チャック装置
【課題】可撓性を有するワークを非接触で安定的にチャックすることができるチャック装置を提供する。
【解決手段】チャック装置1は、ワークWの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のベルヌーイチャック機構7、9と、複数のベルヌーイチャック機構のうち少なくとも1つのベルヌーイチャック機構について、ワークとの対向方向の位置を、他のベルヌーイチャック機構におけるワークとの対向方向の位置と異なる位置に変更可能な可変部と、を備え、可変部によってワークとの対向方向の位置が変更されるベルヌーイチャック機構が可動ワーク吸引手段を構成するとともに、当該可動ワーク吸引手段の位置変位に伴ってワークに湾曲部15を形成して当該ワークを保持する。
【解決手段】チャック装置1は、ワークWの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のベルヌーイチャック機構7、9と、複数のベルヌーイチャック機構のうち少なくとも1つのベルヌーイチャック機構について、ワークとの対向方向の位置を、他のベルヌーイチャック機構におけるワークとの対向方向の位置と異なる位置に変更可能な可変部と、を備え、可変部によってワークとの対向方向の位置が変更されるベルヌーイチャック機構が可動ワーク吸引手段を構成するとともに、当該可動ワーク吸引手段の位置変位に伴ってワークに湾曲部15を形成して当該ワークを保持する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムや薄板ガラス等の可撓性を有するワークを保持するチャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工工程においてワークを一定の姿勢に保持する場合や、加工処理が施されたワークを次の工程に搬送する場合等に用いられるチャック装置が広く普及している。こうしたチャック装置がチャック(保持)するワークの形状や材質はさまざまであるが、中でもフィルム、薄板ガラス、半導体基板等の可撓性を有するワークをチャックする場合には、当該ワークの撓みによってチャックが不安定になるおそれがある。
【0003】
例えば、液晶ディスプレイに用いられるガラス板は、その板厚が0.5mm〜0.7mm程度であり、可撓性を有してはいるものの、ある程度の剛性が確保されているため、安定的なチャックが可能となっている。しかしながら、近年、液晶ディスプレイの薄型化、軽量化等の要請から、ガラス板の薄型化が進展しており、それに伴ってガラス板の剛性が低下する傾向にある。その結果、現状のチャック装置を、より薄型化されたガラス板のチャックにそのまま利用した場合には、チャックが不安定になるおそれがある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に示されるチャック装置のように、ワーク表面にピンを押し当てることにより、意図的にワークを湾曲姿勢に変位させるとともに、この湾曲姿勢を維持するようにワークの側縁を挟持してチャックすることが考えられる。このように、ワークが湾曲姿勢に維持されれば、ワーク全体の剛性が上がることから、ワークのチャック時における安定性を向上することができる。
【0005】
しかし、上記のチャック装置によれば、湾曲姿勢を作り出すためにワーク表面にピンを押し当てなければならず、ワーク表面に接触部位が生じてしまう。そのため、ワーク表面に対する一切の接触を嫌う場合には適用することができず、用途が限定されてしまったり、また、ワーク表面への接触が許容される場合であっても、ワーク表面に損傷を与えてしまったりする可能性がある。
【0006】
そこで、特許文献2に示されるように、鉛直上方に向けて流体を噴出するとともに、高さ位置を異にする複数の噴出部が配列されたチャック装置を採用することが考えられる。このチャック装置によれば、噴出部から噴出される流体によってワークが非接触状態で浮揚するとともに、噴出部の高さ位置が異なることから、当該ワークが湾曲姿勢に維持されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−35146号公報
【特許文献2】特許第4183525号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に示されるような機構では、ワークを鉛直下方から圧縮流体による圧力で浮き上がらせている。したがって、特許文献2の機構でワークをチャックしているとき、ワークは、水平方向への滑りを抑制する力をほとんど受けないため、水平方向に対してワークが移動し易くなり、安定的にチャックすることが難しい。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、可撓性を有するワークを非接触で安定的にチャックすることができるチャック装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の、可撓性を有するワークを保持するチャック装置は、ワークの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のワーク吸引手段と、前記複数のワーク吸引手段のうち少なくとも1つのワーク吸引手段について、前記ワークとの対向方向の位置を、他のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なる位置に変更可能な可変部と、を備え、前記可変部によってワークとの対向方向の位置が変更されるワーク吸引手段が可動ワーク吸引手段を構成するとともに、当該可動ワーク吸引手段の位置変位に伴って前記ワークに湾曲部を形成して当該ワークを保持することを特徴とする。
【0011】
前記可動ワーク吸引手段は複数設けられ、前記可変部は、前記複数の可動ワーク吸引手段の位置を一体的に変更可能であってもよい。
【0012】
前記可変部は、前記複数の可動ワーク吸引手段について、前記ワークとの対向方向の位置をそれぞれ独立して変更可能であってもよい。
【0013】
複数のワーク吸引手段が整列配置された列が複数平行に配置され、前記可変部は、同じ列を構成する前記複数のワーク吸引手段を前記可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該同じ列を構成する複数の可動ワーク吸引手段同士では前記ワークとの対向方向の位置を等しくし、かつ、隣接する列を構成する前記複数のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異ならせることが可能であってもよい。
【0014】
前記複数のワーク吸引手段は、第1のワーク吸引手段と、該第1のワーク吸引手段からの距離が等しい位置に配された複数の第2のワーク吸引手段とで構成される単位配列を少なくとも1つ含み、前記可変部は、前記第1のワーク吸引手段および前記第2のワーク吸引手段の少なくともいずれか一方を前記可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該第1のワーク吸引手段と第2のワーク吸引手段とで、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置を異ならせ、前記複数の第2のワーク吸引手段同士では、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置を同じに維持することが可能であってもよい。
【0015】
前記複数の第2のワーク吸引手段は、前記第1のワーク吸引手段の周囲に等間隔に配されてもよい。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の、可撓性を有するワークを保持する他のチャック装置は、ワークの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のワーク吸引手段を備え、前記複数のワーク吸引手段のうち少なくとも1つのワーク吸引手段は、前記ワークとの対向方向の位置が、他のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なることを特徴とする。
【0017】
複数のワーク吸引手段が整列配置された列が複数平行に配置され、同じ列を構成する前記複数のワーク吸引手段は、当該同じ列を構成するワーク吸引手段同士では前記ワークとの対向方向の位置が等しくし、かつ、隣接する列を構成する前記複数のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なってもよい。
【0018】
前記複数のワーク吸引手段は、第1のワーク吸引手段と、該第1のワーク吸引手段からの距離が等しい位置に配された複数の第2のワーク吸引手段とで構成される単位配列を少なくとも1つ含み、前記第1のワーク吸引手段と、前記第2のワーク吸引手段とは、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置が異なり、前記複数の第2のワーク吸引手段同士では、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置が同じであってもよい。
【0019】
前記複数の第2のワーク吸引手段は、前記第1のワーク吸引手段の周囲に等間隔に配されてもよい。
【0020】
前記ワーク吸引手段は、前記ワーク表面に気体を噴き付けて当該ワーク表面に負圧を生じさせるベルヌーイチャック機構であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、可撓性を有するワークを非接触で安定的にチャックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態のチャック装置が設けられる搬送装置を説明する図である。
【図2】第1の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図3】ベルヌーイチャック機構の概念図である。
【図4】第1の実施形態のチャック装置の動作を説明する図である。
【図5】チャック装置の変形例の概念図である。
【図6】第2の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図7】第2の実施形態のチャック装置の動作を説明する図である。
【図8】チャック時のワークの状態を説明する図である。
【図9】第3の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図10】第4の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図11】第5の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図12】第6の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図13】第7の実施形態のチャック装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0024】
本実施形態のチャック装置は、表面に対して非接触状態を維持してワークをチャック(保持)するものであり、例えば、ワークを加工処理する加工工程や、ワークを搬送する搬送工程等、さまざまな場面で用いられる。ここでは、0.1mm〜0.3mm程度の可撓性を有するガラス基板をワークとして搬送する搬送装置に適用されるチャック装置について説明する。
【0025】
図1は、本実施形態のチャック装置が設けられる搬送装置を説明する図である。この図に示すように、搬送装置100は、ワークWを搬送するコロコンベア等からなるコンベア101と、このコンベア101によって搬送されるワークWを、当該コンベア101に近接して配置された不図示の加工装置まで移動させるロボットアーム102と、を備えている。
【0026】
このロボットアーム102の先端にはチャック装置1が設けられており、コンベア101によって所定位置までワークWが搬送されると、チャック装置1が作動して、ワークWがチャックされる。そして、ワークWがチャックされた状態で、ロボットアーム102の先端が加工装置まで作動することにより、ワークWがコンベア101から加工装置まで搬送されることとなる。以下に、ロボットアーム102の先端に設けられるチャック装置1について、図2〜図4を用いて詳細に説明する。
【0027】
