マイクロ波樹脂溶着体及びそれによる溶着方法
【課題】樹脂製の成型体の熱容量が均一でなくても、また、樹脂製の成型体相互間の溶着を均一に高精度で行うことができること。
【解決手段】 0.1〜500μmの粉体からなる鉄粉Fに0.01〜10μmのガラス膜によってガラスコーティングし、そして、前記ガラスコーティングされた鉄粉Fを総量に対して0.1〜50重量%の樹脂バインダーを入れて分散し、圧縮成形して抵抗値1〜103Ωcm、比重6〜8とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波による誘電加熱で前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着するものである。したがって、鉄粉Fがガラスコーティングされているから、鉄粉Fの発熱効率が向上し、鉄粉Fがガラスコーティングの絶縁のため、鉄粉F間の放電の発生条件が限定され、その放電頻度を低下させることができる。そして、ガラスコーティングすることで鉄粉Fの保温条件が良くなり、エネルギ損失の少ない溶着ができる。
【解決手段】 0.1〜500μmの粉体からなる鉄粉Fに0.01〜10μmのガラス膜によってガラスコーティングし、そして、前記ガラスコーティングされた鉄粉Fを総量に対して0.1〜50重量%の樹脂バインダーを入れて分散し、圧縮成形して抵抗値1〜103Ωcm、比重6〜8とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波による誘電加熱で前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着するものである。したがって、鉄粉Fがガラスコーティングされているから、鉄粉Fの発熱効率が向上し、鉄粉Fがガラスコーティングの絶縁のため、鉄粉F間の放電の発生条件が限定され、その放電頻度を低下させることができる。そして、ガラスコーティングすることで鉄粉Fの保温条件が良くなり、エネルギ損失の少ない溶着ができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製成型体相互間を溶着可能なマイクロ波発熱体に関するものであり、特に、複数箇所の樹脂製成型体相互間を溶着するのに使用可能なマイクロ波樹脂溶着体及びマイクロ波発熱体による溶着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの樹脂成形品を溶着させることは公知の技術であり、その加熱手段として、例えば、レーザ、超音波等の熱源による溶着面の加熱による方法が採用されてきた。
しかし、このような方法は2つの樹脂成形品を溶着させる手段として採用することができても、3つ以上の樹脂成形品を一度に溶着することはできない。
したがって、従来のAT車のバルブボディ等については、合成樹脂の溶着によって製造することは困難であった。
【0003】
合成樹脂の溶着方法には熱風溶着、振動溶着等が知られ、原理的には接合面を加熱することで樹脂を溶融させて接着させる技術である。ここで接合面の加熱手段としてマイクロ波の照射を行うことにより、特許文献1、特許文献2の樹脂成形品を溶着する方法がある。
【0004】
まず、特許文献1に記載の方法は、熱可塑性樹脂中にマイクロ波発熱体を分散してなる成形物にマイクロ波を照射することによって熱可塑性樹脂を融着する方法において、マイクロ波発熱体として耐熱性樹脂でコーティングしたものを用いることを特徴とする熱可塑性樹脂の融着方法である。
【0005】
また、特許文献2に記載の方法は、樹脂性ケースの溶着面の形状をほぼ等分化した複数の線条の抵抗発熱体をケース本体とカバー間の溶着面全体に挟み込んで閉じ、次にケース本体或いはカバーのいずれか一方に、お互いの抵抗発熱体の端部が隣接する位置に形成したガイド孔を介して給電装置に接続した電圧印加端子を挿入して隣接する抵抗発熱体に同時に電圧を印加し、抵抗発熱体はその電気抵抗により発熱して、周囲の樹脂を溶融し、溶着面全周の樹脂を溶融する。十分に溶融したところで電圧印加を止め、電圧印加端子を抜き、冷却すると、溶融した樹脂が硬化してケース本体とカバーは全周溶着できる。その後、貫通孔の周辺に突出した段部を溶着チップで押し潰すと貫通孔が封鎖され、密封効果の高い一体化したケースが完成するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−136353号公報
【特許文献2】特開10−323903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法は、熱可塑性樹脂中に耐熱性樹脂でコーティングしたマイクロ波発熱体を分散してできた成形物に、マイクロ波を照射して融着する熱可塑性樹脂の融着方法であり、中空部を有し、二重、三重に形成された樹脂成形体の周囲を溶着する形状では、均一に溶着し、強度及び気密性を確保することは難しい。
また、溶着する一方の構造体に特許文献1の発熱体を分散させる必要があり、射出成形を前提とした溶着体には適用することは困難である。
【0008】
特許文献2は、密封された合成樹脂製ケースの熱溶着方法及びその方法に用いる熱可塑性樹脂で成形された成形品の技術を開示するものであり、具体的には、抵抗発熱体をリング状に2等分されるように作成し、それを接合しようとする合成樹脂製ケースの上下にセットし、電圧を印可して抵抗発熱体を発熱させ、接合面全周を溶着させる溶着方法であるから、電圧を印可する電極を当てる部分に予め孔を穿設しておくか、或いは抵抗発熱体の電圧を印可する部分を外に出しておく必要があり、特許文献1と同様、複雑な樹脂成形体においては、溶着後の気密性を確保できない可能性がある。勿論、予め孔を穿設しておいて、その後、電極を当てる孔を合成樹脂で埋める方法もあるが、それだけでは十分な気密性が得られない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点を解消すべく、樹脂製の成型体の熱容量が均一でなくても、また、樹脂製の成型体相互間の溶着を均一に高精度で行い、気密性の確保が容易にできるマイクロ波樹脂溶着体及びそれによる溶着方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体においては、0.01〜10μmのガラス膜によって表面コーティング処理された中位径0.1〜500μmの粉体のガラスコーティング鉄粉を圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーを前記ガラスコーティング鉄粉の粉体中に入れて分散させて圧縮成形し、抵抗値1〜103Ωcmの特性とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波によって誘電加熱し、前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着するものである。
【0011】
ここで、上記中位径0.1〜500μmの粉体とは、レーザ回折・散乱法によって測定した鉄粉の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数または質量が全粉体の50%をしめるときの粒子径を中位径といい、その中位径が0.1〜500μmであることを意味する。中位径0.1μm以下であると発熱が弱く、中位径500μm以上であると粒子の電荷量が大きくなり、放電が発生する可能性が出てくる。
また、上記0.01〜10μmのガラス膜とは、コーティングしたガラスの膜厚が0.01〜10μmであることを意味する。ガラス膜の0.01〜10μmは、10μm以上になると、誘電加熱の効率が低くなり、また、機械的強度がガラス膜に左右されることになる。ガラス膜の0.01μm以下では、鉄粉間の間隔が狭くなり、放電の可能性が高くなる。
そして、上記樹脂バインダーは、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の何れかで、総量に対して0.1〜50重量%の混合したものであればよい。0.1〜50重量%の混合比は、発熱体の厚み、発熱体の配置箇所及び配置数、発熱体の面積等によって決定される。
更に、ガラスコーティング鉄粉中に上記樹脂バインダーを混合した複合粉体材料を圧縮成形し、抵抗値1〜103Ωcm、特に好ましくは、比重6〜8としたものであり、抵抗値が1〜103Ωcmの範囲であることから、溶着条件によって任意の値のものを使用できる。
【0012】
請求項2の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体は、更に、前記樹脂バインダーが熱硬化性樹脂であり、圧縮成形した後にアニール処理をしたものである。
【0013】
請求項3の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体は、マイクロ波樹脂溶着体の前記複数の合成樹脂成型体相互間の接合面は、凹凸状の噛み合わせとしたものである。
このように噛み合わせの位置に前記マイクロ波樹脂溶着体を載置して誘電加熱を行えば、接合面積が広くなり、完全な封止が可能となる。
【0014】
請求項4の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体は、前記合成樹脂成型体相互間の接合面の凹凸状の噛み合わせは、一面が凹状の環状で他面が凸状の環状となる環状凹部と環状凸部とを有し、前記合成樹脂成型体相互間に配置されるマイクロ波樹脂溶着体が前記環状凹部の内部の環状内方向に配置されるものである。ここで環状内方向とは環によって規定される閉鎖域または内部域の方向を意味する。
【0015】
請求項5の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体は、0.01〜10μmのガラスコーティング層となるように表面コーティングされた0.1〜500μmの粉体からなるガラスコーティング鉄粉が圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーを入れて分散し、抵抗値1〜103Ωcmの特性とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波によって誘電加熱自在とし、前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明のマイクロ波樹脂溶着体は、0.1〜500μmの粉体の鉄粉が0.01〜10μmのガラス膜によって表面コーティング処理されており、そして、総量に対して0.1〜50重量%の樹脂バインダーを前記表面コーティングされたガラスコーティング鉄粉の粉体中に入れて分散し、圧縮成形して抵抗値1〜103Ωcmの特性とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波による誘電加熱で前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着するものである。
したがって、0.1〜500μmの粉体の鉄粉が0.01〜10μmの膜によってガラスコーティングされているから、ガラスコーティングすることで鉄粉の発熱効率が向上し、また、その粉体からなる鉄粉がガラスコーティングの絶縁のため、鉄粉間の放電の発生条件が限定され、その放電頻度を低下させることができる。また、鉄粉が0.1〜500μmと小粒子であるから、そこに誘導される電気量が小さく放電の発生が抑制される。そして、ガラスコーティングすることで鉄粉の保温条件が良くなり、エネルギ損失の少ない溶着ができる。
更に、本発明のマイクロ波樹脂溶着体の抵抗値を1〜103Ωcmの範囲の何れかの値を選択することによって、溶着層が2層以上の合成樹脂成型体であっても、同時に合成樹脂成型体相互間が均質化した溶着とすることができる。また、比重が6〜8の範囲内のものであるから、完成品の総重量を大きく左右することがないが、作業の際に対抗する合成樹脂成型体間においても、容易に移動することがなく、作業性がよい。
【0017】
請求項2の発明のマイクロ波樹脂溶着体は、前記樹脂バインダーが熱硬化性樹脂であり、圧縮成形した後にアニール処理をしたものであることから、マイクロ波樹脂溶着体の形状保持が優れ安定した発熱が得られることから、所望の位置の溶着が容易に行うことができる。
【0018】
請求項3の発明のマイクロ波樹脂溶着体は、マイクロ波樹脂溶着体の前記複数の合成樹脂成型体相互間の接合面は、凹凸状の噛み合わせとしたものであるから、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、噛み合わせの位置に前記発熱体を載置して誘電加熱を行えば、接合面積が広くなり、完全な封止が可能となる。
【0019】
請求項4の発明のマイクロ波樹脂溶着体は、前記合成樹脂成型体相互間の接合面の凹凸状の噛み合わせは、一面が凹状の環状で他面が凸状の環状となる環状凹部と環状凸部とを有し、前記合成樹脂成型体相互間に配置されるマイクロ波樹脂溶着体が前記環状凹部の内部の環状内方向に配置されるものであるから、請求項3の効果に加えて、マイクロ波樹脂溶着体を気密性が要求される樹脂成型体の内部に近い環状凹部の環状内方向に配置することで確実な封止が可能となる。
【0020】
請求項5の発明のマイクロ波樹脂溶着体による溶着方法は、0.01〜10μmのガラス膜となるように表面コーティングされた0.1〜500μmの粉体のガラスコーティング鉄粉が圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーを入れて分散し、抵抗値1〜103Ωcmの特性とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波によって誘電加熱自在とし、前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着するものである。
