説明

グルココルチコステロイドの熱滅菌

【課題】アレルギーや炎症性疾患の治療に有用なベクロメタゾンジプロピオネートを含有する懸濁液の滅菌方法の提供。
【解決手段】15mg/ml〜150mg/mlの濃度のベクロメタゾンジプロピオネートの水性懸濁液を、101℃〜145℃の温度で、2〜180分間適用するステップを含む、ベクロメタゾンジプロピオネートを含有する懸濁液の滅菌方法。該加熱は、オートクレーブにより行うことが好ましい。該懸濁液は、さらに界面活性剤を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換活性グルココルチコステロイドの懸濁形態の熱滅菌のための方法、無菌医薬組成物、および、これを用いるアレルギー性および/または炎症性疾患の治療のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無菌薬物製品は医学的にも経済的にも多くの利益を提供する。非無菌調製物が、汚染細菌、即ち、当該調製物の薬物に対して少なくとも耐性のある細菌からの二次感染の不要なリスクを患者に課すおそれがある点で、無菌薬物調製物が医学上益々必要とされることは明白である。さらに、例え汚染物が無害である場合でも、その生育は、毒性副産物が付随的に産生される可能性を本質的に有し、活性薬物製品の減損を生じ得る。経済的には、汚染された薬物製品は貯蔵期間が短くなり、これにより、より頻繁に製品を取り替えるために、増大された生産費用が必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
患者使用のための無菌製品の調製のための方法が必要とされている。しかし、多くの無菌製品に伴う問題は、当該プロセスが薬物特性に好ましくない変化をしばしば生じることである。薬物特性のかかる変化は、活性の減損から、生成される変性産物の増加、または滅菌される化合物の化学的または物理的特性の起こり得る変化にまで及び得る。これらの問題は、グルココルチコステロイドを滅菌する場合に特に明らかである。
【0004】
物質の滅菌は、あらゆる潜在的な細菌汚染に対して致命的たるに十分なエネルギーの投入による。熱、照射および化学物質を含む多くの方法がグルココルチコステロイドの滅菌のために提唱されている。しかし、今のところこれらの方法は、変性産物の過剰産生または滅菌されたグルココルチコステロイドの活性の減損をしばしば生じる。さらに、例えば定量投与の吸入のためのグルココルチコステロイド懸濁製剤の場合、一般的に用いられる滅菌操作は薬物粒子サイズに許容不可能な変化をしばしば生じる。
【0005】
化学物質による滅菌は殆どの場合、毒性化合物、例えばエチレンオキシドに曝すことに基づくものである。しかし、グルココルチコステロイドを滅菌するのに用いる場合、エチレンオキシドは薬物調製物中にエチレンオキシドの残量を残すことが見いだされている。エチレンオキシドは有毒であり、当該残存レベルは、殆どの取締機関により設定される医薬的に許容可能な限度を超えることが多い。
【0006】
照射に基づく滅菌が公知であり、グルココルチコステロイドに関して推奨されている(Illum and Moeller in Arch. Pharm. Chemi. Sci., Ed. 2, 1974, pp.167-174を参照)。しかし、微小化されたグルココルチコステロイドを滅菌するのに照射を用いた場合、重大な変性が報告されている。
【0007】
Breath LimitedのWO02/41925はその記載により、組成物の滅菌のための、低温滅菌に類似する迅速な方法を開示する。この方法は、滅菌されるべき組成物をステンレススチールのパイプを通して汲み出し、次いですばやく当該組成物の温度を約130〜145℃に約2〜20秒間上げた後、環境条件へと数秒で迅速に冷却することを含む。
【0008】
O'Neilの米国特許第3,962430号は、医薬剤の無菌等張溶液の製造のための方法を開示する。この方法は、医薬剤を100℃の飽和塩化ナトリウム水溶液に添加することを含む。薬物/飽和塩化ナトリウム溶液を次いで100〜130℃に加熱する。この方法は、その記載によれば、塩化ナトリウムイオンが遊離水を包囲することにより加水分解変性を妨げるという理論に基づくが、この方法は、当該処理により粒子サイズに好ましくない変化が生じるので、吸入用のグルココルチコステロイドの微細粒子の懸濁液のためには適していない。さらに、当該方法は、薬物粒子間の架橋形成を生じ、投与の際に破壊されることのない巨大凝集物を生じる。
【0009】