図2は、チャック装置1の概念図であり、図2(a)はチャック装置1の平面図を示し、図2(b)はチャック装置1の側面図を示す。この図に示すように、チャック装置1は、ロボットアーム102の先端に設けられる平板状のハンドフレーム2を含んで構成される。ここでは、説明の都合上、鉛直上方(ロボットアーム102側)に位置するハンドフレーム2の面を面2aとし、鉛直下方(コンベア101側)に位置してチャック装置1の種々の部品が設けられるハンドフレーム2の面を面2bとする。なお、以下では、図2(a)の左右方向をx方向、上下方向をy方向、紙面に対して垂直方向をz方向として説明する。
【0028】
ハンドフレーム2のy方向に垂直な側面2c、2dには、そのx方向中央位置に、一対の電動シリンダ3(アクチュエータ)が固定されている。これら一対の電動シリンダ3は、シリンダロッド3aを鉛直方向に沿わせて設けられており、したがって、シリンダロッド3aは、鉛直方向に伸縮することとなる。なお、図2(b)は、シリンダロッド3aが最も収縮した状態を示している。
【0029】
シリンダロッド3aの先端には、矩形の介在部材3bが固設されている。介在部材3bには、ハンドフレーム2と同じ外形の平板状の可動フレーム4が固設されている。ここでは、説明の都合上、鉛直上方(ロボットアーム102側)に位置する可動フレーム4の面を面4aとし、鉛直下方(コンベア101側)に位置する可動フレーム4の面を面4bとする。
【0030】
なお、図2(a)においては、ハンドフレーム2および可動フレーム4を破線で示し、ハンドフレーム2や可動フレーム4に固定される他の構成部品を実線で示している。
【0031】
ハンドフレーム2には、z方向に貫通する孔2eが設けられる。また、可動フレーム4には、孔2eと対向する位置に、z方向に貫通する孔4cが設けられる。リニアシャフト5は、z方向に延伸するシャフトであって、ハンドフレーム2の孔2eに挿通した状態でハンドフレーム2に固設される。また、リニアシャフト5は、可動フレーム4の孔4cに挿通される。したがって、可動フレーム4は、シリンダロッド3aの伸縮に伴いリニアシャフト5にガイドされながら、ハンドフレーム2に対して相対的にz方向に移動する。
【0032】
ハンドフレーム2の面2bには、z方向に延伸するロッド6が取り付けられている。また、可動フレーム4には複数の孔4dが設けられている。かかる孔4dにロッド6が挿通される。ロッド6の先端には、ベルヌーイチャック機構7が固設されている。同様に、可動フレーム4の面4bには、z方向に延伸するロッド8が取り付けられている。ロッド8の先端にも、ベルヌーイチャック機構9が固設されている。本実施形態においては、図2(a)に示すように、複数のベルヌーイチャック機構7がy方向に整列配置された列L1と、複数のベルヌーイチャック機構9が整列配置された列L2とがx方向に交互かつ、複数平行に配置されている。
【0033】
ベルヌーイチャック機構7、9は、ワークWの表面に気体を噴き付けて当該ワーク表面に負圧を生じさせる。ここで、ベルヌーイチャック機構7、9は、ワークWの鉛直上方に対向配置されて当該ワークWを非接触状態で吸引するワーク吸引手段を構成する。
【0034】
ワーク吸引手段としてベルヌーイチャック機構7、9を用いることで、チャック装置1は、非接触状態を維持してワークWをチャックすることが、比較的簡易な構成で可能となる。
【0035】
なお、ベルヌーイチャック機構7とベルヌーイチャック機構9とは、チャック装置1における配置が異なるが、その構成は実質的に等しい。以下の図3では、ベルヌーイチャック機構7の構成について詳述するが、ベルヌーイチャック機構9を構成する構成要素も、ベルヌーイチャック機構7を構成する構成要素と同じ名称および符号を用いて示す。
【0036】
図3は、ベルヌーイチャック機構7の概念図である。この図において、図3(a)はベルヌーイチャック機構7の平面図、図3(b)は図3(a)のIII(b)−III(b)線断面図を示している。これらの図に示すように、ベルヌーイチャック機構7はチャック本体10を備えており、このチャック本体10の面10aがロッド6の先端に固定され、面10bが鉛直下方に臨むように構成されている。
【0037】
チャック本体10には、水平方向の断面を円形とする吸引穴11が形成されている。この吸引穴11は、面10a側に底部11aを位置させるとともに、面10bに開口部11bを開口させており、開口部11bの近傍には、面10a側から面10b側に向かうにしたがって徐々に吸引穴11の径が大きくなるようにテーパが形成されている。また、チャック本体10には、複数のエア供給路12が形成されており、その一端12aを面10aに開口させ、その他端12bを吸引穴11の底部11aにおける外周縁近傍に開口させている。エア供給路12の他端12bは、底部11aの外周に沿って等間隔に複数(例えば8個)開口しており、また、エア供給路12の一端12aには、吸引穴11に向けてエアを噴き出すポンプPが配管を介して接続されている。
【0038】
また、ここではポンプPが配管を介して吸引穴11に接続されている例を挙げたが、例えば、搬送装置100を配する施設全体で共用されるコンプレッサから吸引穴11に配管が接続され、コンプレッサから吸引穴11への圧縮空気の供給のオンオフの切り換えが、電磁バルブによって為される構成でもよい。
【0039】
したがって、図3(b)に示すように、チャック本体10の面10bをワークWに対向させた状態でポンプPを駆動すると、エア供給路12から吸引穴11に導かれたエアが、吸引穴11の周壁に沿って底部11a側から開口部11b側へと噴き出す。このようにして、吸引穴11の周縁から外方に向けてエアが噴き出すと、吸引穴11の径方向中央位置ではエゼクタ効果により負圧が生じることとなり、この負圧によってワークWがチャック本体10側に吸引されることとなる。その結果、この吸引力と空気が吹き出す力とがつり合う位置で非接触の浮揚状態となる。
【0040】
なお、可動フレーム4には、図2(a)、図2(b)に示すように、y方向の外周縁近傍に、チャック中のワークWがx方向に飛び出すのを防止する飛び出し防止ピン13が設けられ、また、x方向の外周縁近傍に、チャック中のワークWがx方向に飛び出すのを防止する飛び出し防止ピン14が設けられている。
【0041】
次に、上記の構成からなる本実施形態のチャック装置1の動作について説明する。図4は、チャック装置1の動作を説明する図である。図4(a)に示すように、例えば、コンベア101(図4では不図示)によって所定位置までワークWが搬送されるとともに、ロボットアーム102(図4では不図示)が作動して、当該ワークWの鉛直上方にハンドフレーム2が対面したとする。このとき、電動シリンダ3が最も収縮した状態となっており、ベルヌーイチャック機構7、9の吸引穴11が、ワークWの表面と僅かに離間して対面している。
【0042】
この状態で、ポンプP(図4では不図示)を駆動すると、ベルヌーイチャック機構7、9によってワークWの表面近傍が負圧になり、ワークW全体が鉛直上方に吸引される。この状態でロボットアーム102がチャック装置1(ベルヌーイチャック機構7、9)を鉛直上方に移動させると、ワークWもベルヌーイチャック機構7、9に追従して浮揚する。
【0043】
このとき、上述した電動シリンダ3、可動フレーム4、およびリニアシャフト5は、可変部として機能する。可変部は、複数のベルヌーイチャック機構7、9のうち少なくとも1つのベルヌーイチャック機構(ここでは、ベルヌーイチャック機構9)について、ワークWとの対向方向の位置を、他のベルヌーイチャック機構(ここでは、ベルヌーイチャック機構7)におけるワークWとの対向方向の位置と異なる位置に変更可能な機構である。
【0044】
具体的に、電動シリンダ3が伸長し、可動フレーム4がハンドフレーム2から離間する方向に移動すると、ロッド6を介してハンドフレーム2に固設されたベルヌーイチャック機構7と、ロッド8を介して可動フレーム4に固設されたベルヌーイチャック機構9とについて、ワークWとの対向方向の位置が異なる状態となる。すわなち、ベルヌーイチャック機構9の方がベルヌーイチャック機構7よりも、ワークWとの対向方向の位置が鉛直方向下方になる。
【0045】
ここでは、電動シリンダ3が伸長することで、可動フレーム4がハンドフレーム2から離間する方向に移動させているが、電動シリンダ3が収縮することで、可動フレーム4がハンドフレーム2に近づく方向に移動させてもよい。この場合、ベルヌーイチャック機構9の方が、ベルヌーイチャック機構7よりも、ワークWとの対向方向の位置が鉛直方向上方になる。
【0046】
このように、可変部によってワークWとの対向方向の位置が変更されるベルヌーイチャック機構9は、可動ワーク吸引手段を構成する。つまり、可動ワーク吸引手段の列L2と、可変部によっては移動しないワーク吸引手段(ベルヌーイチャック機構7)の列L1とが交互に配置されていることとなる(図2参照)。
【0047】
そして、可変部は、図4(b)に示すように、同じ列L2を構成する複数のベルヌーイチャック機構9を可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該同じ列L2を構成する複数のベルヌーイチャック機構9同士ではワークWとの対向方向の位置を等しくし、かつ、隣接する列L1を構成するベルヌーイチャック機構7におけるワークWとの対向方向の位置と異ならせている。この可変部による可動ワーク吸引手段の位置変位に伴って、チャック時のワークWに波状の湾曲部15が形成される。
【0048】
かかる構成により、チャック装置1でチャックされたワークWに形成される湾曲部15は、x軸方向に波型となる。ワークWが波型となるため、ワークWのベルヌーイチャック機構7、9の列L1、L2に平行なy方向への剛性が高まる。そのため、チャック装置1は、特にベルヌーイチャック機構7、9の列に平行な方向に対する変形を抑制して、ワークWをチャックすることが可能となる。
【0049】
また、上述したように、可動フレーム4に複数のベルヌーイチャック機構9(可動ワーク吸引手段)が固設されており、かかる可動フレーム4を電動シリンダ3が移動させるため、可変部は、複数のベルヌーイチャック機構9の位置を一体的に変更可能である。
【0050】
可変部が、複数のベルヌーイチャック機構9の位置を一体的に変更可能とする構成により、複数のベルヌーイチャック機構9を同期して昇降させる同期制御が不要となり、処理負荷を低減できる。
【0051】
そして、所望の位置までロボットアーム102が移動したら、上記とは逆に、電動シリンダ3を収縮させてワークWを平板状に復帰させた後にポンプPの駆動を停止すればよい。これにより、ワークWの表面に対して非接触状態を維持したまま、安定的にワークWを所望の位置まで搬送することが可能となる。
【0052】
上述したように、本実施形態のチャック装置1は、複数のベルヌーイチャック機構7、9を備え、ベルヌーイチャック機構7、9のワークWとの対向方向の位置(高さ)を意図的に異ならせる。当該チャック装置1でチャックされたワークWは、当該ワークWに湾曲部15が形成され剛性が向上する。
【0053】
仮に、ベルヌーイチャック機構7、9の代わりに、ワークWに対して鉛直下方から流体を吹き付けて浮上させる構成も考えられるが、ワークWに傾斜が生じると、ワークWの裏面に吹き付けられた流体がワークWの周方向に対して偏って流れるため、ワークWが水平方向に対して滑り易くなる可能性がある。本実施形態では、ベルヌーイチャック機構7、9はワークWを吸引しているため、流体の流れが偏ることがなくワークWの水平方向への滑りが抑制される。そのため、チャック装置1は、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。
【0054】
また、チャック装置1を用いると、チャック時のワークWの剛性が向上することで、搬送時におけるワークWの撓みによる振動が抑制されるため、搬送先に到達してからワークWの振動が収まるまで待機しなければならない時間(振動静定待ち時間)を短縮できる。
【0055】
図5は、チャック装置1の変形例の概念図である。チャック装置1と異なり、図5に示す変形例のチャック装置1aには、可動フレーム4やリニアシャフト5が設けられていない。そして、ハンドフレーム2にz方向に貫通する複数の孔2fが設けられている。また、ハンドフレーム2のそれぞれの孔2fの面2a側に1つずつ、独立して駆動する電動シリンダ16が配されている。電動シリンダ16のシリンダロッド16aは、孔2fに挿通しており、その先端にベルヌーイチャック機構7、9が固設されている。
【0056】
ここでは、可変部は、複数の電動シリンダ16によって構成される。可変部(電動シリンダ16)は、シリンダロッド16aを伸縮することで、複数のベルヌーイチャック機構7、9について、ワークWとの対向方向の位置をそれぞれ独立して変更可能である。
