カテーテルおよび薬剤投与装置
【課題】カテーテルによる薬剤等の注入性を高めることができるカテーテルおよび薬剤投与装置を提供すること。
【解決手段】本発明にかかるカテーテル1は、内部ルーメンと内部ルーメンと連通する薬剤吐出口6とを有し、細長い形状をなす先端部3aおよび基端部3bとによって構成される躯体3と、躯体3に取り付けられ、躯体3の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の生体組織を切開する導電性ワイヤ5と、を備える。
【解決手段】本発明にかかるカテーテル1は、内部ルーメンと内部ルーメンと連通する薬剤吐出口6とを有し、細長い形状をなす先端部3aおよび基端部3bとによって構成される躯体3と、躯体3に取り付けられ、躯体3の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の生体組織を切開する導電性ワイヤ5と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体組織内に導入されるカテーテルおよび生体組織に薬剤を投与する薬剤投与装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人間を含む哺乳動物の生体組織内に導入されて、直接、生体組織に薬剤を吐出するカテーテルが知られている。このようなカテーテルは、内部にルーメンを有する細長い形状をなしている。ルーメン内を移送された薬剤は、側面や先端に設けられた薬剤吐出口から生体組織内に吐出される(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には細胞組織内へと活性物質を直接的に搬送する技術が開示されており、肝臓に対する薬剤投与について具体的な記載があるが、類似技術として腫瘍に抗癌剤などの薬剤を直接投与する方法がある。例えば、すい臓癌の治療方法としてEUS−FNI(Edoscopic Ultrasonography guided Fine needle Injection:超音波内視鏡下薬液注入)が注目されており、超音波内視鏡によるエコー画像を用いて、腫瘍の位置を確認した上で、針を腫瘍に向けて穿刺し、薬剤を注入する治療法が研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−529207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
腫瘍に直接薬剤を投与する場合、特に悪性度が高くて硬い腫瘍への注入性の悪さが問題となる。実際に本願発明者らが実施した実験によれば、悪性度の高いヒト膵臓がん株細胞への投与を行なった場合、1箇所あたり100マイクロリットル程度の注入が必要であるにもかかわらず、ワンショットで10〜20マイクロリットル程度の抗がん剤注入が限度であり、それを超える量の薬液を注入した場合、注入口からの逆流が発生する場合もあった。
【0006】
所定量の薬剤を急速に注入できるようにするため、薬剤の濃度を高めることが考えられる。しかしながら、薬剤の濃度を上げると、薬剤の種類によっては、薬剤の析出、カテーテル内部への付着、カテーテルに対する浸食等が発生してしまい、薬剤の濃度を高めることができない場合があった。
【0007】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、薬剤等の急速な注入でも注入口からの逆流が発生することなく、様々な投薬パターンに対応できるカテーテルおよび薬剤投与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるカテーテルは、生体組織に導入されるカテーテルであって、内部ルーメンと、前記内部ルーメンと連通する薬剤吐出口とを有し、細長い形状をなす躯体と、前記躯体に取り付けられ、前記躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記躯体の軸に沿って、前記切開部材を覆う第1の位置と、前記切開部材を露出させる第2の位置との間を移動可能なシースをさらに備えたことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記切開部材は、前記躯体に取り付けられ、かつ、露出した状態で、前記躯体の径方向に広がって湾曲するように予めくせ付けされていることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記切開部材は、ワイヤ形状をなすことを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記カテーテルは、先端が尖った先端部材をさらに有することを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記先端部材は、湾曲した形状をなすことを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記先端部材は、前記切開部材と電気的に接続されていることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記先端部材は、高周波電源と電気的に接続する導電クリップが取り付け可能である取付部を有することを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記躯体の径方向に広がる向きに前記切開部材を変形させる操作部材をさらに有することを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記躯体の表面に設けられ、前記シースの前記躯体に沿った移動範囲を規定する一対のストッパをさらに備え、前記一対のストッパの少なくとも一方は、前記躯体表面の位置が調整可能に構成されていることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記薬剤吐出口は、前記切開部材による切開部分に薬剤を吐出できる位置に形成されることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記躯体は、当該カテーテルを前記生体組織に留置する際に切断されるべき切断位置を示すマーカが付されていることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、生体組織に薬剤を投与する薬剤投与装置であって、内部ルーメンおよび前記内部ルーメンと連通する薬剤吐出口を有するとともに細長い形状をなす躯体と、前記躯体に取り付けられ、前記躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材とを有するカテーテルと、前記薬剤を保持する保持部と、前記保持部に保持される前記薬剤を前記内部ルーメンに送出する送出ポンプとを有する薬剤供給機構と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材によって、薬剤が十分に浸潤できるように、切り込みを生体組織に形成してから薬剤を吐出できるため、薬剤等の注入性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態にかかるカテーテルの先端部の斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態にかかるカテーテルの先端部の斜視図である。
