座席
【課題】 一つの操作部材で座部と背当のロックを同時に解除し、座部の角度と背当の角度を自由に調節する。
【解決手段】 基台2に座部3のフレーム18を支軸12で傾動可能に支持し、座部3を付勢装置33で上方へ付勢する。座部3の後部に背当4のフレーム43を支点軸26で傾動可能に支持し、背当4を付勢装置49で前方へ付勢する。座部3を基台2にロックする座部ロック機構を付勢装置33に設ける。背当4を座部3にロックする背当ロック機構を背当付勢装置49に設ける。座部ロック機構及び背当ロック機構をパネル7上の操作レバー57で同時に操作し、ロック解除状態で座部3及び背当4を互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能に構成する。
【解決手段】 基台2に座部3のフレーム18を支軸12で傾動可能に支持し、座部3を付勢装置33で上方へ付勢する。座部3の後部に背当4のフレーム43を支点軸26で傾動可能に支持し、背当4を付勢装置49で前方へ付勢する。座部3を基台2にロックする座部ロック機構を付勢装置33に設ける。背当4を座部3にロックする背当ロック機構を背当付勢装置49に設ける。座部ロック機構及び背当ロック機構をパネル7上の操作レバー57で同時に操作し、ロック解除状態で座部3及び背当4を互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能に構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基台に座部を上下に傾動可能に支持し、座部に背当を前後に傾動可能に支持した座席に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の座席において、従来、着座者の腰ずれや尻すべりを防止するために、座部を背当に連動して傾動させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、背当の後方へのリクライニングに連動して座部を後下がりに傾斜させる技術が記載されている。特許文献2には、背当を後方へ傾動させると同時に下降させ、背当の下降に連動して座部の後端を前端よりも低くする技術が記載されている。
【特許文献1】特開平7−257246号公報
【特許文献2】特開2000−85424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来の座席によると、座部と背当が軸やリンクで機械的に連結されているため、着座者が体格や好みに応じ座部の角度と背当の角度とを自由に調節することができなかった。つまり、座部の角度の変動に対する背当の角度の変動の仕方は一定となる。このため、座部の角度と背当の角度との関係が着座者によっては適応しないことがあり、特に長距離バスや鉄道車両用の座席に長時間座り続けたような場合に、疲労感を覚えやすいという問題点があった。
また、従来、自動車用座席や事務用座席など、特定の人が座る座席において、座部と背当を二つの操作部材の各操作で別々に角度調節する技術も知られているが、二つの操作が面倒なため、不特定多数の乗客が使用する公共交通車両用の座席には不向きであった。
【0004】
本発明の目的は、上記課題を解決し、一つの操作部材の操作で座部の角度と背当の角度とを自由に調節できる座席を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明は、基台に座部が上下に傾動可能に支持され、座部に背当が前後に傾動可能に支持された座席において、座部を基台にロックする座部ロック機構と、背当を座部にロックする背当ロック機構と、座部ロック機構及び背当ロック機構を同時に操作する一つの操作部材とを備え、該操作部材により座部ロック機構及び背当ロック機構が解除された状態で、座部及び背当が互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能に構成されたことを特徴とする。
【0006】
ここで、座席は、特定の用途に限定されず、例えば、バスや鉄道車両等の乗物用座席、映画館や演劇場等の観覧用座席、事務所や工場等の作業用座席として使用できる。特に、本発明の座席は、着座者が長時間安楽に座り続けることができる点で、長距離バスや鉄道車両等の座席に好ましく使用できる。基台は、床面上に固定的に設置してもよく、移動可能に設置してもよい。基台の上部に旋回フレームを支持し、旋回フレーム上に座部と背当を設置してもよい。
【0007】
座部は、例えば、後側を基台に軸支し、前側を基台に昇降可能に設けることができる。逆に、座部の前側を基台に軸支し、後側を基台に昇降可能に支持することも可能である。座部の傾動角度は、特に限定されないが、乗物用座席の場合、例えば9°〜13°が好ましい。9°未満になると、背当を大きな角度で後方へ傾けたときに、着座者のお尻が前方へ滑りやすくなる。13°を超えると、背当を前方へ戻したときに、着座者の腹部が窮屈になりやすい。
【0008】
背当の傾動角度は、例えば、25°〜40°が好ましい。25°未満になると、座部を大きな角度で上方へ傾けたときに、着座者の腹部が窮屈になりやすい。40°を超えると、座部を戻したときに、着座者のお尻が前方へ滑りやすくなる。
【0009】
座部および背当のロック機構は、例えば、ラチェット、クラッチ、ブレーキ等の専用機構も使用できるが、コンパクトに設置できる点で、座部および背当を原位置に復帰させるための付勢装置に関連付けて設けるのが好ましい。具体的には、座部に座部付勢装置を設け、座部付勢装置に座部ロック機構を設置することができる。また、背当を垂直面となす角度が縮小する方向へ付勢する背当付勢装置を設け、背当付勢装置に背当ロック機構を設置することができる。
【0010】
特に、座部付勢装置は、座部を楽に傾けそして戻すことができるように、座部を水平面となす角度が縮小する方向へ付勢する第一付勢部材と、座部を水平面となす角度が拡大する方向へ付勢する第二付勢部材とを備え、座部ロック機構を第一付勢部材及び第二付勢部材の少なくとも一方に設けることが好ましい。付勢部材としては、例えば、スプリング、スプリングを内蔵したバネシリンダ、オイルやガスを封入した流体圧シリンダ又はダンパ等を使用できる。
【0011】
