説明

オフセット信号検出回路、および、このオフセット信号検出回路を用いた信号検出装置

【課題】温度ドリフトにより変化するオフセット値をより正確に検出し、このオフセット値を用いて、検出信号をより正確に補正する信号検出装置を提供する。
【解決手段】信号線を流れる信号を検出する信号検出手段92uを備えた信号検出装置において、信号検出手段92uと周囲温度がほぼ同一となるように配置され、信号線を流れる信号の逆相信号を検出する逆相信号検出手段91と、信号検出手段92uにより検出された信号と逆相信号検出手段91により検出された逆相信号とを加算して2で除したオフセット信号を算出するオフセット信号算出手段931,932と、信号検出手段92uにより検出された信号からオフセット信号算出手段931,932により検出されたオフセット信号を減じた補正信号を算出する補正信号算出手段933uとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度ドリフトにより変化するオフセット値を検出するためのオフセット信号検出回路、および、このオフセット信号検出回路により検出されたオフセット信号を用いて検出信号を補正する信号検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池などの直流電源によって生成される直流電力を交流電力に変換して商用電力系統に供給する系統連系インバータシステムが開発されている。例えば、トランスレス方式の系統連系インバータシステムの場合、DC/DCコンバータ装置が直流電源からの出力電圧(直流電圧)を商用電力系統の電圧(系統電圧)に合わせるために昇圧し、インバータ装置が昇圧された直流電圧を交流電圧に変換する。
【0003】
トランスレス方式や高周波リンク方式の系統連系インバータシステムにおいては、インバータ回路と商用電力系統とが絶縁されていないので、商用電力系統に直流電流成分が流出する可能性がある。流出した直流電流成分は商用電力系統側に設けられた変圧器を直流励磁状態とし、コアの磁束を飽和させる。これにより、変圧器に過電流が流れ、変圧器が焼損する場合がある。これを防ぐために、直流電流成分を検出し、システムを商用電力系統から解列させる機能が設けられている。
【0004】
図8は、従来のトランスレス方式の系統連系インバータシステムの一例を示すブロック図である。この系統連系インバータシステムX10では、電流信号検出装置180により検出されるインバータ装置130の出力電流が所定の値となるように、制御装置170がフィードバック制御を行なっている。制御装置170に設けられている直流成分検出回路174は、電流信号検出装置190により検出されるLCフィルタ140の出力電流から直流成分を検出する。制御装置170は、インバータ装置130の出力電流制御において、直流成分検出回路174により検出されるLCフィルタ140の出力電流の直流成分を抑制するように制御する。また、制御装置170は、直流成分が規定値を超えた場合、インバータ装置130を停止させ、開閉器150をオフにしてシステムを商用電力系統160から解列させる。
【0005】
この規定値は、通常、インバータ装置の定格出力電流の1%が設定される。例えば、定格容量10kWのインバータ装置130を用いて、AC200Vの系統電圧に連系させる場合、定格出力電流28.6A(=10kW/(202V・√3))の1%である286mAが規定値として設定される。一方、電流信号検出装置190の検出電流にはオフセット値が上乗せされている。このオフセット値は温度ドリフト(周囲温度に応じた出力の変化)により変化し、例えば周囲温度が10℃違うと、100mA程度異なってくる場合がある(図6の特性P参照)。このオフセット値は、直流成分検出回路174において直流成分として検出されるので、規定値と比較して無視できない大きさとなる。
【0006】
例えば、設定時より周囲温度が10℃高い場合、検出された直流電流が200mAであっても、本当の直流電流は300mAを超えている場合がある。この場合、制御装置170による解列が行なわれず、規定値以上の直流電流が商用電力系統160に流出することになる。
【0007】