【0057】
可変部が、複数のベルヌーイチャック機構7、9について、ワークWとの対向方向の位置をそれぞれ独立して変更可能とする構成により、チャック時のワークWに、上述した波型の湾曲部15を形成したり、他の形状の湾曲部を形成したりするように変更できる。そのため、チャック装置1aは、ワークWに応じて適切な形状の湾曲部を形成した状態でチャック可能となる。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態におけるハンドフレーム22、可動フレーム24およびベルヌーイチャック機構7、9の配置について説明する。第2の実施形態では、上記第1の実施形態とハンドフレーム22、可動フレーム24およびベルヌーイチャック機構7、9の配置のみが異なるので、ここでは上記第1の実施形態と同じ構成については説明を省略し、構成が異なるハンドフレーム22、可動フレーム24およびベルヌーイチャック機構7、9の配置についてのみ説明する。
【0059】
図6は、第2の実施形態のチャック装置21の概念図であり、図6(a)はチャック装置21の平面図を示し、図6(b)はチャック装置21の側面図を示している。第1の実施形態におけるベルヌーイチャック機構7、9は、列を構成するように配置された。第2の実施形態では、ベルヌーイチャック機構は、ベルヌーイチャック機構9(第1のワーク吸引手段)と、ベルヌーイチャック機構9の周囲に等間隔に配された複数のベルヌーイチャック機構7(第2のワーク吸引手段)とで構成される単位配列Uを少なくとも1つ含んで配置される。
【0060】
ハンドフレーム22には、このように配置されたベルヌーイチャック機構7に固設されたロッド6が固設される。また、可動フレーム24には、ベルヌーイチャック機構7の配置に合わせた孔24aが設けられ、ベルヌーイチャック機構9に固設されたロッド8が固設される。
【0061】
次に、上記の構成からなる本実施形態のチャック装置21の動作について説明する。図7は、本実施形態のチャック装置21の動作を説明する図である。第1の実施形態と同様、例えば、コンベア101(図7では不図示)によって所定位置までワークWが搬送されるとともに、ロボットアーム102(図7では不図示)が作動して、図7(a)に示すように、当該ワークWの鉛直上方にハンドフレーム22が対面したとする。
【0062】
この状態で、ポンプP(図7では不図示)を駆動すると、ベルヌーイチャック機構7、9によってワークWの表面近傍が負圧になり、ロボットアーム102がチャック装置21(ベルヌーイチャック機構7、9)を鉛直上方に移動させ、ワークWが浮揚する。
【0063】
そして、電動シリンダ3が伸長し、可動フレーム24がハンドフレーム22から離間する方向に移動すると、ベルヌーイチャック機構7と、ベルヌーイチャック機構9とで、ワークWとの対向方向の位置が異なることとなり、ベルヌーイチャック機構9同士では、ワークWとの対向面の吸引方向の位置が同じに維持される。そして、チャック装置21は、ワークWに湾曲部25を形成して当該ワークWを保持することとなる。
【0064】
ここでは、ベルヌーイチャック機構9を可動ワーク吸引手段として、可動部が位置変位させたが、ベルヌーイチャック機構7を可動ワーク吸引手段としてもよい。
【0065】
図8は、チャック時のワークWの状態を説明する図である。図8に示すように、チャック装置21でチャックされたワークWには、湾曲部25として、単位配列Uに応じた凹凸30が形成される。例えば、単位配列Uが図6(a)に示すもの、すなわち、ベルヌーイチャック機構9を中心に複数のベルヌーイチャック機構7が六角形に配される形状であれば、チャックされたワークWには、ハニカム状の凹凸30が形成される。そのため、ワークWの全方向に対する剛性が向上し、チャック装置21は、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。
【0066】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態におけるチャック装置31について説明する。第3の実施形態では、上記第1の実施形態と第1フレーム枠32、第1フレーム橋33、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35および取っ手36と、電動シリンダ3およびベルヌーイチャック機構7、9それぞれの配置のみが異なるので、ここでは上記第1の実施形態と同じ構成については説明を省略し、構成が異なる第1フレーム枠32、第1フレーム橋33、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35および取っ手36と、電動シリンダ3およびベルヌーイチャック機構7、9それぞれの配置についてのみ説明する。
【0067】
図9は、第3の実施形態のチャック装置31の概念図であり、図9(a)はチャック装置31の平面図を示し、図9(b)、(c)はチャック装置31の側面図を示している。ただし、図9(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0068】
第1の実施形態におけるチャック装置1は、平板状のハンドフレーム2および可動フレーム4が用いられた。第3の実施形態のチャック装置31ではハンドフレーム2および可動フレーム4の代わりに第1フレーム枠32、第1フレーム橋33、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35が用いられる。
【0069】
第1フレーム枠32は、棒部材によって構成されており、x軸方向に離間して一対平行に対向配置されている。一対の第1フレーム枠32には、第1フレーム橋33がy軸方向に平行に離間して複数渡されている。詳細には、第1フレーム橋33は棒部材であって、その両端部のそれぞれが一対の第1フレーム枠32に固設されている。
【0070】
同様に、第2フレーム枠34は、棒部材によって構成されており、x軸方向に離間して一対平行に配置されている。一対の第2フレーム枠34には、第2フレーム橋35がy軸方向に平行に離間して複数渡されている。詳細には、第2フレーム橋35は棒部材であって、その両端部のそれぞれが一対の第2フレーム枠34に固設されている。なお、第1フレーム枠32および第2フレーム枠34は、互いに図中z方向に対向配置されている。
【0071】
そして、ベルヌーイチャック機構7は第1フレーム橋33に、ベルヌーイチャック機構9は第2フレーム橋35に、L字部材を介して固設される。
【0072】
電動シリンダ3は、第1の実施形態では2つ用いられたが、本実施形態では、第2フレーム枠34に固設された、y軸方向の外側に位置する端部材3cそれぞれに2つずつ配される。また、電動シリンダ3は、端部材3cを介して第1フレーム枠34と固設されると共に、第1フレーム枠32にも、第1フレーム枠32に固設された、y軸方向の外側に位置する端部材3dを介して接続される。そして、シリンダロッド3aが伸縮することで第1フレーム枠32と第2フレーム枠34との相対距離を可変とする。
【0073】
取っ手36は、端部材3dにそれぞれ1つずつ配され、例えば、上述したロボットアーム102によって把持される。
【0074】
ロボットアーム102が取っ手36を把持した状態で、図9(b)に示すように、チャック装置31がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長すると、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。
【0075】
このように、本実施形態においてベルヌーイチャック機構9の位置を可動させる可変部は、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35および電動シリンダ3によって構成される。
【0076】
そして、ワークWはベルヌーイチャック機構9の吸引力によって一部が盛り上がる。このときのワークWの形状は、図9(a)において、ベルヌーイチャック機構7が配された、中央近傍およびy軸方向の両端側が凹んだものとなる。
【0077】
かかる第3の実施形態のチャック装置31によっても、上述した第1の実施形態のチャック装置1と同様、ワークWの剛性が向上し、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。また、搬送時におけるワークWの撓みによる振動が抑制され、振動静定待ち時間を短縮できる。
【0078】
さらに、平板状のハンドフレーム2および可動フレーム4の代わりに、棒部材である第1フレーム枠32、第1フレーム橋33、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35を用いることで、チャック装置31を軽量化することができる。
【0079】
以下、第3の実施形態のチャック装置31と、第1フレーム橋33、第2フレーム橋35およびベルヌーイチャック機構7、9の配置のみが異なるチャック装置について、第4〜第7の実施形態として説明する。
【0080】
(第4の実施形態)
図10は、第4の実施形態のチャック装置41の概念図であり、図10(a)はチャック装置41の平面図を示し、図10(b)、(c)はチャック装置41の側面図を示している。ただし、図10(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0081】
チャック装置41では、図10(a)〜(c)中、第1フレーム枠32のうち、y軸方向の中央よりも左側に第1フレーム橋33が配され、第2フレーム枠34のうち、y軸方向の中央よりも右側に第2フレーム橋35が配される。
【0082】
そして、チャック装置41がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長し、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。すると、図10(c)に示すように、ワークWの右側がワークWの左側よりも上方に位置し、ワークWの表面に凹凸が形成されることとなる。
【0083】
(第5の実施形態)
図11は、第5の実施形態のチャック装置51の概念図であり、図11(a)はチャック装置51の平面図を示し、図11(b)、(c)はチャック装置51の側面図を示している。ただし、図11(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0084】
チャック装置51では、図11(a)に示すように、第1フレーム橋33と第2フレーム橋35とが、y軸方向に交互に配される。
【0085】
そして、チャック装置51がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長し、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。すると、図11(c)に示すように、上述した第1の実施形態のチャック装置1と同様、ワークWには波型の湾曲部が形成される。
【0086】
(第6の実施形態)
図12は、第6の実施形態のチャック装置61の概念図であり、図12(a)はチャック装置61の平面図を示し、図12(b)、(c)はチャック装置61の側面図を示している。ただし、図12(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0087】
チャック装置61では、ベルヌーイチャック機構は、ベルヌーイチャック機構7(第1のワーク吸引手段)と、ベルヌーイチャック機構7の周囲に等間隔に配された複数のベルヌーイチャック機構9(第2のワーク吸引手段)とで構成される単位配列Uを少なくとも1つ含んで配置される。
【0088】
チャック装置61がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長し、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。すると、図12(c)に示すように、上述した第2の実施形態のチャック装置1と同様、ワークWには、湾曲部として、単位配列Uに応じた凹凸が形成される。
【0089】
単位配列Uは、ベルヌーイチャック機構7を中心に複数のベルヌーイチャック機構9が六角形に配される形状であるため、チャックされたワークWには、ハニカム状の凹凸が形成される。そのため、ワークWの全方向に対する剛性が向上し、チャック装置61は、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。
