説明

懸架装置

【課題】 車体側軸受の摺動面を潤滑可能な懸架装置の改良に関し、コスト高となることを防止する。
【解決手段】 車体側のアウターチューブ1とアウターチューブ1内に移動可能に挿入される車輪側のインナーチューブ2とからなる懸架装置本体Fと、懸架装置本体F内に形成されて作動流体を収容する液室R1と、インナーチューブ2に保持されてアウターチューブ1の内周面に摺接する車体側軸受3と、上記アウターチューブ1に保持されてインナーチューブ2の外周面に摺接する車輪側軸受4と、車体側軸受3と車輪側軸受3の間に形成される筒状隙間Tとを備える懸架装置において、インナーチューブ2に形成されて常に筒状隙間Tと液室R1を連通する連通孔21と、連通孔21よりも内部側に配置され筒状隙間Tが縮小するとき筒状隙間Tと液室R1の連通を許容すると共に筒状隙間Tが拡大するとき筒状隙間Tと液室Lの連通を阻止するチェック弁5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、懸架装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車や自動二輪車等の輸送機器において、車体と車輪との間に懸架装置を介装し、この懸架装置で路面凹凸による衝撃が車体に伝達されることを抑制している。
【0003】
例えば、特許文献1に開示の懸架装置は、図6に示すように、自動二輪車の前輪を懸架するフロントフォークであり、車体側に連結されるアウターチューブ1と、車輪側に連結されてアウターチューブ1内に移動可能に挿入されるインナーチューブ2とからなる懸架装置本体Fを備えて伸縮可能となっている。
【0004】
また、アウターチューブ1とインナーチューブ2の重複部の間には、インナーチューブ2に保持されてアウターチューブ1の内周面に摺接する車体側軸受3と、アウターチューブ1に保持されてインナーチューブ2の外周面に摺接する車輪側軸受4とが配置されており、これら軸受3,4の間に筒状隙間Tが形成されている。そして、この筒状隙間T内には、各軸受3,4の摺動面を潤滑するための作動流体が収容されている。
【0005】
また、上記懸架装置本体F内には、懸架装置本体Fの伸縮に伴い所定の減衰力を発生するダンパDが収容される。このダンパDは、作動流体が収容されるシリンダ7と、このシリンダ7内に軸方向に移動可能に挿入されるロッド8と、上記シリンダ7の車体側開口(図6中上側開口)を塞ぐとともに上記ロッド8を軸支するロッドガイド90とを備える。
【0006】
さらに、上記懸架装置本体F内には、上記ダンパDの外側にリザーバRが形成されている。このリザーバRは、作動流体を収容する液室R1と、この液室R1の液面Oを介して上側に形成され気体を収容する気室R2とからなり、シリンダ7内に出没するロッド体積分のシリンダ内容積変化を補償する。
【0007】
そして、上記液室R1は、図7に示すように、上記ロッドガイド90の外周部90aで上下の液室R10,R11に区画されており、これら上下の液室R10,R11は、上記ロッドガイド90に形成される貫通孔91を介して連通している。
【0008】
また、インナーチューブ2には、ロッドガイド90の外周面とインナーチューブ2の内周面との間に形成された流路L10と対向するとともに、上記筒状隙間Tと常に対向する位置に連通孔21が形成されており、上記下側の液室R11は、上記流路L10及び上記連通孔21を介して筒状隙間Tと連通可能である。
【0009】
また、上記流路L10の図7中上側は、シール92で塞がれており、流路L10が上側の液室R10と直接連通しないようになっている。他方、上記流路L10の図7中下側は、上記ロッドガイド90の外周面に断面コ字状に形成された環状溝90bに遊嵌される環状のチェック弁5Aで開閉可能に塞がれている。
【0010】
そして、上記チェック弁5Aは、上記インナーチューブ2の内周面に摺接する。また、上記チェック弁5Aの内部側面(図7中上面)には、径方向に切欠き51が形成されている。
【0011】
上記構成を備えることにより、フロントフォークの伸長時において、車体側軸受3と車輪側軸受4とが接近すると、筒状隙間Tとともに流路L10が加圧されてチェック弁5Aが閉じる。このため、筒状隙間T内の作動流体が車体側軸受3とアウターチューブ1との間を通過してリザーバRへ移動する。
【0012】