Bernini等による米国特許第6,464,958号は、多くの薬物のための懸濁製剤の熱滅菌が、例えば薬物粒子の凝集を含む、薬物特性の好ましくない変化を生じることを開示する。かかる好ましくない変化のいくつかは調整できる。例えば、熱滅菌中に形成された凝集物は再処理して当該凝集物を、鼻内投与に適したより小さなサイズの粒子に破壊することができる。しかし、ベクロメタゾンジプロピオネートの場合のごとく、いくつかの好ましくない変化は調整できない。例えば、Berniniは、既出の米国特許第3,962,430号に報告されているものに類似する湿性スチーム法により滅菌されたベクロメタゾン懸濁液が、変性産物の増加(約10〜11%)を伴って、活性成分含量の顕著な低下(約8〜9%)を被ることを報告している。
【0010】
Karlsson等は米国特許第6,392,036号で、薬物製剤のために使用され得る粉末化グルココルチコステロイドの乾熱滅菌のための方法を開示している。
【0011】
懸濁液グルココルチコステロイド医薬組成物を滅菌するための方法が必要とされている。滅菌は、薬物粒子サイズに医薬上許容不可能な変化を生じることなく、しかも、変性産物の産生および薬物活性の減損を減らすようになされるべきである。理想的には、無菌医薬製品のためには、製品の調製の最終段階が滅菌プロセスであるべきであり、これにより、製造中の汚染の可能性が減る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により、グルココルチコステロイドの滅菌の方法であって、グルココルチコステロイドの水性懸濁液を加熱するステップを含み、このステップにおいて前記グルココルチコステロイドが、十分に低い水溶度を有し、かつ、加熱の間、前記グルココルチコステロイドの少なくとも50%が懸濁液の形態にある十分量で用いられる方法が提供される。
【0013】
本発明の一態様では、置換活性グルココルチコステロイドの滅菌のための方法であって、置換活性グルココルチコステロイドの懸濁液を、滅菌に有効な時間、湿熱に曝すステップを含む方法が開示される。
本発明の他の態様では、本明細書中に開示される前記方法により調製される無菌置換活性グルココルチコステロイド懸濁液を含む組成物が開示される。
【0014】
本発明により、グルココルチコステロイドの滅菌のための方法であって、グルココルチコステロイドの水性懸濁液を加熱するステップを含み、このステップにおいて、前記グルココルチコステロイドが十分低い水溶度を有し、かつ、前記グルココルチコステロイドの少なくとも50%が加熱中に懸濁液の形態にある十分量で用いられる方法が提供される。本発明による方法および組成物は、哺乳動物の患者のアレルギー性および/または炎症性疾患を予防、回復および/または低減するための治療手段として有用である。本発明により、また、副作用をより少なく抑えて、処置される疾患に適合するように操作および微調整され得る方法およびこれを用いた組成物も提供される。
【0015】
前記グルココルチコステロイドは好ましくは「置換活性」でありこの文言は、化学的化合物または組成物に適用される外部の力によりもたらされる、化学的または物理的に不安定な状態を意味する。非限定的な例を用いれば、酸置換活性または温度置換活性は、各々特定の酸または温度条件に曝された場合に、当該化学化合物が(例えば、医薬的または医薬化学的に)許容不可能な変性を被ることを意味する。
【0016】
本明細書に用いる「グルココルチコステロイド」または「グルココルチコイド」は、副腎皮質により産生されるコルチゾンのようなステロイドホルモン(誘導体、合成アナログおよびプロドラッグを含む)のグループのいずれかを意味する。これらの化合物は、炭水化物、タンパク質および脂肪代謝に関与する。さらに、グルココルチコステロイドは、抗炎症特性を有し得る。
【0017】
本発明に使用されるグルココルチコステロイドは好ましくは抗炎症性グルココルチコステロイドである。本発明に用い得るグルココルチコステロイドの無制限の例には、ベクロメタゾン、ブデソニド、シクレソニド、コルチバゾール、デフラザコート、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロン、フルチカゾン、モメタゾン、ロフレポニド、チプレダンおよびトリアムシノロンが含まれる。好ましくは、ブデソニド、ベクロメタゾン(例えばジプロピオネート)、シクレソニド、フルチカゾン、モメタゾンおよびトリアムシノロンが使用される。最も好ましくは、ブデソニドおよびベクロメタゾンが使用される。
【0018】
