説明

摩擦材

【課題】高温及び高負荷領域においても耐熱性、耐摩耗性、耐フェード性及び強度に優れた摩擦材を提供する。
【解決手段】セラミックスをマトリックスとする摩擦材であって、炭素材料を含有する摩擦材で上記課題を解決する。高耐熱性、高靭性、高強度の素材をマトリックスとして用いることにより、摩擦材が熱分解等の影響を受けることがなく、高温及び高負荷領域での使用時においても耐熱性及び耐摩耗性に優れ、摩擦係数の高い摩擦材が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両、産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に用いられる摩擦材に関し、特に、優れた耐熱性と強度を有する摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上や原材料の高騰といった環境変化の影響を受けて、車両部品の軽量化や小型化の要求が高まっている。ブレーキ部品に関しては、ブレーキディスクの小径化に伴い、摩擦材への熱的及び機械的負荷が増加している。
また、ブレーキ部品の耐熱性及び強度を高める観点から、例えば、ロータに従来のFC製(片状黒鉛鋳鉄)からセラミックス複合材料(Ceramic Matrix Composites(以下「CMC」と称する))が適用される等、相手材の材料も多様化している。
このような状況下、高温及び高負荷下での耐熱性、耐摩耗性及び耐フェード性等の性能がより一層優れた摩擦材が望まれている。
【0003】
従来の摩擦材としては、有機繊維等の繊維状物質を繊維基材とし、これに結合材や摩擦調整材を配合したNon−Asbestos−Organic系摩擦材(以下「NAO材」と称する)が広く知られている。特許文献1及び特許文献2には、有機結合材を使用した摩擦材を非酸化性雰囲気下、250〜700℃の高温にて焼成炭化させることで耐熱性及びフェード性を高めた摩擦材が記載されている。また、特許文献3には、有機結合材を用いた摩擦材を不活性ガス中で550〜1300℃で焼成炭化することで耐熱性及び耐フェード性を向上した摩擦材が記載されている。
【0004】
一方、金属を基材とすることで強度及び耐フェード性を高めた摩擦材が提案されており、特許文献4では銅を基材とした焼結摩擦材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−215164号公報
【特許文献2】特開平9−111007号公報
【特許文献3】特開2006−306970号公報
【特許文献4】特開2007−107067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1〜3に記載の有機結合材を炭化させた摩擦材では、使用時において製造時の温度を超える高温下に長時間さらされる場合に熱分解し、強度、耐摩耗性及びフェードの低下を招く懸念がある。
また、特許文献4に記載される金属を基材とした摩擦材では、NAO材に比べて重量が増加することや、基材である金属の融点付近の高温下で強度が低下したり、塑性流動を起こしたりするため摩耗の増加や相手材と固着するといった問題が懸念される。
このように従来の摩擦材では、特にCMCロータを相手材とするような高温及び高負荷領域における性能に改良の余地があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するものであり、高温及び高負荷領域においても耐熱性、耐摩耗性、耐フェード性及び強度に優れた摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、セラミックスをマトリックスとすることにより上記課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は以下のとおりのものである。
〔1〕 セラミックスをマトリックスとする摩擦材であって、炭素材料を含有する摩擦材。
〔2〕 前記セラミックスが、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス及び炭化物系セラミックスからなる群より選ばれる少なくとも一種である上記〔1〕に記載の摩擦材。
〔3〕 前記酸化物系セラミックスが、ジルコニア及びアルミナのうち少なくとも一方である上記〔2〕に記載の摩擦材。
〔4〕 前記窒化物系セラミックスが、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及びサイアロンからなる群より選ばれる少なくとも一種である上記〔2〕に記載の摩擦材。
〔5〕 前記炭化物系セラミックスが、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン及び炭化タングステンからなる群より選ばれる少なくとも一種である上記〔2〕に記載の摩擦材。