したがって、0.1〜500μmの粉体の鉄粉が0.01〜10μmの膜によって表面がガラスコーティングされているから、表面のガラスコーティングによって鉄粉の発熱効率が向上し、また、その鉄粉の表面がガラスコーティングによって絶縁されているため、鉄粉間の放電の発生条件が限定され、その放電頻度を低下させることができる。更に、鉄分の表面をガラスコーティングすることで鉄粉の保温条件が良くなり、エネルギ損失の少ない溶着ができる。
また、鉄粉が0.1〜500μmの粉体であって小粒子であるから、そこに誘導される電気量が小さく放電の発生が抑制される。
加えて、本発明のマイクロ波樹脂溶着体の抵抗値を1〜103Ωcmの範囲の何れかの値を選択することによって、溶着層が2層以上の合成樹脂成型体であっても、同時に合成樹脂成型体相互間が均質化した溶着とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体の概念図で、図1(a)は全体の平面図、図1(b)はその切断線X−Xによる断面図、図1(c)は組成概念を示す拡大説明図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体と合成樹脂成型体の溶着面との断面幅関係を説明する説明図で、(a)は溶着面が狭い場合、(b)は溶着面が広い場合である。
【図3】図3は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体の平面図で、基本形状の平面図(a)、穿孔形状の平面図(b)、長円形状の平面図(c)、メッシュ形状の平面図(d)を示すものである。
【図4】図4は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体と合成樹脂成型体の環状凹部と環状凸部との溶着面の形状を説明する説明図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体と合成樹脂成型体の溶着面との関係を説明する説明図で、(a)は凹凸面におけるマイクロ波樹脂溶着体が広い場合、(b)は凹凸面におけるマイクロ波樹脂溶着体が狭い場合である。
【図6】図6は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体と合成樹脂成型体の溶着面との関係を説明する説明図で、(a)は凹凸面における壁側シール用断面の説明図、(b)は凹凸面における溶着面の溶着前及び溶着後の説明図である。
【図7】図7(a)〜(c)は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体を溶かし易い3種類の断面形状の説明図である。
【図8】図8(a)〜(c)は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体の接合強度を挙げる3種類の断面形状の説明図である。
【図9】図9は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体にマイクロ波を照射するマイクロ波の出力パターンを示す説明図である。
【図10】図10は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体の時間−温度特性図である。
【図11】図11は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体のガラスコーティングの有無による実施例と比較例とのマイクロ波加熱実験結果を示す説明図である。
【図12】図12は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体のガラスコーティングの有無と抵抗値と加熱温度との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、図中、本実施の形態における同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここでは重複する説明を省略する。
【0023】
図1は本発明の実施の形態によるマイクロ波樹脂溶着体20の概念図で、図1(a)は全体の平面図であり、図1(b)はその切断線X−Xによる拡大断面図であり、図1(c)は組成概念を示す拡大説明図である。図2は同じく合成樹脂成型体の溶着面との関係を説明する説明図で、図3は同じくマイクロ波樹脂溶着体の平面図である。
図1(c)に示すように、ガラスコーティング鉄粉Fは、鉄粉の外表面にガラスコーティング層Gを有している。ガラスコーティング層Gでコーティングされたガラスコーティング鉄粉Fが圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーPを具備するマイクロ波樹脂溶着体は、上記ガラスコーティング鉄粉Fの粉体中に樹脂バインダーPを入れて分散し、このガラスコーティング鉄粉Fの粉体中に樹脂バインダーPが分散混合した複合粉体材料を圧縮成形して、抵抗値1〜103Ωcm、比重6〜8の特性を持たせたものである。なお、この比重が6〜8の範囲内にするものでは、完成品の総重量を大きく左右することがなく、作業の際に対抗する合成樹脂成型体間においても、重心位置等が容易に移動することがなく、作業性がよいことから選択している。
【0024】
マイクロ波樹脂溶着体20は、図2に示すように、合成樹脂成型体10の相互間、即ち、合成樹脂成型体11,12に挟まれ、マイクロ波を照射することによってマイクロ波樹脂溶着体20が発熱し、溶融し、合成樹脂成型体11,12を部分的に溶着するものである。マイクロ波樹脂溶着体20の全体は均一の厚みの板状であり、被溶着物である合成樹脂成型体11,12の接合面11A,12Aの間に挟んだ状態で、押圧力を加え、マイクロ波を照射して加熱するものである。マイクロ波樹脂溶着体20は厚すぎると、合成樹脂成型体10間に空隙を生じる恐れ、バリが発生する恐れがあるので、導電性の板状合成樹脂からなるマイクロ波樹脂溶着体20は厚さが2mm以下、好ましくは1mm以下とすることが好ましい。勿論、全体が均一の厚みでなくても、その接合面積及び機械的強度等を考慮し、厚みの変化を持たせることもできる。
【0025】
マイクロ波樹脂溶着体20の厚さが0.1〜2.0mmの範囲、好ましくは0.3〜1.0mmの範囲とすることで、マイクロ波樹脂溶着体20を挟み込んだ際の合成樹脂成型体10相互間の隙間が2mm以下、より好ましくは1mm以下にできる。そして、マイクロ波樹脂溶着体20の発熱によってマイクロ波樹脂溶着体20に接する合成樹脂成型体11,12の接合面11A,12A内の接触面及びその接触面近傍が溶融、軟化するとともに合成樹脂成型体10に加えられた押圧力によって合成樹脂成型体10中にマイクロ波樹脂溶着体20が埋没することから合成樹脂成型体10相互間の隙間が減少し密接する。このことから、マイクロ波樹脂溶着体20の厚みは薄いほど好ましいが、発熱との関係によって厚みが決定され0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上が適する。
【0026】
なお、このときの溶着する際の押圧力は、合成樹脂成型体11,12相互間に挟まれたマイクロ波樹脂溶着体20の厚みを少なくする方向に押圧力を加えるものである。ここで、マイクロ波樹脂溶着体20の厚みが2mmを超えるとマイクロ発熱体を合成樹脂成型体間に配置したときの間隙が大きく、押圧を加えて溶着した後に合成樹脂成型体間に間隙が残りやすい。誘電加熱のばらつきも大きくなる。
【0027】
また、本実施の形態で使用するマイクロ波樹脂溶着体20は、例えば、図3(a)〜(d)に示されているように、マイクロ波樹脂溶着体20として、その平面の角は面取りとしてのR(アール)が形成されている。この面取りRにより、照射するマイクロ波エネルギの集中が生じないので、スパークの発生、合成樹脂成型体10の焼け等が防止される。面取りRは大きいほうが好ましく、溶着する製品の幅とマイクロ波樹脂溶着体20の幅から設定される。通常、本実施の形態で使用するマイクロ波樹脂溶着体20は、肉厚を0.1〜2.0mmの範囲とし、かつ、角部をR0.5mm以上とするのが望ましい。また、面取りRは曲面形状以外にもスパークの発生が生じないのであれば平面の90度の隅の角度を45度程度の斜めの直線状に面取りしてもよい。そして、合成樹脂成型体10の接合面11A,12Aに沿ってマイクロ波樹脂溶着体20の長さ及び形状を調節して配置する。またマイクロ波樹脂溶着体20の幅は、図2(a)または図2(b)に示したように合成樹脂成型体10の接合面11A,12Aの幅より狭い幅に設定されている。このようにマイクロ波樹脂溶着体20の幅を合成樹脂成型体10の接合面11A,12Aの幅より小さくすることで溶着時に接合面から溶融した樹脂が食み出すことを防止できる。
【0028】
勿論、本発明の実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20の大きさや形状は、合成樹脂成型体10としての形状や構造などによって決定されるが、形状や構造が複雑化する程、溶着部の溶着面も複雑な形状となり、より高精度な溶着が必要とされることになる。このような場合には、図3(b)〜(d)に示されるように、マイクロ波樹脂溶着体20に貫通孔としての穿設孔20aを設けたり、特定方向に貫通孔が長い長円穿設形状20bを設けたり、または、マイクロ波発熱体20自体を網状に貫通孔を形成したメッシュ形状20cで形成することができる。網状に貫通孔を形成したメッシュ形状20cは、図3(d)においては、長方形の開口としているが、円形または三角形、平行四辺形等の開口とすることができる。
【0029】
殊に、マイクロ波樹脂溶着体20の図3(d)のメッシュ形状20cは、全体に孔の行及び列を複数とし、そのマトリックスで接合するものである。接合面積が広い場合に使用すると好適である。特に、図3(b)及び(c)のマイクロ波樹脂溶着体20の穿設孔20a、長円穿設形状20bは、その空間にマイクロ波エネルギを使用しないので、周囲の温度上昇が高い効率的な制御となりマイクロ波樹脂溶着体20の溶着作業速度を早めることができる。また、このようにマイクロ波樹脂溶着体20に穿設孔20a、長円穿設形状20bを設け、メッシュ形状20cとすることによって、予め接合面に形成される図示しない微小な突起等の位置決め突部に、穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20cの目を挿入することによって、接合面の所定の位置にマイクロ波樹脂溶着体20を正確に位置決めしながら溶着することが可能となる。特に、マイクロ波樹脂溶着体20として特定の複雑形状のシートを挟む場合等に好適である。なお、微小な位置決め突部は、マイクロ波樹脂溶着体20の厚みの1/3〜2/3程度の高さが、溶着に影響を与え難く、かつ、取り付け作業性を良くしている。
【0030】
また、このような穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20cの貫通孔を利用し、合成樹脂成型体10に形成した図示しない微小な突起を挿入させて、合成樹脂成型体10とマイクロ波樹脂溶着体20の平面形状の位置合わせを行い、その後に溶着させることによって、精度が高い組み付け溶着を行うことができる。
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20に設けた穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20c等の貫通孔等は、対応する合成樹脂成型体10の接合面、即ち、各層の溶着部の表面に貫通孔等に対応する突起を設けることによって、接合面にマイクロ波樹脂溶着体20を正確に位置決めする精度の向上や、マイクロ波樹脂溶着体20のセットに要する時間を短縮させることができる。
【0031】
ここで、図3に示したマイクロ波樹脂溶着体20の形状は本発明の実施の形態に使用するマイクロ波樹脂溶着体20の一部分に適用するものとして説明のために記載したものであり、この形状のままで使用することも可能であるが、使用条件によって形状が定められる。
つまり、図3(a)〜図3(d)に示されるマイクロ波樹脂溶着体20は、直線状に形成されたものであり、これら直線状のマイクロ波樹脂溶着体20を合成樹脂成型体10の長さを調節することで接合面11A,12Aに合わせて配置することができる。このとき、火花放電等が発生しにくくするには、マイクロ波樹脂溶着体20を直線状から環状とするのが望ましく、この実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20は使用状態では図5に記載のように、全体を環状として形成して使用されるのが好ましい。全体を環状とすると、電界が大きくなる先端部をなくし、誘電加熱中に放電が生ずるのを激減させることができる。また、環状にすることで合成樹脂成型体10の接合面に合わせ易くなり、確実な接合が得られ気密性確保の信頼性が向上する。
なお、前述したマイクロ波樹脂溶着体20内の穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20cの貫通孔は環状にしたマイクロ波樹脂溶着体20に設けたときでも同様な効果を有する。
【0032】
次に、合成樹脂成型体10の接合面11A,12Aについて説明する。
