説明

ポリイミド前駆体溶液組成物、及びポリイミド膜

【課題】 中間転写ベルトとして好適な3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸溶液組成を用いて得られるポリイミド膜と同等乃至それ以上の優れた機械的特性を有し、保存安定性が優れ、且つ高濃度且つ低粘度のアミック酸オリゴマー溶液組成を基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理してポリイミド膜を得る場合でも、加熱処理時に膜にひび割れを発生することなしにポリイミド膜を得ることが可能な、特定の化学構造を有するポリイミド前駆体溶液組成物を提供することである。
【解決手段】 特定の繰返し単位を有するポリイミド前駆体を含有することを特徴とするポリイミド前駆体溶液組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体溶液組成物に関する。本発明は、特定の化学構造からなるポリイミド前駆体溶液組成物であって、優れた機械的特性を有するポリイミド膜を安定して容易に得ることができる。また、このポリイミド前駆体は、高濃度且つ低粘度の溶液組成物としたときでも、優れた機械的特性を有するポリイミド膜を安定して容易に得ることができる。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド膜は、優れた耐熱性や機械的特性を有しており、フィルム形状に加工されたものはフレキシブル絶縁基板や耐熱性テープ基材として、また管状形状に加工されたものは加熱物品の搬送用ベルト、電子写真方式の定着ベルト或いは中間転写ベルトなどとして好適に用いられている。通常、このようなポリイミド膜はポリイミド前駆体である高分子量(数平均分子量が10000〜30000程度)のポリアミック酸溶液組成物を用いて製造される。中間転写ベルトを好適に製造することができるポリアミック酸溶液組成物としては、特許文献1に記載されている3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ等モル反応させて得られたポリアミック酸溶液組成物がある。
しかし、前記ポリアミック酸溶液組成物は、保存時に徐々に部分的なゲル化が起こることがあり、ゲル化が極微量であっても最終物であるポリイミド膜の物性に悪影響を与えるので、例えば導電性カーボンブラックを混合したポリアミック酸溶液組成物から電子写真方式の中間転写ベルトを製造すると、平面性の悪化や電気抵抗のバラツキの増大を招くことがある。また、前記ポリアミック酸溶液組成物を、高濃度且つ低粘度の溶液組成物にした(ポリイミド前駆体の対数粘度を小さくした)ときには、ポリイミド膜を容易に得ることが容易ではなかった。
低濃度のポリアミック酸溶液組成物では、一度に厚いポリイミド膜を成形するのは困難であり、溶液組成物として多量の溶媒を必要とするとともに、その多量の溶媒を蒸発除去するために多くの時間とエネルギーを必要とする問題があった。
【0003】
特許文献2には、2種以上の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミンとの略等モル量を反応して得られる芳香族アミド酸オリゴマー、カーボンブラック、及び有機極性溶媒を含有してなる半導電性芳香族アミド酸組成物が開示され、前記半導電性芳香族アミド酸組成物を用いて、電子写真方式の中間転写ベルトに好適な半導電性無端管状ポリイミドフィルムを得ることが記載されている。
【特許文献1】特開2000−231270号公報
【特許文献2】特開2005−247986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中間転写ベルトとして好適な3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ等モル反応させて得られたポリアミック酸溶液組成については、保存安定性において改良の余地があった。また、前記組成のポリアミック酸の対数粘度を小さくして得られる高濃度且つ低粘度のアミック酸オリゴマー溶液組成物を調製し、この溶液組成物を基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理してポリイミド膜を得ようとしても、加熱処理する際に、膜にひび割れが発生して良好なポリイミド膜を得ることが容易ではなかった。
したがって、本発明の目的は、中間転写ベルトとして好適な3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸溶液組成を用いて得られるポリイミド膜と同等乃至それ以上の優れた機械的特性を有し、保存安定性が優れ、且つ高濃度且つ低粘度のアミック酸オリゴマー溶液組成を基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理してポリイミド膜を得る場合でも、加熱処理時に膜にひび割れを発生することなしにポリイミド膜を得ることが可能な、特定の化学構造を有するポリイミド前駆体(ポリアミック酸乃至アミック酸オリゴマー)溶液組成物を提供することである。
【0005】
このポリイミド前駆体溶液組成物は、対数粘度が大きな(高分子量の)ポリアミック酸からなる場合でも対数粘度が小さい(低分子量化した)アミック酸オリゴマーからなる場合でも、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理することによって、中間転写ベルトとして好適な無端管状ポリイミド膜などのポリイミド膜を好適に製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の次項に関する。
1. 下記一般式(1)の繰返し単位を有するポリイミド前駆体を含有することを特徴とするポリイミド前駆体溶液組成物。
【0007】
【化1】

