説明

グリコーゲンを含む食品とその用途

【課題】血糖値、内臓脂肪、血中コレステロール、中性脂肪などを改善する。
【解決手段】酵素合成グリコーゲン(ESG)を使用することにより、血糖値、内臓脂肪、血中コレステロール、中性脂肪など網羅的に改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコーゲンを含む食品、経口摂取用製剤に関する。グリコーゲンは、砂糖、澱粉、デキストリンなどの他の糖類と比較して、血糖値の上昇、インスリンの分泌が軽度であり、血糖値が高めあるいは糖尿病予備群さらには軽度の糖尿病患者の食事療法に有用である。
【0002】
また、グリコーゲンはヒト及び動物の腸内の乳酸菌とビフィズス菌の増加による腸内フローラの改善、便の水分増加による便通の改善などに基づく整腸作用、善玉コレステロール(HDL)の増加、悪玉コレステロール(LDL)の減少、総コレステロールの減少、中性脂肪の減少、体脂肪の低減などの複数の有用な作用を有し、肥満、動脈硬化、心臓病、糖尿病などの生活習慣病、メタボリックシンドロームの予防ないし改善に有効である。このようなグリコーゲンの有用な作用は、ヒトだけでなく、家畜、ペットに対しても有用であり、本発明は、家畜、ペット用の食品、サプリメントなどにも関する。
【背景技術】
【0003】
グリコーゲンは、動物における貯蔵多糖として知られ、多数のグルコースがα-1,4グルコシド結合によって重合した、枝分かれの多い高分子である。グリコーゲンは肝臓と骨格筋で主に合成され、余剰のグルコースを一時的に貯蔵する役割を果たしている。
【0004】
グリコーゲンの合成・分解は血糖値などの生理状態に応じて分泌されるチロキシン、グルカゴン、インスリン、アドレナリンなどにより調節されている。
【0005】
グリコーゲンを含む組成物は知られているが(特許文献1)、エネルギー貯蔵および免疫系を活性化させる機能(非特許文献1)以外の役割についてはほとんど検討されていない。
【0006】
グリコーゲンは、牡蠣などの動物、あるいは植物からも得られているが、合成品についても知られ、その抗ガン作用について検討されている(非特許文献1).
また、特許文献2はグリコーゲンの製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-007707
【特許文献2】WO2006/035848
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ryoyama, K.; Kidachi, Y.; Yamaguchi, H.; Kajiura, H.; Takata, H. (2004) Biosci BiotechnolBiochem 68, 2332-2340
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
カロリーの摂取過多により、肥満、特に内臓脂肪などの体脂肪の増加と高血糖、高コレステロール、高脂血症等を併発するメタボリックシンドロームになり、さらには動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病に至ることが問題となっている。一方、カロリー摂取を控えて肥満を防止することは困難であり、必要な栄養素が摂取できなければ、食事のコントロールも長続きしない。また、腸は食物中の外来の異物と接触し、免疫系などに重要な役割を果たしており、ビフィズス菌、乳酸菌などの有用菌を増加させて腸内細菌のバランスを改善することが、生活習慣病の予防だけでなく、健康の維持に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み検討を重ねた結果、グリコーゲンが、エネルギー貯蔵や免疫の活性化以外にも、血糖値の低下とインスリン産生/分泌の低下、腸内環境、特に腸内フローラの改善、便通の促進、体脂肪、特に内臓脂肪の低下、善玉コレステロールと呼ばれているHDLコレステロールの比率の上昇と悪玉(LDL)コレステロールの低下と血中コレステロールの低下、血中の中性脂肪レベルの低下などの種々の有用作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明のグリコーゲンの有用作用は、特にヒトに対し効果を発揮するが、ヒト以外にも家畜(ウシ、ブタ、ニワトリ、ウマなど)、ペット(イヌ、ネコなど)に対して用いても、同様に有効である。
【0012】
本発明は、以下の発明を提供することを目的とする。
1.グリコーゲンを含む低インスリン食品。
2.単位カロリー摂取当たりの血糖値の上昇とインスリンの分泌量を抑制するためのグリコーゲンの使用。
3.グリコーゲンを含む体脂肪/内臓脂肪抑制用食品。
4.体重当たりの体脂肪、特に内臓脂肪の比率を低下させるためのグリコーゲンの使用。
5.グリコーゲンを含むダイエット食品。
6.体重増加を抑制するためのグリコーゲンの使用。