この問題を解決するために、例えば、特許3291902号公報に記載のサーボ制御装置では、モータが停止する毎に電流センサのオフセット電圧を検出して、この検出されたオフセット電圧により逐次補正を行っている。この方法を系統連系インバータシステムに用いる場合、オフセット値を補正するのは、インバータ装置が停止して商用電力系統から解列されたときとなる。直流電源が太陽電池の場合、日中は日陰にならない限りインバータ装置が停止しない。したがって、その間に周囲温度が変化しても、オフセット値の補正が行なわれない。また、直流電源が燃料電池などの場合、起動・停止に時間がかかるため(数時間程度)、一度起動すると異常が起こらない限り停止しない。したがって、オフセット値の補正がほとんど行なわれないことになる。
【0008】
システムを停止することなく温度ドリフトによるオフセット値を補正する方法として、特開2007−78374号公報には、電流センサとは別に温度ドリフト補正用の模擬電流センサが設けられた直流電流計測装置が記載されている。電流センサは、一次側導体を流れる電流計測信号を検出する。模擬電流センサは、一次側導体とは電磁的に非結合とされ、電流センサと周囲温度がほぼ同一となる配置とされている。直流電流計測装置は、電流センサが検出した電流計測信号から模擬電流センサの出力を減算することで、オフセット電圧がキャンセルされた電流計測信号を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許3291902号公報
【特許文献2】特開2007−78374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、模擬電流センサは一次側導体とは電磁的に非結合とされているので、電流センサに流れる電流と模擬電流センサに流れる電流とに違いが生じる。したがって、周囲温度がほぼ同一であっても、センサに流れる電流の違いによりセンサの内部温度に違いが生じる。これにより、両電流センサのオフセット値に差が発生するので、正確なオフセット値の補正をすることができない。
【0011】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、温度ドリフトにより変化するオフセット値をより正確に検出することができるオフセット信号検出回路、このオフセット信号検出回路により検出されたオフセット信号を用いて検出信号を補正する信号検出装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0013】
本発明の第1の側面によって提供されるオフセット信号検出回路は、信号線から電流信号を検出する信号検出手段と、前記信号検出手段と周囲温度がほぼ同一となるように配置され、前記電流信号の逆相信号を検出する逆相信号検出手段と、前記信号検出手段により検出された電流信号と前記逆相信号検出手段により検出された逆相信号とを加算した信号を出力する加算手段と、前記加算手段より出力される信号を2で除した信号を出力する除算手段とを備えており、前記除算手段より出力される信号をオフセット信号として出力することを特徴とする。
【0014】
この構成によると、前記信号検出手段と前記逆相信号検出手段とは周囲温度がほぼ同一となるように配置され、同じ信号線を流れる信号を検出しているので、両手段の内部温度はほぼ同一である。よって、前記両手段に生じる温度ドリフトによるオフセット値はほぼ同一となる。両手段が検出する信号にはほぼ同一のオフセット値が上乗せされており、両信号は互いに逆相となっているので、前記オフセット信号算出手段はオフセット信号のみを抽出することができる。したがって、温度ドリフトにより変化するオフセット値をより正確に検出することができる。
【0015】
本発明の第2の側面によって提供される信号検出装置は、第1の側面によって提供されるオフセット信号検出回路と、前記信号検出手段により検出された電流信号から前記オフセット信号検出回路により検出されたオフセット信号を減じた補正信号を算出する補正信号算出手段と、を備えている。
【0016】
この構成によると、前記信号検出手段により検出された信号から、より正確なオフセット値が減じられる。したがって、前記信号検出手段により検出された信号をより正確なオフセット値で補正して検出することができる。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記信号検出手段は、三相の信号線のうちの第1の信号線から第1の交流信号を検出し、前記逆相信号検出手段は、前記第1の交流信号の逆相信号を検出し、前記三相の信号線のうちの第2の信号線から第2の交流信号を検出し、第3の信号線から第3の交流信号を検出する第2の信号検出手段をさらに備え、前記補正信号算出手段は、さらに、前記第2の交流信号から前記オフセット信号を減じた第2の補正信号、および、前記第3の交流信号から前記オフセット信号を減じた第3の補正信号を算出する。