操作部材としては、例えば、ロック機構に機械的又は電気的に接続されたレバーや押しボタン等の手動操作部材を使用できる。操作部材の設置場所は、特に限定されず、例えば、座部と一体に傾動する部位、又は、背当と一体に傾動する部位に設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の座席によれば、一つの操作部材の操作で座部及び背当のロックを同時に解除することができる。ロック解除状態では、座部と背当とが互いに相手の傾動を拘束することなく傾動可能となるので、着座者はお尻の位置と上体の角度を適宜に変えることで、座部の角度と背当の角度とを自由に調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
基台(2)に座部(3)が上下に傾動可能に支持され、座部(3)に背当(4)が前後に傾動可能に支持された座席(1)において、座部(3)を基台(2)にロックする座部ロック機構(62)と、背当(4)を座部(3)にロックする背当ロック機構(66)と、座部ロック機構(62)及び背当ロック機構(66)を同時に操作する一つの操作部材(57)とを備え、該操作部材(57)により座部ロック機構(62)及び背当ロック機構(66)が解除された状態で、座部(3)及び背当(4)が互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能に構成されている。座部(3)は座部付勢装置(33)を備え、座部ロック機構(62)は該座部付勢装置(33)に設けられている。座部付勢装置(33)は、座部(3)を水平面となす角度が縮小する方向へ付勢する第一付勢部材(38)と、座部を水平面となす角度が拡大する方向へ付勢する第二付勢部材(39)とを備え、座部ロック機構(62)は、第一付勢部材(38)及び第二付勢部材(39)の少なくとも一方に設けられているとよい。また、背当(4)を垂直面となす角度が縮小する方向へ付勢する背当付勢装置(49)を備え、該背当付勢装置(49)に背当ロック機構(66)が設けられている。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を長距離バス用の座席に具体化した実施例を図面に基づいて説明する。図1〜図4に示すように、この実施例の座席1は、長距離バスの床面Fに設置される基台2と、着座者のお尻を支える座部3と、上体を支える背当4と、脚を支えるレグレスト5と、腕を支えるアームレスト6と、座部3の側面を覆うパネル7とを備えている。そして、座部3は基台2に上下に傾動可能に支持され、背当4が座部3に前後に傾動可能に支持されている。座部3及び背当4は互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能である。
【0015】
基台2は脚部8の上端に左右一対の座部取付枠9を備え、座部取付枠9の前後にブラケット10,11が設けられている。後側のブラケット11には座部3の後端部を軸支する支軸12が取着され、前側のブラケット10に座部3の前端部を昇降可能に連結するリンク13が設けられている。リンク13は基端軸14と自由端軸15とを備え、左右のリンク13の中間部が連結杆16によって連結されている。
【0016】
座部3は四角枠状の座フレーム18を備え、座フレーム18上に座クッション19が装着されている。座フレーム18の前枠20には取付板21が斜め上方へ突設され、取付板21の先端軸22にレグレスト5が起伏自在に取り付けられている。レグレスト5には角度調節部23とハンドル24とが設けられている。座フレーム18の左右には側板25が設けられ、側板25の後側上部に背当4の支点軸26が設けられている。
【0017】
側板25の下縁には前後二本の内枠27,28が架設され、後側の内枠28に左右一対の支持板29が固定されている。支持板29は支軸12に支持され、座フレーム18が後端部にて基台2に上下に傾動可能に支持されている。前側の内枠27には左右一対の案内板30が固定され、案内板30の長孔31にリンク13の自由端軸15が挿通され、座フレーム18が前端側にて基台2に昇降可能に連結されている。
【0018】
座フレーム18の左右中央部において前後の内枠27,28の間には、座部付勢装置33が設置されている。後側の内枠28にはベース34が後斜め下方へ突設され、ベース34に座部付勢装置33の基端を保持するピン35が設けられている。リンク13の連結杆16にはアーム36が後斜め下方へ突設され、アーム36に座部付勢装置33の自由端を保持するピン37が設けられている。
【0019】
座部付勢装置33は、座部3を水平面との角度が縮小する方向、つまり座フレーム18の前端部を下方へ付勢する第一付勢部材としての左右二本のスプリング38に加えて、座部3を水平面との角度が拡大する方向、つまり座フレーム18の前端部を上方へ付勢する第二付勢部材としての一本の流体圧シリンダ(流体封入ダンパ)39とを備えている。なお、第一付勢部材は、座部3を水平面との角度が拡大する方向、つまり座フレーム18の前端部を上方へ付勢するものとして構成する場合もありうる。スプリング38は、前後両端がピン35,37に係着され、座部3の傾動に伴いリンク13を介して伸縮される。流体圧シリンダ39は、ロッド側金具40がピン35に軸着され、チューブ側金具41がピン37に軸着され、スプリング38と同様に伸縮される。
【0020】
図5は座部付勢装置33の力学的な構成の一例を示す。座部3をチルトする前の状態では、二本のスプリング38の付勢力が流体圧シリンダ39の付勢力を僅かに上回り、座部3が比較的小さな下向きの力を受けて略水平な姿勢(図1参照)に静止している。このため、着座者は体重移動をすることによって座部3を楽にチルトさせることができ、座部3が流体圧シリンダ39の緩衝作用を受けてスムーズに傾動する。座部3のチルト角が最大になると(チルト完了)、スプリング38の付勢力が流体圧シリンダ39の付勢力を大きく上回り、座部3に比較的大きな下向きの力が作用する。従って、着座者はスプリング38の付勢力を借りて座部3を水平姿勢に楽に戻すことができ、座部3が流体圧シリンダ39の緩衝作用を受けてスムーズに復帰する。なお、座部付勢装置33の力学的な構成は、図5に示す例に限定されず、図11に基づいて後述するように変更することも可能である。
【0021】
背当4の背フレーム43はパネル7の内側において座フレーム18の支点軸26に回動可能に支持されている。背フレーム43は支点軸26より下方に延びる延出部46を備え、延出部46にストッパ48が座フレーム18の後枠47に前方から対向するように凹設され、ストッパ48と後枠47との係合により背当4がアップライト位置に保持される。なお、パネル7は側板25の外面に取り付けられ、パネル7にアームレスト6のフレーム44と、基台2の側面を覆うカバー45とが設けられている。