7.グリコーゲンを含む整腸用食品。
8.グリコーゲンのおなかの調子を整えるための使用。
9.グリコーゲンを含むビフィズス菌の増殖促進剤。
10.ビフィズス菌増殖を促進するためのグリコーゲンの使用。
11.腸内細菌のビフィズス菌の割合を高めるためのグリコーゲンの使用。
12.グリコーゲンを含む乳酸菌の増殖促進剤。
13.乳酸菌増殖を促進するためのグリコーゲンの使用。
14.腸内細菌の乳酸菌の割合を高めるためのグリコーゲンの使用。
15.グリコーゲンを含む中性脂肪低下用食品。
16.血中の中性脂肪レベルを低下させるためのグリコーゲンの使用。
17.グリコーゲンを含む血中総コレステロールレベルを低下させるための食品。
18.血中総コレステロールレベルを低下させるためのグリコーゲンの使用。
19.グリコーゲンを含むHDLコレステロールの総コレステロールに対する割合を増加するための食品。
20.血中総コレステロール中のHDLコレステロールの比率を増加させるためのグリコーゲンの使用。
21.グリコーゲンを含む経口摂取用製剤。
22.明らか食品および/またはサプリメントからなる食品形態である請求項21に記載の製剤。
23.グリコーゲンを含むペット用または家畜用食品。
24.グリコーゲンを含む脂肪肝を抑制するための食品。
25.グリコーゲンを含む脂肪の吸収を抑制するための食品。
26.グリコーゲンが高純度の抽出物として含まれているもしくは使用される、項1〜25のいずれかに記載の食品、使用または製剤。
【発明の効果】
【0013】
グリコーゲンは生体内では筋肉や肝臓におけるエネルギー貯蔵の意味を有しているが、グリコーゲンを経口或いは非経口(特に経皮)摂取することで、生命および健康の維持に必要なカロリーを摂取しながら、血糖値、インスリン分泌、体脂肪(特に内臓脂肪)、血中総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、中性脂肪などを低下させ、善玉のHDLコレステロールの比率を高めることで、糖尿病、動脈硬化に起因する循環器系疾患を含む生活習慣病を予防し、さらに乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌の絶対数および比率を改善することで腸内フローラを改善することができる。さらに、便中の水分を増大させることで便通を良くし、便秘や痔にも効果がある。さらに、脂肪肝の抑制、脂肪の吸収抑制にも有効である。
【0014】
グリコーゲンは上記のような複数の有用な作用を有しており、グリコーゲンを食品(ヒトを対象とする食品以外に家畜、ペットなどの動物を対象とする食品を含む)ないし医薬品(獣医用医薬品を含む)として摂取することで、生活習慣病ないしメタボリックシンドロームを予防し、あるいはその予備群であっても病気への進行を遅くすることが可能である。
【0015】
本発明で使用するグリコーゲンは、副作用のない安全な素材である。
【0016】
本発明で使用するグリコーゲンを長期間摂取することにより、食後の血糖値、インスリン分泌の上昇を緩やかに且つ持続的に低下させることができ、低血糖の危険性を伴うことなく、血糖値、インシュリンレベルを低下させることができるので、血糖値が正常であるか高め或いは糖尿病との境界付近の被験者が摂取しても安全である。また、食後の血糖値、インスリン分泌のレベル、体脂肪(特に内臓脂肪)の低下、血中コレステロールの低下、HDLコレステロール比率の上昇、腸内フローラの改善などについて、グリコーゲンの摂取を中止しても、徐々にグリコーゲンの摂取前の状態に戻り、リバウンドは見られない。
【0017】
本発明のグリコーゲンは、高血糖ないし糖尿病、腸疾患、動脈硬化を含む循環器系疾患肥満(特に内臓肥満)の危険因子(遺伝的、環境的素因など)を有する健常者ないし患者が摂取するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】グリコーゲンを投与した際の血糖値とインスリン値の変化を示す。
【図2】腸内細菌の割合の変化を示す。
【図3】盲腸内の短鎖脂肪酸量の変化を示す。
【図4】種々の由来のグリコーゲンのαアミラーゼによる分解の結果を示す。
【図5】グリコーゲンによる中性脂肪吸収抑制効果を示す。
【図6】グリコーゲンのAST、ALTに対する効果を示す。
