【実施例4】
【0083】
本実施例においては、1つのスリットセットにスリットが3本以上含まれる巻磁心について説明する。
【0084】
図11は、1つのスリットセットにスリットが6本含まれる磁性リボンを用いて円筒形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0085】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン111を巻回することにより構成されている。磁性リボン111は、幅方向に並んで隣接する同一方向の6本のスリット211を有する。隣接する6本のスリット211の長辺の長さは等しい。スリット211は、磁性リボン111の幅方向に隣接する6本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン111の巻方向に等間隔に配置されている。スリット211は、磁性リボン111の幅方向に長い矩形状であり、スリット211の長辺の延長線は、磁性リボン111の巻方向の軸に対して直交する。
【0086】
本図においては、磁性リボン111は、幅方向に隣接するスリット211の間及びスリット211と磁性リボン111の幅方向の両端部との間に計七か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0087】
図12は、1つのスリットセットにスリットが4本含まれる磁性リボンを用いて円筒形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0088】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン112を巻回することにより構成されている。磁性リボン112は、幅方向に並んで隣接する同一方向の4本のスリット212を有する。隣接する4本のスリット212の長辺の長さは等しい。スリット212は、磁性リボン112の幅方向に隣接する4本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン112の巻方向に等間隔に配置されている。スリット212は、磁性リボン112の幅方向に長い矩形状であり、スリット212の長辺の延長線は、磁性リボン112の巻方向の軸に対して斜めに交わる。
【0089】
本図においては、磁性リボン112は、幅方向に隣接するスリット212の間及びスリット212と磁性リボン112の幅方向の両端部との間に計五か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0090】
図13は、1つのスリットセットにスリットが4本含まれ、そのうちの2本のスリットが磁性リボンの幅方向の端部に達している例を示したものである。
【0091】
本図において、巻磁心300は、磁性リボン113を巻回することにより構成されている。磁性リボン113は、幅方向に並んで隣接する同一方向の4本のスリット213、223を有する。これらの4本のスリット213、223は、ひとまとまりのスリットセットとして、磁性リボン113の巻方向に等間隔に配置されている。スリット213、223は、磁性リボン113の幅方向に長い矩形状であり、スリット213は、磁性リボン113の幅方向の端部に達している。
【0092】
言い換えると、本図においては、磁性リボン113は、幅方向に隣接するスリット204の間に三か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0093】
図14は、1つのスリットセットにスリットが5本含まれる磁性リボンを用いて円筒形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0094】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン114を巻回することにより構成されている。磁性リボン114は、幅方向に並んで隣接する同一方向の5本の楕円形状のスリット214を有する。隣接する5本のスリット214の長辺の長さは等しい。スリット214は、磁性リボン114の幅方向に隣接する5本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン114の巻方向に等間隔に配置されている。スリット214は、磁性リボン114の幅方向に長い矩形状であり、スリット214の長辺の延長線は、磁性リボン114の巻方向の軸に対して直交する。
【0095】
本図においては、磁性リボン114は、幅方向に隣接するスリット214の間及びスリット214と磁性リボン114の幅方向の両端部との間に計六か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0096】
図18は、1つのスリットセットにスリットが6本含まれる磁性リボンを用いて円筒形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0097】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン118を巻回することにより構成されている。磁性リボン118は、幅方向に並んで隣接する同一方向の6本のスリット251、252を有する。6本のスリット251、252のうち、磁性リボン118の幅方向の端部に位置する2本のスリット251は、当該端部に達している。4本のスリット252は楕円形状である。スリット251も、同様の楕円形状であって部分的に途切れた形状である。隣接する4本のスリット252の長辺の長さは等しい。
【0098】
本図においては、磁性リボン118は、幅方向に隣接するスリット251、252の間に計五か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0099】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれている。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0100】
以下、本発明の作用効果について説明する。
【0101】
図15は、スリットの有しない従来の円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の一例を示したものである。