〔6〕 前記炭素材料が、黒鉛及び炭素繊維のうち少なくとも一方である上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載の摩擦材。
〔7〕 ケイ素、チタン及び鉄からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属をさらに含有する、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1つに記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高耐熱性、高靭性、高強度の素材をマトリックスとして用いることにより、摩擦材が熱分解等の影響を受けることがなく、高温及び高負荷領域での使用時においても耐熱性及び耐摩耗性に優れ、摩擦係数の高い摩擦材を提供することができる。また、制動時における欠けや割れに対しても耐久性を有する摩擦材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例34で作成した摩擦材(焼結体)の摩擦試験後の制動面を光学顕微鏡で観察した図である。
【図2】図2は、実施例36で作成した摩擦材(焼結体)の摩擦試験後の制動面を光学顕微鏡で観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<摩擦材の構成>
本発明の摩擦材は、セラミックスをマトリックスとする。セラミックスの組成は特に限定されないが、例えば、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス、炭化物系セラミックス等を用いることができる。酸化物系セラミックスとしては、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、チタニア、シリカ、マグネシア、ジルコン、ムライト、フェライト、コーディエライト、ステアタイト、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、フッ化アパタイト等が挙げられる。窒化物系セラミックスとしては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、サイアロン等が挙げられる。炭化物系セラミックスとしては、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン等が挙げられる。中でも、機械的強度や靭性が高い観点から酸化物系セラミックスであるジルコニアや窒化物系セラミックスである窒化ケイ素が好ましい。ジルコニアは安定化されていることが好ましく、例えば、イットリア(Y)安定化ジルコニア又はカルシア(CaO)安定化ジルコニアが特に好ましい。また、ジルコニアの一次粒子の平均粒径は焼結性の観点から100nm以下が好ましい。
【0012】
また、上記セラミックスは単一組成であっても、二種以上の混合組成であってもよい。混合組成としては例えば、ジルコニアを母材とした場合はアルミナを併用することが好ましく、この場合のアルミナの含有量は摩擦材全体において5〜25体積%が好ましい。アルミナをかかる範囲で含有することで摩擦材の焼結性が向上し緻密化すると共に、制動時の欠けや割れを抑制できる。
【0013】
さらに、必要に応じて焼結助剤を添加することが好ましい。特に窒化ケイ素を母材とした場合は添加することで焼結性を高めることができ好ましい。本発明で用いる焼結助剤としては特に限定されるものではなく、通常の焼結助剤として使用されるものであれば、いずれのものも使用することができる、例えば、Y、MgO、ZrO、ZrO、Al、HfO等が挙げられる。焼結助剤の含有量は、摩擦材全体において1〜15重量%であることが好ましい。
【0014】
本発明の摩擦材はさらに、炭素材料を含有する。セラミックスマトリックスのみからなる摩擦材では、強度が高く摩擦係数が高い反面、摩擦界面のせん断応力が大きくなる為、摩擦材の摩耗が増大し、摩擦係数が不安定となるおそれがある。炭素材料を配合することにより摩擦材の耐摩耗性が向上するとともに、制動時の欠けや割れを抑制することができる。炭素材料としては、フラーレン、カーボンナノチューブ、炭素繊維、黒鉛、アモルファスカーボン、活性炭、及びコークス等が挙げられ、中でも黒鉛及び炭素繊維が好ましい。
黒鉛としては人造黒鉛、天然黒鉛(鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛、弾性黒鉛、膨張黒鉛)等を用いることができる。また、黒鉛の平均粒径はレーザー回折法粒度分布法またはふるい分け法による測定値(メジアン径)で10〜1000μmが好ましい。かかる範囲であれば焼結性が低下せず、制動時の欠けや割れを抑制することができる。