図4に示すように、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の接合面11A,12Aには、一方の面、例えば、図中上側の合成樹脂成型体12の接合面12Aに環状凸部12bを形成し、他方の面、つまり図中下側の合成樹脂成型体11の接合面11Aに環状凹部11bを形成し、その環状凹部11bにマイクロ波樹脂溶着体20を挿入し、両者間に押圧力を加え、誘電加熱しながら、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の両面を接合するものである。図5(a)のように、環状凹部11bの底のマイクロ波樹脂溶着体20の断面幅を広くして接合することも、図5(b)のように、環状凹部11bの底のマイクロ波樹脂溶着体20の断面幅を狭くして接合することもできる。また、環状凹部11bの底の深さを深くしたり、浅くしたりすることもできる。また、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の対向面は鋸歯状とすることもできる。
【0033】
そして、図4(a)に示すように、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の接合面11A,12Aには、例えば、上側を環状凸部12bと下側を環状凹部11bに形成し、その幅Bの環状凹部11bに、幅Bより幅狭の幅Aからなるマイクロ波樹脂溶着体20を載置し、そこに合成樹脂成型体12の環状凸部12bを挿入する。環状凸部12bの幅は、環状凹部1bに嵌め合い寸法差、例えば、1/100〜1/10程度の差に設定される。また、合成樹脂成型体11の深さC11は、合成樹脂成型体12の環状凸部12bの高さC12と同一または若干小さい程度である。マイクロ波樹脂溶着体20が溶融、軟化したとき、それが、合成樹脂成型体11の環状凹部11bの幅Bと深さC11で吸収され、合成樹脂成型体12側の外周幅、即ち、環状凹部11bの両側の壁の幅Dから外へ食み出さないように、幅Bが全幅の1/3乃至2/3に設定される。
【0034】
ここで、図6に示すように、マイクロ波樹脂溶着体20の合成樹脂成型体11における環状凹部11bへ配する位置を、環状凹部11bの中央から環状凹部11bの環状内方向にずらして配することができる。ここで環状内方向とは、図6(a)に示したように合成樹脂成型体11及び合成樹脂成型体12を溶着してできた内部空間13の方向を指し、詳しくは、環状凹部11bの内部空間13に接する側の壁面に接してマイクロ波樹脂溶着体20を配置する。ここで内部空間13には油等の流体が内包され、このように溶着された合成樹脂成型体内部に流体が内包されている内部空間13の方向の壁面に接してマイクロ波樹脂溶着体20を配置し、内部空間13の方向の壁面側を溶着することで、環状凹部11bの流体に近い側の壁面がマイクロ波樹脂溶着体20によって溶着されることになるから、合成樹脂成型体の内部に内包した流体が合成樹脂成型体の外部へ漏れ難くなり気密性の信頼性が増すことになる。
【0035】
図7及び図8はマイクロ波樹脂溶着体20のその他の実施例を示すもので、合成樹脂成型体12に環状凸部12bを、合成樹脂成型体11に環状凹部11bを形成し、その接合を行う場合の特徴を説明する説明図である。
図7(a)は環状凸部12bの先端に凹欠条12dを形成し、また、環状凹部11bの底の中央にも凹欠条11dを形成し、その凹欠条12dと凹欠条11dとの間にマイクロ波樹脂溶着体20を配置したものである。この実施例では、誘電加熱してもマイクロ波樹脂溶着体20の温度が閉じられた空間にあるので逃げにくく、マイクロ波樹脂溶着体20及び合成樹脂成型体10が溶融しやすくなる。このとき、マイクロ波樹脂溶着体20の溶融は嵌合する環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がりとすることができ、その深さの設定は凹欠条12dの体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0036】
図7(b)は環状凸部12bの先端に突起条12eを形成し、また、環状凹部11bの底の中央にも突起条11eを形成し、その突起条12eと突起条11eとの間にマイクロ波樹脂溶着体20を配置したものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20が突起条12eと突起条11eで支持されているから温度が熱伝導で逃げにくく、熱伝導が少ない状態で誘電加熱できるから、マイクロ波樹脂溶着体20が溶融しやすくなる。このとき、マイクロ波樹脂溶着体20の溶融は嵌合する環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がりとすることができ、その深さの設定は突起条12eと突起条11eとマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0037】
図7(c)は環状凸部12bの先端に2条の突起条12fを形成し、また、環状凹部11bの底の中央にも2条の突起条11fを形成し、その2条の突起条12fと突起条11fとの相互間にマイクロ波樹脂溶着体20を配置したものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20が2条の突起条12fと突起条11fで支持されているから温度が熱伝導で逃げにくく、効率よく誘電加熱できるからマイクロ波樹脂溶着体20が溶融しやすくなる。このとき、マイクロ波樹脂溶着体20の溶融は嵌合する環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がりとすることができ、その深さの設定は2条の突起条12fと突起条11fとの間の体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0038】
図8(a)は環状凸部12bの先端に凹欠条12gを形成し、また、環状凹部11bの底の両側にも凹欠条11gを形成し、その凹欠条11gの中に溶融したマイクロ波樹脂溶着体20を導くものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20の接合面積が広くなり、かつ、誘電加熱でマイクロ波樹脂溶着体20が溶融して環状凹部11bの底の両側の凹欠条11gにも入り込むから、マイクロ波樹脂溶着体20によって環状凸部12bと環状凹部11bが一体的な結合となる。このとき、環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がり接合深さは、凹欠条12g及び凹欠条11gの体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0039】
図8(b)は環状凸部12bの先端側の両側に切欠条12hを形成し、その切欠条12hの中に溶融したマイクロ波樹脂溶着体20を導くものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20の接合面積が切欠条12hによって広くなり、かつ、誘電加熱でマイクロ波樹脂溶着体20が溶融して環状凸部12bの両側の切欠条12hにも入り込むから、マイクロ波樹脂溶着体20によって環状凸部12bと環状凹部11bが一体的な結合となる。このとき、環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がり接合深さは、切欠条12hの体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0040】
図8(c)は環状凹部11bの底の中央に上部開口溝条11jを形成し、その上部開口溝条11jの中に溶融したマイクロ波樹脂溶着体20を導くものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20の接合面積が広くなり、かつ、誘電加熱でマイクロ波樹脂溶着体20が溶融して環状凹部11bの底の中央の上部開口溝条11jに入り込むから、マイクロ波樹脂溶着体20によって環状凸部12bと環状凹部11bが一体的な強靭な結合となる。このとき、環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がり接合深さは、上部開口溝条11jの体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0041】
次に、マイクロ波樹脂溶着体20について説明する。
マイクロ波樹脂溶着体20は、基本的にはガラスコーティング鉄粉Fの粉末を樹脂バインダーPで固めた構造となっている。
樹脂バインダーPとしては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が使用できる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ジリアルフタレート樹脂(PDAP)等があり、本発明の実施の形態ではフェノール樹脂を使用した。
【0042】
また、熱可塑性樹脂として、例えば、エンジニアリング・プラスチック、スーパー・エンジニアリング・プラスチックを用いることができる。具体的には、ポリアミド(ナイロン、芳香族ポリアミド等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン等がある。そして、スーパーエンプラとしては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアレート、液晶ポリマー、ポリアミドイミド等がある。
【0043】
本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体20に、どのような熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を使用するかは、合成樹脂成型体10との相溶性や接着性を考慮して決定される。
例えば、熱可塑性樹脂の場合、合成樹脂成型体10の材料がポリエチレンであれば、マイクロ波樹脂溶着体20に使用する樹脂もポリエチレンとし、合成樹脂成型体10の材料がPPS樹脂であれば、マイクロ波樹脂溶着体20に使用する樹脂材料も同様にPPS樹脂を使用する等、合成樹脂成型体10を構成する樹脂と同じ樹脂を用いて成形して得たマイクロ波樹脂溶着体20を使用することが合成樹脂成型体10とマイクロ波樹脂溶着体20との樹脂の相溶性が最適となり好ましい。合成樹脂成型体10の材料とマイクロ波樹脂溶着体20に使用する樹脂材料が異なっていても溶着時の接着性に影響を与えない限り使用可能である。
【0044】
熱硬化性樹脂の場合は熱可塑性樹脂の場合とは異なってくる。マイクロ波樹脂溶着体20に熱可塑性樹脂を使用する場合は、マイクロ波の照射による発熱による溶融によってマイクロ波樹脂溶着体20は流動化し、形状の維持が出来にくくなる。その結果、発熱効率に変化が生じ所望の溶着が得にくくなることがある。これに対し熱硬化性樹脂を使用した場合は、マイクロ波の照射による発熱によってマイクロ波樹脂溶着体20は軟化・溶融が起こるが、加熱による硬化の進行によって熱可塑性樹脂を使用する場合に比べて形状の保持が容易となるため発熱効率に変化が生じ難い。したがって、所望の溶着状態が得やすくなる。特に、マイクロ波樹脂溶着体20を形成した後アニール処理を施すことによって硬化を中間状態(Bステージ)にまで進めることで更に形状は保ちやすくなる。アニールの条件が弱いと硬化の進行が少なく形状の保持が弱く、条件が強くなりすぎると形状の保持は十分となるが合成樹脂成型体10との接着性が悪くなる。したがって、アニール条件としては温度200℃〜230℃、時間10分〜60分が適している。
【0045】
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20に使用される金属粉末となる鉄粉としては、中位径0.1〜500μmの粉体を用いたものである。ここで、中位径とは、レーザ回折・散乱法によって測定した鉄粉の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数または質量が全粉体の50%をしめるときの粒子径をいい、その中位径が0.1〜500μmであることを意味する。中位径0.1μm以下であると発熱が弱く、中位径500μm以上であると粒子の電荷量が大きくなり、放電が発生する可能性が出てくる。
【0046】
これらの金属粉末はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が、0.1〜500μmの粉体の鉄粉であり、更には、中位径が1〜200μmのものの使用が好ましい。当然ながら、ふるい分け試験で測定した粒子径の値が1〜200μmの範囲内とすることもできる。
【0047】
ここで、「ふるい分け試験」とは、JIS−Z−8801によって規定された目開きをもつ標準ふるいを用いて、測定対象となる粉末をふるい分けることによって粒度分布を測定する試験方法をいうものである。標準ふるいなどを用いて行う粒径,粒径分布を測定する方法のことである。粒径と、粒径分布の表現は、使用したふるいの目開き(μm )とふるい上残量(オーバサイズ)またはふるい下通過量(アンダーサイズ)の全体に対する比率で表される。
【0048】
ガラスコーティング鉄粉Fは、上記中位径0.1〜500μmの粉体の鉄粉の表面に、0.01〜10μmのガラス膜によってガラスコーティング層Gが形成されたものである。ガラス膜の厚み0.01〜10μmは、厚みが10μm以上になると、誘電加熱の効率が低くなり、また、機械的強度がガラス膜に左右されることになる。ガラス膜の厚みが0.01μm以下では、鉄粉F間の間隔が狭くなり、放電の可能性が高くなる。
特に、本実施の形態では、ガラス膜の厚み0.01〜10μmで中位径0.1〜500μmの鉄粉を包み込むと、そのガラスコーティング層Gの断熱効果で鉄粉の温度が急上昇し、マイクロ波樹脂溶着体の温度特性を良好にすることができる。
【0049】