本明細書中に使用する技術および化学用語は他を特に記載しない限り、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解される意味を有する。当該分野の専門家に公知の種々の方法および材料が本明細書中に引用される。薬理学の一般原理を記載する標準的な参考文献には、グッドマン・アンド・ギルマンの、治療の薬理学的基礎、第10版、McGraw Hill Companies Inc., New York (2001)が含まれる。当業者に公知のあらゆる適当な材料および/または方法を、本発明を実施するのに使用できる。
【0019】
本明細書中に引用する特許および化学文献は、当該分野の専門家の知識を確立し、各々が特別におよび個々に記載されて引用により組み込まれるのと同程度に、その全容が引用により本明細書中に組み込まれる。本明細書中に記載されるあらゆる引用文献と本明細書の特定の教示の間の矛盾は後者を優先して解決する。同様に、文言または句の当業者に理解される定義と、本明細書中に特別に教示される文言または句の定義の間のあらゆる矛盾は、後者を優先して解決する。
【0020】
明細書および請求の範囲において、単数形態「a」、「an」および「the」を含む単数形態は、内容により他が明確に示されるものでない限り、それが意味する用語の複数の対象物をも包含する。加えて、本明細書中に使用するように、他が特に記載されない限り、単語「または」は、「および/または」の「包含的」意味において用いられ、「いずれか/または」の「排他的」意味では用いられない。
【0021】
本明細書中に用いるように、中間の句においても請求項の主要部においても、「含む(comprise(s))」および「含んでいる(comprising)」なる文言はオープン・エンドの意味を有すると解釈されるべきである。即ち、当該用語は、「少なくとも有する」または「少なくとも含んでいる」と同意に解釈されるべきである。プロセスの文脈で用いられる場合、「含んでいる」なる文言は、当該方法が少なくとも列挙したステップを含むが、更なるステップを含んでよいことを意味する。化合物または組成物の文脈で用いられる場合、「含んでいる」なる文言は、化合物または組成物が少なくとも列挙された態様または成分を含むが、さらなる態様または成分も含んでよいことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、滅菌後の濃縮ブデソニドサンプル中のブデソニド含量を示す。横座標は試験した濃縮物を示し、縦座標は当該ブデソニド含量を(パーセントとして)示す。
【図2】図2は、滅菌後の濃縮サンプル中の全ブデソニド不純物(公知のものも未知のものも両方)を示す。横座標は試験した濃縮物を示し、縦座標は、加熱後の当該不純物の割合を示す。
【図3】図3は、滅菌後の希釈サンプル中のブデソニド変性物を示す。横座標は試験したブデソニド濃縮物(mg/ml)を示し、縦座標は加熱後の当該不純物レベルを示す。
【図4】図4は、滅菌後の希釈サンプルにおける最大ブデソニド粒子サイズの分布を示す。横座標は試験したブデソニド濃縮物(mg/m)を示し、縦座標は、当該懸濁液製剤の加熱後の粒子サイズの上限を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の特定の態様について詳細に言及する。本発明を、これら特定の態様に関して記載するが、そのような特定の態様に本発明を限定することを意図するものではない。それどころか、代替物、変更物および均等物を、これらが請求項により規定される本発明の本質および範囲内に含まれ得るようにカバーすることが意図される。以下の記載では、多くの特定の詳細を、本発明の完全な理解を得るために記載する。本発明は、これらの特定の詳細のいくつかまたは全てを用いなくとも実施され得る。他の場合には、本発明を不必要に不明確にすることがないよう、周知のプロセス操作は詳細に記載されていない。
【0024】
本発明の一態様により、置換活性グルココルチコステロイドの熱滅菌のための方法が提供される。この態様の方法は、滅菌に有効な時間、置換活性グルココルチコステロイドの懸濁液を湿熱に曝すステップを含む。出願人は、グルココルチコステロイドの粒子サイズの望ましくない増加並びに望ましくない副産物の形成が、滅菌パラメータの注意深い限定およびグルココルチコステロイドの特性により回避され得ることを見出した。前記グルココルチコステロイドは、懸濁溶媒中で十分に低い溶解度を有し、かつ、当該グルココルチコステロイドのわずかな部分のみが懸濁溶媒中に溶解する十分に高い濃度で用いられる必要がある。この方法では、グルココルチコステロイドの変性は最少限度の副産物しか生じず、また、粒子サイズの望ましくない増加を導く冷却時のグルココルチコステロイドの再結晶が回避され得る。
【0025】