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記信号検出手段は、三相の信号線から第1ないし第3の交流信号を検出し、前記逆相信号検出手段は、前記第1ないし第3の交流信号のそれぞれの逆相信号を検出し、前記加算手段は、前記第1の交流信号とその逆相信号とを加算した信号と、前記第2の交流信号とその逆相信号とを加算した信号と、前記第3の交流信号とその逆相信号とを加算した信号とを、それぞれ出力し、前記除算手段は、前記加算手段が算出した3つの信号をそれぞれ2で除した信号を、それぞれ第1ないし第3のオフセット信号として出力し、前記補正信号算出手段は、前記第1の交流信号から前記第1のオフセット信号を減じた第1の補正信号を算出し、前記第2の交流信号から前記第2のオフセット信号を減じた第2の補正信号を算出し、前記第3の交流信号から前記第3のオフセット信号を減じた第3の補正信号を算出する。
【0019】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る電流信号検出装置の第1実施形態を備えた系統連系インバータシステムの一例を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明に係る電流信号検出装置の第1実施形態を説明するためのブロック図である。
【図3】温度ドリフト補正回路における電流信号の補正について説明するための図である。
【図4】温度ドリフト補正回路が電流信号に重畳された直流成分の影響を受けないことを説明するための図である。
【図5】電流信号検出装置を用いて検出された電流信号の検証結果である。
【図6】従来の電流信号検出装置および本実施形態に係る電流信号検出装置の各温度における電流実測値の関係を説明するための図である。
【図7】本発明に係る電流信号検出装置の第2実施形態を説明するためのブロック図である。
【図8】従来の電流信号検出装置を備えた系統連系インバータシステムの一例を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る電流信号検出装置の第1実施形態を備えた系統連系インバータシステムの一例を説明するためのブロック図である。
【0023】
系統連系インバータシステムX1は基本構成として、直流電力を供給する直流電源1、DC/DCコンバータ装置2、インバータ装置3、LCフィルタ4、開閉器5、商用電力系統6、制御装置7、電流信号検出装置8,9を備えている。なお、DC/DCコンバータ装置2の昇圧動作を制御する制御装置は省略している。
【0024】
直流電源1、DC/DCコンバータ装置2、インバータ装置3、LCフィルタ4、開閉器5および商用電力系統6は、この順で直列に接続されている。インバータ装置3には制御装置7が接続されている。系統連系インバータシステムX1は、直流電源1により出力された直流電圧をDC/DCコンバータ装置2で所定の電圧に昇圧した後、そのDC/DCコンバータ装置2から出力される直流電力をインバータ装置3で交流電力に変換し、LCフィルタ4でスイッチングノイズを除去して商用電力系統6に供給する構成となっている。
【0025】
直流電源1は、直流電力を生成するものであり、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池を備えている。直流電源1は、生成した直流電力をDC/DCコンバータ装置2に出力する。
【0026】
DC/DCコンバータ装置2は、直流電源1からの出力電圧を昇圧するものである。DC/DCコンバータ装置2は、図示しない制御装置からのPWM信号によって図示しないスイッチング素子をオン・オフ動作させることにより、図示しないインダクタおよびコンデンサへの電力の蓄積と放出を交互に繰り返して昇圧を行なう。
【0027】
インバータ装置3は、DC/DCコンバータ装置2から出力される直流電力を交流電力に変換するものである。インバータ装置3は、制御装置7からのPWM信号によって図示しないスイッチング素子をオン・オフ動作させることにより、入力される直流電力を交流電力に変換する。
【0028】
LCフィルタ4は、図示しないリアクトルおよびキャパシタを備えたローパスフィルタであり、インバータ装置3から出力される交流電圧に含まれるスイッチングノイズを除去するものである。LCフィルタ4は、スイッチングノイズが除去された正弦波状の交流電圧を商用電力系統6に出力する。
