説明

排気バイパスバルブ

【課題】アクチュエータを大きくせずとも、大きな排圧のもとでも、排気バイパスバルブを確実に閉じることができる排気バイパスバルブを提供する。
【解決手段】排気バイパスバルブ40は、アーム42及びレバー43が閉じ側に回動するに従いレバー43のレバー長L2が長くなるように変化させることで、アーム42のレバー長L1に対するレバー43のレバー長L2の比であるレバー比(L1/L2)を可変とするレバー比可変機構50を備え、レバー比可変機構50は、アクチュエータに連結されたピン51と、レバー43に設けられ、ピン51が係合する円弧状のスリット52とを有し、アーム42及びレバー43が閉じ側に回動する際にピン51がスリット52に沿って回動軸44から離間する方向に移動することで、アーム42及びレバー43が閉じ側に回動するに従いレバー43のレバー長L2が長くなるように変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給器のタービンをバイパスする排気バイパス通路に配設される排気バイパスバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
排気バイパスバルブが用いられる二段過給エンジンは、一般的に図5に示すような回路となっている。
【0003】
この二段過給エンジン10では、図5に示すように、エンジン本体11の吸排気通路12、13に直列に高圧段ターボチャージャ(High-pressure turbocharger)21及び低圧段ターボチャージャ(Low-pressure turbocharger)22が配設され、高圧段ターボチャージャ21の高圧段タービン28をバイパスする高圧段側排気バイパス通路23に、排気バイパスバルブ40Xが配設されている。二段過給エンジン10では、低負荷から中負荷時は、排気バイパスバルブ40Xを閉じ、高圧段ターボチャージャ21を作動させ、中負荷から高負荷時は、排気バイパスバルブ40Xを開き、高圧段ターボチャージャ21を作動させないようにする。
【0004】
また、排気バイパスバルブは、一般的に図4に示すような構造となっている。
【0005】
この排気バイパスバルブ40Xは、図4に示すように、所謂フラップバルブであり、弁体41と、弁体41を保持するアーム42と、弁体41を着座させるための弁座(バルブシート)45とを有する。排気バイパスバルブ40Xは、図示しないアクチュエータにより駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−203835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジンのダウンサイジング(小型化)が進み過給圧が上がってくると、排気圧(排気マニホールド内のガス圧)Peも高圧になる。そのため、排気バイパスバルブを閉じる荷重が高くなり、非常に大きなアクチュエータが必要となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、アクチュエータを大きくせずとも、大きな排圧のもとでも、排気バイパスバルブを確実に閉じることができる排気バイパスバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明は、過給器のタービンをバイパスする排気バイパス通路と、前記排気バイパス通路を開閉する弁体と、前記弁体を保持するアームと、アクチュエータに連結されたレバーと、前記アーム及び前記レバーが固定された回動軸とを備えた排気バイパスバルブにおいて、前記アーム及び前記レバーが閉じ側に回動するに従い前記レバーのレバー長が長くなるように変化させることで、前記アームのレバー長に対する前記レバーのレバー長の比であるレバー比を可変とするレバー比可変機構を備え、前記レバー比可変機構は、前記アクチュエータに連結されたピンと、前記レバーに設けられ、前記ピンが係合する円弧状のスリットとを有し、前記アーム及び前記レバーが閉じ側に回動する際に前記ピンが前記スリットに沿って前記回動軸から離間する方向に移動することで、前記アーム及び前記レバーが閉じ側に回動するに従い前記レバーのレバー長が長くなるように変化させるものである。
【0010】
前記レバー比可変機構は、前記レバーと前記ピンとの間に介設され、前記ピンを前記回動軸に近接する方向に付勢するリターンスプリングをさらに有するものであっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アクチュエータを大きくせずとも、大きな排圧のもとでも、排気バイパスバルブを確実に閉じることができる排気バイパスバルブを提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る排気バイパスバルブを示し、(a)は側面図であり、(b)は平面図であり、(c)は作動を示す図である。