他方、フロントフォークの圧縮時において、車体側軸受3と車輪側軸受4とが離間すると、筒状隙間Tとともに流路L10が減圧されて、チェック弁5Aが開く。このため、下側の液室R11内の作動流体が流路L10及び連通孔21を介して筒状隙間T内に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平4−312221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、従来のフロントフォーク等の懸架装置は、上記構成を備えることにより、懸架装置の伸長時において車体側軸受3の摺動面を潤滑して懸架装置本体Fを円滑に伸縮させることが可能となる点において有用であるが、以下の改善を求められている。
【0015】
即ち、上記従来の形態において、懸架装置本体F内に形成される液室R1と筒状隙間Tとを連通する連通孔21は、ロッドガイド90の外側に形成される流路L10と対向し、且つ、車体側軸受3と車輪側軸受4との間に配置される必要がある。
【0016】
しかし、インナーチューブ2に孔を開穿して連通孔21を形成すると、その部分の強度が低下するため、連通孔21近傍を避けてインナーチューブ2を車輪側軸受4で軸支することが求められる。
【0017】
したがって、従来の形態においては、車輪側軸受4と連通孔21とが最も接近する懸架装置の最伸長時においても、車輪側軸受4と連通孔21との距離を充分にとるため、シリンダ7を延ばしてロッドガイド90を車体側(図6中上側)に移動させなければならず、コスト高となる。
【0018】
そこで、本発明の目的は、車体側軸受3の摺動面を潤滑することが可能であって、懸架装置の最伸長時において車輪側軸受4と連通孔21との距離を充分にとってもコスト高とならない懸架装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するための手段は、車体側に配置されるアウターチューブと車輪側に配置されて上記アウターチューブ内に移動可能に挿入されるインナーチューブとからなる懸架装置本体と、この懸架装置本体内に形成されて作動流体を収容する液室と、上記インナーチューブの車体側端部に保持されて上記アウターチューブの内周面に摺接する車体側軸受と、上記アウターチューブの車輪側端部に保持されて上記インナーチューブの外周面に摺接する車輪側軸受と、上記車体側軸受と上記車輪側軸受の間に形成される筒状隙間とを備える懸架装置において、上記インナーチューブに形成されて常に上記筒状隙間と上記液室とを連通する連通孔と、この連通孔よりも内部側に配置されて上記筒状隙間が縮小するときこの筒状隙間と上記液室の連通を許容すると共に上記筒状隙間が拡大するときこの筒状隙間と上記液室の連通を阻止するチェック弁とを備えることである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シリンダの長さやロッドガイドの位置と関係なく車体側軸受の摺動面を潤滑することができる。したがって、懸架装置の最伸長時において車輪側軸受と連通孔との距離を充分にとってもコスト高とならない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークの主要部を部分的に切り欠いて示す正面図である。
【図2】図1のチェック弁周辺部を拡大し、正面側から見た縦断面図である。
【図3】本発明の第二の実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークのチェック弁周辺部を拡大し、正面側から見た縦断面図である。
【図4】本発明の第三の実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークのチェック弁周辺部を拡大し、正面側から見た縦断面図である。
【図5】本発明の第一の実施の形態(図2)の変形例を示し、この変形例に係る懸架装置たるフロントフォークのチェック弁周辺部を拡大し、正面側から見た縦断面図である。
【図6】従来の懸架装置たるフロントフォークの主要部を部分的に切り欠いて示す正面図である。
【図7】図6のチェック弁周辺部を拡大し、正面側から見た縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の第一の実施の形態に係る懸架装置について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0023】
本実施の形態に係る懸架装置は、図1に示すように、車体側(図1中上側)に配置されるアウターチューブ1と車輪側(図1中下側)に配置されて上記アウターチューブ1内に移動可能に挿入されるインナーチューブ2とからなる懸架装置本体Fと、この懸架装置本体F内に形成されて作動流体を収容する液室R1と、上記インナーチューブ2の車体側端部20に保持されて上記アウターチューブ1の内周面に摺接する車体側軸受3と、上記アウターチューブ1の車輪側端部10に保持されて上記インナーチューブ2の外周面に摺接する車輪側軸受4と、上記車体側軸受3と上記車輪側軸受4の間に形成される筒状隙間Tとを備える。