【0029】
開閉器5は、系統連系インバータシステムX1が生成した電力を商用電力系統6に供給する場合に両者を接続し、電力の供給を停止する場合に両者を切り離すものである。開閉器5は、制御装置7から解列信号を入力されたときに、系統連系インバータシステムX1を商用電力系統6から切り離す。
【0030】
制御装置7は、インバータ装置3の電力変換動作を制御するものである。制御装置7は、電流信号検出装置8から入力されるインバータ装置3の出力電流信号に基づいてPWM信号を生成し、このPWM信号を入力することでインバータ装置3のスイッチングを制御して電力変換動作を制御する。すなわち、制御装置7は、インバータ装置3の出力電流をフィードバック制御する。また、制御装置7は、電流信号検出装置9から入力される電流信号に基づいて、解列信号を開閉器5に出力する。制御装置7は、電流制御回路71、PWM信号生成回路72、直流成分検出回路73を備えている。
【0031】
電流制御回路71は、電流信号検出装置8から入力されるインバータ装置3の出力電流信号と予め設定されている目標電流信号との差分を算出し、直流成分検出回路73から入力される直流成分検出信号を差分して、指令値信号としてPWM信号生成回路72に出力する。
【0032】
PWM信号生成回路72は、電流制御回路71から入力される指令値信号と予め設定されているキャリア信号との差分を算出し、デッドタイムを付加したパルス信号を生成する。PWM信号生成回路72は、このパルス信号をPWM信号として、インバータ装置3に入力する。インバータ装置3は、入力されたPWM信号に基づいてスイッチング素子のスイッチングを行う。これにより、インバータ装置3の出力電流がフィードバック制御される。また、PWM信号生成回路72は、直流成分検出回路73からゲートブロック信号が入力されたときに、PWM信号の出力を停止する。
【0033】
直流成分検出回路73は、電流信号検出装置9より入力されるLCフィルタ4の出力電流信号から直流電流成分を検出し、直流成分検出信号として電流制御回路71に入力する。また、直流成分検出回路73は、検出された直流電流成分が規定値を超えた場合、系統連系インバータX1を停止させて、商用電力系統6から解列させる。具体的には、PWM信号生成回路72にゲートブロック信号を出力して、PWM信号の出力を停止させることで、インバータ装置3を停止させる。また、開閉器5に解列信号を出力して、系統連系インバータシステムX1を商用電力系統6から解列させる。なお、本実施形態では、定格容量10kWのインバータ装置3を用いてAC200Vの系統電圧に連系させるので、定格出力電流28.6A(=10kW/(202V・√3))の1%である286mAが規定値として設定されている。
【0034】
電流信号検出装置9は、LCフィルタ4の出力電流を検出するものであり、検出された出力電流信号に温度ドリフトによるオフセット値の補正を行なって、制御装置7に出力する。図1では簡略化のため省略しているが、本実施形態のインバータ装置3は3相フルブリッジインバータなので、インバータ装置3から商用電力系統6までU相、V相、W相の3本の信号線があり、それぞれの電流信号が検出される。電流信号検出装置9の詳細な構成を、図2を参照して説明する。
【0035】
図2は、系統連系インバータシステムX1の電流信号検出装置9を説明するためのブロック図である。
【0036】
同図に示すように、電流信号検出装置9は電流センサ91,92u,92v,92w、温度ドリフト補正回路93を備えている。電流センサ92u,92v,92wは、それぞれLCフィルタ4のU相、V相、W相の出力電流を検出するセンサである。直流成分も合わせて検出する必要があるので、例えば、直流変流器(DCCT)やホール電流検出器(HCT)などが用いられる。電流センサ91は、LCフィルタ4のU相の出力電流の逆相成分を検出するセンサであり、電流センサ92u,92v,92wと同じセンサが用いられる。各電流センサ91,92u,92v,92wは、周囲温度が同じとなる状態で使用するために、できるだけ近付けて配置する必要がある。
【0037】
温度ドリフト補正回路93は、電流センサ92uが検出した電流信号と電流センサ91が検出した出力電流の逆相成分の電流信号とから温度ドリフトによるオフセット信号を抽出し、電流センサ92u,92v,92wがそれぞれ検出した電流信号をこのオフセット信号を用いて補正する。
【0038】
