説明

内燃機関

【課題】
燃料噴射装置によって引き起こされるエンジン騒音を抑制することのできる内燃機関を提供する。
【解決手段】
燃料噴射装置2を有する内燃機関1において、燃料噴射装置2が、円柱状の燃料噴射装置本体10と、燃料噴射装置本体10の外周面を覆う筒状のスリーブ11と、燃料噴射装置本体10とスリーブ11の間に設置した制振部材12を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置により引き起こされる騒音を抑制した内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の内燃機関において、燃費、排出ガス、騒音などの諸性能の一層の改善が求められている。これらの要求に対応するために、エンジン筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射技術の革新が進められている。具体的には、例えば、圧電素子(ピエゾ素子ともいう)により燃料噴射弁を駆動する燃料噴射装置(ピエゾインジェクタともいう)が使用されている。
【0003】
このピエゾ素子は、応答性に優れ、印加電圧及び電流によってピエゾ素子の伸縮を制御することができる。そのため、ピエゾ素子の採用により、内燃機関の1サイクルあたりの燃料噴射回数、単位時間あたりの燃料噴射量(噴射率)などの燃料噴射形態の調整の自由度を向上することができる。
【0004】
従来、ピエゾインジェクタを用いて騒音の改善を図る場合、特に燃焼に起因して発生する燃焼音を改善する場合には、燃料噴射形態として燃料噴射を複数回に分ける多段噴射(マルチ噴射ともいう)を採用している。このマルチ噴射により、燃焼初期の急激なシリンダ内圧力の上昇率(以下、圧力上昇率という)を抑制することができ、燃焼音を改善することができる。
【0005】
ピエゾインジェクタのマルチ噴射は、燃焼音を改善する一方、新たな騒音(以下、燃料噴射音)を発生させている。つまり、燃料噴射回数の増加に伴い、ピエゾインジェクタ内部の可動部品から発生する加振力が増加し、この加振力が噴射音となって伝達されている。この噴射音は、周波数帯域が2kHz以上の比較的高い周波数帯であり、騒音レベルの増大だけでなく、耳障りで不快な音であるという問題も有している。
【0006】
この騒音(燃料噴射音)を抑制するために、燃料噴射装置(ピエゾインジェクタ等)が接触するエンジンのシリンダヘッドと、燃料噴射装置の間に振動吸収部材を設置し、燃料噴射装置からエンジンへの振動伝達を抑制する構成が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、上記の燃料噴射装置では、十分な騒音を防止することができないという問題を有している。これは、燃料噴射装置の振動が、燃料噴射装置をシリンダヘッドに押しつける固定具から伝達され、シリンダヘッド、シリンダカバー、シリンダブロックなどのエンジン構造部品から発生する騒音(以下、エンジン騒音という)が発生するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−281296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、燃料噴射装置によって引き起こされるエンジン騒音を抑制することのできる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明に係る内燃機関は、燃料噴射装置を有する内燃機関において、前記燃料噴射装置が、円柱状の燃料噴射装置本体と、前記燃料噴射装置本体の外周面を覆う筒状のスリーブと、前記燃料噴射装置本体と前記スリーブの間に設置した制振部材を有することを特徴とする。
【0011】
この構成により、エンジン騒音を抑制することができる。これは、燃料噴射装置から内燃機関のシリンダヘッドに伝達する加振力を、スリーブ及び制振部材で抑制することができるためである。
【0012】
上記の内燃機関において、前記燃料噴射装置本体が、燃料を噴射するノズルと、ノズルの後方に形成した膨出部を有し、前記スリーブが、前記膨出部の後端側に当接する前方当接面と、前記燃料噴射装置を固定する固定ブラケットに当接する後方当接面を有しており、前記スリーブが、前記固定ブラケットにより前記膨出部に押し付けられる構成を有することを特徴とする。
【0013】
この構成により、エンジン騒音を更に抑制することができる。これは、燃料噴射装置と固定用ブラケットをネジ止めや溶接などで固定しないためである。
【0014】
上記の内燃機関において、前記スリーブの前方当接面と、前記膨出部の後端側の間に制振部材を配置したことを特徴とする。この構成により、エンジン騒音を更に抑制することができる。これは、燃料噴射装置本体で発生した振動が、必ず制振部材を介して固定ブラケットに伝達されるようになるためである。
【0015】
上記の内燃機関において、前記制振部材が、ブチルゴム、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はこれらの複合材で構成したことを特徴とする。振動エネルギを熱エネルギとして消費しやすい制振部材を使用する構成により、エンジン騒音を更に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る内燃機関によれば、燃料噴射装置によって引き起こされるエンジン騒音を抑制することのできる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施の形態の内燃機関の燃料噴射装置周辺の概略を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の内燃機関の燃料噴射装置を分解した様子を示した図である。
【図3】本発明に係る異なる実施の形態の内燃機関の燃料噴射装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態の内燃機関(例えばディーゼルエンジン)1の燃料噴射装置2周辺の概略を示す。この内燃機関1は、シリンダヘッド3と、シリンダヘッド3に当接する燃料噴射装置2と、燃料噴射装置2を固定する固定ブラケット4を有している。
【0019】