【0024】
さらに、本実施の形態に係る懸架装置は、上記インナーチューブ2に形成されて常に上記筒状隙間Tと上記液室R1とを連通する連通孔21と、この連通孔21よりも内部側(図1中上側)に配置されて上記筒状隙間Tが縮小するときこの筒状隙間Tと上記液室R1の連通を許容すると共に上記筒状隙間Tが拡大するときこの筒状隙間Tと上記液室R1の連通を阻止するチェック弁5とを備える。
【0025】
以下、詳細に説明すると、本実施の形態に係る懸架装置は、自動二輪車の前輪を懸架するフロントフォークである。そして、アウターチューブ1が図示しない車体側ブラケットを介して自動二輪車のステアリングシャフトに連結され、インナーチューブ2が図示しない車輪側ブラケットを介して前輪の車軸に連結されている。
【0026】
また、アウターチューブ1とインナーチューブ2とからなる懸架装置本体Fは、図1中上側となる車体側の開口をアウターチューブ1に取り付けられるキャップ部材6で塞がれており、図1中下側となる車輪側の開口をインナーチューブ2に取り付けられる上記図示しない車輪側ブラケットで塞がれている。
【0027】
さらに、この懸架装置本体F内には、懸架ばねSとダンパDが収容されており、上記ダンパDの外側にリザーバRが形成されている。このリザーバRは、作動流体を収容する液室R1と、この液室R1の液面Oを介して上側に形成され上記懸架装置本体Fの圧縮時に反力を発生する気体を収容する気室R2とからなる。尚、本実施の形態において、リザーバRに収容される上記作動流体は油であり、上記気体は窒素等の不活性ガスである。
【0028】
つづいて、懸架装置本体F内に収容される上記懸架ばねSは、コイルスプリングからなり、フロントフォークを常に伸長方向に附勢して車体を弾性支持する。そして、フロントフォークは、この懸架ばねSを備えることにより、路面凹凸による衝撃を吸収することができる。
【0029】
また、上記懸架ばねSとともに懸架装置本体F内に収容されるダンパDは、上記懸架ばねSと並列に配置されている。尚、このダンパDの構成は、周知であるため、詳細に図示しないが、上記インナーチューブ2の軸心部に起立してインナーチューブ側に固定されるシリンダ7と、キャップ部材6に垂設されてフロントフォークの伸縮に伴い上記シリンダ7内を軸方向に移動するロッド8と、上記シリンダ7の車体側開口(図1中上側開口)を塞ぐとともに上記ロッド8を軸支する環状のロッドガイド9とを備える。
【0030】
そして、上記シリンダ7内は、上記ロッド8の先端に保持されて上記シリンダ7の内周面に摺接する図示しないピストンで二つの部屋に区画されており、これらの部屋には作動流体が充填されている。また、図1中上側の部屋を一方室、図1中下側の部屋を他方室とすると、他方室は、シリンダ7のボトム部(図1中下部)に取り付けられる図示しないベース部材で液室R1と区画されている。
【0031】
さらに、上記一方室と上記他方室は、図示しないピストンに形成される流路を介して連通するとともに、上記他方室と上記液室R1は、同じく図示しないベース部材に形成される流路を介して連通している。
【0032】
これにより、ピストンが図1中上側に移動するフロントフォークの伸長時には一方室が加圧され、一方室の作動流体がピストンの流路を介して他方室に移動し、シリンダ7から退出したロッド体積分の作動流体がベース部材の流路を介して液室R1から他方室に移動する。
【0033】
他方、ピストンが図1中下側に移動するフロントフォークの圧縮時には他方室が加圧され、他方室の作動流体がピストンの流路を介して一方室に移動し、シリンダ7内に進入したロッド体積分の作動流体がベース部材の流路を介して他方室から液室R1に移動する。
【0034】
さらに、ダンパDは、上記ピストン及び上記ベース部材に形成される各流路を通過する作動流体に所定の抵抗を与えるリーフバルブやオリフィス等、周知の減衰力発生手段(図示せず)を備えており、上記各流路を作動流体が通過する際の抵抗に起因する減衰力を発生して懸架ばねSの衝撃吸収に伴うフロントフォークの伸縮運動を抑制する。
【0035】
つづいて、アウターチューブ1とインナーチューブ2の重複部の間には、インナーチューブ2の車体側端部20に保持されてアウターチューブ1の内周面に摺接する車体側軸受3と、アウターチューブ1の車輪側端部10に保持されてインナーチューブ2の外周面に摺接する車輪側軸受4とが配置されており、これら軸受3,4の間に作動流体を収容する筒状隙間Tが形成されている。