少なくとも50%のグルココルチコステロイドが溶媒中に懸濁されるよう、前記グルココルチコステロイドの溶解度と、溶媒のユニット当たりに使用される前記グルココルチコステロイドの量の間には、バランスが要求される。例えば、ブデソニドに関し、本明細書中で使用される滅菌温度で水溶度は約7mg/mlである。それゆえ、1mg水当たり15mgのブデソニドを用いることで、懸濁液として53%のブデソニドが得られる。好ましくは少なくとも60%のグルココルチコステロイドが溶媒中に懸濁されるが、この値は少なくとも70%または少なくとも80%であってもよい。
【0026】
この方法では、グルココルチコステロイドの水溶度を調節するために、添加成分、例えば塩化ナトリウムを、(前記の)米国特許第3,962,430号に記載されるような塩化ナトリウムの飽和溶液を形成するのに十分な量で含めることは不要である。好ましくは、本発明の方法は、溶解度調節物質の実質的不在下、即ち、グルココルチコステロイドの水溶度に有意な効果を有する成分なしで行われる。
【0027】
前記グルココルチコステロイドの最大量は、懸濁液が形成されている限り、さほど重要でない。そうでない場合には、過剰のグルココルチコステロイドは、処理の困難なペーストを形成するであろう。例として、ブデソニドの最大好適量は約150mg/mlである。
【0028】
これらの条件下に懸濁液を加熱することにより、下記の実施例で認めることができるように、不純物の望ましくない増加が防止される。例えば、ブデソニドに関しては、変性産物1,2-ジヒドロブデソニドのレベルは、懸濁液中に存在するブデソニドの量に基づき、0.2重量%未満であることが好ましい。変性産物は、標準的な方法により、例えば下記の実施例に記載されるHPLCによるなどして測定できる。
【0029】
一の具体的態様では、前記置換活性グルココルチコステロイドはブデソニドであり、前記加熱ステップは、約121℃で約20〜約30分間または約110℃で約115〜約150分間オートクレーブにより行う。他の具体的態様では、前記置換活性グルココルチコステロイドはベクロメタゾンジプロピオネートであり、前記加熱ステップは約121℃で約20〜約30分間または約110℃で約115〜約150分間オートクレーブにより行う。さらに他の具体的態様では、前記置換活性グルココルチコステロイドは約15mg/ml〜約150mg/mlの濃度である。
【0030】
本明細書中で使用される「湿熱」は、組成物への熱の適用であって、水に熱が移動し、約100℃を越えて加熱された場合に、水が部分的に蒸発して蒸気を形成することにより処理されて、組成物の滅菌をもたらすものを意味する。湿熱は約101〜約145℃、好ましくは約110〜約138℃、および最も好ましくは約121〜約138℃の範囲で、化合物または組成物に対して熱が適用されるものであってよい。好ましくは、加熱はオートクレーブによる。
【0031】
「無菌」は、製品または組成物が、米国薬局方27/NF22, 2004または他の裁判法における対応物による無菌の基準を満たして、治療上許容可能なグルココルチコステロイドおよび/または医薬製剤を提供することを意味する。
「滅菌に有効な時間」なる文言は、指定される特定の条件下で滅菌をもたらすのに必要とされる最短時間を意味する。好ましくは、滅菌に有効な時間は約2分〜約180分である。
【0032】
他の具体的態様では、前記グルココルチコステロイド懸濁液は、さらに、当該分野で周知の医薬上許容され得る界面活性剤、例えばポリソルベート80等のポリソルベート等を含む。これを含める場合には、当該界面活性剤は、好ましくは約0.2mg/ml〜約60mg/mlの濃度である。
本発明のこの態様の他の具体的態様は、医薬上許容され得る賦形剤、希釈剤等を用いて医薬上適当な濃度に前記懸濁液を希釈するステップをさらに含む。
【0033】
「約」なる文言は、本明細書中、およそ、〜の近く、概して、または〜の辺り、を意味するのに用いられる。「約」なる文言を数値範囲と共に用いる場合、記載の数値を超えて、および下回って当該境界が拡張されることにより、その範囲が加減される。概して、「約」なる文言は、数値を、当該記載される値を20%の分散まで超えておよび下回って加減するために本明細書中に使用される。
【0034】
本明細書中に用いられる、変数の数値範囲の記載は、本発明が、当該範囲内の値のいずれかに等しい変数を用いて実施され得ることを表すものである。つまり、本質的に不連続の変数に関して、当該変数は、当該範囲の端点を含む数値範囲のいずれかの整数値と等しいものであり得る。同様に、本質的に連続する変数に関して、当該変数は、当該範囲の端点を含む数値範囲のあらゆる実数と等しいものであり得る。例として、0〜2の値を有すると記載されている変数は、本質的に不連続な変数に関しては0、1、または2であり得、本質的に連続する変数に関しては、0.0、0.1、0.01、0.001またはあらゆる他の実数であり得る。