温度ドリフト補正回路93は、同図に示すように、加算部931、除算部932、減算部933u,933v,933wを備えている。加算部931は、電流センサ92uが検出した電流信号と電流センサ91が検出した出力電流の逆相成分の電流信号とを加算して、加算信号として出力するものである。除算部932は、加算部931が出力した加算信号を2で除して、オフセット信号として出力するものである。減算部933u,933v,933wは、除算部932が出力したオフセット信号を、それぞれ電流センサ92u,92v,92wが検出した電流信号から減算して、補正された電流信号を出力するものである。
【0039】
電流信号検出装置8は、インバータ装置3の出力電流を検出するものであり、検出された出力電流信号に温度ドリフトによるオフセット値の補正を行なって、制御装置7に出力する。電流信号検出装置8の構成および機能は、電流信号検出装置9と同様であり、インバータ装置3の出力電流を検出する電流センサ82、インバータ装置3の出力電流の逆相成分を検出する電流センサ81、および電流センサ82が検出した電流信号を補正する温度ドリフト補正回路83を備えている。
【0040】
次に、電流信号検出装置9の作用について、図3および図4を参照して説明する。電流信号検出装置8の作用も同様である。
【0041】
図3は、温度ドリフト補正回路93において、電流センサ92uが検出した電流信号が、電流センサ91が検出した出力電流の逆相成分の電流信号を用いて補正されることを説明するための図である。
【0042】
同図(a)に示すAは電流センサ92uが検出した電流信号Aを示し、Bは電流センサ91が検出した出力電流の逆相成分の電流信号Bを示している。電流センサ92uと電流センサ91とは周囲温度がほぼ同一となるように配置され、同じ信号線を流れる信号を検出しているので、両電流センサ92u,91の内部温度はほぼ同一である。よって、両電流センサ92u,91に生じる温度ドリフトによるオフセット値はほぼ同一となる。したがって、電流信号A,Bは、同じオフセット値の分、マイナス側(同図(a)において下側)にずれて検出されている。また、電流信号A,Bは互いに逆相となっているので、電流信号Aの波形と電流信号Bの波形とは温度ドリフトによるオフセット値を示す破線直線Cに対して対称となっている。
【0043】
式で表すと、電流信号Aは、A=V・sin(ωt)−αで表すことができる。ここで、Vは最大電流値、−αは温度ドリフトによるオフセット値に相当する電流値である。このとき、電流信号Bは、電流信号Aの逆相成分であり、同じオフセット値が上乗せされているので、B=−V・sin(ωt)−αで表される。
【0044】
同図(b)に示すDは、電流信号Aと電流信号Bとを加算した加算信号Dを示している。加算信号Dは、加算部931が算出して出力する。電流信号Aの波形と電流信号Bの波形とは破線直線Cに対して対称となっているので、両者を加算した加算信号Dの波形は、温度ドリフトによるオフセット値を2倍した値を示す直線となっている。式で表すと、加算信号Dは、D=A+B=(V・sin(ωt)−α)+(−V・sin(ωt)−α)=−2αで表される。
【0045】
同図(c)に示すEは、加算信号Dを2で除したオフセット信号Eを示している。オフセット信号Eは、除算部932が算出して出力する。加算信号Dの波形は温度ドリフトによるオフセット値を2倍した値を示しているので、これを2で除したオフセット信号Eの波形は、温度ドリフトによるオフセット値を示す直線となっている。式で表すと、オフセット信号Eは、E=D/2=−αで表される。
【0046】
同図(d)に示すFは、電流信号Aからオフセット信号Eを減算した補正電流信号Fを示している。補正電流信号Fは、減算部933uが算出して出力する。電流信号Aの波形からオフセット信号Eの波形を減算した補正電流信号Fの波形は、電流信号Aの波形を温度ドリフトによるオフセット値で補正した波形を示す。式で表すと、補正電流信号Fは、F=A−E=(V・sin(ωt)−α)−(−α)=V・sin(ωt)で表される。
【0047】
同様に、除算部932が出力するオフセット信号Eを減算することで、電流センサ92v,92wが検出した電流信号がオフセット値で補正され、減算部933vおよび933wはそれぞれ補正された電流信号を出力する。
【0048】
このように、温度ドリフト補正回路93は、電流センサ92u,92v,92wが検出した電流信号を補正して出力する。補正の精度を良くするためには、同じロットで製造された電流センサを各電流センサ91,92u,92v,92wとして用いる必要がある。
【0049】