【0036】
また、上記アウターチューブ1の車輪側端部10内周には、上記車輪側軸受4よりも図1中下側となる外気側(車輪側)に、インナーチューブ2の外周面に摺接する環状のオイルシールC1及びダストシールC2が直列に取り付けられており、上記筒状隙間T内の作動流体の流出を阻止している。
【0037】
また、インナーチューブ2の車体側端部20外周には、上記車体側軸受3よりも図1中上側となる内部側(車体側)に環状溝22が形成されている。この環状溝22は、図2に示すように、環状の外気側面22aと、この外気側面22aの内周端から起立する垂直面22bと、上記外気側面22aと対向し内周端が上記垂直面22bと連なる環状の内部側面22cとからなり、断面コ字状に形成される。
【0038】
さらに、上記環状溝22の外側には、環状のチェック弁5がアウターチューブ1の内周面に摺接しながら遊嵌されており、チェック弁5の内周面と環状溝22の垂直面22bとの間に筒状流路Lが形成される。また、上記チェック弁5は、図2中上側となる内部側面22c側に径方向に形成される切欠き50を有しており、チェック弁5が環状溝22の外気側面22aに当接したとき、筒状隙間TとリザーバRとの連通を阻止し、チェック弁5が外気側面22aから離れたとき、筒状隙間TとリザーバRとの連通を許容する。
【0039】
また、上記インナーチューブ2には、常に筒状隙間Tと対向するとともに、常に液室R1内に配置される位置に連通孔21が設けられている。これにより、上記連通孔21は、筒状隙間Tと液室R1とを常に連通する。
【0040】
次に、本実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークの作用効果について説明する。アウターチューブ1からインナーチューブ2が退出するフロントフォークの伸長時には、車体側軸受3と車輪側軸受4が接近して筒状隙間Tが加圧される。このとき、図2に示すように、チェック弁5は、環状溝22の外気側面22aから離れて筒状隙間TとリザーバRを連通する。
【0041】
これにより、筒状隙間T内の作動流体は、連通孔21を通過して液室R1に移動するとともに、車体側軸受3とアウターチューブ1の間、筒状流路L、切欠き50、気室R2を通過して液室R1に移動する。
【0042】
他方、アウターチューブ1内にインナーチューブ2が進入するフロントフォークの圧縮時には、車体側軸受3と車輪側軸受4が離間して筒状隙間Tが減圧される。このとき、図示しないが、チェック弁5は、環状溝22の外気側面22aに当接して筒状隙間TとリザーバRの連通を阻止する。
【0043】
これにより、筒状隙間T内の作動流体の液面がチェック弁5の位置に維持された状態で、液室R1の作動流体が連通孔21を介して筒状隙間Tに吸い上げられるように移動する。
【0044】
つまり、本実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークは、伸長時に車体側軸受3の摺動面を潤滑するとともに、圧縮時に筒状隙間T内の作動流体の液面が低下することを阻止して、懸架装置本体Fを円滑に伸縮させることが可能となる。
【0045】
また、本実施の形態において、筒状隙間Tと液室R1を常に連通する連通孔21は、常に液室R1内にあるように配置されていれば良く、シリンダ7の長さやロッドガイド9の位置に関係なく連通孔21を配置することができることから、フロントフォークの最伸長時における車輪側軸受4と連通孔21との距離を充分にとってもコスト高とならない。
【0046】
また、特に本実施の形態や、従来の形態のフロントフォークのように、懸架装置本体F内に懸架ばねSを収容する懸架装置において、懸架ばねSは、シリンダ7とキャップ部材6との間に配置されるため、図6及び図7に示す従来の形態のようにシリンダ7を延ばすと懸架ばねSを収容するためのスペースが小さくなる。
【0047】
これにより、従来の形態においては、懸架ばねSの設計が困難となったり、懸架ばねSの車体側端(図中上端)を支持するばねケース60が短くなって異音の発生の原因となったりする不具合があるが、本実施の形態においてはシリンダ7を延ばす必要がないため、懸架ばねSの設計自由度を高くするとともに、ばねケース60の長さを確保することが可能となる。
【0048】