【0035】
本発明の方法および組成物は、本発明の方法の利点を享受し得るあらゆる哺乳動物を用いた使用のためのものである。そのような哺乳動物の中で最も重要なものは、本発明がそれに限定されることを意図するものではないが、ヒトであり、また、獣医学的使用に適用できる。つまり、本発明に従い、「哺乳動物」または「必要とする哺乳動物」には、ヒトならびにヒト以外の哺乳動物、特に、制限するものではないが、ネコ、イヌおよびウマを含む飼い慣らされた動物が含まれる。
【0036】
本発明の他の態様により、前記本発明の第一の態様の方法に従い調製される無菌置換活性グルココルチコステロイドの懸濁組成物が提供される。いくつかの具体的態様では、当該組成物は、哺乳動物の患者におけるアレルギー性および/または炎症性疾患の症状を治療または緩和するための医薬組成物である。かかる具体的態様において、当該組成物は治療的有効量の滅菌された置換活性グルココルチコステロイドを医薬上許容され得るビヒクル中に含む。いくつかの具体的態様では前記グルココルチコステロイドはブデソニドであり、さらに別の具体的態様ではベクロメタゾンが用いられる。
【0037】
「治療的有効量」なる文言は、求められる治療効果を達成するのに有効な投与量での治療を意味するのに用いられる。さらに、当業者は、本発明の化合物の治療的有効量が、本発明の1より多い化合物を調合することにより、および/または投与することにより、または本発明の化合物を他の化合物と一緒に投与することにより、減少または増加され得ることを認識するであろう。本発明はそれゆえ、所定の哺乳動物に特異的な特定の緊急事態に投与/処置を適合させるための方法が提供される。
【0038】
他の具体的態様では、前記置換活性グルココルチコステロイドを第二の活性成分と組み合わせて含む組成物が意図される。いくつかの態様では、第二の活性成分はアルブテロール、イプラトロピウムブロマイドおよびクロモリンから選択されてよい。
【0039】
この態様のさらに別の具体的態様では、本発明の組成物は、経口、吸入、直腸、目(水晶体内または眼内を含む)、鼻、局所(口および舌下を含む)、膣または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内および気管内を含む)投与に適するように処方される。好ましくは、当該組成物は吸入のために処方され、この場合、前記グルココルチコステロイドの粒子サイズは好ましくはDv100が20μm未満、Dv90が10μm未満、およびDv50が5μm未満であり、ここでDvnは第nパーセンタイルでの体積粒径を示す。この体積粒径は、当該分野で公知の用語であり、球が当該粒子体積を有する場合に球が有する直径を示す。粒子サイズは、標準的な方法により、例えば以下の実施例に記載されるレーザーディフラクション等により測定されてよい。そのような粒子サイズは、本明細書中に記載される熱滅菌条件を用いて得ることができる。
【0040】
本発明の組成物の製剤は単位投与形態で便利に提供されることができ、常套の製薬方法により調製されることができる。そのような方法には、本発明の化合物と、希釈剤または賦形剤等の医薬上許容され得るキャリアを合わせるステップが含まれる。概して、当該組成物は、活性成分を液体または細かく粉砕された固体のキャリアまたはその両方と均一かつ完全に合わせ、次いで所望により製品成形することにより調製される。
【0041】
本発明により調製される無菌置換活性グルココルチコステロイドは、任意に、希釈剤および賦形剤を含む周知の医薬上許容され得るキャリアのいずれか(レミントンの医薬化学、第18版、Gennaro, Mack Publishint Co., Easton, PA1990およびレミントン:医薬の化学および実施、Lippincott, Williams & Wilkins, 1995を参照)を用いて、医薬上許容され得るビヒクル中に処方される。本発明のこの態様の組成物を作成するのに用いられる医薬上許容され得るキャリア/ビヒクルのタイプは、哺乳動物に当該組成物を投与する様式により変化する。概して、医薬上許容され得るキャリアは生理学的に不活性および無毒である。本発明による組成物の製剤は、治療されるべき症状/疾患の治療のために有用な1より多いタイプの薬理学的に活性な成分を含んでよい。
【0042】