【図3】図3は、図1に示すカテーテルの要部を説明する図である。
【図4】図4は、図1に示すカテーテルの要部の斜視図である。
【図5】図5は、図1に示すカテーテルの要部の斜視図である。
【図6】図6は、図1に示すカテーテルを用いた薬剤投与処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、図1に示すカテーテルを用いた薬剤投与処理を説明する図である。
【図8】図8は、図1に示すカテーテルを用いた薬剤投与処理を説明する図である。
【図9】図9は、図1に示す先端部材の取付部を含む部分の側面図である。
【図10】図10は、図1に示すカテーテルを用いた薬剤投与処理を説明する図である。
【図11】図11は、図1に示す躯体の基端部の切断位置近傍の斜視図である。
【図12】図12は、実施の形態にかかるカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図13】図13は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図14】図14は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図15】図15は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図16】図16は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図17】図17は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、この発明を実施するための形態として、人間を含む哺乳動物の生体組織に導入されるカテーテルおよび生体組織に薬剤を投与する薬剤投与装置について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0024】
(実施の形態)
まず、実施の形態について説明する。図1および図2は、本発明の一実施の形態にかかるカテーテルの先端部の斜視図である。
【0025】
カテーテル1は、人間を含む哺乳動物の生体組織に導入されて薬剤を投与するためのものであり、図1に示すように、先端部材2、管状の躯体3およびシース4を備える。
【0026】
先端部材2は、先端が尖り、全体として湾曲した形状をなす。先端部材2は、例えば、チタンやステンレス等の金属、ポリカーボネート等の樹脂材料によって形成される。
【0027】
躯体3は、先端部3aと基端部3bとによって構成され、細長い形状をなす。先端部3aと基端部3bとは、内部にルーメンをそれぞれ有する。基端部3bは、ルーメンと連通する薬剤吐出口6を有する。躯体3は、例えば、シリコンやポリエチレン、ポリウレタン等の生体適合性を有する材料によって形成される。
【0028】
シース4は、管状の部材である。シース4は、先端部3aおよび基端部3bによって構成される躯体3の少なくとも一部を内部ルーメンに収容し、躯体3の軸に沿ってスライド移動可能である。シース4は、例えば、弾性シリコンやポリエチレン、ポリウレタン等の材料によって形成される。
【0029】
図2に示すように、先端部3aと基端部3bとの間には、2本の導電性ワイヤ5が設けられる。この導電性ワイヤ5は、躯体3の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の生体組織を切開する。導電性ワイヤ5(切開部材)は、躯体3に取り付けられ、かつ、露出した状態で、躯体3の径方向に広がって湾曲するように予めくせ付けされている。導電性ワイヤ5は、導電性、生体適合性および弾性を備えた金属(例えばステンレス合金)によって形成される。
【0030】
2本の導電性ワイヤ5の先端は、図3に示すように、先端部材2に接続する。各導電性ワイヤ5の基端は、躯体3の先端部3aの内部ルーメンを経由して、基端部3b先端まで延伸し、躯体3の基端部3bの先端部に固く取り付けられている。
【0031】
ここで、シース4は、躯体3の軸に沿ってスライド移動可能であり、図1に示すように導電性ワイヤ5を覆う第1の位置と、図2に示すように導電性ワイヤ5を露出させる第2の位置との間を遷移する。
【0032】
導電性ワイヤ5は、予め躯体3の径方向に広がる向きに湾曲するようにくせ付けされている。このため、シース4が第1の位置(図1参照)にある場合、導電性ワイヤ5は、図3のようにシース4の内部ルーメン内に収容されているため、シース4の内部ルーメンの内部空間に拘束されて躯体3の径方向に広がる向きへの湾曲は抑制される。これに対し、シース4が第2の位置(図2参照)にある場合には、導電性ワイヤ5は、シース4の拘束から解放されて露出し、躯体3の径方向に広がる。
【0033】
図4および図5は、カテーテル1におけるシース4がスライド移動可能である部分の斜視図である。図4および図5に示すように、躯体3の先端部3a表面には、前方ストッパ7が設けられ、躯体3の基端部3b表面には、後方ストッパ8が設けられる。前方ストッパ7および後方ストッパ8は、対を成し、図4の矢印のようにスライド移動するシース4の躯体3の軸に沿った移動範囲を規定する。
【0034】
前方ストッパ7および後方ストッパ8の少なくとも一方は、躯体3表面の位置が調整可能に構成されている。たとえば、前方ストッパ7が位置可能に構成されている。この前方ストッパ7を、先端部3aの先端部材2側ではなく先端部3aの基端側に予め位置決めすることによって、導電性ワイヤ5の広がり度合いを小さく調整することが可能となる。これに対し、この前方ストッパ7を、先端部3aの基端側ではなく先端部3aの先端部材2側に予め位置決めすることによって、導電性ワイヤ5の広がり度合いを大きく調整することが可能となる。このように、シース4は、前方ストッパ7と後方ストッパ8との位置に応じて、その移動範囲が規定され、このシース4の移動範囲を調整することによって、図5の矢印に示す導電性ワイヤ5の径方向への広がり度合いを調整することができる。
