説明

凍結乾燥カレー及びその製造方法

【課題】湯戻り及び食味が良好で、良好な粘度を有する凍結乾燥カレーとその製造方法を提供する。
【解決手段】野菜ペーストを含む凍結乾燥カレー本体に、食用油脂と増粘剤を含む増粘剤分散液を含浸又は塗布してなる凍結乾燥カレー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥カレー及びその製造方法に関し、詳しくは湯戻りが良好であり、油脂分離が抑制された凍結乾燥カレー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カレーの粘度付与にはでん粉が使用されるが、でん粉を含むカレーソースを凍結乾燥するとでん粉の老化により湯戻りが悪くなる不具合があった。
【0003】
特許文献1は、油脂性食品が、凍結乾燥食品に含浸された食品を開示し、栄養強化機能成分を含有する食品であるが、凍結乾燥カレーについての開示はない。
【0004】
凍結乾燥工程後に、湯戻し後の粘度付与を目的として油脂性素材にでん粉を配合する場合、多量に配合する必要があり、食品にでん粉臭が発生してしまい風味が悪くなる。
【0005】
特許文献2は、野菜ペーストを含む凍結乾燥カレーを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−237102
【特許文献2】特開2009−273410
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、湯戻りが良好で、好適な粘度を有する凍結乾燥カレーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた。
【0009】
凍結乾燥前のカレーに増粘剤を添加して粘度を付与し、食用油脂の分離を抑制した場合、凍結乾燥カレーにお湯を注ぐだけでは、増粘剤がα化せず、ダマダマになるために増粘しなかった(比較例8〜10)。
【0010】
一方、凍結乾燥後に好適な粘度を発現する量の増粘剤を添加すると、湯戻し時に糸引き性があり(比較例3〜7)、糸引き性がない程度の量で増粘剤を付与した場合、好適な粘度が得られなかった(比較例1〜2)。
【0011】
粘性を付与するために凍結乾燥前のカレーベースにでん粉を配合すると、湯戻しが悪くなる欠点がある。
【0012】
本発明者はさらに検討を重ねた結果、野菜ペーストで粘度を付けた凍結乾燥カレー本体に、食用油脂と増粘剤を含む分散液を含浸又は塗布することで、湯戻りが良好で、好適な粘度を有し、かつ、糸引き性のない凍結乾燥カレーが得られることを見出した。
【0013】
本発明は、以下の凍結乾燥カレーおよびその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の凍結乾燥カレーは、増粘剤を凍結乾燥後のカレーに適用しているため、糸引き性がない状態で好適な粘度を湯戻し後のカレーに付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、増粘剤を分散する分散液は、凍結乾燥カレーに適用するため、水を分散媒体として用いることはできない。水分量の少ない若しくは水分を含まない分散媒体として食用油脂が好適に用いられる。
【0016】
本発明で増粘剤分散液および凍結乾燥カレー本体に使用する食用油脂としては、任意の植物油脂および動物油脂ならびにこれらを原料として得られた硬化油を用い得る。植物油脂の例としては、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、コーン油、サフラワー油、パーム油および米油が挙げられる。動物油脂の例としては、牛脂、ギー、バター、バターオイルおよびラードが挙げられる。油脂は好ましくは、菜種油、コーン油、パーム油、牛脂、ラードおよびバターからなる群より選択され、より好ましくはパーム油、牛脂、ラードおよびバターからなる群より選択される。これらの油脂は、単独であるいは混合して用いることができる。含浸ないし塗布に使用する食用油脂は融点が60℃以下、好ましくは20℃以下の油脂が好ましい。食用油脂の混合物を使用すれば融点を下げることが可能である。室温で液体である食用油脂(1種の食用油脂でも2種以上の食用油脂混合物でもよい)を好ましく使用できる。凍結乾燥カレー本体には食用油脂を含むことができるが、凍結乾燥カレー本体に使用する食用油脂には融点の制限はなく、上記の食用油脂が全て使用できる。食用油脂が常温で固体の場合には、加熱により溶解させて、増粘剤の分散に使用することができる。