【0102】
本図においては、円筒形状の巻磁心360の中心軸方向に変動する磁場351が生じた場合に巻磁心360の端部に周方向の渦電流315が発生する。本図のようにスリットを有しない場合、渦電流315は妨げられることなく、巻磁心360の周方向に一周するように流れる。したがって、渦電流315の経路が大きくなり、渦電流損が大きい。
【0103】
図16は、スリットを有する磁性リボンで構成された円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の一例を示したものである。
【0104】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボンで構成され、磁性リボンは、幅方向に長く連続した矩形状のスリット200を有する。
【0105】
円筒形状の巻磁心300の中心軸方向に変動する磁場351が生じた場合、スリット200を有するため、巻磁心300の端部に発生する周方向の渦電流316は、スリット200に妨げられ、肉薄の磁性リボンにおいて2本の隣接するスリット200の間の狭い領域で閉じた流れとなる。これにより、渦電流損は抑制される。
【0106】
図17は、スリットを有する磁性リボンで構成された円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の他の例を示したものである。
【0107】
本図に示す巻磁心300のスリット200の構成等は、図16と同様である。
【0108】
円筒形状の巻磁心300の半径方向に変動する磁場352が生じた場合、スリット200を有するため、巻磁心300の側面部に発生する渦電流317は、スリット200に妨げられ、2本の隣接するスリット200の間の狭い領域で閉じた流れとなる。
【0109】
図19は、円筒形状の巻磁心を内蔵したモータを示す断面図である。
【0110】
本図において、モータ800(アキシャルギャップモータ)は、回転シャフト804に固定されたロータヨーク806と、ハウジング808にステータ固定部805を介して固定されたステータで構成されている。ロータヨーク806には、磁石803が固定されている。ステータは、巻磁心801と、コイル802と、ベアリングホルダ810とを含み、ベアリング809を介して回転シャフト804を支持している。巻磁心801の巻回中心軸は、回転シャフト804の回転軸方向に平行な方向に設置されている。ステータは、2つのロータヨーク806の間に設置されている。このため、ステータに含まれる巻磁心801は、2つの磁石803の間に位置している。
【0111】
よって、磁石803による磁場は、主として回転シャフト804の回転軸方向に生じ、巻磁心801の巻回中心軸方向に生じている。
【0112】
巻磁心801は、上記の実施例に示す幅方向にスリットを有する磁性リボンで構成されているため、巻磁心801の内部に生じる渦電流損は、図16に示すように抑制される。
【符号の説明】
【0113】
100、102〜114、118:磁性リボン、200〜206、211〜214、223、251、252:スリット、205、206:弧、300、310、320:巻磁心、315〜317:渦電流、351、352:磁場、701〜703:接続部、800:モータ、801:巻磁心、802:コイル、803:磁石、804:回転シャフト、805:ステータ固定部、806:ロータヨーク、808:ハウジング、809:ベアリング、810:ベアリングホルダ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性リボン及びこれを用いた巻磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
巻鉄心(巻磁心)は、モータ等の回転機器、変圧器、リアクトル等の電気機器にごく一般的に適用されている。しかし、磁性リボン(磁性薄帯)を巻回することにより形成した巻磁心をそのまま使用すると、磁束の影響で渦電流損を発生する。渦電流損を低減するためのいくつかの技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、リボン状のアモルファス合金を巻回することで形成された固定子鉄心に、固定子巻き線が巻回された固定子と、永久磁石を有する回転子と、を有し、固定子鉄心にスリットを有するアキシャルギャップモータが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、筒形コイルの外周に帯状コアを巻装して固定子を形成し、永久磁石ロータを内装し、帯状コアに巻方向に長いスリットを形成したブラシレスモータが開示されている。このブラシレスモータにおいては、スリットは、渦電流損を小さくするに有効であり、筒形コイルに巻装した際に固着剤がスリットに入り込むため筒形コイルの保持力をも向上することができることが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、磁気材料製の帯状体の端部から縁部の部分だけ離間させ、かつ互いに離間する隣接スリット(又はアパーチャ)を形成することにより、渦電流を阻止する構成を有するヨークが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−284578号公報
【特許文献2】特開昭58−58845号公報
【特許文献3】特公昭62−26257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているスリットを有する固定子鉄心は、リボン状のアモルファス合金を巻回することで形成された固定子鉄心に渦電流防止スリットを設ける工程により鉄心を作製する。リボン状のアモルファス合金は、非常に硬いため、渦電流防止スリットを設ける工程は、長時間を要し、治具の消耗も速いため、製造コストが高くなる。
【0008】
特許文献2に記載されているスリットは、帯状コア(巻鉄心)の側面に直交する磁束によって発生する渦電流損については低減効果があるが、他の方向の磁束により発生する渦電流損については低減する効果がない。そのため、回転機として利用する場合、渦電流損が大きくなる。
【0009】