温度ドリフト補正回路93は、電流センサ92u,92v,92wが検出した電流信号に直流成分が重畳していても、オフセット値のみを補正するものである。図4は、電流センサ92uが検出した電流信号に直流成分が重畳している場合でも、温度ドリフト補正回路93がこの直流成分の影響を受けないことを説明するための図である。なお、説明の簡略化のために、オフセット値はゼロとして考える。
【0050】
同図(a)に示すAは電流センサ92uが検出した電流信号Aを示している。電流信号Aには直流成分が重畳されており、破線直線C’はこの直流成分を示している。B’は、電流センサ91が検出した出力電流の逆相成分の電流信号B’を示している。電流信号B’には、破線直線C’に示す直流成分の逆相成分が重畳されている。したがって、電流信号Aの波形と電流信号B’の波形とは、電流値がゼロとなるX軸(同図(a)における横軸)に対して対称となっている。式で表すと、電流信号Aは、A=V・sin(ωt)−βで表すことができる。ここで、Vは最大電流値、−βは直流成分に相当する電流値である。このとき、電流信号B’は、同じ直流成分が重畳されている電流信号Aの逆相成分なので、B’=−A=−V・sin(ωt)+βで表される。
【0051】
同図(b)に示すD’は、電流信号Aと電流信号B’とを加算した加算信号D’を示している。電流信号Aの波形と電流信号B’の波形とはX軸に対して対称となっているので、両者を加算した加算信号D’の波形は、X軸と一致する直線となっている。式で表すと、加算信号D’は、D’=A+B’=(V・sin(ωt)−β)+(−V・sin(ωt)+β)=0で表される。
【0052】
同図(c)に示すE’は、加算信号D’を2で除したオフセット信号E’を示している。加算信号D’の波形はX軸と一致する直線なので、これを2で除したオフセット信号E’の波形もX軸と一致する直線となっている。すなわち、電流信号Aに重畳されている直流成分は、オフセット信号E’に表れない。式で表すと、オフセット信号E’は、E’=D’/2=0で表される。
【0053】
同図(d)に示すF’は、電流信号Aからオフセット信号E’を減算した補正電流信号F’を示している。オフセット信号E’はゼロなので、補正電流信号F’は電流信号Aと同じであり、補正電流信号F’の波形は電流信号Aの波形と同じである。式で表すと、補正電流信号F’は、F’=A−E’=(V・sin(ωt)−β)−0=V・sin(ωt)−β=Aで表される。このように、電流信号Aに重畳されている直流成分は、補正に影響を与えることなく、補正電流信号F’にも重畳されたままである。すなわち、温度ドリフト補正回路93は、電流センサ92u,92v,92wが検出した電流信号に直流成分が重畳されていても、この直流成分を残して、オフセット値のみを補正する。
【0054】
本実施形態においては、電流センサ92uと電流センサ91とは周囲温度がほぼ同一となるように配置され、同じ信号線を流れる信号を検出しているので、両電流センサ92u,91の内部温度はほぼ同一である。よって、両電流センサ92u,91に生じる温度ドリフトによるオフセット値はほぼ同一となる。両電流センサ92u,91が検出する信号にはほぼ同一のオフセット値が上乗せされており、両信号は互いに逆相となっているので、図3(a)〜(c)に示すように、オフセット信号のみを抽出することができる。したがって、温度ドリフトにより変化するオフセット値をより正確に検出することができる。
【0055】
また、本実施形態においては、電流センサ92uが検出した電流信号を、このオフセット信号を用いてより正確に補正して、出力することができる。また、本実施形態においては、電流センサ92v,92wも電流センサ91,92uと周囲温度がほぼ同一となるように配置されているので、電流センサ92v,92wが検出した電流信号も、このオフセット信号を用いてより正確に補正して、出力することができる。
【0056】
図5は、電流信号検出装置9を用いて検出された電流信号の検証結果である。図5において、Aは電流センサ92uが検出したLCフィルタ4のU相の出力電流の電流信号Aの波形であり、Fは電流信号検出装置9が出力するU相の補正電流信号Fの波形である。電流信号Aは、直流成分が重畳していない交流電流信号である。同図に示すように、補正電流信号Fの波形は、電流信号Aの波形からオフセット値が補正された波形となっている。
【0057】