【0090】
(第7の実施形態)
図13は、第7の実施形態のチャック装置71の概念図であり、図13(a)はチャック装置71の平面図を示し、図13(b)、(c)はチャック装置71の側面図を示している。ただし、図13(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0091】
チャック装置71では、第6の実施形態のチャック装置61と同様、ベルヌーイチャック機構は、ベルヌーイチャック機構7(第1のワーク吸引手段)と、ベルヌーイチャック機構7から距離が等しい位置に配された複数のベルヌーイチャック機構9(第2のワーク吸引手段)とで構成される単位配列U’を少なくとも1つ含んで配置される。
【0092】
チャック装置71がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長し、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。すると、図13(c)に示すように、上述した第6の実施形態のチャック装置61と同様、ワークWには、ハニカム状の凹凸が形成される。ただし、チャック装置61ではワークWの4隅および中央が凹むのに対し、チャック装置71ではワークWの外周の各辺それぞれの中央近傍が凹む。このようにしても、ワークWの全方向に対する剛性が向上し、チャック装置71は、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。
【0093】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0094】
上述した実施形態では、チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71は可変部を備えることとしたが、可変部は必須の構成ではない。チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71は、可変部を備えず、複数のベルヌーイチャック機構のうち少なくとも1つのベルヌーイチャック機構について、ワークWとの対向方向の位置を、他のベルヌーイチャック機構におけるワークWとの対向方向の位置と異ならせるように固定的に設けることとしてもよい。
【0095】
また、チャック装置1が可変部を備えない構成において、予め、同じ列を構成する複数のベルヌーイチャック機構9は、ワークWとの対向方向の位置が等しくし、かつ、隣接する列を構成する複数のベルヌーイチャック機構7におけるワークWとの対向方向の位置と異ならせておいてもよい。
【0096】
また、チャック装置21、31、41、51、61、71が可変部を備えない構成において、上述したように単位配列U、U’を含み、ベルヌーイチャック機構9と、ベルヌーイチャック機構7とは、ワークWとの対向面の吸引方向の位置が異なり、複数のベルヌーイチャック機構7同士では、ワークWとの対向面の吸引方向の位置が同じ状態に固定されていてもよい。
【0097】
このように、可変部を備えない構成においても、ワークWのチャック時において、湾曲部15、25の高低差が比較的小さくなるものの、ワークWに湾曲部15、25を形成でき、簡易な構成で、第1の実施形態および第2の実施形態と同様の効果を奏する。
【0098】
また、上述した第1の実施形態では、可変部を備えるベルヌーイチャック機構9によって構成される列L2と、可変部を有しないベルヌーイチャック機構7によって構成される列L1とを交互に配列することとしたが、全てのベルヌーイチャック機構が可変部を備える構成としても構わない。この場合には、ワークWのチャック時において、少なくとも1つのベルヌーイチャック機構におけるワークWとの対向方向の位置が、他のベルヌーイチャック機構におけるワークWとの対向方向の位置と異なるように、可変部を制御することとすればよい。
【0099】
また、上述した第2の実施形態の単位配列Uでは、ベルヌーイチャック機構7は、ベルヌーイチャック機構9の周囲に6つ配されたが、ベルヌーイチャック機構7の数は、3以上であれば幾つでもよく、また、その配置も特に限定されるものではない。
【0100】
同様に、第6の実施形態の単位配Uでは、ベルヌーイチャック機構9は、ベルヌーイチャック機構7の周囲に6つ配され、第7の実施形態の単位配列U’では、ベルヌーイチャック機構9は、ベルヌーイチャック機構7の周囲に4つ配されたが、ベルヌーイチャック機構9の数は、3以上であれば幾つでもよく、また、その配置も特に限定されるものではない。
【0101】
また、単位配列は、第2の実施形態および第6の実施形態のように、第1のワーク吸引手段の周囲に第2のワーク吸引手段が等間隔に配される構成に限られない。例えば、第7の実施形態のように、第1のワーク吸引手段から距離が等しい位置に第2のワーク吸引手段が配されれば、隣接する第2のワーク吸引手段同士の間隔は等しくなくてもよい。
【0102】
また、上述した実施形態では、ベルヌーイチャック機構7、9を可動するアクチュエータとして電動シリンダ3、16を用いることとした。しかしながら、これらのアクチュエータは、例えば、空圧シリンダや油圧シリンダ等、伸縮動作が可能な伸縮シリンダであってもよいし、あるいは、伸縮シリンダに限らずに、モータの回転力を利用する装置等、動力を付与することができる装置であれば、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0103】
また、上述した実施形態では、ワーク吸引手段としてベルヌーイチャック機構7、9を用いることとしたが、ワーク吸引手段の構成はこれに限らない。例えば、ワーク吸引手段は、ベルヌーイチャック機構と同様に、ワークWの表面に負圧を発生させてワークWを吸引する装置や、ワークWの表面に静電気を発生させてワークWを吸引する装置等、ワークWを吸引する吸引力を作用させる何らかの吸引手段と、エアフロート等、ワークに反発力を作用させる反発手段と、を有し、吸引力と反発力とのバランスによって非接触でワークを保持可能な装置を広く適用可能である。この場合、ベルヌーイチャック機構7と、ベルヌーイチャック機構9とで異なる装置を用いることも可能である。
【0104】
また、上述した実施形態では、ワークWの表面を鉛直上方に臨ませた状態で、当該ワークWをワーク吸引手段によって吸引する場合について説明したが、チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71は、例えば、ワークWの表面が鉛直方向に沿って位置している場合にも適用することができる。
【0105】
さらに、上述した実施形態では、ワークWとしてガラス板をチャックする場合について説明したが、チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71は、ガラス板に限らず、フィルムや半導体基板等、可撓性を有するあらゆるワークに適用可能である。また、上述した実施形態では、ロボットアーム102にチャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71を適用する場合について説明したが、チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71の用途はこれに限定されるものではなく、ワークをチャックするあらゆる場面で適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、フィルムや薄板ガラス等の可撓性を有するワークを保持するチャック装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1、1a、21、31、41、51、61、71 …チャック装置
3、16 …電動シリンダ(可変部)
4、24 …可動フレーム(可変部)
5 …リニアシャフト(可変部)
7、9 …ベルヌーイチャック機構(ワーク吸引手段)
15、25 …湾曲部
34 …第2フレーム枠(可変部)
35 …第2フレーム橋(可変部)
L1、L2 …列
W …ワーク
U、U’ …単位配列
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムや薄板ガラス等の可撓性を有するワークを保持するチャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加工工程においてワークを一定の姿勢に保持する場合や、加工処理が施されたワークを次の工程に搬送する場合等に用いられるチャック装置が広く普及している。こうしたチャック装置がチャック(保持)するワークの形状や材質はさまざまであるが、中でもフィルム、薄板ガラス、半導体基板等の可撓性を有するワークをチャックする場合には、当該ワークの撓みによってチャックが不安定になるおそれがある。
【0003】
例えば、液晶ディスプレイに用いられるガラス板は、その板厚が0.5mm〜0.7mm程度であり、可撓性を有してはいるものの、ある程度の剛性が確保されているため、安定的なチャックが可能となっている。しかしながら、近年、液晶ディスプレイの薄型化、軽量化等の要請から、ガラス板の薄型化が進展しており、それに伴ってガラス板の剛性が低下する傾向にある。その結果、現状のチャック装置を、より薄型化されたガラス板のチャックにそのまま利用した場合には、チャックが不安定になるおそれがある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に示されるチャック装置のように、ワーク表面にピンを押し当てることにより、意図的にワークを湾曲姿勢に変位させるとともに、この湾曲姿勢を維持するようにワークの側縁を挟持してチャックすることが考えられる。このように、ワークが湾曲姿勢に維持されれば、ワーク全体の剛性が上がることから、ワークのチャック時における安定性を向上することができる。
【0005】
しかし、上記のチャック装置によれば、湾曲姿勢を作り出すためにワーク表面にピンを押し当てなければならず、ワーク表面に接触部位が生じてしまう。そのため、ワーク表面に対する一切の接触を嫌う場合には適用することができず、用途が限定されてしまったり、また、ワーク表面への接触が許容される場合であっても、ワーク表面に損傷を与えてしまったりする可能性がある。
【0006】
そこで、特許文献2に示されるように、鉛直上方に向けて流体を噴出するとともに、高さ位置を異にする複数の噴出部が配列されたチャック装置を採用することが考えられる。このチャック装置によれば、噴出部から噴出される流体によってワークが非接触状態で浮揚するとともに、噴出部の高さ位置が異なることから、当該ワークが湾曲姿勢に維持されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−35146号公報
【特許文献2】特許第4183525号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に示されるような機構では、ワークを鉛直下方から圧縮流体による圧力で浮き上がらせている。したがって、特許文献2の機構でワークをチャックしているとき、ワークは、水平方向への滑りを抑制する力をほとんど受けないため、水平方向に対してワークが移動し易くなり、安定的にチャックすることが難しい。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、可撓性を有するワークを非接触で安定的にチャックすることができるチャック装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の、可撓性を有するワークを保持するチャック装置は、ワークの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のワーク吸引手段と、前記複数のワーク吸引手段のうち少なくとも1つのワーク吸引手段について、前記ワークとの対向方向の位置を、他のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なる位置に変更可能な可変部と、を備え、前記可変部によってワークとの対向方向の位置が変更されるワーク吸引手段が可動ワーク吸引手段を構成するとともに、当該可動ワーク吸引手段の位置変位に伴って前記ワークに湾曲部を形成して当該ワークを保持することを特徴とする。
【0011】
前記可動ワーク吸引手段は複数設けられ、前記可変部は、前記複数の可動ワーク吸引手段の位置を一体的に変更可能であってもよい。
【0012】
前記可変部は、前記複数の可動ワーク吸引手段について、前記ワークとの対向方向の位置をそれぞれ独立して変更可能であってもよい。