さらなる他の態様では、本発明により、哺乳動物の患者におけるアレルギー性および/または炎症性疾患の症状を治療または緩和するための、本発明の組成物を使用するための方法が提供される。そのような方法は、医薬上許容され得るビヒクル中の置換活性グルココルチコステロイドの治療的有効量を投与することを含む。この態様の種々の具体的態様では、単独又は第二の活性剤との組合せでの、前記グルココルチコステロイドの治療的有効量の投与は、経口、吸入、直腸、目、膣または非経口投与による。いくつかの具体的態様では、前記グルココルチコステロイドはブデソニドであり、さらに別の具体的態様では、前記グルココルチコステロイドはベクロメタゾンである。
【0043】
本発明により、さらに、アレルギー性および/または炎症性疾患の治療における使用のための無菌グルココルチコステロイド、好ましくは抗炎症性グルココルチコステロイドが提供される。治療されるべきアレルギー性および/または炎症性疾患は、例えば鼻または肺などの一つの解剖学的部位に限定される必要はなく、本発明の組成物は、治療の部位に適した投与のために処方される。アレルギー性および/または炎症性疾患には、接触性皮膚炎、喘息、鼻炎、または慢性閉塞性肺疾患が含まれるが、これらには限定されない。本発明により、また、アレルギー性および/または炎症性疾患の治療における使用のための医薬(好ましくは無菌医薬)の製造における無菌グルココルチコステロイド組成物の使用が提供される。
【0044】
以下の実施例は、本発明の所定の具体的態様をさらに説明するためのものであり、決して本発明を限定するものではない。当業者は、通常の実験のみを用いて、本明細書中に記載する特定の物質および方法に対する多くの均等物を認め、または確認できるであろう。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
ブデソニドの熱滅菌
濃縮されたブデソニドサンプルを、高剪断ミキサーを用いるホモジェナイゼーションにより当該固体材料を分散させ、密封容器に入れることにより調製し、表1に示す時間および温度での加熱に供した。サンプルは記載の時間、記載の温度で加熱された。
続いて、加熱された濃縮サンプルを分析し、ブデソニド含量と不純物レベル(公知のものも未知のものも)をUV/ビス・ディテクターを用いてHPLC分析により測定した。その結果を表2〜5に示す。
濃縮されたブデソニドサンプルをさらに、レーザー・ディフラクションによる粒子サイズ分析に供した。その分布を表6に示す。図1および図2に、熱ストレスをかけられた濃縮物のブデソニド含量と全不純物を各々図示する。
滅菌は、スポア・ストリップ・バイオインジケータを使用して、これをサンプル濃縮物と同時に処理することにより確認した。
【0046】
結果は、試験された、より高濃度の濃縮物(濃縮物B、CおよびD)の処理(121℃、20分間)は、熱により誘導される変性が少量を示す傾向にあることを示す(非処理の対照から各々0.004および0.003%の差、表3〜5)。熱により誘導された変性は、許容される範囲であるが、濃縮物A(37.5mg/ml)で最高であった。また、同等の結果が、表6に示す粒子サイズ分析に関して観察された。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
[実施例2]
ブデソニドの熱滅菌-試験2
実施例1で、変性産物の生成の明らかに濃度依存性の低下が観察されたことをきっかけに、許容可能な変性と粒子サイズを維持して滅菌され得る最低のブデソニド濃度限度を決定するための試験を次に行った。加熱および処理時間を121℃で30分間に限定したことを除き、実施例1に概説した方法に従い、サンプルを調製した。
【0054】
表7に、ブデソニド濃縮物を記載する。このブデソニド濃縮物から、後に希釈物を作製した。加熱された希釈サンプルを分析して、ブデソニド含量および(公知および未知の両方の)不純物レベルを決定した。その結果を表8に示し、粒子サイズ分布を表9に示す。図3および4は各々、熱ストレスをかけられた希釈サンプルのブデソニド含量および全不純物を図示するものである。滅菌は、バイオインジケーターを使用して、これをサンプル濃縮物と同時に加熱することにより確認した。
【0055】
本試験からのデータは、熱滅菌されるコルチコステロイド濃度が低い程、関連する変性産物が多いことを示し、先の観察の確証に資する。全生成変性物および最終的な粒子サイズの両方に基づき、許容可能な熱滅菌製品を製造するための最低濃度は約15mg/mlである(図3および4を参照)。
【0056】
【表7】

【0057】
【表8−1】

【0058】
【表8−2】

【0059】
【表8−3】

【0060】
【表9】

【0061】
[実施例3]
ベクロメタゾンジプロピオネートの熱滅菌