ここで、Bは下記一般式(2)で示される4価の基であり、Aの50〜95モル%が下記一般式(3)で示される2価の基であり、Aの50〜5モル%が下記一般式(4)で示される2価の基である。
【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【0010】
【化4】

【0011】
2. ポリイミド換算の固形分濃度が20質量%以上であって且つ30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下であることを特徴とする項1に記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
【0012】
3. 項1〜2のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物を、基材に塗布して膜状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理してポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
4. 項1〜2のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物を、回転成形法にて管状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理して無端管状ポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【0013】
5. 項3〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリイミド膜。
6. 項5に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする電子写真方式の中間転写ベルトに用いられる半導電性無端管状ポリイミド膜。
【0014】
7. 下記一般式(5)の繰返し単位を有するポリイミドからなり、引張り破断強度が170MPa以上であり、引張弾性率が2.9GPa以上であり、引張破断伸度が50%以上であることを特徴とするポリイミド膜。
【0015】
【化5】

ここで、Bは前記一般式(2)で示される4価の基であり、Aの50〜95モル%が前記一般式(3)で示される2価の基であり、Aの50〜5モル%が前記一般式(4)で示される2価の基である。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によって、中間転写ベルトとして好適な3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸溶液組成を用いて得られるポリイミド膜と同等乃至それ以上の優れた機械的特性を有し、保存安定性が優れ、且つ高濃度且つ低粘度のアミック酸オリゴマー溶液組成を基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理してポリイミド膜を得る場合でも、加熱処理時に膜にひび割れを発生することなしにポリイミド膜を好適に得ることができる、特定の化学構造からなるポリイミド前駆体(ポリアミック酸及び/又はアミック酸オリゴマー)溶液組成物を提供することができる。
【0017】
このポリイミド前駆体溶液組成物は、対数粘度が大きな(高分子量の)ポリアミック酸からなる場合でも対数粘度が小さい(低分子量化した)アミック酸オリゴマーからなる場合でも、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理することによって、中間転写ベルトとして好適な無端管状ポリイミド膜などのポリイミド膜を好適に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、「ポリイミド前駆体」は、比較的高分子量(通常は数平均分子量が10000以上)のポリアミック酸及び/又は比較的低分子量(通常は数平均分子量が10000未満)のアミック酸オリゴマーを意味する用語として用いる。
【0019】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、前記一般式(1)の繰返し単位を有するポリイミド前駆体(ポリアミック酸及び/又はアミック酸オリゴマー)を有機溶媒に溶解した溶液組成物である。このポリイミド前駆体溶液組成物、特に比較的高分子量のポリアミック酸からなるポリイミド前駆体溶液組成物は、有機溶媒中で、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類からなるテトラカルボン酸成分と、50〜95モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと50〜5モル%の2,4−トルエンジアミンとからなるジアミン成分とを、イミド化を抑制するために120℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下の温度で、例えば0.1〜50時間程度反応することによって好適に調製することができる。
【0020】
また、比較的低分子量のアミック酸オリゴマーからなるポリイミド前駆体溶液組成物は、前記反応を、水を介在させて、分子量を低分子量へ調節することによって好適に得ることができる。具体例としては、特開昭57−131248号公報に記載されているように、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを実質的に等モル使用して、その酸無水物1モルに対して約0.5〜40モル倍の水を含有する有機溶媒中で100℃以下の温度で反応させ、その半応益が均一溶液となった後で、その反応液から遊離の水を除去する方法を好適に挙げることができる。或いは、ジアミン成分とジアミン成分に対して過剰モルのテトラカルボン酸二無水物とを、前記テトラカルボン酸成分に対して1/3モル倍を越える量の水を含有する溶媒中で反応し、次いで全体としてジアミンとテトラカルボン酸二無水物とが実質的に等モルになるようにジアミン、又はジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを加えて更に反応する方法を好適に挙げることができる。