さらに、従来の形態においては、チェック弁5Aやシール92を配置するため、ロッドガイド90とインナーチューブ2との間隔を小さくすることが必要とされたが、本発明によれば、ロッドガイド9の位置と関係なく連通孔21を配置できるため、ロッドガイド9とインナーチューブ2との間隔を従来よりも広くすることができ、また、ロッドガイド9の構造を複雑化させることがない。
【0049】
また、本実施の形態においては、チェック弁5を取り付けるための新たな部材を設けることなく、インナーチューブ2にチェック弁5を取り付けたことにより、懸架装置の部品数を少なくすることが可能となる。
【0050】
また、本実施の形態においては、チェック弁5が環状に形成されるとともに、内部側面(図2中上面)に切欠き50を有し、インナーチューブ2の外周面に形成される断面コ字状の環状溝22取り付けられることから、チェック弁5の構成及びチェック弁5を取り付けるための構成を簡易にすることができる。
【0051】
次に、本発明の第二の実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークについて図3を参照しながら説明する。この実施の形態は、上記第一の実施の形態とチェック弁を設ける位置が異なるとともに、これに付随してチェック弁周辺部の構成が異なるが、基本的な構成は上記第一の実施の形態と同様である。
【0052】
したがって、ここでは第一の実施の形態と異なる部分についてのみ説明し、図3において省略する第一の実施の形態と同様の構成についての詳細な説明及び図面は、上記第一の実施の形態の説明及び図1,2を参照するものとして省略する。
【0053】
本実施の形態において、インナーチューブ2の車体側端部20先端は、アウターチューブ1の内周面に摺接しており、筒状隙間Tと車体側軸受3の摺動面を介して連通する隙間L1の図3中上側となる内部側開口を塞いでいる。
【0054】
また、インナーチューブ2の内周面には、上記隙間L1と対応する位置に環状溝23が形成され、この環状溝23に環状のチェック弁500が取り付けられている。上記環状溝23は、環状の外気側面23aと、この外気側面23aの外周端から起立する垂直面23bと、上記外気側面23aと対向し外周端が上記垂直面23bと連なる環状の内部側面23cとからなり、断面コ字状に形成される。
【0055】
さらに、インナーチューブ2には、上記環状溝23からインナーチューブ2の外側に貫通し上記隙間L1に連通する通孔2aが形成されている。
【0056】
そして、上記チェック弁500の内部側(図3中上側)外周面は、環状溝23の垂直面23bに摺接しており、上記チェック弁500の外気側(図3中下側)外周面には、上記通孔2aと対向する位置に切欠き501が形成されている。
【0057】
また、上記チェック弁500の外気側内周部の端面502は、環状に形成されており、上記環状溝23の外気側面23aに当接したとき上記通孔2aとリザーバRとの連通を妨げるようになっている。
【0058】
上記構成を備えることにより、本実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークの伸長時には、両軸受3,4が接近することにより、筒状隙間Tとともに隙間L1が加圧されて、図3に示すように、チェック弁500が図3中上側となる内部側に移動して環状溝23の外気側面23aから離れる。
【0059】
他方、フロントフォークの圧縮時には、両軸受3,4が離間することにより、筒状隙間Tと隙間L1の圧力が低下し、チェック弁500が図3中下側となる外気側に移動して環状溝23の外気側面23aに当接する。
【0060】
つまり、本実施の形態におけるチェック弁500も一実施の形態のチェック弁5と同様に、筒状隙間Tが縮小するとき筒状隙間Tと液室R1の連通を許容するとともに筒状隙間Tが拡大するとき筒状隙間Tと液室R1の連通を阻止する。
【0061】
これにより、本実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークも、一実施の形態と同様に、伸長時に車体側軸受3の摺動面を潤滑するとともに、圧縮時に筒状隙間T内の液面が低下することを阻止して、懸架装置本体Fを円滑に伸縮させることが可能となる。
【0062】
また、本実施の形態においても、筒状隙間Tと液室R1を常に連通する連通孔21は、常に液室R1内にあるように配置されていれば良く、シリンダ7の長さやロッドガイド9の位置に関係なく連通孔21を配置することができることから、フロントフォークの最伸長時における車輪側軸受4と連通孔21との距離を充分にとってもコスト高とならない。
【0063】