図6は、従来の電流信号検出装置180(図8参照)および本実施形態に係る電流信号検出装置8(図1参照)の各温度における電流実測値の関係を説明するための図である。同図において、横軸は周囲温度であり、縦軸は周囲温度が30℃のときの電流実測値を0mAとしたときの相対値である。
【0058】
特性Pは従来の電流信号検出装置180が検出した電流値の相対値と周囲温度を示す点を結んだものであり、特性Qは本実施形態に係る電流信号検出装置8が検出した電流値の相対値と周囲温度を示す点を結んだものである。同図に示すように、特性Pは周囲温度により変化しているが、特性Qは周囲温度にかかわらず、ほぼ一定の値となっている。これは、電流信号検出装置8が温度ドリフトによるオフセット値を適切に補正していることを示している。
【0059】
上記実施形態では、電流センサ91が検出した出力電流の逆相成分の電流信号を用いて、電流センサ92u,92v,92wがそれぞれ検出した電流信号を補正しているが、これに限られない。電流センサ92u,92v,92wが互いに離れた位置に配置されるなどして、それぞれの周囲温度が同じにならない場合や、検出した電流信号の補正をより精度良くしたい場合は、電流センサ毎に逆相成分の電流信号を検出する電流センサを設けて補正するようにしてもよい。
【0060】
図7は、本発明に係る電流信号検出装置の第2実施形態を説明するためのブロック図である。なお、同図において、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0061】
電流信号検出装置9’は、相毎に逆相成分の電流信号を検出する電流センサが設けられている点、および各相の電流信号の補正を相毎に独立して行なう点において電流信号検出装置9と異なる。具体的には、図7において、電流センサ91vおよび91wが追加され、温度ドリフト補正回路93’の加算器931v,931wおよび除算器932v,932wが追加されている点が異なる。電流センサ91u、加算器931u、および除算器932uは、それぞれ図2における電流センサ91、加算器931、および除算器932と同じもので、符号のみ変更しただけである。
【0062】
電流センサ91v(91w)は、LCフィルタ4のV相(W相)の出力電流の逆相成分を検出するセンサであり、電流センサ92v(92w)と同じセンサが用いられ、電流センサ92v(92w)のできるだけ直近に配置される。加算部931v(931w)は、電流センサ92v(92w)が検出した電流信号と電流センサ91v(91w)が検出した出力電流の逆相成分の電流信号とを加算した加算信号を出力するものである。除算部932v(932w)は、加算部931v(931w)が出力した加算信号を2で除したオフセット信号を出力するものである。減算部933v(933w)は、除算部932v(932w)が出力したオフセット信号を、電流センサ92v(92w)が検出した電流信号から減算して、補正された電流信号を出力するものである。
【0063】
この構成によると、相毎に電流信号の補正を行なうので、電流センサ92u,92v,92wが互いに離れた位置に配置されても、検出された電流信号の補正を精度良く行なうことができる。
【0064】
上記実施形態では、インバータ装置3が3相フルブリッジインバータの場合について説明したが、インバータ装置3が単相インバータの場合やハーフブリッジインバータの場合であっても、本発明を適用することができる。また、3相フルブリッジインバータの場合、3相電流が平衡することを考慮すれば、電流センサを1つ省略することも可能である。
【0065】
上記実施形態では、電流信号検出装置が系統連系インバータシステムのインバータ装置の出力電流やLCフィルタの出力電流を検出するために用いられている場合について説明しているが、これに限られない。本発明に係る電流信号検出装置は、各種電気回路、装置およびシステムにおいて、電流信号を検出する場合、特に、検出された電流信号の精度が求められる場合に、用いることができる。
【0066】
本発明の適用は、電流信号を検出する場合に限られない。例えば、電圧信号を検出する電圧信号検出装置などのように、各種信号を検出する信号検出装置に、本発明を用いることができる。
【0067】
また、本発明の適用は、検出した電流信号をオフセット信号を用いて補正する場合に限られない。検出した電流信号からオフセット信号を算出するオフセット信号検出回路にも、本発明を用いることができる。
【0068】