【0021】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とが実質的に等モルであることが好ましい。具体的にはジアミン成分とテトラカルボン酸成分とのモル比が、好ましくは1:0.95〜1:1.05、より好ましくは1:0.98〜1:1.02である。この範囲外になると得られるポリイミド膜の機械的特性が低下するので好ましくない。なお、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物においては、本発明の効果の範囲内において、未反応のジアミン成分或いはテトラカルボン酸成分を少量含んでいても構わない。
【0022】
ポリイミド前駆体の調製に用いられるテトラカルボン酸成分は、実質的に100モル%が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、すなわち、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、その無水化物、或いはそのエステル化物であり、特に好ましくは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。他のテトラカルボン酸成分を、この発明の効果の範囲内で用いることもできるが、その際でも10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
ジアミン成分は、50〜95モル%、好ましくは60〜95モル%、より好ましくは70〜90モル%の4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、50〜5モル%、好ましくは40〜5モル%、より好ましくは30〜10モル%の2,4−トルエンジアミンとである。この組成で得られるポリイミド膜は、中間転写ベルトとして好適な3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸溶液組成を用いて得られるポリイミド膜と同等乃至それ以上の優れた耐熱性や機械的特性を有する。ジアミン成分中の2,4−トルエンジアミンの割合が、この組成の範囲を越えて多くなると機械的特性が低下する。
【0023】
ポリイミド前駆体の調製に用いられる溶媒は、ポリイミド前駆体を溶解し得るものであって、常圧での沸点が300℃以下の有機極性溶媒が好ましく、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタムなどの窒素原子を分子内に含有する溶媒、例えばジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ヘキサメチルスルホルアミドなどの硫黄原子を分子内に含有する溶媒、例えばクレゾール、フェノール、キシレノールなどフェノール類からなる溶媒、例えばジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラグライムなどの酸素原子を分子内に含有する溶媒、その他、アセトン、ジメチルイミダゾリン、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ピリジン、テトラメチル尿素などを挙げることができる。これらの溶媒は単独で又これらの溶媒を混合して好適に使用される。
【0024】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物において、ポリイミド前駆体は高分子量でも低分子量でもよく、その対数粘度(ηinh)は0.05〜3.5、好ましくは0.10〜3.0、より好ましくは0.15〜2.5の範囲のものが好適に使用できる。また、アミック酸構造の一部(50モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは5モル%以下)が脱水反応を起こしてイミド環を形成したものであっても構わない。なぜなら、このポリイミド前駆体は、低分子量でも高分子量でも有機溶媒に対する溶解性が高く、且つイミド環を形成しても溶解性が低下することが少ないからである。この良好な溶解性によって、保存時のゲル化が抑制されて保存安定性(或いは保存後の成形性)が良好になっている。したがって、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、低濃度の溶液組成物のみでなく、ポリイミド換算の固形分濃度が20〜60質量%、好ましくは25〜60質量%、より好ましくは30〜60質量%であって、且つ30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下、好ましくは30Pa・sec以下、より好ましくは20Pa・sec以下の、高濃度且つ低溶液粘度の溶液組成物として好適に用いることができる。なお、溶液粘度の下限値は好ましくは0.5Pa・sec以上、通常は1Pa・sec以上である。
【0025】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、基材に塗布して膜状物を形成し、より好ましくは最高加熱温度が280〜390℃の範囲で加熱処理して膜厚が0.1〜200μm、好ましくは3〜150μm、より好ましくは5〜130μmのポリイミド膜を好適に得ることができる。
本発明において、基材とは、表面にポリイミド前駆体溶液組成物を塗布して膜状物(塗膜)が形成できるものであり、液体や気体を実質的に透過させない程度の緻密構造を有していれば、形状や材質で特に限定されるものではない。通常のフィルムを製造する際に用いられるそれ自体公知のベルト、金型、ロールなどのフィルム形成用基材、その表面にポリイミド膜を絶縁保護膜として形成する回路基板などの電子部品や電線、表面に皮膜が形成される摺動部品や製品、ポリイミド膜を形成して多層化フィルムや銅張積層基板を形成する際の一方のフィルムや銅箔などを好適に挙げることができる。