【0035】
したがって、X線、CT、超音波などの画像モダリティで事前に取得した腫瘍サイズや、術中に直視した腫瘍サイズをもとに、前方ストッパ7の位置または後方ストッパ8の位置を調整することにより、導電性ワイヤ5の切開量を腫瘍サイズに適切に対応させることができる。
【0036】
次に、図6〜図11を参照して、カテーテル1を用いた薬剤投与処理の一例について説明する。図6は、図1に示すカテーテル1を用いた薬剤投与処理の処理手順を示すフローチャートである。図7、図8および図10は、図1に示すカテーテル1を用いた薬剤投与処理を説明する図である。図9は、図1に示す先端部材2の取付部を含む部分の側面図である。図11は、図1に示す躯体3の基端部3bの切断位置近傍の斜視図である。
【0037】
まず、カテーテル1を薬剤投与対象の生体組織に導入する(図6のステップS1)。具体的には、図7に示すように、術者は、シース4の位置を、導電性ワイヤ5を覆う第1の位置にした状態で、カテーテル1を、臓器10に穿刺して、腫瘍11を経由させてから、先端部材2を矢印のように突出させる。先端部材2は、湾曲した形状を成すため、臓器10への穿刺も円滑に行うことができる。この場合、シース4は、導電性ワイヤ5を内部に収容しており、導電性ワイヤ5が躯体3の径方向には広がることもないため、カテーテル1は、スムーズに臓器10を貫通することができる。
【0038】
その後、導電性ワイヤ5が電気的に接続する先端部材2を高周波電源に接続する(図6のステップS2)。図8に示すように、導電線14を介して高周波電源12と接続する導電クリップ13を、カテーテル1の先端部材2に取り付ける。先端部材2には、導電クリップ13が取り付け可能である取付部が形成されている。取付部として、図9に示すように、たとえば、導電クリップ13を取り付けやすくできるように、先端部材の側面の一部を切り欠いて平らにした凹部2aが先端部材2に形成される。
【0039】
続いて、不図示の対極板を体表に装着させた上で、高周波電源12から高周波電流を印加させながら(図6のステップS3)、図8の矢印のように臓器10から突出しているシース4を先端部材2方向へ移動させることによって、シース4の位置を、導電性ワイヤ5を覆う第1の位置から導電性ワイヤ5を露出させる第2の位置にまでスライド移動させる(図6のステップS4)。導電性ワイヤ5は、予め躯体3の径方向に広がる向きに湾曲するようにくせ付けされているため、周囲の生体組織と接触して生体組織を躯体3の径方向に向かって押す。このとき、導電性ワイヤ5には高周波電流が流れるので、導電性ワイヤ5は、周囲の腫瘍11の組織を切開しながら、躯体3の径方向に広がってゆくことになる。この結果、腫瘍11には、導電性ワイヤ5による切り込みが形成される。
【0040】
その後、術者は高周波信号の印加を停止し、第2の位置に位置するシース4を、導電性ワイヤ5を覆う元の第1の位置まで移動させる(図6のステップS5)。
【0041】
続いて、カテーテル1全体をさらに臓器10内に押し入れることによって、図10に示すように、薬剤吐出口6が、導電性ワイヤ5が形成した切り込みに位置付けられるように、薬剤吐出口6の位置を調整する(図6のステップS6)。
【0042】
続いて、カテーテル1の位置を固定し、導電性ワイヤ5を含む躯体3の基端部3bの一部を切断する(図6のステップS7)。この躯体3の基端部3bの切断位置は、導電性ワイヤ5が取り付けられた位置よりも基端側であり、薬剤吐出口6が形成される位置よりも先端側である。そして、図11に示すように、躯体3の基端部3bは、カテーテル1を生体組織に留置する際に切断されるべき切断位置を示すマーカ3cが付されている。続いて、切断した基端部3b端部に、ストッパ18を取り付ける(図6のステップS8)ことによって、臓器10内にカテーテル1を留置する。
【0043】
その後、図10に示すように、躯体3の基端部3bの基端に、ポンプ15と薬剤17を保持する薬剤リザーバー16とを接続する。ポンプ15は、薬剤リザーバー16に収容されている薬剤17を吸い上げて、躯体3の基端部3bの内部ルーメンに送出する。これにともない、基端部3bの内部ルーメンに送出された薬剤は、矢印のように薬剤吐出口6から腫瘍11の組織に向かって吐出される。吐出された薬剤は、導電性ワイヤ5によって形成された切り込みに浸潤してゆく。
【0044】
このように、本実施の形態においては、以上に述べた操作を行うことによって、導電性ワイヤ5によって腫瘍11に切り込みを形成してから薬剤を投与している。したがって、本実施の形態によれば、薬剤が十分に浸潤できる空間を確保してから薬剤を吐出するため、ワンショットあたりの薬剤投与量を従来よりも増やして急速に薬剤を注入しても注入口からの逆流を発生させることなく、適切に薬剤を注入することができる。そして、本実施の形態によれば、ワンショットあたりの薬剤投与量を従来よりも増やすことができるため、カテーテル1の生体組織への導入回数を減らすことができ、術者の負担を軽減することができる。さらに、本実施の形態によれば、ワンショットあたりの薬剤投与量を従来よりも増やすことができるため、薬剤濃度を必要以上に高める必要もなくなる。
【0045】
したがって、本実施の形態によれば、薬剤吐出対象の生体組織の硬さによらず、カテーテルによる薬剤等の注入性を高めることができる。この結果、実施の形態1によれば、様々な投薬パターンに対応できるとともに、より効果の高い、あるいは副作用の少ない投薬パターンで薬剤を投与することが可能となる。
【0046】
なお、本実施の形態においては、導電性ワイヤ5の断面形状は、円形に限らず、導電性ワイヤ5が広がる方向に鋭角を持った形状であってもよく、導電性ワイヤ5の広がる方向に長軸が設定される楕円形状であってもよい。
【0047】
また、本実施の形態においては、導電性ワイヤ5は、高周波電流が流れるように閉回路を構成していれば足り、導電性ワイヤ5の本数は2本に限らない。たとえば、図12に示すように、2本よりも多い4本にし、切開性能をさらに高めてもよい。
【0048】
また、本実施の形態においては、図13に示すように、導電性ワイヤ5の基端が固定される基端部103bの先端に薬剤吐出口106を設けてもよい。この場合には、図6のステップS6に示す薬剤吐出口の位置調整処理を行わずとも、導電性ワイヤ5で形成した切り込みに向けて薬剤を吐出可能である。また、この場合には、図6のステップS5に示す、元の位置へのシース4の移動処理を行う必要もない。