【0017】
分散液に用いられる食用油脂は、凍結乾燥カレー本体に対し1質量%〜30質量%、好ましくは2質量%〜20質量%含浸ないし塗布される。
【0018】
増粘剤としては、キサンタンガム、ジェランガム、カラギーナン、ゼラチン、グアガムなどが挙げられ、これらを単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。好ましい増粘剤は、キサンタンガム、グアガムである。
【0019】
増粘剤は、凍結乾燥カレー本体に対し0.1質量%〜1.0質量%、好ましくは0.25質量%〜0.75質量%含浸ないし塗布される。
【0020】
増粘剤分散液の水分値は15質量%以下、好ましくは10質量%以下であるのがよい。このように水分値の低い分散液を使用することで、凍結乾燥カレーの保存性に悪影響を与えることがない。
【0021】
本発明では、増粘剤を食用油脂に含浸した分散液を含浸若しくは塗布に使用する。特に限定されないが、増粘剤は、食用油脂に対し、0.15質量%〜50質量%、好ましくは1.0質量%〜30質量%配合されて、分散液を調製することができる。分散液には、さらに、砂糖、塩、香辛料などの粉末調味料などを配合してもよい。
【0022】
凍結乾燥カレー本体は、食用油脂、野菜ペースト、カレー粉、具材、砂糖、塩、うま味調味料、着色料、スパイス類などを含むカレーソースを凍結乾燥することにより得られる。食用油脂は、増粘剤分散液で必要量が適用可能な場合には、凍結乾燥カレー本体に含まれなくてもよい。凍結乾燥カレー本体に含まれる食用油脂は、上記の食用油脂が例示される。
【0023】
食用油脂は、凍結乾燥カレー製品に対し1質量%〜50質量%、好ましくは5質量%〜40質量%含まれる。食用油脂は5質量%以上であることが良好な食味の凍結乾燥カレーを得るために好ましい。
【0024】
食用油脂は、凍結乾燥カレー本体と増粘剤分散液の合計量として凍結乾燥カレー製品に含まれ、食用油脂の凍結乾燥カレー本体に含まれる配合量と増粘剤分散液の含浸ないし塗布に由来する配合量の比率は適宜調整される。食用油脂は、凍結乾燥カレー本体(若しくは凍結乾燥前のカレーソース)および増粘剤分散液の両方に含まれるのが好ましい。
【0025】
野菜ペーストは、食物繊維を含む野菜をペースト化したものであれば良く、用いられる野菜としては、アスパラガス、インゲン豆、枝豆、グリーンピース、オクラ、かぼちゃ、キャベツ、にんにく、牛蒡、小松菜、シソ、春菊、しょうが、ヤングコーン、セロリー、大根、竹の子、玉葱、チンゲン菜、トマト、茄子、ニラ、人参、ネギ、白菜、ピーマン、ブロッコリー、ホウレン草などが例示される。野菜をペースト化する過程は種々の方法が適用出来るが、野菜の食物繊維をより多く残存させるような方法が用いられるべきであり、酵素分解処理よりも物理的処理によるペースト化処理が適している。物理的処理によるペーストの製造方法としては、特に限定されないが、例えばチョッパー等の裁断機による微細化後、裏ごし、加熱撹拌による野菜のペースト化が好ましい。さらに、減圧濃縮法による野菜ペーストの濃縮を行うことが最も好ましい。減圧濃縮法は、通常行われる野菜ペーストの濃縮化とは異なり、減圧下で行われるので、短時間の間に野菜の繊維を大きく損なうことなく濃縮を行うことができ、本発明に最も適している。減圧の程度は、製造に使用する野菜の種類により適宜変えることが出来るが、野菜ペーストの水分蒸発品温が40℃〜90℃程度であるように調整することが望ましい。また、野菜ペーストを濃縮することで、少ない添加量により良好な粘度をカレーに付与出来る。このことから野菜ペーストは、食物繊維含有率として5%以上であることが、製造工程中、安定した粘度を維持して効率的な生産を実現しながらも、おいしいカレーを作る点で最も好ましい。
【0026】
野菜ペーストは、凍結乾燥前のカレーソースに対し10質量%〜80質量%程度、好ましくは20質量%〜70質量%程度含まれる。
【0027】