【0013】
複数のワーク吸引手段が整列配置された列が複数平行に配置され、前記可変部は、同じ列を構成する前記複数のワーク吸引手段を前記可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該同じ列を構成する複数の可動ワーク吸引手段同士では前記ワークとの対向方向の位置を等しくし、かつ、隣接する列を構成する前記複数のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異ならせることが可能であってもよい。
【0014】
前記複数のワーク吸引手段は、第1のワーク吸引手段と、該第1のワーク吸引手段からの距離が等しい位置に配された複数の第2のワーク吸引手段とで構成される単位配列を少なくとも1つ含み、前記可変部は、前記第1のワーク吸引手段および前記第2のワーク吸引手段の少なくともいずれか一方を前記可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該第1のワーク吸引手段と第2のワーク吸引手段とで、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置を異ならせ、前記複数の第2のワーク吸引手段同士では、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置を同じに維持することが可能であってもよい。
【0015】
前記複数の第2のワーク吸引手段は、前記第1のワーク吸引手段の周囲に等間隔に配されてもよい。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の、可撓性を有するワークを保持する他のチャック装置は、ワークの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のワーク吸引手段を備え、前記複数のワーク吸引手段のうち少なくとも1つのワーク吸引手段は、前記ワークとの対向方向の位置が、他のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なることを特徴とする。
【0017】
複数のワーク吸引手段が整列配置された列が複数平行に配置され、同じ列を構成する前記複数のワーク吸引手段は、当該同じ列を構成するワーク吸引手段同士では前記ワークとの対向方向の位置が等しくし、かつ、隣接する列を構成する前記複数のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なってもよい。
【0018】
前記複数のワーク吸引手段は、第1のワーク吸引手段と、該第1のワーク吸引手段からの距離が等しい位置に配された複数の第2のワーク吸引手段とで構成される単位配列を少なくとも1つ含み、前記第1のワーク吸引手段と、前記第2のワーク吸引手段とは、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置が異なり、前記複数の第2のワーク吸引手段同士では、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置が同じであってもよい。
【0019】
前記複数の第2のワーク吸引手段は、前記第1のワーク吸引手段の周囲に等間隔に配されてもよい。
【0020】
前記ワーク吸引手段は、前記ワーク表面に気体を噴き付けて当該ワーク表面に負圧を生じさせるベルヌーイチャック機構であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、可撓性を有するワークを非接触で安定的にチャックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態のチャック装置が設けられる搬送装置を説明する図である。
【図2】第1の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図3】ベルヌーイチャック機構の概念図である。
【図4】第1の実施形態のチャック装置の動作を説明する図である。
【図5】チャック装置の変形例の概念図である。
【図6】第2の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図7】第2の実施形態のチャック装置の動作を説明する図である。
【図8】チャック時のワークの状態を説明する図である。
【図9】第3の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図10】第4の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図11】第5の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図12】第6の実施形態のチャック装置の概念図である。
【図13】第7の実施形態のチャック装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0024】
本実施形態のチャック装置は、表面に対して非接触状態を維持してワークをチャック(保持)するものであり、例えば、ワークを加工処理する加工工程や、ワークを搬送する搬送工程等、さまざまな場面で用いられる。ここでは、0.1mm〜0.3mm程度の可撓性を有するガラス基板をワークとして搬送する搬送装置に適用されるチャック装置について説明する。
【0025】
図1は、本実施形態のチャック装置が設けられる搬送装置を説明する図である。この図に示すように、搬送装置100は、ワークWを搬送するコロコンベア等からなるコンベア101と、このコンベア101によって搬送されるワークWを、当該コンベア101に近接して配置された不図示の加工装置まで移動させるロボットアーム102と、を備えている。
【0026】
このロボットアーム102の先端にはチャック装置1が設けられており、コンベア101によって所定位置までワークWが搬送されると、チャック装置1が作動して、ワークWがチャックされる。そして、ワークWがチャックされた状態で、ロボットアーム102の先端が加工装置まで作動することにより、ワークWがコンベア101から加工装置まで搬送されることとなる。以下に、ロボットアーム102の先端に設けられるチャック装置1について、図2〜図4を用いて詳細に説明する。
【0027】
図2は、チャック装置1の概念図であり、図2(a)はチャック装置1の平面図を示し、図2(b)はチャック装置1の側面図を示す。この図に示すように、チャック装置1は、ロボットアーム102の先端に設けられる平板状のハンドフレーム2を含んで構成される。ここでは、説明の都合上、鉛直上方(ロボットアーム102側)に位置するハンドフレーム2の面を面2aとし、鉛直下方(コンベア101側)に位置してチャック装置1の種々の部品が設けられるハンドフレーム2の面を面2bとする。なお、以下では、図2(a)の左右方向をx方向、上下方向をy方向、紙面に対して垂直方向をz方向として説明する。
【0028】
ハンドフレーム2のy方向に垂直な側面2c、2dには、そのx方向中央位置に、一対の電動シリンダ3(アクチュエータ)が固定されている。これら一対の電動シリンダ3は、シリンダロッド3aを鉛直方向に沿わせて設けられており、したがって、シリンダロッド3aは、鉛直方向に伸縮することとなる。なお、図2(b)は、シリンダロッド3aが最も収縮した状態を示している。
【0029】
シリンダロッド3aの先端には、矩形の介在部材3bが固設されている。介在部材3bには、ハンドフレーム2と同じ外形の平板状の可動フレーム4が固設されている。ここでは、説明の都合上、鉛直上方(ロボットアーム102側)に位置する可動フレーム4の面を面4aとし、鉛直下方(コンベア101側)に位置する可動フレーム4の面を面4bとする。
【0030】
なお、図2(a)においては、ハンドフレーム2および可動フレーム4を破線で示し、ハンドフレーム2や可動フレーム4に固定される他の構成部品を実線で示している。
【0031】
ハンドフレーム2には、z方向に貫通する孔2eが設けられる。また、可動フレーム4には、孔2eと対向する位置に、z方向に貫通する孔4cが設けられる。リニアシャフト5は、z方向に延伸するシャフトであって、ハンドフレーム2の孔2eに挿通した状態でハンドフレーム2に固設される。また、リニアシャフト5は、可動フレーム4の孔4cに挿通される。したがって、可動フレーム4は、シリンダロッド3aの伸縮に伴いリニアシャフト5にガイドされながら、ハンドフレーム2に対して相対的にz方向に移動する。
【0032】
ハンドフレーム2の面2bには、z方向に延伸するロッド6が取り付けられている。また、可動フレーム4には複数の孔4dが設けられている。かかる孔4dにロッド6が挿通される。ロッド6の先端には、ベルヌーイチャック機構7が固設されている。同様に、可動フレーム4の面4bには、z方向に延伸するロッド8が取り付けられている。ロッド8の先端にも、ベルヌーイチャック機構9が固設されている。本実施形態においては、図2(a)に示すように、複数のベルヌーイチャック機構7がy方向に整列配置された列L1と、複数のベルヌーイチャック機構9が整列配置された列L2とがx方向に交互かつ、複数平行に配置されている。
【0033】
ベルヌーイチャック機構7、9は、ワークWの表面に気体を噴き付けて当該ワーク表面に負圧を生じさせる。ここで、ベルヌーイチャック機構7、9は、ワークWの鉛直上方に対向配置されて当該ワークWを非接触状態で吸引するワーク吸引手段を構成する。
【0034】
ワーク吸引手段としてベルヌーイチャック機構7、9を用いることで、チャック装置1は、非接触状態を維持してワークWをチャックすることが、比較的簡易な構成で可能となる。
【0035】
なお、ベルヌーイチャック機構7とベルヌーイチャック機構9とは、チャック装置1における配置が異なるが、その構成は実質的に等しい。以下の図3では、ベルヌーイチャック機構7の構成について詳述するが、ベルヌーイチャック機構9を構成する構成要素も、ベルヌーイチャック機構7を構成する構成要素と同じ名称および符号を用いて示す。
【0036】
図3は、ベルヌーイチャック機構7の概念図である。この図において、図3(a)はベルヌーイチャック機構7の平面図、図3(b)は図3(a)のIII(b)−III(b)線断面図を示している。これらの図に示すように、ベルヌーイチャック機構7はチャック本体10を備えており、このチャック本体10の面10aがロッド6の先端に固定され、面10bが鉛直下方に臨むように構成されている。
【0037】
チャック本体10には、水平方向の断面を円形とする吸引穴11が形成されている。この吸引穴11は、面10a側に底部11aを位置させるとともに、面10bに開口部11bを開口させており、開口部11bの近傍には、面10a側から面10b側に向かうにしたがって徐々に吸引穴11の径が大きくなるようにテーパが形成されている。また、チャック本体10には、複数のエア供給路12が形成されており、その一端12aを面10aに開口させ、その他端12bを吸引穴11の底部11aにおける外周縁近傍に開口させている。エア供給路12の他端12bは、底部11aの外周に沿って等間隔に複数(例えば8個)開口しており、また、エア供給路12の一端12aには、吸引穴11に向けてエアを噴き出すポンプPが配管を介して接続されている。
【0038】
また、ここではポンプPが配管を介して吸引穴11に接続されている例を挙げたが、例えば、搬送装置100を配する施設全体で共用されるコンプレッサから吸引穴11に配管が接続され、コンプレッサから吸引穴11への圧縮空気の供給のオンオフの切り換えが、電磁バルブによって為される構成でもよい。
【0039】
したがって、図3(b)に示すように、チャック本体10の面10bをワークWに対向させた状態でポンプPを駆動すると、エア供給路12から吸引穴11に導かれたエアが、吸引穴11の周壁に沿って底部11a側から開口部11b側へと噴き出す。このようにして、吸引穴11の周縁から外方に向けてエアが噴き出すと、吸引穴11の径方向中央位置ではエゼクタ効果により負圧が生じることとなり、この負圧によってワークWがチャック本体10側に吸引されることとなる。その結果、この吸引力と空気が吹き出す力とがつり合う位置で非接触の浮揚状態となる。
【0040】
なお、可動フレーム4には、図2(a)、図2(b)に示すように、y方向の外周縁近傍に、チャック中のワークWがx方向に飛び出すのを防止する飛び出し防止ピン13が設けられ、また、x方向の外周縁近傍に、チャック中のワークWがx方向に飛び出すのを防止する飛び出し防止ピン14が設けられている。