【0049】
また、本実施の形態においては、図14に示す基端部203bを用いて、躯体の径方向に広がる導電性ワイヤ5によって囲まれる領域に、複数の薬剤吐出口206が位置するようにしてもよい。この場合も、図13に示す場合と同様に、図6のステップS6に示す薬剤吐出口の位置調整処理を行わずとも、導電性ワイヤ5で形成した切り込みに向けて薬剤を吐出可能である。また、この場合も、図13に示す場合と同様に、図6のステップS5に示すシース4の元の位置への移動処理を行う必要もない。
【0050】
また、本実施の形態においては、シース4を先端部材2側に向かってスライド移動させることによって導電性ワイヤ5を露出する場合について説明したが、図15(1)に示すシース4を、図15(2)に示す矢印のように、躯体の基端部103bの基端側に向かってスライド移動させることによって、導電性ワイヤ5を露出させてもよい。この場合、術者はカテーテルの基端側からシース4を操作することができるため、さらに操作性が向上する。
【0051】
また、本実施の形態においては、図16および図17のカテーテル301に示すように、導電性ワイヤ5を、カテーテル301の躯体303の径方向に広がる向きに変形させる操作が可能である構成にしてもよい。
【0052】
カテーテル301は、先端部材302と躯体303の先端部303aとが分離した構成を有するとともに、操作ワイヤ319をさらに備える。操作ワイヤ319は、先端319aが先端部材302に接続し、基端319bが躯体303の基端部303aの内部ルーメンを貫通して躯体303の基端部303b先端に接続する。なお、シース4は、カテーテル1と同様に、躯体303の軸に沿ってスライド移動可能であり、カテーテル301の生体組織導入時には、導電性ワイヤ5を覆う位置に位置する。
【0053】
このカテーテル301においては、シース4を先端側にスライド移動させて導電性ワイヤ5を露出させた後に、図16の矢印のように、先端部材302を先端側に引くことによって、操作ワイヤ319も先端側に引っ張られる。この結果、図17に示すように、操作ワイヤ319の基端319bが接続する躯体303の基端部303bも、矢印のように先端側に引っ張られ、シース4に近づく。これにともない、導電性ワイヤ5の基端もシース4側に移動するため、躯体303の径方向に広がる向きに変形する。
【0054】
なお、この場合、導電性ワイヤ5は、図3のように先端部材302に接続しているのではなく、躯体303の先端部303aの先端に接続しており、導電性クリップの接続位置も先端部303aに設けられているものとする。
【0055】
このように、躯体303と分離した先端部材302と操作ワイヤ319とを設けて導電性ワイヤ5を変形させる場合、術者の所望のタイミングで導電性ワイヤ5を変形させることができる。
【符号の説明】
【0056】
1,301 カテーテル
2,302 先端部材
3,303 躯体
3a,303a 先端部
3b,103b,203b,303b 基端部
4 シース
5 導電性ワイヤ
6,106,206 薬剤吐出口
7 前方ストッパ
8 後方ストッパ
10 臓器
11 腫瘍
12 高周波電源
13 導電クリップ
14 導電線
15 ポンプ
16 薬剤リザーバー
17 薬剤
18 ストッパ
319 操作ワイヤ
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体組織内に導入されるカテーテルおよび生体組織に薬剤を投与する薬剤投与装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人間を含む哺乳動物の生体組織内に導入されて、直接、生体組織に薬剤を吐出するカテーテルが知られている。このようなカテーテルは、内部にルーメンを有する細長い形状をなしている。ルーメン内を移送された薬剤は、側面や先端に設けられた薬剤吐出口から生体組織内に吐出される(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には細胞組織内へと活性物質を直接的に搬送する技術が開示されており、肝臓に対する薬剤投与について具体的な記載があるが、類似技術として腫瘍に抗癌剤などの薬剤を直接投与する方法がある。例えば、すい臓癌の治療方法としてEUS−FNI(Edoscopic Ultrasonography guided Fine needle Injection:超音波内視鏡下薬液注入)が注目されており、超音波内視鏡によるエコー画像を用いて、腫瘍の位置を確認した上で、針を腫瘍に向けて穿刺し、薬剤を注入する治療法が研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−529207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
腫瘍に直接薬剤を投与する場合、特に悪性度が高くて硬い腫瘍への注入性の悪さが問題となる。実際に本願発明者らが実施した実験によれば、悪性度の高いヒト膵臓がん株細胞への投与を行なった場合、1箇所あたり100マイクロリットル程度の注入が必要であるにもかかわらず、ワンショットで10〜20マイクロリットル程度の抗がん剤注入が限度であり、それを超える量の薬液を注入した場合、注入口からの逆流が発生する場合もあった。
【0006】
所定量の薬剤を急速に注入できるようにするため、薬剤の濃度を高めることが考えられる。しかしながら、薬剤の濃度を上げると、薬剤の種類によっては、薬剤の析出、カテーテル内部への付着、カテーテルに対する浸食等が発生してしまい、薬剤の濃度を高めることができない場合があった。
【0007】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、薬剤等の急速な注入でも注入口からの逆流が発生することなく、様々な投薬パターンに対応できるカテーテルおよび薬剤投与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるカテーテルは、生体組織に導入されるカテーテルであって、内部ルーメンと、前記内部ルーメンと連通する薬剤吐出口とを有し、細長い形状をなす躯体と、前記躯体に取り付けられ、前記躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記躯体の軸に沿って、前記切開部材を覆う第1の位置と、前記切開部材を露出させる第2の位置との間を移動可能なシースをさらに備えたことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記切開部材は、前記躯体に取り付