カレー粉は、一般に複数の香辛料を組み合わせることによって得られる複合香辛料である。本発明で使用されるカレー粉としては、特に制限されるものではないが、具体的には、ターメリック、サフラン、クミン、コリアンダー、カルダモン、ナツメグ、シナモン、クローブ、ブラックペッパー、フェンネル、陳皮、唐辛子、ジンジャー、オールスパイス、キャラウエイ、山椒、タイム、ホワイトペッパー、アニス、スターアニス、レモングラス、バジル、オニオン、オレガノ、フェヌグリーク、ガーリック、パプリカ、ローリエ等の香辛料の中から、所望の風味に応じて複数種類を組み合わせたものが例示される。
カレー粉は、凍結乾燥前のカレーソースに対し1質量%〜5質量%程度、好ましくは2質量%〜4質量%程度含まれる。
【0028】
具材としては、ジャガイモ、玉ねぎ、にんじんなどの野菜、牛肉、豚肉、鶏肉などの畜肉類、エビ、イカ、貝柱などの魚介類などが挙げられる。
【0029】
凍結乾燥カレー本体の製造は、特に限定されず常法に従い行うことができる。例えば食用油脂を100℃以上に昇温後、カレー粉、スパイス類などを投入して加熱撹拌を行いながらカレールウを製造する。この後、砂糖、食塩、うまみ調味料などの粉末原料を投入して品温を下げ、さらに、畜肉エキス、魚介エキス、野菜エキスなどの液体調味料と水を加えて品温を100℃以下に下げる。最後に必要に応じて野菜ペーストを加えて撹拌を行い、粘度付与を行う。このようにして製造したカレーに人参、玉葱等の野菜や、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉類、エビやイカ、貝柱等の魚介類を混合しても良い。ただし、これらの具材はカレーに混合される前に、ボイル等の加熱処理により、酵素を失活しておく必要がある。酵素活性が残った具材をカレーに混合した場合、野菜ペーストの繊維が分解されて粘度低下が起きる可能性がある。このようにして得られたカレーソースを凍結乾燥することにより、凍結乾燥カレー本体を得ることができる。
【0030】
本発明におけるカレーの凍結乾燥は、当該分野で公知の方法によって行うことができる。具体例としては、カレーを−20℃程度で凍結させ、真空減圧することによってカレー中の水分を昇華させ、凍結乾燥カレーを得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明について、具体的に実施例、及び比較例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1〜2及び比較例1〜10
凍結真空乾燥に供する前のカレーを次の要領で作製した。
【0032】
(実施例のカレーソース1の作製)
まず、ラード4重量部を100℃まで加熱し、カレー粉2.0重量部を加えて120℃まで加熱した。さらに、砂糖3重量部、食塩0.5重量部、カラメル色素0.2重量部、香辛料0.2重量部を加えて撹拌を行い、カレールウとした。こうして得たカレールウを100℃以下まで降温させた後、チキンエキス1重量部、カツオエキス1重量部、野菜ペースト21.6重量部(生姜ペースト2.0重量部、にんにくペースト0.6重量部、トマトペースト5.0重量部、オニオンペーストA7.0重量部、オニオンペーストB7.0重量部)、10mm×10mmにカット後90℃2分間のボイル処理を行った玉ねぎ28.0重量部、さらに、トータルで100重量部となるように水を加えて、90℃達温まで加熱撹拌を行い、カレーソース1を作製した。
【0033】
なお、オニオンペーストAは減圧濃縮法で製造された食物繊維含有率5%のオニオンペーストである。オニオンペーストBは、ダイサーで5mm×5mmにカット後、加熱撹拌によってペースト化された食物繊維含有率1.5%のオニオンペーストである。
【0034】
(実施例の凍結真空乾燥カレーの作製)
以上のようにして仕上げたカレーソース1は、5cm×5cm×2cmのプラスチックトレーに充填を行い、−20℃の冷凍庫に48時間保管して、完全に凍結させた。その後、東洋製作所の凍結真空乾燥機VF−350を用いて乾燥を行い、凍結真空乾燥カレーを得、表1の添加剤を含浸させる事で、実施例1〜2のサンプルを作製した。
【0035】
(比較例のカレーソース2の作製)
まず、ラード4重量部を100℃まで加熱し、カレー粉2.0重量部を加えて120℃まで加熱した。さらに、砂糖3重量部、食塩0.5重量部、カラメル色素0.2重量部、香辛料0.2重量部を加えて撹拌を行い、カレールウとした。こうして得たカレールウを100℃以下まで降温させた後、チキンエキス1重量部、カツオエキス1重量部、オニオンエキス21.6重量部、10mm×10mmにカット後90℃2分間のボイル処理を行った玉ねぎ28.0重量部、さらに、トータルで100重量部となるように水を加えて、90℃達温まで加熱撹拌を行い、カレーソース2を作製した。