このような粉体状のガラスコーティング鉄粉Fに対して、粉末状の樹脂バインダーPを総量に対して0.1〜50重量%となるように粉体状のガラスコーティング鉄粉Fに入れて分散混合した複合粉体材料を、圧縮成型用金型に充填し加熱・加圧することでマイクロ波樹脂溶着体20を形成する。マイクロ波樹脂溶着体20の厚みは、発熱状態及び溶着後の溶着面間の隙間の発生状況から決定され、0.1〜2.0mmが好ましい。0.1mmより薄いと発熱が十分でなく、取り扱いが難しくなる。また、2.0mmを越えると発熱量が大きくなりすぎ溶着の制御が難しくなる。
【0050】
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20に含有されるガラスコーティング鉄粉Fは、その全体の比重、内部抵抗によって決定され、総量に対し50重量%を超えて使用されることから樹脂バインダーPの使用量が少なくなるために、ガラスコーティング鉄粉Fによる発熱を効率よく合成樹脂成型体10に与えることで強力な溶着強度を発揮することができる。
このようなガラスコーティング鉄粉Fを多く含有するマイクロ波樹脂溶着体20は、ガラスコーティング鉄粉Fと粉末の樹脂バインダイーPを混合した複合粉体材料を所望の金型内で圧縮成型することで所望の形状に作製される。
【0051】
このように作製したマイクロ波樹脂溶着体20を、被溶着物である合成樹脂成型体としての合成樹脂成型体11と、合成樹脂成型体12の間に設置させて、マイクロ波樹脂溶着体20を介して合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12を積層させ、マイクロ波をこの積層してなるマイクロ波樹脂溶着体20に照射するものである。その際、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の間で十分に溶着することができるよう合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の間が0.1〜5.0MPaの加圧力で加圧されることが好ましい。このような加圧された状態にてマイクロ波を0.5〜10KWの出力で照射すると、マイクロ波樹脂溶着体20が発熱されて合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12のマイクロ波樹脂溶着体20との接触面である溶着表面が溶融を始めるから、加圧力を弱くする等の調整を行うことによって、バリの発生防止や溶着後の製品の寸法精度を良好にすることができる。ここで、樹脂バインダーPに熱硬化性樹脂を使用したマイクロ波樹脂溶着体20は、加熱によっても熱可塑性樹脂を使用したときに比べて形状の保持に優れることから、厚みの変化が少なくなり発熱効率を高い状態に保持しやすくなる。そしてこの効果は熱硬化性樹脂を使用して作製したマイクロ波樹脂溶着体20にアニールを施すことで更に高めることができる。
【0052】
ここで、マイクロ波発生装置の出力は、図9に示すように、急激に出力を上げ、その出力でマイクロ波樹脂溶着体20の軟化及び溶融状態に変化させ、その溶融状態を出力の調整によって制御し、マイクロ波樹脂溶着体20を均一温度とするものである。このとき、マイクロ波樹脂溶着体20の温度特性は、速やかに溶融温度に上昇し、所定の融着温度となり、通常、30秒以内に融着温度となる。但し、図10に示すようにマイクロ波樹脂溶着体20の立ち上げの温度特性は、白抜き矢印に示すように、出力を大きくすると早期に立ち上がることになる。マイクロ波樹脂溶着体20が融着温度となると、その接着方向に対する押圧力によって合成樹脂成型体10相互が密に融着される。
【0053】
このようなマイクロ波発生装置により合成樹脂成型体10を加熱して溶着を行った後、合成樹脂成型体10をマイクロ波発生装置から取り出し放冷することによって、溶着工程を終了させる。或いは、加熱工程を2回以上行う必要がある場合には、放冷前後のいずれかにおいて、2回目以降のマイクロ波照射を行うことになる。
また、図9に示すように、マイクロ波照射後、一定時間を経過(例えば、30秒)した後に、出力を上下させる等の制御を行ってもよい。
【0054】
発明者らは、図11に示すように、鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したもの(ガラスコーティング鉄粉F)と、ガラスコーティングしてないものを対象とし、750Wのマイクロ波発生装置で発熱状態を確認した。ガラスコーティング層Gを形成してないものとして、比較例1として鉄粉を幅10mm、厚さ1mm、比較例2として鉄粉を幅10mm、厚さ0.5mm、比較例3として鉄粉を幅5mm、厚さ0.5mmの長さがそれぞれ60mmの圧縮成型体とし、参考例として鉄粉のみ(圧縮成型体とせず)を含めて所定加熱時間に対する加熱温度を測定した。
【0055】
また、ガラスコーティング層Gを形成したガラスコーティング鉄粉Fを実施例1として幅10mm、厚さ1mm、実施例2として幅10mm、厚さ0.5mm、実施例3として幅5mm、厚さ0.5mmの長さがそれぞれ60mmの圧縮成型体とし、参考例としてガラスコーティング鉄粉Fのみ(圧縮成型体とせず)を含めて所定加熱時間に対する加熱温度を測定した。なお、実施例1乃至実施例3、比較例1乃至比較例3ともバインダー樹脂としてフェノール樹脂を0.5重量%混合した複合粉体材料とし、この複合粉体材料を金型内に充填し、室温で800MPaの圧力で圧縮することで圧縮成型体を形成し、その後圧縮成型体にアニール処理(230℃、10分)を実施したものを使用した。
結果、鉄粉にガラスコーティングを施すことで放電火花(スパーク)の発生も少なく発熱効率が高くなることが証明でき、また幅より厚みが厚いものの方が発熱効率の良いことが分かった。
【0056】
また、同様に、図12に示すように、鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したものとしてないものを対象とし、750Wのマイクロ波発生装置で30秒間加熱し、抵抗値と加熱温度の関係を確認した。測定品は、図11の所定加熱時間に対する加熱温度の測定に使用したものと同じ条件で作製したものを使用した。
【0057】
結果、鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したガラスコーティング鉄粉Fを用いることでガラスコーティング層Gを形成しないものに比べて抵抗値が大きくなり、その結果発熱効率が高くなっていることが判明した。これらのことから、鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したものが有利であることが明確になった。そして成型体とした厚みを変化させることで抵抗値が大きく変化させることが可能であることもこの結果から明確となった。また、ガラスコーティング層Gの有り無しにかかわらず粉末のままより、成型体に形成したほうが大きな抵抗値が得られて発熱効率が高くなることも判明した。
【0058】
このように、本発明の実施の形態にかかるマイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波樹脂溶着体20は、導電体である鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したガラスコーティング鉄粉Fを、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂によって成型体としたものである。
【0059】
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20によって溶着される合成樹脂成型体10としては、基本的には熱可塑性樹脂からなる成形体であれば良い。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を使用することが可能であるが、どのような熱可塑性樹脂を使用するかは、熱可塑性樹脂成形体の用途や形状等、従来の考え方によって決定される。
【0060】
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20はその発熱温度を高温とすることができるので、PPS等の高融点の樹脂にも対応することが可能である。
また、合成樹脂成型体10は、熱可塑性樹脂に対して、公知の樹脂用添加剤を配合されたものでよい。着色材、可塑剤、酸化防止剤、充填材等を含有させることができる。
【0061】
即ち、マイクロ波樹脂溶着体20としては、熱可塑性樹脂をバインダーとして採用する場合には、その熱可塑性樹脂としては、合成樹脂成型体10を構成する熱可塑性樹脂と同じ樹脂が好ましい。同じ樹脂であれば、マイクロ波樹脂溶着体20を構成する樹脂との相溶性に優れるので、溶着後の溶着強度に優れた製品とすることができる。また熱硬化性樹脂をバインダーとして採用する場合には、接着性に優れるフェノール樹脂やエポキシ樹脂が推奨される。
【0062】
以上、本発明の実施の形態の合成樹脂成型体10は合成樹脂成型体11、及び合成樹脂成型体12の2層として説明してきたが、本発明の実施の形態の合成樹脂成型体10は2層に限らず、任意の積層とすることができる。この場合、各層の両面には、図5に示すように、凹部と凸部が設けられ、これらを係合させて溶着することで各層の積み重ねが出来、内部に複雑な内部空間の形状を有した成形体であっても各層に分割した後積層することで作製することが可能となる。この際各層によって形状が異なることがあるが積層時の溶着に使用するマイクロ波樹脂溶着体20は各層に合わせた形状とすることができ、さらに抵抗値を各層の形状に合わせて制御することで形状に適した発熱が可能となり、各層が異なった形状であっても容易に積層形状を溶着で作り出すことができる。
【0063】
本実施の形態で使用するマイクロ波樹脂溶着体20を加熱するマイクロ波発生装置としては、マイクロ波を照射することができる形態であればよく、市販の産業用マイクロ波発生装置が使用できる。また、均一にマイクロ波を照射するために、内部に載置した合成樹脂成型体10に対して、収容装置の壁面構造、マイクロを拡販するための構造、合成樹脂成型体10を載置するターンテーブルの構造、形状、回転条件等を最適化させるのが望ましい。
【0064】
以上説明してきたように、本発明のマイクロ波樹脂溶着体による溶着方法は複数の合成樹脂成型体10の溶着に、特に、3以上の合成樹脂成型体10を同時に溶着するのに有効である。
そして、図3(a)〜図3(d)に示したようにマイクロ波樹脂溶着体20の基本形状は、肉厚を0.1〜2.0mmの範囲とし、かつ、角部をR0.5mm以上で面取りしたものであるから、マイクロ波の角部への集中が起き難い形状となっていてスパーク等による不具合の発生を抑制している。
【0065】
更に、本発明のマイクロ波樹脂溶着体20の平面内部には孔やメッシュ形状の切り欠きを設けることで、これらの切り欠きを使用して合成樹脂成型体の接合面の溶着部位にマイクロ波樹脂溶着体20を正確に配置することが可能となる。更に、これら切り欠き部を通してマイクロ波樹脂溶着体20に接して対面する合成樹脂成型体相互の樹脂が溶融接着し接合強度を上げることも期待できる。
【0066】
また、本発明のマイクロ波樹脂溶着体20は図3(a)〜図3(d)に示したような長方形等の規定の形状を用いて溶着させることができるが、合成樹脂成型体の接合面の形状に沿った特定の形状に形成して使うことができる。このように接合面の形状に沿った特定形状にすることで合成樹脂成型体の接合面にマイクロ波樹脂溶着体20を短時間で設置することが可能となる。更にマイクロ波樹脂溶着体20を合成樹脂成型体の内部空間に近い方に配置することで、積層した接合面の気密性をより高めた接合が得られる。
【0067】
このような本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体20による溶着方法の適用にはオートマッチックトランスミッション用樹脂製バルブボディ、自動車用としてCVT、HV等用のバルブボディや溶着を複数回繰り返して製品化していたインテークマニホールド、リザーバタンク等が例示される。また、自動車用以外では、油圧制御が必要な装置用の樹脂製バルブボディ、燃料電池のセパレータ等の多層の樹脂部品を固定してなるものにも適用可能である。勿論、これらに限定されるものではなく、2つ以上の熱可塑性樹脂からなる部材を一体化させてなる部材等の製造に使用することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
10、11,12 合成樹脂成型体
20 マイクロ波樹脂溶着体
F ガラスコーティング鉄粉
G ガラスコーティング層
P 樹脂バインダー
11A,12A 接合面
11b 環状凹部
12b 環状凸部
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製成型体相互間を溶着可能なマイクロ波発熱体に関するものであり、特に、複数箇所の樹脂製成型体相互間を溶着するのに使用可能なマイクロ波樹脂溶着体及びマイクロ波発熱体による溶着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの樹脂成形品を溶着させることは公知の技術であり、その加熱手段として、例えば、レーザ、超音波等の熱源による溶着面の加熱による方法が採用されてきた。
しかし、このような方法は2つの樹脂成形品を溶着させる手段として採用することができても、3つ以上の樹脂成形品を一度に溶着することはできない。
したがって、従来のAT車のバルブボディ等については、合成樹脂の溶着によって製造することは困難であった。
【0003】
合成樹脂の溶着方法には熱風溶着、振動溶着等が知られ、原理的には接合面を加熱することで樹脂を溶融させて接着させる技術である。ここで接合面の加熱手段としてマイクロ波の照射を行うことにより、特許文献1、特許文献2の樹脂成形品を溶着する方法がある。
【0004】