けられ、かつ、露出した状態で、前記躯体の径方向に広がって湾曲するように予めくせ付けされていることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記切開部材は、ワイヤ形状をなすことを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記カテーテルは、先端が尖った先端部材をさらに有することを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記先端部材は、湾曲した形状をなすことを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記先端部材は、前記切開部材と電気的に接続されていることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記先端部材は、高周波電源と電気的に接続する導電クリップが取り付け可能である取付部を有することを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記躯体の径方向に広がる向きに前記切開部材を変形させる操作部材をさらに有することを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記躯体の表面に設けられ、前記シースの前記躯体に沿った移動範囲を規定する一対のストッパをさらに備え、前記一対のストッパの少なくとも一方は、前記躯体表面の位置が調整可能に構成されていることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記薬剤吐出口は、前記切開部材による切開部分に薬剤を吐出できる位置に形成されることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記の発明において、前記躯体は、当該カテーテルを前記生体組織に留置する際に切断されるべき切断位置を示すマーカが付されていることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる薬剤投与装置は、生体組織に薬剤を投与する薬剤投与装置であって、内部ルーメンおよび前記内部ルーメンと連通する薬剤吐出口を有するとともに細長い形状をなす躯体と、前記躯体に取り付けられ、前記躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材とを有するカテーテルと、前記薬剤を保持する保持部と、前記保持部に保持される前記薬剤を前記内部ルーメンに送出する送出ポンプとを有する薬剤供給機構と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材によって、薬剤が十分に浸潤できるように、切り込みを生体組織に形成してから薬剤を吐出できるため、薬剤等の注入性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態にかかるカテーテルの先端部の斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態にかかるカテーテルの先端部の斜視図である。
【図3】図3は、図1に示すカテーテルの要部を説明する図である。
【図4】図4は、図1に示すカテーテルの要部の斜視図である。
【図5】図5は、図1に示すカテーテルの要部の斜視図である。
【図6】図6は、図1に示すカテーテルを用いた薬剤投与処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、図1に示すカテーテルを用いた薬剤投与処理を説明する図である。
【図8】図8は、図1に示すカテーテルを用いた薬剤投与処理を説明する図である。
【図9】図9は、図1に示す先端部材の取付部を含む部分の側面図である。
【図10】図10は、図1に示すカテーテルを用いた薬剤投与処理を説明する図である。
【図11】図11は、図1に示す躯体の基端部の切断位置近傍の斜視図である。
【図12】図12は、実施の形態にかかるカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図13】図13は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図14】図14は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図15】図15は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図16】図16は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【図17】図17は、本発明の一実施の形態に係るカテーテルの他の例の要部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、この発明を実施するための形態として、人間を含む哺乳動物の生体組織に導入されるカテーテルおよび生体組織に薬剤を投与する薬剤投与装置について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0024】
(実施の形態)
まず、実施の形態について説明する。図1および図2は、本発明の一実施の形態にかかるカテーテルの先端部の斜視図である。
【0025】
カテーテル1は、人間を含む哺乳動物の生体組織に導入されて薬剤を投与するためのものであり、図1に示すように、先端部材2、管状の躯体3およびシース4を備える。
【0026】
先端部材2は、先端が尖り、全体として湾曲した形状をなす。先端部材2は、例えば、チタンやステンレス等の金属、ポリカーボネート等の樹脂材料によって形成される。
【0027】
躯体3は、先端部3aと基端部3bとによって構成され、細長い形状をなす。先端部3aと基端部3bとは、内部にルーメンをそれぞれ有する。基端部3bは、ルーメンと連通する薬剤吐出口6を有する。躯体3は、例えば、シリコンやポリエチレン、ポリウレタン等の生体適合性を有する材料によって形成される。
【0028】
シース4は、管状の部材である。シース4は、先端部3aおよび基端部3bによって構成される躯体3の少なくとも一部を内部ルーメンに収容し、躯体3の軸に沿ってスライド移動可能である。シース4は、例えば、弾性シリコンやポリエチレン、ポリウレタン等の材料によって形成される。
【0029】