【0022】
座フレーム18の一方の側板25には、背当4を垂直面との角度が縮小する方向、つまり背フレーム43を前方へ付勢する流体圧シリンダ(流体封入ダンパ)49が設置されている。流体圧シリンダ49のチューブ側金具50はピン51で背フレーム43の延出部46に軸着され、ロッド側金具52がピン53で側板25の前端部に軸着されている。そして、背当4が座部3に対して傾動するときに、流体圧シリンダ49が背フレーム43に連動して伸縮するようになっている。
【0023】
図6に示すように、座部3の側面を覆うパネル7にはプレート55が取り付けられ、プレート55の軸56に操作レバー57が回動可能に支持され、バネ58で前方へ付勢されている。プレート55と二本の流体圧シリンダ39,49との間にはワイヤ59,60が張設され、ワイヤ59,60の一端が操作レバー57の下端に接続され、他端が流体圧シリンダ39,49のロッド側金具40,52に保持されている。そして、一本の操作レバー57により座部ロック機構62と背当ロック機構66とを同時に操作できるようになっている。
【0024】
座部ロック機構62は、流体圧シリンダ39のロッド39aをチューブ39bにロックするロックピン63と、ロックピン63をロッド39aに出没させる作動片64とを備えている。作動片64はロッド側金具40に軸支され、ワイヤ59を介して操作レバー57に接続されている。そして、座部ロック機構62は、ロックピン63の突出状態で流体圧シリンダ39を伸縮不能にし、座部3を基台2にロックし、ロックピン63の没入状態で流体圧シリンダ39を伸縮可能にし、座部3のロックを解除するように構成されている。
【0025】
背当ロック機構66は、座部ロック機構62と同様に構成され、流体圧シリンダ49のロッド49aをチューブ49bにロックするロックピン67を備え、操作レバー57により作動片68を介してロックピン67を出没させ、シリンダ49を伸縮不能にして背当4を座部3にロックし、シリンダ49を伸縮可能にして背当4のロックを解除するように構成されている。この構成によれば、ロック機構62,66が流体圧シリンダ39,49上に設けられているので、シリンダ39,49の伸縮を阻止することで、座部3と背当4を強力にロックできるうえ、ロック機構62,66を小型化して座部3周辺の限られたスペースに容易に設置できる。
【0026】
また、座部付勢装置33に付勢力が異なるスプリング38と流体圧シリンダ39とを用いたので、着座者は自身の体重や背当4の位置に係らず、座部3を楽に傾けそして戻すことができる。例えば、小柄な乗客が座部3を後下がりに傾ける場合は、流体圧シリンダ39が復帰用スプリング38の付勢力を減少させているので、着座者は床面Fを踏まなくても座部3を楽に傾けることができる。また、例えば、大柄な乗客が背当4を最大リクライニング位置から戻す場合は、スプリング38が後下がりの大きな傾動力に抗して座部3を前下がりの傾動方向へ強力に付勢しているので、着座者は姿勢を無理に変えなくても座部3を楽に戻すことができる。
【0027】
次に、座席1の作用について説明する。図1は、長距離バスが乗客を迎え入れるときの座席1の形態を示す。このとき、座部3とアームレスト6は略水平面(H)に配置され、背当4が垂直面(V)に最も接近したアップライト位置に配置され、レグレスト5が垂下位置に配置されている。アップライト位置の背当4と垂直面(V)との角度(θ1)は、例えば26°である。
【0028】
図7は、座部3を傾けるときの座席1の形態を示す。着座者が座部3に腰を降ろして操作レバー57を引くと、座部ロック機構62が座部3を基台2から解放し、背当ロック機構66が背当4を座部3から解放する。このロック解除状態で、着座者が重心を後方へ移すと、座部3は支軸12を支点に重心位置の変化に応じた角度でチルトする。着座者が操作レバー57から手を離すと、ロック機構62,66が座部3、背当4を共にロックする。なお、図示例は、荷重が座部3のみに加わり、背当4には作用せず、背当4が座部3と同じ角度で後方へ傾くモデルを示す。座部3の最大チルト角(θ2)は、例えば9°である。
【0029】
図8は、背当4を傾けるときの座席1の形態を示す。例えば、座部3の最大チルト位置において、着座者が操作レバー57を引いて上体を傾けると、背当4は支点軸26を支点に上体荷重の変化に応じた角度でリクライニングする。このとき、着座者の重心位置は後方へ移るが、流体圧シリンダ39がストロークエンドまで伸びているため(図4参照)、座部3は背当4に連動せず、主として背当4が傾動する。従って、着座者は座部3の角度を変えることなく、背当4のリクライニング角を好みや体格に応じて調節することができる。背当4の最大リクライニング角(θ3)は、例えば30°である。
【0030】
図9は、座部3と背当4を共に傾けるときの座席1の形態を示す。例えば、座部3が最大チルト位置にあり、背当4が最大リクライニング位置にある状態で、着座者が操作レバー57を引くと、ロック機構62,66が同時にアンロック動作して座部3と背当4のロックを解除する。この状態で、着座者が上体を起伏させると、主として背当4が傾動し、座部3も着座者の重心位置の変化に伴って若干傾動する。着座者がお尻を前後に移動すると、主として座部3が傾動し、背当4も着座者の上体角度の変化に応じて若干傾動する。また、着座者が上体を起伏すると同時にお尻を前後に移動すると、背当4が傾動すると同時に座部3が傾動する。
【0031】
以上のとおり、着座者は自身の姿勢を適宜に変えることで、座部3の角度と背当4の角度とを自由に調節することができる。すなわち、座部3の角度の変動に対する背当4の角度の変動の仕方が様々に可能となり、その際に、背当4と座部3とを順番に傾動させたり同時に傾動させたりすることもできる。従って、着座者は、座部3の角度と背当4の角度との関係を自分のやり方で自分の身体と好みに適応させることができ、特に長距離バスや鉄道車両用の座席に長時間座り続ける場合でも、疲労しにくいという利点がある。
また、単一の操作レバー57の操作で座部3と背当4のロックとその解除とを同時に行うことができるので、面倒さがない。