【0041】
次に、上記の構成からなる本実施形態のチャック装置1の動作について説明する。図4は、チャック装置1の動作を説明する図である。図4(a)に示すように、例えば、コンベア101(図4では不図示)によって所定位置までワークWが搬送されるとともに、ロボットアーム102(図4では不図示)が作動して、当該ワークWの鉛直上方にハンドフレーム2が対面したとする。このとき、電動シリンダ3が最も収縮した状態となっており、ベルヌーイチャック機構7、9の吸引穴11が、ワークWの表面と僅かに離間して対面している。
【0042】
この状態で、ポンプP(図4では不図示)を駆動すると、ベルヌーイチャック機構7、9によってワークWの表面近傍が負圧になり、ワークW全体が鉛直上方に吸引される。この状態でロボットアーム102がチャック装置1(ベルヌーイチャック機構7、9)を鉛直上方に移動させると、ワークWもベルヌーイチャック機構7、9に追従して浮揚する。
【0043】
このとき、上述した電動シリンダ3、可動フレーム4、およびリニアシャフト5は、可変部として機能する。可変部は、複数のベルヌーイチャック機構7、9のうち少なくとも1つのベルヌーイチャック機構(ここでは、ベルヌーイチャック機構9)について、ワークWとの対向方向の位置を、他のベルヌーイチャック機構(ここでは、ベルヌーイチャック機構7)におけるワークWとの対向方向の位置と異なる位置に変更可能な機構である。
【0044】
具体的に、電動シリンダ3が伸長し、可動フレーム4がハンドフレーム2から離間する方向に移動すると、ロッド6を介してハンドフレーム2に固設されたベルヌーイチャック機構7と、ロッド8を介して可動フレーム4に固設されたベルヌーイチャック機構9とについて、ワークWとの対向方向の位置が異なる状態となる。すわなち、ベルヌーイチャック機構9の方がベルヌーイチャック機構7よりも、ワークWとの対向方向の位置が鉛直方向下方になる。
【0045】
ここでは、電動シリンダ3が伸長することで、可動フレーム4がハンドフレーム2から離間する方向に移動させているが、電動シリンダ3が収縮することで、可動フレーム4がハンドフレーム2に近づく方向に移動させてもよい。この場合、ベルヌーイチャック機構9の方が、ベルヌーイチャック機構7よりも、ワークWとの対向方向の位置が鉛直方向上方になる。
【0046】
このように、可変部によってワークWとの対向方向の位置が変更されるベルヌーイチャック機構9は、可動ワーク吸引手段を構成する。つまり、可動ワーク吸引手段の列L2と、可変部によっては移動しないワーク吸引手段(ベルヌーイチャック機構7)の列L1とが交互に配置されていることとなる(図2参照)。
【0047】
そして、可変部は、図4(b)に示すように、同じ列L2を構成する複数のベルヌーイチャック機構9を可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該同じ列L2を構成する複数のベルヌーイチャック機構9同士ではワークWとの対向方向の位置を等しくし、かつ、隣接する列L1を構成するベルヌーイチャック機構7におけるワークWとの対向方向の位置と異ならせている。この可変部による可動ワーク吸引手段の位置変位に伴って、チャック時のワークWに波状の湾曲部15が形成される。
【0048】
かかる構成により、チャック装置1でチャックされたワークWに形成される湾曲部15は、x軸方向に波型となる。ワークWが波型となるため、ワークWのベルヌーイチャック機構7、9の列L1、L2に平行なy方向への剛性が高まる。そのため、チャック装置1は、特にベルヌーイチャック機構7、9の列に平行な方向に対する変形を抑制して、ワークWをチャックすることが可能となる。
【0049】
また、上述したように、可動フレーム4に複数のベルヌーイチャック機構9(可動ワーク吸引手段)が固設されており、かかる可動フレーム4を電動シリンダ3が移動させるため、可変部は、複数のベルヌーイチャック機構9の位置を一体的に変更可能である。
【0050】
可変部が、複数のベルヌーイチャック機構9の位置を一体的に変更可能とする構成により、複数のベルヌーイチャック機構9を同期して昇降させる同期制御が不要となり、処理負荷を低減できる。
【0051】
そして、所望の位置までロボットアーム102が移動したら、上記とは逆に、電動シリンダ3を収縮させてワークWを平板状に復帰させた後にポンプPの駆動を停止すればよい。これにより、ワークWの表面に対して非接触状態を維持したまま、安定的にワークWを所望の位置まで搬送することが可能となる。
【0052】
上述したように、本実施形態のチャック装置1は、複数のベルヌーイチャック機構7、9を備え、ベルヌーイチャック機構7、9のワークWとの対向方向の位置(高さ)を意図的に異ならせる。当該チャック装置1でチャックされたワークWは、当該ワークWに湾曲部15が形成され剛性が向上する。
【0053】
仮に、ベルヌーイチャック機構7、9の代わりに、ワークWに対して鉛直下方から流体を吹き付けて浮上させる構成も考えられるが、ワークWに傾斜が生じると、ワークWの裏面に吹き付けられた流体がワークWの周方向に対して偏って流れるため、ワークWが水平方向に対して滑り易くなる可能性がある。本実施形態では、ベルヌーイチャック機構7、9はワークWを吸引しているため、流体の流れが偏ることがなくワークWの水平方向への滑りが抑制される。そのため、チャック装置1は、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。
【0054】
また、チャック装置1を用いると、チャック時のワークWの剛性が向上することで、搬送時におけるワークWの撓みによる振動が抑制されるため、搬送先に到達してからワークWの振動が収まるまで待機しなければならない時間(振動静定待ち時間)を短縮できる。
【0055】
図5は、チャック装置1の変形例の概念図である。チャック装置1と異なり、図5に示す変形例のチャック装置1aには、可動フレーム4やリニアシャフト5が設けられていない。そして、ハンドフレーム2にz方向に貫通する複数の孔2fが設けられている。また、ハンドフレーム2のそれぞれの孔2fの面2a側に1つずつ、独立して駆動する電動シリンダ16が配されている。電動シリンダ16のシリンダロッド16aは、孔2fに挿通しており、その先端にベルヌーイチャック機構7、9が固設されている。
【0056】
ここでは、可変部は、複数の電動シリンダ16によって構成される。可変部(電動シリンダ16)は、シリンダロッド16aを伸縮することで、複数のベルヌーイチャック機構7、9について、ワークWとの対向方向の位置をそれぞれ独立して変更可能である。
【0057】
可変部が、複数のベルヌーイチャック機構7、9について、ワークWとの対向方向の位置をそれぞれ独立して変更可能とする構成により、チャック時のワークWに、上述した波型の湾曲部15を形成したり、他の形状の湾曲部を形成したりするように変更できる。そのため、チャック装置1aは、ワークWに応じて適切な形状の湾曲部を形成した状態でチャック可能となる。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態におけるハンドフレーム22、可動フレーム24およびベルヌーイチャック機構7、9の配置について説明する。第2の実施形態では、上記第1の実施形態とハンドフレーム22、可動フレーム24およびベルヌーイチャック機構7、9の配置のみが異なるので、ここでは上記第1の実施形態と同じ構成については説明を省略し、構成が異なるハンドフレーム22、可動フレーム24およびベルヌーイチャック機構7、9の配置についてのみ説明する。
【0059】
図6は、第2の実施形態のチャック装置21の概念図であり、図6(a)はチャック装置21の平面図を示し、図6(b)はチャック装置21の側面図を示している。第1の実施形態におけるベルヌーイチャック機構7、9は、列を構成するように配置された。第2の実施形態では、ベルヌーイチャック機構は、ベルヌーイチャック機構9(第1のワーク吸引手段)と、ベルヌーイチャック機構9の周囲に等間隔に配された複数のベルヌーイチャック機構7(第2のワーク吸引手段)とで構成される単位配列Uを少なくとも1つ含んで配置される。
【0060】
ハンドフレーム22には、このように配置されたベルヌーイチャック機構7に固設されたロッド6が固設される。また、可動フレーム24には、ベルヌーイチャック機構7の配置に合わせた孔24aが設けられ、ベルヌーイチャック機構9に固設されたロッド8が固設される。
【0061】
次に、上記の構成からなる本実施形態のチャック装置21の動作について説明する。図7は、本実施形態のチャック装置21の動作を説明する図である。第1の実施形態と同様、例えば、コンベア101(図7では不図示)によって所定位置までワークWが搬送されるとともに、ロボットアーム102(図7では不図示)が作動して、図7(a)に示すように、当該ワークWの鉛直上方にハンドフレーム22が対面したとする。
【0062】
この状態で、ポンプP(図7では不図示)を駆動すると、ベルヌーイチャック機構7、9によってワークWの表面近傍が負圧になり、ロボットアーム102がチャック装置21(ベルヌーイチャック機構7、9)を鉛直上方に移動させ、ワークWが浮揚する。
【0063】
そして、電動シリンダ3が伸長し、可動フレーム24がハンドフレーム22から離間する方向に移動すると、ベルヌーイチャック機構7と、ベルヌーイチャック機構9とで、ワークWとの対向方向の位置が異なることとなり、ベルヌーイチャック機構9同士では、ワークWとの対向面の吸引方向の位置が同じに維持される。そして、チャック装置21は、ワークWに湾曲部25を形成して当該ワークWを保持することとなる。
【0064】
ここでは、ベルヌーイチャック機構9を可動ワーク吸引手段として、可動部が位置変位させたが、ベルヌーイチャック機構7を可動ワーク吸引手段としてもよい。
【0065】
図8は、チャック時のワークWの状態を説明する図である。図8に示すように、チャック装置21でチャックされたワークWには、湾曲部25として、単位配列Uに応じた凹凸30が形成される。例えば、単位配列Uが図6(a)に示すもの、すなわち、ベルヌーイチャック機構9を中心に複数のベルヌーイチャック機構7が六角形に配される形状であれば、チャックされたワークWには、ハニカム状の凹凸30が形成される。そのため、ワークWの全方向に対する剛性が向上し、チャック装置21は、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。
【0066】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態におけるチャック装置31について説明する。第3の実施形態では、上記第1の実施形態と第1フレーム枠32、第1フレーム橋33、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35および取っ手36と、電動シリンダ3およびベルヌーイチャック機構7、9それぞれの配置のみが異なるので、ここでは上記第1の実施形態と同じ構成については説明を省略し、構成が異なる第1フレーム枠32、第1フレーム橋33、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35および取っ手36と、電動シリンダ3およびベルヌーイチャック機構7、9それぞれの配置についてのみ説明する。
【0067】
図9は、第3の実施形態のチャック装置31の概念図であり、図9(a)はチャック装置31の平面図を示し、図9(b)、(c)はチャック装置31の側面図を示している。ただし、図9(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0068】
第1の実施形態におけるチャック装置1は、平板状のハンドフレーム2および可動フレーム4が用いられた。第3の実施形態のチャック装置31ではハンドフレーム2および可動フレーム4の代わりに第1フレーム枠32、第1フレーム橋33、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35が用いられる。
【0069】
第1フレーム枠32は、棒部材によって構成されており、x軸方向に離間して一対平行に対向配置されている。一対の第1フレーム枠32には、第1フレーム橋33がy軸方向に平行に離間して複数渡されている。詳細には、第1フレーム橋33は棒部材であって、その両端部のそれぞれが一対の第1フレーム枠32に固設されている。
【0070】