図2に示すように、先端部3aと基端部3bとの間には、2本の導電性ワイヤ5が設けられる。この導電性ワイヤ5は、躯体3の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の生体組織を切開する。導電性ワイヤ5(切開部材)は、躯体3に取り付けられ、かつ、露出した状態で、躯体3の径方向に広がって湾曲するように予めくせ付けされている。導電性ワイヤ5は、導電性、生体適合性および弾性を備えた金属(例えばステンレス合金)によって形成される。
【0030】
2本の導電性ワイヤ5の先端は、図3に示すように、先端部材2に接続する。各導電性ワイヤ5の基端は、躯体3の先端部3aの内部ルーメンを経由して、基端部3b先端まで延伸し、躯体3の基端部3bの先端部に固く取り付けられている。
【0031】
ここで、シース4は、躯体3の軸に沿ってスライド移動可能であり、図1に示すように導電性ワイヤ5を覆う第1の位置と、図2に示すように導電性ワイヤ5を露出させる第2の位置との間を遷移する。
【0032】
導電性ワイヤ5は、予め躯体3の径方向に広がる向きに湾曲するようにくせ付けされている。このため、シース4が第1の位置(図1参照)にある場合、導電性ワイヤ5は、図3のようにシース4の内部ルーメン内に収容されているため、シース4の内部ルーメンの内部空間に拘束されて躯体3の径方向に広がる向きへの湾曲は抑制される。これに対し、シース4が第2の位置(図2参照)にある場合には、導電性ワイヤ5は、シース4の拘束から解放されて露出し、躯体3の径方向に広がる。
【0033】
図4および図5は、カテーテル1におけるシース4がスライド移動可能である部分の斜視図である。図4および図5に示すように、躯体3の先端部3a表面には、前方ストッパ7が設けられ、躯体3の基端部3b表面には、後方ストッパ8が設けられる。前方ストッパ7および後方ストッパ8は、対を成し、図4の矢印のようにスライド移動するシース4の躯体3の軸に沿った移動範囲を規定する。
【0034】
前方ストッパ7および後方ストッパ8の少なくとも一方は、躯体3表面の位置が調整可能に構成されている。たとえば、前方ストッパ7が位置可能に構成されている。この前方ストッパ7を、先端部3aの先端部材2側ではなく先端部3aの基端側に予め位置決めすることによって、導電性ワイヤ5の広がり度合いを小さく調整することが可能となる。これに対し、この前方ストッパ7を、先端部3aの基端側ではなく先端部3aの先端部材2側に予め位置決めすることによって、導電性ワイヤ5の広がり度合いを大きく調整することが可能となる。このように、シース4は、前方ストッパ7と後方ストッパ8との位置に応じて、その移動範囲が規定され、このシース4の移動範囲を調整することによって、図5の矢印に示す導電性ワイヤ5の径方向への広がり度合いを調整することができる。
【0035】
したがって、X線、CT、超音波などの画像モダリティで事前に取得した腫瘍サイズや、術中に直視した腫瘍サイズをもとに、前方ストッパ7の位置または後方ストッパ8の位置を調整することにより、導電性ワイヤ5の切開量を腫瘍サイズに適切に対応させることができる。
【0036】
次に、図6〜図11を参照して、カテーテル1を用いた薬剤投与処理の一例について説明する。図6は、図1に示すカテーテル1を用いた薬剤投与処理の処理手順を示すフローチャートである。図7、図8および図10は、図1に示すカテーテル1を用いた薬剤投与処理を説明する図である。図9は、図1に示す先端部材2の取付部を含む部分の側面図である。図11は、図1に示す躯体3の基端部3bの切断位置近傍の斜視図である。
【0037】
まず、カテーテル1を薬剤投与対象の生体組織に導入する(図6のステップS1)。具体的には、図7に示すように、術者は、シース4の位置を、導電性ワイヤ5を覆う第1の位置にした状態で、カテーテル1を、臓器10に穿刺して、腫瘍11を経由させてから、先端部材2を矢印のように突出させる。先端部材2は、湾曲した形状を成すため、臓器10への穿刺も円滑に行うことができる。この場合、シース4は、導電性ワイヤ5を内部に収容しており、導電性ワイヤ5が躯体3の径方向には広がることもないため、カテーテル1は、スムーズに臓器10を貫通することができる。
【0038】
その後、導電性ワイヤ5が電気的に接続する先端部材2を高周波電源に接続する(図6のステップS2)。図8に示すように、導電線14を介して高周波電源12と接続する導電クリップ13を、カテーテル1の先端部材2に取り付ける。先端部材2には、導電クリップ13が取り付け可能である取付部が形成されている。取付部として、図9に示すように、たとえば、導電クリップ13を取り付けやすくできるように、先端部材の側面の一部を切り欠いて平らにした凹部2aが先端部材2に形成される。
【0039】
続いて、不図示の対極板を体表に装着させた上で、高周波電源12から高周波電流を印加させながら(図6のステップS3)、図8の矢印のように臓器10から突出しているシース4を先端部材2方向へ移動させることによって、シース4の位置を、導電性ワイヤ5を覆う第1の位置から導電性ワイヤ5を露出させる第2の位置にまでスライド移動させる(図6のステップS4)。導電性ワイヤ5は、予め躯体3の径方向に広がる向きに湾曲するようにくせ付けされているため、周囲の生体組織と接触して生体組織を躯体3の径方向に向かって押す。このとき、導電性ワイヤ5には高周波電流が流れるので、導電性ワイヤ5は、周囲の腫瘍11の組織を切開しながら、躯体3の径方向に広がってゆくことになる。この結果、腫瘍11には、導電性ワイヤ5による切り込みが形成される。
【0040】
その後、術者は高周波信号の印加を停止し、第2の位置に位置するシース4を、導電性ワイヤ5を覆う元の第1の位置まで移動させる(図6のステップS5)。
【0041】
続いて、カテーテル1全体をさらに臓器10内に押し入れることによって、図10に示すように、薬剤吐出口6が、導電性ワイヤ5が形成した切り込みに位置付けられるように、薬剤吐出口6の位置を調整する(図6のステップS6)。
【0042】
続いて、カテーテル1の位置を固定し、導電性ワイヤ5を含む躯体3の基端部3bの一部を切断する(図6のステップS7)。この躯体3の基端部3bの切断位置は、導電性ワイヤ5が取り付けられた位置よりも基端側であり、薬剤吐出口6が形成される位置よりも先端側である。そして、図11に示すように、躯体3の基端部3bは、カテーテル1を生体組織に留置する際に切断されるべき切断位置を示すマーカ3cが付されている。続いて、切断した基端部3b端部に、ストッパ18を取り付ける(図6のステップS8)ことによって、臓器10内にカテーテル1を留置する。
【0043】
