説明

信号検出装置

【課題】安定に確度高く入力信号に含まれる既知のシンボル列を検出する装置を提供する。
【解決手段】既知のシンボル列を含み得る信号を信号空間上で示す入力ベクトルと、前記既知のシンボル列を時系列の順に示す基準ベクトルとの内積もしくは前記内積の近似を前記時系列の順に個別に得る内積演算手段11と、前記内積演算手段によって得られた内積もしくは近似毎の前記時系列順における電力の和と所定の閾値thとの大小関係として、前記信号に前記既知のシンボル列が含まれるか否かを判別する判別手段12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された信号に含まれる既知のシンボル列を検出する信号検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通信系や伝送系の受信端では、伝送路を介して到来する所望の信号は、例えば、既知の占有帯域内で直交復調され、さらに、FFT(Fast Fourie Transform )等の周波数解析が施されることにより、実際に到来しあるいは受信されたか否かの判別が行われる。
【0003】
なお、本発明に関連性がある先行技術としては、以下に列記する特許文献1および特許文献2があった。
(1) 「多値QAM方式を利用した通信システムでの信号フレーム内のパイロットシンボルを用いて同期をとるフレーム同期方法において、信号フレーム中にパイロットシンボルを2個以上割り当て、各パイロットシンボルは、振幅値が最大であり、かつ、I−Q平面上での位相が異なる2種類以上のシンボルから成り、各パイロットシンボル間の内積演算結果を用いてパイロットシンボル位置を検出する」ことにより、「多値QAM方式を用いた通信においてノイズの影響を受けにくく容易にフレーム同期を行う」点に特徴かあるフレーム同期方法および装置…特許文献1
【0004】
(2) 「パイロットシンボルが挿入された信号フレームを多値QAM方式により送信装置から受信装置へ送信する通信システムのフレーム同期判定装置において、1信号フレームをN個のシンボルから構成し、N個のシンボルのうち、パイロットシンボルをn個(ただし、nは2以上の自然数)配置し、n個のパイロットシンボルのうち、少なくとも一組は異なるよう、且つn個のパイロットシンボルのうち、どの2個も信号点配置図中で位相差がπ/2にはならないように割り当て、受信装置は、入力シンボル間の内積の演算を行う内積演算手段と、該内積演算手段により演算された演算結果の移動平均を計算し記憶する移動平均計算記憶手段と、該移動平均計算記憶手段に設けられたN個の記憶手段と、該記憶手段に記憶されたN個の値をそれぞれ比較して、パイロットシンボルの位置を判定する比較判定手段とを備える」ことにより、「パイロットシンボルの検出を簡単な構成で高精度に行い、多値QAM方式を利用した通信システムにおいてフレーム同期が確実にとる」点に特徴があるフレーム同期装置及びフレーム同期方法…特許文献2
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−121454号公報
【特許文献2】特開2007−006014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来例では、既述のFFTそのものが積分演算であるために、入力された信号がパルス波やバースト波である場合には、十分な精度および速度による周波数分析の実現に必要な演算対象(該当する信号の瞬時値の列)が得られない可能性があった。
【0007】
しかも、このようなFFTでは、一般に、演算対象と周波数分解能との間に固有の制約がある。
【0008】
したがって、既述の判別の対象となる信号は、特に、単発のパルス波、あるいは著しく短いバースト波として到来する場合には、受信端に到来して受信されたことの判別が可能であるとは限らなかった。
【0009】
本発明は、入力される信号のレベル、その信号の生成に適用された変調方式、伝送方式、多元接続方式の如何にかかわらず、安定に確度高くその信号に含まれるシンボル列を検出できる信号検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明では、内積演算手段は、既知のシンボル列を含み得る信号を信号空間上で示す入力ベクトルと、前記既知のシンボル列を時系列の順に示す基準ベクトルとの内積もしくは前記内積の近似を前記時系列の順に個別に得る。判別手段は、前記内積演算手段によって得られた内積もしくは近似毎の前記時系列順における電力の和と所定の閾値thとの大小関係として、前記信号に前記既知のシンボル列が含まれるか否かを判別する。
【0011】
上記内積または近似は、時系列の順における入力ベクトルと基準ベクトルとの間における振幅の格差と位相の格差とが少ないほど、これらのベクトルが等しい場合における値より小さな値とはなり難く、かつ上述した閾値thとの大小関係の判別の対象となる「電力の和」は、その内積または近似の振幅の二乗値に等しい。
【0012】