【0032】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)図10に示すように、座部ロック機構62と背当ロック機構66の少なくともどちらか一方に噛合式のロック部材69を使用すること。ロック部材69はシリンダ70のロッド70aを通す穴71を備え、ロッド70aに穴71の周縁に噛み合うネジ又は凹凸部72が形成されている。ロック部材69は軸73でプレート55の前部55aに回動可能に支持され、操作レバー57によりワイヤ59,60を介して駆動される。この構成によっても、座部3と背当4を確実にロックすることができる。
【0033】
(2)図10に示すように、座部3と背当4の少なくともどちらか一方の付勢装置にバネシリンダ70を使用すること。
(3)図3に示す座部付勢装置33において、スプリング38に代えて流体圧シリンダを使用すること。
(4)図3に示す座部付勢装置33において、流体圧シリンダ39に代えてバネシリンダを使用すること。
(5)図3に示す背当付勢装置において、流体圧シリンダ49に代えてバネシリンダ又はスプリングを使用すること。
【0034】
(6)座部付勢装置33の力学的な構成を、図11(a)〜(e)に示すように変更すること。
図11(a)の力学的構成において、座部3をチルトする前の状態では、流体圧シリンダ39の付勢力が二本のスプリング38の付勢力を上回り、座部3が上向きの付勢力を受けて略水平姿勢に静止している。このため、着座者は図5に示す場合と比較してより少ない体重移動で座部3を楽にチルトさせることができる。両者の付勢力は座部3のチルト角が大きくなると逆転し、チルト完了状態でスプリング38の付勢力が流体圧シリンダ39の付勢力を上回る。従って、着座者は図5に示す場合と同様にスプリング38の付勢力を借りて座部3を水平姿勢に楽に戻すことができ、座部3が流体圧シリンダ39の緩衝作用を受けてスムーズに復帰する。
【0035】
図11(b)の力学的構成では、座部3のチルト角の変化に係らず、スプリング38及び流体圧シリンダ39の付勢力が略同等に変化する。このため、着座者は体重移動により座部3をチルトし、チルトを戻す。流体圧シリンダ39は全チルト角範囲で座部3を緩衝し、上方又は下方へスムーズに傾動させる。
【0036】
図11(c)の力学的構成では、座部付勢装置33に流体圧シリンダ39のみを使用し、その付勢力を図5、図11(a)、図11(b)の流体圧シリンダと比較しかなり小さく設定する。この場合も、着座者は体重移動により座部3をチルトし、チルトを戻す。流体圧シリンダ39は全チルト角範囲で座部3を緩衝し、スムーズに傾動させる。
【0037】
図11(d)の力学的構成では、座部付勢装置33に流体圧シリンダ39のみを使用し、その付勢力を図5の流体圧シリンダと略同等に設定する。スプリング38を使用しないので、流体圧シリンダ39が全チルト角範囲で座部3を上方へ付勢し続ける。このため、着座者は僅かな体重移動で座部3を楽にチルトさせることができる。しかし、チルトを戻すときに流体圧シリンダ39が比較的大きな抵抗力を作用させるので、座部3の支軸12を図4に示す位置よりも後方に移し、復帰時に着座者の体重が座部3のより前側の部分に作用するように調整するとよい。
【0038】
図11(e)の力学的構成では、座部付勢装置33にスプリング38と流体圧シリンダ39の両方を使用し、両者の付勢力を図11(a)とは逆の関係で変化させる。座部3をチルトする前の状態では、二本のスプリング38の付勢力が流体圧シリンダ39の付勢力を上回り、座部3が下向きの付勢力を受けて略水平姿勢に静止している。このため、着座者はスプリング38の付勢力に抗して座部3をチルトさせる必要があるが、流体圧シリンダ39がスプリング38の付勢力を減少させているので、座部3は着座者の体重移動と流体圧シリンダ39の緩衝作用とによってスムーズにチルトする。スプリング38及び流体圧シリンダ39の付勢力は座部3のチルト角が大きくなると逆転し、チルト完了状態で流体圧シリンダ39の付勢力がスプリング38の付勢力を上回る。このときも、着座者は流体圧シリンダ39の付勢力に抗して座部3を戻す必要があるが、スプリング38が流体圧シリンダ39の付勢力を減少させているので、座部3は着座者の体重移動と流体圧シリンダ39の緩衝作用とによってスムーズに復帰する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る実施例の座席の側面図である。
【図2】図1の座席において座部の周辺機構を示す平面図である。
【図3】座部の支持機構を示す図2の右側面図である。
【図4】該支持機構の別の作動状態を示す右側面図である。
【図5】座部付勢装置の力学的構成を示すグラフである。
【図6】図1の座席において座部と背当のロック機構を示す機構図である。
【図7】図1の座席において座部を傾動するときの側面図である。
【図8】図1の座席において背当を傾動するときの側面図である。
【図9】図1の座席において座部と背当を傾動するときの側面図である。
【図10】ロック機構の変更例を示す機構図である。
【図11】座部付勢装置の力学的構成の変更例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 座席
2 基台
3 座部
4 背当
18 座フレーム
33 座部付勢装置
38 スプリング
39 流体圧シリンダ
43 背フレーム
49 流体圧シリンダ
57 操作レバー
62 座部ロック機構
66 背当ロック機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、基台に座部を上下に傾動可能に支持し、座部に背当を前後に傾動可能に支持した座席に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の座席において、従来、着座者の腰ずれや尻すべりを防止するために、座部を背当に連動して傾動させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、背当の後方へのリクライニングに連動して座部を後下がりに傾斜させる技術が記載されている。特許文献2には、背当を後方へ傾動させると同時に下降させ、背当の下降に連動して座部の後端を前端よりも低くする技術が記載されている。
【特許文献1】特開平7−257246号公報
【特許文献2】特開2000−85424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来の座席によると、座部と背当が軸やリンクで機械的に連結されているため、着座者が体格や好みに応じ座部の角度と背当の角度とを自由に調節することができなかった。つまり、座部の角度の変動に対する背当の角度の変動の仕方は一定となる。このため、座部の角度と背当の角度との関係が着座者によっては適応しないことがあり、特に長距離バスや鉄道車両用の座席に長時間座り続けたような場合に、疲労感を覚えやすいという問題点があった。
