説明

内燃機関及びそれを搭載した車両

【課題】ベアリングキャップを従来よりも小さく形成し、重量を軽くすると共に、シリンダブロックのスカート部の剛性を高めることで、少しの重量増で騒音及び振動を抑制することができる内燃機関とそれを搭載した車両を提供する。
【解決手段】エンジン(内燃機関)1に、下部両側にスカート部9を有するシリンダブロック3を備え、シリンダブロック3のキャップ取付部6に装着され、クランクシャフトS1を下方から支持するベアリングキャップ7を左右のスカート部9に接触しないように形成すると共に、左右のスカート部9同士をベアリングキャップ7に接触しないように配置された拘束ボルト11と拘束ナット12とからなる拘束部材10で連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少しの重量増で、シリンダブロックの振動、又は騒音を低減すると共に、交差設定などの加工を不要にするシリンダブロック構造を有する内燃機関、及びそれを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)において、シリンダブロックの下部に位置し、クランクシャフトを軸支するクランク室周りは、エンジンの騒音源となっている。これは、ピストンの往復動の慣性力がクランクシャフトに交番的に作用するからである。
【0003】
ここで、従来のシリンダブロック構造を有したエンジンについて、図6を参照しながら説明する。エンジン1Xは、シリンダヘッド2、シリンダブロック3X、及びオイルパン4を備え、シリンダブロック3XのシリンダC1内にピストンP1とコンロッドR1を備える。シリンダブロック3Xの下部には、クランクシャフトS1を軸支するクランク室5Xを設ける。このクランク室5Xを、キャップ取付部6とベアリングキャップ7Xとをボルト8により締結して形成する。また、このクランク室5はシリンダブロック3Xのスカート部9によって囲われている。
【0004】
ピストンP1がシリンダC1内を上下動することにより、コンロッドR1を介してクランクシャフトS1が回転駆動する。このときのクランクシャフトS1の加振力により、ベアリングキャップ7Xが振動し、それに起因してシリンダブロック3Xに振動、及び騒音が生じる。このシリンダブロック3Xに伝達された振動と騒音を、スカート部8が放射音として発する。
【0005】
この対策として、スカート部8の剛性を高めて振動と騒音を抑制する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置について、図7を参照しながら説明する。図7の(a)に示すエンジン1Yは、上記の構成ベアリングキャップがスカート部8の内側壁に当接するように、ベアリングキャップ7Yが当接部11Yを備える。このベアリングキャップ7Yをスカート部8の外側壁からサイドボルト12によって締結する。また、図7の(b)に示すエンジン1Zは、スカート部8にボス部13を設けて、当接部11Zを有したベアリングキャップ7Zとサイドボルト12によって締結する。
【0006】
上記の装置によれば、ベアリングキャップ7Yと7Zをスカート部8とそれぞれ接合することで、スカート部8の剛性を高めることができ、シリンダブロック1Yと1Zの振動と騒音を抑制することができる。
【0007】
しかしながら、上記の装置はベアリングキャップが大きくなり、それに伴い重量も増えてしまうという問題がある。また、ベアリングキャップとスカート部の内側壁とを当接する必要があり、その接触面の交差の設定による製造コストの増加という問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭62−18355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、少しの重量増で、シ
リンダブロックの振動と騒音を抑制することができ、且つ製造コストを低減することができる内燃機関とそれを搭載した車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を解決するための本発明の内燃機関は、下部両側にスカート部を有するシリンダブロックを備えた内燃機関において、前記シリンダブロックに固定され、クランクシャフトを下方から支持するベアリングキャップを前記スカート部に接触しないように形成すると共に、前記スカート部同士を連結する拘束部材を前記ベアリングキャップに接触しないように設けて構成される。
【0011】
この構成によれば、少しの重量増で騒音及び振動を抑制することができる。
【0012】