【図2】レバーの作動角に対するレバー比の変化を示す図である。
【図3】バルブリフトに対する荷重の変化を示す図である。
【図4】排気バイパスバルブの側断面図である。
【図5】二段過給エンジンの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0014】
図5に本実施形態に係る排気バイパスバルブが用いられる二段過給エンジンを示す。
【0015】
図5に示すように、二段過給エンジン10は、エンジン本体11と、エンジン本体11に吸気を供給する吸気通路(吸気管)12と、エンジン本体11からの排気を排出する排気通路(排気管)13と、排気通路13の排気の一部を吸気通路12に戻すEGR装置14と、エンジン本体11に供給する吸気を昇圧するための二段過給システム15とを備える。
【0016】
二段過給エンジン10は、エンジン本体11に複数のシリンダ(燃焼室)16が形成された多気筒エンジン(本実施形態では、四気筒のディーゼルエンジン)であり、シリンダ16が、吸気通路12の下流端をなす吸気マニホールド17と、排気通路13の上流端をなす排気マニホールド18とに接続される。
【0017】
EGR装置14は、排気通路13と吸気通路12とを接続するEGR通路(EGR管)19と、EGR通路19に設けられたEGRバルブ20とを備える。
【0018】
二段過給システム15は、エンジン本体11の吸排気通路12、13に直列に設けられた高圧段ターボチャージャ21及び低圧段ターボチャージャ22と、高圧段ターボチャージャ21の後述する高圧段タービン28をバイパスする高圧段側排気バイパス通路(高圧段側排気バイパス管)23と、高圧段側排気バイパス通路23を開閉して低圧段ターボチャージャ22のみによる一段過給と高圧段ターボチャージャ21及び低圧段ターボチャージャ22による二段過給とを切り換えるための排気バイパスバルブ40と、高圧段ターボチャージャ21の後述する高圧段コンプレッサ29をバイパスする吸気バイパス通路(吸気バイパス管)24と、吸気バイパス通路24を開閉する吸気バイパスバルブ25と、低圧段ターボチャージャ22の後述する低圧段タービン30をバイパスする低圧段側排気バイパス通路(低圧段側排気バイパス管)26と、低圧段側排気バイパス通路26を開閉するウェイストゲートバルブ27とを有する。
【0019】
なお、高圧段ターボチャージャ21、高圧段タービン28及び高圧段側排気バイパス通路23がそれぞれ、本発明の「過給器」、「タービン」及び「排気バイパス通路」を構成する。
【0020】
高圧段ターボチャージャ21は、排気通路13に配設された高圧段タービン28と、吸気通路12に配設された高圧段コンプレッサ29とを有する。また、高圧段ターボチャージャ21は、低圧段ターボチャージャ22よりも小さな容量を有する。
【0021】
低圧段ターボチャージャ22は、高圧段タービン28よりも下流側の排気通路13に配設された低圧段タービン30と、高圧段コンプレッサ29よりも上流側の吸気通路12に配設された低圧段コンプレッサ31とを有する。また、低圧段ターボチャージャ22は、高圧段ターボチャージャ21よりも大きな容量を有する。
【0022】
高圧段コンプレッサ29の下流の吸気通路12には、高圧段コンプレッサ29(又は低圧段コンプレッサ31)で過給された吸気を冷却するためのインタークーラ32が設けられる。
【0023】
高圧段側排気バイパス通路23は、高圧段タービン28の上流と下流とを連通する。本実施形態では、高圧段側排気バイパス通路23の上流端が排気マニホールド18に接続され、下流端が高圧段タービン28と低圧段タービン30との間の排気通路13に接続される。
【0024】
吸気バイパス通路24は、高圧段コンプレッサ29の上流と下流とを連通する。本実施形態では、吸気バイパス通路24の上流端が低圧段コンプレッサ31と高圧段コンプレッサ29との間の吸気通路12に接続され、下流端が高圧段コンプレッサ29とインタークーラ32との間の吸気通路12に接続される。
【0025】
低圧段側排気バイパス通路26は、低圧段タービン30の上流と下流とを連通する。本実施形態では、低圧段側排気バイパス通路26の上流端が高圧段タービン28と低圧段タービン30との間の排気通路13に接続され、下流端が低圧段タービン30の下流側の排気通路13に接続される。
【0026】