また、従来、自動車用座席や事務用座席など、特定の人が座る座席において、座部と背当を二つの操作部材の各操作で別々に角度調節する技術も知られているが、二つの操作が面倒なため、不特定多数の乗客が使用する公共交通車両用の座席には不向きであった。
【0004】
本発明の目的は、上記課題を解決し、一つの操作部材の操作で座部の角度と背当の角度とを自由に調節できる座席を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明は、基台に座部が上下に傾動可能に支持され、座部に背当が前後に傾動可能に支持された座席において、座部を基台にロックする座部ロック機構と、背当を座部にロックする背当ロック機構と、座部ロック機構及び背当ロック機構を同時に操作する一つの操作部材とを備え、該操作部材により座部ロック機構及び背当ロック機構が解除された状態で、座部及び背当が互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能に構成されたことを特徴とする。
【0006】
ここで、座席は、特定の用途に限定されず、例えば、バスや鉄道車両等の乗物用座席、映画館や演劇場等の観覧用座席、事務所や工場等の作業用座席として使用できる。特に、本発明の座席は、着座者が長時間安楽に座り続けることができる点で、長距離バスや鉄道車両等の座席に好ましく使用できる。基台は、床面上に固定的に設置してもよく、移動可能に設置してもよい。基台の上部に旋回フレームを支持し、旋回フレーム上に座部と背当を設置してもよい。
【0007】
座部は、例えば、後側を基台に軸支し、前側を基台に昇降可能に設けることができる。逆に、座部の前側を基台に軸支し、後側を基台に昇降可能に支持することも可能である。座部の傾動角度は、特に限定されないが、乗物用座席の場合、例えば9°〜13°が好ましい。9°未満になると、背当を大きな角度で後方へ傾けたときに、着座者のお尻が前方へ滑りやすくなる。13°を超えると、背当を前方へ戻したときに、着座者の腹部が窮屈になりやすい。
【0008】
背当の傾動角度は、例えば、25°〜40°が好ましい。25°未満になると、座部を大きな角度で上方へ傾けたときに、着座者の腹部が窮屈になりやすい。40°を超えると、座部を戻したときに、着座者のお尻が前方へ滑りやすくなる。
【0009】
座部および背当のロック機構は、例えば、ラチェット、クラッチ、ブレーキ等の専用機構も使用できるが、コンパクトに設置できる点で、座部および背当を原位置に復帰させるための付勢装置に関連付けて設けるのが好ましい。具体的には、座部に座部付勢装置を設け、座部付勢装置に座部ロック機構を設置することができる。また、背当を垂直面となす角度が縮小する方向へ付勢する背当付勢装置を設け、背当付勢装置に背当ロック機構を設置することができる。
【0010】
特に、座部付勢装置は、座部を楽に傾けそして戻すことができるように、座部を水平面となす角度が縮小する方向へ付勢する第一付勢部材と、座部を水平面となす角度が拡大する方向へ付勢する第二付勢部材とを備え、座部ロック機構を第一付勢部材及び第二付勢部材の少なくとも一方に設けることが好ましい。付勢部材としては、例えば、スプリング、スプリングを内蔵したバネシリンダ、オイルやガスを封入した流体圧シリンダ又はダンパ等を使用できる。
【0011】
操作部材としては、例えば、ロック機構に機械的又は電気的に接続されたレバーや押しボタン等の手動操作部材を使用できる。操作部材の設置場所は、特に限定されず、例えば、座部と一体に傾動する部位、又は、背当と一体に傾動する部位に設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の座席によれば、一つの操作部材の操作で座部及び背当のロックを同時に解除することができる。ロック解除状態では、座部と背当とが互いに相手の傾動を拘束することなく傾動可能となるので、着座者はお尻の位置と上体の角度を適宜に変えることで、座部の角度と背当の角度とを自由に調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
基台(2)に座部(3)が上下に傾動可能に支持され、座部(3)に背当(4)が前後に傾動可能に支持された座席(1)において、座部(3)を基台(2)にロックする座部ロック機構(62)と、背当(4)を座部(3)にロックする背当ロック機構(66)と、座部ロック機構(62)及び背当ロック機構(66)を同時に操作する一つの操作部材(57)とを備え、該操作部材(57)により座部ロック機構(62)及び背当ロック機構(66)が解除された状態で、座部(3)及び背当(4)が互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能に構成されている。座部(3)は座部付勢装置(33)を備え、座部ロック機構(62)は該座部付勢装置(33)に設けられている。座部付勢装置(33)は、座部(3)を水平面となす角度が縮小する方向へ付勢する第一付勢部材(38)と、座部を水平面となす角度が拡大する方向へ付勢する第二付勢部材(39)とを備え、座部ロック機構(62)は、第一付勢部材(38)及び第二付勢部材(39)の少なくとも一方に設けられているとよい。また、背当(4)を垂直面となす角度が縮小する方向へ付勢する背当付勢装置(49)を備え、該背当付勢装置(49)に背当ロック機構(66)が設けられている。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を長距離バス用の座席に具体化した実施例を図面に基づいて説明する。図1〜図4に示すように、この実施例の座席1は、長距離バスの床面Fに設置される基台2と、着座者のお尻を支える座部3と、上体を支える背当4と、脚を支えるレグレスト5と、腕を支えるアームレスト6と、座部3の側面を覆うパネル7とを備えている。そして、座部3は基台2に上下に傾動可能に支持され、背当4が座部3に前後に傾動可能に支持されている。座部3及び背当4は互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能である。
【0015】