まず、特許文献1に記載の方法は、熱可塑性樹脂中にマイクロ波発熱体を分散してなる成形物にマイクロ波を照射することによって熱可塑性樹脂を融着する方法において、マイクロ波発熱体として耐熱性樹脂でコーティングしたものを用いることを特徴とする熱可塑性樹脂の融着方法である。
【0005】
また、特許文献2に記載の方法は、樹脂性ケースの溶着面の形状をほぼ等分化した複数の線条の抵抗発熱体をケース本体とカバー間の溶着面全体に挟み込んで閉じ、次にケース本体或いはカバーのいずれか一方に、お互いの抵抗発熱体の端部が隣接する位置に形成したガイド孔を介して給電装置に接続した電圧印加端子を挿入して隣接する抵抗発熱体に同時に電圧を印加し、抵抗発熱体はその電気抵抗により発熱して、周囲の樹脂を溶融し、溶着面全周の樹脂を溶融する。十分に溶融したところで電圧印加を止め、電圧印加端子を抜き、冷却すると、溶融した樹脂が硬化してケース本体とカバーは全周溶着できる。その後、貫通孔の周辺に突出した段部を溶着チップで押し潰すと貫通孔が封鎖され、密封効果の高い一体化したケースが完成するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−136353号公報
【特許文献2】特開10−323903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法は、熱可塑性樹脂中に耐熱性樹脂でコーティングしたマイクロ波発熱体を分散してできた成形物に、マイクロ波を照射して融着する熱可塑性樹脂の融着方法であり、中空部を有し、二重、三重に形成された樹脂成形体の周囲を溶着する形状では、均一に溶着し、強度及び気密性を確保することは難しい。
また、溶着する一方の構造体に特許文献1の発熱体を分散させる必要があり、射出成形を前提とした溶着体には適用することは困難である。
【0008】
特許文献2は、密封された合成樹脂製ケースの熱溶着方法及びその方法に用いる熱可塑性樹脂で成形された成形品の技術を開示するものであり、具体的には、抵抗発熱体をリング状に2等分されるように作成し、それを接合しようとする合成樹脂製ケースの上下にセットし、電圧を印可して抵抗発熱体を発熱させ、接合面全周を溶着させる溶着方法であるから、電圧を印可する電極を当てる部分に予め孔を穿設しておくか、或いは抵抗発熱体の電圧を印可する部分を外に出しておく必要があり、特許文献1と同様、複雑な樹脂成形体においては、溶着後の気密性を確保できない可能性がある。勿論、予め孔を穿設しておいて、その後、電極を当てる孔を合成樹脂で埋める方法もあるが、それだけでは十分な気密性が得られない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点を解消すべく、樹脂製の成型体の熱容量が均一でなくても、また、樹脂製の成型体相互間の溶着を均一に高精度で行い、気密性の確保が容易にできるマイクロ波樹脂溶着体及びそれによる溶着方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体においては、0.01〜10μmのガラス膜によって表面コーティング処理された中位径0.1〜500μmの粉体のガラスコーティング鉄粉を圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーを前記ガラスコーティング鉄粉の粉体中に入れて分散させて圧縮成形し、抵抗値1〜103Ωcmの特性とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波によって誘電加熱し、前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着するものである。
【0011】
ここで、上記中位径0.1〜500μmの粉体とは、レーザ回折・散乱法によって測定した鉄粉の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数または質量が全粉体の50%をしめるときの粒子径を中位径といい、その中位径が0.1〜500μmであることを意味する。中位径0.1μm以下であると発熱が弱く、中位径500μm以上であると粒子の電荷量が大きくなり、放電が発生する可能性が出てくる。
また、上記0.01〜10μmのガラス膜とは、コーティングしたガラスの膜厚が0.01〜10μmであることを意味する。ガラス膜の0.01〜10μmは、10μm以上になると、誘電加熱の効率が低くなり、また、機械的強度がガラス膜に左右されることになる。ガラス膜の0.01μm以下では、鉄粉間の間隔が狭くなり、放電の可能性が高くなる。
そして、上記樹脂バインダーは、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の何れかで、総量に対して0.1〜50重量%の混合したものであればよい。0.1〜50重量%の混合比は、発熱体の厚み、発熱体の配置箇所及び配置数、発熱体の面積等によって決定される。
更に、ガラスコーティング鉄粉中に上記樹脂バインダーを混合した複合粉体材料を圧縮成形し、抵抗値1〜103Ωcm、特に好ましくは、比重6〜8としたものであり、抵抗値が1〜103Ωcmの範囲であることから、溶着条件によって任意の値のものを使用できる。
【0012】
請求項2の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体は、更に、前記樹脂バインダーが熱硬化性樹脂であり、圧縮成形した後にアニール処理をしたものである。
【0013】
請求項3の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体は、マイクロ波樹脂溶着体の前記複数の合成樹脂成型体相互間の接合面は、凹凸状の噛み合わせとしたものである。
このように噛み合わせの位置に前記マイクロ波樹脂溶着体を載置して誘電加熱を行えば、接合面積が広くなり、完全な封止が可能となる。
【0014】
請求項4の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体は、前記合成樹脂成型体相互間の接合面の凹凸状の噛み合わせは、一面が凹状の環状で他面が凸状の環状となる環状凹部と環状凸部とを有し、前記合成樹脂成型体相互間に配置されるマイクロ波樹脂溶着体が前記環状凹部の内部の環状内方向に配置されるものである。ここで環状内方向とは環によって規定される閉鎖域または内部域の方向を意味する。
【0015】
請求項5の発明にかかるマイクロ波樹脂溶着体は、0.01〜10μmのガラスコーティング層となるように表面コーティングされた0.1〜500μmの粉体からなるガラスコーティング鉄粉が圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーを入れて分散し、抵抗値1〜103Ωcmの特性とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波によって誘電加熱自在とし、前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明のマイクロ波樹脂溶着体は、0.1〜500μmの粉体の鉄粉が0.01〜10μmのガラス膜によって表面コーティング処理されており、そして、総量に対して0.1〜50重量%の樹脂バインダーを前記表面コーティングされたガラスコーティング鉄粉の粉体中に入れて分散し、圧縮成形して抵抗値1〜103Ωcmの特性とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波による誘電加熱で前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着するものである。
したがって、0.1〜500μmの粉体の鉄粉が0.01〜10μmの膜によってガラスコーティングされているから、ガラスコーティングすることで鉄粉の発熱効率が向上し、また、その粉体からなる鉄粉がガラスコーティングの絶縁のため、鉄粉間の放電の発生条件が限定され、その放電頻度を低下させることができる。また、鉄粉が0.1〜500μmと小粒子であるから、そこに誘導される電気量が小さく放電の発生が抑制される。そして、ガラスコーティングすることで鉄粉の保温条件が良くなり、エネルギ損失の少ない溶着ができる。
更に、本発明のマイクロ波樹脂溶着体の抵抗値を1〜103Ωcmの範囲の何れかの値を選択することによって、溶着層が2層以上の合成樹脂成型体であっても、同時に合成樹脂成型体相互間が均質化した溶着とすることができる。また、比重が6〜8の範囲内のものであるから、完成品の総重量を大きく左右することがないが、作業の際に対抗する合成樹脂成型体間においても、容易に移動することがなく、作業性がよい。
【0017】
請求項2の発明のマイクロ波樹脂溶着体は、前記樹脂バインダーが熱硬化性樹脂であり、圧縮成形した後にアニール処理をしたものであることから、マイクロ波樹脂溶着体の形状保持が優れ安定した発熱が得られることから、所望の位置の溶着が容易に行うことができる。
【0018】
請求項3の発明のマイクロ波樹脂溶着体は、マイクロ波樹脂溶着体の前記複数の合成樹脂成型体相互間の接合面は、凹凸状の噛み合わせとしたものであるから、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、噛み合わせの位置に前記発熱体を載置して誘電加熱を行えば、接合面積が広くなり、完全な封止が可能となる。
【0019】
請求項4の発明のマイクロ波樹脂溶着体は、前記合成樹脂成型体相互間の接合面の凹凸状の噛み合わせは、一面が凹状の環状で他面が凸状の環状となる環状凹部と環状凸部とを有し、前記合成樹脂成型体相互間に配置されるマイクロ波樹脂溶着体が前記環状凹部の内部の環状内方向に配置されるものであるから、請求項3の効果に加えて、マイクロ波樹脂溶着体を気密性が要求される樹脂成型体の内部に近い環状凹部の環状内方向に配置することで確実な封止が可能となる。
【0020】
請求項5の発明のマイクロ波樹脂溶着体による溶着方法は、0.01〜10μmのガラス膜となるように表面コーティングされた0.1〜500μmの粉体のガラスコーティング鉄粉が圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーを入れて分散し、抵抗値1〜103Ωcmの特性とし、それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波によって誘電加熱自在とし、前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着するものである。
したがって、0.1〜500μmの粉体の鉄粉が0.01〜10μmの膜によって表面がガラスコーティングされているから、表面のガラスコーティングによって鉄粉の発熱効率が向上し、また、その鉄粉の表面がガラスコーティングによって絶縁されているため、鉄粉間の放電の発生条件が限定され、その放電頻度を低下させることができる。更に、鉄分の表面をガラスコーティングすることで鉄粉の保温条件が良くなり、エネルギ損失の少ない溶着ができる。
また、鉄粉が0.1〜500μmの粉体であって小粒子であるから、そこに誘導される電気量が小さく放電の発生が抑制される。
加えて、本発明のマイクロ波樹脂溶着体の抵抗値を1〜103Ωcmの範囲の何れかの値を選択することによって、溶着層が2層以上の合成樹脂成型体であっても、同時に合成樹脂成型体相互間が均質化した溶着とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体の概念図で、図1(a)は全体の平面図、図1(b)はその切断線X−Xによる断面図、図1(c)は組成概念を示す拡大説明図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体と合成樹脂成型体の溶着面との断面幅関係を説明する説明図で、(a)は溶着面が狭い場合、(b)は溶着面が広い場合である。
【図3】図3は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体の平面図で、基本形状の平面図(a)、穿孔形状の平面図(b)、長円形状の平面図(c)、メッシュ形状の平面図(d)を示すものである。
【図4】図4は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体と合成樹脂成型体の環状凹部と環状凸部との溶着面の形状を説明する説明図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体と合成樹脂成型体の溶着面との関係を説明する説明図で、(a)は凹凸面におけるマイクロ波樹脂溶着体が広い場合、(b)は凹凸面におけるマイクロ波樹脂溶着体が狭い場合である。
【図6】図6は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体と合成樹脂成型体の溶着面との関係を説明する説明図で、(a)は凹凸面における壁側シール用断面の説明図、(b)は凹凸面における溶着面の溶着前及び溶着後の説明図である。
【図7】図7(a)〜(c)は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体を溶かし易い3種類の断面形状の説明図である。
【図8】図8(a)〜(c)は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体の接合強度を挙げる3種類の断面形状の説明図である。
【図9】図9は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体にマイクロ波を照射するマイクロ波の出力パターンを示す説明図である。
【図10】図10は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体の時間−温度特性図である。