炭素繊維としては、平均繊維長が0.1〜6.0mmであることが好ましく、0.1〜3.0mmがより好ましい。平均繊維長がかかる範囲であれば炭素繊維の引き抜き効果が大きく、摩擦材が欠けにくく、強度も保たれる。また平均直径が5〜20μmであることが好ましい。なお、炭素繊維は、原料の段階で上記繊維長のものを配合してもよいし、配合段階で混合条件等を適宜設定することにより上記範囲となるように調整してもよい。また、炭素繊維は束の状態よりも単繊維に解繊した状態で用いた方が、分散性の点で好ましい。
なお上記炭素材料は単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
また、上記炭素材料に炭化物系セラミックスは含まれない。
【0015】
炭素材料の摩擦材全体における含有量は40体積%以下が好ましく、30体積%以下がさらに好ましく、2〜20体積%がより好ましい。かかる範囲であれば耐摩耗性を向上できる。
また、炭素材料として黒鉛を用いる場合、含有量が多いほど耐摩耗性は向上する傾向にある一方でセラミックスの焼結性が低下する懸念がある。そのため、摩擦材を無加圧焼結により製造する場合は焼結密度の低下により黒鉛の含有量は制限され、2〜5体積%が好ましい。一方、加圧焼結により製造する場合は高密度の焼結体が得られるため、黒鉛の含有量は2〜30体積%とすることが可能となり、焼結性の低下を懸念することなく耐摩耗性を一層向上することができる。
【0016】
本発明の摩擦材はさらに、ケイ素、チタン、鉄、ニッケル等の金属(粉末)を含有してもよく、ケイ素、チタン及び鉄からなる群より選ばれる一種以上の金属を含有することが好ましい。金属を含有することで、摩擦材の潤滑性付与による耐摩耗性向上に有効である。添加する金属は、耐摩耗性改善効果が大きく、高融点かつ低環境負荷の観点から、ケイ素及びチタンが特に好ましい。なお、これらの金属は単体で添加し、セラミックス材料としての炭化ケイ素や炭化チタン、窒化ケイ素等の金属化合物とは区別される。
摩擦材における金属の含有量は1〜5体積%が好ましい。かかる範囲であれば耐摩耗性を向上しつつ摩擦係数及び摩擦材強度を良好に維持できる。
また、金属を添加すると耐摩耗性を向上できる一方でセラミックスの焼結性が低下する懸念があるため、加圧焼結により緻密化を図ることが好ましい。
【0017】
本発明の摩擦材は、本発明の効果を損なわない範囲で上記以外の配合成分として、スチール繊維等の金属繊維、炭化ケイ素繊維、Al−SiO系セラミック繊維、生体溶解性無機繊維等の無機繊維といった繊維基材、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、炭化チタン、窒化チタン、バーミキュライト、マイカ等の無機化合物、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、チタニア、酸化鉄、酸化スズ等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の固体潤滑材といった摩擦調整材等を含有してもよい。
【0018】
上記成分から構成される本発明の摩擦材は、密度が60%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。密度がかかる範囲であればセラミックス間の結合力が強化され、耐摩耗性、制動時の欠けや割れの抑制に優れた摩擦材を得ることができる。なおここでの密度とは、下記式から算出される相対密度である。
(焼結体密度/理論密度)×100=相対密度(%)
密度を上記範囲とするには、例えば、焼結温度を高める、または加圧焼結等の方法が挙げられる。
【0019】
<摩擦材の製造方法>
本発明の摩擦材は、上記のセラミックスの原料となる金属/無機化合物粉体と、炭素材料と、任意の配合成分とを所定量配合して原料粉末を調整する工程、成形工程、及び焼結工程を経て得ることができる。
【0020】
上記原料粉末を調整する工程は、例えば、セラミックスの原料となる金属/無機化合物粉体と炭素材料と配合成分とを、エタノール等の分散媒中でボールミルにより所定時間混合した後、乾燥して分散媒を除去し、ふるい目が100〜500μmの範囲のふるい等を用いて整粒する工程を順次含むことが好ましい。
また、上記セラミックスの原料となる金属/無機化合物粉体と炭素材料と配合成分とを混合する方法として、分散媒を使わずにサンプルミルにより所定時間乾式混合してもよい。
なお、各材料を混合する順序は特に限定されず、全ての材料を一度に混合してもよいし、セラミックス原料と炭素材料を混合・整粒した後に、金属や繊維基材等の任意成分を混合・整粒してもよい。
【0021】
上記成形工程及び焼結工程では、公知のセラミックスの成形方法及び焼結方法が適宜用いられる。
成形方法としては例えば、一軸加圧成形、CIP成形(冷間静水圧成形)等の乾式成形法が挙げられる。
一軸加圧成形とは、粉体調合物を金型中で一軸加圧を行うことにより成形体を得る方法である。CIP成形とは、顆粒等の粉体調合物、あるいはあらかじめほぼ所定の形状にされた予備成形体をゴム製の容器に入れて、それを静水圧で加圧することにより成形体を得る方法である。この方法は圧力を周囲から均等に加えるもので、一軸加圧成形より均一な成形体の製造に適する。