実施例1の方法を用いて、表10に示すベクロメタゾンジプロピオネート濃縮物および希釈物を調製した。不純物レベルおよび粒子サイズの測定も、先に概説したように測定した。結果は、ベクロメタゾン含量の有意な変化または不純物の増加が、オートクレーブでの加熱の際に生じなかったことを示す(データは示さず)。さらに、オートクレーブにかけることより、粒子サイズの分布に有意な変化は生じなかった。
【0062】
【表10】

【0063】
均等物
特許請求の範囲に記載される発明を詳細に、その特定の具体的態様を用いて記載したが、特許請求の範囲に記載される発明の本質および範囲から離れることなく、当該発明に対する種々の変更および加減をなすことができる。つまり、例えば当業者は、通常の実験のみを用いて、本明細書中に記載される特定の物質および方法に対する多くの均等物を認識または確認することができるであろう。そのような均等物は、本発明の範囲内にあるとみなされ、本願の特許請求の範囲によりカバーされる。
【0064】
本発明は、置換活性グルココルチコステロイドの懸濁液に湿熱を、滅菌に有効な時間適用するステップを含む、置換活性グルココルチコステロイド懸濁液の滅菌のための方法であって、前記グルココルチコステロイドが15mg/ml〜150mg/mlの濃度である方法に関する。
【0065】
また本発明は、グルココルチコステロイドの水性懸濁液を加熱するステップを含み、前記ステップにおいて、前記グルココルチコステロイドが十分に低い水溶度を有し、かつ、少なくとも50%の前記グルココルチコステロイドが加熱中に懸濁液の形態にある十分量で使用され、前記グルココルチコステロイドが15mg/ml〜150mg/mlの濃度である、グルココルチコステロイド懸濁液の滅菌のための方法に関する。
この方法はまた、少なくとも60%の前記グルココルチコステロイドが加熱中に懸濁液の形態にあることがより好ましい。
【0066】
また加熱を101℃〜145℃の温度で行う前記の方法も好ましい。
また、加熱を、オートクレーブにより行う前記のいずれかの方法も好ましい。
加熱を2〜180分間行う前記のいずれかの方法も好ましい。
【0067】
前記懸濁液がさらに界面活性剤を含む方法、また、前記界面活性剤が0.75mg/ml〜60mg/mlの濃度で含まれる前記のいずれかの方法も好ましい。
【0068】
前記グルココルチコステロイドがブデソニドまたはベクロメタゾンジプロピオネートであることがさらに好ましく、前記グルココルチコステロイドがブデソニドであり、前記加熱を121℃で20〜30分間または110℃で120分間行う方法や、前記グルココルチコステロイドがベクロメタゾンジプロピオネートであり、前記加熱を121℃で20〜30分間または110℃で120分間行う方法が特に好ましい。
【0069】
本発明はまた、15mg/ml〜150mg/mlの濃度のブデソニドの水性懸濁液を101℃〜145℃の温度で2分〜180分間加熱するステップを含む、ブデソニドの懸濁液の滅菌のための方法に関し、前記懸濁液を医薬上適当な濃度に希釈するステップをさらに含むことがより好ましい。
【0070】
本発明はまた、前記のいずれかの方法により得られ得る医薬組成物に関する。この医薬組成物は、哺乳動物の患者におけるアレルギー性および/または炎症性疾患の症状を治療または緩和するための医薬組成物であること、吸入投与用であること、目への投与用であることがより好ましい。
【0071】
また本発明は、前記の方法により得られるグルココルチコステロイドを含み、当該グルココルチコステロイドの粒子サイズが、Dv100が20μm未満であり、Dv90が10μm未満であり、およびDv50が5μm未満(Dvnは第nパーセンタイルでの体積粒径を表す)である無菌水性懸濁液に関する。また、前記懸濁液が、ブデソニドの量に基づき0.2重量%未満の1,2-ジヒドロブデソニドを含む、前記のいずれかの方法により得られる無菌水性ブデソニド懸濁液であることがより好ましい。無菌水性ブデソニド懸濁液は、哺乳動物の患者におけるアレルギー性および/または炎症性疾患の症状を治療または緩和するための医薬組成物であることがより好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換活性グルココルチコステロイドの懸濁液に湿熱を、滅菌に有効な時間適用するステップを含む、置換活性グルココルチコステロイドの滅菌のための方法。
【請求項2】
グルココルチコステロイドの水性懸濁液を加熱するステップを含み、前記ステップにおいて、前記グルココルチコステロイドが十分に低い水溶度を有し、かつ、少なくとも50%の前記グルココルチコステロイドが加熱中に懸濁液の形態にある十分量で使用される、グルココルチコステロイドの滅菌のための方法。