【0026】
基材に塗布する方法としては、例えばスプレー法、ロールコート法、回転塗布法、バー塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、スリットコート法などのそれ自体公知の方法を適宜採用することができる。
【0027】
この基材に塗布されて形成された膜状物は、例えば減圧下又は常圧下に比較的低温で加熱する方法で脱泡しても構わない。
基材上に形成されたポリイミド前駆体溶液組成物からなる膜状物は、加熱処理することによって溶媒を除去し且つイミド化されてポリイミド膜が形成される。加熱処理は、いきなり高温で加熱処理するよりも最初に140℃以下の比較的低温で溶媒を除去し、次いで最高加熱処理温度まで温度を上げてイミド化する段階的な加熱処理が好適である。また、140℃以上で0.01〜30時間好ましくは0.01〜10時間より好ましくは0.01〜6時間の加熱処理を行って実質的にアミド酸基が残らないようにイミド化することが好適である。最高加熱処理温度は250〜600℃の温度範囲が採用できるが、より好ましくは280〜390℃の温度範囲である。この温度範囲で0.01〜20時間好ましくは0.01〜6時間より好ましくは0.01〜5時間加熱処理することが好適である。このように段階的に温度を上げる加熱処理条件としては、例えば80℃で30分間、130℃で10分間、200℃で10分間、そして最後に最高加熱温度の範囲内で10分間加熱処理する(但し、次の段階へは10分間で昇温する)加熱処理条件を例示することができる。
【0028】
また、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、回転成形法にて管状物に成形し、この管状物を前記と同じように脱泡したり加熱処理したりすることで容易に無端管状ポリイミド膜を得ることができる。例えば、回転成形法は基材の役割を有する円筒状の金型を回転させながら、金型(内側乃至外側)表面にポリイミド前駆体溶液組成物からなる塗膜を形成し、200℃以下の比較的低温で加熱処理して溶媒を揮発させて自己支持性膜(溶媒が除去され被膜の流動が発生しない状態、完全ではないが重合及びイミド化反応が進んでいる)を形成し、次いで前記自己支持性膜をそのまま或いは必要に応じて基材から剥がしたり、裏返したり、適度の張力を掛けたりしながら、最高熱処理温度まで直接乃至段階的に昇温する手順で加熱処理することによって無端管状ポリイミド膜を好適に得ることができる。本発明においては、最高加熱処理温度は250〜600℃の温度範囲が採用できるが、好ましくは280〜390℃、より好ましくは300〜390℃、更に好ましくは340〜380℃の温度範囲である。250℃以下では十分な重合イミド化反応が達成できなくなって良好な機械的強度が得られなくなることがある。また、390℃を越えた温度まで加熱すると脆くなって機械的な特性が低下する。
【0029】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を用いれば、厚さが0.1〜200μmのポリイミド膜を好適に得ることができる。特にポリイミド前駆体溶液組成物を高濃度且つ低溶液粘度をとしたとき、すなわちポリイミド前駆体の対数粘度(ηinh)が0.4以下、特に0.3以下、更に0.2以下のときでも、好適にポリイミド膜を得ることができる。そして、得られたポリイミド膜は、引張強度が170MPa以上、好ましくは190MPa以上、より好ましくは200MPa以上であり、引張弾性率が3.0MPa以上であり、引張伸度が40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上であるので、中間転写ベルトとして好適な3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ等モル反応させて得られたポリアミック酸溶液組成物を用いたポリイミド膜と同等乃至それ以上の機械的特性を有している。すなわち、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を用いれば容易に優れた中間転写ベルトとして用いることができる半導電性無端管状ポリイミド膜を得ることができる。
【0030】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を用いて中間転写ベルトを形成するときには、中間転写ベルトとして要求される半導電性などの特性を付与するために、組成物中にカーボンブラックなどの導電性材料を添加して用いる。このような用途での配合は、例えば特許文献1、2に記載されたような公知の配合を好適に採用することができる。
すなわち、中間転写ベルトの転写面の表面抵抗率は、1×1010Ω/m〜1×1014Ω/mの範囲であり、好ましくは1×1011Ω/m〜1×1012Ω/mの半導電性の範囲である。このような半導電性の表面抵抗率を有する中間転写ベルトは、電子導電性を付与するための導電材を均一に分散したポリイミド前駆体溶液組成物を、例えば基材の役割を有する円筒状の金型を回転させながら、金型(内側乃至外側)表面にポリイミド前駆体溶液組成物からなる塗膜を形成して加熱処理する方法によって好適に得ることができる。
【0031】