また、本実施の形態においては、インナーチューブ2に環状溝23と、通孔2aを設けるとともに、上記環状溝23の内側に環状のチェック弁500を設けたことから、チェック弁500の構成及びチェック弁500を設けるための構成を簡易にすることができる。
【0064】
次に、本発明の第三の実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークについて図4を参照しながら説明する。この実施の形態は、上記第一の実施の形態とチェック弁を設ける位置が異なるとともに、これに付随してチェック弁周辺部の構成が異なるが、基本的な構成は上記第一の実施の形態と同様である。
【0065】
したがって、ここでは第一の実施の形態と異なる部分についてのみ説明し、図4において省略する第一の実施の形態と同様の構成についての詳細な説明及び図面は、上記第一の実施の形態の説明及び図1,2を参照するものとして省略する。
【0066】
本実施の形態におけるチェック弁510は、車体側軸受3の外気側近くに形成されるインナーチューブ2の環状溝24に取り付けられている。上記環状溝24は、インナーチューブ2の内周面に形成されており、環状の外気側面24aと、この外気側面24aの外周端から起立する垂直面24bと、上記外気側面24aと対向し外周端が上記垂直面24bと連なる環状の内部側面24cとからなり、断面コ字状に形成される。
【0067】
さらに、インナーチューブ2には、上記環状溝24からインナーチューブ2の外側に貫通し、筒状隙間Tに連通する通孔2bが形成されている。
【0068】
そして、上記チェック弁510の内部側(図4中上側)外周面は、環状溝24の垂直面24bに摺接しており、上記チェック弁510の外気側(図4中下側)外周面には、上記通孔2bと対向する位置に切欠き511が形成されている。
【0069】
また、上記チェック弁510の外気側内周部の端面512は、環状に形成されており、上記環状溝24の外気側面24aに当接したとき上記通孔2bとリザーバRとの連通を妨げるようになっている。
【0070】
上記構成を備えることにより、本実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークの伸長時には、両軸受3,4が接近することにより、筒状隙間Tが加圧されて、図4に示すように、チェック弁510が図4中上側となる内部側に移動して環状溝24の外気側面24aから離れる。
【0071】
他方、フロントフォークの圧縮時には、両軸受3,4が離間することにより、筒状隙間Tの圧力が低下し、チェック弁510が図4中下側となる外気側に移動して環状溝24の外気側面24aに当接する。
【0072】
つまり、本実施の形態におけるチェック弁510も一実施の形態のチェック弁5と同様に、筒状隙間Tが縮小するとき筒状隙間Tと液室R1の連通を許容するとともに筒状隙間Tが拡大するとき筒状隙間Tと液室R1の連通を阻止する。
【0073】
また、本実施の形態においては、チェック弁510が車体側軸受3より外気側に配置されるものの、筒状隙間T内の液面がチェック弁510より下がることがない。
【0074】
したがって、筒状隙間T内の液面がチェック弁510の位置まで低下していたとしても、液面と車体側軸受3との距離を短くすることができ、フロントフォークの伸長時には、アウターチューブ1の内周面が筒状隙間Tの作動流体で潤滑された状態で車体側軸受3と摺接することが可能となり、懸架装置本体Fを円滑に伸縮させることが可能となる。
【0075】
また、本実施の形態においても、筒状隙間Tと液室R1を常に連通する連通孔21は、常に液室R1内にあるように配置されていれば良く、シリンダ7の長さやロッドガイド9の位置に関係なく連通孔21を配置することができることから、フロントフォークの最伸長時における車輪側軸受4と連通孔21との距離を充分にとってもコスト高とならない。
【0076】
また、本実施の形態においては、インナーチューブ2に環状溝24と通孔2bを設けるとともに上記環状溝24の内側に環状のチェック弁510を設けたことから、チェック弁510の構成及びチェック弁500を設けるための構成を簡易にすることができる。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【0078】
例えば、上記実施の形態において、本発明に係る懸架装置が自動二輪車の前輪を懸架するフロントフォークであるとしたが、自動二輪車の後輪用のリアクッションユニットや、自動車等他の輸送機器用の懸架装置用に利用されるとしても勿論良い。
【0079】
また、上記実施の形態において、懸架装置本体F内にダンパD及び懸架ばねSを収容するとしたが、懸架装置本体F内に液室Lが形成されていれば、ダンパDや懸架ばねSを収容していなくても良く、また、如何なる形態のダンパDや懸架ばねSを収容するとしても良い。