【請求項3】
少なくとも60%の前記グルココルチコステロイドが加熱中に懸濁液の形態にある請求項2に記載の方法。
【請求項4】
加熱を約101℃〜約145℃の温度で行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
加熱を、オートクレーブにより行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
加熱を約2〜約180分間行う請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記懸濁液がさらに界面活性剤を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記界面活性剤が約0.75mg/ml〜約60mg/mlの濃度で含まれる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記グルココルチコステロイドがブデソニドまたはベクロメタゾンジプロピオネートである請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記グルココルチコステロイドがブデソニドであり、前記加熱を121℃で約20〜30分間または110℃で約120分間行う請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記グルココルチコステロイドがベクロメタゾンジプロピオネートであり、前記加熱を121℃で約20〜30分間または110℃で約120分間行う請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記グルココルチコステロイドが約15mg/ml〜約150mg/mlの濃度である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
約15mg/ml〜約150mg/mlの濃度のブデソニドの水性懸濁液を約101℃〜約145℃の温度で約2分〜約180分間加熱するステップを含む、ブデソニドの滅菌のための方法。
【請求項14】
前記懸濁液を医薬上適当な濃度に希釈するステップをさらに含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法により得られ得る組成物。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法により得られるグルココルチコステロイドを含み、当該グルココルチコステロイドの粒子サイズが、Dv100が20μm未満であり、Dv90が10μm未満であり、およびDv50が5μm未満である無菌水性懸濁液。
【請求項17】
前記懸濁液が、ブデソニドの量に基づき0.2重量%未満の1,2-ジヒドロブデソニドを含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法により得られる無菌水性ブデソニド懸濁液。
【請求項18】
哺乳動物の患者におけるアレルギー性および/または炎症性疾患の症状を治療または緩和するための医薬組成物である、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
吸入投与用である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
目への投与用である、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
哺乳動物の患者におけるアレルギー性および/または炎症性疾患の症状を治療または緩和するための医薬組成物である、請求項16または17に記載の懸濁液。
【請求項22】
吸入投与用である、請求項21に記載の懸濁液。
【請求項23】
目への投与用である、請求項21に記載の懸濁液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−14597(P2013−14597A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−191294(P2012−191294)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【分割の表示】特願2007−527389(P2007−527389)の分割
【原出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(508008555)ノートン・ヘルスケアー リミテッド (10)
【Fターム(参考)】