【図7】グリコーゲンの肝臓脂肪蓄積に対する効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で使用するグリコーゲンは、動物の肝臓や骨格筋で貯蔵されることが知られているものであり、その由来としては動物が挙げられるが、植物ないし微生物がグリコーゲンないしグリコーゲンと同様な構造を有する物質を産生することが知られており(例えば、WO2006/035848)、これらはすべて本発明のグリコーゲンとして使用することができる。グリコーゲンは、酵素を用いて合成することもできる。例えば、砂糖にスクロースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.7)とα-グルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)を作用させる方法(非特許文献1)、および短鎖のアミロースにブランチングエンザイム(EC 2.4.1.18)を作用させる方法(特許文献2および非特許文献2)がある。これらの方法で合成したグリコーゲンも、天然グリコーゲンと類似した化学的構造、および物理的構造を持つことが知られており(非特許文献2,3)、これらの酵素合成グリコーゲンも本発明のグリコーゲンとして使用することができる。グリコーゲンの分子量は、1×106〜2×107程度のものが好ましく使用できるが、これよりも高分子量或いは低分子量のものも広く使用できる。
【0020】
非特許文献2:梶浦、高田、空山、竹田、栗木(2006)日本応用糖質科学会2006年度大会講演要旨集:J.Appl.Glycosci., 53, Suppl., p27
【0021】
非特許文献3:高田、梶浦、栗木、北村(2006)日本応用糖質科学会2006年度大会講演要旨集:J.Appl.Glycosci., 53, Suppl., p27
【0022】
本発明で使用するグリコーゲンとしては、酵素合成されたグリコーゲン(EnzymaticallySynthesized Glycogen; ESG)が好ましい。酵素合成されたグリコーゲンは、α-アミラーゼで分解された後、数十万から数百万の分子量を有するものが好ましく例示される。理論に拘束されることを望むわけではないが、α-アミラーゼで分解された酵素合成グリコーゲンが大きな分子量を有するのは、次の理由によると本発明者は考えている。つまり、グリコーゲンは球状の分子構造をとっており、α-アミラーゼはグリコーゲン分子外周から、α-1,4-グルコシド結合を切断することにより、分解していく。ところが、特にESGの場合、その分子内部にいくほど、分岐構造(α-1,6-グルコシド結合による枝分かれ)の密度が高くなる。α-アミラーゼは、分岐構造の密度がある一定以上になると分解できなくなる。ESGの場合には、そのα-アミラーゼによる分解が起こらなくなる程度に分岐密度が高まるのが、分子量数十万から数百万に達する部分であるために、その程度の大きさの分子が残ると考えている。一方、多くの天然のグリコーゲン、例えばムラサキイガイ(ムール貝)由来のグリコーゲンでは、α-アミラーゼにより非常に小さい分子量の断片まで分解される。これは、多くの天然グリコーゲンでは、分岐密度の高い部分と低い部分が混在しており(分岐密度が不均一となっており)、分子内部においても、比較的長いα-1,4-グルコシド結合の直鎖部分が存在しているためであると考えている。このような構造は、非特許文献4にも示されている。
【0023】
非特許文献4:Brammer, G. L.; Rougvie, M. A,; French, D. (1972) Carbohydr Res 24, 343-354
【0024】
非特許文献4においては、天然ではグリコーゲンは細胞内で合成と分解を繰り返し受けているために分岐密度が不均一となると考察されている。
【0025】
ところが、一部の天然グリコーゲンの場合は、α-アミラーゼで分解された後、数十万から数百万の分子量を有するため好ましい。これは、天然であっても生理条件によっては、分岐密度の均一なグリコーゲンが合成されるためと考えられる。例えば、カサガイ由来のグリコーゲンは、α-アミラーゼで分解された後、数十万から数百万の分子量を有するために好ましい。
【0026】
例えば、酵素合成グリコーゲンや、カサガイ由来グリコーゲンなどの分岐密度が均一なグリコーゲンをαアミラーゼで3〜24時間分解したときに、もとの分子量の5%以上(例えば5〜40%)を維持するか、または、パンクレアチンとグルコアミラーゼを作用させたときに、分解抵抗性成分(RS)を15〜25%程度有するグリコーゲンが好ましく例示される。
【0027】
本発明のグリコーゲンはそれ自体食品として利用することができ、或いは単独で、もしくは適当な無毒性の経口摂取用担体、希釈剤または賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠など)、カプセル、トローチ、粉末、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、ペースト、クリーム、或いは腸溶性の錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの徐放性製剤などの食品用もしくは医薬用の製剤にすることが可能である。前記製剤中のグリコーゲンの含有量は適宜選択が可能であるが一般に、0.01〜100重量%の範囲である。
【0028】