係る二段過給エンジン10では、低負荷から中負荷時は、排気バイパスバルブ40を閉じ、高圧段ターボチャージャ21を作動させ、中負荷から高負荷時は、排気バイパスバルブ40を開き、高圧段ターボチャージャ21を作動させないようにする。
【0027】
図4に排気バイパスバルブの基本構造を示す。
【0028】
図4に示すように、排気バイパスバルブ40は、所謂フラップバルブ(flap valve)であり、弁体41と、弁体41を保持するアーム42と、アクチュエータ(例えば、ダイヤフラムアクチュエータ)のシャフト47に連結されたレバー43(図1(a)参照)と、アーム42とレバー43とが固定された回動可能な回動軸44とを有し、アーム42が回動軸44を支点に回動して弁体41が高圧段側排気バイパス通路23を開閉するように構成される。また、高圧段側排気バイパス通路23には、弁体41を着座させるための弁座(バルブシート)45が配設される。さらに、高圧段側排気バイパス通路(高圧段側排気バイパス管)23と排気マニホールド18との間には、ガスケット46が介設される。
【0029】
より詳細には、排気バイパスバルブ40においては、弁体41が弁座45に着座した状態(高圧段側排気バイパス通路23が閉塞された状態)から、アーム42が図4において反時計回りに回動すると、弁体41が弁座45から離間し、高圧段側排気バイパス通路23が開放される。一方、弁体41が弁座45から離間した状態(高圧段側排気バイパス通路23が開放された状態)から、アーム42が図4において時計回りに回動すると、弁体41が弁座45に着座し、高圧段側排気バイパス通路23が閉塞される。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る排気バイパスバルブ40は、アーム42のレバー長L1に対するレバー43のレバー長L2の比であるレバー比(L1/L2)を可変とするレバー比可変機構50を備えたものである。
【0031】
より詳細には、本実施形態では、レバー比可変機構50により、アーム42のレバー長L1を一定(固定)とする一方、アーム42及びレバー43が閉じ側(排気上流側)に回動するに従いレバー43のレバー長L2がL2minからL2maxまで連続的に長くなるように変化させることで、レバー比(L1/L2)を連続的に可変としたものである。
【0032】
ここで、アーム42のレバー長L1とは、アーム42における弁体41との連結部中心から回動軸44の回転中心までの長さであり、レバー43のレバー長L2とは、レバー43における回動軸44の回転中心から後述するピン51の回転中心(又は、シャフト47との連結部中心)までの長さである(図1(a)参照)。
【0033】
レバー比可変機構50は、アクチュエータのシャフト47に連結されたピン51と、レバー43に設けられ、ピン51が係合する円弧状のスリット52と、レバー43とピン51との間に介設され、ピン43を回動軸44に近接する方向(図1中において左側)に付勢するリターンスプリング(図例では、コイルスプリング)53とを有する。
【0034】
ピン51の一端部がスリット52に沿って移動可能にレバー43に装着されており、他端部にアクチュエータのシャフト47が係合される。レバー43が平面視でL字状に形成されており(図1(b)参照)、レバー43の長辺部に回動軸44が固定されると共にスリット52が設けられており、短辺部にリターンスプリング53が固定されている。また、スリット52は、アクチュエータが配設されている側に凸となる円弧状に形成される。なお、図1(b)中の符号54は、ピン51の他端部に設けられた、アクチュエータでレバー43を引っ張るための穴(即ち、シャフト47との係合のための穴)を示す。
【0035】
図1(a)及び(c)において、アクチュエータ(シャフト47)によりレバー43を引っ張り方向に引っ張ると、排気バイパスバルブ40は閉じていく。その際、図1(c)に示すように、レバー43が閉じ側に回動すると共に、ピン51がレバー43に設けたスリット52に沿って、回動軸44から離間する方向(図1中において右側)に移動していく。引っ張り力の分力によりピン51がスリット52の斜面方向に移動するためである。このことにより、レバー比(L1/L2)が刻々と図2に示すように変わり、順次小さくなっていく。
【0036】
一方、排気バイパスバルブ40が閉じた状態において、アクチュエータ(シャフト47)によりレバー43を引っ張り方向と逆方向に押していくと、排気バイパスバルブ40は開いていく。その際、図1(c)に示すように、レバー43が開き側に回動すると共に、ピン51は押し力の分力によりレバー43に設けたスリット52に沿って回動軸44から離間する方向(図1中において右側)に移動しようとする。しかしながら、そのピン51の動きはリターンスプリング53によりキャンセルされ、ピン51は回動軸44に近接する方向(図1中において左側)に移動し、図1(a)に示す元の位置に戻る。このことにより、レバー比(L1/L2)が刻々と図2に示すように変わり、順次大きくなっていく。