燃料噴射装置2は、円柱状の燃料噴射装置本体(以下、本体という)10と、本体10の外周面を覆う筒状のスリーブ11と、本体10とスリーブ11の間に設置した制振部材
12を有している。固定ブラケット4は、少なくともスリーブ11と接触しており、スリーブ11をシリンダヘッド側3(図1の下方側)に押し付けるように構成している。ここで、固定ブラケット4は、本体10と接触しないように構成することが望ましい。
【0020】
なお、21はシリンダブロック、22は固定ブラケット4をシリンダヘッド3に固定する固定ボルト、23はシリンダヘッドカバー、24は燃料パイプ、25はオイルシールを示している。また、この燃料噴射装置2の構造は、ピエゾインジェクタやソレノイドインジェクタ等、燃料噴射音が問題となるようなインジェクタに採用することができる。
【0021】
図2に、燃料噴射装置2を分解した様子を示す。燃料噴射装置2は、燃料噴射装置本体10と、制振部材12と、スリーブ11を有しており、互いの部品の中心軸が重なるように設置されている。本体10は、膨出部13と、燃料を噴射するノズル14を有している。また、スリーブ11は、本体10の膨出部13の後端側と当接する前方当接面15と、固定ブラケット4(図示しない)と当接する後方当接面16を有している。
【0022】
次に、図1及び図2に示す燃料噴射装置2の配置について説明する。図1に示す様に燃料噴射装置2は、シリンダヘッド3に形成した貫通孔に挿入され、スリーブ11の後方当接面16(図2参照)に固定ブラケット4を当接されている。固定ブラケット4は、固定ボルト22によりシリンダヘッド3に固定され、且つ燃料噴射装置2をシリンダブロック14側に押し付けるように構成されている。
【0023】
ここで、スリーブ11は、本体10にネジ止め、溶接等で固定されておらず、制振部材12を介して配置されているのみである。また、固定ブラケット4は、本体10と接触しないように構成することが望ましい。更に、制振部材12は、ブチルゴム、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はこれらの複合材等、振動減衰率が高い材料を使用することが望ましい。
【0024】
上記の構成により、内燃機関1はエンジン騒音を抑制することができる。これは、第1に、燃料噴射装置2から固定ブラケット4を介して、シリンダヘッド3に伝達される振動を抑制することができるためである。詳しくは、燃料噴射装置本体10で発生した加振力が制振部材12、スリーブ11及び固定ブラケット4等を伝達する際、その振動エネルギが、それぞれの部品同士の結合部で散逸し、減衰するためである(以下、構造減衰という)。特に、燃料噴射装置2を直接固定ブラケット4に固定せず、スリーブ11を介して結合面を増やす構成により、構造減衰を利用した振動減衰効果を向上することができる。
【0025】
第2に、燃料噴射装置本体10で発生した加振力の振動エネルギが、制振部材12等の部品の内部で熱エネルギとして消費され、減衰するためである(以下、材料減衰という)。特に、制振部材12を材料減衰による減衰性の高い材料(例えばポリプロピレン等)とする構成により、材料減衰を利用した振動減衰効果を向上することができる。
【0026】
なお、スリーブ11及び制振部材12は、一体に形成した円筒形状に限られない。例えば、スリーブ11等の中心軸と平行な方向に2つ以上に分割した半割円筒の組み合わせとしてもよく、また中心軸と垂直な方向に2つ以上に分割した短管の組み合わせとしてもよい。この構成により、構造減衰を利用した振動減衰効果を向上することができる。
【0027】
図3に、本発明に係る異なる実施の形態の内燃機関1aの燃料噴射装置2aの概略を示す。この燃料噴射装置2aは、本体10の膨出部13の後端側と、スリーブ11aの前方当接面15aの間に制振部材12aを配置している。この構成により、本体10で発生した加振力が、必ず制振部材12aを通過するようになるため、エンジン騒音を更に抑制することができる。
【0028】
以上より、本発明の内燃機関1、1aは、燃料噴射装置2、2aからシリンダヘッド3へ作用する加振力のうち、固定ブラケット4を介して入力される振動を低減し、シリンダヘッド3及びこれと接合するシリンダヘッドカバー23、シリンダブロック21、エキゾーストマニホールド(図示しない)などエンジン構造部品で発生する振動を抑制し、燃料噴射音を改善することができる。これにより、エンジン騒音の騒音レベルの低減のみならず、エンジン音質も改善することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 内燃機関
2 燃料噴射装置
3 シリンダヘッド
4 固定ブラケット
10 燃料噴射装置本体(本体)
11 スリーブ
12 制振部材
13 膨出部
14 ノズル
15 前方当接面
16 後方当接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射装置を有する内燃機関において、
前記燃料噴射装置が、円柱状の燃料噴射装置本体と、前記燃料噴射装置本体の外周面を覆う筒状のスリーブと、前記燃料噴射装置本体と前記スリーブの間に設置した制振部材を有することを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記燃料噴射装置本体が、燃料を噴射するノズルと、ノズルの後方に形成した膨出部を有し、
前記スリーブが、前記膨出部の後端側に当接する前方当接面と、前記燃料噴射装置を固定する固定ブラケットに当接する後方当接面を有しており、
前記スリーブが、前記固定ブラケットにより前記膨出部に押し付けられる構成を有することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記スリーブの前方当接面と、前記膨出部の後端側の間に制振部材を配置したことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記制振部材が、ブチルゴム、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はこれらの複合材で構成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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