特許文献3に記載されているヨークは、帯状体の端部から縁部の部分だけ離間させた構成の隣接スリットを有するため、アキシャルギャップモータに適用した場合にヨークの底面部において周方向に生じる渦電流を阻止することが困難である。また、このヨークは、スリットの寸法が巻方向に長いため、アキシャルギャップモータに適用した場合に、円筒型ヨークの軸方向の連続性に基づく機能が巻方向のスリットの寸法の分だけ低下してしまう。言い換えると、この分だけ帯状体の巻数を増やす必要が生じることになり、ヨークの体積が増加してしまう。
【0010】
本発明は、渦電流損を効果的に低減することができ、製造が容易で、かつ、低コストの磁性リボン及びこれを用いたコンパクトな巻磁心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、軟磁性体で構成され、一個以上の開口部からなる開口部群を複数有する磁性リボンにおいて、これらの開口部群の間に区切られ当該磁性リボンの巻方向に配列された領域を設け、開口部の当該磁性リボンの幅方向における最大寸法は、開口部の巻方向における最大寸法よりも大きくする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、渦電流損を低減でき、かつ、低コストの磁性リボン及びコンパクトな巻磁心を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図2】実施例の磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図3】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図4】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図5】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図6】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図7】幅方向に2本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図8】スリットの端部に曲率を設けた磁性リボン及びこれを用いた扇形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図9】スリットの端部に曲率を設けた磁性リボン及びこれを用いた扇形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図10】巻回した際にスリットが重なるようにスリットの間隔を設定した四角柱状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図11】幅方向に6本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図12】幅方向に4本の斜めスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図13】幅方向に4本のスリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図14】幅方向に5本の楕円形状スリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図15】スリットの有しない従来の円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の一例を示す斜視図である。
【図16】スリットの有する磁性リボンで構成された円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の一例を示す斜視図である。
【図17】スリットの有する磁性リボンで構成された円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の他の例を示す斜視図である。
【図18】幅方向に6本の楕円形状スリットを有する磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【図19】円筒形状の巻磁心を内蔵したモータを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る磁性リボン及びこれを用いた巻磁心及びその製造方法について説明する。
【0015】
前記磁性リボンは、Fe基アモルファス合金薄帯であって、単ロール法により作製されるものである。このFe基アモルファス合金は、化学式FeaSibBcCdで表される。そして、合金組成は、原子%で76≦a<84%、0<b≦12%、8≦c≦18%、d≦3%であり、このほか、不可避的不純物を含むものである。
【0016】
Fe量aが76原子%より少ないと、磁性材料として高い飽和磁束密度Bsが得られないため好ましくない。また、aが84原子%以上の場合、熱安定性が低下し、安定してアモルファス合金薄帯が製造できなくなる。高いBsを有するアモルファス合金薄帯を安定的に製造するためには、aが79〜83原子%であることが好ましい。
【0017】
Siは、アモルファス相の形成能に寄与する元素である。Bsを向上するためには、Si量bが12原子%以下であることが必要であり、好ましくは、5原子%以下である。
【0018】
Bは、アモルファス相の形成能に最も寄与する元素である。B量cが8原子%未満の場合、熱安定性が低下する。一方、cが18原子%を超えると、アモルファス相の形成能が飽和する。高いBs及びアモルファス相の形成能を両立するためには、cが10〜17原子%であることが好ましい。
【0019】
Cは、磁性材料の角形性及びBsを向上する効果がある元素であるが、必須ではない。C量dを3原子%より多くすると、脆化が著しくなり、熱安定性も低下する。
【0020】
なお、Fe量aについては、10原子%以下の範囲でNi又はCoで置換することにより、Bsを向上させることができる。
【0021】
また、Cr、Mo、Zr、Hf及びNbのうち少なくとも1種類以上の元素を0.01〜5原子%含んでいてもよく、不可避的不純物としてS、P、Sn、Cu、Al及びTlのうち少なくとも1種類以上の元素を0.5原子%以下の範囲で含んでいてもよい。
【0022】