ベアリングキャップをスカート部と接触しないように形成することで、従来のラダーフレームやサイドボルト付きシリンダブロックに比べてベアリングキャップを小さくできるので、その分シリンダブロックを軽くすることができる。左右のスカート部の剛性は、左右のスカート部を拘束部材によって連結して、拘束することによって、高められるので、振動が伝わっても騒音を発生するような振動現象を封じて、スカート部の振動及び騒音を抑制することができる。よって、ベアリングキャップとスカート部をサイドボルトによって接合する従来のものと同等の騒音及び振動を抑制する効果を持ちながら、従来よりも重量を低減することができる。
【0013】
また、スカート部とベアリングキャップとが当接しないため、従来では不可欠であった交差の設定などが不要となり、製造コストを低減することができる。
【0014】
加えて、スカート部とベアリングキャップとを非接触にすることにより、ベアリングキャップから直接スカート部に伝達する振動を抑制することもできる。
【0015】
また、上記の内燃機関において、前記拘束部材をボルトで形成し、前記スカート部同士を前記ボルトで締結する。この構成によれば、クランク室の左右に配置されるスカート部を1本のボルトで締結して、スカート部の剛性を高めることができる。そのため、容易に製造することが可能となり、製造コストを低減することができる。
【0016】
加えて、上記の内燃機関において、前記スカート部の底面が前記ベアリングキャップの底面よりも低く形成され、前記ベアリングキャップの底面よりも低い位置に前記拘束部材を配置すると、この構成により、所謂ロングスカートタイプと呼ばれるスカート部を有したシリンダブロックに適用でき、上記と同様の作用効果を得ることができる。また、スカート部とベアリングキャップとを非接触にし、さらに拘束部材とベアリングキャップとを非接触にすることにより、スカート部に伝達する振動を抑制することができる。
【0017】
さらに、上記の内燃機関において、前記スカート部の底面が前記ベアリングキャップの上面と略同等の高さに形成され、両側をボルトで締結されたクランクケースを前記拘束部材として、前記クランクケースと前記スカート部の底面を固定する。この構成によれば、ハーフスカートタイプのシリンダブロックに固定されるクランクケースの両側をボルトで締結することによって、スカート部を拘束することができる。これにより、ハーフスカートタイプのシリンダブロックでも、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0018】
上記の問題を解決するための車両は、上記に記載の内燃機関を搭載して構成される。この構成によれば、少ない重量増で騒音を低減することができる。また、ベアリングキャップの加工コストも低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、少しの重量増で、シリンダブロックの振動と騒音を抑制することができ、且つ製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関を示した断面図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関を示した側面図である。
【図3】本発明に係る第2の実施の形態の内燃機関を示した図であり、(a)に内燃機関の断面図を示し、(b)に内燃機関の側面図を示した図である。
【図4】本発明に係る第3の実施の形態の内燃機関を示した断面図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の内燃機関の結果を示した図である。
【図6】従来の内燃機関を示した図である。
【図7】従来の内燃機関を示した図であり、(a)に従来の騒音及び振動対策を行った内燃機関を示し、(b)に別の対策を行った内燃機関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る第1及び第2実施の形態の内燃機関とそれを搭載した車両について、図面を参照しながら説明する。なお、図6及び図7に示した従来の内燃機関と同様の構成については、同一符号を用いてその説明を省略する。この実施の形態は、直列4気筒のディーゼルエンジンを例に説明するが、本発明は気筒数や、気筒の配列を限定しない。また、ディーゼルエンジンに限定せずに、ガソリンエンジンにも適用することができる。
【0022】
まず、本発明に係る実施の形態の内燃機関について、図1を参照しながら説明する。エンジン(内燃機関)1のシリンダブロック3の下部に設けられるクランク室5を、キャップ取付部6とベアリングキャップ7とを、クランクシャフトS1を軸支するように、ボルト8で締結して形成する。