成形方法としては上記乾式成形法の他、射出成形、押出成形等の塑性成形法;泥漿鋳込み、加圧鋳込み、回転鋳込み等の鋳込み成形法;ドクターブレード法等のテープ成形法等も適用できる。
上記成形方法は単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。
【0022】
焼結方法としては、例えば、雰囲気焼結法、反応焼結法、常圧焼結法、熱プラズマ焼結法等が挙げられる。また、焼結温度及び焼結温度での保持時間はセラミックスの種類に応じて適宜設定することができ、通常1000〜2000℃、2〜6時間が好ましい。例えばジルコニアの場合は、1000〜1800℃、2〜4時間が好ましい。
【0023】
また、加圧しながら焼結を行うことも可能であり、かかる方法として、HP(ホットプレス)、HIP成形(熱間静水圧成形)及び放電プラズマ焼結法等の加圧焼結法を適用することもできる。また、HPとは一軸加圧成形しながら焼結を行う方法である。HIP成形とは静水圧で加圧しながら焼結を行う方法である。加圧焼結法は、得られる焼結体が上述のように高密度となる結果、耐摩耗性を付与する黒鉛の配合量を増大できる点で好ましい。焼結圧力、焼結温度及び焼結温度での保持時間はセラミックスの種類に応じて適宜設定することができ、通常10〜400MPa、1000〜2000℃、0.5〜6時間が好ましい。例えばジルコニアの場合は、10〜200MPa、1000〜1800℃、より好ましくは1000〜1400℃、0.5〜4時間が好ましい。
【0024】
なお、焼結は、セラミックスの種類や添加する材料の種類によって、大気中や、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で行ってもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガス等のような還元性ガス中で行ってもよい。また、真空中で行ってもよい。
【0025】
上記の工程を経て得られる焼結体を、必要に応じて切削、研削、研摩等の処理を施すことにより本発明の摩擦材が製造される。
【0026】
なお、本発明に係る摩擦材は乾式摩擦材、湿式摩擦材のいずれにも適用できる。
【実施例】
【0027】
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0028】
<実施例1〜3、比較例1(無加圧焼結)>
使用材料を下記に示す。
イットリア安定化ジルコニア:東ソー(株)製 TZ−3Y−E
鱗片状黒鉛:日本黒鉛(株)製 CB−150(平均粒径40μm)
易焼結性アルミナ:大明化学工業(株)製 TM−DAR(平均粒径0.1μm)
【0029】
実施例1
3mol%イットリア安定化ジルコニア347gと、鱗片状黒鉛2gとを、エタノール溶媒中で回転速度100rpmにて24時間ボールミル混合し、乾燥後、200μmのふるいを用いて整粒し原料粉を得た。原料粉150gを20MPaで一軸成形した後、245MPaでCIP成形を行い、アルゴン中1400℃で2時間焼結し、焼結体を得た。
【0030】
実施例2
3mol%イットリア安定化ジルコニア338g、鱗片状黒鉛12gを用いた以外は、実施例1と同様に焼結体を得た。
【0031】
実施例3
3mol%イットリア安定化ジルコニア285g、鱗片状黒鉛7g、易焼結性アルミナ58gを用いた以外は、実施例1と同様に焼結体を得た。
【0032】
比較例1
3mol%イットリア安定化ジルコニア150gを20MPaで一軸成形した後、245MPaでCIP成形を行い、アルゴン中1400℃で2時間焼結し、焼結体を得た。
【0033】
<物性評価>
1)相対密度(%)
(焼結体密度/理論密度)×100により、相対密度を求めた。
焼結体密度は得られた焼結体の重量と体積から算出し、理論密度は原材料の真密度と配合割合から算出した。
2)曲げ試験
焼結体から試験片(3×4×40mm)を作製し、JIS R 1601に準拠して試験を行った。
【0034】
<摩擦試験>
焼結体から試験片(13×15×35mm)を作製し、曙エンジニアリング(株)製フリクションアナライザー摩擦試験機により下記摩擦試験を実施した。
相手材:SGLカーボン製CMCロータ
初速度:50km/h
減速度:0.3G
制動温度:100℃
制動回数:200回
評価項目:平均摩擦係数、パッド摩耗量、ロータ摩耗量、制動時欠け・割れの有無(1:試験片破壊、2:試験片中央部の割れ、3:試験片端部の欠け大、4:試験片端部の欠け小、5:欠け無し)
【0035】
評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、実施例の試験片はいずれも強度及び摩擦試験において良好であることが分かる。また、鱗片状黒鉛を配合した実施例1及び実施例2はパッド摩耗量、ロータ摩耗量が減少した。さらに、アルミナと黒鉛を併用した実施例3は特に効果が大きく、焼結性の改善により相対密度が大きくなった。