Fe基合金薄帯の厚さは、10〜100μmが好ましい。10μm未満の場合、合金薄帯自体の機械的強度が低くなるため、安定して長尺の合金薄帯を鋳造することができない。また、100μmを超えると、合金の一部が結晶化しやすくなり、特性が劣化する。
【0023】
前記磁性リボンは、軟磁性体で構成され、一個以上の開口部(「スリット」とも呼ぶ。)からなる開口部群(「スリットセット」とも呼ぶ。)を複数有するものであって、これらの開口部群の間に区切られ当該磁性リボンの巻方向に配列された領域を有し、開口部の当該磁性リボンの幅方向における最大寸法は、開口部の巻方向における最大寸法よりも大きいことを特徴とする。
【0024】
前記磁性リボンにおいては、上記の領域の巻方向における最大寸法は、開口部の巻方向における最大寸法よりも大きいことが望ましい。
【0025】
前記磁性リボンにおいては、上記の領域は、巻方向に隣り合う隣接領域を有し、上記の領域と隣接領域とは、開口部群の少なくとも一つの接続部を介して接続されていることが望ましい。
【0026】
前記磁性リボンにおいては、開口部の端部は、曲率を有することが望ましい。
【0027】
前記磁性リボンにおいては、開口部の最大寸法である長軸は、接続部の最小寸法より長いことが望ましい。
【0028】
前記磁性リボンにおいては、開口部は、矩形状、角丸長方形状、楕円形状、菱形状又は三角形状であることが望ましい。
【0029】
前記磁性リボンにおいては、接続部は、当該磁性リボンの幅方向の端部に設けられていることが望ましい。
【0030】
前記磁性リボンにおいては、開口部は、当該磁性リボンの幅方向の端部に達していることが望ましい。
【0031】
前記磁性リボンにおいては、開口部の長軸の延長線は、巻方向の軸に対して直交することが望ましい。
【0032】
前記巻磁心は、前記磁性リボンを巻回して形成されている。
【0033】
前記巻磁心の製造方法は、軟磁性体で構成され、一個以上の開口部からなる開口部群を複数有する磁性リボンを用いた巻磁心の製造方法であって、開口部を形成する工程と、磁性リボンを巻回する工程とを含む。
【0034】
以下、図面を用いて実施例について説明する。
【実施例1】
【0035】
本実施例においては、巻方向(巻回方向)と交差するスリットを有する磁性リボン(磁性薄帯)及びこれを巻回して形成した円筒形状の巻磁心の例について説明する。
【0036】
図1は、実施例の磁性リボン及びこれを用いた円筒形状の巻磁心を示す展開斜視図である。
【0037】
本図において、巻磁心300は、磁性リボン100を巻回することにより構成されている。磁性リボン100は、巻方向に等間隔に配置された複数本のスリット200を有する。スリット200は、磁性リボン100の幅方向に長く連続した矩形状であり、スリット200の長辺又は長軸の延長線は、磁性リボン100の巻方向の軸(巻方向の端部)に対して直交する。
【0038】
言い換えると、本図においては、磁性リボン100は、スリット200と磁性リボン100の幅方向の両端部との間に二か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0039】
なお、スリット200の長軸は、スリット200の最大寸法である。そして、この長軸に垂直な方向におけるスリット200の最大寸法をスリット200の短軸と定義する。よって、当該短軸は、菱形状、楕円形状等の場合、スリットの中央部の寸法が該当し、スリットの中央部がくびれたひょうたん形状の場合、スリットの中央部以外の寸法が該当することになる。
【0040】
一般に、巻回した磁性リボン100は、回転機や静止器などの電気機器の巻磁心300(鉄心)として使用される場合は、磁束の変化により渦電流損が発生する。磁性リボン100にスリットを入れると巻磁心300の渦電流損が低減できることは知られている。しかし、回転機や静止器においては、磁束は、主磁束及び漏れ磁束の影響で多方向に発生するため、この磁束に伴って発生する渦電流損を低減する必要がある。
【0041】
本実施例の磁性リボン100は、巻方向と交差する方向でスリット200を設けることにより、巻磁心300を貫通する磁束のうち、磁性リボン100の積層面に対して直交する成分及び当該積層面に平行する成分の影響で発生した渦電流損の大部分を低減することができるものである。
【0042】
本図においては、幅方向に直交するスリット200を示しているが、これに限定されるものではなく、スリット200の延長線が巻方向の軸と交差すればよい。
【0043】
図2は、斜めスリットを有する磁性リボンの一例である。
【0044】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン102を巻回することにより構成されている。磁性リボン102は、巻方向に等間隔に配置された複数本のスリット201を有する。スリット201は、磁性リボン102の幅方向に長く連続した矩形状であり、スリット201の長辺又は長軸の延長線は、磁性リボン102の巻方向の軸に対して斜めに交わる。
【0045】
言い換えると、本図においては、磁性リボン102は、スリット201と磁性リボン102の幅方向の両端部との間に二か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0046】
スリット201の長軸は、矩形状の場合、長辺と等しい。スリット201の短軸は、矩形状の場合、短辺に等しい。また、スリット201の幅方向の最大寸法は、巻方向の最大寸法よりも大きくなっている。スリット201の短辺を小さくすること、又は、巻方向の最大寸法を幅方向の最大寸法より小さくすることにより、スリット201を有する巻磁心300の見かけ密度を高くすることができ、効果的に渦電流を抑制することができる。
【0047】
スリット201のピッチは、自由に変えられる。スリット201は、磁性リボン102の巻方向において周期的に密集した配置としてもよいし、等間隔としてもよい。
【0048】
本実施例においては、スリット201は、磁性リボン102を巻回する前に形成することを特徴とする。一般に、磁性リボン102は薄いため、スリット201の加工が容易である。例えば、アモルファス合金の磁性リボン102の厚さは0.025mm程度が望ましい。電磁鋼板の厚さは0.5mm以下が望ましい。磁性リボン102を積層した積層体の場合、スリットの加工は難しくなり、加工コストが増える。
【0049】