【0080】
また、上記実施の形態において、チェック弁5,500,510がインナーチューブ2に取り付けられているが、インナーチューブ2以外の部材を設け、この部材にチェック弁5,500,510を取り付けるとしても良い。
【0081】
また、第一の実施の形態において、図5に示すように、環状溝22を車体側軸受3の外気側近くに形成し、この環状溝22の内周にチェック弁5を取り付けるとしても良く、この場合においても、圧縮時に筒状隙間T内の液面がチェック弁5より下側に低下することを防止して、懸架装置Fを円滑に伸縮させることが可能となる。
【0082】
また、第二の実施の形態において、通孔2aを隙間L1ではなく筒状隙間T内に直接連通させるとしても良く、筒状隙間Tと液室R1とを連通する流路の構成や、この流路の連通を許容するチェック弁の構成は、適宜選択することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
C1 オイルシール
C2 ダストシール
D ダンパ
F 懸架装置本体
L 筒状流路
L1 隙間
L10 流路
O 液面
R リザーバ
R1 液室
R2 気室
S 懸架ばね
T 筒状隙間
1 アウターチューブ
2 インナーチューブ
2a,2b 通孔
3 車体側軸受
4 車輪側軸受
5,500,510,5A チェック弁
6 キャップ部材
7 シリンダ
8 ロッド
9,90 ロッドガイド
10 アウターチューブの車輪側端部
20 インナーチューブの車体側端部
21 連通孔
22,23,24,90b 環状溝
50,51 切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に配置されるアウターチューブと車輪側に配置されて上記アウターチューブ内に移動可能に挿入されるインナーチューブとからなる懸架装置本体と、この懸架装置本体内に形成されて作動流体を収容する液室と、上記インナーチューブの車体側端部に保持されて上記アウターチューブの内周面に摺接する車体側軸受と、上記アウターチューブの車輪側端部に保持されて上記インナーチューブの外周面に摺接する車輪側軸受と、上記車体側軸受と上記車輪側軸受の間に形成される筒状隙間とを備える懸架装置において、
上記インナーチューブに形成されて常に上記筒状隙間と上記液室とを連通する連通孔と、この連通孔よりも内部側に配置されて上記筒状隙間が縮小するときこの筒状隙間と上記液室の連通を許容すると共に上記筒状隙間が拡大するときこの筒状隙間と上記液室の連通を阻止するチェック弁とを備えることを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
上記チェック弁が上記インナーチューブに取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
上記インナーチューブには、その内周面に断面コ字状の環状溝が形成されて、この環状溝に環状の上記チェック弁が取り付けられるとともに、上記環状溝から上記筒状隙間に連通する通孔が形成されており、上記環状溝は、環状の外気側面と、この外気側面の外周端から起立する垂直面と、上記外気側面に対向し外周端が上記垂直面に連なる環状の内部側面とからなり、
上記チェック弁は、内部側外周面が上記垂直面に摺接するとともに外気側外周面に上記通孔と対向する切欠きが形成され、外気側内周部の端面が環状に形成されて上記外気側面に離着座することを特徴とする請求項2に記載の懸架装置。
【請求項4】
上記インナーチューブの外周面に断面コ字状の環状溝が形成されて、この環状溝に環状の上記チェック弁が取り付けられており、上記環状溝は、環状の外気側面と、この外気側面の内周端から起立する垂直面と、上記外気側面に対向し内周端が上記垂直面に連なる環状の内部側面とからなり、
上記チェック弁は、上記アウターチューブの内周面に摺接するとともに、その内周面と上記垂直面との間に筒状流路を形成し、上記チェック弁の外気側面には、径方向に切欠きが形成されることを特徴とする請求項2に記載の懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113315(P2013−113315A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257250(P2011−257250)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】