基台2は脚部8の上端に左右一対の座部取付枠9を備え、座部取付枠9の前後にブラケット10,11が設けられている。後側のブラケット11には座部3の後端部を軸支する支軸12が取着され、前側のブラケット10に座部3の前端部を昇降可能に連結するリンク13が設けられている。リンク13は基端軸14と自由端軸15とを備え、左右のリンク13の中間部が連結杆16によって連結されている。
【0016】
座部3は四角枠状の座フレーム18を備え、座フレーム18上に座クッション19が装着されている。座フレーム18の前枠20には取付板21が斜め上方へ突設され、取付板21の先端軸22にレグレスト5が起伏自在に取り付けられている。レグレスト5には角度調節部23とハンドル24とが設けられている。座フレーム18の左右には側板25が設けられ、側板25の後側上部に背当4の支点軸26が設けられている。
【0017】
側板25の下縁には前後二本の内枠27,28が架設され、後側の内枠28に左右一対の支持板29が固定されている。支持板29は支軸12に支持され、座フレーム18が後端部にて基台2に上下に傾動可能に支持されている。前側の内枠27には左右一対の案内板30が固定され、案内板30の長孔31にリンク13の自由端軸15が挿通され、座フレーム18が前端側にて基台2に昇降可能に連結されている。
【0018】
座フレーム18の左右中央部において前後の内枠27,28の間には、座部付勢装置33が設置されている。後側の内枠28にはベース34が後斜め下方へ突設され、ベース34に座部付勢装置33の基端を保持するピン35が設けられている。リンク13の連結杆16にはアーム36が後斜め下方へ突設され、アーム36に座部付勢装置33の自由端を保持するピン37が設けられている。
【0019】
座部付勢装置33は、座部3を水平面との角度が縮小する方向、つまり座フレーム18の前端部を下方へ付勢する第一付勢部材としての左右二本のスプリング38に加えて、座部3を水平面との角度が拡大する方向、つまり座フレーム18の前端部を上方へ付勢する第二付勢部材としての一本の流体圧シリンダ(流体封入ダンパ)39とを備えている。なお、第一付勢部材は、座部3を水平面との角度が拡大する方向、つまり座フレーム18の前端部を上方へ付勢するものとして構成する場合もありうる。スプリング38は、前後両端がピン35,37に係着され、座部3の傾動に伴いリンク13を介して伸縮される。流体圧シリンダ39は、ロッド側金具40がピン35に軸着され、チューブ側金具41がピン37に軸着され、スプリング38と同様に伸縮される。
【0020】
図5は座部付勢装置33の力学的な構成の一例を示す。座部3をチルトする前の状態では、二本のスプリング38の付勢力が流体圧シリンダ39の付勢力を僅かに上回り、座部3が比較的小さな下向きの力を受けて略水平な姿勢(図1参照)に静止している。このため、着座者は体重移動をすることによって座部3を楽にチルトさせることができ、座部3が流体圧シリンダ39の緩衝作用を受けてスムーズに傾動する。座部3のチルト角が最大になると(チルト完了)、スプリング38の付勢力が流体圧シリンダ39の付勢力を大きく上回り、座部3に比較的大きな下向きの力が作用する。従って、着座者はスプリング38の付勢力を借りて座部3を水平姿勢に楽に戻すことができ、座部3が流体圧シリンダ39の緩衝作用を受けてスムーズに復帰する。なお、座部付勢装置33の力学的な構成は、図5に示す例に限定されず、図11に基づいて後述するように変更することも可能である。
【0021】
背当4の背フレーム43はパネル7の内側において座フレーム18の支点軸26に回動可能に支持されている。背フレーム43は支点軸26より下方に延びる延出部46を備え、延出部46にストッパ48が座フレーム18の後枠47に前方から対向するように凹設され、ストッパ48と後枠47との係合により背当4がアップライト位置に保持される。なお、パネル7は側板25の外面に取り付けられ、パネル7にアームレスト6のフレーム44と、基台2の側面を覆うカバー45とが設けられている。
【0022】
座フレーム18の一方の側板25には、背当4を垂直面との角度が縮小する方向、つまり背フレーム43を前方へ付勢する流体圧シリンダ(流体封入ダンパ)49が設置されている。流体圧シリンダ49のチューブ側金具50はピン51で背フレーム43の延出部46に軸着され、ロッド側金具52がピン53で側板25の前端部に軸着されている。そして、背当4が座部3に対して傾動するときに、流体圧シリンダ49が背フレーム43に連動して伸縮するようになっている。
【0023】
図6に示すように、座部3の側面を覆うパネル7にはプレート55が取り付けられ、プレート55の軸56に操作レバー57が回動可能に支持され、バネ58で前方へ付勢されている。プレート55と二本の流体圧シリンダ39,49との間にはワイヤ59,60が張設され、ワイヤ59,60の一端が操作レバー57の下端に接続され、他端が流体圧シリンダ39,49のロッド側金具40,52に保持されている。そして、一本の操作レバー57により座部ロック機構62と背当ロック機構66とを同時に操作できるようになっている。
【0024】
座部ロック機構62は、流体圧シリンダ39のロッド39aをチューブ39bにロックするロックピン63と、ロックピン63をロッド39aに出没させる作動片64とを備えている。作動片64はロッド側金具40に軸支され、ワイヤ59を介して操作レバー57に接続されている。そして、座部ロック機構62は、ロックピン63の突出状態で流体圧シリンダ39を伸縮不能にし、座部3を基台2にロックし、ロックピン63の没入状態で流体圧シリンダ39を伸縮可能にし、座部3のロックを解除するように構成されている。
【0025】
背当ロック機構66は、座部ロック機構62と同様に構成され、流体圧シリンダ49のロッド49aをチューブ49bにロックするロックピン67を備え、操作レバー57により作動片68を介してロックピン67を出没させ、シリンダ49を伸縮不能にして背当4を座部3にロックし、シリンダ49を伸縮可能にして背当4のロックを解除するように構成されている。この構成によれば、ロック機構62,66が流体圧シリンダ39,49上に設けられているので、シリンダ39,49の伸縮を阻止することで、座部3と背当4を強力にロックできるうえ、ロック機構62,66を小型化して座部3周辺の限られたスペースに容易に設置できる。
【0026】