磁性リボン102のスリット201の長さ及び幅並びにスリット201間のピッチは、適用する製品の仕様により自由に変えられる。
【0050】
スリット201の加工方法としては、プレス打ち抜き、エッチング、放電加工、ウォーター・ジェット切断、レーザ加工等が挙げられる。磁性材料の材質及び特性により、加工方法は異なる。
【0051】
本実施例によれば、低コスト・低鉄損の磁性リボンが得られる。
【0052】
また、磁性リボン102にスリット201を入れる際、一枚ずつ加工してもよいし、何枚か重ねて加工してもよい。
【0053】
また、スリット201を加工する際、磁性リボン102の両面を治具で挟んで加工することが好ましい。これは、磁性リボン102がアモルファス合金の場合、特に好ましい。アモルファス合金は割れやすく、磁性リボン102の割れが進展することを防止することができるからである。
【0054】
幅方向に隣接するスリット201の本数は特に限定しない。幅方向に隣接するスリット201を配置した領域において、磁性リボン102が巻方向に少なくとも一か所でつながっていればよい。
【0055】
図3は、幅方向に隣接する同一方向のスリットを2本とした例を示したものである。
【0056】
本図において、巻磁心300は、磁性リボン103を巻回することにより構成されている。磁性リボン103は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット202を有する。スリット202は、磁性リボン103の幅方向に隣接する2本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン103の巻方向に等間隔に配置されている。スリット202は、磁性リボン103の幅方向に長い矩形状であり、スリット202の長辺(長軸)の延長線は、磁性リボン103の巻方向の軸に対して直交する。2本のスリット202の間には、接続部701が設けてある。
【0057】
言い換えると、本図においては、磁性リボン103は、幅方向に隣接するスリット202の間及びスリット202と磁性リボン103の幅方向の両端部との間に計三か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0058】
磁性リボン103が完全に切れていると巻回工程が困難になる。このため、少なくとも一か所でつながっていることが好ましい。また、巻方向と交差する方向でスリット202を入れると、巻回工程における引張力によって磁性リボン103が切れやすくなる。同じ方向でスリット202の数を増えると、磁性リボン103がつながっている部分が増えるため、磁性リボン103の強度の観点からは好ましい。
【0059】
図4は、2本の斜めスリットを有する磁性リボンの一例である。
【0060】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン104を巻回することにより構成されている。磁性リボン104は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット203を有する。スリット203は、磁性リボン104の幅方向に隣接する2本をひとまとまりとして、磁性リボン104の巻方向に等間隔に配置されている。スリット203は、磁性リボン104の幅方向に長い矩形状であり、スリット203の長辺(長軸)の延長線は、磁性リボン104の巻方向の軸に対して斜めに交わる。2本のスリット203の間には、接続部702が設けてある。2本のスリット203の隣接する端部のうち一方の端部から他方のスリット203までの最短距離、すなわち、当該一方の端部から当該他方のスリット203までの垂線を「接続部702の最小寸法」と呼ぶ。
【0061】
言い換えると、本図においては、磁性リボン104は、幅方向に隣接するスリット203の間及びスリット203と磁性リボン104の幅方向の両端部との間に計三か所の接続部を有し、巻方向につながっている。磁性リボン104の幅方向に隣接するスリット203の間の接続部は、比較的幅広になっている。
【0062】
図5は、幅方向の同一方向に2本のスリットを有する磁性リボンであって、幅方向の端部にスリットが達している例を示したものである。
【0063】
本図において、巻磁心300は、磁性リボン105を巻回することにより構成されている。磁性リボン105は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット204を有する。スリット204は、磁性リボン105の幅方向に隣接する2本をひとまとまりとして、磁性リボン105の巻方向に等間隔に配置されている。スリット204は、磁性リボン105の幅方向に長い矩形状であり、磁性リボン105の幅方向の端部に達している。2本のスリット204の間には、接続部703が設けてある。2本のスリット204の隣接する端部の最短距離を接続部703の最小寸法と呼ぶ。
【0064】
言い換えると、本図においては、磁性リボン105は、幅方向に隣接するスリット204の間に一か所だけ接続部を有し、巻方向につながっている。この例の場合、磁性リボン105が接続部で切断されないようにするため、接続部の幅方向の長さを大きくしてある。
【0065】
図6は、磁性リボンの幅方向に隣接する同一方向のスリットを2本とした例であって、スリットの長さを変化させたものを示したものである。
【0066】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン106を巻回することにより構成されている。磁性リボン106は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット202を有する。隣接する2本のスリット202の長辺(長軸)の長さは、互いに異なっている。スリット202は、磁性リボン106の幅方向に隣接する2本をひとまとまりとして、磁性リボン106の巻方向に等間隔に配置されている。スリット202は、磁性リボン106の幅方向に長い矩形状であり、スリット202の長辺の延長線は、磁性リボン106の巻方向の軸に対して直交する。
【0067】
言い換えると、本図においては、磁性リボン106は、幅方向に隣接するスリット202の間及びスリット202と磁性リボン106の幅方向の両端部との間に計三か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0068】