図2に示す電流信号検出装置9において、電流センサ91,92u、温度ドリフト補正回路93の加算部931、および除算部932は、電流信号のオフセット信号を出力する電流オフセット信号検出回路を構成する。この電流オフセット信号検出回路は、電流センサ92uが検出した電流信号からオフセット信号を算出することができる。また、電流信号以外の各種信号(例えば、電圧信号など)のオフセット信号を算出するオフセット信号検出回路にも、本発明を用いることができる。
【0069】
本発明に係るオフセット信号検出回路および信号検出装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るオフセット信号検出回路および信号検出装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0070】
1 直流電源
2 DC/DCコンバータ装置
3 インバータ装置
4 LCフィルタ
5 開閉器
6 商用電力系統
7 制御装置
71 電流制御回路
72 PWM信号生成回路
73 直流成分検出回路
8 電流信号検出装置
81 電流センサ(逆相信号検出手段)
82 電流センサ(信号検出手段) 83 温度ドリフト補正回路
9 電流信号検出装置
91,91u,91v,91w 電流センサ(逆相信号検出手段)
92,92u,92v,92w 電流センサ(信号検出手段)
93 温度ドリフト補正回路
931,931u,931v,931w 加算部(オフセット信号算出手段)
932,932u,932v,932w 除算部(オフセット信号算出手段)
933u,933v,933w 減算部(補正信号算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号線から電流信号を検出する信号検出手段と、
前記信号検出手段と周囲温度がほぼ同一となるように配置され、前記電流信号の逆相信号を検出する逆相信号検出手段と、
前記信号検出手段により検出された電流信号と前記逆相信号検出手段により検出された逆相信号とを加算した信号を出力する加算手段と、
前記加算手段より出力される信号を2で除した信号を出力する除算手段と、
を備えており、
前記除算手段より出力される信号をオフセット信号として出力する、
ことを特徴とするオフセット信号検出回路。
【請求項2】
請求項1に記載のオフセット信号検出回路と、
前記信号検出手段により検出された電流信号から前記オフセット信号検出回路により検出されたオフセット信号を減じた補正信号を算出する補正信号算出手段と、
を備えている信号検出装置。
【請求項3】
前記信号検出手段は、三相の信号線のうちの第1の信号線から第1の交流信号を検出し、
前記逆相信号検出手段は、前記第1の交流信号の逆相信号を検出し、
前記三相の信号線のうちの第2の信号線から第2の交流信号を検出し、第3の信号線から第3の交流信号を検出する第2の信号検出手段をさらに備え、
前記補正信号算出手段は、さらに、前記第2の交流信号から前記オフセット信号を減じた第2の補正信号、および、前記第3の交流信号から前記オフセット信号を減じた第3の補正信号を算出する、
請求項2に記載の信号検出装置。
【請求項4】
前記信号検出手段は、三相の信号線から第1ないし第3の交流信号を検出し、
前記逆相信号検出手段は、前記第1ないし第3の交流信号のそれぞれの逆相信号を検出し、
前記加算手段は、前記第1の交流信号とその逆相信号とを加算した信号と、前記第2の交流信号とその逆相信号とを加算した信号と、前記第3の交流信号とその逆相信号とを加算した信号とを、それぞれ出力し、
前記除算手段は、前記加算手段が算出した3つの信号をそれぞれ2で除した信号を、それぞれ第1ないし第3のオフセット信号として出力し、
前記補正信号算出手段は、前記第1の交流信号から前記第1のオフセット信号を減じた第1の補正信号を算出し、前記第2の交流信号から前記第2のオフセット信号を減じた第2の補正信号を算出し、前記第3の交流信号から前記第3のオフセット信号を減じた第3の補正信号を算出する、
請求項2に記載の信号検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−47682(P2013−47682A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−219006(P2012−219006)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【分割の表示】特願2008−96070(P2008−96070)の分割
【原出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】