本発明において、食品中の糖質の一部または全部をグリコーゲンで置き換えることで、必要なカロリーを摂取しつつ、血糖値、インスリン分泌、体脂肪(特に内臓脂肪)、血中総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、中性脂肪などを低下させ、善玉のHDLコレステロールの比率を高めることができる。
【0029】
(特に内臓脂肪)、血中総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、中性脂肪などを低下させ、善玉のHDLコレステロールの比率を高めることができる。
【0030】
本発明で使用するグリコーゲンは、従来の食品に糖質として配合することができる。
【0031】
グリコーゲンを添加・配合して調製し得る食品としては、例えば、飲料類(清涼飲料(コーヒー、ココア、ジュース、ミネラル飲料、茶飲料(緑茶、紅茶、烏龍茶)等)、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、酒類、スプレッド(カスタードクリーム、バタークリーム、ピーナツクリーム、チョコレートクリーム、チーズクリーム等)、ペースト(フルーツペースト、野菜ペースト、ゴマペースト、海藻ペースト等)、洋菓子(チョコレート、ドーナツ、パイ、マフィン、ワッフル、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、クラッカー、ビスケット、スナック菓子、ケーキ、プリン等)、和菓子(飴、煎餅、かりんとう、あられ、団子、おはぎ、大福、豆もち、餅、餡、饅頭、カステラ、あんみつ、羊かん等)、氷菓(アイスクリーム、アイスキャンディ、シャーベット等)、レトルト食品(カレー、シチュウ、牛丼、中華丼、雑炊、おかゆ、味噌汁、スープ、ミートソース、デミグラスソース、ミートボール、ハンバーグ、おでん、赤飯、焼き鳥、茶碗蒸し等)、即席食品(即席ラーメン、即席スープはるさめ、即席スープ湯葉麺、即席うどん、即席そば、即席焼きそば、即席スパゲティ、即席ワンタン麺、即席しるこ、味噌汁の素、粉末スープの素、粉末ジュースの素、ホットケーキミックス等)、瓶詰・缶詰、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、調味料(醤油、みりん、酢、味噌、ドレッシング、旨味調味料、複合調味料、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ふりかけ、天つゆ、麺つゆ、だしの素、中華スープの素、ブイヨン、焼肉のたれ、冷しゃぶのたれ、カレールウ、シチュールウ等)、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト、バター、生クリーム等)、加工果実(ジャム、マーマレード、シロップ漬け、干し果実等)、穀類加工食品(麺、パスタ、パン、ビーフン等)、漬物(たくあん、奈良漬、キムチ漬、福神漬、らっきょう漬、白菜漬、からし漬、しば漬、浅漬け、ピクルス等)、漬物の素(即席漬けのもと、キムチ漬のもと等)、魚肉製品(かまぼこ、ちくわ、はんぺん等)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、サラミ、ベーコン等)、珍味(さきするめ、さきタラ、ウニの塩辛、イカの塩辛、タコの塩辛、カワハギのみりんぼし、フグのみりんぼし、イカの薫製、コノワタの塩漬等)、乾物(味付け海苔等)、惣菜類(あえもの、揚げ物、炒め物、焼き物、煮物、酢の物等)、冷凍食品(エビフライ、コロッケ、春巻き、とんかつ、シューマイ、餃子、たこ焼き、肉まん、あんまん等)等を挙げることができる。
【0032】
本発明のグリコーゲンを添加・配合して調製し得る食品としては、いわゆる健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組合わせ食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)又は高齢者用食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)としてもよく、その場合であれば、素錠、フィルムコート錠、糖衣錠、顆粒、粉末、タブレット、カプセル(ハードカプセルとソフトカプセルとのいずれも含む。)、チュアブルタイプ、シロップタイプ、ドリンクタイプ等とすることもできる。本発明に係るグリコーゲンを添加・配合した食品の調製は、それ自体公知の方法で行うことができる。
【0033】
本発明のグリコーゲンを含む特定保健用食品等の食品は、血糖値が正常高値、糖尿病予備群などの血糖値が気になる方(食後の血糖値の上昇を緩やかにする)、コレステロールが気になる方、動脈硬化により血圧が高めの方(正常高値)或いは軽症高血圧、おなかの調子を整えたい方、或いは中性脂肪が気になる方、内臓肥満が気になる方などに特に有用である。
【0034】