本図の例においては、隣接する2本のスリット202の長辺の長さが異なるため、磁性リボン106の接続部の幅方向の位置(端部からの距離)が異なる。このため、磁性リボン106の巻方向の強度を改善することができる。
【0069】
図7は、隣接するスリットセットを構成するスリットの長辺の向きが異なる磁性リボンの例を示したものである。すなわち、スリットの長辺の向きが一様でない例である。
【0070】
本図に示す磁性リボン107は、隣接する2本のスリット202の長辺(長軸)の延長線が、磁性リボン107の巻方向の軸に対して直交するスリットセット、及び、当該巻方向の軸に対して斜めに交わるスリットセットを交互に隣接して設けたものである。言い換えると、図3及び図4のスリットセットが交互に隣接して設けられたものである。
【0071】
以上の例においては、スリットセットを磁性リボンの巻方向に等間隔に配置した場合を示したが、これに限定されるものではなく、スリットセットの間隔が互いに異なるように配置してもよい。
【実施例2】
【0072】
本実施例においては、扇形状(三角柱状)の巻磁心について説明する。
【0073】
図8は、円弧状の端部を有するスリットを設けた磁性リボンを用いて扇形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0074】
本図においては、巻磁心310は、磁性リボン108を巻回することにより構成されている。磁性リボン108は、幅方向に並んで隣接する同一方向の2本のスリット202を有する。隣接する2本のスリット202の長辺の長さは、互いに異なっている。スリット202は、磁性リボン108の幅方向に隣接する2本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン108の巻方向に等間隔に配置されている。スリット202は、磁性リボン108の幅方向に長く、短辺を弧205で構成した角丸長方形状(レーストラック形状)であり、スリット202の長辺の延長線は、磁性リボン108の巻方向の軸に対して直交する。
【0075】
巻磁心310は、扇形状に限らず、他の形状も適用できる。実施例1と同様に、磁性リボン108を巻回する前に、所定の位置で巻方向と交差するスリット202を設ける。スリット202は、長いほど渦電流損の低減効果が大きいが、磁性リボン108の強度が悪くなる。ここで、スリット202の端部に角度Rを設けることにより、巻回する際の引張応力を緩和することができる。角度Rは、スリット両端または片端で設けることができる。角度Rの形状と寸法は限定しない。
【0076】
図9は、図8に示す扇形状の巻磁心においてスリットの端部の形状を変えた例を示したものである。
【0077】
本図においては、磁性リボン109のスリット202の端部にスリット202の幅よりも幅広の弧206が設けてある。
【0078】
実施例1及び2においては、スリットのピッチ(スリット間の距離)を等しくしたが、これに限定されるものではなく、巻方向に変化させてもよい。
【実施例3】
【0079】
本実施例では、巻回した巻磁心の特定の位置にスリットが重なるようにする例について説明する。
【0080】
三角形、四角形等の多角形、又は扇形等の底面形状を有する柱状の巻磁心の場合、磁性リボンを曲げる部位(角部)で応力が集中しやすい。この部位にスリットを設けると、応力を緩和できるため、巻磁心の製造が容易になる。
【0081】
図10は、四角柱状の巻磁心の例を示したものである。
【0082】
本図においては、巻磁心320は、磁性リボン110を巻回することにより構成されている。磁性リボン110のスリット200は、磁性リボン110の幅方向に長く連続した矩形状であり、スリット200の長辺の延長線は、磁性リボン110の巻方向の軸(巻方向の端部)に対して直交する。また、スリット200は、巻回して巻磁心320を形成した場合に、四角柱の底辺の形状である長方形の4つの角部に対応する部分に重なるような間隔で設けられている。
【実施例4】
【0083】
本実施例においては、1つのスリットセットにスリットが3本以上含まれる巻磁心について説明する。
【0084】
図11は、1つのスリットセットにスリットが6本含まれる磁性リボンを用いて円筒形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0085】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン111を巻回することにより構成されている。磁性リボン111は、幅方向に並んで隣接する同一方向の6本のスリット211を有する。隣接する6本のスリット211の長辺の長さは等しい。スリット211は、磁性リボン111の幅方向に隣接する6本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン111の巻方向に等間隔に配置されている。スリット211は、磁性リボン111の幅方向に長い矩形状であり、スリット211の長辺の延長線は、磁性リボン111の巻方向の軸に対して直交する。
【0086】
本図においては、磁性リボン111は、幅方向に隣接するスリット211の間及びスリット211と磁性リボン111の幅方向の両端部との間に計七か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0087】
図12は、1つのスリットセットにスリットが4本含まれる磁性リボンを用いて円筒形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0088】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン112を巻回することにより構成されている。磁性リボン112は、幅方向に並んで隣接する同一方向の4本のスリット212を有する。隣接する4本のスリット212の長辺の長さは等しい。スリット212は、磁性リボン112の幅方向に隣接する4本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン112の巻方向に等間隔に配置されている。スリット212は、磁性リボン112の幅方向に長い矩形状であり、スリット212の長辺の延長線は、磁性リボン112の巻方向の軸に対して斜めに交わる。