同様に、第2フレーム枠34は、棒部材によって構成されており、x軸方向に離間して一対平行に配置されている。一対の第2フレーム枠34には、第2フレーム橋35がy軸方向に平行に離間して複数渡されている。詳細には、第2フレーム橋35は棒部材であって、その両端部のそれぞれが一対の第2フレーム枠34に固設されている。なお、第1フレーム枠32および第2フレーム枠34は、互いに図中z方向に対向配置されている。
【0071】
そして、ベルヌーイチャック機構7は第1フレーム橋33に、ベルヌーイチャック機構9は第2フレーム橋35に、L字部材を介して固設される。
【0072】
電動シリンダ3は、第1の実施形態では2つ用いられたが、本実施形態では、第2フレーム枠34に固設された、y軸方向の外側に位置する端部材3cそれぞれに2つずつ配される。また、電動シリンダ3は、端部材3cを介して第1フレーム枠34と固設されると共に、第1フレーム枠32にも、第1フレーム枠32に固設された、y軸方向の外側に位置する端部材3dを介して接続される。そして、シリンダロッド3aが伸縮することで第1フレーム枠32と第2フレーム枠34との相対距離を可変とする。
【0073】
取っ手36は、端部材3dにそれぞれ1つずつ配され、例えば、上述したロボットアーム102によって把持される。
【0074】
ロボットアーム102が取っ手36を把持した状態で、図9(b)に示すように、チャック装置31がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長すると、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。
【0075】
このように、本実施形態においてベルヌーイチャック機構9の位置を可動させる可変部は、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35および電動シリンダ3によって構成される。
【0076】
そして、ワークWはベルヌーイチャック機構9の吸引力によって一部が盛り上がる。このときのワークWの形状は、図9(a)において、ベルヌーイチャック機構7が配された、中央近傍およびy軸方向の両端側が凹んだものとなる。
【0077】
かかる第3の実施形態のチャック装置31によっても、上述した第1の実施形態のチャック装置1と同様、ワークWの剛性が向上し、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。また、搬送時におけるワークWの撓みによる振動が抑制され、振動静定待ち時間を短縮できる。
【0078】
さらに、平板状のハンドフレーム2および可動フレーム4の代わりに、棒部材である第1フレーム枠32、第1フレーム橋33、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35を用いることで、チャック装置31を軽量化することができる。
【0079】
以下、第3の実施形態のチャック装置31と、第1フレーム橋33、第2フレーム橋35およびベルヌーイチャック機構7、9の配置のみが異なるチャック装置について、第4〜第7の実施形態として説明する。
【0080】
(第4の実施形態)
図10は、第4の実施形態のチャック装置41の概念図であり、図10(a)はチャック装置41の平面図を示し、図10(b)、(c)はチャック装置41の側面図を示している。ただし、図10(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0081】
チャック装置41では、図10(a)〜(c)中、第1フレーム枠32のうち、y軸方向の中央よりも左側に第1フレーム橋33が配され、第2フレーム枠34のうち、y軸方向の中央よりも右側に第2フレーム橋35が配される。
【0082】
そして、チャック装置41がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長し、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。すると、図10(c)に示すように、ワークWの右側がワークWの左側よりも上方に位置し、ワークWの表面に凹凸が形成されることとなる。
【0083】
(第5の実施形態)
図11は、第5の実施形態のチャック装置51の概念図であり、図11(a)はチャック装置51の平面図を示し、図11(b)、(c)はチャック装置51の側面図を示している。ただし、図11(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0084】
チャック装置51では、図11(a)に示すように、第1フレーム橋33と第2フレーム橋35とが、y軸方向に交互に配される。
【0085】
そして、チャック装置51がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長し、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。すると、図11(c)に示すように、上述した第1の実施形態のチャック装置1と同様、ワークWには波型の湾曲部が形成される。
【0086】
(第6の実施形態)
図12は、第6の実施形態のチャック装置61の概念図であり、図12(a)はチャック装置61の平面図を示し、図12(b)、(c)はチャック装置61の側面図を示している。ただし、図12(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0087】
チャック装置61では、ベルヌーイチャック機構は、ベルヌーイチャック機構7(第1のワーク吸引手段)と、ベルヌーイチャック機構7の周囲に等間隔に配された複数のベルヌーイチャック機構9(第2のワーク吸引手段)とで構成される単位配列Uを少なくとも1つ含んで配置される。
【0088】
チャック装置61がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長し、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。すると、図12(c)に示すように、上述した第2の実施形態のチャック装置1と同様、ワークWには、湾曲部として、単位配列Uに応じた凹凸が形成される。
【0089】
単位配列Uは、ベルヌーイチャック機構7を中心に複数のベルヌーイチャック機構9が六角形に配される形状であるため、チャックされたワークWには、ハニカム状の凹凸が形成される。そのため、ワークWの全方向に対する剛性が向上し、チャック装置61は、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。
【0090】
(第7の実施形態)
図13は、第7の実施形態のチャック装置71の概念図であり、図13(a)はチャック装置71の平面図を示し、図13(b)、(c)はチャック装置71の側面図を示している。ただし、図13(a)において、4つの電動シリンダ3のうち、図中左上に位置するものについては、電動シリンダ3が配される基台を示すため記載を省略している。
【0091】
チャック装置71では、第6の実施形態のチャック装置61と同様、ベルヌーイチャック機構は、ベルヌーイチャック機構7(第1のワーク吸引手段)と、ベルヌーイチャック機構7から距離が等しい位置に配された複数のベルヌーイチャック機構9(第2のワーク吸引手段)とで構成される単位配列U’を少なくとも1つ含んで配置される。
【0092】
チャック装置71がワークWをチャックした後、電動シリンダ3のシリンダロッド3aが伸長し、第2フレーム枠34、第2フレーム橋35と共に、ベルヌーイチャック機構9がz方向に移動する。すると、図13(c)に示すように、上述した第6の実施形態のチャック装置61と同様、ワークWには、ハニカム状の凹凸が形成される。ただし、チャック装置61ではワークWの4隅および中央が凹むのに対し、チャック装置71ではワークWの外周の各辺それぞれの中央近傍が凹む。このようにしても、ワークWの全方向に対する剛性が向上し、チャック装置71は、ワークWを安定的にチャックすることが可能となる。
【0093】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0094】
上述した実施形態では、チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71は可変部を備えることとしたが、可変部は必須の構成ではない。チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71は、可変部を備えず、複数のベルヌーイチャック機構のうち少なくとも1つのベルヌーイチャック機構について、ワークWとの対向方向の位置を、他のベルヌーイチャック機構におけるワークWとの対向方向の位置と異ならせるように固定的に設けることとしてもよい。
【0095】
また、チャック装置1が可変部を備えない構成において、予め、同じ列を構成する複数のベルヌーイチャック機構9は、ワークWとの対向方向の位置が等しくし、かつ、隣接する列を構成する複数のベルヌーイチャック機構7におけるワークWとの対向方向の位置と異ならせておいてもよい。
【0096】
また、チャック装置21、31、41、51、61、71が可変部を備えない構成において、上述したように単位配列U、U’を含み、ベルヌーイチャック機構9と、ベルヌーイチャック機構7とは、ワークWとの対向面の吸引方向の位置が異なり、複数のベルヌーイチャック機構7同士では、ワークWとの対向面の吸引方向の位置が同じ状態に固定されていてもよい。
【0097】
このように、可変部を備えない構成においても、ワークWのチャック時において、湾曲部15、25の高低差が比較的小さくなるものの、ワークWに湾曲部15、25を形成でき、簡易な構成で、第1の実施形態および第2の実施形態と同様の効果を奏する。
【0098】
また、上述した第1の実施形態では、可変部を備えるベルヌーイチャック機構9によって構成される列L2と、可変部を有しないベルヌーイチャック機構7によって構成される列L1とを交互に配列することとしたが、全てのベルヌーイチャック機構が可変部を備える構成としても構わない。この場合には、ワークWのチャック時において、少なくとも1つのベルヌーイチャック機構におけるワークWとの対向方向の位置が、他のベルヌーイチャック機構におけるワークWとの対向方向の位置と異なるように、可変部を制御することとすればよい。
【0099】
また、上述した第2の実施形態の単位配列Uでは、ベルヌーイチャック機構7は、ベルヌーイチャック機構9の周囲に6つ配されたが、ベルヌーイチャック機構7の数は、3以上であれば幾つでもよく、また、その配置も特に限定されるものではない。
【0100】
同様に、第6の実施形態の単位配Uでは、ベルヌーイチャック機構9は、ベルヌーイチャック機構7の周囲に6つ配され、第7の実施形態の単位配列U’では、ベルヌーイチャック機構9は、ベルヌーイチャック機構7の周囲に4つ配されたが、ベルヌーイチャック機構9の数は、3以上であれば幾つでもよく、また、その配置も特に限定されるものではない。
【0101】
また、単位配列は、第2の実施形態および第6の実施形態のように、第1のワーク吸引手段の周囲に第2のワーク吸引手段が等間隔に配される構成に限られない。例えば、第7の実施形態のように、第1のワーク吸引手段から距離が等しい位置に第2のワーク吸引手段が配されれば、隣接する第2のワーク吸引手段同士の間隔は等しくなくてもよい。
【0102】
また、上述した実施形態では、ベルヌーイチャック機構7、9を可動するアクチュエータとして電動シリンダ3、16を用いることとした。しかしながら、これらのアクチュエータは、例えば、空圧シリンダや油圧シリンダ等、伸縮動作が可能な伸縮シリンダであってもよいし、あるいは、伸縮シリンダに限らずに、モータの回転力を利用する装置等、動力を付与することができる装置であれば、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0103】
また、上述した実施形態では、ワーク吸引手段としてベルヌーイチャック機構7、9を用いることとしたが、ワーク吸引手段の構成はこれに限らない。例えば、ワーク吸引手段は、ベルヌーイチャック機構と同様に、ワークWの表面に負圧を発生させてワークWを吸引する装置や、ワークWの表面に静電気を発生させてワークWを吸引する装置等、ワークWを吸引する吸引力を作用させる何らかの吸引手段と、エアフロート等、ワークに反発力を作用させる反発手段と、を有し、吸引力と反発力とのバランスによって非接触でワークを保持可能な装置を広く適用可能である。この場合、ベルヌーイチャック機構7と、ベルヌーイチャック機構9とで異なる装置を用いることも可能である。