請求項2に記載の発明では、内積演算手段は、既知のシンボル列を含み得る信号を信号空間上で示す入力ベクトルと、前記既知のシンボル列を時系列の順に示す基準ベクトルとの内積もしくは前記内積の近似を前記時系列の順に個別に得る。判別手段は、前記内積演算手段によって得られた内積もしくは近似毎の前記時系列順における電力の和と所定の閾値thとの大小関係と、前記内積もしくは前記近似の電力と所定の閾値THとの大小関係との組み合わせとして、前記信号に前記既知のシンボル列が含まれるか否かを判別する。
【0013】
既知のシンボル列の有無の判別は、上記閾値THとして設定されるレベル以上で入力された信号に限定される。
【0014】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の信号検出装置において、前記閾値thは、前記時系列の順における前記内積もしくは前記内積の近似の電力未満の値である。
【0015】
すなわち、既知のシンボル列の有無の判別に供される閾thは、そのシンボル列を含む信号のレベルの増減に応じて可変される。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の信号検出装置において、期間識別手段は、前記時系列の順における前記内積もしくは前記内積の近似の電力が所定の閾値TH′を上回る時点と、前記信号における前記既知のシンボル列の配置とに基づいて、前記既知のシンボル列が前記信号に含まれる期間を識別する。
【0017】
すなわち、上記信号における既知のシンボル列の配置に柔軟に適応して、その既知のシンボル列が信号に含まれる期間が特定される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、積分演算である周波数分析が行われることなく、簡便な算術演算の下で、既知のシンボル列の有無の判別が実現される。
【0019】
また、本発明では、レベルが過小な信号に対して「既知のシンボル列の有無の判別」が行われることに起因する資源の消費や応答性の回避が図られる。
【0020】
さらに、本発明では、多様なレベルの信号に対する柔軟な適応が可能となる。
また、本発明では、既知のシンボル列の識別に基づく同期、伝送情報の抽出、通信制御の柔軟の実現が可能となる。
【0021】
したがって、本発明が適用された通信系や伝送系では、構成の複雑化と応答性の低下とを伴うことなく、性能および信頼性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本実施形態の動作を説明する図である。
【図3】本実施形態における相関・電力演算部の動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す図である。
図において、内積演算部11の入力には、本実施形態にかかる受信端に到来した受信波が直交復調され、かつA/D変換されることによって生成された互いに直交するi信号とq信号とが入力される。その内積演算部11が有する2つの出力は相関・電力演算部12の対応する入力に接続され、この相関・電力演算部12の出力には、後述する判別値Dおよび電力Pが出力される。
【0024】
図2は、本実施形態の動作を説明する図である。
図3は、本実施形態における相関・電力演算部の動作フローチャートである。
以下、図1〜図3を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0025】
上記受信波は、図2(1) に示すように、既知の語を何らかのフィールドに含むパケット(またはフレーム)で変調された単発のパルス(または短いバースト波)として到来する。
【0026】
このような受信波は、既述の直交復調およびA/D変換が施されることにより、シンボル単位のベクトルXの列に変換される。このベクトルXの振幅axおよび位相θxには、上記受信波の伝搬路の特性とその特性の変動とに起因して生じ、かつ変動し得る偏差を伴う。
【0027】
内積演算部11には、上記既知の語を示し、かつ互いに直交するベクトル(以下、「基準ベクトル」という。)Bの列(図2(2))が予め与えられる。
【0028】
内積演算部11は、上記ベクトルXの列を時系列の順にシンボルレートで取り込み、何れのベクトルXの列に含まれる個々のベクトルxと、既述のベクトルBの列に含まれるベクトルbとの内積y(下式(a) で示される。)を求める。なお、θは、図2の破線枠に示すベクトルxとベクトルbとの位相の差(=θx−θb)である。
y=|x|・|b| cosθ ・・・(a)
【0029】
さらに、内積演算部11は、上記内積yの互いに直交する成分yi、yqの対として、その内積yを相関・電力演算部12に順次引き渡す。
【0030】
相関・電力演算部12は、以下の処理を行う。
(1) 上記内積yの列Y(既知の語を示すシンボルと同数のシンボルを含む。)毎に、下式(b)、(c)、(d) に示す算術演算を行うことにより、判定値D、電力Pおよび閾値thを求める(図3ステップS1)。ただし、kは、「1」未満の係数であって、予め定数として設定され、あるいは所望の通信制御の下で適宜更新されてもよい。
【0031】
D=(Σyi)+(Σyq) ・・・(b)
P=Σ(yi+yq) ・・・(c)
th=k・P ・・・(d)
【0032】
(2) 判定値Dと閾値thとを比較し(図3ステップS2)、前者が後者を上回る場合には、既述の既知の語を含むパケットまたはフレームが受信波として到来したことを識別し(図3ステップS3)、所定の通信制御やプロトコル制御を行うユニットや装置(図示されない。)にその識別の結果を通知する(図3ステップS4)。