【0089】
本図においては、磁性リボン112は、幅方向に隣接するスリット212の間及びスリット212と磁性リボン112の幅方向の両端部との間に計五か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0090】
図13は、1つのスリットセットにスリットが4本含まれ、そのうちの2本のスリットが磁性リボンの幅方向の端部に達している例を示したものである。
【0091】
本図において、巻磁心300は、磁性リボン113を巻回することにより構成されている。磁性リボン113は、幅方向に並んで隣接する同一方向の4本のスリット213、223を有する。これらの4本のスリット213、223は、ひとまとまりのスリットセットとして、磁性リボン113の巻方向に等間隔に配置されている。スリット213、223は、磁性リボン113の幅方向に長い矩形状であり、スリット213は、磁性リボン113の幅方向の端部に達している。
【0092】
言い換えると、本図においては、磁性リボン113は、幅方向に隣接するスリット204の間に三か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0093】
図14は、1つのスリットセットにスリットが5本含まれる磁性リボンを用いて円筒形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0094】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン114を巻回することにより構成されている。磁性リボン114は、幅方向に並んで隣接する同一方向の5本の楕円形状のスリット214を有する。隣接する5本のスリット214の長辺の長さは等しい。スリット214は、磁性リボン114の幅方向に隣接する5本をひとまとまり(スリットセット)として、磁性リボン114の巻方向に等間隔に配置されている。スリット214は、磁性リボン114の幅方向に長い矩形状であり、スリット214の長辺の延長線は、磁性リボン114の巻方向の軸に対して直交する。
【0095】
本図においては、磁性リボン114は、幅方向に隣接するスリット214の間及びスリット214と磁性リボン114の幅方向の両端部との間に計六か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0096】
図18は、1つのスリットセットにスリットが6本含まれる磁性リボンを用いて円筒形状の巻磁心を形成した例を示したものである。
【0097】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボン118を巻回することにより構成されている。磁性リボン118は、幅方向に並んで隣接する同一方向の6本のスリット251、252を有する。6本のスリット251、252のうち、磁性リボン118の幅方向の端部に位置する2本のスリット251は、当該端部に達している。4本のスリット252は楕円形状である。スリット251も、同様の楕円形状であって部分的に途切れた形状である。隣接する4本のスリット252の長辺の長さは等しい。
【0098】
本図においては、磁性リボン118は、幅方向に隣接するスリット251、252の間に計五か所の接続部を有し、巻方向につながっている。
【0099】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれている。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0100】
以下、本発明の作用効果について説明する。
【0101】
図15は、スリットの有しない従来の円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の一例を示したものである。
【0102】
本図においては、円筒形状の巻磁心360の中心軸方向に変動する磁場351が生じた場合に巻磁心360の端部に周方向の渦電流315が発生する。本図のようにスリットを有しない場合、渦電流315は妨げられることなく、巻磁心360の周方向に一周するように流れる。したがって、渦電流315の経路が大きくなり、渦電流損が大きい。
【0103】
図16は、スリットを有する磁性リボンで構成された円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の一例を示したものである。
【0104】
本図においては、巻磁心300は、磁性リボンで構成され、磁性リボンは、幅方向に長く連続した矩形状のスリット200を有する。
【0105】
円筒形状の巻磁心300の中心軸方向に変動する磁場351が生じた場合、スリット200を有するため、巻磁心300の端部に発生する周方向の渦電流316は、スリット200に妨げられ、肉薄の磁性リボンにおいて2本の隣接するスリット200の間の狭い領域で閉じた流れとなる。これにより、渦電流損は抑制される。
【0106】
図17は、スリットを有する磁性リボンで構成された円筒形状の巻磁心に生じる局所的な渦電流の他の例を示したものである。
【0107】
本図に示す巻磁心300のスリット200の構成等は、図16と同様である。
【0108】
円筒形状の巻磁心300の半径方向に変動する磁場352が生じた場合、スリット200を有するため、巻磁心300の側面部に発生する渦電流317は、スリット200に妨げられ、2本の隣接するスリット200の間の狭い領域で閉じた流れとなる。
【0109】
図19は、円筒形状の巻磁心を内蔵したモータを示す断面図である。
【0110】
本図において、モータ800(アキシャルギャップモータ)は、回転シャフト804に固定されたロータヨーク806と、ハウジング808にステータ固定部805を介して固定されたステータで構成されている。ロータヨーク806には、磁石803が固定されている。ステータは、巻磁心801と、コイル802と、ベアリングホルダ810とを含み、ベアリング809を介して回転シャフト804を支持している。巻磁心801の巻回中心軸は、回転シャフト804の回転軸方向に平行な方向に設置されている。ステータは、2つのロータヨーク806の間に設置されている。このため、ステータに含まれる巻磁心801は、2つの磁石803の間に位置している。