電子導電性を付与するための導電材としては、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム、銅合金等の金属もしくは合金、酸化錫、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、酸化錫−酸化インジウムもしくは酸化錫−酸化アンチモン複合酸化物等の金属酸化物等の導電性或いは半導電性の微粉末が好適に用いられる。これらの導電材は単独でも複数種を併用して用いることもできる。これらの中では、分散性、分散安定性、半導電性ポリイミド無端ベルトの抵抗バラツキ、電界依存性、電気抵抗の経時での安定性などを考慮すると、カーボンブラック、特に表面にカルボキシル基、キノン基、ラクトン基、水酸基等を付与して製造したpH5以下の酸化処理カーボンブラックを好適に用いることができる。またカーボンブラックとしては、その揮発成分が1〜25質量%、好ましくは3〜15質量%程度のものが好適である。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
具体的には、デグサ社製の「プリンテックス150T」(pH4.5、揮発分10.0質量%)、同「スペシャルブラック350」(pH3.5、揮発分2.2質量%)、同「スペシャルブラック100」(pH3.3、揮発分2.2質量%)、同「スペシャルブラック250」(pH3.1、揮発分2.0質量%)、同「スペシャルブラック5」(pH3.0、揮発分15.0質量%)、同「スペシャルブラック4」(pH3.0、揮発分14.0質量%)、同「スペシャルブラック4A」(pH3.0、揮発分14.0質量%)、同「スペシャルブラック550」(pH2.8、揮発分2.5質量%)、同「スペシャルブラック6」(pH2.5、揮発分18.0質量%)、同「カラーブラックFW200」(pH2.5、揮発分20.0質量%)、同「カラーブラックFW2」(pH2.5、揮発分16.5質量%)、同「カラーブラックFW2V」(pH2.5、揮発分16.5質量%)、キャボット社製「MONARCH1000」(pH2.5、揮発分9.5質量%)、キャボット社製「MONARCH1300」(pH2.5、揮発分9.5質量%)、キャボット社製「MONARCH1400」(pH2.5、揮発分9.0質量%)、同「MOGUL−L」(pH2.5、揮発分5.0質量%)、同「REGAL400R」(pH4.0、揮発分3.5質量%)などを好適に挙げることができる。
分散方法としては公知の方法が適用でき、ボールミル、サンドミル、バスケットミル、超音波分散などを好適に挙げることができる。添加量は、限定するものではないが、ポイミドに換算した固形分に対して10〜17質量%程度が好適である。
【0032】
本発明のポリイミド前駆体溶液組成物は、前記導電材以外の種々の添加剤や充填材を用いても構わない。それらの例としては、消泡剤、界面活性剤、顔料や染料などの着色剤、反応触媒、アルミナなどの無機や有機の充填材、補強繊維などを好適に挙げることができる。
【実施例】
【0033】
以下本発明を実施例によって更に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
以下の例で用いた化合物の略号や測定方法について説明する。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODA:オキシジアニリン(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)
2,4−TDA:2,4−トルエンジアミン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0035】
〔固形分濃度〕
試料溶液(その質量をw1とする)を、熱風乾燥機中120℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で30分間加熱処理して、加熱処理後の質量(その質量をw2とする)を測定する。ポリイミド換算の固形分濃度[質量%]は次式によって算出した。
固形分濃度=(w2/w1)×100
【0036】
〔対数粘度〕
試料溶液を、固形分濃度に基づいて濃度が0.5g/dl(溶媒はNMP)になるように希釈した。この希釈液を、30℃にて、キャノンフェンスケNo.100を用いて流下時間(T)を測定した。対数粘度は、ブランクのNMPの流下時間(T)を用いて、次式から算出した。
対数粘度={ln(T/T)}/0.5
【0037】
〔溶液粘度(回転粘度)〕
トキメック社製E型粘度計を用いて30℃で測定した。
【0038】
〔溶液安定性〕
試料を、5℃の温度に調整された雰囲気中に保管し、1ケ月後の試料溶液を目視によって観察し、濁りや相分離・析出の有無を確認した。濁りや相分離・析出があるものは×、変化がないものを○とした。
【0039】
〔製膜性(ポリイミド膜の状態)〕
ガラス基板上に、得られるポリイミド膜を所定の厚みとなるように試料溶液を塗布し、熱風乾燥機中、120℃で30分間、150℃で10分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで最高加熱温度で10分間加熱処理して、溶媒の除去及び重合イミド化反応を行わせてポリイミド膜を製造した。得られたポリイミド膜の状態を次のとおり目視観察した。すなわち、目視によってフクレ、割れ、粉化等の不具合の有無を確認し、フクレ、割れ、粉化等の不具合がないものを○、フクレ、割れ、粉化等の不具合が生じたものを×とした。
【0040】
〔引張破断強度〕
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0041】
〔引張破断伸度〕
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0042】
〔引張弾性率〕
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0043】