その後、図10に示すように、躯体3の基端部3bの基端に、ポンプ15と薬剤17を保持する薬剤リザーバー16とを接続する。ポンプ15は、薬剤リザーバー16に収容されている薬剤17を吸い上げて、躯体3の基端部3bの内部ルーメンに送出する。これにともない、基端部3bの内部ルーメンに送出された薬剤は、矢印のように薬剤吐出口6から腫瘍11の組織に向かって吐出される。吐出された薬剤は、導電性ワイヤ5によって形成された切り込みに浸潤してゆく。
【0044】
このように、本実施の形態においては、以上に述べた操作を行うことによって、導電性ワイヤ5によって腫瘍11に切り込みを形成してから薬剤を投与している。したがって、本実施の形態によれば、薬剤が十分に浸潤できる空間を確保してから薬剤を吐出するため、ワンショットあたりの薬剤投与量を従来よりも増やして急速に薬剤を注入しても注入口からの逆流を発生させることなく、適切に薬剤を注入することができる。そして、本実施の形態によれば、ワンショットあたりの薬剤投与量を従来よりも増やすことができるため、カテーテル1の生体組織への導入回数を減らすことができ、術者の負担を軽減することができる。さらに、本実施の形態によれば、ワンショットあたりの薬剤投与量を従来よりも増やすことができるため、薬剤濃度を必要以上に高める必要もなくなる。
【0045】
したがって、本実施の形態によれば、薬剤吐出対象の生体組織の硬さによらず、カテーテルによる薬剤等の注入性を高めることができる。この結果、実施の形態1によれば、様々な投薬パターンに対応できるとともに、より効果の高い、あるいは副作用の少ない投薬パターンで薬剤を投与することが可能となる。
【0046】
なお、本実施の形態においては、導電性ワイヤ5の断面形状は、円形に限らず、導電性ワイヤ5が広がる方向に鋭角を持った形状であってもよく、導電性ワイヤ5の広がる方向に長軸が設定される楕円形状であってもよい。
【0047】
また、本実施の形態においては、導電性ワイヤ5は、高周波電流が流れるように閉回路を構成していれば足り、導電性ワイヤ5の本数は2本に限らない。たとえば、図12に示すように、2本よりも多い4本にし、切開性能をさらに高めてもよい。
【0048】
また、本実施の形態においては、図13に示すように、導電性ワイヤ5の基端が固定される基端部103bの先端に薬剤吐出口106を設けてもよい。この場合には、図6のステップS6に示す薬剤吐出口の位置調整処理を行わずとも、導電性ワイヤ5で形成した切り込みに向けて薬剤を吐出可能である。また、この場合には、図6のステップS5に示す、元の位置へのシース4の移動処理を行う必要もない。
【0049】
また、本実施の形態においては、図14に示す基端部203bを用いて、躯体の径方向に広がる導電性ワイヤ5によって囲まれる領域に、複数の薬剤吐出口206が位置するようにしてもよい。この場合も、図13に示す場合と同様に、図6のステップS6に示す薬剤吐出口の位置調整処理を行わずとも、導電性ワイヤ5で形成した切り込みに向けて薬剤を吐出可能である。また、この場合も、図13に示す場合と同様に、図6のステップS5に示すシース4の元の位置への移動処理を行う必要もない。
【0050】
また、本実施の形態においては、シース4を先端部材2側に向かってスライド移動させることによって導電性ワイヤ5を露出する場合について説明したが、図15(1)に示すシース4を、図15(2)に示す矢印のように、躯体の基端部103bの基端側に向かってスライド移動させることによって、導電性ワイヤ5を露出させてもよい。この場合、術者はカテーテルの基端側からシース4を操作することができるため、さらに操作性が向上する。
【0051】
また、本実施の形態においては、図16および図17のカテーテル301に示すように、導電性ワイヤ5を、カテーテル301の躯体303の径方向に広がる向きに変形させる操作が可能である構成にしてもよい。
【0052】
カテーテル301は、先端部材302と躯体303の先端部303aとが分離した構成を有するとともに、操作ワイヤ319をさらに備える。操作ワイヤ319は、先端319aが先端部材302に接続し、基端319bが躯体303の基端部303aの内部ルーメンを貫通して躯体303の基端部303b先端に接続する。なお、シース4は、カテーテル1と同様に、躯体303の軸に沿ってスライド移動可能であり、カテーテル301の生体組織導入時には、導電性ワイヤ5を覆う位置に位置する。
【0053】
このカテーテル301においては、シース4を先端側にスライド移動させて導電性ワイヤ5を露出させた後に、図16の矢印のように、先端部材302を先端側に引くことによって、操作ワイヤ319も先端側に引っ張られる。この結果、図17に示すように、操作ワイヤ319の基端319bが接続する躯体303の基端部303bも、矢印のように先端側に引っ張られ、シース4に近づく。これにともない、導電性ワイヤ5の基端もシース4側に移動するため、躯体303の径方向に広がる向きに変形する。
【0054】
なお、この場合、導電性ワイヤ5は、図3のように先端部材302に接続しているのではなく、躯体303の先端部303aの先端に接続しており、導電性クリップの接続位置も先端部303aに設けられているものとする。
【0055】
このように、躯体303と分離した先端部材302と操作ワイヤ319とを設けて導電性ワイヤ5を変形させる場合、術者の所望のタイミングで導電性ワイヤ5を変形させることができる。
【符号の説明】
【0056】
1,301 カテーテル
2,302 先端部材
3,303 躯体
3a,303a 先端部
3b,103b,203b,303b 基端部
4 シース
5 導電性ワイヤ
6,106,206 薬剤吐出口
7 前方ストッパ
8 後方ストッパ
10 臓器
11 腫瘍
12 高周波電源
13 導電クリップ
14 導電線
15 ポンプ
16 薬剤リザーバー
17 薬剤
18 ストッパ
319 操作ワイヤ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織に導入されるカテーテルであって、
内部ルーメンと、前記内部ルーメンと連通する薬剤吐出口とを有し、細長い形状をなす躯体と、
前記躯体に取り付けられ、前記躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材と、