【0033】
ところで、既述の内積yの振幅は、上式(a) に示されるように、一般に、上記ベクトルx、bの間における振幅ax,abの格差と位相θx,θbの格差とが少ないほど、これらのベクトルx、bが等しい場合における値より小さな値とはならない。
【0034】
また、このような内積yの振幅の二乗値は、上式(b) に示すように、判定値Dに等しい。
さらに、既述の演算の過程では、受信波に含まれる成分の内、ベクトルXの列に変換される主要な周波数成分以外の成分は、演算対象から除外される。
【0035】
すなわち、本実施形態によれば、積分演算として実現される周波数分析が行われることなく、かつ既述の簡便な算術演算の下で、既知のシンボル列が受信波として到来したか否かの判別が実現される。
【0036】
したがって、本実施形態によれば、既知のシンボル列で変調された受信波が単発のパルス波や短いバースト波として到来する場合であっても、その受信波が到来したことが安定かつ高速に確度高く検出される。
【0037】
なお、本発明は、既知のシンボル列のみで変調されたパルス波やバースト波として到来する受信波にも、同様に適用可能である。
【0038】
また、本発明は、既述の受信波の生成に適用された変調方式、多元接続方式の何れも、既知のシンボル列に含まれる全てのシンボルの信号点が既知の情報として与えられるならば、如何なるものであってもよい。
【0039】
さらに、本実施形態では、内積yは、既述の式(a) で示される算術演算に基づいて求められなくてもよく、「ベクトルx、bの振幅と位相との双方の格差が少ないほど、これらのベクトルx、bが等しい場合における値に比べて小さな値とはならない」との特性を所望の精度で有するならば、例えば、下式で示される近似の内積y′、y′′の何れで代替されてもよい。
【0040】
y′=|x|・|b| ・(1−sinθ)
y′′=|x|・|b| ・cos(θ−π/2)
【0041】
また、本実施形態では、既述のパルス波やバースト波について既知であるフォーマット(長さ、既知のシンボル列の配置および長さを含む)と、相関・電力演算部12によって識別(図3ステップS3)が行われた時点とに基づいて、これらのパルス波やバスト波が受信された期間を特定する処理が併せて行われてもよい。。
【0042】
さらに、本実施形態では、既述の直交復調は、準同期検波と同期検波との何れに基づいて行われてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、既述の内積yの値(またはその二乗値)が所定の閾値THを上回るときに限って、既知のシンボル列が受信波として到来したか否かの判別が行われることによって、このような閾THとして設定されるレベル以上の受信波のみがその判別の対象となってもよい。
【0044】
さらに、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【符号の説明】
【0045】
11 内積演算部
12 相関・電力演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知のシンボル列を含み得る信号を信号空間上で示す入力ベクトルと、前記既知のシンボル列を時系列の順に示す基準ベクトルとの内積もしくは前記内積の近似を前記時系列の順に個別に得る内積演算手段と、
前記内積演算手段によって得られた内積もしくは近似毎の前記時系列順における電力の和と所定の閾値thとの大小関係として、前記信号に前記既知のシンボル列が含まれるか否かを判別する判別手段と
を備えたことを特徴とする信号検出装置。
【請求項2】
既知のシンボル列を含み得る信号を信号空間上で示す入力ベクトルと、前記既知のシンボル列を時系列の順に示す基準ベクトルとの内積もしくは前記内積の近似を前記時系列の順に個別に得る内積演算手段と、
前記内積演算手段によって得られた内積もしくは近似毎の前記時系列順における電力の和と所定の閾値thとの大小関係と、前記内積もしくは前記近似の電力と所定の閾値THとの大小関係との組み合わせとして、前記信号に前記既知のシンボル列が含まれるか否かを判別する判別手段と
を備えたことを特徴とする信号検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の信号検出装置において、
前記閾値thは、
前記時系列の順における前記内積もしくは前記近似の電力未満の値である
ことを特徴とする信号検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の信号検出装置において、
前記時系列の順における前記内積もしくは前記内積の近似の電力が所定の閾値TH′を上回る時点と、前記信号における前記既知のシンボル列の配置とに基づいて、前記既知のシンボル列が前記信号に含まれる期間を識別する期間識別手段を備えた
ことを特徴とする信号検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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