〔実施例1〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.67g、s−BPDA79.80g、及びODA24.44g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.47質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA97.77gと2,4−TDA8.28gとを溶解させ、さらにs−BPDA119.70gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.24、溶液粘度が8.5Pa・sec、固形分濃度が30.8質量%、含水率が0.33質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0044】
〔実施例2〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP800gを加え、これにODAの66.91gと2,4−TDA10.21gとs−BPDAの122.88gとを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.0質量%、溶液粘度19.5Pa・s、対数粘度0.93のポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0045】
〔実施例3〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.73g、s−BPDA81.10g、及びODA22.08g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.48質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA88.32gと2,4−TDA16.84gとを溶解させ、さらにs−BPDA121.65gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.22、溶液粘度が9.4Pa・sec、固形分濃度が31.2質量%、含水率が0.44質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0046】
〔実施例4〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.79g、s−BPDA82.45g、及びODA19.64g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.49質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA78.56gと2,4−TDA25.68gとを溶解させ、さらにs−BPDA123.67gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.22、溶液粘度が7.6Pa・sec、固形分濃度が31.3質量%、含水率が0.35質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0047】
〔実施例5〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP600.00g、水6.12g、s−BPDA124.92g、及びODA23.81g(水のモル比[水/酸成分]が4/5、水の含有率が0.74質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が5/2)を秤取り、70℃の反応温度で5時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA95.23gと2,4−TDA31.12gとを溶解させ、さらにs−BPDA124.92gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.17、溶液粘度が50.0Pa・sec、固形分濃度が38.4質量%、含水率が0.36質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0048】
〔実施例6〕
実施例5で得られたポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが80μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0049】
〔実施例7〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.92g、s−BPDA85.27g、及びODA14.51g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.51質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA58.04gと2,4−TDA44.26gとを溶解させ、さらにs−BPDA127.91gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.21、溶液粘度が7.8Pa・sec、固形分濃度が31.0質量%、含水率が0.26質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0050】
〔参考例1〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP800gを加え、これにODAの81.00gとs−BPDAの119.00gとを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.3質量%、溶液粘度5.1Pa・s、対数粘度0.73のポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0051】