【図11】図11は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体のガラスコーティングの有無による実施例と比較例とのマイクロ波加熱実験結果を示す説明図である。
【図12】図12は本発明の実施の形態にかかるマイクロ波発熱体のガラスコーティングの有無と抵抗値と加熱温度との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、図中、本実施の形態における同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここでは重複する説明を省略する。
【0023】
図1は本発明の実施の形態によるマイクロ波樹脂溶着体20の概念図で、図1(a)は全体の平面図であり、図1(b)はその切断線X−Xによる拡大断面図であり、図1(c)は組成概念を示す拡大説明図である。図2は同じく合成樹脂成型体の溶着面との関係を説明する説明図で、図3は同じくマイクロ波樹脂溶着体の平面図である。
図1(c)に示すように、ガラスコーティング鉄粉Fは、鉄粉の外表面にガラスコーティング層Gを有している。ガラスコーティング層Gでコーティングされたガラスコーティング鉄粉Fが圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーPを具備するマイクロ波樹脂溶着体は、上記ガラスコーティング鉄粉Fの粉体中に樹脂バインダーPを入れて分散し、このガラスコーティング鉄粉Fの粉体中に樹脂バインダーPが分散混合した複合粉体材料を圧縮成形して、抵抗値1〜103Ωcm、比重6〜8の特性を持たせたものである。なお、この比重が6〜8の範囲内にするものでは、完成品の総重量を大きく左右することがなく、作業の際に対抗する合成樹脂成型体間においても、重心位置等が容易に移動することがなく、作業性がよいことから選択している。
【0024】
マイクロ波樹脂溶着体20は、図2に示すように、合成樹脂成型体10の相互間、即ち、合成樹脂成型体11,12に挟まれ、マイクロ波を照射することによってマイクロ波樹脂溶着体20が発熱し、溶融し、合成樹脂成型体11,12を部分的に溶着するものである。マイクロ波樹脂溶着体20の全体は均一の厚みの板状であり、被溶着物である合成樹脂成型体11,12の接合面11A,12Aの間に挟んだ状態で、押圧力を加え、マイクロ波を照射して加熱するものである。マイクロ波樹脂溶着体20は厚すぎると、合成樹脂成型体10間に空隙を生じる恐れ、バリが発生する恐れがあるので、導電性の板状合成樹脂からなるマイクロ波樹脂溶着体20は厚さが2mm以下、好ましくは1mm以下とすることが好ましい。勿論、全体が均一の厚みでなくても、その接合面積及び機械的強度等を考慮し、厚みの変化を持たせることもできる。
【0025】
マイクロ波樹脂溶着体20の厚さが0.1〜2.0mmの範囲、好ましくは0.3〜1.0mmの範囲とすることで、マイクロ波樹脂溶着体20を挟み込んだ際の合成樹脂成型体10相互間の隙間が2mm以下、より好ましくは1mm以下にできる。そして、マイクロ波樹脂溶着体20の発熱によってマイクロ波樹脂溶着体20に接する合成樹脂成型体11,12の接合面11A,12A内の接触面及びその接触面近傍が溶融、軟化するとともに合成樹脂成型体10に加えられた押圧力によって合成樹脂成型体10中にマイクロ波樹脂溶着体20が埋没することから合成樹脂成型体10相互間の隙間が減少し密接する。このことから、マイクロ波樹脂溶着体20の厚みは薄いほど好ましいが、発熱との関係によって厚みが決定され0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上が適する。
【0026】
なお、このときの溶着する際の押圧力は、合成樹脂成型体11,12相互間に挟まれたマイクロ波樹脂溶着体20の厚みを少なくする方向に押圧力を加えるものである。ここで、マイクロ波樹脂溶着体20の厚みが2mmを超えるとマイクロ発熱体を合成樹脂成型体間に配置したときの間隙が大きく、押圧を加えて溶着した後に合成樹脂成型体間に間隙が残りやすい。誘電加熱のばらつきも大きくなる。
【0027】
また、本実施の形態で使用するマイクロ波樹脂溶着体20は、例えば、図3(a)〜(d)に示されているように、マイクロ波樹脂溶着体20として、その平面の角は面取りとしてのR(アール)が形成されている。この面取りRにより、照射するマイクロ波エネルギの集中が生じないので、スパークの発生、合成樹脂成型体10の焼け等が防止される。面取りRは大きいほうが好ましく、溶着する製品の幅とマイクロ波樹脂溶着体20の幅から設定される。通常、本実施の形態で使用するマイクロ波樹脂溶着体20は、肉厚を0.1〜2.0mmの範囲とし、かつ、角部をR0.5mm以上とするのが望ましい。また、面取りRは曲面形状以外にもスパークの発生が生じないのであれば平面の90度の隅の角度を45度程度の斜めの直線状に面取りしてもよい。そして、合成樹脂成型体10の接合面11A,12Aに沿ってマイクロ波樹脂溶着体20の長さ及び形状を調節して配置する。またマイクロ波樹脂溶着体20の幅は、図2(a)または図2(b)に示したように合成樹脂成型体10の接合面11A,12Aの幅より狭い幅に設定されている。このようにマイクロ波樹脂溶着体20の幅を合成樹脂成型体10の接合面11A,12Aの幅より小さくすることで溶着時に接合面から溶融した樹脂が食み出すことを防止できる。
【0028】
勿論、本発明の実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20の大きさや形状は、合成樹脂成型体10としての形状や構造などによって決定されるが、形状や構造が複雑化する程、溶着部の溶着面も複雑な形状となり、より高精度な溶着が必要とされることになる。このような場合には、図3(b)〜(d)に示されるように、マイクロ波樹脂溶着体20に貫通孔としての穿設孔20aを設けたり、特定方向に貫通孔が長い長円穿設形状20bを設けたり、または、マイクロ波発熱体20自体を網状に貫通孔を形成したメッシュ形状20cで形成することができる。網状に貫通孔を形成したメッシュ形状20cは、図3(d)においては、長方形の開口としているが、円形または三角形、平行四辺形等の開口とすることができる。
【0029】
殊に、マイクロ波樹脂溶着体20の図3(d)のメッシュ形状20cは、全体に孔の行及び列を複数とし、そのマトリックスで接合するものである。接合面積が広い場合に使用すると好適である。特に、図3(b)及び(c)のマイクロ波樹脂溶着体20の穿設孔20a、長円穿設形状20bは、その空間にマイクロ波エネルギを使用しないので、周囲の温度上昇が高い効率的な制御となりマイクロ波樹脂溶着体20の溶着作業速度を早めることができる。また、このようにマイクロ波樹脂溶着体20に穿設孔20a、長円穿設形状20bを設け、メッシュ形状20cとすることによって、予め接合面に形成される図示しない微小な突起等の位置決め突部に、穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20cの目を挿入することによって、接合面の所定の位置にマイクロ波樹脂溶着体20を正確に位置決めしながら溶着することが可能となる。特に、マイクロ波樹脂溶着体20として特定の複雑形状のシートを挟む場合等に好適である。なお、微小な位置決め突部は、マイクロ波樹脂溶着体20の厚みの1/3〜2/3程度の高さが、溶着に影響を与え難く、かつ、取り付け作業性を良くしている。
【0030】
また、このような穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20cの貫通孔を利用し、合成樹脂成型体10に形成した図示しない微小な突起を挿入させて、合成樹脂成型体10とマイクロ波樹脂溶着体20の平面形状の位置合わせを行い、その後に溶着させることによって、精度が高い組み付け溶着を行うことができる。
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20に設けた穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20c等の貫通孔等は、対応する合成樹脂成型体10の接合面、即ち、各層の溶着部の表面に貫通孔等に対応する突起を設けることによって、接合面にマイクロ波樹脂溶着体20を正確に位置決めする精度の向上や、マイクロ波樹脂溶着体20のセットに要する時間を短縮させることができる。
【0031】
ここで、図3に示したマイクロ波樹脂溶着体20の形状は本発明の実施の形態に使用するマイクロ波樹脂溶着体20の一部分に適用するものとして説明のために記載したものであり、この形状のままで使用することも可能であるが、使用条件によって形状が定められる。
つまり、図3(a)〜図3(d)に示されるマイクロ波樹脂溶着体20は、直線状に形成されたものであり、これら直線状のマイクロ波樹脂溶着体20を合成樹脂成型体10の長さを調節することで接合面11A,12Aに合わせて配置することができる。このとき、火花放電等が発生しにくくするには、マイクロ波樹脂溶着体20を直線状から環状とするのが望ましく、この実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20は使用状態では図5に記載のように、全体を環状として形成して使用されるのが好ましい。全体を環状とすると、電界が大きくなる先端部をなくし、誘電加熱中に放電が生ずるのを激減させることができる。また、環状にすることで合成樹脂成型体10の接合面に合わせ易くなり、確実な接合が得られ気密性確保の信頼性が向上する。
なお、前述したマイクロ波樹脂溶着体20内の穿設孔20a、長円穿設形状20b、メッシュ形状20cの貫通孔は環状にしたマイクロ波樹脂溶着体20に設けたときでも同様な効果を有する。
【0032】
次に、合成樹脂成型体10の接合面11A,12Aについて説明する。
図4に示すように、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の接合面11A,12Aには、一方の面、例えば、図中上側の合成樹脂成型体12の接合面12Aに環状凸部12bを形成し、他方の面、つまり図中下側の合成樹脂成型体11の接合面11Aに環状凹部11bを形成し、その環状凹部11bにマイクロ波樹脂溶着体20を挿入し、両者間に押圧力を加え、誘電加熱しながら、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の両面を接合するものである。図5(a)のように、環状凹部11bの底のマイクロ波樹脂溶着体20の断面幅を広くして接合することも、図5(b)のように、環状凹部11bの底のマイクロ波樹脂溶着体20の断面幅を狭くして接合することもできる。また、環状凹部11bの底の深さを深くしたり、浅くしたりすることもできる。また、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の対向面は鋸歯状とすることもできる。
【0033】
そして、図4(a)に示すように、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の接合面11A,12Aには、例えば、上側を環状凸部12bと下側を環状凹部11bに形成し、その幅Bの環状凹部11bに、幅Bより幅狭の幅Aからなるマイクロ波樹脂溶着体20を載置し、そこに合成樹脂成型体12の環状凸部12bを挿入する。環状凸部12bの幅は、環状凹部1bに嵌め合い寸法差、例えば、1/100〜1/10程度の差に設定される。また、合成樹脂成型体11の深さC11は、合成樹脂成型体12の環状凸部12bの高さC12と同一または若干小さい程度である。マイクロ波樹脂溶着体20が溶融、軟化したとき、それが、合成樹脂成型体11の環状凹部11bの幅Bと深さC11で吸収され、合成樹脂成型体12側の外周幅、即ち、環状凹部11bの両側の壁の幅Dから外へ食み出さないように、幅Bが全幅の1/3乃至2/3に設定される。
【0034】
ここで、図6に示すように、マイクロ波樹脂溶着体20の合成樹脂成型体11における環状凹部11bへ配する位置を、環状凹部11bの中央から環状凹部11bの環状内方向にずらして配することができる。ここで環状内方向とは、図6(a)に示したように合成樹脂成型体11及び合成樹脂成型体12を溶着してできた内部空間13の方向を指し、詳しくは、環状凹部11bの内部空間13に接する側の壁面に接してマイクロ波樹脂溶着体20を配置する。ここで内部空間13には油等の流体が内包され、このように溶着された合成樹脂成型体内部に流体が内包されている内部空間13の方向の壁面に接してマイクロ波樹脂溶着体20を配置し、内部空間13の方向の壁面側を溶着することで、環状凹部11bの流体に近い側の壁面がマイクロ波樹脂溶着体20によって溶着されることになるから、合成樹脂成型体の内部に内包した流体が合成樹脂成型体の外部へ漏れ難くなり気密性の信頼性が増すことになる。
【0035】
図7及び図8はマイクロ波樹脂溶着体20のその他の実施例を示すもので、合成樹脂成型体12に環状凸部12bを、合成樹脂成型体11に環状凹部11bを形成し、その接合を行う場合の特徴を説明する説明図である。
図7(a)は環状凸部12bの先端に凹欠条12dを形成し、また、環状凹部11bの底の中央にも凹欠条11dを形成し、その凹欠条12dと凹欠条11dとの間にマイクロ波樹脂溶着体20を配置したものである。この実施例では、誘電加熱してもマイクロ波樹脂溶着体20の温度が閉じられた空間にあるので逃げにくく、マイクロ波樹脂溶着体20及び合成樹脂成型体10が溶融しやすくなる。このとき、マイクロ波樹脂溶着体20の溶融は嵌合する環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がりとすることができ、その深さの設定は凹欠条12dの体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0036】