【0023】
キャップ取付部6を、クランクシャフトS1の軸方向に各気筒を仕切るように間隔を隔てて形成し、その底面にベアリングキャップ7を装着するためのボルト8をねじ込むボルト孔(図示せず)を設ける。このベアリングキャップ7はキャップ取付部6に嵌め込まれる形状を有し、さらに内部にキャップ取付部6のボルト孔に繋がるようにボルト8の貫通孔(図示せず)を有する。このベアリングキャップ7を、左右のスカート部9と接触しないような大きさに形成する。上記のキャップ取付部6とベアリングキャップ7からなるクランク室5は、クランクシャフトS1を軸支することができればよく、上記の構成に限定しない。
【0024】
そして、左右のスカート部9を、ベアリングキャップ7と接しない位置に配置する拘束部材10により連結し、拘束する。この左右のスカート部9は、貫通孔9aとオイルパン(図示しない)と接合する底面9bを備える。貫通孔9aをベアリングキャップ7の下面7aよりも低い位置に配置し、ボルトが貫通するように形成する。また、この左右のスカート部9を、その底面9bが、拘束部材10の配置位置10aよりも低い位置になるように形成する。このようなスカート部9を有するシリンダブロック3は、ロングスカートタイプ、又はディープスカートタイプと呼ばれるものである。
【0025】
拘束部材10は、拘束ボルト11と拘束ナット12とからなる。この拘束ボルト11を例えば、左のスカート部9の外側から右のスカート部9の外側まで貫通させて、右側のスカート部9外側から、その先端を拘束ナット12で締結する。この拘束部材10は、左右のスカート部9を連結し、拘束して、剛性を高めることができればよく、上記の構成に限定しないが、製造作業が容易であるため、上記の構成が好ましい。
【0026】
次に、このエンジン1の動作について説明する。エンジン1の運転時に、シリンダC1内で起こる燃焼によりピストンP1がシリンダC1内を上下動する。この燃焼圧力はコンロッドR1を介してクランクシャフトS1に伝えられ、その燃焼圧力によりクランクシャフトS1と共に、ベアリングキャップ7を押し下げようとする。そのため、シリンダブロック3の左右のスカート部9が左右方向に開くように力が加わる。
【0027】
しかしながら、拘束部材10により、左右のスカート部9が拘束されているため、左右方向の変形を抑制することができる。よって、クランクシャフト3の回転にフリクションが生じずに、騒音を低減することができる。また、燃焼圧力によりベアリングキャップ7が振動するが、その振動はベアリングキャップ7と左右のスカート部9とが接していないため、直接伝達しない。
【0028】
上記の構成によれば、スカート部9と接触させないようにベアリングキャップ7を形成することにより、図7に示したように、スカート部の剛性を高めるための当接部が不要となり、ベアリングキャップ7Y及び7Zよりも、図1に示すベアリングキャップ7を小さく形成することができ、従来よりも軽量のベアリングキャップ7を使用することができる。また、合せて、スカート部と当接する場合と比べて交差設定などが不要となるため、容易に加工することができ、製造コストを低減することができる。
【0029】
上記の作用効果に加えて、左右のスカート部9が拘束部材10により拘束されることにより、図6に示す従来のシリンダブロック構造と同等に、図1のシリンダブロック3の剛性を高めることができる。そのため、スカート部9に振動が伝わっても騒音を発生するような振動現象を封じて、スカート部9の振動及び騒音を抑制することができる。さらに、スカート9と拘束部材10それぞれが、ベアリングキャップ7と接触しないように構成されているため、ベアリングキャップ7からの振動の伝達を抑制することができる。
【0030】
その上、スカート部9に拘束ボルト11を貫通させて、拘束ナット12で締結するだけで、上記の作用効果を得ることができるため、製造を容易にすることができる。
【0031】
拘束部材10は、図2に示すように、気筒毎に設けることが好ましい。これによれば、シリンダブロック3の剛性を全域に渡って高めることができる。また、各気筒の燃焼圧力による騒音、及び振動による左右のスカート部9の変形も抑制することができる。
【0032】
次に、本発明に係る第2の実施の形態の内燃機関について、図3を参照しながら説明する。エンジン21は、図3の(a)に示すように、シリンダブロック23にハーフスカートタイプと呼ばれているスカート部29を備える。このハーフスカートタイプのシリンダブロック23では、前述のように、ベアリングキャップ27の下方に拘束部材を設けることができないため、キャップ取付部26の上部に拘束ボルト31と拘束ナット32とからなる拘束部材30を設ける。また、このエンジン21は、図3の(b)に示すように、各気筒の間に拘束ボルト31と図示しない拘束ナット32により締結している。