〔参考例2〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水3.61g、s−BPDA78.54g、及びODA26.73g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.46質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA106.92gを溶解させ、さらにs−BPDA117.81gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.24、溶液粘度が8.9Pa・sec、固形分濃度が31.0質量%、含水率が0.32質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成しようとしたが、ポリイミド膜の表面に割れが生じた。
このポリアミック酸溶液組成物の特性等について結果を表1に示した。
【0052】
〔参考例3〕
実施例4で得られたポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで400℃で10分間加熱処理して、厚さが80μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0053】
〔参考例4〕
撹拌機、撹拌羽根、還流冷却器、窒素ガス導入管を備えた1LのセパラブルフラスコにNMP670.00g、水4.06g、s−BPDA88.30g、及びODA9.02g(水のモル比[水/酸成分]が3/4、水の含有率が0.53質量%、酸成分のモル比[酸成分/ジアミン成分]が2/1)を秤取り、70℃の反応温度で3時間撹拌して反応させた。次いで、この反応溶液へODA36.06gと2,4−TDA64.17gとを溶解させ、さらにs−BPDA132.45gを添加して、反応温度50℃で20時間撹拌しながら反応させた。
得られた反応溶液は、対数粘度が0.20、溶液粘度が7.1Pa・sec、固形分濃度が31.0質量%、含水率が0.32質量%の溶液であった。このポリアミック酸溶液組成物の溶液安定性は○であった。
このポリアミック酸溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下に熱風乾燥器に入れて、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜には発泡、割れ等は見られなかった。
このポリアミック酸溶液組成物及びポリイミドフィルムの特性等について結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本願発明によって、中間転写ベルトとして好適な3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリアミック酸溶液組成を用いて得られるポリイミド膜と同等乃至それ以上の優れた機械的特性を有し、保存安定性が優れ、且つ高濃度且つ低粘度のアミック酸オリゴマー溶液組成を基材に塗布して膜状物に成形し次いで加熱処理してポリイミド膜を得る場合でも、加熱処理時に膜にひび割れを発生することなしにポリイミド膜を好適に得ることができる、特定の化学構造からなるポリイミド前駆体(ポリアミック酸及び/又はアミック酸オリゴマー)溶液組成物を提供することができる。
【0056】
このポリイミド前駆体溶液組成物は、対数粘度が大きな(高分子量の)ポリアミック酸からなる場合でも対数粘度が小さい(低分子量化した)アミック酸オリゴマーからなる場合でも、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理することによって、中間転写ベルトとして好適な無端管状ポリイミド膜などのポリイミド膜を好適に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の繰返し単位を有するポリイミド前駆体を含有することを特徴とするポリイミド前駆体溶液組成物。
【化1】

ここで、Bは下記一般式(2)で示される4価の基であり、Aの50〜95モル%が下記一般式(3)で示される2価の基であり、Aの50〜5モル%が下記一般式(4)で示される2価の基である。
【化2】

【化3】

【化4】

【請求項2】
ポリイミド換算の固形分濃度が20質量%以上であって且つ30℃における溶液粘度が50Pa・sec以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物を、基材に塗布して膜状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理してポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜2のいずれかに記載のポリイミド前駆体溶液組成物を、回転成形法にて管状物に成形し、最高加熱処理温度が280〜390℃の温度範囲で加熱処理して無端管状ポリイミド膜を得ることを特徴とするポリイミド膜の製造方法。
【請求項5】
請求項3〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とするポリイミド膜。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする電子写真方式の中間転写ベルトに用いられる半導電性無端管状ポリイミド膜。
【請求項7】
下記一般式(5)の繰返し単位を有するポリイミドからなり、引張り破断強度が170MPa以上であり、引張弾性率が2.9GPa以上であり、引張破断伸度が50%以上であることを特徴とするポリイミド膜。
【化5】

ここで、Bは前記一般式(2)で示される4価の基であり、Aの50〜95モル%が前記一般式(3)で示される2価の基であり、Aの50〜5モル%が前記一般式(4)で示される2価の基である。

【公開番号】特開2009−221397(P2009−221397A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69188(P2008−69188)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】