を備えたことを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記躯体の軸に沿って、前記切開部材を覆う第1の位置と、前記切開部材を露出させる第2の位置との間を移動可能なシースをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記切開部材は、前記躯体に取り付けられ、かつ、露出した状態で、前記躯体の径方向に広がって湾曲するように予めくせ付けされていることを特徴とする請求項2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記切開部材は、ワイヤ形状をなすことを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記カテーテルは、先端が尖った先端部材をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記先端部材は、湾曲した形状をなすことを特徴とする請求項5に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記先端部材は、前記切開部材と電気的に接続されていることを特徴とする請求項5に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記先端部材は、高周波電源と電気的に接続する導電クリップが取り付け可能である取付部を有することを特徴とする請求項5に記載のカテーテル。
【請求項9】
前記躯体の径方向に広がる向きに前記切開部材を変形させる操作部材をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記躯体の表面に設けられ、前記シースの前記躯体に沿った移動範囲を規定する一対のストッパをさらに備え、
前記一対のストッパの少なくとも一方は、前記躯体表面の位置が調整可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項11】
前記薬剤吐出口は、前記切開部材による切開部分に薬剤を吐出できる位置に形成されることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項12】
前記躯体は、当該カテーテルを前記生体組織に留置する際に切断されるべき切断位置を示すマーカが付されていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項13】
生体組織に薬剤を投与する薬剤投与装置であって、
内部ルーメンおよび前記内部ルーメンと連通する薬剤吐出口を有するとともに細長い形状をなす躯体と、前記躯体に取り付けられ、前記躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材とを有するカテーテルと、
前記薬剤を保持する保持部と、前記保持部に保持される前記薬剤を前記内部ルーメンに送出する送出ポンプとを有する薬剤供給機構と、
を備えたことを特徴とする薬剤投与装置。
【請求項1】
生体組織に導入されるカテーテルであって、
内部ルーメンと、前記内部ルーメンと連通する薬剤吐出口とを有し、細長い形状をなす躯体と、
前記躯体に取り付けられ、前記躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって、高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材と、
を備えたことを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記躯体の軸に沿って、前記切開部材を覆う第1の位置と、前記切開部材を露出させる第2の位置との間を移動可能なシースをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記切開部材は、前記躯体に取り付けられ、かつ、露出した状態で、前記躯体の径方向に広がって湾曲するように予めくせ付けされていることを特徴とする請求項2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記切開部材は、ワイヤ形状をなすことを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記カテーテルは、先端が尖った先端部材をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記先端部材は、湾曲した形状をなすことを特徴とする請求項5に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記先端部材は、前記切開部材と電気的に接続されていることを特徴とする請求項5に記載のカテーテル。
【請求項8】
前記先端部材は、高周波電源と電気的に接続する導電クリップが取り付け可能である取付部を有することを特徴とする請求項5に記載のカテーテル。
【請求項9】
前記躯体の径方向に広がる向きに前記切開部材を変形させる操作部材をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記躯体の表面に設けられ、前記シースの前記躯体に沿った移動範囲を規定する一対のストッパをさらに備え、
前記一対のストッパの少なくとも一方は、前記躯体表面の位置が調整可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項11】
前記薬剤吐出口は、前記切開部材による切開部分に薬剤を吐出できる位置に形成されることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項12】
前記躯体は、当該カテーテルを前記生体組織に留置する際に切断されるべき切断位置を示すマーカが付されていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項13】
生体組織に薬剤を投与する薬剤投与装置であって、
内部ルーメンおよび前記内部ルーメンと連通する薬剤吐出口を有するとともに細長い形状をなす躯体と、前記躯体に取り付けられ、前記躯体の径方向に広がる向きに変形可能であって高周波電流が流れることによって周囲の前記生体組織を切開する切開部材とを有するカテーテルと、
前記薬剤を保持する保持部と、前記保持部に保持される前記薬剤を前記内部ルーメンに送出する送出ポンプとを有する薬剤供給機構と、
を備えたことを特徴とする薬剤投与装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−196347(P2012−196347A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63374(P2011−63374)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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