【0037】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0038】
排気バイパスバルブ40を閉じるのに必要な荷重は、弁体41が弁座45に着座する近辺から急激に増える。即ち、排気バイパスバルブ40が開いているとき(つまり、弁体41が弁座45から離間した状態)は、ポート圧(弁体41よりも下流の高圧段側排気バイパス通路23内のガス圧)Ppと排気圧(排気マニホールド18内のガス圧)Peとが等しい状態(Pp=Pe)であるので、弁体41は低い荷重で閉じ側(排気上流側)へ閉じていく。弁体41が徐々に閉じてきて、弁体41と弁座45との隙間が狭くなってくると、ポート圧Ppが排気圧Peよりも低い状態(Pp<Pe)となる。そのため、弁体41の着座手前から着座までは、弁体41の全開から着座手前までと比べて、排気バイパスバルブ40を閉じるのに高い荷重が必要となる。
【0039】
また、レバー43のレバー長L2を長くし、レバー比(L1/L2)を小さくすれば、アクチュエータを大きくせずとも、排気バイパスバルブ40を確実に閉じることはできる。しかし、同じアクチュエータの作動距離では、排気バイパスバルブ40の開き角α(図4参照)が小さくなり、その開き角αでの通気抵抗が増えてしまう。
【0040】
よって、「全開〜中間〜着座手前」(図3のグラフの範囲〔1〕)では、レバー比(L1/L2)を大きくし、「着座手前〜着座」(図3のグラフの範囲〔2〕)では、レバー比(L1/L2)を小さくすると、排気バイパスバルブ40のバルブリフトも大きく、アクチュエータを大きくせずとも排気バイパスバルブ40を確実に閉じることができる。そのため、排気バイパスバルブ40の閉じ力及び開き角αを共に充分に確保することができる。
【0041】
以上要するに本実施形態に係る排気バイパスバルブ40によれば、レバー43のレバー長L2を閉じ側に回動するに従い長くなるように変化させることで、レバー比(L1/L2)を可変としたことで、アクチュエータを大きくせずとも、大きな排圧のもとでも、排気バイパスバルブ40を確実に閉じることができる。しかも、排気バイパスバルブ40の開き角αも充分に確保できる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【符号の説明】
【0043】
21 高圧段ターボチャージャ(過給器)
23 高圧段側排気バイパス通路(排気バイパス通路)
28 高圧段タービン(タービン)
40 排気バイパスバルブ
41 弁体
42 アーム
43 レバー
44 回動軸
50 レバー比可変機構
51 ピン
52 スリット
53 リターンスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給器のタービンをバイパスする排気バイパス通路と、前記排気バイパス通路を開閉する弁体と、前記弁体を保持するアームと、アクチュエータに連結されたレバーと、前記アーム及び前記レバーが固定された回動軸とを備えた排気バイパスバルブにおいて、
前記アーム及び前記レバーが閉じ側に回動するに従い前記レバーのレバー長が長くなるように変化させることで、前記アームのレバー長に対する前記レバーのレバー長の比であるレバー比を可変とするレバー比可変機構を備え、
前記レバー比可変機構は、前記アクチュエータに連結されたピンと、前記レバーに設けられ、前記ピンが係合する円弧状のスリットとを有し、前記アーム及び前記レバーが閉じ側に回動する際に前記ピンが前記スリットに沿って前記回動軸から離間する方向に移動することで、前記アーム及び前記レバーが閉じ側に回動するに従い前記レバーのレバー長が長くなるように変化させることを特徴とする排気バイパスバルブ。
【請求項2】
前記レバー比可変機構は、前記レバーと前記ピンとの間に介設され、前記ピンを前記回動軸に近接する方向に付勢するリターンスプリングをさらに有する請求項1に記載の排気バイパスバルブ。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68202(P2013−68202A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209039(P2011−209039)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】