本発明のグリコーゲンは、経口摂取により口腔粘膜或いは胃腸管から直接吸収されるか、胃腸管で部分的に加水分解を受けて吸収された後、食後血糖値の上昇抑制効果、血中インシュリンレベルの上昇を緩やかにする効果、中性脂肪の低下、総コレステロールの低下とHDL コレステロールの比率の上昇、内臓脂肪の低下などの生体内の代謝全般に対し幅広い効果を有し、糖尿病、動脈硬化、内臓肥満とこれに起因する循環器系疾患の予防、これらの傾向の緩和または調節を目的として、継続的に摂取することが可能かつ望ましく、これらの予防のための機能性食品、特に特定保健用食品等として有用である。この目的に本発明のグリコーゲンないし製剤を用いる場合、一般的に体重60kgの成人では、1日あたり0.1g〜100g、好ましくは1〜100g、より好ましくは10〜100g、の範囲で経口摂取するのがよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
実施例1
SDラット(オス・6週齢)を16時間絶食させた後、グルコース(Gluc)、グリコーゲン(ESG)およびデキストリン(DEX)を2 g/kg体重で経口投与した(各群7匹)。投与前、投与後10、20、30、60分に尾静脈から採血し、遠心分離することで血漿サンプルを得た。血漿サンプル中のグルコース量をグルコースCIIテストワコーを用いて測定し、インスリンの濃度はレビス(登録商標)インスリン-ラットELISAキット(シバヤギ製)を用いて測定した。結果を図1に示す。図1の結果から、グリコーゲンは、投与後の血糖値とインスリン分泌量が低く、食後においても血糖値とインスリン分泌が緩やかに上昇し、インスリン分泌能が低下し、或いはインスリン抵抗性のヒトなどの哺乳動物において、糖尿病の予防あるいはその進行を遅らせ得ることが明らかになった。なお、ESGは、酵素合成グリコーゲン(Enzymatically Synthesized Glycogen)である。
【0036】
実施例2
SDラット(オス・6週齢)を表1に示した組成の餌で2週間飼育し、飼育期間中2-3日に一度体重を測定した。体重変化と摂食量を以下の表2に示す。
【0037】
以下の表2の結果から、グリコーゲン食群で摂食量と体重に微減傾向が認められたが、有意な差ではなく動物の成長や摂食行動に影響を及ぼさない事が明らかになった。また、これによりグリコーゲンの安全性についても証明された。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
実施例3
SDラット(オス・6週齢)を表1に示した組成の餌で2週間飼育し、飼育10日目と11日目に一日分の糞を回収し、凍結乾燥することで乾燥重量を測定した。
【0041】
水分値は飼育10-11日目に肛門から新鮮な糞を採取し、凍結乾燥前後の重量を測定して算出した。糞の乾燥重量、水分量、湿重量を以下の表3に示す。
【0042】
以下の表3の結果から、コーンスターチ(CS)と比較して、グリコーゲン(ESG)は糞の乾燥重量には変化を与えなかったが、水分量を増大させ、全体として糞の湿重量を増大させることが明らかになった。これは、腸内での便の滞留時間が短くなり、便通が改善されたことで糞の水分量が増大したと考えられる。
【0043】
この結果から、グリコーゲンは便通を改善し、便秘、痔などに有用であることが明らかになった。
【0044】
【表3】

【0045】
実施例4
SDラット(オス・6週齢)を表1に示した組成の餌で2週間飼育し、飼育9日目と10日目に肛門から新鮮な糞を採取し、腸内細菌数を表4に示す培地を用いて培養法にて測定した。結果を表5と図2に示す。表5と図2の結果から、グリコーゲン(ESG)は、腸内細菌のうち有用な細菌である乳酸菌とビフィズス菌、特にビフィズス菌の増殖を促進し、その割合を高め、腸内フローラを顕著に改善することが明らかになった。
【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
実施例5
SDラット(オス・6週齢)を表1に示した組成の餌で2週間飼育した後屠殺し、盲腸内容物を回収して重量とpHを測定した。
【0049】
盲腸内容物に5倍量の水を加えよく攪拌した後、2M H2SO4でpHを2.0に調整した。もとの内容物の10倍に水でメスアップした後遠心ろ過(5kDaカット)し、ろ液をサンプルとした。そのサンプル中の短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)含量をガスクロマトグラフィー(島津製作所)にて定量した。ガスクロマトグラフィー条件はカラム:Thermon3000パックドカラム、気化室温度:250℃、カラム温度:130℃、検出器:FID 250℃、キャリアガス:N2 40ml/minで実施した。結果を表6と図3に示す。
【0050】