【0038】
<実施例4〜20、比較例2(加圧焼結)>
使用材料を下記に示す。
イットリア安定化ジルコニア:東ソー(株)製 TZ−3Y−E
鱗片状黒鉛:日本黒鉛工業(株)製 CB−150(平均粒径40μm)
人造黒鉛A:新日本テクノカーボン(株)製 EG−1(平均粒径40μm)
人造黒鉛B:東海カーボン(株)製 G−152A(平均粒径500μm)
弾性黒鉛:Superior Graphite Co.製 RGC14A(平均粒径250μm)
炭素繊維:東邦テナックス(株)製 PAN繊維(3mmチョップ品)
【0039】
上記材料を表2に示す比率で配合したものをエタノール溶媒中で回転速度100rpmにて24時間ボールミル混合し、乾燥後、200μmのふるいを用いて整粒し原料粉を得た。原料粉をアルゴン中、焼結面圧20MPa、焼結温度1300℃、1150℃または1100℃、保持時間2時間の条件下でホットプレス成形した後、焼結体を得た。
【0040】
各焼結体について、実施例1と同様に物性評価及び摩擦試験を行った。結果を表2に示す。なお、実施例15、16、19及び20の各焼結体における炭素繊維の平均繊維長は、混合状態を光学顕微鏡で観察して、30本の平均値から0.1mmであることを確認した。
【0041】
【表2】

【0042】
表2より、実施例の試験片はいずれも強度及び摩擦試験において良好であることが分かる。比較例2と実施例4〜8との対比から、鱗片状黒鉛を配合することによりパッド摩耗量及びロータ摩耗量が低減し、さらに制動時の摩擦材の欠けを抑制する効果が確認された。また、実施例4〜8より、鱗片状黒鉛の配合量は20〜30体積%であれば摩耗量が最小となり好ましいことが分かる。
実施例9〜16、19及び20では炭素材料として他種の黒鉛又は炭素繊維を用いた。これらの結果から、人造黒鉛、弾性黒鉛ともに、同程度の鱗片状黒鉛を配合した場合と近い摩擦特性を示した。これより、物性及び摩擦特性に及ぼす効果は、黒鉛であればその形状を問わずほぼ同等に得られることが分かる。炭素繊維の場合も配合することで耐摩耗性の向上が確認された。
また、実施例7、17及び18の対比、ならびに実施例15、19及び20の対比から、焼結温度が1150〜1300℃(相対密度80%以上)であれば、摩擦係数や摩耗量は良好な結果となった。一方、実施例18や実施例20のように、焼結温度が低い(相対密度が80%を下回る)と、摩耗量が増加する。これより、焼結温度は1150℃以上(相対密度80%以上)が好ましいことが分かる。
【0043】
<実施例21〜26(金属添加、加圧焼結)>
使用材料を下記に示す。
イットリア安定化ジルコニア:東ソー(株)製 TZ−3Y−E
炭素繊維:東邦テナックス(株)製 PAN繊維(3mmチョップ品)
チタン:(株)高純度化学研究所製、粒径45μmパス
ケイ素:(株)高純度化学研究所製、粒径5μm
【0044】
上記材料のうち、ジルコニアと炭素繊維を表3に示す比率で配合したものをエタノール溶媒中で、回転速度400rpmにて60分間ボールミル混合し、乾燥後、200μmのふるいを用いて整粒した。ここに、チタン又はケイ素を表3に示す比率でさらに配合したものをエタノール溶媒中で回転速度100rpmにて24時間ボールミル混合し、乾燥後、200μmのふるいを用いて整粒し原料粉を得た。原料粉をアルゴン中、焼結面圧20MPa、焼結温度1300℃、保持時間2時間の条件下でホットプレス成形した後、焼結体を得た。
【0045】
各焼結体について、実施例1と同様に物性評価及び摩擦試験を行った。結果を表3に示す。なお、炭素繊維の平均繊維長は、混合状態を光学顕微鏡で観察して、30本の平均値から0.1mmであることを確認した。
【0046】
【表3】

【0047】
ジルコニアと炭素繊維が同組成で金属を配合しない実施例15と比較すると、チタンを配合した実施例21〜23及びケイ素を配合した実施例24〜26の摩擦材は、パッド摩耗量が低減された。また、金属の配合量とパッド摩耗量の関係を対比すると、ケイ素ではあまり変化がないが、チタンでは配合量の増加と共にパッド摩耗量が低減できた。
【0048】
<実施例27〜32、比較例3(加圧焼結)>
使用材料を下記に示す。
窒化ケイ素:電気化学工業(株)製 SN−9FWS(平均粒径0.7μm)
アルミナ(焼結助剤):大明化学工業(株)製 TM−DAR(平均粒径0.1μm)
イットリア(焼結助剤):シーアイ化成(株)製 NanoTek Y203(平均粒径29nm)
鱗片状黒鉛:日本黒鉛工業(株)製 CB−150(平均粒径40μm)
炭素繊維:東邦テナックス(株)製 PAN繊維(3mmチョップ品)
【0049】
上記材料を表4に示す比率で配合したものをエタノール溶媒中で回転速度100rpmにて24時間ボールミル混合し、乾燥後、200μmのふるいを用いて整粒し原料粉を得た。原料粉を窒素ガス中、焼結面圧20MPa、焼結温度1600℃、保持時間2時間の条件下でホットプレス成形した後、焼結体を得た。