【0111】
よって、磁石803による磁場は、主として回転シャフト804の回転軸方向に生じ、巻磁心801の巻回中心軸方向に生じている。
【0112】
巻磁心801は、上記の実施例に示す幅方向にスリットを有する磁性リボンで構成されているため、巻磁心801の内部に生じる渦電流損は、図16に示すように抑制される。
【符号の説明】
【0113】
100、102〜114、118:磁性リボン、200〜206、211〜214、223、251、252:スリット、205、206:弧、300、310、320:巻磁心、315〜317:渦電流、351、352:磁場、701〜703:接続部、800:モータ、801:巻磁心、802:コイル、803:磁石、804:回転シャフト、805:ステータ固定部、806:ロータヨーク、808:ハウジング、809:ベアリング、810:ベアリングホルダ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性体で構成され、一個以上の開口部からなる開口部群を複数有する磁性リボンであって、これらの開口部群の間に区切られ当該磁性リボンの巻方向に配列された領域を有し、前記開口部の当該磁性リボンの幅方向における最大寸法は、前記開口部の前記巻方向における最大寸法よりも大きいことを特徴とする磁性リボン。
【請求項2】
前記領域の前記巻方向における最大寸法は、前記開口部の前記巻方向における最大寸法よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の磁性リボン。
【請求項3】
前記領域は、前記巻方向に隣り合う隣接領域を有し、前記領域と前記隣接領域とは、前記開口部群の少なくとも一つの接続部を介して接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性リボン。
【請求項4】
前記開口部の端部は、曲率を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項5】
前記開口部の最大寸法である長軸は、前記接続部の最小寸法より長いことを特徴とする請求項3又は4に記載の磁性リボン。
【請求項6】
前記開口部は、矩形状、角丸長方形状、楕円形状、菱形状又は三角形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項7】
前記接続部は、当該磁性リボンの幅方向の端部に設けられていることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項8】
前記開口部は、当該磁性リボンの幅方向の端部に達していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項9】
前記開口部の長軸の延長線は、前記巻方向の軸に対して直交することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の磁性リボンを巻回して形成されていることを特徴とする巻磁心。
【請求項11】
軟磁性体で構成され、一個以上の開口部からなる開口部群を複数有する磁性リボンを用いた巻磁心の製造方法であって、前記開口部を形成する工程と、前記磁性リボンを巻回する工程とを含むことを特徴とする巻磁心の製造方法。
【請求項1】
軟磁性体で構成され、一個以上の開口部からなる開口部群を複数有する磁性リボンであって、これらの開口部群の間に区切られ当該磁性リボンの巻方向に配列された領域を有し、前記開口部の当該磁性リボンの幅方向における最大寸法は、前記開口部の前記巻方向における最大寸法よりも大きいことを特徴とする磁性リボン。
【請求項2】
前記領域の前記巻方向における最大寸法は、前記開口部の前記巻方向における最大寸法よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の磁性リボン。
【請求項3】
前記領域は、前記巻方向に隣り合う隣接領域を有し、前記領域と前記隣接領域とは、前記開口部群の少なくとも一つの接続部を介して接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性リボン。
【請求項4】
前記開口部の端部は、曲率を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項5】
前記開口部の最大寸法である長軸は、前記接続部の最小寸法より長いことを特徴とする請求項3又は4に記載の磁性リボン。
【請求項6】
前記開口部は、矩形状、角丸長方形状、楕円形状、菱形状又は三角形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項7】
前記接続部は、当該磁性リボンの幅方向の端部に設けられていることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項8】
前記開口部は、当該磁性リボンの幅方向の端部に達していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項9】
前記開口部の長軸の延長線は、前記巻方向の軸に対して直交することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の磁性リボン。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の磁性リボンを巻回して形成されていることを特徴とする巻磁心。
【請求項11】
軟磁性体で構成され、一個以上の開口部からなる開口部群を複数有する磁性リボンを用いた巻磁心の製造方法であって、前記開口部を形成する工程と、前記磁性リボンを巻回する工程とを含むことを特徴とする巻磁心の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−115406(P2013−115406A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263382(P2011−263382)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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