【0036】
なお、オニオンエキスは、玉ねぎを摩砕、加熱後に、搾汁したものを濾過し、加熱殺菌後にブリックス60以上まで濃縮したものである。
【0037】
(比較例1〜7の凍結真空乾燥カレーの調整)
以上のようにして仕上げたカレーソース2は、5cm×5cm×2cmのプラスチックトレーに充填を行い、−20℃の冷凍庫に48時間保管して、完全に凍結させた。その後、東洋製作所の凍結真空乾燥機VF−350を用いて乾燥を行い、凍結真空乾燥カレーを得、表2の添加剤を含浸させる事で、比較例1〜7のサンプルを作製した。
【0038】
(比較例のカレーソース3の作製)
まず、ラード4重量部を100℃まで加熱し、カレー粉2.0重量部を加えて120℃まで加熱した。さらに、砂糖3重量部、食塩0.5重量部、カラメル色素0.2重量部、香辛料0.2重量部を加えて撹拌を行い、カレールウとした。こうして得たカレールウを100℃以下まで降温させた後、チキンエキス1重量部、カツオエキス1重量部、オニオンエキス21.6重量部、10mm×10mmにカット後90℃2分間のボイル処理を行った玉ねぎ28.0重量部、さらに、トータルで100重量部となるように水を加えて、90℃達温まで加熱撹拌を行い、カレーソース3を作製した。
【0039】
なお、オニオンエキスは、玉ねぎを摩砕、加熱後に、搾汁したものを濾過し、加熱殺菌後にブリックス60以上まで濃縮したものである。
【0040】
(比較例8〜10の凍結真空乾燥カレーの調整)
以上のようにして仕上げたカレーソース3に、表3に挙げる原料をダマにならないように混合撹拌を行い、充分に粘度がついた事を確認した後、5cm×5cm×2cmのプラスチックトレーに充填を行い、−20℃の冷凍庫に48時間保管して、完全に凍結させた。その後、東洋製作所の凍結真空乾燥機VF−350を用いて乾燥を行い、比較例8〜10の凍結真空乾燥カレーのサンプルを作製した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
(評価例)
表4に実施例1〜2、比較例1〜10の評価例を示す。
(評価方法)
作製したカレーサンプルを、熱湯130ccで湯戻し後、即座に28℃まで冷却して粘度の測定を行った。粘度は、目開き5mmのメッシュで玉ねぎを除去した後に、東機産業(株)製 B型粘度計DVL−BII、ローターNo.3を用いて、撹拌速度30rpm、測定開始後30秒の粘度を測定結果とした。
【0045】
湯戻りの状態は、熱湯投入した後、30秒間撹拌後にダマがない場合を○、ダマがある場合を×とした。官能粘度の評価は、カレーとして好ましい粘度がある場合を○、糸引き性など違和感がある場合を×、粘度が足りない場合を××とした。
総合評価は、5名のパネルにより評価を行い、とても好ましい場合を◎、好ましい場合を○、好ましくない場合を×、とした。
【0046】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜ペーストを含む凍結乾燥カレー本体に、食用油脂と増粘剤を含む増粘剤分散液を含浸又は塗布してなる凍結乾燥カレー。
【請求項2】
前記増粘剤がキサンタンガム及び/又はグアガムである、請求項1に記載の凍結乾燥カレー。
【請求項3】
前記分散液の水分値が15質量%以下である、請求項1又は2に記載の凍結乾燥カレー。
【請求項4】
野菜ペーストを含む凍結乾燥カレー本体に、増粘剤を食用油脂に分散させた分散液を含浸又は塗布することを特徴とする、凍結乾燥カレーの製造方法。
【請求項5】
前記増粘剤がキサンタンガム及び/又はグアガムである、請求項4に記載の凍結乾燥カレーの製造方法。
【請求項6】
前記分散液の水分値が15質量%以下である、請求項4又は5に記載の凍結乾燥カレーの製造方法。

【公開番号】特開2012−170403(P2012−170403A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35781(P2011−35781)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】