【0104】
また、上述した実施形態では、ワークWの表面を鉛直上方に臨ませた状態で、当該ワークWをワーク吸引手段によって吸引する場合について説明したが、チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71は、例えば、ワークWの表面が鉛直方向に沿って位置している場合にも適用することができる。
【0105】
さらに、上述した実施形態では、ワークWとしてガラス板をチャックする場合について説明したが、チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71は、ガラス板に限らず、フィルムや半導体基板等、可撓性を有するあらゆるワークに適用可能である。また、上述した実施形態では、ロボットアーム102にチャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71を適用する場合について説明したが、チャック装置1、1a、21、31、41、51、61、71の用途はこれに限定されるものではなく、ワークをチャックするあらゆる場面で適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、フィルムや薄板ガラス等の可撓性を有するワークを保持するチャック装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1、1a、21、31、41、51、61、71 …チャック装置
3、16 …電動シリンダ(可変部)
4、24 …可動フレーム(可変部)
5 …リニアシャフト(可変部)
7、9 …ベルヌーイチャック機構(ワーク吸引手段)
15、25 …湾曲部
34 …第2フレーム枠(可変部)
35 …第2フレーム橋(可変部)
L1、L2 …列
W …ワーク
U、U’ …単位配列
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するワークを保持するチャック装置であって、
ワークの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のワーク吸引手段と、
前記複数のワーク吸引手段のうち少なくとも1つのワーク吸引手段について、前記ワークとの対向方向の位置を、他のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なる位置に変更可能な可変部と、を備え、
前記可変部によってワークとの対向方向の位置が変更されるワーク吸引手段が可動ワーク吸引手段を構成するとともに、当該可動ワーク吸引手段の位置変位に伴って前記ワークに湾曲部を形成して当該ワークを保持することを特徴とするチャック装置。
【請求項2】
前記可動ワーク吸引手段は複数設けられ、
前記可変部は、前記複数の可動ワーク吸引手段の位置を一体的に変更可能であることを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
前記可変部は、前記複数の可動ワーク吸引手段について、前記ワークとの対向方向の位置をそれぞれ独立して変更可能であることを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項4】
複数のワーク吸引手段が整列配置された列が複数平行に配置され、
前記可変部は、同じ列を構成する前記複数のワーク吸引手段を前記可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該同じ列を構成する複数の可動ワーク吸引手段同士では前記ワークとの対向方向の位置を等しくし、かつ、隣接する列を構成する前記複数のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異ならせることが可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のチャック装置。
【請求項5】
前記複数のワーク吸引手段は、第1のワーク吸引手段と、該第1のワーク吸引手段からの距離が等しい位置に配された複数の第2のワーク吸引手段とで構成される単位配列を少なくとも1つ含み、
前記可変部は、前記第1のワーク吸引手段および前記第2のワーク吸引手段の少なくともいずれか一方を前記可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該第1のワーク吸引手段と第2のワーク吸引手段とで、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置を異ならせ、前記複数の第2のワーク吸引手段同士では、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置を同じに維持することが可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のチャック装置。
【請求項6】
前記複数の第2のワーク吸引手段は、前記第1のワーク吸引手段の周囲に等間隔に配されることを特徴とする請求項5に記載のチャック装置。
【請求項7】
可撓性を有するワークを保持するチャック装置であって、
ワークの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のワーク吸引手段を備え、
前記複数のワーク吸引手段のうち少なくとも1つのワーク吸引手段は、前記ワークとの対向方向の位置が、他のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なることを特徴とするチャック装置。
【請求項8】
複数のワーク吸引手段が整列配置された列が複数平行に配置され、
同じ列を構成する前記複数のワーク吸引手段は、当該同じ列を構成するワーク吸引手段同士では前記ワークとの対向方向の位置が等しくし、かつ、隣接する列を構成する前記複数のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なることを特徴とする請求項7に記載のチャック装置。
【請求項9】
前記複数のワーク吸引手段は、第1のワーク吸引手段と、該第1のワーク吸引手段からの距離が等しい位置に配された複数の第2のワーク吸引手段とで構成される単位配列を少なくとも1つ含み、
前記第1のワーク吸引手段と、前記第2のワーク吸引手段とは、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置が異なり、前記複数の第2のワーク吸引手段同士では、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置が同じであることを特徴とする請求項7に記載のチャック装置。
【請求項10】
前記複数の第2のワーク吸引手段は、前記第1のワーク吸引手段の周囲に等間隔に配されることを特徴とする請求項9に記載のチャック装置。
【請求項11】
前記ワーク吸引手段は、前記ワーク表面に気体を噴き付けて当該ワーク表面に負圧を生じさせるベルヌーイチャック機構であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のチャック装置。
【請求項1】
可撓性を有するワークを保持するチャック装置であって、
ワークの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のワーク吸引手段と、
前記複数のワーク吸引手段のうち少なくとも1つのワーク吸引手段について、前記ワークとの対向方向の位置を、他のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なる位置に変更可能な可変部と、を備え、
前記可変部によってワークとの対向方向の位置が変更されるワーク吸引手段が可動ワーク吸引手段を構成するとともに、当該可動ワーク吸引手段の位置変位に伴って前記ワークに湾曲部を形成して当該ワークを保持することを特徴とするチャック装置。
【請求項2】
前記可動ワーク吸引手段は複数設けられ、
前記可変部は、前記複数の可動ワーク吸引手段の位置を一体的に変更可能であることを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
前記可変部は、前記複数の可動ワーク吸引手段について、前記ワークとの対向方向の位置をそれぞれ独立して変更可能であることを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項4】
複数のワーク吸引手段が整列配置された列が複数平行に配置され、
前記可変部は、同じ列を構成する前記複数のワーク吸引手段を前記可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該同じ列を構成する複数の可動ワーク吸引手段同士では前記ワークとの対向方向の位置を等しくし、かつ、隣接する列を構成する前記複数のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異ならせることが可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のチャック装置。
【請求項5】
前記複数のワーク吸引手段は、第1のワーク吸引手段と、該第1のワーク吸引手段からの距離が等しい位置に配された複数の第2のワーク吸引手段とで構成される単位配列を少なくとも1つ含み、
前記可変部は、前記第1のワーク吸引手段および前記第2のワーク吸引手段の少なくともいずれか一方を前記可動ワーク吸引手段として位置変位させるとともに、当該第1のワーク吸引手段と第2のワーク吸引手段とで、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置を異ならせ、前記複数の第2のワーク吸引手段同士では、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置を同じに維持することが可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のチャック装置。
【請求項6】
前記複数の第2のワーク吸引手段は、前記第1のワーク吸引手段の周囲に等間隔に配されることを特徴とする請求項5に記載のチャック装置。
【請求項7】
可撓性を有するワークを保持するチャック装置であって、
ワークの鉛直上方に対向配置されて当該ワークを非接触状態で吸引する複数のワーク吸引手段を備え、
前記複数のワーク吸引手段のうち少なくとも1つのワーク吸引手段は、前記ワークとの対向方向の位置が、他のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なることを特徴とするチャック装置。
【請求項8】
複数のワーク吸引手段が整列配置された列が複数平行に配置され、
同じ列を構成する前記複数のワーク吸引手段は、当該同じ列を構成するワーク吸引手段同士では前記ワークとの対向方向の位置が等しくし、かつ、隣接する列を構成する前記複数のワーク吸引手段における前記ワークとの対向方向の位置と異なることを特徴とする請求項7に記載のチャック装置。
【請求項9】
前記複数のワーク吸引手段は、第1のワーク吸引手段と、該第1のワーク吸引手段からの距離が等しい位置に配された複数の第2のワーク吸引手段とで構成される単位配列を少なくとも1つ含み、
前記第1のワーク吸引手段と、前記第2のワーク吸引手段とは、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置が異なり、前記複数の第2のワーク吸引手段同士では、前記ワークとの対向面の吸引方向の位置が同じであることを特徴とする請求項7に記載のチャック装置。
【請求項10】
前記複数の第2のワーク吸引手段は、前記第1のワーク吸引手段の周囲に等間隔に配されることを特徴とする請求項9に記載のチャック装置。
【請求項11】
前記ワーク吸引手段は、前記ワーク表面に気体を噴き付けて当該ワーク表面に負圧を生じさせるベルヌーイチャック機構であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のチャック装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−91125(P2013−91125A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233794(P2011−233794)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]