図7(b)は環状凸部12bの先端に突起条12eを形成し、また、環状凹部11bの底の中央にも突起条11eを形成し、その突起条12eと突起条11eとの間にマイクロ波樹脂溶着体20を配置したものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20が突起条12eと突起条11eで支持されているから温度が熱伝導で逃げにくく、熱伝導が少ない状態で誘電加熱できるから、マイクロ波樹脂溶着体20が溶融しやすくなる。このとき、マイクロ波樹脂溶着体20の溶融は嵌合する環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がりとすることができ、その深さの設定は突起条12eと突起条11eとマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0037】
図7(c)は環状凸部12bの先端に2条の突起条12fを形成し、また、環状凹部11bの底の中央にも2条の突起条11fを形成し、その2条の突起条12fと突起条11fとの相互間にマイクロ波樹脂溶着体20を配置したものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20が2条の突起条12fと突起条11fで支持されているから温度が熱伝導で逃げにくく、効率よく誘電加熱できるからマイクロ波樹脂溶着体20が溶融しやすくなる。このとき、マイクロ波樹脂溶着体20の溶融は嵌合する環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がりとすることができ、その深さの設定は2条の突起条12fと突起条11fとの間の体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0038】
図8(a)は環状凸部12bの先端に凹欠条12gを形成し、また、環状凹部11bの底の両側にも凹欠条11gを形成し、その凹欠条11gの中に溶融したマイクロ波樹脂溶着体20を導くものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20の接合面積が広くなり、かつ、誘電加熱でマイクロ波樹脂溶着体20が溶融して環状凹部11bの底の両側の凹欠条11gにも入り込むから、マイクロ波樹脂溶着体20によって環状凸部12bと環状凹部11bが一体的な結合となる。このとき、環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がり接合深さは、凹欠条12g及び凹欠条11gの体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0039】
図8(b)は環状凸部12bの先端側の両側に切欠条12hを形成し、その切欠条12hの中に溶融したマイクロ波樹脂溶着体20を導くものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20の接合面積が切欠条12hによって広くなり、かつ、誘電加熱でマイクロ波樹脂溶着体20が溶融して環状凸部12bの両側の切欠条12hにも入り込むから、マイクロ波樹脂溶着体20によって環状凸部12bと環状凹部11bが一体的な結合となる。このとき、環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がり接合深さは、切欠条12hの体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0040】
図8(c)は環状凹部11bの底の中央に上部開口溝条11jを形成し、その上部開口溝条11jの中に溶融したマイクロ波樹脂溶着体20を導くものである。この実施例では、マイクロ波樹脂溶着体20の接合面積が広くなり、かつ、誘電加熱でマイクロ波樹脂溶着体20が溶融して環状凹部11bの底の中央の上部開口溝条11jに入り込むから、マイクロ波樹脂溶着体20によって環状凸部12bと環状凹部11bが一体的な強靭な結合となる。このとき、環状凸部12bと環状凹部11bの立ち上がり接合深さは、上部開口溝条11jの体積とマイクロ波樹脂溶着体20の体積によって決定できる。
【0041】
次に、マイクロ波樹脂溶着体20について説明する。
マイクロ波樹脂溶着体20は、基本的にはガラスコーティング鉄粉Fの粉末を樹脂バインダーPで固めた構造となっている。
樹脂バインダーPとしては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が使用できる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ジリアルフタレート樹脂(PDAP)等があり、本発明の実施の形態ではフェノール樹脂を使用した。
【0042】
また、熱可塑性樹脂として、例えば、エンジニアリング・プラスチック、スーパー・エンジニアリング・プラスチックを用いることができる。具体的には、ポリアミド(ナイロン、芳香族ポリアミド等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン等がある。そして、スーパーエンプラとしては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアレート、液晶ポリマー、ポリアミドイミド等がある。
【0043】
本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体20に、どのような熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を使用するかは、合成樹脂成型体10との相溶性や接着性を考慮して決定される。
例えば、熱可塑性樹脂の場合、合成樹脂成型体10の材料がポリエチレンであれば、マイクロ波樹脂溶着体20に使用する樹脂もポリエチレンとし、合成樹脂成型体10の材料がPPS樹脂であれば、マイクロ波樹脂溶着体20に使用する樹脂材料も同様にPPS樹脂を使用する等、合成樹脂成型体10を構成する樹脂と同じ樹脂を用いて成形して得たマイクロ波樹脂溶着体20を使用することが合成樹脂成型体10とマイクロ波樹脂溶着体20との樹脂の相溶性が最適となり好ましい。合成樹脂成型体10の材料とマイクロ波樹脂溶着体20に使用する樹脂材料が異なっていても溶着時の接着性に影響を与えない限り使用可能である。
【0044】
熱硬化性樹脂の場合は熱可塑性樹脂の場合とは異なってくる。マイクロ波樹脂溶着体20に熱可塑性樹脂を使用する場合は、マイクロ波の照射による発熱による溶融によってマイクロ波樹脂溶着体20は流動化し、形状の維持が出来にくくなる。その結果、発熱効率に変化が生じ所望の溶着が得にくくなることがある。これに対し熱硬化性樹脂を使用した場合は、マイクロ波の照射による発熱によってマイクロ波樹脂溶着体20は軟化・溶融が起こるが、加熱による硬化の進行によって熱可塑性樹脂を使用する場合に比べて形状の保持が容易となるため発熱効率に変化が生じ難い。したがって、所望の溶着状態が得やすくなる。特に、マイクロ波樹脂溶着体20を形成した後アニール処理を施すことによって硬化を中間状態(Bステージ)にまで進めることで更に形状は保ちやすくなる。アニールの条件が弱いと硬化の進行が少なく形状の保持が弱く、条件が強くなりすぎると形状の保持は十分となるが合成樹脂成型体10との接着性が悪くなる。したがって、アニール条件としては温度200℃〜230℃、時間10分〜60分が適している。
【0045】
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20に使用される金属粉末となる鉄粉としては、中位径0.1〜500μmの粉体を用いたものである。ここで、中位径とは、レーザ回折・散乱法によって測定した鉄粉の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数または質量が全粉体の50%をしめるときの粒子径をいい、その中位径が0.1〜500μmであることを意味する。中位径0.1μm以下であると発熱が弱く、中位径500μm以上であると粒子の電荷量が大きくなり、放電が発生する可能性が出てくる。
【0046】
これらの金属粉末はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が、0.1〜500μmの粉体の鉄粉であり、更には、中位径が1〜200μmのものの使用が好ましい。当然ながら、ふるい分け試験で測定した粒子径の値が1〜200μmの範囲内とすることもできる。
【0047】
ここで、「ふるい分け試験」とは、JIS−Z−8801によって規定された目開きをもつ標準ふるいを用いて、測定対象となる粉末をふるい分けることによって粒度分布を測定する試験方法をいうものである。標準ふるいなどを用いて行う粒径,粒径分布を測定する方法のことである。粒径と、粒径分布の表現は、使用したふるいの目開き(μm )とふるい上残量(オーバサイズ)またはふるい下通過量(アンダーサイズ)の全体に対する比率で表される。
【0048】
ガラスコーティング鉄粉Fは、上記中位径0.1〜500μmの粉体の鉄粉の表面に、0.01〜10μmのガラス膜によってガラスコーティング層Gが形成されたものである。ガラス膜の厚み0.01〜10μmは、厚みが10μm以上になると、誘電加熱の効率が低くなり、また、機械的強度がガラス膜に左右されることになる。ガラス膜の厚みが0.01μm以下では、鉄粉F間の間隔が狭くなり、放電の可能性が高くなる。
特に、本実施の形態では、ガラス膜の厚み0.01〜10μmで中位径0.1〜500μmの鉄粉を包み込むと、そのガラスコーティング層Gの断熱効果で鉄粉の温度が急上昇し、マイクロ波樹脂溶着体の温度特性を良好にすることができる。
【0049】
このような粉体状のガラスコーティング鉄粉Fに対して、粉末状の樹脂バインダーPを総量に対して0.1〜50重量%となるように粉体状のガラスコーティング鉄粉Fに入れて分散混合した複合粉体材料を、圧縮成型用金型に充填し加熱・加圧することでマイクロ波樹脂溶着体20を形成する。マイクロ波樹脂溶着体20の厚みは、発熱状態及び溶着後の溶着面間の隙間の発生状況から決定され、0.1〜2.0mmが好ましい。0.1mmより薄いと発熱が十分でなく、取り扱いが難しくなる。また、2.0mmを越えると発熱量が大きくなりすぎ溶着の制御が難しくなる。
【0050】
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20に含有されるガラスコーティング鉄粉Fは、その全体の比重、内部抵抗によって決定され、総量に対し50重量%を超えて使用されることから樹脂バインダーPの使用量が少なくなるために、ガラスコーティング鉄粉Fによる発熱を効率よく合成樹脂成型体10に与えることで強力な溶着強度を発揮することができる。
このようなガラスコーティング鉄粉Fを多く含有するマイクロ波樹脂溶着体20は、ガラスコーティング鉄粉Fと粉末の樹脂バインダイーPを混合した複合粉体材料を所望の金型内で圧縮成型することで所望の形状に作製される。
【0051】
このように作製したマイクロ波樹脂溶着体20を、被溶着物である合成樹脂成型体としての合成樹脂成型体11と、合成樹脂成型体12の間に設置させて、マイクロ波樹脂溶着体20を介して合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12を積層させ、マイクロ波をこの積層してなるマイクロ波樹脂溶着体20に照射するものである。その際、合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の間で十分に溶着することができるよう合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12の間が0.1〜5.0MPaの加圧力で加圧されることが好ましい。このような加圧された状態にてマイクロ波を0.5〜10KWの出力で照射すると、マイクロ波樹脂溶着体20が発熱されて合成樹脂成型体11と合成樹脂成型体12のマイクロ波樹脂溶着体20との接触面である溶着表面が溶融を始めるから、加圧力を弱くする等の調整を行うことによって、バリの発生防止や溶着後の製品の寸法精度を良好にすることができる。ここで、樹脂バインダーPに熱硬化性樹脂を使用したマイクロ波樹脂溶着体20は、加熱によっても熱可塑性樹脂を使用したときに比べて形状の保持に優れることから、厚みの変化が少なくなり発熱効率を高い状態に保持しやすくなる。そしてこの効果は熱硬化性樹脂を使用して作製したマイクロ波樹脂溶着体20にアニールを施すことで更に高めることができる。
【0052】
ここで、マイクロ波発生装置の出力は、図9に示すように、急激に出力を上げ、その出力でマイクロ波樹脂溶着体20の軟化及び溶融状態に変化させ、その溶融状態を出力の調整によって制御し、マイクロ波樹脂溶着体20を均一温度とするものである。このとき、マイクロ波樹脂溶着体20の温度特性は、速やかに溶融温度に上昇し、所定の融着温度となり、通常、30秒以内に融着温度となる。但し、図10に示すようにマイクロ波樹脂溶着体20の立ち上げの温度特性は、白抜き矢印に示すように、出力を大きくすると早期に立ち上がることになる。マイクロ波樹脂溶着体20が融着温度となると、その接着方向に対する押圧力によって合成樹脂成型体10相互が密に融着される。
【0053】
このようなマイクロ波発生装置により合成樹脂成型体10を加熱して溶着を行った後、合成樹脂成型体10をマイクロ波発生装置から取り出し放冷することによって、溶着工程を終了させる。或いは、加熱工程を2回以上行う必要がある場合には、放冷前後のいずれかにおいて、2回目以降のマイクロ波照射を行うことになる。