表6と図3の結果から明らかなように、グリコーゲン(ESG)は、盲腸内容物の湿重量を増大させ、短鎖脂肪酸(プロピオン酸、酪酸)の産生量を高め、これに伴い盲腸内のpHが低下することが明らかになった。酪酸、プロピオン酸は、抗菌性が強く、病原大腸菌,サルモネラ,赤痢菌などの病原菌の感染予防にも有効であり、かつ、免疫系に作用して潰瘍性大腸炎などの腸炎を抑制することが知られており、グリコーゲンの摂取は、腸内環境を整えて腸疾患の抑制にも有効に機能することが明らかになった。
【0051】
【表6】

【0052】
実施例6
SDラット(オス・6週齢)を表1に示した組成の餌で2週間飼育した後屠殺し、心臓から採血後遠心分離することで血漿サンプルを得た。サンプル中の中性脂肪、コレステロール、HDL-コレステロールをそれぞれトリグライセライドE-テストワコー、コレステロール-Eテストワコー、HDL-コレステロールテストワコーで測定した。さらに、屠殺後のラットについて、肝臓と睾丸周辺脂肪の重量を測定した。
【0053】
結果を表7、表8に示す。
【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
表7の結果から、コーンスターチ(CS)と比較して、グリコーゲン(ESG)は、体脂肪を減少させることが明らかになった。睾丸周りの体脂肪は、内臓脂肪の例であり、グリコーゲンは特に内臓脂肪を減少させるのに効果があることが明らかになった。内臓脂肪はメタボリックシンドローム/生活習慣病の主要な原因の1つであり、グリコーゲンは、メタボリックシンドローム/生活習慣病の予防ないし治療、進行の遅延ないし疾患の悪化を抑制できることが明らかになった。
【0057】
さらに、表8に示すように、グリコーゲンは中性脂肪と血中総コレステロールレベルを低下させ、かつ、善玉コレステロールとして知られているHDLコレステロールの比率を増加させることができる。中性脂肪とコレステロールはいずれも動脈硬化とそれによる脳血管系疾患(脳卒中、心筋梗塞、狭心症など)に深く関与しており、グリコーゲンはこれらの疾患の予防ないし治療、進行の遅延ないし疾患の悪化を抑制できることが明らかになった。
【0058】
試験例1:グリコーゲンの評価方法
方法1
Megazyme International Ireland Ltd.社(Wicklow, Ireland)のResistant Starchアッセイキットを使用し、マニュアルに従って「分解抵抗性成分(RS)」として定量される量によってグリコーゲンを評価した。この方法はRS含量測定のための公定法として採用されている(AOAC Method 2002.02; AACC Method 32-40)。具体的には、以下のスキームに従いRS含量を求めた。
概略
試料100mgを、酵素液(1%パンクレアチン+12Uグルコアミラーゼ)で分解する
↓ 37℃, 16時間
反応液に等量のエタノールを加え、低速で遠心分離(1500×g、10分)
↓ →上清中のグルコースを定量→分解非抵抗性成分量
沈殿をアルカリで可溶化

中和後、直ちに大量のグルコアミラーゼ(330U)で分解(50℃、30分)

グルコースを定量→分解抵抗性成分(RS)量

結果を表9に示す。
【0059】
【表9】

【0060】
上記の結果より、天然のグリコーゲンはパンクレアチンとグルコアミラーゼでほとんど分解されるが、酵素合成グリコーゲンは、20%前後の分解抵抗性成分(RS)を有することが明らかになった。この分解抵抗性成分は、本発明の種々の薬理効果を有するグリコーゲンとして、特に好ましいものである。
【0061】
方法2
試料50mgを、1mLの反応液中でα-アミラーゼ(Sigma社製、ブタすい臓由来 TypeI-A。酵素量300U/g基質)を作用させる。反応液のpHは、10mMリン酸緩衝液により、7に合わせる。
↓ 37℃, 0.5、1、3、6、または24時間
100℃5分加熱することにより、反応を停止し、反応液を0.45μmフィルターによりろ過し、以下の条件でHPLC分析に供する。
【0062】
詳しくは、カラムとしてShodex OH−Pack SB806MHQ(内径8mm、長さ300mm、昭和電工製)を用い、ガードカラムとしてShodex OH−Pack SB−G(内径6mm、長さ50mm、昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSPまたはDAWN−Heleos、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71またはRI−101、昭和電工製)をこの順序で連結して用いる。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いる。約6分から約11分に溶出されるα-グルカンのピークから得られるシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量Mwを求める。
本方法で、α-アミラーゼ処理前後のMwの比を求める。
結果を図4に示す。