また、座部付勢装置33に付勢力が異なるスプリング38と流体圧シリンダ39とを用いたので、着座者は自身の体重や背当4の位置に係らず、座部3を楽に傾けそして戻すことができる。例えば、小柄な乗客が座部3を後下がりに傾ける場合は、流体圧シリンダ39が復帰用スプリング38の付勢力を減少させているので、着座者は床面Fを踏まなくても座部3を楽に傾けることができる。また、例えば、大柄な乗客が背当4を最大リクライニング位置から戻す場合は、スプリング38が後下がりの大きな傾動力に抗して座部3を前下がりの傾動方向へ強力に付勢しているので、着座者は姿勢を無理に変えなくても座部3を楽に戻すことができる。
【0027】
次に、座席1の作用について説明する。図1は、長距離バスが乗客を迎え入れるときの座席1の形態を示す。このとき、座部3とアームレスト6は略水平面(H)に配置され、背当4が垂直面(V)に最も接近したアップライト位置に配置され、レグレスト5が垂下位置に配置されている。アップライト位置の背当4と垂直面(V)との角度(θ1)は、例えば26°である。
【0028】
図7は、座部3を傾けるときの座席1の形態を示す。着座者が座部3に腰を降ろして操作レバー57を引くと、座部ロック機構62が座部3を基台2から解放し、背当ロック機構66が背当4を座部3から解放する。このロック解除状態で、着座者が重心を後方へ移すと、座部3は支軸12を支点に重心位置の変化に応じた角度でチルトする。着座者が操作レバー57から手を離すと、ロック機構62,66が座部3、背当4を共にロックする。なお、図示例は、荷重が座部3のみに加わり、背当4には作用せず、背当4が座部3と同じ角度で後方へ傾くモデルを示す。座部3の最大チルト角(θ2)は、例えば9°である。
【0029】
図8は、背当4を傾けるときの座席1の形態を示す。例えば、座部3の最大チルト位置において、着座者が操作レバー57を引いて上体を傾けると、背当4は支点軸26を支点に上体荷重の変化に応じた角度でリクライニングする。このとき、着座者の重心位置は後方へ移るが、流体圧シリンダ39がストロークエンドまで伸びているため(図4参照)、座部3は背当4に連動せず、主として背当4が傾動する。従って、着座者は座部3の角度を変えることなく、背当4のリクライニング角を好みや体格に応じて調節することができる。背当4の最大リクライニング角(θ3)は、例えば30°である。
【0030】
図9は、座部3と背当4を共に傾けるときの座席1の形態を示す。例えば、座部3が最大チルト位置にあり、背当4が最大リクライニング位置にある状態で、着座者が操作レバー57を引くと、ロック機構62,66が同時にアンロック動作して座部3と背当4のロックを解除する。この状態で、着座者が上体を起伏させると、主として背当4が傾動し、座部3も着座者の重心位置の変化に伴って若干傾動する。着座者がお尻を前後に移動すると、主として座部3が傾動し、背当4も着座者の上体角度の変化に応じて若干傾動する。また、着座者が上体を起伏すると同時にお尻を前後に移動すると、背当4が傾動すると同時に座部3が傾動する。
【0031】
以上のとおり、着座者は自身の姿勢を適宜に変えることで、座部3の角度と背当4の角度とを自由に調節することができる。すなわち、座部3の角度の変動に対する背当4の角度の変動の仕方が様々に可能となり、その際に、背当4と座部3とを順番に傾動させたり同時に傾動させたりすることもできる。従って、着座者は、座部3の角度と背当4の角度との関係を自分のやり方で自分の身体と好みに適応させることができ、特に長距離バスや鉄道車両用の座席に長時間座り続ける場合でも、疲労しにくいという利点がある。
また、単一の操作レバー57の操作で座部3と背当4のロックとその解除とを同時に行うことができるので、面倒さがない。
【0032】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)図10に示すように、座部ロック機構62と背当ロック機構66の少なくともどちらか一方に噛合式のロック部材69を使用すること。ロック部材69はシリンダ70のロッド70aを通す穴71を備え、ロッド70aに穴71の周縁に噛み合うネジ又は凹凸部72が形成されている。ロック部材69は軸73でプレート55の前部55aに回動可能に支持され、操作レバー57によりワイヤ59,60を介して駆動される。この構成によっても、座部3と背当4を確実にロックすることができる。
【0033】
(2)図10に示すように、座部3と背当4の少なくともどちらか一方の付勢装置にバネシリンダ70を使用すること。
(3)図3に示す座部付勢装置33において、スプリング38に代えて流体圧シリンダを使用すること。
(4)図3に示す座部付勢装置33において、流体圧シリンダ39に代えてバネシリンダを使用すること。
(5)図3に示す背当付勢装置において、流体圧シリンダ49に代えてバネシリンダ又はスプリングを使用すること。
【0034】
(6)座部付勢装置33の力学的な構成を、図11(a)〜(e)に示すように変更すること。
図11(a)の力学的構成において、座部3をチルトする前の状態では、流体圧シリンダ39の付勢力が二本のスプリング38の付勢力を上回り、座部3が上向きの付勢力を受けて略水平姿勢に静止している。このため、着座者は図5に示す場合と比較してより少ない体重移動で座部3を楽にチルトさせることができる。両者の付勢力は座部3のチルト角が大きくなると逆転し、チルト完了状態でスプリング38の付勢力が流体圧シリンダ39の付勢力を上回る。従って、着座者は図5に示す場合と同様にスプリング38の付勢力を借りて座部3を水平姿勢に楽に戻すことができ、座部3が流体圧シリンダ39の緩衝作用を受けてスムーズに復帰する。
【0035】
図11(b)の力学的構成では、座部3のチルト角の変化に係らず、スプリング38及び流体圧シリンダ39の付勢力が略同等に変化する。このため、着座者は体重移動により座部3をチルトし、チルトを戻す。流体圧シリンダ39は全チルト角範囲で座部3を緩衝し、上方又は下方へスムーズに傾動させる。
【0036】
図11(c)の力学的構成では、座部付勢装置33に流体圧シリンダ39のみを使用し、その付勢力を図5、図11(a)、図11(b)の流体圧シリンダと比較しかなり小さく設定する。この場合も、着座者は体重移動により座部3をチルトし、チルトを戻す。流体圧シリンダ39は全チルト角範囲で座部3を緩衝し、スムーズに傾動させる。
【0037】