また、図9に示すように、マイクロ波照射後、一定時間を経過(例えば、30秒)した後に、出力を上下させる等の制御を行ってもよい。
【0054】
発明者らは、図11に示すように、鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したもの(ガラスコーティング鉄粉F)と、ガラスコーティングしてないものを対象とし、750Wのマイクロ波発生装置で発熱状態を確認した。ガラスコーティング層Gを形成してないものとして、比較例1として鉄粉を幅10mm、厚さ1mm、比較例2として鉄粉を幅10mm、厚さ0.5mm、比較例3として鉄粉を幅5mm、厚さ0.5mmの長さがそれぞれ60mmの圧縮成型体とし、参考例として鉄粉のみ(圧縮成型体とせず)を含めて所定加熱時間に対する加熱温度を測定した。
【0055】
また、ガラスコーティング層Gを形成したガラスコーティング鉄粉Fを実施例1として幅10mm、厚さ1mm、実施例2として幅10mm、厚さ0.5mm、実施例3として幅5mm、厚さ0.5mmの長さがそれぞれ60mmの圧縮成型体とし、参考例としてガラスコーティング鉄粉Fのみ(圧縮成型体とせず)を含めて所定加熱時間に対する加熱温度を測定した。なお、実施例1乃至実施例3、比較例1乃至比較例3ともバインダー樹脂としてフェノール樹脂を0.5重量%混合した複合粉体材料とし、この複合粉体材料を金型内に充填し、室温で800MPaの圧力で圧縮することで圧縮成型体を形成し、その後圧縮成型体にアニール処理(230℃、10分)を実施したものを使用した。
結果、鉄粉にガラスコーティングを施すことで放電火花(スパーク)の発生も少なく発熱効率が高くなることが証明でき、また幅より厚みが厚いものの方が発熱効率の良いことが分かった。
【0056】
また、同様に、図12に示すように、鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したものとしてないものを対象とし、750Wのマイクロ波発生装置で30秒間加熱し、抵抗値と加熱温度の関係を確認した。測定品は、図11の所定加熱時間に対する加熱温度の測定に使用したものと同じ条件で作製したものを使用した。
【0057】
結果、鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したガラスコーティング鉄粉Fを用いることでガラスコーティング層Gを形成しないものに比べて抵抗値が大きくなり、その結果発熱効率が高くなっていることが判明した。これらのことから、鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したものが有利であることが明確になった。そして成型体とした厚みを変化させることで抵抗値が大きく変化させることが可能であることもこの結果から明確となった。また、ガラスコーティング層Gの有り無しにかかわらず粉末のままより、成型体に形成したほうが大きな抵抗値が得られて発熱効率が高くなることも判明した。
【0058】
このように、本発明の実施の形態にかかるマイクロ波によって誘電加熱自在なマイクロ波樹脂溶着体20は、導電体である鉄粉にガラスコーティング層Gを形成したガラスコーティング鉄粉Fを、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂によって成型体としたものである。
【0059】
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20によって溶着される合成樹脂成型体10としては、基本的には熱可塑性樹脂からなる成形体であれば良い。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を使用することが可能であるが、どのような熱可塑性樹脂を使用するかは、熱可塑性樹脂成形体の用途や形状等、従来の考え方によって決定される。
【0060】
本実施の形態のマイクロ波樹脂溶着体20はその発熱温度を高温とすることができるので、PPS等の高融点の樹脂にも対応することが可能である。
また、合成樹脂成型体10は、熱可塑性樹脂に対して、公知の樹脂用添加剤を配合されたものでよい。着色材、可塑剤、酸化防止剤、充填材等を含有させることができる。
【0061】
即ち、マイクロ波樹脂溶着体20としては、熱可塑性樹脂をバインダーとして採用する場合には、その熱可塑性樹脂としては、合成樹脂成型体10を構成する熱可塑性樹脂と同じ樹脂が好ましい。同じ樹脂であれば、マイクロ波樹脂溶着体20を構成する樹脂との相溶性に優れるので、溶着後の溶着強度に優れた製品とすることができる。また熱硬化性樹脂をバインダーとして採用する場合には、接着性に優れるフェノール樹脂やエポキシ樹脂が推奨される。
【0062】
以上、本発明の実施の形態の合成樹脂成型体10は合成樹脂成型体11、及び合成樹脂成型体12の2層として説明してきたが、本発明の実施の形態の合成樹脂成型体10は2層に限らず、任意の積層とすることができる。この場合、各層の両面には、図5に示すように、凹部と凸部が設けられ、これらを係合させて溶着することで各層の積み重ねが出来、内部に複雑な内部空間の形状を有した成形体であっても各層に分割した後積層することで作製することが可能となる。この際各層によって形状が異なることがあるが積層時の溶着に使用するマイクロ波樹脂溶着体20は各層に合わせた形状とすることができ、さらに抵抗値を各層の形状に合わせて制御することで形状に適した発熱が可能となり、各層が異なった形状であっても容易に積層形状を溶着で作り出すことができる。
【0063】
本実施の形態で使用するマイクロ波樹脂溶着体20を加熱するマイクロ波発生装置としては、マイクロ波を照射することができる形態であればよく、市販の産業用マイクロ波発生装置が使用できる。また、均一にマイクロ波を照射するために、内部に載置した合成樹脂成型体10に対して、収容装置の壁面構造、マイクロを拡販するための構造、合成樹脂成型体10を載置するターンテーブルの構造、形状、回転条件等を最適化させるのが望ましい。
【0064】
以上説明してきたように、本発明のマイクロ波樹脂溶着体による溶着方法は複数の合成樹脂成型体10の溶着に、特に、3以上の合成樹脂成型体10を同時に溶着するのに有効である。
そして、図3(a)〜図3(d)に示したようにマイクロ波樹脂溶着体20の基本形状は、肉厚を0.1〜2.0mmの範囲とし、かつ、角部をR0.5mm以上で面取りしたものであるから、マイクロ波の角部への集中が起き難い形状となっていてスパーク等による不具合の発生を抑制している。
【0065】
更に、本発明のマイクロ波樹脂溶着体20の平面内部には孔やメッシュ形状の切り欠きを設けることで、これらの切り欠きを使用して合成樹脂成型体の接合面の溶着部位にマイクロ波樹脂溶着体20を正確に配置することが可能となる。更に、これら切り欠き部を通してマイクロ波樹脂溶着体20に接して対面する合成樹脂成型体相互の樹脂が溶融接着し接合強度を上げることも期待できる。
【0066】
また、本発明のマイクロ波樹脂溶着体20は図3(a)〜図3(d)に示したような長方形等の規定の形状を用いて溶着させることができるが、合成樹脂成型体の接合面の形状に沿った特定の形状に形成して使うことができる。このように接合面の形状に沿った特定形状にすることで合成樹脂成型体の接合面にマイクロ波樹脂溶着体20を短時間で設置することが可能となる。更にマイクロ波樹脂溶着体20を合成樹脂成型体の内部空間に近い方に配置することで、積層した接合面の気密性をより高めた接合が得られる。
【0067】
このような本発明の実施の形態にかかるマイクロ波樹脂溶着体20による溶着方法の適用にはオートマッチックトランスミッション用樹脂製バルブボディ、自動車用としてCVT、HV等用のバルブボディや溶着を複数回繰り返して製品化していたインテークマニホールド、リザーバタンク等が例示される。また、自動車用以外では、油圧制御が必要な装置用の樹脂製バルブボディ、燃料電池のセパレータ等の多層の樹脂部品を固定してなるものにも適用可能である。勿論、これらに限定されるものではなく、2つ以上の熱可塑性樹脂からなる部材を一体化させてなる部材等の製造に使用することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
10、11,12 合成樹脂成型体
20 マイクロ波樹脂溶着体
F ガラスコーティング鉄粉
G ガラスコーティング層
P 樹脂バインダー
11A,12A 接合面
11b 環状凹部
12b 環状凸部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01〜10μmのガラス膜によって表面コーティング処理がなされた中位径が0.1〜500μmの粉体のガラスコーティング鉄粉と、
前記ガラスコーティング鉄粉を分散させて圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーとを具備し、
上記ガラスコーティング鉄粉の粉体中に前記樹脂バインダーを分散させて圧縮成形して、抵抗値1〜103Ωcmの特性を持たせ、複数の合成樹脂成型体相互間に配置され、マイクロ波による誘電加熱で前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着により一体化することを特徴とするマイクロ波樹脂溶着体。
【請求項2】
更に、前記樹脂バインダーが熱硬化性樹脂であり、圧縮成形した後にアニール処理をしたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波樹脂溶着体。
【請求項3】
前記複数の合成樹脂成型体相互間の接合面は、凹凸状の噛み合わせとしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロ波樹脂溶着体。
【請求項4】
前記合成樹脂成型体相互間の接合面の凹凸状の噛み合わせは、一面が凹状の環状で他面が凸状の環状となる環状凹部と環状凸部とを有し、前記合成樹脂成型体相互間に配置されるマイクロ波樹脂溶着体が前記環状凹部の内部の環状内方向に配置されることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ波樹脂溶着体。
【請求項5】
0.01〜10μmのガラスコーティング層となるように表面コーティングされた0.1〜500μmの粉体からなるガラスコーティング鉄粉が圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーを入れて分散し、抵抗値1Ωcm〜103Ωcmの特性とし、
それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波によって誘電加熱自在とし、前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着することを特徴とするマイクロ波樹脂溶着体による溶着方法。
【請求項1】
0.01〜10μmのガラス膜によって表面コーティング処理がなされた中位径が0.1〜500μmの粉体のガラスコーティング鉄粉と、
前記ガラスコーティング鉄粉を分散させて圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーとを具備し、
上記ガラスコーティング鉄粉の粉体中に前記樹脂バインダーを分散させて圧縮成形して、抵抗値1〜103Ωcmの特性を持たせ、複数の合成樹脂成型体相互間に配置され、マイクロ波による誘電加熱で前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着により一体化することを特徴とするマイクロ波樹脂溶着体。
【請求項2】
更に、前記樹脂バインダーが熱硬化性樹脂であり、圧縮成形した後にアニール処理をしたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波樹脂溶着体。
【請求項3】
前記複数の合成樹脂成型体相互間の接合面は、凹凸状の噛み合わせとしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロ波樹脂溶着体。
【請求項4】
前記合成樹脂成型体相互間の接合面の凹凸状の噛み合わせは、一面が凹状の環状で他面が凸状の環状となる環状凹部と環状凸部とを有し、前記合成樹脂成型体相互間に配置されるマイクロ波樹脂溶着体が前記環状凹部の内部の環状内方向に配置されることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ波樹脂溶着体。
【請求項5】
0.01〜10μmのガラスコーティング層となるように表面コーティングされた0.1〜500μmの粉体からなるガラスコーティング鉄粉が圧縮成形自在なように、総量に対して0.1〜50重量%の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の樹脂バインダーを入れて分散し、抵抗値1Ωcm〜103Ωcmの特性とし、
それを複数の合成樹脂成型体相互間に配置し、マイクロ波によって誘電加熱自在とし、前記複数の合成樹脂成型体相互間を溶融、溶着することを特徴とするマイクロ波樹脂溶着体による溶着方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−107208(P2013−107208A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251410(P2011−251410)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】
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