【0050】
各焼結体について、実施例1と同様に物性評価及び摩擦試験を行った。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
炭素材料を含有しない比較例3の摩擦材はロータ摩耗量が格段に大きく、ロータ攻撃性が非常に高いが、実施例27〜32の摩擦材のように炭素繊維又は黒鉛を配合することでロータ攻撃性は大幅に改善されることが分かる。また、炭素材料を10体積%以上配合した実施例29、30及び32はほとんどロータが摩耗せず、ロータ攻撃性が非常に低い結果となった。
【0053】
<実施例33〜36(炭素繊維、加圧焼結)>
炭素繊維の繊維長や繊維状態を変えて摩擦材を作製した。使用材料を下記に示す。
イットリア安定化ジルコニア:東ソー(株)製 TZ−3Y−E
炭素繊維:東邦テナックス(株)製 PAN繊維(3mmチョップ品(実施例33、34、36)又は6mmチョップ品(実施例35))
【0054】
上記材料を表5に示す比率で配合したものを、表5に示す条件でサンプルミル混合し、原料粉を得た。原料粉をアルゴン中、焼結面圧20MPa、1300℃で2時間の条件下でホットプレス成形した後、焼結体を得た。
なお、炭素繊維の平均繊維長は、混合状態を光学顕微鏡で観察し、30本の平均値より算出し、表5に示した。また、繊維の状態は、光学顕微鏡で混合状態を観察し確認した。図1に実施例34で作成した摩擦材(焼結体)の、図2に実施例36で作成した摩擦材(焼結体)の、摩擦試験後の制動面を光学顕微鏡で観察した図をそれぞれ示す。図1では炭素繊維が解繊した状態、図2では束の状態が観察された。
【0055】
【表5】

【0056】
表5より、いずれの実施例も摩擦試験においては良好な結果を示した。実施例33〜35の対比より、炭素繊維の平均繊維長は長いほうが曲げ強度を大きいことが分かる。また、実施例34と36の対比より、炭素繊維は束の状態よりも解繊された状態の方が摩擦材の強度が大きく、摩耗試験の結果も良好である。これは繊維が解繊された状態の方が単繊維で存在しやすく、繊維が摩擦材中に埋まった状態で存在できるため、脱離しにくく、繊維の潤滑が効果的に発現され摩耗量の低減に効果的であるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の摩擦材は、高温・高負荷領域においても優れた耐熱性と強度を有しており、自動車、鉄道車両、各種産業機械等のディスクパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスをマトリックスとする摩擦材であって、炭素材料を含有する摩擦材。
【請求項2】
前記セラミックスが、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス及び炭化物系セラミックスからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記酸化物系セラミックスが、ジルコニア及びアルミナのうち少なくとも一方である請求項2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記窒化物系セラミックスが、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及びサイアロンからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項2に記載の摩擦材。
【請求項5】
前記炭化物系セラミックスが、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン及び炭化タングステンからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項2に記載の摩擦材。
【請求項6】
前記炭素材料が、黒鉛及び炭素繊維のうち少なくとも一方である請求項1〜5のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項7】
ケイ素、チタン及び鉄からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属をさらに含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の摩擦材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−100476(P2013−100476A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−214923(P2012−214923)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)