図11(d)の力学的構成では、座部付勢装置33に流体圧シリンダ39のみを使用し、その付勢力を図5の流体圧シリンダと略同等に設定する。スプリング38を使用しないので、流体圧シリンダ39が全チルト角範囲で座部3を上方へ付勢し続ける。このため、着座者は僅かな体重移動で座部3を楽にチルトさせることができる。しかし、チルトを戻すときに流体圧シリンダ39が比較的大きな抵抗力を作用させるので、座部3の支軸12を図4に示す位置よりも後方に移し、復帰時に着座者の体重が座部3のより前側の部分に作用するように調整するとよい。
【0038】
図11(e)の力学的構成では、座部付勢装置33にスプリング38と流体圧シリンダ39の両方を使用し、両者の付勢力を図11(a)とは逆の関係で変化させる。座部3をチルトする前の状態では、二本のスプリング38の付勢力が流体圧シリンダ39の付勢力を上回り、座部3が下向きの付勢力を受けて略水平姿勢に静止している。このため、着座者はスプリング38の付勢力に抗して座部3をチルトさせる必要があるが、流体圧シリンダ39がスプリング38の付勢力を減少させているので、座部3は着座者の体重移動と流体圧シリンダ39の緩衝作用とによってスムーズにチルトする。スプリング38及び流体圧シリンダ39の付勢力は座部3のチルト角が大きくなると逆転し、チルト完了状態で流体圧シリンダ39の付勢力がスプリング38の付勢力を上回る。このときも、着座者は流体圧シリンダ39の付勢力に抗して座部3を戻す必要があるが、スプリング38が流体圧シリンダ39の付勢力を減少させているので、座部3は着座者の体重移動と流体圧シリンダ39の緩衝作用とによってスムーズに復帰する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る実施例の座席の側面図である。
【図2】図1の座席において座部の周辺機構を示す平面図である。
【図3】座部の支持機構を示す図2の右側面図である。
【図4】該支持機構の別の作動状態を示す右側面図である。
【図5】座部付勢装置の力学的構成を示すグラフである。
【図6】図1の座席において座部と背当のロック機構を示す機構図である。
【図7】図1の座席において座部を傾動するときの側面図である。
【図8】図1の座席において背当を傾動するときの側面図である。
【図9】図1の座席において座部と背当を傾動するときの側面図である。
【図10】ロック機構の変更例を示す機構図である。
【図11】座部付勢装置の力学的構成の変更例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 座席
2 基台
3 座部
4 背当
18 座フレーム
33 座部付勢装置
38 スプリング
39 流体圧シリンダ
43 背フレーム
49 流体圧シリンダ
57 操作レバー
62 座部ロック機構
66 背当ロック機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台(2)に座部(3)が上下に傾動可能に支持され、座部(3)に背当(4)が前後に傾動可能に支持された座席において、座部(3)を基台(2)にロックする座部ロック機構(62)と、背当(4)を座部(3)にロックする背当ロック機構(66)と、座部ロック機構(62)及び背当ロック機構(66)を同時に操作する一つの操作部材(57)とを備え、該操作部材(57)により座部ロック機構(62)及び背当ロック機構(66)が解除された状態で、座部(3)及び背当(4)が互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能に構成されたことを特徴とする座席。
【請求項2】
前記座部(3)は座部付勢装置(33)を備え、前記座部ロック機構(62)は該座部付勢装置(33)に設けられた請求項1記載の座席。
【請求項3】
前記座部付勢装置(33)は、座部(3)を水平面となす角度が縮小する方向へ付勢する第一付勢部材(38)と、座部を水平面となす角度が拡大する方向へ付勢する第二付勢部材(39)とを備え、前記座部ロック機構(62)は該第一付勢部材(38)及び第二付勢部材(39)の少なくとも一方に設けられた請求項2記載の座席。
【請求項4】
前記背当(4)を垂直面となす角度が縮小する方向へ付勢する背当付勢装置(49)を備え、前記背当ロック機構(66)は該背当付勢装置(49)に設けられた請求項1〜3のいずれか一項に記載の座席。
【請求項1】
基台(2)に座部(3)が上下に傾動可能に支持され、座部(3)に背当(4)が前後に傾動可能に支持された座席において、座部(3)を基台(2)にロックする座部ロック機構(62)と、背当(4)を座部(3)にロックする背当ロック機構(66)と、座部ロック機構(62)及び背当ロック機構(66)を同時に操作する一つの操作部材(57)とを備え、該操作部材(57)により座部ロック機構(62)及び背当ロック機構(66)が解除された状態で、座部(3)及び背当(4)が互いに相手の傾動を拘束することなくそれぞれ傾動可能に構成されたことを特徴とする座席。
【請求項2】
前記座部(3)は座部付勢装置(33)を備え、前記座部ロック機構(62)は該座部付勢装置(33)に設けられた請求項1記載の座席。
【請求項3】
前記座部付勢装置(33)は、座部(3)を水平面となす角度が縮小する方向へ付勢する第一付勢部材(38)と、座部を水平面となす角度が拡大する方向へ付勢する第二付勢部材(39)とを備え、前記座部ロック機構(62)は該第一付勢部材(38)及び第二付勢部材(39)の少なくとも一方に設けられた請求項2記載の座席。
【請求項4】
前記背当(4)を垂直面となす角度が縮小する方向へ付勢する背当付勢装置(49)を備え、前記背当ロック機構(66)は該背当付勢装置(49)に設けられた請求項1〜3のいずれか一項に記載の座席。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−264272(P2008−264272A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112438(P2007−112438)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000003517)天龍工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000003517)天龍工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
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