【0063】
図4の結果に示されるように、ムラサキイガイやスイートコーンなどの天然グリコーゲンは速やかに分解されるが、合成グリコーゲン(ESGA、ESGB、ESG(7000kDa))は、分子量が分解前の5〜40%を維持し、より好ましい素材であることが明らかになった。また、天然でも牡蠣由来のグリコーゲンはαアミラーゼの分解に比較的抵抗性であり、またカサガイ由来グリコーゲンは特に抵抗性であり好ましいものであることが明らかになった。
【0064】
試験例2:脂肪の吸収ないし肝臓への蓄積の抑制効果
1.単回脂質投与試験
SDラット(7-9週齢、♂)を18時間絶食させた後、水(コントロール)、20%ESG溶液あるいは20%NG(天然グリコーゲン)溶液を10ml/kg体重で経口投与し、直後にコーンオイルエマルジョン(コーンオイル20%、レシチン1.2%、グリセリン2.3%)を10ml/kg体重で経口投与した。投与前、投与後1、2、3、4時間に尾静脈から採血した後、遠心分離により血漿を分離し、血漿中のトリアシルグリセロール濃度をWAKOのキットで測定した。結果を図5に示す。
【0065】
2.高脂肪食試験
SDラット(7週齢、♂)を8匹ずつ2群に分け、高脂肪食群と高脂肪食+ESG20%群とし、下表の組成の餌をそれぞれ4週間自由に摂取させた。飼育終了後に各脂肪組織を摘出し重量を測定した。また、血漿と肝臓を回収し、血漿中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の活性を市販のキット(WAKO製)で測定した。肝臓の中性脂肪はFolch法で全脂質を抽出した後、イソプロパノールに溶解し、市販のキット(WAKO製)で定量した。*は高脂肪食群に対する有意差を表す(P < 0.05、t-test)。結果を図6、図7及び表10に示す。
【0066】
【表10】

【0067】
【表11】

【0068】
表11と図5〜7の結果から明らかなように、グリコーゲンは、脂肪の肝臓、皮下、腎臓、睾丸周囲への蓄積を抑制し、内臓脂肪を抑制するだけでなく、吸収も抑制することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位カロリー摂取当たりの血糖値の上昇とインスリンの分泌量を抑制するための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。
【請求項2】
体重当たりの体脂肪、特に内臓脂肪の比率を低下させるための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。
【請求項3】
体重増加を抑制するための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。
【請求項4】
酵素合成グリコーゲン(ESG)のおなかの調子を整えるための使用。
【請求項5】
グリコーゲンを含むビフィズス菌の増殖促進剤。
【請求項6】
ビフィズス菌増殖を促進するための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。
【請求項7】
腸内細菌のビフィズス菌の割合を高めるための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。
【請求項8】
グリコーゲンを含む乳酸菌の増殖促進剤。
【請求項9】
乳酸菌増殖を促進するための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。
【請求項10】
腸内細菌の乳酸菌の割合を高めるための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。
【請求項11】
血中の中性脂肪レベルを低下させるための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。
【請求項12】
血中総コレステロールレベルを低下させるための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。
【請求項13】
血中総コレステロール中のHDLコレステロールの比率を増加させるための酵素合成グリコーゲン(ESG)の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−75917(P2013−75917A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−6409(P2013−6409)
【出願日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【分割の表示】特願2008−552134(P2008−552134)の分割
【原出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】