【0033】
上記の構成によれば、エンジン1の全長を低くするためのハーフスカートタイプのシリンダブロック23を有したエンジン21でも、上記と同様の作用効果を得ることが出来る。
【0034】
次に、本発明に係る第3の実施の形態の内燃機関について、図4を参照しながら説明する。上記のハーフスカートタイプのシリンダブロック23の底面に、クランクケース43を設ける。このクランクケース43とシリンダブロック23の底面とを、図示しないボルトによって締結する。そして、このクランクケース43の左右両側を、拘束ボルト41と拘束ナット42により拘束する。
【0035】
上記の構成によれば、シリンダブロック23のハーフスカートタイプの左右のスカート部29が、拘束ボルト41、拘束ナット42、及びクランクケース43からなる拘束部材40によって、拘束されるため、その剛性を高めて騒音と振動を抑制することができる。これにより、全長を低くすることができると共に、上記の作用効果と同様の効果を得ることができる。
【0036】
本発明に係る第1、第2、及び第3の実施の形態のエンジン1と従来の形態のエンジン1Xとを搭載した車両の周波数に対する、音のエネルギを示す物理量である音響パワーレベルを図4に示す。図6に示す、従来のエンジン1Xに比べて、本発明のエンジン1の方が、音響パワーレベルが低くなっていることがわかる。これは、21と1Xの比較でも同様の傾向となる。また、これは、図7に示すようなベアリングキャップとスカート部とを接合するエンジンと略同様の値を示している。
【0037】
よって、本発明に係る第1、第2、及び第3のエンジン1及び21は、騒音や振動を低減すると共に、ベアリングキャップ7及び27を小さくすることができるので、その重量を軽くすることができる。また、ベアリングキャップ7及び27と左右のスカート部9及び29とを当接するための交差設定などが不要となるため、ベアリングキャップ7及び27の加工が容易で、その製造も容易になり、製造コストを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の内燃機関は、少しの重量増で、騒音や振動を低減すると共に、製造コストを低減することができるため、特にディーゼルエンジンを搭載した車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1、21 エンジン(内燃機関)
2、22 シリンダヘッド
3、23 シリンダブロック
4、24 オイルパン
5、25 クランク室
6、26 キャップ取付部
7、27 ベアリングキャップ
8、28 ボルト
9、29 スカート部
10、30、40 拘束部材
11、31、41 拘束ボルト
12、32、42 拘束ナット
43 クランクケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部両側にスカート部を有するシリンダブロックを備えた内燃機関において、前記シリンダブロックに固定され、クランクシャフトを下方から支持するベアリングキャップを前記スカート部に接触しないように形成すると共に、前記スカート部同士を連結する拘束部材を前記ベアリングキャップに接触しないように設けることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記拘束部材をボルトで形成し、前記スカート部同士を前記ボルトで締結することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記スカート部の底面が前記ベアリングキャップの底面よりも低く形成され、前記ベアリングキャップの底面よりも低い位置に前記拘束部材を配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記スカート部の底面が前記ベアリングキャップの上面と略同等の高さに形成され、
両側をボルトで締結されたクランクケースを前記拘束部材として、前記クランクケースと前記スカート部の底面を固定することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関を搭載することを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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